大阪高等裁判所 平成12年(ネ)2601号 判決 2001年3月06日
第2601号事件控訴人兼第2602号事件被控訴人第一審原告
三谷礼子
第2601号事件控訴人兼第2602号事件被控訴人第一審原告
西村幹子
両名訴訟代理人弁護士
小久保哲郎
第2601号事件被控訴人兼第2602号事件控訴人第一審被告
有限会社わいわいランド
代表者代表取締役
福森均
訴訟代理人弁護士
川本修一
第一審被告補助参加人
堺ヤクルト販売株式会社
代表者代表取締役
田原吉次郎
訴訟代理人弁護士
藤田勝治
主文
一 第一審原告らの控訴(第2601号事件控訴)をいずれも棄却する。
二 第一審被告の控訴(第2602号事件控訴)に基づいて原判決を取り消し,第一審原告らの主位的請求を棄却する。
三 当審における第一審原告らの予備的損害賠償請求に基づき
1 第一審被告は次の金員を支払え。
(1) 第一審原告三谷礼子に対し116万0,421円及びこれに対する平成11年4月7日から完済まで年5分の割合による金員。
(2) 第一審原告西村幹子に対し156万円及びこれに対する平成11年4月9日から完済まで年5分の割合による金員。
2 第一審原告らのその余の予備的請求をいずれも棄却する。
四 当審における第一審原告らの予備的賃金支払請求に基づき
1 第一審被告は第一審原告三谷礼子に対し24万円を支払え。
2 第一審原告三谷礼子のその余の予備的請求及び第一審原告西村幹子の予備的請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用は,補助参加によって生じた分を含め,第一,二審を通じ,これを5分し,その3を第一審被告の,その余を第一審原告らの各負担とする。
六 この判決は,第三項1(1)(2)及び第四項1に限り,仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求める裁判
一 第2601号事件控訴及び当審予備的請求
1 第一審原告ら
(1) 原判決を次のとおり変更する。
ア 第一審被告は第一審原告三谷礼子に対し次の金員を支払え。
(ア) 382万円。
(イ) 24万円に対する平成11年4月7日から完済まで年6分の割合による金員。
(ウ) 358万円に対する平成11年4月7日から完済まで年5分の割合による金員。
イ 第一審被告は第一審原告西村幹子に対し次の金員を支払え。
(ア) 382万円。
(イ) 24万円に対する平成11年4月9日から完済まで年6分の割合による金員。
(ウ) 358万円に対する平成11年4月9日から完済まで年5分の割合による金員。
(2) 当審予備的損害賠償請求について
ア (1)アと同旨。
イ (1)イと同旨。
(3) 当審予備的賃金請求について
ア 第一審被告は第一審原告三谷礼子に対し125万円を支払え。
イ 第一審被告は第一審原告西村幹子に対し300万円を支払え。
(4) 訴訟費用は第一,二審とも第一審被告の負担とする。
2 第一審被告(答弁)
(1) 第一審原告らの控訴を棄却する。
(2) 第一審原告らの当審における各予備的請求を棄却する。
(3) 控訴費用は第一審原告らの負担とする。
二 第2602号事件
1 第一審被告(控訴の趣旨)
(1) 原判決中第一審被告の敗訴部分を取り消す。
(2) 第一審原告らの主位的各請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は第一,二審とも第一審原告らの負担とする。
2 第一審原告ら(答弁)
(1) 第一審被告の控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は第一審被告の負担とする。
第二当事者の主張
一 第一審原告ら(請求原因)
1 当事者
(1) 第一審原告三谷礼子(以下,第一審原告三谷という。)は,平成元年4月から平成11年3月まで,10年間にわたり幼稚園教諭の職にあった。平成10年4月1日から平成11年3月末日までは,箕面市所在の栗生幼稚園において教諭として働いていた。栗生幼稚園に勤務していた当時の賃金額は月30万2,000円(手取額25万7,138円)であった。
(2) 第一審原告西村幹子(以下,第一審原告西村という。)は,平成元年4月から平成9年3月までの8年間幼稚園教諭として働いた。その後,兄が経営する有限会社小畑工務店において事務職として勤務した。その間,ベビーシッター,家庭教師のアルバイトをしながら保育に関する勉強を続けてきた。有限会社小畑工務店に勤務していた当時の賃金額は月約17万円であり,ベビーシッター等のアルバイト料は月約2ないし3万円であった。
(3) 第一審被告は,大阪市北区中津<以下略>アイオイ第1ビル2階に本店を置き,経営に関する各種情報の提供,幼児用教育出版物の販売等を目的とする有限会社である。第一審被告は,フランチャイズ方式で園長を募集する方法で,柏原園,寝屋川園,塚口園など計10個所において小規模な無認可保育所(託児所)を経営している。
2 第一審原告三谷と第一審被告との雇用契約
(1) 第一審被告は平成10年11月2日に第一審原告三谷に対し次のとおり雇用契約の申込をした。
ア 勤務時間 午前8時30分から午後3時30分まで。
イ 賃金 月額25万円。
ウ 勤務場所 第一審被告が補助参加人の委託を受けて業務開始する予定のヤクルト保育ルーム。
エ 職種 トレーナー。
(2) 第一審原告三谷は同日これを承諾し,雇用契約が成立した。
(3) 仮に(1)(2)のとおりでないとしても,第一審被告代表者は平成11年3月27日に第一審原告三谷に対し雇入通知表(<証拠略>)を交付した。これを第一審原告三谷が承諾したことにより,第一審被告と同第一審原告との間で次の期間の定めのない雇用契約が成立した。
ア 賃金 基本賃金10万円,諸手当14万円。
イ 勤務場所 (1)ウのヤクルト保育ルーム等。
ウ 職種 保母及びトレーナー。
3 第一審原告西村と第一審被告との雇用契約
(1) 第一審被告は平成11年1月20日に第一審原告西村に対し上記2(1)アないしエの勤務条件を示して雇用契約の申込をした。
(2) 第一審原告西村は同年2月1日にこれを承諾し,雇用契約が成立した。
(3) 仮に(1)(2)のとおりでないとしても,第一審被告代表者は上記2(3)と同様,平成11年3月27日に第一審原告西村に対し雇入通知表(<証拠略>)を交付した。これを第一審原告西村が承諾したことにより,第一審被告と同第一審原告との間で上記2(3)アないしウのとおり期間の定めのない雇用契約が成立した。
(4) 仮に(1)ないし(3)のとおりでないとしても,第一審被告代表者は平成11年3月27日に第一審原告西村に対し雇入通知表(<証拠略>)を交付して雇用契約の申込をした。
第一審原告西村は同年4月6日にこれを承諾し,上記2(3)アないしウのとおり期間の定めのない雇用契約が成立した。
4 違法な解雇による債務不履行又は不法行為
(1) 第一審原告三谷に対する解雇通告
第一審被告代表者は同年4月6日に第一審原告三谷に対し「ヤクルトから断られたので,申し訳ないがこのお話はなかったことにして下さい。」と述べて,解雇を通告した。
(2) 第一審原告西村に対する解雇通告
第一審被告代表者は同月8日に第一審原告西村に対し「ヤクルトから断られたので,この話はなくなった。」と述べて,解雇を通告した。
(3) 解雇の違法性
ア 第一審被告は,第一審原告らを雇用する際にヤクルト保育ルームの設立が不確定であることを一切説明せず,むしろこれが確実なように説明していた。そのため,第一審原告らは,第一審被告に確実に雇用され,これが続くものと信じた。この信頼に基づいて,第一審原告三谷は勤務していた栗生幼稚園を退職した。また,第一審原告西村は,打診を受けていた浪速短期大学附属幼稚園教諭の就職を断り,それぞれ第一審被告と雇用契約を締結した。ところが,第一審被告は,上記のとおり,第一審原告らに対し突然解雇(以下,本件解雇という。)を通告した。
イ 以上のとおり,本件解雇は,雇用契約上の信義則に著しく反した違法なものであり,社会通念上相当として是認できない。
このような解雇権の濫用行為は,第一審原告らに対する不法行為であり,かつ雇用契約上の信義則に反するものである。
それ故,第一審被告は,本件解雇によって第一審原告らが被った損害を賠償する不法行為責任又は債務不履行責任を負う。
5 説明義務違反による債務不履行又は不法行為
(当審予備的主張)
(1) 仮に本件解雇が有効であっても,第一審被告は,第一審原告らとの雇用契約の締結にあたって違法に次の(2)のような説明義務を怠った。これは第一審原告らに対する債務不履行又は不法行為に該当し,損害賠償責任を免れない。
(2) 第一審被告は,第一審原告らに対し信義則上次の説明をすべき義務があった。
ア 第一審被告と補助参加人との間の業務委託契約が未成立であって,これが成立しない可能性があること。
イ 上記業務委託契約が未成立の場合,第一審原告らに職場を用意できないこと。
(3) 第一審原告らは,第一審被告の(2)の説明義務違反により,ヤクルト保育ルームの仕事を確定的なものと信頼した。そこで,第一審被告の職場で働けるものと信用して第一審被告と雇用契約を結び,他の職場での就職の機会を失い損害を被った。
6 損害
(1) 得べかりし賃金 各288万円。
第一審原告らは本件解雇によって失職した。解雇されなければ得られた賃金は本件解雇又は上記5の債務不履行又は不法行為による損害である。
保母の雇入時期は通常年度初めであるから,本件解雇によって第一審原告らは,少なくとも向こう1年間失業する蓋然性が高い。そこで,月額24万円に12を乗じた288万円が得べかりし賃金(損害)である。
(2) 慰藉料 各50万円。
第一審原告らは,いずれも平成11年4月以降は第一審被告において稼働することを当然の前提として生活設計をしていた。第一審原告三谷は従前勤務していた栗生幼稚園を同年3月末をもって退職した。また,第一審原告西村は浪速短期大学附属幼稚園への就職の誘いを断った。
それが同年4月に入ってから突然一方的に解雇通告されたことによって,第一審原告らは賃金によって生活する術を奪われた。しかも,第一審被告からは,これについて理不尽かつ不誠実な説明しかされず,第一審原告らは著しい精神的苦痛を被った。
この精神的苦痛を金銭に換算すると,それぞれ50万円を下らない。
(3) 弁護士費用 各20万円。
第一審原告らは,本件訴訟を第一審原告ら訴訟代理人に委任したが,その弁護士費用は各20万円が相当である。
7 雇用契約に基づく賃金請求(当審予備的主張)
以上の主張が容れられないときは,第一審原告らは第一審被告との雇用契約の存続を主張し,次の賃金の支払を請求する。
(1) 第一審原告三谷 平成11年4月から5か月分。
なお,第一審原告三谷は平成11年に90日分の失業保険の給付を受け,同年9月に再就職した。
(2) 第一審原告西村 平成11年4月から12か月分。
8 請求
よって,第一審原告らは第一審被告に対し次の請求をする。
(1) 労働基準法20条1項に基づく解雇予告手当各24万円及びこれに対する解雇通告の日の翌日(第一審原告三谷については平成11年4月7日,第一審原告西村については同月9日)から完済まで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金。
(2) 不法行為又は債務不履行に基づく主位的及び当審予備的損害賠償請求として各358万円及びこれに対する本件解雇通告の日の翌日(同前)から完済まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金。
(3) 当審予備的請求として
ア 雇用契約に基づいて第一審原告三谷について125万円の支払。
イ 同じく第一審原告西村について300万円の支払。
二 第一審被告(請求原因に対する認否,反論)
1 請求原因1の事実について
(1) 同(1)及び(2)は知らない。
(2) 同(3)を認める。
2 同2の事実について
(1) 同(1)(2)を否認する。
(2) 同(3)のうち,第一審被告代表者が平成11年3月27日に第一審原告三谷に対し雇入通知表(<証拠略>)を交付したことを認め,その余を否認する。
3 同3の事実について
(1) 同(1)(2)を否認する。
(2) 同(3)のうち,第一審被告代表者が平成11年3月27日に第一審原告西村に対し雇入通知表(<証拠略>)を交付したことを認め,その余を否認する。
(3) 同(4)を否認する。
4 同4の事実について
(1) 同(1)のうち,第一審被告代表者が同年4月6日に第一審原告三谷に対し「ヤクルトから断られたので,申し訳ないがこのお話はなかったことにして下さい。」と述べたことを認め,その余を争う。
(2) 同(2)のうち,第一審被告代表者が同月8日に第一審原告西村に対し「ヤクルトから断られたので,この話はなくなった。」と述べたことを認め,その余を争う。
(3) 同(3)を争う。
第一審被告と第一審原告らとの間には雇用契約は成立していないし,第一審被告に不法行為責任,債務不履行責任はない。
仮に,雇用契約が成立していたとしても,この雇用は第一審被告の新規事業の実施のためのものであった。第一審原告らは未だ就業もしていないのであるから,第一審被告の新規事業の不成立を理由に解雇したとしても,解雇権の濫用にはならない。
5 同5の事実を争う。
契約締結上の過失を原因とする不法行為に基づく損害賠償義務を肯定するには,加害者の故意,過失を要する。しかし,第一審被告が第一審原告らとの雇用契約を締結するに至らなかったことについて,第一審被告には故意,過失がない。それは,補助参加人により一方的に保育業務の委託契約が破棄されたことに起因する。もっぱら補助参加人に責任がある。
6 同6の事実について
(1) 同(1)ないし(3)を争う。
(2) 第一審原告三谷は3か月間失業保険を受け,平成11年9月には再就職をした。本件解雇により精神的な苦痛を受けたことはない。
(3) 第一審原告西村は平成11年5月末まで仕事をしていたし,同年9月からは海外留学をしている。実質的な損害はない。
7 同7の主張を争う。
(1) 第一審原告西村は上記6(3)のとおり勤務したりしていた。このことに触れずに,12か月間の賃金請求をすることは信義則に反する。
(2) また,時機に遅れた攻撃防御方法であり却下されるべきである。
三 第一審被告(抗弁)(解雇の違法関係)
1 条件付雇用契約
(1) 第一審被告は平成10年11月2日に第一審原告三谷に対し,ヤクルトの保育ルームについて業務委託の話があるので,トレーナーとして手伝ってもらえないかと打診をした。その際,業務委託の話し合いも緒に着いたばかりで,将来ヤクルトとの間で正式に業務委託ができた場合のことであることも説明をした。第一審原告三谷の雇用が補助参加人との業務委託の成立が前提であるとの話をし,同第一審原告もその旨十分理解をしていた。
また,平成11年2月22日,第一審原告三谷に対し,ヤクルト側の入所申込書(<証拠略>),ヤクルトミルミル保育ルーム・保母業務要領(<証拠略>),保育業務委託内容(<証拠略>)を交付した。これらの資料からも明らかなように,第一審被告が行う第一審原告らの雇用は,業務委託が成立したことを条件とするものであった。第一審原告三谷もこれを十分承知していた。
(2) 第一審被告代表者は,平成11年1月ころ,第一審原告西村に対し,ヤクルトから業務委託を受け新規の保育事業を行うのでその仕事を手伝って欲しい趣旨の手紙を出した。そして,同年1月20日ころ第一審原告西村に対し口頭でヤクルトの保育ルームの概略を説明し,業務委託契約が成立したときには,是非とも手伝って欲しい旨話をした。したがって,第一審原告西村も,この雇用が補助参加人との業務委託の成立が前提条件であることを十分承知していた。
第一審被告は,平成11年2月22日,第一審原告西村にもヤクルト側の入所申込書,ヤクルトミルミル保育ルーム・保母業務要領,保育業務委託内容を交付した。このことからも,将来ヤクルトとの業務委託が成立した場合の募集であることが明らかである。
(3) 仮に第一審被告と第一審原告らとの間で雇用に関する合意が成立したとしても,それは予約又は採用内定に止まるものである。そうでなくとも,補助参加人との業務委託契約の成立を停止条件とするものか,その不成立を解除条件とするものである。
2 条件成就等
(1) 第一審被告と補助参加人との業務委託契約は,平成11年2月25日ころにはおおむね了解点に達し,同年3月30日には契約書を取り交わす予定であった。しかし,補助参加人から突如として業務委託契約を白紙撤回する旨を通告され,業務委託契約の締結に至らなかった。
(2) これにより第一審被告の新規事業は不可能となった。第一審原告らに対する雇用契約の予約又はその内定を取り消すについて,社会通念上相当な事由がある。
(3) 第一審原告らとの雇用契約は停止条件の成就により不成立に終わったか,解除条件により消滅した。また,そうではなくても,本件解雇通告には合理的な理由がある。
四 第一審被告(抗弁)(契約締結上の過失関係)
1 帰責事由の不存在(債務不履行に関し)
契約締結上の過失を原因とする不法行為に基づく損害賠償義務を肯定するには,加害者の故意,過失を要する。しかし,第一審被告が第一審原告らとの雇用契約を締結するに至らなかったことについて,第一審被告には故意,過失がない。それは,補助参加人から一方的に保育業務の委託契約が破棄されたことに起因する。これはもっぱら補助参加人の責任によるものである。
2 過失相殺
第一審原告らは,保母の経験者であり,勤務経験も長い。第一審被告がヤクルト保育ルームの業務の委託を受けるには,大量の保母の解雇,新規保母の採用等が必要となる。これらが解決しなければ,第一審被告による雇用がないことを知っていたはずである。これを知らないとすれば,知らないことに重大な過失がある。損害額の算定においてはこれを考慮して過失相殺すべきである。
五 第一審原告ら(三の抗弁に対する認否)
1 同抗弁1の事実ついて
第一審原告らと第一審被告との雇用契約が条件付であることを否認する。
(1) 同(1)のうち,次の事実を認め,その余を否認する。
ア 第一審被告代表者が平成10年11月2日に第一審原告三谷と面談した。
イ 第一審被告代表者が平成11年2月22日に第一審原告三谷に対し,ヤクルト側の入所申込書(<証拠略>),ヤクルトミルミル保育ルーム・保母業務要領(<証拠略>),保育業務委託内容(<証拠略>)を交付した。
(2) 同(2)のうち,次の事実を認め,その余を否認する。
ア 第一審被告代表者が平成11年1月20日に第一審原告西村と面談した。
イ 第一審被告代表者が平成11年2月22日に第一審原告西村に対し,ヤクルト側の入所申込書(<証拠略>),ヤクルトミルミル保育ルーム・保母業務要領(<証拠略>),保育業務委託内容(<証拠略>)を交付した。
(3) 同(3)を争う。
2 同2の事実について
上記「条件」が成就したとの主張を争う。
(1) 同(1)は知らない。
(2) 同(2)(3)を争う。
六 第一審原告ら(四の抗弁に対する認否)
いずれも争う。
理由
第一事実の確定
一 争いのない事実
1 請求原因1(3)の事実は第一審原告らと第一審被告との間で争いがない。
2 以下の事実は第一審原告三谷と第一審被告との間で争いがない。
(1) 第一審被告代表者は平成11年3月27日に第一審原告三谷に対し雇入通知表(<証拠略>)を交付した。
(2) 第一審被告代表者は同年4月6日に第一審原告三谷に対し「ヤクルトから断られたので,申し訳ないがこのお話はなかったことにして下さい。」と述べた。
(3) 第一審原告三谷は平成11年に90日分の失業保険の給付を受け,同年9月に再就職した。
(4) 第一審被告代表者は平成10年11月2日に第一審原告三谷と面談した。
(5) 第一審被告代表者は平成11年2月22日に第一審原告三谷に対し,ヤクルト側の入所申込書(<証拠略>),ヤクルトミルミル保育ルーム・保母業務要領(<証拠略>),保育業務委託内容(<証拠略>)を交付した。
3 以下の事実は第一審原告西村と第一審被告との間で争いがない。
(1) 第一審被告代表者は平成11年3月27日に第一審原告西村に対し雇入通知表(<証拠略>)を交付した。
(2) 第一審被告代表者は同月8日に第一審原告西村に対し「ヤクルトから断られたので,この話はなくなった。」と述べた。
(3) 第一審被告代表者は平成11年1月20日に第一審原告西村と面談した。
(4) 第一審被告代表者は平成11年2月22日に第一審原告西村に対し,ヤクルト側の入所申込書(<証拠略>),ヤクルトミルミル保育ルーム・保母業務要領(<証拠略>),保育業務委託内容(<証拠略>)を交付した。
二 事実の認定
証拠(<証拠・人証略>)並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
1 当事者
(1) 第一審原告三谷
同第一審原告は昭和43年2月24日生で,平成10年9月ころは栗生幼稚園に勤務していた。同年9月及び10月には,同幼稚園から手取月額として25万7138円(本俸21万円,賃金総額30万2000円)の賃金を得ていた。
(2) 第一審原告西村
同第一審原告は昭和39年10月10日生れで,浪速短期大学保育科を出て,平成11年2月ころは実兄の経営する有限会社小畑工務店に勤務していた。同年2月及び3月には手取額17万円前後の賃金を得ていた。
(3) 第一審被告は,平成10年2月9日に資本金300万円で設立された有限会社である。その目的は,請求原因1(3)記載のとおりである。福森均(以下,福森という。)がその代表取締役で,福森三代子がその取締役である。
第一審被告は,事業として,フランチャイズ方式で園長を募集する方法で大阪近辺で小規模な無認可保育所(託児所)を経営している。
福森は,第一審被告設立以前には,同種事業を行う「ちびっこらんど」の大阪支部の支部長として託児所の運営等の仕事を行っていた。
2 第一審原告らの求職活動
(1) 第一審原告三谷について
ア 第一審原告三谷は,平成10年4月から大阪府箕面市にある栗生幼稚園に勤め始めたが,同年9月ころから別の勤務先を探していた。同月末ころ新聞広告を見て,第一審被告の事務所を訪れたことがあった。
同年10月中に,第一審原告三谷は,友人のA(以下,Aという。)とともに2度ほど第一審被告の事務所を訪れた。
イ 第一審原告三谷とAは同年11月2日に福森からの求めで,第一審被告の事務所を訪れた。そこで,福森から「ヤクルトの保育ルームのトレーナーとして勤務しないか。」との申入を受けた。福森は,それまでの話し合いで,2人が栗生幼稚園に勤めていることを知っていたが,2人に対し,ヤクルトと業務提携して,現在ヤクルトがヤクルトレディーらのために行っている託児所の運営を引き継ぐことになったと話した。その際,福森は,勤務条件として「勤務時間は,午前8時30分から午後3時30分まで。月給25万円」との説明もした。
第一審原告三谷とAは,福森の申入をおおむね承諾すると答えた。
ウ これより先の同年10月30日ころ第一審原告三谷は栗生幼稚園に対し平成11年3月限りで退職する旨の届を提出した。同園長は,ただちには了承をせず,一応預かるとして退職届を受け取った。
第一審原告三谷は,第一審被告からの上記申込があったので,平成10年11月初旬に栗生幼稚園に対し退職の意向を再度伝え,結局その承諾を得た。
エ その後,Aは,妊娠していることが判明し,平成11年1月初旬ころ第一審被告への就職の話を断った。
オ 第一審原告三谷は,その後,福森に対し,雇用条件を記載した書面を欲しいなどと連絡した。福森からは,事務所に来るように言われた。
(2) 第一審原告西村について
ア 第一審原告西村は,平成9年3月ころ前示「ちびっこランド」が運営する保育園(託児所)の募集広告を見て,面接に行った。そのとき,「ちびっこランド」大阪支部の支部長であったのが福森であった。
イ 第一審原告西村は,平成11年1月10日ころ福森から手紙を受け取った。それには福森が「ちびっこランド」から独立したことや,新規事業展開で企業と業務提携をして保育事業を行うので,是非仕事を紹介したいなどの記載があった。
ウ 第一審原告西村は,同年1月20日に第一審被告の事務所を訪れ,福森と面談した。その際,福森は同第一審原告に対して前示(1)イと同様の説明をした。そのうえ,その雇用の条件として「基本給は15万円,職務手当は10万円で合計が25万円。交通費は1万円まで支給。勤務時間は午前8時30分から午後3時30分まで」などと言った。
オ 第一審原告西村は,同年1月30日に電話で,残業手当,ボーナス,土曜日の勤務などの雇用条件の確認をした。
カ 第一審原告西村は,そのころ浪速短期大学附属幼稚園から同園の教諭として働かないかとの誘いを受けていた。同第一審原告はいずれに就職するか悩んだ末,同年2月8日に恩師であるB教授に相談した。B教授からは,安定している浪速短期大学附属幼稚園の教諭の方がいいのではないかという助言を受けた。
3 第一審原告らと第一審被告との折衝の経過
(1) 第一審原告らは,同年2月22日に第一審被告の事務所を訪れ,ヤクルト保育ルームの資料(<証拠略>),わいわいランドの業務内容に関する資料(<証拠略>)を受け取った。
(2) 第一審原告らは,同年3月27日に第一審被告の事務所を訪れた。そのとき,福森から「雇用期間 期間の定めなし。仕事内容 保母及びトレーナー。始業就(ママ)業時刻 午前8時30分から午後6時,賃金 基本賃金10万円,諸手当14万円」などの記載のある雇入通知表(<証拠略>)を手渡された。また,ヤクルト保育ルーム併設営業所の一覧表と各保育ルームの巡回見学等の予定が記載された4月の予定表(<証拠略>)も渡された。
(3) 第一審原告三谷は,その際,同年4月5日から勤務すると伝え,福森の承諾を得た。
(4) 第一審原告西村は,その際,福森に対し雇用条件が従来のものと違うと指摘した。しかし,福森は取り合わなかった。
また,第一審原告西村は,そのころ同年4月から仏教大学の通信講座を受講する希望を持っていた。福森から以前聞いていたとおり,第一審被告の勤務終了時間が午後3時30分であれば,通信講座の受講が可能であった。ところが,雇入通知表には勤務終了時間が午後6時とあった。そこで,通信講座との時間調整をするとして,27日には「考えさせて欲しい。」と答えた。
(5) 第一審原告らは翌28日の第一審被告の園長会議に出席した。その席で配布された名簿(<証拠略>)には,トレーナーとして第一審原告らの氏名が記載されていた。福森は,同席上,園長らに対して「トレーナーの三谷と西村です」と紹介した。
(6) 第一審原告三谷は,同年3月30日まで栗生幼稚園に勤務し,同日限りで同幼稚園を退職した。
同第一審原告は,同年4月5日に福森に電話をしたところ,同人から「明日から来て欲しい。」と言われた。そこで,翌6日に第一審被告の事務所に行った。ところが,福森から「ヤクルトから断られたので,申し訳ないがこのお話はなかったことにして下さい。」と言われた。結局,第一審原告三谷は第一審被告の保育所で勤務せずに終わった。
(7) 他方,第一審原告西村は,同年3月30日にも,福森に電話をし,給料等を確認する電話をした。同年4月1日からは勤務ができないこと,勤務開始日については後日連絡するなどと伝えた。
同第一審原告は,そのころには当時の雇主である兄に対し有限会社小畑工務店を退職する意向を話していた。同会社は同年4月からの新たな事務職員を採用した。また,同第一審原告はそのころまでには浪速短期大学附属幼稚園からの誘いの話も断っている。
(8) 第一審原告西村は,同年4月6日に第一審原告三谷から電話で,第一審被告との雇用の話はないことにしてくれと福森から言われた,と聞いた。その後,福森に電話をしたが,福森からできるだけ早く来て欲しいと言われた。そこで,4月8日に第一審被告の事務所に行ったところ,福森から「ヤクルトから断られたので,この話はなくなった。」と言われた。結局,第一審原告西村も第一審被告で働く機会がなかった。
4 その後の第一審原告らの勤務及び収入の状況
(1) 第一審原告三谷
ア 第一審原告三谷は平成11年9月まで職を得ることができなかった。そのため90日分の雇用保険金合計55万5,300円を受給した(<証拠略>)。
イ 第一審原告三谷は平成11年9月に職を得て,同月から平成12年3月まで手取月額18万円余の賃金を得ている(<証拠略>)。
(2) 第一審原告西村
ア 第一審原告西村は,平成11年5月まで有限会社小畑工務店で働いた。同年4月には手取月額16万4,480円を得た。同年5月には同10万3,990円を得た。
イ しかし,有限会社小畑工務店は,第一審原告西村からの退職の申出にしたがい,同年4月からの同第一審原告の後任事務員を採用した。そのため,同第一審原告は同年5月末限りで同会社を退職した。
5 第一審被告と補助参加人との折衝の経過
(1) 福森は,平成10年10月5日に補助参加人の常務取締役竹田洋から同社のヤクルトレディーに対する福利厚生施設である保育ルームについて,業務委託を受けてもらえないかとの話を受けた。
(2) 補助参加人は,その当時,14個の保育ルームを設置し,従業員の子供(幼児及び児童)約200名を保母約55名で保育していた。補助参加人は,その当時の会社とその従業員の負担を軽くできる場合,当時雇用中の保母の処遇について補助参加人,委託先の会社,保母の三者間で合意できれば,保育所業務を他に委託する方針でいた。
補助参加人は,その方針を第一審被告に伝え,同年10月ころから補助参加人とその従業員の負担を軽減できるかどうかの折衝を第一審被告との間で始めた。
一方,福森は,これが設立間もない第一審被告にとって大きな事業になるとの認識で,積極的に取り組んだ。
(3) 補助参加人は,同年12月24日に第一審被告に対し,ヤクルトの保育ルーム運営の現状及び委託にあたって解決すべき点を記載した「保育ルーム運営の改善計画案」(<証拠略>)を渡し,補助参加人及びその従業員の保育関係負担額等を説明した。
特に,平成10年9月当時の補助参加人及びその従業員の保育関係費用の総額は月額839万5,000円,うち補助参加人の負担は745万5,000円であると説明した。
これに対し,第一審被告は補助参加人に対し平成11年2月4日付の保育業務委託企画書(<証拠略>)を交付した。この中で,児童数を265名とした場合の基本委託料を月額約800万円,うち補助参加人の負担は同約540万円とした。
(4) 第一審被告案(<証拠略>)と平成11年1月の補助参加人の実績と比較すると,第一審被告案の場合,補助参加人の負担額が実績より23万円程度の増加となった。そのころ補助参加人で検討していた改定案と比較すると,同様に146万円程度の負担増となった(<証拠略>)。
そこで,第一審被告は,基本委託金額を月額600万円とする案(<証拠略>)を示し,同年3月11日に補助参加人と検討した。
その結果,平成10年11月から平成11年1月までの実績と第一審被告の提案を比較すると,補助参加人の提案の場合,補助参加人の負担額が1万2,000円ほどにとどまった(<証拠略>)。
(5) 福森は,基本委託金額を月額600万円とする案に基づいて補助参加人との委託契約が成立するものと考えていた。
(6) しかし,補助参加人は,第一審被告から,補助参加人及びその従業員の保育関係の負担が従来の額より軽減される提案がされず,今後もその見込みがないとして,平成11年3月30日に福森にこの旨を伝え,保育所の業務委託契約交渉を打ち切るに至った。
第二主位的請求原因について
一 第一審原告三谷と第一審被告との雇用契約の成否について
1 平成10年11月2日の同契約の成否
前示のとおり,第一審被告は同日第一審原告三谷に雇用条件を提示し,第一審原告三谷もAとともにこれをおおむね承諾した。しかし,第一審原告三谷はその当時,勤務先であった栗生幼稚園を平成11年3月末に退職すると明確には決めていなかった。したがって,第一審被告との雇用契約を正式には結べない状況にあった。その後,同第一審原告が第一審被告に対し雇用条件を記載した書画を求めたことや,Aが妊娠を理由に第一審被告との契約を断ったことからしても,平成10年11月2日の時点では法的な拘束力のある合意に至っていたとはいえず,雇用契約が成立したものとは認められない。
2 平成11年3月27日の契約の成否について
福森が同日に第一審原告三谷に雇入通知票(<証拠略>)を渡し,これを見て同第一審原告が同年4月5日から第一審被告で働くと伝え,福森から承諾を得たことは前示認定のとおりである。これにより第一審被告と第一審原告三谷は期限の定のない雇用契約を結んだものと認められる。
3 条件付契約の成否について
第一審被告は,第一審原告三谷との雇用契約が条件付であったと主張する。
しかし,前示認定事実及び第一審被告の代表者尋問の結果及び(証拠略)(以下,福森の供述という。)に照らしても,福森は平成11年3月30日まで補助参加人との保育業務の委託契約が成立するものと信じていたことが認められる。その委託契約が成立することを条件として雇用すると第一審原告らに伝えたとの福森の供述は,福森自身の気持,期待にも副わないし,第一審原告らの対応やその供述内容にかんがみても,信用することができない。
第一審被告の上記主張は採用できない。
二 第一審原告西村と第一審被告との雇用契約の成否について
1 平成11年2月1日の同契約の成否
第一審原告西村は,平成11年1月20日に第一審被告から雇用の申込を受け,平成11年2月1日にこれを承諾したことにより,雇用契約が成立したと主張し,(証拠略)(陳述書)及び同第一審原告本人尋問中にこの主張に副う部分がある。
これらの第一審原告西村の供述等は,次のとおり,信用することができない。そのころ同第一審原告が浪速短期大学附属幼稚園と第一審被告のいずれに就職するかを決めかね悩んだ末,同年2月8日に恩師に相談をしていたのである。このことからして,その前に第一審被告との雇用契約を結んでいたというには大きな疑問がある。また,その後の前示折衝の経過に照らしても到底信用することができない。他に上記主張事実を認めるに足る的確な証拠がない。
2 平成11年3月27日の契約の成否について
第一審原告西村は,同日第一審被告との雇用契約が成立した旨主張する。しかし,この事実に副うかのような(証拠略)は,(証拠略),同第一審原告の供述の内容とも整合せず,前示認定の事実に照らしても採用することはできない。特に,第一審原告西村は同日明確に「考えさせて欲しい。」として合意を留保しているのである。
確かに,第一審原告西村はそのころには,有限会社小畑工務店を経営する兄に同会社をやめると伝えていたものと認められる。また,浪速短期大学附属幼稚園からの誘いの話も断っていたことも前示のとおりである。しかし,同第一審原告は,なお,通信講座や有限会社小畑工務店の引継の関係から,前示のとおり確定的な回答を留保していたと認められるのである。したがって,有限会社小畑工務店をやめる意向であったことなどは,上記認定を左右するには足りない。
3 平成11年4月6日の契約の成否について
第一審原告西村は,同日福森に対し電話で,12日から働くと伝えて,第一審被告との雇用契約を締結したと主張し,これに副う(証拠略)が存在する。
これらの(証拠略)は,(証拠略)(12日から働くとの記載はない。)に照らし疑問がある。また,12日から,働くと伝えたら,福森は分り(ママ)ました(<証拠略>)とか,もう少し早く来て欲しいと言った(<証拠略>)とする。
しかし,第一審原告西村が福森に電話をする前に,福森は第一審原告らを雇用する意思をなくしていたものと認められる。そのことを第一審原告西村も第一審原告三谷からの電話で知っていた。にもかかわらず,福森が,12日から出勤すると伝えたことに対し肯定的な答えをしたとの部分は,到底信用することはできない。むしろ,以上の各(証拠略)及び第一審原告西村及び第一審被告代表者の各尋問結果からして,第一審原告西村が12日に単に行くと伝えたのに対し,福森から早くきて欲しいとの要請をしたにすぎないと認めるのが相当である。これを超えて両者間に雇用契約が成立したことまでは認められない。
三 解雇の違法性の有無について
1 使用者は,被用者との雇用契約が期限の定のないものである場合,権利の濫用等の場合を除いて,解雇の意思表示によって雇用契約を終了させることができる。
2 第一審被告は,第一審原告三谷と期限の定のない雇用契約を結び,そのなかで同第一審原告の職種等として補助参加人等からの委託に基づくヤクルト保育ルームでの保母及びトレーナーとする旨を合意したことが認められる。
ところが,前示認定のとおり,補助参加人との保育業務委託契約が成立するに至らなかったため,第一審原告三谷に提供する職場を確保することができなくなった。そこで,第一審被告は平成11年4月6日に第一審原告三谷を解雇する旨の意思表示(本件解雇)をしたものである。
3 本件解雇は,予定していた補助参加人の保育所における業務を第一審被告が委託を受けることができなくなったという客観的な事実を理由とするものである。第一審原告三谷もそこを職場とすることを予定して雇用契約を結んだものである。したがって,本件解雇は,やむをえないものであって,権利の濫用や信義則に違反するとはいえない。
4 この点について,第一審原告三谷は以下のとおり主張する。第一審被告が同第一審原告を雇用する際にヤクルト保育ルームの設立が確実であるように説明した。そのため,第一審原告三谷は,第一審被告に確実に雇用され続けるものと信じて,勤務していた栗生幼稚園を退職し,第一審被告と雇用契約を締結した。ところが,第一審被告は突然本件解雇を通告したことは信義則に反し,解雇権の濫用にあたる,と。
しかし,第一審原告三谷のこの主張は,解雇自体の不当をいうのではない。雇用契約を結ばせるに至った過程における第一審被告の不当をいうにすぎない。この点は別に評価する(後に述べる。)のが相当であり,解雇を違法とする根拠にはならない。
第一審原告三谷のこの主張は採用できない。
四 解雇予告手当の請求について
1 第一審被告は,第一審原告三谷に対する本件解雇をするにあたり30日以上前にその予告をしたとは認められない。したがって,その解雇通知は,即時解雇としての効力を生じないが,特段の事情がない限り,通知後労働基準法20条1項所定の30日の期間を経過したときに解雇の効力を生ずるものである(最判昭和35・3・11民集14巻3号403頁参照)。したがつて,第一審被告に対し労働基準法114条所定の付加金請求権はともかく,同法20条1項に基づく同条項所定の30日分以上の平均賃金相当の解雇予告手当の支払請求権が生ずるわけではない。
この場合,同第一審原告は,本件解雇の生ずるまでの期間の賃金請求をなすことができる(民法413条,536条2項)。
2 以上によると,第一審原告三谷の第一審被告に対する解雇予告手当の支払請求は理由がなく棄却を免れない。しかし,同第一審原告は第一審被告に対し平成11年4月6日からの1か月分の賃金24万円の支払を求めることができる。
第三予備的損害賠償請求(契約締結過程の過失若しくは信義則上の説明義務違反等に基づく債務不履行又は不法行為の成否)について
一 注意義務の存否及びその違反について
1 前示認定事実及び及び(ママ)前掲の各証拠並びに弁論の全趣旨によれば,第一審被告と第一審原告らとの折衝の経過の大要は以下のとおりである。
(1) 福森は,平成10年10月に補助参加人との保育業務委託に関する交渉を始めた。福森はこの交渉が始まったばかりの平成10年末ころに当時栗生幼稚園で働いていた第一審原告三谷に来訪を求めた。これに応じて同年11月2日に来訪した同第一審原告に対し,補助参加人との業務委託契約ができるものとして,ヤクルト保育ルームでの仕事をしないかと申し入れた。そのため,その後第一審原告三谷は栗生幼稚園を平成11年3月末で退職することを決め,同幼稚園からの承諾も得た。
(2) 福森は,第一審原告西村に対しても手紙で同様のことを伝え,平成11年1月20日に第一審原告三谷に対すると同じことを説明して第一審被告での仕事を勧めた。その後も,第一審原告西村と雇用条件等についてやりとりを続けた。そのため,第一審原告西村は誘いを受けていた浪速短期大学附属幼稚園での就職の話との選択に迷い始めた。
(3) 福森は,同年2月22日には第一審原告らに対しヤクルト保育ルームの資料等を渡し,同年3月27日には雇入通知書,ヤクルト保育ルーム併設営業所の一覧表と各保育ルームの巡回見学等の予定を記載した4月の予定表を渡した。
そこで,第一審原告三谷は,第一審被告の下で相当期間働くことができると信頼して雇用契約を結び,同年3月末限りで栗生幼稚園を退職した。
また,第一審原告西村は,通信講座の受講等との調整のなめに第一審被告との雇用契約の締結には至っていなかった。しかし,第一審被告と雇用契約を結んだうえ相当期間働くことができると信頼してその準備として,浪速短期大学附属幼稚園での就職の話を断った。また,その当時勤めていた有限会社小畑商(ママ)店にも退職の意向を伝えた。
(4) 福森は,最初に第一審原告三谷に対してヤクルト保育ルームでの仕事を勧めたときから,第一審原告らとの折衝の最後である平成11年3月30日までの間,補助参加人との業務委託の交渉内容及びその経過が前示第一の二5のようなものであることを説明しなかった。むしろこの業務委託契約が成立するものとしてその場合の人員の確保をする説明に終始した。
したがって,第一審原告らからすると,第一審被告と補助参加人の業務委託契約が,補助参加人及びその従業員の負担の軽減ばかりではなく,補助参加人が雇用する保母らの処遇についての合意を必要とするものであることなどを知る由もなかった。
2 以上の諸事実に基づいて次のとおり判断する。
(1) 福森は,保育所を運営する第一審被告の代表者として,第一審原告らに積極的に働きかけ,具体的な雇用条件を提示して第一審被告との雇用契約を結ぶことを勧誘した。第一審原告らは,その結果,福森の言葉を信頼し,第一審被告と雇用契約を結んだうえ,相当期間保母等として勤務を続けることができるものと期待した。
(2) 雇用契約の性質上,労務に服する第一審原告らが,第一審被告と雇用契約を結ぼうとする場合は,勤務先があるときはこれを解約し,また転職予定があってもこれを断念しなければならない。
福森はこのことを知っていたか,知ることができたはずである。
(3) 雇用によって被用者が得る賃金は生活の糧であることが通常であることにもかんがみると,福森は,第一審原告らの信頼に答(ママ)えて,自らが示した雇用条件をもって第一審原告らの雇用を実現し雇用を続けることができるよう配慮すべき信義則上の注意義務があったというべきである。また,副次的には第一審原告らが福森を信頼したことによって発生することのある損害を抑止するために,雇用の実現,継続に関係する客観的な事情を説明する義務もあったということができる。
(4) ところが,福森は補助参加人との保育業務の委託契約の折衝当初からこれが成立するものと誤って判断した。そのうえ,その折衝経過及び内容を第一審原告らに説明することなく,業務委託契約の成立があるものとして第一審被告との雇用契約を勧誘した。その結果,第一審原告三谷については契約を締結させたものの就労する機会もなく失職させ,同西村については雇用契約を締結することなく失職させたものである。
第一審被告に帰責事由がないとの第一審被告の主張は採用できない。
(5) 以上の福森の一連の行為は,全体としてこれをみると,第一審原告らが雇用の場を得て賃金を得ることができた法的地位を違法に侵害した不法行為にあたるものというべきである。したがって,福森が代表者の地位にある第一審被告は民法709条,44条1項により,これと相当因果関係にある第一審原告らの損害を賠償する義務がある。
三 損害について
1 第一審原告三谷について
(1) 財産的損害
ア 相当因果関係に立つ損害の範囲
前示認定の第一審原告三谷の再就職状況や通常再就職に要する期間(数か月単位であろう。),雇用保険法における一般被保険者の求職者給付中の基本手当の受給資格としての最低被保険者期間が6か月であること(最低限度の就職期間と評価することができる。)にかんがみると,第一審原告三谷が第一審被告の不法行為によって第一審被告から賃金を得ることができなかった期間のうち,その5か月分(同第一審原告は前示のとおり平成11年4月分の賃金の支払を受けることができるから,これとあわせて6か月分となる。)を不法行為と相当因果関係に立つと認めるのが相当である。
イ 損害額と損害の填補
(ア) 損害額
第一審原告三谷が第一審被告から得るべきであった月額24万円に5か月を掛けて得られる120万円である。
(イ) 損害の填補
a 雇用保険金の55万5,300円。
b 平成11年9月に得た収入額の18万4,279円(<証拠略>)。
(ウ) 損害額 46万0,421円。
(2) 精神的損害 50万円。
ア 以上で明らかなように,特に第一審原告らは,本件解雇又は雇用拒絶の前後を通じて,福森から第一審被告と補助参加人との折衝経過等について説明を受けなかった。そのため自らが第一審被告との雇用の実現又は継続をできなかったことの本当の理由を知ることができなかった。さらに,本件訴訟の過程においても,第一審被告が補助参加人に責任があるなどとの自らの考えに固執して,第一審原告らに対する責任を自覚するところがない。これらの点からして,第一審原告らが受けた精神的な苦痛は著しく大きいことが容易に推認される。
イ 第一審原告三谷は,そのうえ第一審被告との雇用契約を結びながら,解雇される憂き目にあったことをもあわせると,その慰藉料額は50万円とするのが相当である。
(3) 弁護士費用 20万円。
本件訴訟の経過,特に控訴審における訴訟追行までをも余儀なくされたことのほか,認容額等にかんがみ,弁護士費用損害を20万円と算定するのが相当である。
(4) 総損害額 116万0,421円。
2 第一審原告西村について
(1) 財産的損害
ア 上記1(1)アで説示した点に加え,第一審原告西村が平成11年6月から現実に職を失ったことを考慮すると,同第一審原告については,第一審被告の不法行為によって第一審被告に就職して賃金を得ることができなかった期間のうち,その4か月分(同第一審原告は平成11年4月及び5月分の賃金の支払を受けており,これとあわせて6か月分となる。)を不法行為と相当因果関係に立つものと認めるのが相当である。
イ 損害額
第一審原告西村が第一審被告から得るべきであった月額24万円に4か月を掛けて得られる96万円である。
(2) 精神的損害 40万円。
1(2)アで述べたところなどからして,第一審原告西村の慰藉料額は40万円とするのが相当である。
(3) 弁護士費用 20万円。
第一審原告三谷と同様,その弁護士費用損害を20万円と算定する。
(4) 総損害額 156万円。
四 過失相殺について
1 第一審被告は,次のような点を指摘して過失相殺をすべきであると主張する。
第一審被告がヤクルト保育ルームの業務の委託を受けるには,大量の保母の解雇,新規保母の採用等が必要となる。これらが解決しなければ,第一審被告による雇用がないことを知っていたはずである。これを知らないとすれば,知らないことに重大な過失がある,と。
2 しかし,前示認定のとおり,第一審被告と補助参加人との保育業務委託契約が不成立に終わった原因は,第一審被告において,補助参加人及びその従業員の負担費用の軽減となる提案をすることができなかったことにある。上記1の点は,これを検討するに至らなかったのである。したがって,上記1の点をとらえて第一審原告らに過失があるというのはあたらない。
3 しかも,福森自身も,現在雇用中の保母の処遇等の問題を補助参加人側の問題として軽視し(同人の尋問結果),この間の事情を第一審原告らに説明していなかったのである。この点からしても,第一審原告らが,以上のような事情を知らず,第一審被告との雇用契約の締結,継続を信頼したことについて,賠償額を斟酌すべき程度の落ち度があるとは到底いえない。
第一審被告のこの点の主張も採用できない。
第四予備的賃金請求について
一 第一審原告らは,予備的に第一審被告との雇用契約の存続を主張し,次の各賃金の支払を請求している。
1 第一審原告三谷 平成11年4月から5か月分の125万円。
2 第一審原告西村 平成11年4月から12か月分の300万円。
二 しかし,第一審原告西村は被控訴人と雇用契約を結ぶに至っていない。したがって,第一審被告に対し賃金請求をすることはできない。
三 第一審原告三谷は,前示第二の四で説示したとおり,第一審被告に対し賃金請求のうち平成11年4月6日からの1か月分の賃金24万円の支払を求めることができる。
第一審被告は,同第一審原告の賃金請求が時機に遅れたと(ママ)ものと主張するが,この請求によって審理に遅延が生じたとは認められない。また,この請求が信義則に反するとも認められない。
したがって,第一審原告三谷の賃金請求は24万円の支払を求める限度で理由がある。
第五結論
一 以上によって次の結論が得られる。
1 第一審被告は第一審原告三谷に対し次の金員の支払義務がある。
(1) 雇用契約に基づいて賃金24万円。
(2) 契約の締結,継続を信頼した同第一審原告に対する注意義務違反を理由とする不法行為に基づく損害賠償として
ア 116万0,421円。
イ 116万0,421円に対する不法行為日以降である平成11年4月7日から完済まで民法所定年5分の割合による遅延損害金。
2 第一審被告は第一審原告西村に対し次の金員の支払義務がある。
契約の締結,継続を信頼した同第一審原告に対する注意義務違反を理由とする不法行為に基づく損害賠償として
(1) 156万円。
(2) 156万円に対する不法行為日以降である平成11年4月9日から完済まで民法所定年5分の割合による遅延損害金。
二 以上によると,第一審原告らの請求の当否等について次のとおり判断すべきことになる。
1 第一審原告三谷の解雇予告手当の請求はこれを棄却すべきである。この点においては原判決は相当ではなく,第一審被告の控訴は理由がある。
2 第一審原告西村の解雇予告手当の請求はこれを棄却すべきである。この点においては原判決は正当であって,第一審原告西村の控訴は失当である。
3 第一審原告らの主位的損害賠償の請求はこれを棄却すべきである。この点においては原判決は相当ではない。第一審被告の控訴は理由があり,第一審原告らの控訴は理由がない。
4 第一審原告らの当審における予備的損害賠償及び賃金請求は一部理由があり,前示一の限度でこれを認容すべきである。
三 よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 吉川義春 裁判官 大出晃之 裁判官 紙浦健二)