大阪高等裁判所 平成11年(ラ)449号 決定 1999年10月14日
抗告人(異議申立人(破産債権者)) 株式会社東京三菱銀行
代表者代表取締役 A
代理人弁護士 清水正憲
相手方 破産者株式会社a破産管財人 Y
主文
一 原決定を取り消す。
二 相手方は、基本事件に関し、相手方が平成一一年三月二六日作成した配当表について、抗告人の左記届出債権(受付番号二一-一、二)を配当に加えるべき債権として右配当表を更正せよ。
記
貸付金 三八三三万七〇七五円
手数料 一万〇三〇〇円
三 抗告費用は相手方の負担とする。
理由
第一抗告の趣旨と理由
別紙記載のとおりである。
第二当裁判所の判断
当裁判所は、本件については、以下に記載する理由により、抗告人の異議申立ては理由があると認め、これを却下した原決定を取り消して、配当表を更正すべきものと判断する。
一 一件記録によれば、次の各事実が認められる。
1 抗告人は、破産者に対し、貸付金三八三三万七〇七五円及び手数料一万〇三〇〇円を有し、同債権(以下「本件債権」という。)を担保するため、破産者所有の別紙物件目録<省略>の建物(以下「本件建物」という。)に根抵当権の設定を受けている(以下「本件根抵当権」あるいは「本件別除権」という。)。抗告人は、本件債権につき、本件別除権のある債権として届出をなし、相手方は異議なくこれを認めた。
2 相手方は、平成一一年二月一二日付内容証明郵便をもって、抗告人(城東支店長宛)に対し、破産法では最後配当の除斥期間内に別除権放棄の意思表示をせず、又は別除権行使により弁済を受けることができなかった債権額を証明しない限り、別除権者は配当から除斥することになっているから、配当を希望する場合は、一〇日以内に別除権の放棄を証明する文書(別除権の抹消登記が記載された登記簿謄本)、又は別除権行使により弁済を受けることができなかった債権額を証明する文書を提出することを促し、同郵便は同月一五日に抗告人(城東支店が支店統合され、取扱店舗となった京阪京橋支店)に到達した。
3 抗告人(京阪京橋支店長)は、同月一九日に相手方に到達した内容証明郵便で、本件建物に対する本件別除権を放棄する意思のあること及び本件根抵当権設定登記につき抹消登記手続をする用意のあることを通知し、さらに同年三月六日に相手方に到達した内容証明郵便で、本件別除権を同郵便でもって放棄の意思表示をするとともに本件根抵当権設定登記の抹消登記手続に対する協力を求めた。
4 相手方は、同年三月八日付内容証明郵便で、抗告人に対し、相手方は既に同年一月一四日に本件建物を破産財団から放棄したので、本件根抵当権設定登記の抹消登記手続に協力できない旨及び大阪地方裁判所では、破産管財人に対する別除権放棄の意思を表示した書面だけでは別除権の放棄を証する書面として取扱っていない、別除権の抹消登記がなされた登記簿謄本を要求しているから、その提出がない以上、破産の配当には加えない方針であると伝え、そのころ、同郵便は抗告人に到達した。
相手方は、本件債権を加えないで最後配当の配当表を作成した。
5 破産裁判所は、最後配当の除斥期間を同年四月一六日と定めたが、抗告人は同期間内に本件根抵当権設定登記の抹消登記手続ができなかったので、同日、破産裁判所に対し、右配当表に対する本件異議申立てをした。
二 別除権者は、破産手続によらないでその権利を行使することができるが(破産法九五条)、別除権の行使により弁済を受けることができなかった債権額について破産債権者としてその権利を行使することができるし(同法九六条本文)、また、別除権を放棄したときは、別除権を放棄した債権額につき破産債権者としてその権利を行うことができる(同条但書)のであるが、最後配当に加入するためには、破産管財人に対し、除斥期間内に、別除権を放棄するか、別除権の行使によって弁済を受けることができなかった債権額を証明することを要求される(同法二七七条)。
大阪地方裁判所における実務の取扱いによれば、別除権を放棄するには、放棄の意思表示に加えて別除権が消滅した旨の登記を必要とされているが、別除権の登記が残存していた場合に、当該別除権者が、破産債権者として破産手続において配当に加入しながら、一方では別除権を行使することによって二重請求をすることを防止する必要があるから、一般的には原決定説示のように、別除権の放棄による消滅の場合は消滅登記を要するとの取扱いを是認することができる。
三 しかし、本件の場合は、破産者が株式会社という法人であるから、破産宣告と同時にその取締役は当然にその地位を失っている上、破産管財人は既に本件建物を破産財団から放棄しているから、このような場合にも、一律に前項記載の取扱いが要求されるとなると、別除権者である抗告人は、自己の別除権の放棄の意思表示及び本件建物に設定されている本件根抵当権の抹消登記手続への協力を破産管財人宛ではなく、破産者に対して行わなければならないが、その場合は、破産者は清算人が欠如しているから、別途、破産者に対する清算手続の開始を申立てて裁判所より清算人の選任を受けた後、破産者に対して本件別除権を放棄する旨の意思表示をし、かつ自らは登記義務者となり、破産者が登記権利者となって任意に本件根抵当権設定登記の抹消登記手続を行うか、その協力が得られない場合は、抗告人において破産者を被告として同設定登記の抹消登記手続を求める訴訟を提起しなければならないことになる。ところが、一方では、最後配当の除斥期間が定められ、この期間は変更されることはないから、別除権者において、破産管財人が別除権の対象となっている不動産を破産財団から放棄したことを知った時期如何によっては、右除斥期間内に別除権放棄の意思表示及び別除権の抹消登記手続を完了することができない場合が生じる。破産管財人が不動産を破産財団から放棄するか否かは、別除権者の関知するところではなく、本件の場合も、破産管財人において、抗告人が本件根抵当権を放棄する場合に備えて一定の期間を定めて本件建物を放棄する旨の通知及び催告したにもかかわらず当該期間内に抗告人が別除権放棄の意思表示をしなかった場合ではないから、除斥期間内にこれらの手続を取らなかったという理由で、抗告人を破産手続内での配当から排除することは極めて酷であり、抗告人を配当に与からせるのが相当である。
これに関連して、抗告人は、破産者が法人の場合は自由財産を観念することができない上、自然人と異なり、権利放棄後に当該財産を直ちに管理できる機関がないから、破産管財人は破産財団に属する物件を放棄することは許されないと主張するが、破産管財人が当該財産の管理処分権を放棄すると、同財産は破産法人に復帰し、その範囲で破産法人は存続せざるを得ないから、利害関係人は裁判所に対し、破産法人の清算人の選任を請求することができる。したがって、破産者が法人であっても、破産管財人は破産財団に帰属した財産を放棄することができるというべきであるから、抗告人の右主張は採用できない。
なお、原決定は、破産管財人は第三者であるから、別除権放棄についてはその抹消登記を経ることが対抗要件であるというが、破産管財人としては、別除権の放棄の成否が手続上明らかになれば足りる程度の利害関係を有するにすぎないもので、対抗関係にあるとはいえない。本件では、抗告人は破産管財人に対し、平成一一年三月六日、書面をもって本件根抵当権を放棄する旨の意思表示をしたことは前示のとおりであって、破産管財人との関係で抹消登記まで要求する必要はない。
四 よって、原決定を取り消し、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 松尾政行 裁判官 熊谷絢子 亀田廣美)
<以下省略>