大阪高等裁判所 平成12年(ネ)2624号 判決 2001年9月27日
主文
1 原判決を次のとおり変更する。
(1) 被控訴人Eは,控訴人に対して,211万0644円及びこれに対する平成7年2月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被控訴人Fは,控訴人に対して,255万6332円及びこれに対する平成7年2月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,第1,2審を通じて6分し,その1を被控訴人らの負担とし,その余を控訴人の負担とする。
3 この判決は,第1項(1)(2)に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 (主位的請求)
(1) 被控訴人らは,控訴人に対して,連帯して,2760万9536円及びこれに対する平成7年2月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
3 (予備的請求1)
(1) 被控訴人らは,控訴人に対して,それぞれ,1030万4768円及びこれに対する平成7年2月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
4 (予備的請求2)
(1) 被控訴人Eは,控訴人に対して,2760万9536円及びこれに対する平成7年2月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人Eの負担とする。
5 仮執行宣言
第2事案の概要
次のとおり加除,訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」中の,「第二事案の概要」に記載のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決9頁5行目の「持帰った」を「持ち帰った」と改め,同6行目の「被告ら」の次に,「(被控訴人Fは同Eの息子)」を加える。
2 同14頁7行目の「求める」の次に「(予備的請求1)」を加える。
3 同15頁10行目の「被告E1」を「被控訴人E」と改め,同16頁2行目から3行目の「求める」の次に「(予備的請求2)」を加える。
4 同16頁5行目から同17頁2行目まで,及び同頁3行目の「被告G,」を削除する。
5 同19頁8行目の「においてへ」を「において」と改める。
第3判断
当裁判所は,控訴人の被控訴人らに対する各請求のうち,主文の範囲で予備的請求1を認容すべきものと判断する。その理由は,次のとおり訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」中の,「第三 判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決28頁4行目の「被告E」の前に「金融業等を営む有限会社の会長をしている」を加え,同31頁5行目の「この」を「の」と,同32頁4行目の「方途と」を「方途を」とそれぞれ改める。
2 同39頁10行目の「右の」から同40頁末行までを以下のとおり改める。
「ここにいう法律事件とは,法律上の権利義務に関して争いや疑義がある案件,又は新たな権利関係の発生する案件であり,法律事務とは,法律上の効果を発生,変更,確認する事項の処理を広く指称しているものと解される。
本件においては,被控訴人らは,H商事の倒産に連鎖して,控訴人等が財産を失うことを避けるため,債権者対策という金銭支払義務の範囲,方法等について争いを招き,正常な手続を採れば,いわゆる任意整理や倒産手続に移行するようなまさしく法律事件について(実際,H商事については,和議,破産手続が採られていた。),保証債務についての一部弁済,支払猶予,保全処分の取下げ等の債権者との個別交渉,競売された動産の買戻交渉,本件土地,建物の仮装の移転登記手続申請・管理委託契約の締結等法律上の効果を発生変更させるべき事務,すなわち法律事務を行っていたと言うことができる。
そして,被控訴人らは,H商事と控訴人の事務だけでなく,Jについても,手形の決済や不動産名義の変更を行っているのであり,その事務は広範であるし,事務の期間は本件土地,建物についてだけでも少なくとも1年5か月に及ぶ長期である(原判決のとおり,平成5年8月10日から同7年1月10日まで賃料が振り込みされている。)上,被控訴人らの利得も,以下のとおり(5頁参照)総額2128万1654円(被控訴人Eが1168万1654円,被控訴人Fが960万円である。)と高額である。したがって,被控訴人らの行為は反復継続していて業務性を帯びていると言うことができる(最高裁判所昭和50年4月4日判決・民集29巻4号317頁参照)。
そうすると,本件委任契約は,弁護士法72条に違反するものであり,同条には刑罰法規(同法77条)があることも考慮すると,同契約は公序良俗に反する無効なものと言うべきである(資産隠しの点を考慮するとなおさらである。)。
4 被控訴人らは,本件委任契約は,控訴人の強い要請に応じたものであるから,不当利得の返還請求をすることは,信義則に反し,権利の濫用になる旨主張する。しかしながら,原判決のとおり,被控訴人Eは,控訴人に対し,控訴人,I,J美容院の資産を債権者から守ってやるなどと告げており,被控訴人らの行った仮装の移転登記等の手法は,被控訴人ら及びその紹介したGの発案したものと考えられるから,控訴人に比べて,被控訴人らの不法性が低いとは到底言えず,控訴人の不当利得返還請求が信義則に反するとまでは言えない。
5 利得の範囲について
証拠(乙1,2の1ないし6,15ないし17,51ないし55,59ないし62,68,被控訴人F)によると,被控訴人らが,控訴人,J美容院,H商事の各債権者対策を行う過程で,控訴人,J美容院等の各所有不動産である6物件から合計1億0368万4313円の総収入があったこと(うち,2760万9536円が本件土地,建物からの収入であることは,原判決のとおりであり,乙59における本件土地,建物からの収入額2710万6707円との差額50万2829円を,乙59の収入総額に加えたものが1億0368万4313円である。),その中から,被控訴人Eに関しては,接待費として総額1168万1654円(乙62)が使用されたこと,被控訴人Fについては,人件費として総額960万円(乙16)が支払われたことを認めることができる。被控訴人Eに関する接待費は,使途が不明確で,被控訴人E個人の遊興費とみざるをえず,被控訴人Fの人件費は,被控訴人Fの収入になるものであり,少なくともこの分に関してはいずれも両被控訴人の利得と言うことができる。証拠中には(乙68,被控訴人E,被控訴人F等),被控訴人Eの使用した接待費については,控訴人一家を援助していたKと控訴人一家とを取り持つためのものであった旨の内容があるが,Kの陳述書(乙27)によると,Kはもともと控訴人一家と姻戚関係があり,むしろKが被控訴人Eを控訴人一家に紹介したことが認められ,被控訴人EがKを接待することには疑問があり,かつその額が多額に上ることからして,乙68等の上記証拠内容は信用することができない。
上記利得は,不動産6物件からの収入によるものであるから,本件土地,建物からの利得を案分比例して計算すると,次のとおりである(小数点以下切り捨て)。
E 1168万1654円×(2760万9536円÷1億0368万4313円)=311万0644円
F 960万円×(2760万9536円÷1億0368万4313円)=255万6332円
なお,本項冒頭に記載した証拠(乙1,59等)中には,不動産6物件からの総収入額よりも,総支出額が上回るとの内容があるが(例えば,乙59では総支出額1億2464万0938円),その支出内訳は不動産管理費用(清掃・ゴミ処理費,修繕費,地代等),金融機関への決済資金,租税公課を除けば,使途が不明確なものが多く,収入期間に比べて支出期間が1年程度長くなっているし,また,原判決のとおり,何らかの報酬を被控訴人らが得ることなく本件委任契約をしたとは到底考えられないのであり,損失が生じたまま長期間本件委任契約等を遂行したとするのも,契約の性質上不自然であるから,上記証拠内容をもって,被控訴人らに利得がないとすることは到底できない。」
3 同41頁1行目から同44頁5行目までを,以下のとおり改める。
「三 委任の引渡義務について前記のとおり,本件委任契約は,弁護士法違反,公序良俗違反により全部無効であるから,有効を前提とする委任の引渡義務(予備的請求2)については,判断する必要がない。
四 相殺について
証拠(乙19,控訴人)によると,被控訴人Eは,控訴人に対し,平成5年11月22日,100万円を貸し渡したことが認められる。被控訴人Eが,控訴人に対し,平成11年5月24日の原審第19回口頭弁論期日において,上記貸金返還請求権を自働債権とし,控訴人の本訴請求権を受働債権として,対当額で相殺する旨の意思表示をしたことは,当裁判所に顕著である。
したがって,被控訴人Eに対する本訴請求債権は,相殺により,100万円分が消滅した。」
第4結論
よって,これと異なる原判決は失当であり,本件控訴は一部理由があるから,原判決を変更することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 浅野正樹 裁判官 東畑良雄 裁判官 浅見宣義)