大阪高等裁判所 平成12年(ネ)266号 判決
主文
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人は、控訴人に対し、金二〇〇万円及びこれに対する平成一一年三月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
四 この判決の第二項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
主文同旨
二 控訴の趣旨に対する答弁
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二事案の概要
事案の概要は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」欄(三頁二行目から五頁九行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。
一 三頁四行目の「合意し」の次に「(以下「本件売買契約」という。)」を、七行目の「約定」の次に「(以下「本件約定」という。)」を各付加し、八行目の「金融機関からの借入れ」を「銀行、信用金庫等の金融機関からの借入れ(以下「銀行融資」ともいう。)」と訂正する。
二 四頁三行目から六行目までを次のとおり訂正する。
「二 事案の要旨
本件は、控訴人が、被控訴人に対し、本件売買契約は、銀行融資が不可能となったことにより、本件約定に基づき解約されたとして、手付金二〇〇万円の返還及びこれに対する催告の後である平成一一年三月六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。」
三 四頁七行目の「二」を「三」と訂正し、一〇行目から五頁初行までを次のとおり訂正する。
「控訴人の銀行融資の希望条件は、借入金額三三五〇万円、返済期間二五年というものであり、当時の予想金利は、年二・六二五パーセント程度であったので、毎月の元利返済額は、一五万二四〇四円となる見込みであり、控訴人と被控訴人は、これを銀行融資の条件とすることで合意した。
ところが、大阪信用金庫が最終的に承認した融資条件は、三〇〇〇万円を金利年二・二パーセント、返済期間二〇年で融資するというものであったので、毎月の返済額は一五万四〇〇〇円余りになり、そのほかに毎月三万円の積立預金が必要になる。さらに、被控訴人の提案による水都信用金庫からの二七〇万円の融資は、返済期間七年ということであったので、金利年二・二パーセントとしても毎月の返済額は三万四七一〇円となる。そうなると、毎月の返済額は、控訴人の当初予定していた一五万二〇〇〇円余りという金額より大幅に増えてしまう。しかも、それ以外に公的機関からの借入れの返済や駐車場代の出費が予想されるから、右の融資条件では、返済していくことが不可能である。したがって、本件は、銀行融資不可能の場合にあたるから、本件約定に基づき、本件売買契約は、無条件で解約となり、被控訴人は、手付金二〇〇万円を返還しなければならない。」
第三証拠
証拠関係は、原審及び当審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。
第四当裁判所の判断
一 当裁判所が認定した本件売買契約締結に至るまでの経緯及び締結後の経緯は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決「事実及び理由」の「第三 争点に対する判断」欄(六頁二行目から一一頁初行まで)記載のとおりであるから、これを引用する。
1 六頁六行目の「証人松本」の次に「由幸、弁論の全趣旨」を、九行目の「松本由幸」の次に「(以下「松本」という。)」を各付加する。
2 七頁二行目の「原告」の次に「、弁論の全趣旨」を、三行目の「使用するつもりであり、」の次に「その支払能力に鑑み、」を、末行の「甲四、」の次に「五、原審証人松本、」を各付加する。
3 八頁九行目の「松本にも」から九頁初行末尾までを「公的機関からの借入れに対する返済金を含め、現在店舗の家賃として支払っている月額約二〇万円と同額程度の返済金であれば支払える旨松本に説明したので、同人は、銀行からの融資額三三五〇万円、返済期間を二五年とすると、金利年二・六二五パーセントで、毎月の返済額が一五万円余となると計算して、大丈夫である旨答えた。したがって、公的機関からの借入れの返済額は、毎月五万円程度を予定していたことになる。」と訂正する。
4 九頁初行の「四、」の次に「五、」を、末行の「頼んだので、」を「頼み、被控訴人の方も売買契約を解約されたくなかったので、」を各付加する。
5 一〇頁六行目の「承認した。」の次に「この条件によれば、毎月の返済額は、一五万四〇〇〇円余りとなるが、これとは別に毎月三万円の積立預金が必要となる。」を、同行の「原告」の次に「、弁論の全趣旨」を、末行の「提案をした。」の次に「右水都信用金庫の融資条件は、金利年二・二パーセントで返済期間七年というもので、毎月の返済額は、三万円余となる。」を各付加する。
6 一一頁初行の「一、」を削除し、同行の「原告」の次に「、弁論の全趣旨」を付加する。
二 以上認定の事実に基づき、本件約定における「銀行融資不可能」の意味について検討する。
前記認定の事実によれば、控訴人は、被控訴人の従業員である松本に対し、融資額三三五〇万円を返済期間二五年、毎月の返済額が公的融資の返済金を含め、二〇万円程度となることを希望する旨述べ、これを受けて松本は、融資額三三五〇万円、返済期間を二五年とすると、金利年二・六二五パーセントで、毎月の返済額が一五万円余となると計算して、大丈夫である旨答えたものである。したがって、控訴人と被控訴人は、銀行から融資を受けるにあたっての融資条件として、右のような条件が念頭にあったものと認められる。もっとも、銀行の審査により、希望する条件と異なる融資条件が示される場合があることは、当然予想されるところであるから、右希望条件と寸分違わない融資条件でなければならないとまでは考えていなかったものと推認され、たとえ異なる融資条件が示されたとしても、控訴人の前記資金計画や支払能力に照らし、それが許容できる範囲の融資条件であれば、控訴人としても、銀行融資を受けて売買代金を支払う意思があったものと認められるが、右範囲を超えて大幅に異なる融資条件であった場合にまで、売買契約を維持する意思がないことは容易に推認できるところであり、このことは、被控訴人も了解していたものと認められる。
確かに、銀行融資の金額や返済条件について契約書に記載はないが、控訴人において、銀行からの融資を受ける場合、如何なる融資条件であっても売買契約を解約できないものと認識していたとは考え難く(たとえば、融資額が一〇〇〇万円とか二〇〇〇万円にとどまった場合あるいは融資額は三三五〇万円であっても、毎月の返済額が月額一五万円を大幅に上回る場合を想定すると、このような場合には、控訴人の前記資金計画や支払能力に照らし、売買代金の支払いあるいは融資の返済ができないことは、明らかである。)、このことは被控訴人の認識においても同様であったと考えられ、現に、控訴人は、大阪信用金庫が当初示した融資額三〇〇〇万円、返済期間一五年という条件に難色を示し、そのため松本が動いて被控訴人の取引銀行である関西銀行に融資を申し込んだものの、もっと条件が悪かったため、再度大阪信用金庫に融資を申し込んでいるのである。
以上のとおり、当事者間で、融資条件について右のような合意がなされていたものと認められるから、これによれば、本件約定における「銀行融資不可能」の場合とは、当事者が想定していた融資金額三三五〇万円、返済期間二五年、毎月の返済額が一五万円余程度の融資条件かそれと異なっても控訴人において許容できる範囲の異同であればこれに該当しないが、右範囲を超えた融資条件の場合は、これに該当すると解するのが相当である。
三 そこで、以上を前提に、本件が「銀行融資不可能の場合」にあたるかどうかについて検討する。
前記認定の事実によれば、平成一〇年一一月二〇日ころの時点において、大阪信用金庫から三〇〇〇万円、水都信用金庫から二七〇万円の融資が受けられる現実的可能性があり、かつ八〇万円は被控訴人が値引きをするということであったから、控訴人が当初予定していた銀行融資額三三五〇万円という金額はみたされていたといえる。
しかしながら、返済条件については、毎月の返済額が、積立金を含めると総額で約二二万円となり、控訴人が当初想定していた月額一五万円余という金額をかなり超えることになり、これに当初予定していた公的機関からの融資に対する返済額約五万円を加えると(なお、甲五によれば、公的機関からの融資条件についても、当初の見込みと異なり、返済額は、月額約二〇万円であったことが認められる。)、前記控訴人の支払能力に照らし、返済能力を超えているといわざるを得ない。そうすると、右融資条件は、前述した控訴人において許容できる範囲を超えた融資条件であり、銀行融資不可能の場合にあたるというべきであるから、本件売買契約は、本件約定により無条件で解約となる。
したがって、被控訴人は、控訴人に対し、手付金二〇〇万円及びこれに対する催告の後である平成一一年三月六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるというべきである。
四 よって、右と異なる原判決を取り消して、控訴人の請求を認容することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 見満正治 裁判官 辻本利雄 裁判官 角隆博)