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大阪高等裁判所 平成11年(行コ)12号 判決 2003年3月06日

控訴人

A株式会社

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

国谷史朗

池田裕彦

田中信隆

同池田裕彦訴訟復代理人弁護士

長澤哲也

被控訴人

阿倍野税務署長 内山盛行

同指定代理人

長崎正治

鴫谷卓郎

井土兼剛

中村貞幸

濱垣治郎

和田弘道

村松千枝

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求める裁判

1  控訴人

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人が、控訴人に対し、平成4年11月27日付でした昭和63年10月1日から平成元年9月30日までの事業年度及び平成元年10月1日から平成2年9月30日までの事業年度の法人税の各更正及び過少申告加算税の各賦課決定を取り消す。

(3)  訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文第1項と同旨

第2当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  被控訴人の当審における主張

(1)  準拠法について

ア 本件映画が控訴人の減価償却資産に当たるかどうかの判断については、課税実体法規の解釈においても、事実認定においても日本の法律によるべきであり、カリフォルニア州法は適用されないというべきである。

イ そもそも、契約準拠法は、契約当事者間の私法上の権利又は法律関係を擬律するためのものである。ところが、本件のような課税処分の取消訴訟において問題とされるべきことは、日本の租税法規に定められた積極的消極的な課税要件(以下「課税要件」という。)を充足する事実の存否であって、契約当事者間の権利関係ではない。すなわち、課税の前提として当事者間の私法上の権利又は法律関係が問題となる場合も、当事者間における私法上の権利又は法律関係そのものが直接問題とされるわけではなく、あくまでも納税者と課税庁との間における租税法規に基づく法律関係が問題となるのであり、その一環として当事者間の私法上の権利又は法律関係が議論されることがあるに過ぎない。そして、本件の法律問題は、課税要件である法人税法31条(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)の解釈・適用の問題にほかならず、控訴人ないしBとC又はDとの私法上の権利又は法律関係が直接に問題となるわけではない。

ウ また、当該認定された事実が課税要件に該当するか否かという法的評価においては、課税の前提として当事者間の私法上の法律関係が問題とされることがあるが、この場合においても契約準拠法の定めが当事者間の私法上の法律関係を超えて課税要件についてまで法的評価をなし得るものではない。租税法規が私法上の概念を前提として課税要件を定めたり、これを借用して課税要件を定めていると解される場合がこれに当たるが、この場合、日本の租税法規が前提としている私法は、特段の規定がない限り日本の私法であるから、日本の私法を前提として、これに相当する経済的効果をもたらす事実関係といえるか否かを評価すれば足りるのであって契約準拠法が介入し得る余地はない。なお、本件訴訟における事実認定が日本の訴訟手続法規に基づいてされることは、「手続は法廷地法による」という不文の国際私法の原則からも当然である。

このような理解は、租税法規の性質にも整合する。すなわち、租税法規は、本来私人の意思によりその適用を左右することのできない強行法規であり、国際私法上も、当該契約等の準拠法のいかんに関わらず自国で適用されなければならない強い政策目的を有する法規という意味での「絶対的強行法規」に分類されている。したがって、同一の経済的効果について準拠法の指定を異ならせることによって租税法規の適用を異ならせることは許されない。

(2)  法人税法31条の解釈・適用について

ア 法人税法31条の解釈に関しては、企業が減価償却資産の償却費を各事業年度の必要経費ないし損金の額に算入するためには、その取得価格を基礎として計算することとされていることから、事業年度の終了より前にそれを取得していることが必要であると解される。

イ そして、減価償却資産の取得とは、法人税法31条に明示されてはいないが、減価償却資産の所有権を取得することをいうものと解すべきであり、法人税法31条の立法に当たって、所有権のような私法上の概念が導入される場合には、当然に日本の私法(民法)を前提としたものと考えるほかはない。したがって、この所有権の取得は、日本民法にいう「所有権」である。渉外事件においても、法人税法31条が日本民法を前提とするものであることは何ら変わるものではない(所有権自体を認めない法制の国の私法を準拠法にしたとしても、日本民法上の所有権に相当する(等価値の)権利を取得したものであれば、減価償却資産の所有権の取得という要件は充足されるが、日本民法上の所有権の実質を有しない権利を「所有権」とする国の私法を準拠法にしたからといって、その権利の取得によって減価償却が認められることはないのである。)

(3)  事実認定・法律構成による否認について

ア 課税は、私法上の行為によって現実に発生している経済効果に則して行われるものであるから、第一義的に私法の適用を受ける経済取引の存在を前提として行われるものであり、私法上の法律構成においても契約書等における当事者間の表面的形式的合意にとらわれることなく、契約書以外の事情など経済的実体を考慮して実質的に認定し、当事者が真に意図した私法上の法律構成による私法上の合意内容に基づいて課税が行われるのである。したがって、租税回避の否認に関する規定が存在しない場合であっても、租税回避の目的でなされた行為に対しては、当事者が真に意図した私法上の法律構成による合意内容に基づいて課税が行われるべきである。

そして、本件においては、租税回避の否認に関する規定は存しないから、事実認定による否認、私法上の法律構成による否認が検討されることになる。

このように、事実認定・法律構成による否認は、当事者の真意に基づく法律関係に基づいて課税するものであり、当事者の真意を離れて私法上の法律行為を別のものと解釈するものではない。それ故、当事者の予見可能性を裏切るものでもなければ、租税法律主義に反するものでもない。

被控訴人は、いわゆるリース通達(昭和63年3月30日付直法2-7他「リース期間が法定耐用年数よりも長いリース取引に対する税務上の取扱について」)に基づき本件取引を否認して課税したのではなく(そもそも、本件取引がリース通達の対象なる取引には該当しない。)、本件取引において控訴人ひいてはBが本件映画の所有権を取得していないという理由で課税したものである。したがって、控訴人がこの通達の基準を信頼したことと本件課税処分とは無関係である。

イ 本件売買契約における当事者の意思

(ア) 本件取引における循環金融の存在

<1> 本件取引においては、本件借入金について典型的な循環取引が存在し、Bは、本件売買契約により、本件映画の代金として本件出資金及び本件借入金の合計額のうち91億6601万6250円をCに支払ったとされるが、そのうち本件借入金はもともと第2次配給契約に基づきE及びF(以下「Fら」という。)からDを経てG銀行に預託された金員であり、同銀行からH銀行本店へ、同本店からH銀行東京支店へ、同東京支店から本件融資契約によりBへそれぞれ融資され、しかも、その後はC、Iを経て、最終的にFらに流れている。このことからして本件借入金は、融資方向においてFらを起点として関係当事者間を循環していることが認められる。

Bは本件映画の売買代金に充てるためにH銀行東京支店から71億9030万2500円を借り入れており、その利息33億6737万8350円との合計である本件返済金105億5768万0850円を支払う義務を負ったものの、他方、Bは本件配給契約により、ネット支払額の最低保証額96億4107万9225円及びフィクスト支払額ないし延長アドバンス額9億1660万1625円の合計105億5768万0850円(本件返済金と同額である。以下「本件保証金」という。)をDから受領し得るとされ、しかも本件保証金の支払いが本件保証契約によりG銀行から保証されていることからすれば、予めFらないしDによりG銀行に対して本件保証金相当額が預託されているものと推認される。

<2> また、本件借入金の返済方向においても資金が循環していることが認められる。すなわち、Bは、H銀行東京支店に対し、本件借入金及び借入利息の合計額105億5768万0850円を返済しなければならないが、上記のとおり本件保証金はそのまま本件返済金の原資となるものである。しかも、FらないしDがG銀行に本件保証金相当額を預託したと推認されることからすれば、本件返済金は、H銀行東京支店、H銀行本店、G銀行に順次返済されて流れ、さらにG銀行からDに流れた後に本件保証金としてBに環流することが予定されていたといえる。実際、本件ではオプションが行使されて、合計105億7661万8482円がDからBに支払われており、そのうち105億4046万7140円が借入金に対する返済としてH銀行東京支店に支払われたことが明らかとなっており、資金が循環しているのである。

以上によれば、Fらは、本件映画に関する権利に見合う対価の21.6%の代金しか受け取っていないことになる。

(イ) 本件取引でBが実質的に取得した権利又は権能

<1> 本件売買契約と同日日付でなされた本件配給契約によれば、Dは、その裁量と選択により、第三者(第二次配給者)に対して本件配給契約上の地位を譲渡することができ、又は本件配給契約上の権利を譲渡もしくは許諾することができるものとされていること、第三者からの権利侵害についても、Bは、Dに契約違反があった場合でも、救済としては金銭上の損失の回復を求めることができるのみで、本件配給契約を終了させるなどDが有する諸権利を取り消す権利は一切有しないものとされていることから、Bは、本件映画の所有者であれば本来有していてしかるべき諸権利の行使を全く認められていない。

<2> 第二次配給契約によれば、Dは、その裁量と選択により、第三者(第二次配給者)に対して本件配給契約上の地位を譲渡することができ、又は本件配給契約上の権利を譲渡もしくは許諾することができる旨Bとの間で合意している。

<3> 本件オプション契約によれば、Dは、クラスAオプションを行使することにより、本件映画に関するB等のすべての権利を、クラスBオプションを行使することにより、組合員のBに対する権利等をそれぞれ取得することができるものとされており、しかもこれらのオプションはDの一存で行使することができ、またクラスAオプションの行使によって本件配給契約が終了しても、Bに対するDの一定の金員の支払義務は消滅しないこととされている。BがCから本件映画を買い入れる旨の本件売買契約、BとDとの間における本件配給契約はいずれも平成元年9月27日付で締結されているところ、本件各契約が契約条項どおりの効力が発生したとすると、Bには、本件映画に関する諸権利を行使する機会は当初から全く与えられていなかったものと認められる。また、現実にも本件映画の著作権は、映画公開の当初から映画製作会社であるJ及びFにあり、ビデオパッケージや映画パンフレットにも、本来所有者であるべきB等の表示は一切されていないのである。

これらの事情からすれば、Bは、本来所有者であれば本件映画の使用、収益又は処分する権能を全く認められていない。

(ウ) 本件取引の目的

本件取引による減価償却が認められた場合、控訴人は、その減価償却費の計上や本件借入金の支払利息を計上することによって、多額の所得金額を圧縮することができ、上記減価償却費を計上することによって負担が回避できる租税額は約3億1553万円となり、支払った本件出資金1億4395万円全額が損失になっても約1億7158万円の租税回避の利益を享受することができるのである。そして、控訴人が映画興行による利益には関心がなく、本件取引への参加により、本件出資金との関係では多額の損失を被っていることなどからすれば、控訴人において、1億4395万円もの本件出資金を負担するに当たっては、リスクの大きい興業利益ではなく、もっぱら租税回避の利益に着目し、それを目的として本件取引に参加したものと認められる。

(エ) 本件売買契約における当事者双方の意思

<1> 本件出資金及び本件借入金は本件映画の代金名下にFらに支払われているが、前記のとおり、上記代金のうち、本件借入金相当額(売買代金額の78.4%)は、もともとFらがDを通じてG銀行に預託していた金員であり、それが循環したものであるから、本件売買代金のうち上記本件借入金相当額は、Bの負担で支払われたものではないのである。そうすると、Cに対する売主であるFらやBに対する売主Cは、本件映画の売買代金として実質的に見合う対価の21.6%の本件出資金相当額の代金しか得られないにもかかわらず、本件映画の権利を移転したことになり、これは売主であるFらやCの意思解釈としては著しく不合理である。

<2> 本件売買契約と密接に関連する本件各配給契約を一体として考察すると、前記のとおり、本件売買契約においてCがBに与える本件映画についての権利のすべては、本件配給契約においてBがDに与えるべき権利に含むとされており、本件売買契約によってBが取得する本件映画についての権利は本件配給契約によりそのままDに移転されることが形式上予定されていたものである。そして、Bが自己の権利として保留できた権利は、前記のとおり、およそ本件映画の使用、収益又は処分する権利とはいえないものであり、また、本件売買契約と本件配給契約が同1日付でなされていることからすれば、Bには本件映画についての権利を行使する機会は全く与えられていないのである。他方、FやCからすれば、本件配給契約をCとDとの間で直接締結しても何ら差し支えないのであり、その間にBを介在させなければならない理由は存しない。それにもかかわらず、FらないしCが本件取引にBを介在させたのは、Bに本件映画の権利を取得させることを仮装して、租税回避させる代わりに本件出資金相当額の投資を得ること以外に目的はなかったものと考えられる。そして、控訴人においても、もっぱら租税回避の利益に着目し、それを目的として本件取引に参加したものと認められることは前記のとおりである。

<3> 以上を総合すると、本件売買契約における当事者の真意に基づく法律関係は、外観上は売買契約の形式はあるものの、実体上は売買契約の実質を認めることはできず、控訴人ら契約当事者の真の意思は、Bないし控訴人のFらに対する本件映画製作又は興業のための出資契約、あるいは本件映画の興行収入についての利益配分契約であると解するべきである。

(オ) なお、控訴人は、本件取引は、本件映画が一定の価値のあるものであり、かつ、事業としての実態を備えた興業努力が行われた経済的実質を備えた取引であること及び損失を負うリスクがあることから本件映画の所有権は控訴人ひいてはBにあったと主張するが、被控訴人は、本件取引が売買としては経済的実質を備えていない取引であると主張しているのであり、控訴人主張のような事実は前記のとおり出資契約又は利益配当契約と理解することを妨げるものではなく、控訴人の負う損失のリスクも本件取引全体の法律関係から導かれる結果であり、本件映画の所有権の帰属のみから導かれるものではない。そして、前記のとおり出資契約又は利益配当契約と理解しても控訴人に損失を負うリスクは存在するのである。

2  控訴人の当審における主張

(1)  準拠法について

本件取引においては、CとBとの間の本件売買契約(15条I項)についてもBとDとの間の本件配給契約(21条G項)についても、いずれも準拠法はカリフォルニア州法であると明文で規定されている。

本件更正処分は、本件取引の準拠法について何ら言及していないので、おそらく日本法の適用を前提としていたものと考えられるが、そうであれば、本件更正処分は準拠法を誤ったものであって、無効又は違法である。

(2)  事実認定による否認について

ア 被控訴人の主張する事実認定による否認という手法は、租税法律主義を根底から覆すものであり、到底容認できない。被控訴人のいう法律構成の否認は、事実認定に名を借りて実質的には狭義の租税回避の否認を行っているものであり、その判断の構造は租税回避の否認と全く同じである。

イ 契約解釈においては、当事者がその契約に付与した意味内容の確定に止まらず、補充的解釈や修正的解釈が行われるが、そのような解釈は当事者の表示ないし具体的事情から導くことのできない部分について、私的自治を援護、促進するために認められるものである。しかし、被控訴人の主張する契約解釈は、このような伝統的理解から完全に逸脱するものである。すなわち、まず第1に、本件取引は、明確な契約書によるものであって、当事者の表示ないし具体的事情から導くことのできない部分は存在しない。また、第2に、当事者のために私的自治を援護、促進するためではなく、いわば課税上の障害を除去するためであって、どちらの契約当事者にも不利益を与えるものである。本件当事者間では契約内容をめぐる紛争は全く存在しないのであり、このような契約に対して、国家が介入するのは私的自治に対する侵害である。このような問題は、税法が直接規律すべきものであって、契約解釈の問題ではない。

ウ 本件取引を融資取引であるとして課税庁が課税処分を行っても、それによって私法上の法律関係は何ら変化しない。このことは裁判所が同処分を認める判決を下した場合も同様である。控訴人は、なお契約の相手方や第三者との関係では当事者が合意した契約内容によって法的に拘束され続けることになる。すなわち、このような課税のやり方は、課税の基礎とされた法律関係と実際の私法上の法律関係を課税上異なるものと擬制して行う狭義の租税回避の否認そのものである。

エ もし、課税庁が、それ自体は有効に成立している法律行為を私法上否認して、別のものと解釈することができるとすると、課税に関する予測可能性や法律によって課税要件を定めることの意味(租税法律主義)が失われる。この点もまた、狭義の租税回避の否認の場合と全く同じである。

本件更正は、控訴人の「税負担回避の意図」が決め手とされている。しかし、税負担を少しでも軽減しようとする意図はどのような納税者も有しているものであり、課税庁はそのことによって契約内容に介入し、不利益な扱いをすべきではない。もし税負担回避の意図のみによって取引を否認できるとすると、およそ節税メリットのある取引はすべて否認の対象となるであろう。

従来、課税庁は、いわゆるリース通達を公表してきた。被控訴人は、狭義の租税回避の否認は明文規定がなければ許されないとし、ここでいう明文規定とは法律又は法律の授権を受けた命令を指すと解されるから、被控訴人の見解によれば、リース通達による否認は、狭義の租税回避の否認ではあり得ず、本件で問題となっている「事実認定による否認」であったことになる。すなわち、課税庁はいかなる場合に「事実認定による否認」を行うかについての基準を予め策定し、これを納税者に公表していたのである。そうであれば、この公開された基準に対する納税者の信頼は当然に保護されなければならないし、リース通達の定める基準によれば、本件取引は金融取引とはみなされない。

オ 本件取引を事実認定・法律構成により否認する以上は、真正な取引が別にあったことになるはずであるが、被控訴人は、その真正な取引の内容を全く明らかにしていない。

カ 以上のとおり、事実認定・法律構成による否認の手法はその実質において狭義の租税回避の否認そのものであり、このような手法を許すことは租税回避の否認のためには法律上の根拠が必要であるという確立した通説及び裁判例の考え方を明らかに潜脱し、租税法律主義に反するものであって、到底許されない。

キ また、本件取引を否認するためには、本件映画が映画というに値するものであったか、また、収益獲得のための興業努力が行われたかということが重要なポイントである。これが、アメリカにおけるフィルム・リースによるタックス・シェルターから区別するものとして最も重要である。そして、本件映画は、有名俳優を起用するなどし、一定の価値のある映画、ヒットする可能性のある映画であり、かつ、事業といえる実体を備えた興業努力が行われていたのであるから、その結果損失が発生したとしても、本件取引は経済的実質を備えた取引であって、否認することはできない。

(3)  本件取引によってBが取得した権利について

ア 所有権概念について

現代社会における所有権の本質は、対象物が莫大な利益を生み出した場合のその利益の帰属や、対象物が予想外に利益を生み出さなかった場合及び対象物が滅失した場合のリスクの帰属に求められるべきである。

映画フィルムの使用収益は、極めて高度の専門的知識を要するものであるから、その使用に関するほとんどすべての権利を専門家である配給会社に委ねるのは当然のことであって、逆に、投資事業組合の組合員に映画の配給に関する具体的な行為をさせることは不可能である。日本の株式会社制度においては、いわゆる所有と経営が分離しているが、だからといって株主が会社の実質的所有者たる地位を否定されるわけではない。これは、株式会社の利益があれば株主は利益配当によりそのメリットを享受し、株式会社が倒産すれば株主の投資は無に帰するという自己責任の原理が働いているからである。そして、このことは本件の一連の取引におけるB組合員にも等しく当てはまるものである。

控訴人は、本件取引によって損失を被ったが、これは単なる偶然の結果ではなく、もともとそのような損失が発生することも当然にあり得るスキームの中でそのとおりに損失が発生したのである。このようにもともと損失の発生が予想されている以上本件取引は金融取引には当たらないというべきである。

イ Dに付与された権利又は権能について

(ア) Bは、Dに対し、本件配給契約に基づき、題名の選択、変更、本件映画の編集・追加・変更、Dの選択するラボラトリー等にポジティブ・プリント等を作成させること、広告・宣伝、第三者に対する公開権の付与等を行う権利を与えた。これは、専門性を有しないB組合員がこのような権利を留保しても必ずしもその利益とはならないことから、Bが、高度の専門性を有する映画の配給を専門の配給会社に委ね、最大限の利益を得るために行われたものである。このような諸権利の付与をもって、映画フィルムに対するBの所有権が否定されるならば、およそ配給会社以外のものが映画フィルムを所有することは事実上できないこととなるが、そのような結論が不合理であることは明らかである。

(イ) Dは、本件配給契約上、本件映画フィルムの破棄が認められていない。

(ウ) Dは、第三者(第2次配給者)に対して本件配給契約上の地位を譲渡することができるが、これも映画の配給という取引の特質上、特段奇異なものではない。配給会社がより効果的に収益をあげ得る他の配給会社に配給権を譲渡する方が映画フィルムの所有者にとって有利な場合もあるし、また、配給会社は映画の興行収入が上がれば自らの利益も増大するから、配給権をむやみに不適格な第三者に譲渡することはあり得ない。本件においても、Dは、Fらといういわゆるメジャーの配給会社に権利を譲渡し、より効率的な配給ができるようにしている。

(エ) Bは、Dに対し、第三者からの権利侵害に対し必要な措置を取る権限を全面的に与えているが、これは世界的規模で行われる映画の配給に対する第三者からの権利侵害について、B組合員が迅速かつ適切な対応を取ることはできないが、配給会社はその専門的知識と世界的ネットワークを通じて、第三者からの権利侵害に対し、適切に対応し得る能力を有しているからである。また、配給会社は、第三者からの権利侵害に対し有効な対抗手段を講じなければ自らの利益も害される関係にあるから、当然に速やかな対抗措置を講ずることが期待される。したがって、配給会社に対し、第三者からの権利侵害についての必要な措置を取る権限を与えることは映画取引の特質に照らせばむしろ合理的である。

(オ) このように、Bが、本件配給契約に基づきDに対して付与している権利は、映画配給の特質の中でB組合員の利益を最大化するためにはむしろ合理的なものであって、このことから本件映画フィルムに対するB組合員の所有権を否定することはできない。

(カ) なお、被控訴人は、本件について、Bの所有権取得を否定する根拠として循環金融の存在を主張するが、その具体的内容については主張も立証もない。もとより、本件取引において循環金融が存在したとは到底考えられない。本件映画には有名俳優が多く出演しているが、これらの俳優に支払う出演料だけでも相当に高額なものとなり、その他の費用を加算すれば、相当多額の制作費を要したことは明らかであって、単に資金が環流したに過ぎないとの「循環金融」の主張は全く非常識である。

ウ 本件配給契約に基づきBが負うリスクについて

(ア) Bは、本件配給契約に基づき、Dから、いわゆるアドバンス額、ネット支払額及び支払保証額と購入オプション行使時の購入価格もしくは延長オプション行使時の延長アドバンスから、少なくとも105億5768万0850円の支払いを受けることが予定されている。そして、この金額は、Bが本件映画フィルムを購入するためにH銀行から借入れた金員の元本及び利息の合計額に相当する。Bは、これによって本件3本の映画フィルムの購入金額91億6601万6250円のうち、同銀行からの借入元本額71億9030万2500円及びその借入利息については回収できることとなる。

しかし、各組合員からの出資金合計23億0320万円は回収が保証されていない。この各組合員からの出資金については、本件映画の配給によりBが受け取る、<1>グロス支払額、ネット支払額とアドバンスの合計額が支払保証額を超えた場合の超過額、<2>購入オプション行使の場合は見込ネット支払額がフィクスト支払額を超えた場合の超過額、<3>延長オプション行使の場合はこの期間に支払われる、グロス支払額とネット支払額が延長アドバンスを超える額の2分の1と<1>と<2>又は<1>と<3>の合計額から回収されるものである。

そして、これらの支払額は、いずれも本件3本の映画の配給収入から受け取るもので、映画がヒットするか否かによって受け取ることのできる額に大きな差が出る。仮に、ヒットすれば、B組合員の出資金をはるかに超える利益を受け取ることも可能であるが、そうでなければ、出資金は回収不可能となる。本件においては、このように、本件映画がヒットしなかった場合のリスクはB組合員に帰属しているのであって、しかもその全額は決して少額ではなく、本件映画フィルムの所有権はB組合員に帰属しているというべきである。

(イ) B組合員の意思解釈を行うに際しては本件説明書(乙1の1、2)は重要な資料となるが、本件説明書においては、まさに組合員が負うべき本件取引のリスクが強調されている。すなわち、「映画投資事業組合 Merrill Lynch Capital Markets 1989年」と題する書面(乙1の1)においては、「本事業には税引前、あるいは税引き後損失を含む危険のあることをご承知おき下さい。映画の成否は予想がつかないだけでなく、移り気な観客に左右されるので、映画の購入や賃貸/配給には大きな危険が付き纏います。」「組合の利益又は損失は、組合員の出資比率に応じ配分します。」「映画の成否は、予想がつかないだけでなく、移り気な観客に左右されるので、映画の購入や賃貸/配給には大きな危険がつきまといます。よって、映画フィルムの封切り前に組合員が受け取ると思われる賃貸料及び現金支払金額について予想することは不可能です。」等と記載されている。

(ウ) B組合員がこのようなリスクを負担することは、本件配給契約における金銭支払いに関する条項だけでなく、いわゆる保証条項(第4条)においても明記されている。すなわち、同条Z項によれば、本件映画が一般大衆によって好意的に受け止められるか否か、ライセンサー(B)が本件取引によっていかなるレベル又は額の総収入、総利益等をあげ得るか否か等については、配給会社(D)は何ら保証もしない旨明記されている。

(エ) 本件配給契約においては、B組合員は、自らの出資金相当の損失を被るリスクを負うだけでなく、本件映画の内容等についても一定の責任を負うこととなっている。

すなわち、本件配給契約第4条においては、ライセンサー(B)は、本件映画が完全に編集されていること(P項)、せりふ・音響・音楽等と完全に同調しており、35ミリのカラーフィルムで記録されていること(Q項)、上映時間は85分以上135分以下であること(R項)、ネガティブ及びその他のプリント前素材が一定の水準を満たしていること(S項)、米国及び日本等の一流の映画館における上映に適した一流の技術的品質を有していること(T項)、“R”と同一かそれよりも緩やかなレーティングであること(U項 米国においては、映画を一般向けのもの、13歳以下の子供が見る場合には両親の同席を要求するもの、未成年者が見る場合には成人の同席を要求するもの等にクラス分けをするいわゆるレーティングが行われる。「R」は、“Restricted”の略であり、未成年者が見る場合には成人の同席を要求する意味である。)等を保証することとなっている。

さらに、本件配給契約第4条においては、ライセンサー(B)は、本件映画が第三者の著作権、パブリシティの権利、プライバシー権等を侵害するものでないことを保証することとされている(W項)。

このように、本件配給契約においては、ライセンサー(B)は、本件映画が一定の水準に達していることや本件映画が第三者の知的財産権等を侵害しないことを保証する旨規定されている。しかも、Bは、この事項を保証しているだけではなく、Bによる保証の違反によって生じる一切の損害、責任、訴訟手続等からDを免責し、Dを保護すべきことが義務づけられている(本件配給契約第14条)。もし、本件取引が単なる金融取引であるならば、Bが本件映画の内容や本件映画が第三者の知的財産権を侵害しているか否かというような事項についてまで責任を負ういわれは全くないはずである。

エ 以上の諸点を考慮すれば、Bないし控訴人が本件売買契約により本件映画の所有権を取得し、これが減価償却資産であることは明らかである。

第3当裁判所の判断

当裁判所も、控訴人の本件請求は理由がないものと判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の理由と同一であるから、これを引用する。

1  準拠法について

本件取引においては、CとBとの間の本件売買契約(15条I項)についてもBとDとの間の本件配給契約(21条G項)についても、いずれも準拠法はカリフォルニア州法であると明文で規定されていることは当事者間に争いがない。

しかし、本件取引のような国際的な規模の契約については、その法的な規律は国際私法により準拠法が選択されることによって行われることになるが、このような規律の対象となるのはあくまでも契約当事者間の私法上の権利又は法律関係に限られるのであり、本件のような課税処分の取消訴訟で問題となるのは、あくまでも納税者と課税庁との間における日本の租税法規に定められた課税要件を充足する事実の存否であり、契約当事者間の権利関係そのものではない。課税の前提として、当事者間の私法上の権利又は法律関係が問題となる場合においても、当事者間における私法上の権利又は法律関係そのものが直接問題となるのではなく、あくまでも課税要件との関係において問題とされるに過ぎないのである。本件においては、本件映画が控訴人の減価償却資産に当たるが否かが問題となるのであるが、これは法人税法31条の解釈、適用の問題であって、カリフォルニア州法の適用を問題とする余地はないというべきである。

また、課税要件の該当の有無についての事実認定は、「手続は法廷地法による」の原則から、日本の裁判所が日本の訴訟手続法規に従って事実認定をするのであって、そこに前記準拠法であるカリフォルニア州法における契約解釈に関する証拠法則等が適用される余地はない。

したがって、控訴人の準拠法に関する主張は理由がない。

2  法人税法31条の解釈・適用について

法人税法31条の解釈に関しては、企業が減価償却資産の償却費を各事業年度の必要経費ないし損金の額に算入するためには、その事業年度の終了より前にそれを取得していることが必要であり、さらに、減価償却資産の取得とは、減価償却資産の所有権を取得することをいうものと解するのが相当である。そして、租税法規において、「所有権」のような私法上の概念を借用している場合には、その法分野におけると同じ意義に解釈するのが相当であるから、日本民法における所有権(同法206条)と同一の意義に解すべきである。

3  事実認定・法律構成による否認について

(1)  課税は、私法上行為によって現実に発生している経済的効果に則して行われるのであるから、第一義的には私法の適用を受ける経済取引の存在を前提として行われるものであるが、その課税の前提となる取引行為の私法上の法律構成については、契約書等における当事者間の表面的形式的合意にとらわれることなく、契約書等に表面的には現われない事情をも考慮して実質的な経済的実体を認定し、当事者が真に意図した私法上の法律構成による合意内容を探求し、これに基づいて課税が行われることになる。租税回避行為を否認するためには原則的に法文中に租税回避行為の否認に関する明文の規定を要すると解すべきであるが、当事者間の真実の私法上の合意内容を探求し、当事者間の真の合意に基づいて課税するということは、この租税回避行為の否認に当たるものではないというべきである。

(2)  控訴人は、課税庁がそれ自体は有効に成立している法律行為を私法上否認して、別のものと解釈することができるとすると、課税に関する予測可能性や法律によって課税要件を定めることの意味(租税法律主義)が失われると主張する。しかしながら、事実認定・法律構成による否認は、当事者の真意に基づく法律関係に基づいて課税するものであり、当事者の真意を離れて私法上の法律行為を別のものと解釈するものではない。それ故、当事者の予見可能性を裏切るものでもなければ、租税法律主義に反するものでもない。

なお、控訴人は、本件当事者間では契約内容をめぐる紛争は全く存在しないと主張するが、これは、本件取引が当事者らによって計画された仮装行為であればそれは当然のことであり、また、本件取引を融資取引と解釈すれば、課税の基礎とされた法律関係と実際の私法上の法律関係とが異なることになるとか、また本件取引を事実認定により否認する以上は真正な取引が別にあったことになるはずであるが、これが明らかにされていないなどと主張するが、事実認定・法律構成によるの否認は、私法上の効力とは全く別個の問題であり、それは課税要件を充足するか否かについての法的判断にとどまるのであり、私法上の契約としての有効、無効については契約準拠法によって規律されるのである。事実認定・法律構成による否認が私的自治を侵害するものということはできない。したがって、控訴人の主張はいずれも理由がない。

(3)  控訴人は、リース通達による否認は、事実認定による否認であり、課税庁はいかなる場合に事実認定による否認を行うかについての基準を予め策定し、これを納税者に公表していたが、そうであればこの公開された基準に対する納税者の信頼は当然に保護されなければならないし、リース通達の定める基準によれば、本件取引は金融取引とはみなされないと主張する。

しかしながら、被控訴人は、本件取引において控訴人ひいてはBが本件映画の所有権を取得していないという理由で本件課税処分をしたものであって、リース通達に基づき本件取引を否認して課税したのではない。したがって、控訴人がこの通達の基準を信頼したことと本件課税処分とは無関係であるから、被控訴人の主張はその前提を欠き失当である。

4  Bないし控訴人は、本件売買契約により本件映画の所有権を取得したか。

控訴人が、本件売買契約によって、本件映画に関する所有権を取得したものと認めることはできないことは、原判決が認定説示するとおりであるが、当審における主張に鑑み、主要な点について判断する。

ア  本件取引では、本件映画は、製作者であり、最初の著作権者であるFらからI、Cを経てBに売り渡され、Bが本件配給契約、譲渡担保設定契約によりDに権利を譲渡し、さらに、Dは、第2次配給契約によりFに対し、BがDに許諾したとする本件映画の配給権なる権利を譲り渡し、FらがDが有していた権利を行使することができることになったのであるから、結局、本件取引は、循環しているものと認められる。ところで、Bは、本件売買契約に基づき、本件映画の売買代金として、91億6601万6250円支払ったが、そのうち本件借入金71億9030万2500円とその利息33億6737万8350円の合計額に相当する105億5768万0850円は、本件保証金としてDから支払われること、その支払いについてはG銀行が保証していることは、控訴人も自認しているところ、同銀行による保証が本件保証契約に基づくものであることからすれば、予めFらないしDにより同銀行に本件保証金相当額が預託されていたものと推認されるのである。そうすると、Fらは本件映画の権利を本件売買契約上の代金額の21.6%の価格で譲渡していることになるが、このような事実からすれば、Fらの意思解釈として売買契約であるとの認定は極めて不合理である。

イ  なお、控訴人は、上記のG銀行による保証が本件保証契約に基づくものであることからすれば、予めFらないしDにより同銀行に本件保証金相当額が預託されていた認めるに足りる証拠はなく、本件映画には有名俳優を起用していることから高額の出演料を要するほか、多額の製作費用を要したことは明らかであることからしても、被控訴人が主張する循環金融が存在を認めることはできない旨主張する。

しかしながら、乙3号証の1、2(同書面は本件取引に関して作成されたものではないが、本件取引におけるBに相当する組合が別に組織された組合である点以外は、実質的に全く同内容のKが提案した取引に関するH銀行東京支店の貸付稟議書であり、本件取引についても同様の取引形態が採用されたことは優に推認することができる。)、弁論の全趣旨によれば、銀行が保証する以上、銀行実務として、それに見合う資金が預託されているものと優に推認でき、また、前記認定の同1日付で締結された環状を形成する一連の本件取引の構造からすると、その一連の完結する取引内での関係では、最終的にはFらが本件保証金の支払を負担をすべきことになると解するほかないことからすると、被控訴人が主張する循環金融の存在が推認できるというべきである。他方、控訴人が主張する出演俳優への高額の出演料や製作費等の手当については、それに要した金額を始め、その支払方法、あるいはその資金調達方法の有無を含めて、これを窺わせる証拠は全く存しないから、控訴人の主張は採用できない。

ウ  また、本件売買契約のほか、本件各配給契約に照らすと、原判決が認定するとおり、Bには本件映画の所有権を構成する権能は全く認められていないのであり、しかも、その権利は第2次配給契約によりFらに帰属していること、本件配給契約上、Bは、Dに契約違反があった場合でも、救済は金銭上の損失の回復を求めることができるのみで、本件配給契約を終了させるなどDが有する権利のBへの回復を求める権利も一切認められていないのであって、このようなBの権限を考慮すると、到底所有権を取得したものとは解することはできず、本件売買契約をその実質においても売買であると認定することは契約当事者であるBの意思解釈として極めて不合理である。

控訴人は、本件配給契約によりDに種々の権限を授与したのは、映画の配給事業等における特殊性、専門性等を考慮して行ったものであり、所有権はBに存する旨主張するが、上記のBの有する権限から、Bが日本民法における所有権を取得したものとは到底解されないから採用しない。

エ  控訴人が、映画興行による利益と減価償却費の損金計上等によって課税上の利益を得ることを目的として単に資金の提供のみを行う意思でBに参加したものであって、Bを通じて本件映画を所有し、その使用収益を行う意思を有していなかったことは原判決が認定するとおりである。控訴人は、Bないし控訴人が本件取引において相当額の損失を負担することがあることから、Bに所有権が存する旨主張するが、控訴人が本件取引によって結果的に損失を被ったとしても、それは減価償却資産としての計上を否定された場合のことであるのみならず、取引上損失を生じたことをもって控訴人の本件取引への参加目的等についての認定を左右するものではないから、同主張も採用できない。

5  以上のとおり、Bは、本件取引の契約書上は、本件融資契約による借入金を資金として、本件売買契約によりCから本件映画を購入し、その所有権を取得した上、それを本件配給契約によりDに賃貸したとの外観が存するが、その実質は、控訴人がBを通じてFらによる映画の興行に投資を行い、これに対しFが利益配当を行うという内容の契約であるというべきであり、本件融資契約及び本件売買契約は、Bの組合員の租税負担を回避する目的で、その形式が用いられたに過ぎないものと解するのが相当である。

なお、控訴人は、本件取引を否認するためには、本件映画が映画というに値するものであったか、また収益獲得のための興行努力が行われたかということが重要なポイントであると主張する。しかしながら、本件取引は控訴人が減価償却費の損金計上等により租税負担を回避する目的で行われたものであり、これは本件映画が映画というに値するものであったかまた収益獲得のための興行努力が行われたか否かに関わりなく、現にその目的が達成されたものであるから、控訴人の同主張は採用できない。

そうである以上、控訴人が本件映画を減価償却資産に当たるとして、その減価償却費を損金に算入したことは相当でなく、右算入に係る全額が償却超過額になるというべきである(なお、H銀行からの借入金から生ずる借入利息と同額の受取利息の計上漏れの点について、控訴人が支払利息として損金の額に算入した右借入利息に相当する金額を受取利息として益金の額に算入すべきであることは原判決の認定説示するとおりである。)。

第4結論

以上によれば、控訴人の本件訴えのうち、原判決添附別表1、2の「確定申告」欄記載の各所得金額及び納付すべき税額を超えない部分の取消しを求める訴えはいずれも不適法であるから却下すべきであり、その余の部分の請求は理由がないから棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法67条、61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉原耕平 裁判官 小見山進 裁判官 大竹優子)

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