大阪高等裁判所 平成12年(ネ)344号・平12年(ネ)343号 判決
平成一二年(ネ)第三四三号事件被控訴人・同年(ネ)第三四四号事件控訴人 コスモ証券株式会社(以下「第一審被告」という。)
右代表者代表取締役 村上朝昭
右訴訟代理人弁護士 檜垣誠次
同 鎌倉利行
同 鎌倉利光
同 今井俊裕
主文
一 第一審原告の本件控訴を棄却する。
二 第一審被告の本件控訴に基づき、原判決主文第三項を取り消す。
右取消しにかかる第一審原告の寄託金返還請求を棄却する。
三 訴訟費用は、第一、二審を通じこれを一〇分し、その九を第一審原告の、その余を第一審被告の各負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 平成一二年(ネ)第三四三号事件
1 控訴の趣旨(第一審原告)
(一) 原判決を次のとおり変更する。
(二) 第一審原告と第一審被告との間において、平成九年五月二九日付け第一審原告の売却委託にかかる日本電信電話株式会社の株式二三株の第一審被告の買戻しに基づく金二七五六万一四九五円の債務が存在しないことを確認する。
(三) 第一審被告は、第一審原告に対し、株式会社タカラの株式三万六〇〇〇株、株式会社大丸の株式三〇〇〇株、株式会社近畿銀行の株式五〇〇〇株を引き渡せ。
(四) 第一審被告は、第一審原告に対し、金一二一万二二七八円及びこれに対する平成九年九月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(五) 訴訟費用は、第一、二審とも第一審被告の負担とする。
(六) (三)ないし(五)項につき仮執行宣言
2 控訴の趣旨に対する答弁(第一審被告)
(一) 第一審原告の本件控訴を棄却する。
(二) 控訴費用は第一審原告の負担とする。
二 平成一二年(ネ)第三四四号事件
1 控訴の趣旨(第一審被告)
(一) 主文第二項と同旨
(二) 訴訟費用は、第一、二審とも第一審原告の負担とする。
2 控訴の趣旨に対する答弁(第一審原告)
(一) 第一審被告の本件控訴を棄却する。
(二) 控訴費用は第一審被告の負担とする。
第二当事者の主張
一 当事者の主張は、次項のとおり第一審原告の当審における付加主張(控訴理由)を付加するほかは、原判決「事実」の「第二 当事者の主張」欄(四頁八行目から一三頁九行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。
ただし、六頁四行目の「株式会社大丸の株式」の次に「一〇〇〇株」を、五行目の「株式会社近畿銀行の株式」の次に「計五〇〇〇株」を、七頁九行目から一〇行目にかけての「金二七五六万一四九五円」の次に「(手数料及び税金を含む。以下同じ。)」を各付加し、一〇行目の「精算の結果、」を「第一審被告は、平成九年八月二七日、右買戻しに要した費用と第一審原告から寄託を受けていた前記一二一万二二七八円を相殺した結果、」と訂正し、一二頁初行から二行目にかけての「及び同3の一二一万二二七八円」を削除する。
二 第一審原告の当審における付加主張(控訴理由)
1 東証申合による本件株券の買戻し(以下「本件買戻し」ともいう。)が第一審被告の名で行われた場合には、本件買戻しによる売買契約の効果は、第一審原告には及ばない。また、民法六五〇条三項は、委任事務の履行上、受任者が過失なく受けた損害を委任者に負担させようとするものであって、それ以上に受任者と第三者との法律行為の効果を帰属させるものではないから、右規定を根拠に、本件買戻しによる売買契約の効果が第一審原告に及ぶと解することもできない。そうすると、第一審被告が本件買戻しを行ったとしても、本件株券の所有権が第一審原告に帰属する効果は生じないこととなり、その結果、原判決は、本件株券の所有権を取得しない第一審原告に、本件株券の買戻費用のみを負担せよとの結論を導くことになり、不当である。
2 原判決は、東証申合に基づく渡方会員の買戻金額が、すべて民法六五〇条三項の損害と認定したが、東証申合の規定をみる限り、渡方会員が買戻決済に要する費用は、損害とはいえないものである。すなわち、東証申合は、買戻費用を事故決済値段とし、買い戻す株券の価格の公平性を保って決済価格を決定しており、買い戻す株券と買戻費用とは対等の価値を有するものとしているのであるから、買戻しによって渡方会員が損害を受けるというものではない。
3 東証申合は、盗難届があった株券を事故株券として処理しているが、実際に盗難株券であることや、株式の買受人が被害者から株券の返還請求を受けたり、公示催告や除権判決があったことを必ずしも必要としていない。すなわち、東証申合は、株券に民法上の瑕疵がない状態であっても、買戻等を認めて証券流通を図ろうとしているのである。本件株券は、公示催告手続や除権判決を受けたという形跡はなく、一般民事法上では何ら瑕疵のない有効な流通株券であるところ、第一審原告は、右株券の売却を第一審被告に依頼したのであるから、一般民事法によれば、何ら責任を追及される理由はないのである。ところが、原判決は、民法六五〇条三項に基づき、第一審原告が本件株券の買戻費用の負担を負うことになるという解釈を行っているところ、それは、東証申合の規定による取扱を、直ちに一般民事法上の損害と認定したところによるのである。したがって、原判決は、一般民事法との統一性を失った解釈であるといわざるを得ない。
4 第一審被告が本件株券の買戻しを余儀なくされたのは、東証申合の規定によるのであるが、東証申合の規定が証券取引所会員以外の一般投資家を拘束するものでないことは、原判決のとおりである。
ところが、原判決は、民法六五〇条三項という規定を通じて東証申合が一般投資家に直接適用されるのと同様の効果を認めている。しかし、一般投資家にとって、渡方会員が、東証申合によって、事故株券における事故の除去又は他の株券との引換えを行う等の義務を生じることは、予測できないことである。そのことは、東証申合が、証券取引所会員間の内部規定であって、一般投資家に右内容が開示されていないことからも明らかである。したがって、第一審被告が本件株券を買い戻した費用が、何らかの意味で損害という概念に含まれるとしても、右損害は、第一審原告と第一審被告との委任契約とは相当因果関係を欠く損害というべきである。
第三証拠
証拠関係は、原審及び当審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 当裁判所は、第一審原告の本件請求は、原判決主文第一、二項の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却すべきものであると判断する。その理由は、次のとおり原判決を補正し、次項に第一審原告の当審における付加主張(控訴理由)に対する判断を付加するほかは、原判決「理由」欄(一三頁一一行目から二〇頁三行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。
1 一三頁一一行目を「請求原因事実は、第一審原告が第一審被告に株券を寄託した日を除き、いずれも争いがない。そして、証拠(甲七の1ないし7、八及び九の各1、2)によれば、第一審原告が株式会社タカラの株式を寄託したのは平成八年九月六日からであり、株式会社大丸の株式一〇〇〇株を寄託したのは平成四年二月四日であり、株式会社近畿銀行の株式計五〇〇〇株を寄託したのは平成九年六月一二日であることが認められる。」と訂正する。
2 一四頁五行目の「二二号証、」の次に「二七号証、」を付加する。
3 一九頁初行の「二七六五万一四九五円」を「二七五六万一四九五円」と、同行の「精算の結果、」を「第一審被告は、平成九年八月二七日、右買戻しに要した費用と第一審原告から寄託を受けていた前記一二一万二二七八円を相殺した結果、」と、八行目及び一〇行目の各「二六三四万九二一七円」をいずれも「二七五六万一四九五円」と、同行から一一行目にかけての「被告の右主張は理由がある。」を「そして、前記のとおり、第一審被告が、平成九年八月二七日、右損害金二七五六万一四九五円と第一審原告から寄託を受けていた前記一二一万二二七八円を相殺した結果、第一審被告は、第一審原告に対し、二六三四万九二一七円の債権を有するというべきである。なお、第一審原告の第一審被告に対する一二一万二二七八円の寄託金返還請求権は、相殺により消滅した。」と各訂正する。
二 第一審原告の当審における付加主張(控訴理由)に対する判断
1 主張1、2について
証券取引所の会員である証券会社は、商法上の問屋であり、顧客から有価証券の売買の委託を受けた場合、自己の名において顧客の計算で売買をすることになる(商法五五一条)。したがって、第三者に対し売主又は買主として権利を有し義務を負うのは、証券会社であり(同法五五二条一項)、委託者である顧客は、第三者とは直接の関係に立たないが、商法は、売買が委託者の計算でなされることを考慮して、問屋と委託者との間において代理に関する規定を準用している(同条二項)から、証券会社と顧客との関係では、売買の効果は、顧客に帰属するものと解される。
ところで、東証申合は、顧客を拘束するものではないが(原判決二の4(一)ないし(四))、証券取引所の会員間の申合であり、会員間では商慣習となっているものと解されるから(甲一四の1、一八の2参照)、東証申合に基づき、事故株券である本件株券の処理がなされることになる。そこで、東証申合によれば、渡方会員である第一審被告は、受方会員から本件株券を買い戻すべき義務を負うことになり、その履行として、本件株券を買い戻したものである。そして、本件株券は、証券取引所の開設する市場において取引されるのであるから、右市場において商慣習となっている申合に従って処理されるべきは当然であるところ、第一審被告は、委任契約に基づき、本件株券を売買したものの、東証申合に基づき、本件株券を買い戻さざるを得なくなったものであるから、右買戻しは、委任事務の処理の一環と認められる。そうすると、第一審被告は、自己の名をもって第一審原告のために本件株券を買い戻したというべきであるから、前記代理の規定に基づき、本件株券の所有権は、第一審被告と第一審原告との間では、第一審原告に帰属するというべきである。
第一審原告の主張1、2は、本件株券の所有権が第一審被告に帰属し、第一審原告には帰属しないことを前提とするものであるところ、右主張は、右に述べたとおりその前提を欠くというべきであるから、いずれも理由がなく採用できない。
2 主張3、4について
受任者が、委任者に対し、民法六五〇条三項に基づく損害賠償請求をするための要件事実は、委任契約の存在、受任者が委任事務を処理するに当たって損害が生じたこと、受任者が委任事務を処理するに当たって過失がなかったことであり、委任者の過失や委任者が損害の発生を予見したか否かは要件ではないと解される。
これを本件についてみるに、第一審被告は、第一審原告から本件株券の売買の委託を受け、これを売却したにもかかわらず、本件株券が盗難株券であったため、買戻義務を負担してその代金を支払い、しかも、前述したとおり、本件株券の所有権が第一審原告に帰属するのであるから、委任事務を処理するために損害を被ったものというべきである。そして、第一審被告が損害を受けたことにつき過失がないことは、前述したとおりである(原判決一九頁四行目から六行目まで)から、第一審原告は、第一審被告に対し、民法六五〇条三項に基づき、損害賠償義務を負うことになる。
第一審原告は、本件株券が一般民事法上では何ら瑕疵のない有効な流通株券であるから、一般民事法によれば、何ら責任を追及される理由はないと主張するが、前述したとおり、民法六五〇条三項に基づく損害賠償義務は、無過失責任である。また、仮に、本件株券が一般民事法上では瑕疵がないとしても、前述したとおり、本件株券は、証券取引所の開設する市場において取引されるのであるから、右市場における申合に従って取引されるは当然であるところ、前述したとおり、東証申合では、渡方会員である第一審被告が盗難株券である本件株券を売買した場合、事故株券であるとして買戻義務を負担することになり、これにより第一審被告が損害を被った以上、第一審原告は、その損害を賠償すべき義務があるというべきである。
したがって、控訴人の主張3、4も理由がなく採用できない。
三 以上によれば、第一審原告の本件請求のうち、債務不存在確認請求については、金二六三四万九二一七円を越える部分は理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、本件株券の返還請求は、第一審被告の留置権の抗弁が理由があるから引換給付の判決をすることとし、その余は理由がないからこれを棄却すべきものである。
よって、第一審原告の本件控訴は理由がないからこれを棄却し、第一審被告の本件控訴に基づき、原判決主文第三項を取り消して、右取消しにかかる第一審原告の寄託金返還請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 見満正治 裁判官 辻本利雄 裁判官 角隆博)