大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成12年(ネ)3980号 判決 2002年7月26日

神戸市<以下省略>

控訴人

同訴訟代理人弁護士

永井幸寿

津久井進

東京都中央区<以下省略>

承継引受人

野村證券株式会社(旧商号 野村證券分割準備株式会社)

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

辰野久夫

同訴訟復代理人弁護士

藤井司

東京都中央区<以下省略>

脱退被控訴人

野村ホールディングス株式会社(旧商号 野村證券株式会社)

同代表者代表取締役

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  承継引受人は,控訴人に対し,222万2850円及びこれに対する平成10年1月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

三  控訴人の主位的請求,及びその余の予備的請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを5分し,その1を承継引受人の負担とし,その余を控訴人の負担とする。

五  この判決は,第二項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  承継引受人は,控訴人に対し,1156万5530円及びこれに対する平成10年1月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は,第1,2審を通じて承継引受人の負担とする。

四  第二項について仮執行宣言

第二事案の概要

一  本件は,控訴人が承継引受人に対し,主位的に脱退被控訴人が控訴人名義で行ったワラントの売買は控訴人の注文に基づかないもの(無断売買)であるとして,脱退被控訴人との間の委任契約に基づき,脱退被控訴人が控訴人の取引口座から引き落とし処理した上記売買に係る差損金額の返還を請求し,予備的に脱退被控訴人の従業員の違法なワラント取引の勧誘行為等により損害を被ったとして,使用者責任に基づく損害賠償を請求した事案である。

二  前提となる事実

次のとおり,訂正する他は,原判決4頁2行目から6頁6行目までに記載のとおりであるから,これを引用する(証拠を掲記しない事実は,当事者間に争いはない。)。

原判決4頁5行目から6行目までを,以下のとおり改める。

「(二) 脱退被控訴人は,肩書地に本社を有し,有価証券の売買等の媒介,取次及び代理等を目的とする株式会社であったが,平成13年10月1日,吸収分割により,本店及び支店において営む証券業その他証券取引法に基づいて営む業務に関する営業を承継引受人に移転し,承継引受人はこれを承継した(脱退被控訴人は持株会社となった。)。これにより,脱退被控訴人の控訴人との間の権利義務は,承継引受人に承継された(以下,脱退被控訴人と承継引受人を併せて「被控訴人」という。)。

三  争点

本件の争点は,次の点にある。

1  被控訴人によるワラント無断売買の有無(本件ワラント取引は,被控訴人が控訴人に無断で行ったものか)

2  被控訴人の従業員の控訴人に対する不法行為の成否(控訴人に対するワラント取引の違法な勧誘行為又は助言義務違反行為の有無)

3  (被控訴人の従業員の不法行為が成立するとして)控訴人が被控訴人に対して請求し得る損害賠償の額

第三争点に関する当事者の主張

次のとおり,訂正する他は,原判決「事実及び理由」中の「第三 争点に関する当事者の主張」に記載のとおりであるから,これを引用する。

一  同9頁8行目の「第四回三菱石油外貨建ワラント」から11行目の「ともいう。)」までを,「7銘柄のワラント(以下「本件ワラント」ともいう。)」と改める。

二  同14頁2行目,5行目の各「預かり」をいずれも「預り」と改める。

三  同28頁1行目から同31頁8行目までを,以下のとおり改める。

「(二) 説明義務違反

(1)  前記のとおり,ワラントは投機的な色彩の強い金融商品であるということができるが,証券会社は,このような商品を勧誘する際には,取引の相手方の職業,年齢,証券取引に関する知識,経験,資力等に照らして,一般的にも個別銘柄についても,当該証券取引によるリスクに関する的確な情報の提供や説明を行い,相手方がこれについての正しい理解を形成した上で,その自主的な判断に基づいて当該の証券取引を行うか否かを決定することができるように配慮すべき義務を負う。

(2)  勧誘段階における説明義務違反

証券会社の従業員が,一般投資家に対してワラントを勧誘する場合には,①ワラントの意義及び価格形成の仕組みについて,適切な説明をすることが最低限必要であり,その際,②投資効率の面のみを強調してはならず,③必然的に伴う重大な危険性をより十分に説明し,単にハイリスクという抽象的な説明だけでなく,当該一般投資家が容易に理解できる方法によりハイリスクであるという意味を具体的に懇切丁寧に説明すべきである。

しかるに,控訴人は,医師であり,経済関係の職業に従事したことも,証券取引をした経験もなく,ワラントの意味も知らなかったにもかかわらず,Bは,控訴人が平成6年11月19日に本件確認書に署名捺印する際,控訴人に対して,ワラントの仕組みや危険性はもとより,当該書類がワラントの購入に関する契約書である旨の説明もしなかった。むしろ,Bは,控訴人に対して,雑談の流れの中であたかも外国株式購入の基本契約の書類のような説明をして,控訴人を誤信させて署名捺印させたものである。その際,本来本件確認書と一体となっている説明書が外されており,確認書一枚が提示されただけであった。また,控訴人には,ワラントの説明書やパンフレット,及び確認書の写し等の交付もされなかった。

仮に,Bがワラントについて何らかの説明をしたとしても,その説明は,ワラントが何故にハイリスク・ハイリターンとなるか,価格形成のシステムが何故に複雑であるのか等ワラントの意義及び仕組みについて,紋切り型の形式的なものにすぎず,しかもワラントの価格上昇及び騰貴面ばかりを強調したものであり,ゴルフ会員権の基本的知識さえ有していない控訴人に対し,仕組みの異なるゴルフ会員権を引き合いにして混乱を招く方法を用いるなどした。

したがって,いずれにしても,Bにはワラント勧誘段階の説明義務違反がある。

(3)  個別銘柄の勧誘時における説明義務違反

ワラントは,その価格が上昇すれば転売によって売却利益を得られる他,株価が権利行使価格とワラント購入価格のコストを上回れば,権利行使をして安い価格で株式を得られるが,株価が権利行使価格を上回っていない場合は,権利行使できないまま紙くずになる危険性が高い。また,ワラントのうち,権利行使期限が2年以内のものは,取引比率が大きく落ち,さらに行使期限が近づけば近づくほど取引比率が低下して価値が下落する性質を有する。さらに,ワラントのうち,価格10ポイント(当該ワラントの社債面額に対する百分率がポイントである。)以下のものは,プレミアムが極めて高く,株価に対する反応は鈍く,投資対象としては,短期的にも長期的にも不向きである。したがって,こうした特徴を有する危険な銘柄を,証券会社の従業員が一般投資家に紹介するのは不適切であるが,仮に何らかの特段の事情があって,勧誘する場合は,具体的に権利行使価格と株価の関係,権利行使期間,ワラント価格を明示して,現在の株価水準との関係を明らかにした上で,今後株価が相当の率で上昇したり,権利行使価格を上回ったり,価格が10ポイント以上になる根拠と確度を,客観的情報に基づいて個別具体的に懇切丁寧に説明すべきである。

しかるに,本件ワラントのうち,番号5ないし7の各ワラントは,買付時の株価が権利行使価格を下回っており,同3ないし6の各ワラントは残存権利行使期間が2年未満であり,うち同5,6の各ワラントは同期間が7か月半程度しかないものであり,また,同5,6の各ワラントの買付時の価格は7.25ポイントであり,いずれの面から見ても,番号3ないし7の各ワラントは極めて危険性の高いワラントであった。それにもかかわらず,Bは,株価と権利行使価格との関係については,「値が上がります」「売れています」「有望です」などといった陳腐で具体性に欠けた勧誘文を述べただけであり,残存権利行使期間については「短い」と指摘しただけでかえって投機性を強調したりするなどし,危険性については全く説明しなかった。

したがって,Bには個別銘柄勧誘段階の説明義務違反がある(なお,利益は出ているものの,同1,2の各ワラントについても同様の危険があり,説明義務違反がある。)。

(三) 助言義務違反

証券会社の従業員は,その勧誘によって一般投資家がワラントを購入した場合,顧客になった当該投資家が売却の機会を逃さないように,適切な時期に的確且つ客観的な情報を提供する義務があるし,特に本件ワラント中には権利行使期間が短いものが多かったのであるから,早急に控訴人と連絡を取り,少なくともワラントの現在価格と株価の動きを説明すべき義務があった。

しかるに,Bは,適切な時期に適切な情報を一切提供しなかったばかりか,平成7年6月14日に,控訴人がワラントについて相談したところ,個別銘柄の具体的価格や株価の動きなどを説明せず,ゴルフ会員権を引き合いに出すという不適切な説明をしたために,控訴人は権利行使期限が来るまで回収ができないのではないかと誤解し,権利行使期限を徒過することになった。

したがって,Bには,助言義務違反が認められる。

(四) まとめ

以上のように,Bは,控訴人との間において,ワラント取引を勧誘すべきではないのに勧誘し,また説明義務及び助言義務を尽くさずに取引をしたものであり,同Bの行為は不法行為を構成し,それについて被控訴人は使用者責任を負う。」

四  同36頁5行目の次に,改行の上,「(一) 勧誘段階における説明義務違反について」を加え,6行目から同39頁6行目までを一段下げる。

五  同39頁6行目の次に,改行の上,以下の記載を加える。

「(二) 個別銘柄の勧誘時における説明義務違反について

ワラントのうち,株価が権利行使価格を下回っている場合,将来株価が権利行使価格を上回る蓋然性までなくとも,株価が上昇するという局面であれば,ワラント価格の上昇が期待できるのであり,そのような状況でのワラントの買付けも正当且つ合理的な投資手法である。また,権利行使期限が2年未満,1年未満のものであっても,必ずしも取引比率が大きく落ちるわけではなく,流通性そのものに大きく支障を来す関係にはない。したがって,これらの点で,控訴人の主張は前提において誤っている。また,個々のワラント勧誘時に,将来株価が相当の率で上昇し,権利行使価格を上回る事態が到来する根拠と確度を,客観的情報を示して個別具体的に説明することなど不可能であり,ワラントの買付けにあたっては,当該銘柄企業の株価及び当該ワラント価格の推移,当該企業の業績内容,市場における期待度,人気度等を勘案し,当該株価の上昇が期待できると判断される局面において,買付けを実行するのが正常な投資判断であり,それについて証券会社の従業員が顧客に説明すれば足りる。

確かに,本件ワラント中には,残存権利行使期間が2年未満,1年未満のものがあったが,Bは,控訴人に対し,番号1ないし7の各ワラントについて,各銘柄の価格表,四季報のコピー,アナリストレポート等を事前にファックスで送付し(ただし,番号5,6の各ワラントについては,電話で詳しく説明した。),株価についての見通しを説明したほか,権利行使期間,権利行使価格,同価格と株価との関係等を詳しく説明し,控訴人とやりとりをした上で控訴人の投資判断を得ていた。特に,Bが顧客に対してワラントの買付けを勧誘する場合は,当該銘柄の株価の上昇が期待できる場面であり,当該ワラントの権利行使価格と株価との関係については,①株価が権利行使を上回っていて,さらに株価の上昇が期待できる場合,②株価が権利行使を下回っているが,今後株価が上昇し,権利行使価格を上回ることが期待できる場合,③株価が権利行使価格を下回っていて,将来株価が権利行使価格を上回るところまでの上昇は期待できないとしても,今後株価が上昇してワラント価格も上昇することが期待できる場合に区別し,本件ワラントがいずれの場合であるかを詳しく説明した。控訴人の高い理解力や,買付後に控訴人が苦情等を述べなかったことも考慮すると,控訴人は個別銘柄についての危険性も十分理解していた。

したがって,Bには,個別銘柄の勧誘時においても説明義務違反はない。

4 (控訴人の助言義務違反の主張に対し)

控訴人の主張する助言義務違反は,その内容が極めて抽象的且つ不明確である。Bは,控訴人が番号1ないし7の各ワラントを購入した後も,控訴人に対し,当該ワラントの価格の動きを伝え,その時々の当該銘柄企業の業績その他を勘案し,控訴人との間で売却か保有継続かについて意見交換しており,助言義務違反はない。

5 まとめ

以上のように,Bのワラント取引の勧誘等には何ら問題はないから,不法行為を構成することはなく,被控訴人は使用者責任を負わない。」

第四当裁判所の判断

当裁判所は,控訴人の各請求のうち,主位的請求は理由がないものの,予備的請求は,番号5,6のワラント取引につき被控訴人に不法行為の使用者責任が成立し,これにより控訴人の被った損害につき5割の過失相殺をした限度で理由があり,その余は理由がないと判断する。その理由は,次のとおりである。

一  ワラント取引の性質

証拠(乙8,47,証人B)及び弁論の全趣旨によれば,原判決40頁7行目から43頁7行目までに記載の事実が認められるので,これを引用する。

二  控訴人と被控訴人の取引の経過等

1  前記第二の二の各事実及び証拠(甲2,5ないし16,20ないし22,28の1・2,33の1・2,乙1ないし10,12ないし35,37ないし42,43の1・2,44の1・2,46,47,50ないし56,61ないし65,67,68,証人C,同B,控訴人本人)並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(一) 控訴人の経歴等

控訴人は,昭和40年にa大学医学部を卒業し,昭和45年に同大学大学院を卒業した後研修生となり,昭和46年4月にb病院内科の勤務医となり,前記のとおり昭和54年4月以来c市内で診療所(d)を開設してこれを経営している者であるが,本件ワラント取引当時は,近隣の校医,f健康センター読影委員,g医師会理事,h医師会経営委員などの公務にも従事していた。

平成6年当時,控訴人の上記医院の経営等による年間総収入は1億円を超え,それから諸経費等を控除した純収益は2000万円ないし3000万円であった。

(二) 控訴人と被控訴人間の証券取引の開始等

(1) 控訴人名で,昭和57年6月24日,被控訴人から関西電力債が購入されたのを始めとして,以後控訴人名と被控訴人との間で,平成6年9月ころまでの間に,別紙1(原判決添付のもの,以下同様である。)記載のとおり証券取引が行われており,その取引証券は,債券の外,投資信託,現物株式,転換社債,外国証券など多種多様な商品にわたった。これらの証券取引のうち,控訴人が直接被控訴人従業員と交渉して関与したのは,平成5年3月以後の各取引である(それ以前の各取引については,被控訴人従業員と,Dが直接交渉していたか,又はしていた可能性があり,控訴人がその直接交渉を包括的に同意していたと推測されることは別にして,個別の証券取引に具体的に関与していたことに関しては,これを確実に認めるに足りる証拠がない。)。

なお,Dも,控訴人名と被控訴人との取引開始の約1か月後である昭和57年7月19日に被控訴人に口座を開設し,被控訴人との証券取引を行うようになった。

(2) 控訴人は,昭和62年9月9日,被控訴人に外国証券取引口座を開設した。

(3) 平成2年11月ころ,被控訴人の営業担当従業員であるC(以下「C」という。)が控訴人の担当となり,Cは前任者のEとともに引継ぎの挨拶のために控訴人の自宅を訪問し,応対したDに挨拶をしたが,留守であったため控訴人には挨拶できなかった。

その後,Cは,Dを通じて控訴人名義の口座での取引を行い,控訴人と面談したことはなかったが,Dからは控訴人と相談しながら取引をしていると聞かされていた。平成3年1月16日には,Dは,エマージングセレクトファンドを控訴人名で売却して利益を得たが,同月21日に被控訴人の従業員が同売却代金を控訴人の診療所に持参して控訴人に支払い,その際,控訴人は自ら受領証(乙10)に署名捺印した。

平成5年3月ころ,Cは,控訴人の診療所に控訴人を訪ねて初めて控訴人と面談した。その後は,控訴人名義口座による証券取引は,すべてCが控訴人と直接話し合って行われた。その取引の方法は,Cが予め資料を控訴人の診療所にファックスで送信し,その後にCが控訴人に電話して企業の内容や株価の見通しなどについて説明し,控訴人から委託注文をするというものであった。

Cの控訴人への勧誘姿勢は積極的で,控訴人の診療所への度々のファックス送信や長時間の電話があったため,控訴人は看護婦に対し,Cからの電話は受け付けないようにとの指示を出し,看護婦からCにその旨伝えられることがあった。

(4) Dは,平成5年10月,●●●で市立e病院に入院し,同年末に退院したが,平成6年○月○日死亡した。

(5) 平成6年5月,控訴人担当の被控訴人の営業社員がCからBに交代し,同月27日,CとBが引継ぎの挨拶のために控訴人の診療所を訪問し,控訴人と面談した。その際,控訴人は,Bに対し,今後の連絡方法について,Bから要件をファックスで送れば控訴人からBに連絡すること,緊急の場合には,Bは,被控訴人の会社名を出さずにB個人の名前で電話すること,控訴人を訪問する際には必ず事前に控訴人に連絡を取って控訴人の診療所で面会すること,面会の時刻は控訴人がその都度指定するが,原則として午後7時半以降にすることなどの要求をした。Bは同申出を了承し,以後基本的には同申出に従って控訴人と連絡を取った。

Bが控訴人と取引をしたのは,別紙1の取引のうち,平成6年8月19日以降の証券取引及びワラント取引一覧表記載の取引である。そのうち,別紙1の平成6年9月22日に買い付けたテンプルトンドラゴンファンド(番号28)は,Bが控訴人から委託注文を受けたものであるが,それが外国証券であったことから,その前日の同月21日,Bが控訴人の診療所を訪問して,控訴人に「外国証券取引口座設定約諾書」(乙6)及び外貨建証券配当金等の振込先届(乙7)に署名捺印をしてもらってその交付を受けた。

(三) 本件ワラント取引

(1) 被控訴人においては,平成6年7月に,ワラントの意味やリスク,ワラント取引の仕組みなどについての説明や権利行使にあたっての注意などを記載した「国内新株引受権証券(国内ワラント)説明書及び外国新株引受権証券(外貨建ワラント)取引説明書」(乙8,以下「ワラント取引説明書」という。)を作成し,営業に使用していた。同説明書の最終頁には,取引申込みをする顧客が被控訴人に提出する書類として「国内新株引受権証券及び外国新株引受権証券の取引に関する確認書」(以下「ワラント取引確認書」という。)の用紙が綴られており,これには,「私は,貴社から受領した「国内新株引受権証券取引説明書」及び「外国新株引受権証券取引説明書」の内容を確認し,私の判断と責任において国内新株引受権証券及び外国新株引受権証券の取引を行います。」との記載がされていた。

(2) 平成6年11月中旬ころ,Bは,控訴人の診療所を訪問し,控訴人に対し,ワラントの基本的な商品性及びワラント取引の仕組みについて,ワラント取引説明書の外貨建ワラントの部分やワラントの価格表等を示しながら説明した。同説明において,Bは,ワラントは,一定の新株を引き受ける権利証券で,権利行使期限が定められており,その期限を過ぎると無価値になること,ワラント価格は株価の動きに影響を受け,その値動きは株価の変動率に比べて大きくなる傾向があり,ハイリスク・ハイリターンな商品であること,外貨建ワラントについては為替変動に伴う影響を受けることなどの説明のほか,ワラント購入後の対応について,①権利行使期限内にワラントを売却する方法,②株価が権利行使価格を上回っている場合には権利行使する方法,③いずれの方法もとらずに権利を放棄する方法がある旨の説明もした。しかしながら,Bは,控訴人に対し,法律的な性格や価格変動について異なる性質を持つゴルフ会員権をもって,ワラントの説明を行ったこともあり,控訴人は,ワラントについて正確な理解に達しなかった。

Bは,当時は,株式全般の上昇は期待できない状態であったが,個別的には株価の上昇が期待できるものもあり,株価の上昇が期待でき,特に株価上昇に勢いがありかつワラントが発行されている銘柄については,現物株式を買い付けるよりもワラントの方が投資効率が高いと考え,控訴人にワラントの購入を勧めようとしたものであった。Bは,ワラント取引説明書等の説明資料を控訴人に渡して帰った。

(3) その後の同年11月18日,Bは,控訴人に対して,第2回SMC外貨建ワラント(番号1のワラント)の資料である外貨建ワラント価格推移表,会社四季報の写し,証券調査レポート(乙62,37,38)をファックスで控訴人の診療所に送付し,ファックスが届いたころを見計らって,自ら電話をかけ,同ワラントの購入を勧めた。そして,約束をとって,翌19日,控訴人の診療所を訪れた。その際,Bは,控訴人に対し,「権利行使期限は残り8か月であるが,ここからがワラントの妙味のあるところである」「行使期限は短いけれど,投資のチャンスである」旨申し向けた。その結果,控訴人は,ワラントとしては初めて,番号1のワラントを購入することに決心し,本件確認書(乙9)に署名捺印してこれをBに交付した。その後,控訴人から,控訴人の署名捺印のある,同ワラントの買付けを被控訴人に委託する旨の「委託注文書」(乙39)が被控訴人に交付された。同委託注文書は,当時被控訴人(神戸支店)の規則で権利行使期限までの期間が1年以内のワラントの買付けについては顧客から委託注文書を徴求する扱いとされていたことに基づいて,被控訴人が控訴人から作成・提出を受けたものであったが,その文面上からは,権利行使期限までの期間が1年以内であることは明らかではなかった。

なお,Bがファックスで送付した外貨建ワラント価格推移表は,約4か月間のワラント価格等の動きを1ないし4日毎に表示したものであるが,そこには単位の表示がなく,併せて表示してある「パリティ」「プレミアム」「ギアリング」「レシオ」等の用語,性質については,控訴人が被控訴人から受領していたワラント取引説明書には記載がなかった。

(4) そして,Bは,その後ワラント取引一覧表の買付欄記載のとおりのワラントを勧誘したが,その勧誘方法は,番号2ないし4,及び7の各ワラントについては,番号1のワラントと同様に,事前にファックスで,資料である外貨建ワラント価格推移表,会社四季報の写し,証券調査レポートを送り,後で電話によって勧誘する方法であった。

しかしながら,番号5,6のワラントについては,控訴人から自宅への電話を厳禁されていたにもかかわらず,平成7年1月5日に,控訴人の自宅に電話をかけ,外貨建ワラント価格推移表,会社四季報の写し,証券調査レポート等の資料を全く送付等しないまま説明する方法により勧誘した(控訴人の自宅にはファックスが設置されていなかった。)。

結局,Bは,上記のような勧誘方法で,控訴人の承諾を得て,番号2ないし7の各ワラントの買付けをした。そのうち権利行使期限までの期間が1年以内のワラントである番号3のワラントについて,控訴人からその署名捺印のある「委託注文書」(乙40<平成7年1月5日付け>)が被控訴人に提出されたが,同じく1年以内のワラントである番号5,6の各ワラントについては,提出された形跡はない。

(5) Bの勧誘した本件ワラントのうち,番号1,2,5ないし7の各ワラントは,買付時点で株価が権利行使価格を下回っているものであった。また,番号1,3ないし6の各ワラントは,買付時点から権利行使期限までが2年未満であり,うち番号1,3,5,6の各ワラントは,7,8か月しかなかった。

Bの意識としては,権利行使期間が短いものであっても,権利行使期間が長いものと同様に流通性があり,一概に投資対象に不向きではないというものであった。

(6) 平成7年1月17日,阪神・淡路大震災が発生した。その当時,控訴人は,番号3,5ないし7の各ワラントを保有していたが,同ワラントはいずれも同震災以降値下がりし,評価損が発生していた。

(7) 被控訴人は,控訴人に対し,平成7年4月28日付けで「ワラント時価評価のお知らせ」(乙30の顧客送付用)を郵送し,それには番号3のワラント(権利行使期限平成7年7月11日)の時価評価はマイナス329万7900円となっている旨記載されていたところ,同年6月始めころ,被控訴人から控訴人に対して,番号3のワラントについて権利行使期限が迫っているので,同書面に印刷されている「連絡票」で権利行使するかどうかの意向を至急知らせるよう求める内容の「外貨建ワラント権利行使期限到来のお知らせ」(乙43の1)が郵送された。

(8) 同お知らせを受けとった控訴人は,同年6月15日ころ,Bを診療所に招き,Bに手持ちワラントの対策について相談した。Bは,三菱石油株は株価の変動が比較的激しい銘柄であったので,判断の難しいところと考えたが,今後同ワラントの価格が回復するようには思えず,結局無価値の状態で終わるものと判断し,また,番号5及び6の各ワラントも同様であろうと考えていたので,控訴人に対して権利行使をしない方がよい旨の意見を述べた。その際,Bは,控訴人がワラントについて,基本的事項を正確に理解していないこともあって,控訴人に対し,権利行使をしない方がよい理由を説明するために,書面(甲20,21)に数字や図を記載しながら,ワラントは一定の期間に一定の価格で新株を引き受ける権利であり,一定の期間が過ぎれば価格がゼロになるなどワラントの基本的なところから説明をしたが,その際も,ワラントとは性質の異なるゴルフ会員権を例に出した。

同説明の後,控訴人は,番号3のワラントについて権利行使しない旨の「連絡票」(乙43の2)を被控訴人に提出し,同ワラントは同年7月11日の権利行使期限の経過により失権した。控訴人は,その後の同月18日,番号5及び6のワラントについても,権利行使しない旨の「連絡票」(乙44の2)を被控訴人に提出し,同ワラントは同年8月23日の権利行使期限の経過により失権した。また,控訴人は,番号7のワラントについては,権利行使をせずにしばらく様子を見ることにしたが,結局,平成8年11月12日に6万8700円で売却した。

本件ワラントの,最終的な損益状況は,ワラント取引一覧表のとおりである。

(Bが,甲20及び21記載のとおりの数字や図を書いて控訴人にワラントの基本的事項を説明したのは,Bが,当初法律的性格や価格変動が異なる性質を持つゴルフ会員権の例を持ち出して説明したこともあり,控訴人がワラントの正確な理解に達していなかったため,控訴人の手持ちワラントの権利行使の是非について,基本的事項から説き起こし,わかりやすいように数字や図を用いて説明したと見るのが自然であるから,これに反する乙47,証人Bの証言中の各該当部分は採用することができない。)

(四) 被控訴人から控訴人に対する通知等

(1) 被控訴人は,顧客に対して,毎月取引の明細及び金銭・証券等の残高の明細を記載した「月次報告書」(乙12の様式のもの)を郵送していたが,同報告書には,「回答書を同封させていただきましたので,月次報告書の内容をご確認いただき,回答書にご署名・ご捺印の上○月○日までにご返送くださいますようお願い申し上げます。」との記載がされていた。

本件ワラントの取引分についても,被控訴人は,控訴人に対し,同月次報告書(乙12ないし17)を郵送していた。同月次報告書の「保護預かり口の残高」の欄には,保護預りとなっているワラントの権利行使期限も記載されていた。

(2) そして,控訴人から被控訴人に対して,同月次報告書郵送時に同封された回答書用紙(乙23の様式のもので,月次報告書記載の取引明細及び保護預りの残高明細の内容に相違はない旨の内容のもの)に控訴人の署名捺印がされた回答書(月次報告書記載の取引の明細及び保護預かり証券等の残高の明細の内容に相違ない旨の内容のもの)が郵送又は被控訴人の担当者への交付等の方法によって被控訴人に提出されていた。しかし,平成7年2月28日付け月次報告書(乙15)の分の回答書(甲7<乙15の分の月次報告書と同封されて控訴人に郵送されたもの>)については,控訴人は震災後の混乱で忙殺されていて,被控訴人への送付ができなかった。

(3) また,被控訴人は,ワラントの保護預りをしている顧客に対して,3か月毎に保護預りに係るワラントの時価評価を知らせる「ワラント時価評価のお知らせ」(乙29の様式のもの)を郵送していたところ,同お知らせには,「適用為替」や「時価評価損益」の記載もされていた。そして,控訴人に対しても,被控訴人から同お知らせ(乙29ないし35・最終は平成8年10月31日付けのもの)が郵送されていた。

(4) 上記各書類が控訴人に送付されていた間,控訴人からBや被控訴人に対し,本件ワラントの取引が控訴人に無断でなされたものである旨の異議・苦情が出されたことはなかったが,上記「連絡表」(乙44の2,平成7年7月18日付け)には,「送金は次から次へと要求してくる。しかし返金してもらうにはなかなか意のままにならぬ。ころがしてころがして,めまわしく,ついに露れと散る。これが貴社に対する感想です。」と不満を表す記載があった。」

2  上記認定に反する証拠の検討結果は,次のとおり訂正する他は,原判決59頁6行目から65頁3行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。

(一) 同60頁3行目の「本件三ワラント」を「本件ワラント」と改め,同62頁8行目の「本件三ワラントの取引を含む」を削除する。

(二) 同63頁3行目から同64頁5行目までを,以下のとおり改める。

「 また,Bが,平成7年6月15日ころ,控訴人から手持ちワラントについて相談を受けた際,甲20及び21記載のとおりの数字や図を持ち出して説明した意味は,前記認定のとおりであるが,そうであるかといって,Bが,控訴人に対し,ワラントの説明を一切しなかったというわけではないから,Bによる甲20,21による説明の事実は,本件ワラント取引が無断で行われたことを裏付けるものとはいえない。」

(三) 同64頁9行目の「本件三ワラントあるいはその他の」を削除する。

(四) 同65頁2行目の「甲六」の次に,「,甲28,33の各1,2」を加える。

三  争点1(被控訴人によるワラントの無断売買の有無)について

控訴人主張の無断売買の事実が認められないことは,原判決65頁4行目冒頭の「3」,「本件三ワラントの取引を含む」をいずれも削除し,11行目の「本件三ワラント」を「本件ワラント」と改める他は,原判決65頁4行目から66頁1行目までに記載のとおりであるからこれを引用する。

四  争点2(被控訴人の従業員の控訴人に対する不法行為の成否)について

1  適合性の原則違反について

Bの控訴人に対する本件ワラント取引の勧誘行為が,適法性の原則に違反しないことは,次のとおり訂正する他は,原判決66頁4行目から69頁7行目までに記載のとおりであるからこれを引用する。

原判決69頁3行目の「被告を通じて」から6行目の「ものといえ」までを,「被控訴人を通じて証券取引をある程度行っていて,その経験があるといえ,また,本件ワラント取引は,控訴人にとっては初めてのものとはいえ,合計7回で買付合計金額が2700万円にとどまるから」と改める。

2  説明義務違反について

(一) 前述のように,証券取引においては自己責任の原則が妥当する一方で,証券会社は顧客に対して善管注意義務を負っている。そして,ワラントが,比較的新しい金融商品で,その仕組みも複雑であること,株式の取引に比べてより少ない資金で株式取引の場合と同様の投資効果を上げ得る可能性があるが,その反面,価格変動が大きく,その予測も難しく,権利行使期間の制約もあることなどから,全く無価値となってしまう場合もある点で,同額の資金で株式の現物取引を行う場合に比べて,ハイリスク・ハイリターンな特質を有すること,証券会社の情報的優位の状況における顧客の証券会社に対する信頼保護の要請の下,公正慣習規則等の日本証券業協会の自主規制により,証券会社が顧客に対し,予め説明書を交付し,取引内容や危険性について十分説明することが要請されていること(公知の事実)などからすると,証券会社又はその従業員が顧客にワラント取引を勧誘する場合は,顧客の年齢,職業,投資経験,資産状況等に照らして,ワラントの特徴や仕組みなどを説明し,顧客がその危険性について的確な認識形成を行い,顧客が自己責任で取引を行う状態を確保する信義則上の義務を負い,これに反した勧誘方法は私法上違法と評価されるというべきである。

(二) これを本件について見るに,前記二1認定の事実によると,控訴人は,通常人以上に知的レベルが高く,生活レベルも高い医師であり,証券取引の経験もある程度あったといえるから,Bが本件ワラント取引の前に,控訴人の診療所を訪問し,ワラント取引説明書を示しながら,ワラントの基本的性格について説明したことにより,一般のワラントが取引対象であれば,控訴人はワラントの危険性について的確な認識形成ができ得たものというべきである。したがって,Bは,ワラント勧誘についての一般的な説明義務は尽くしていると判断することができる。

(三) しかしながら,Bは,控訴人に対し,法律的な性格や価格変動について異なる性質を持つゴルフ会員権をもって,ワラントの説明を行ったこともあり,控訴人は,ワラントについて正確な理解に達しなかったのであり,証券取引の経験があるとはいえ(控訴人には証券取引の経験があるとしても,元の担当であったCの積極姿勢もあわせ考えれば,どちらかといえば受動的な姿勢を有していたと評価できる。),初めてワラント取引を行う控訴人に対し,Bが勧誘した本件ワラントの7銘柄(番号5,6の各ワラントは,同一機会に勧誘したワラントである。)は,5銘柄が株価が権利行使価格を下回っているもの,また5銘柄が買付時点から権利行使期限までが2年未満であり,うち4銘柄は7,8か月しかなかったなど,ハイリスクハイリターンのワラントの中でも,特に危険性の高いワラントばかりであったといえるから(初心者にこのようなワラントの取引を続けて勧誘することには疑問がある。),Bとしては,本件ワラント取引の勧誘をする際には,控訴人のワラントについての正確な理解度を確認した上で,個別銘柄の大きな危険性について,控訴人が具体的に認識でき,それも考慮した上で取引について冷静に検討のできる程度の資料を用いながら説明する義務があったというべきである。

しかるに,Bの用いた資料のうち,外貨建ワラント価格推移表だけでは,ワラント価格等の動きにより,その大きな危険性を正確に理解し得たか疑問のあるところではあるし,Bの本件ワラントについての認識や勧誘時の説明文言からすると,Bは,本件ワラントの大きな危険性よりも,その有望性を強調していたということができる。もっとも,Bがファックスで資料を送付した銘柄については,控訴人が他の資料とつきあわせて冷静に検討でき,理解ができない部分についてはBに質問等が可能であったともいえるが,番号5,6の各ワラントについてはその機会さえなかったということができる。

そうすると,番号5,6の各ワラントの個別銘柄の勧誘については,いずれも株価が権利行使価格を下回り,且つ買付けから権利行使期限まで7か月半程度しかなかった銘柄であり,しかもファックスにより資料送付が一切なかった勧誘方法が用いられたのであるから,控訴人は番号5,6の各ワラントについて,その大きな危険性について的確な認識形成ができ得なかったものというべきであるから,Bに説明義務違反の行為があったことを認めることができる。

しかし番号1,2(利得が生じているので判示する必要があるかどうかはともかくとして),3,4,7の各ワラントの個別銘柄の勧誘については,上記検討したとおり,Bの説明に問題はなくはないものの,ファックスで資料を送付しており,控訴人の能力等によれば,冷静に検討できたのであり,直ちにBに説明義務違反の行為があったとまで認めるのは難しく,本件全証拠によるも,これを認めるに足りない。

(四) 被控訴人は,個別銘柄の勧誘時においても,Bに説明義務違反がなかった旨縷々主張し,ことに,ワラントのうち,株価が権利行使価格を下回っている場合でも,株価が上昇するという局面であれば,ワラント価格の上昇が期待できるのであり,そのような状況でのワラントの買付けも正当且つ合理的な投資手法であること,権利行使期限が2年未満,1年未満のものであっても,必ずしも取引比率が大きく落ちるわけではないことを主張している。確かに,そうした評価が全く不合理であるというわけではないが,前記一認定のワラントの特質からすると,株価が権利行使価格を下回り,権利行使期限までの期間が短くなれば,理論的価格がゼロ以下から出発し,株価が上昇するのを期待できる期間も短いのであるから,主にプレミアムの上昇を狙い短期勝負をせざるを得ない点でハイリスクハイリターン度はワラントの中でも特に高いというべきであるから(しかも,流通性が落ちることを指摘する文献《甲25》もある。),この点での被控訴人の主張は採用できない(ハイリスクハイリターン度がワラントの中でも特に高いから,従業員の主観的見通しだけでなく,ワラント価格の過去の変動等を客観的資料を用いて正確に認識させる必要がある。)。その他の点についても,上記に照らし,採用することができない。

3  助言義務違反について

番号1ないし4,7の各ワラントについては,上記のとおり説明義務違反があるとすることまではできず,控訴人が各ワラントの危険性について的確な認識形成を行い得た可能性があったといわざるを得えないから,自己責任の原則が働くべきであり,Bに助言義務違反の行為は認められない。

4  まとめ

したがって,Bの勧誘行為は説明義務違反として一部不法行為を構成するので,Bを雇用し,業務を執行させていた被控訴人には,使用者責任があるといえる。

五  争点3(控訴人が被控訴人に対して請求しうる損害賠償の額)について

控訴人は,Bから違法な勧誘を受けて番号5,6の各ワラントの取引をし,ワラント取引一覧表のとおり,444万5700円の損害を被ったことを認めることができる。

もっとも,弁論の全趣旨によると,控訴人の請求が認容される場合は,被控訴人は予備的に過失相殺を主張していると見ることができるし,過失を基礎づける事実の主張,立証も十分なされていると考えられるから,控訴人がワラントの性質を正確に理解しなかったことや本件ワラントの大きな危険性についてBに的確な問い合わせしなかったこと,被控訴人から郵送された各種書類に十分目を通していないことなど本件に現れた一切の事情を斟酌し,控訴人について過失を5割として過失相殺するのが相当である。

したがって,控訴人が,被控訴人に対し,請求できる賠償額は,222万2850円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成10年1月10日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金である。

第五結論

よって,これと結論を異にする原判決は一部失当であり,本件控訴は一部理由があるから,原判決を変更することとし,主文のとおり判決する。

(裁判官 東畑良雄 裁判官 浅見宣義 裁判長裁判官浅野正樹は,退官により署名押印できない。裁判官 東畑良雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例