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大阪高等裁判所 平成12年(ネ)430号 判決 2001年1月25日

控訴人、附帯被控訴人(一審原告) 株式会社愛媛銀行

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 小野寺富男

同 北本修二

同 高橋善樹

被控訴人、附帯控訴人(一審被告) 大阪府中小企業信用保証協会

右代表者理事 B

右訴訟代理人弁護士 富田貞彦

同 大家素幸

主文

一  一審原告の控訴を棄却する。

二  一審被告の附帯控訴に基づき、原判決中一審被告の敗訴部分を取り消す。

三  右の取消部分に係る一審原告の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審とも一審原告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  一審原告

1  原判決を次のとおり変更する。

2  一審被告は、一審原告に対し、金2億0,889万4,520円及び内金2億円に対する平成7年10月14日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

3  一審被告の附帯控訴を棄却する。

4  訴訟費用は、第一、二審とも一審被告の負担とする。

二  一審被告

主文と同旨

(以下、一審原告を「原告」、一審被告を「被告」という。また、略称については原判決のそれによる。)

第二事案の概要

一  事案の要旨

本件は、原告が、被告に対し、平成6年5月24日締結の保証契約に基づく保証債務の履行として、2億0,889万4,520円(元本2億円と確定利息)及び遅延損害金の支払を求めたところ、被告が、保証契約の対象となった主債務は旧債振替禁止条項に違反するなどとして、これを拒否した事案である。

原審は、旧債振替があったことを認め、旧債振替分と同一性を有する範囲について保証債務の成立を否定し、原告の請求を棄却し、これと同一性を有しない範囲について保証債務の成立を認め、302万1,784円及び内金289万3,120円に対する遅延損害金の限度で、原告の請求を認容した。

右判決に対し、原告から控訴が提起され、被告から附帯控訴が提起された。

二  前提となる事実(証拠を摘示する事実以外の事実は、当事者間に争いがない。)

1  原告は、銀行取引を業とする株式会社であり、被告は、信用保証協会法に基づき設立された法人であって、中小企業者等が銀行その他の金融機関から貸付等を受けるについてその貸付金債務を保証することを業務とする者である。

2  原告は、被告との間で、昭和49年4月30日、次の約定で、中小企業者が原告から資金等の貸付けを受けることによって原告に対して負担する債務につき保証する旨の契約(乙一の1。以下「本件基本契約」という。)を締結した。

(第7条)

債務者が弁済期日後30日を経過してもなお弁済をしなかったときは、被告は主たる債務に利息及び最終履行期後120日以内の延滞利息(貸付利息と同率)を付して原告に支払う。

(第4条=旧債振替禁止条項)

原告は、被告の保証に係る貸付けをもって、原告の既存の債務の支払に充てないものとする。ただし、被告が特別の事情があると認め、原告に対して承諾書を交付したときは、この限りでない。

(第12条)

被告は、原告が第4条の本文に違反したときは、原告に対し、保証債務の履行につきその全部又は一部の責めを免れる。

3  原告は、平成2年3月16日、二之宮ハウジング株式会社(以下「二之宮ハウジング」という。)に対し、弁済期を同年4月17日として、2億2,000万円を貸し付けた(以下「既存融資」という。)。

4  当初融資及び当初の保証契約

(一) 原告は、平成2年4月17日、二之宮ハウジングに対し、弁済期を平成6年4月16日、利息を年7.7パーセントとして、1億2,000万円及び8,000万円の合計2億円を貸し付けた(以下「当初融資」という。)。

(二) 被告は、右同日、本件基本契約に基づき、原告に対し、右当初融資に基づく二之宮ハウジングの債務を保証する旨約した(以下「当初の保証契約」という。)。

(三) 当初融資に基づく2億円は、その全額が既存融資に基づく債務の弁済に充てられた。

5  本件融資及び本件保証契約

(一) 原告は、平成6年6月30日、二之宮ハウジングに対し、弁済期を平成7年6月15日、利息を年4.875パーセントとして、2億円を貸し付けた(甲二。以下「本件融資」という。なお、原告の請求中確定利息分は年5.375パーセントによる計算である。)。

(二) 被告は、平成6年5月24日、本件基本契約に基づき、原告に対し、右本件融資に基づく二之宮ハウジングの債務を保証する旨約した(甲一の1、2。以下「本件保証契約」という。)。

(三) 本件融資金2億円のうち、1億9,710万6,880円は当初融資の残債務(残元金1億7,800万円、未収利息2,243万3,851円の合計2億0,043万3,851円の内金。不足分は、二之宮ハウジングが自己の資金で支払った。)の支払に充てられ、その余の289万3,120円は、本件融資の印紙代10万円、先払利息(16日分)42万7,397円、本件保証の保証料200万円及び当初の保証の保証料の未納分365万5,723円の支払に充てられた(<証拠省略>)。

6  本件融資金の弁済の遅滞

二之宮ハウジングは、元金2億円及び平成6年12月16日以降の利息の支払をしない。

三  被告の主張の要旨

1  当初の保証契約に基づく保証債務の消滅について

(一) 前記二2記載のとおり、本件基本契約4条において旧債振替が禁止されていたところ、同3、4記載のとおり、本件当初融資金2億円はその全額が既存融資の債務の弁済に充てられたのであるから、本件基本契約12条に基づき、被告は、当初の保証契約に基づく債務の全額について免責され、保証債務は消滅したというべきである。

(二) 右4条ただし書のとおり、旧債振替の承諾は書面で行うことが必要な要式行為であり、原告は、同意書(乙二)の用紙に債務者及び原告支店長が旧債振替をしなければならない具体的な理由及び振替返済する既借入金の明細を記載して被告に提出しなければならず、また、つなぎ融資の場合には、つなぎ融資承諾願いの用紙にその旨の記載をして被告に提出しなければならず、これに対し、被告が信用保証書に承諾する旨記載するか別途承諾書を発行するかして、承諾の意思表示をする必要がある。しかるに、原告は、被告に対し、右同意書用紙を提出していないばかりか、口頭での申し出すらしておらず、被告は、右書面による承諾をしていない。

被告は、旧債振替の事実を平成8年7月に至って初めて知ったのであり、仮に被告審査役C(以下「C」という。)が原告主張のような行動をしたとしても、Cには承諾の権限はない。

2  当初の保証契約と本件保証契約の関係について

(一) 本件保証契約は当初の保証契約の延期継続にすぎないから、被告は本件保証契約に基づく債務も負わない。

すなわち、当初の保証契約は、平成3、4年に3回にわたり、当初融資の返済方法の変更に対応した変更がなされた後、平成6年にされた当初融資の返済方法の変更に対応して同様の変更をすることになったところ、当時、中小企業信用保険法上の保険限度額が信用保証額と同額の2億円に改定されたので、当初の保証契約の1億2,000万円と8,000万円との2口の信用保証を1口にまとめて、2億円の保証とする必要上、本件保証契約を締結するに至った。したがって、本件保証契約は、当初の保証契約の延期継続にすぎず、被告は、当初融資による金員が既存融資の支払に充てられていることを全く知らず、当初の保証契約が有効に存在することを前提として本件保証契約に応じたものである。

(二) 錯誤無効(当審で追加した抗弁)

仮に、本件保証契約が当初の保証契約の延期継続にすぎないとまではいえないとしても、被告は、前記1のとおり、当初の保証に基づく保証債務は旧債振替禁止条項違反により全額消滅していたのにもかかわらず、これを知らずに、当初の保証契約が有効に存在しているものと信じて本件保証契約を締結したのであるから、本件保証契約は要素の錯誤に基づくものである。

仮に、右錯誤が動機の錯誤であっても、本件保証の信用保証依頼書(乙一四の1)に2口の既保証の記載があり、これらの延期継続が本件保証契約の目的であるとの記載があるから、当初保証の存在を前提としているとの右動機は表示されているということができる。

したがって、本件保証契約は、錯誤により無効である。

3  旧債振替禁止条項違反による本件保証債務自体の消滅(予備的主張)

仮に1、2の主張が認められないとしても、前記二5のとおり、本件融資に基づく金員も当初融資に基づく債務の支払に充てられたから、本件融資自体も旧債振替禁止条項に違反する。したがって、被告は本件保証契約に基づく責任を免れる。

四  原告の主張の要旨

1  当初の保証契約に基づく保証債務の不消滅について

(一) 既存融資はいわゆる「つなぎ融資」であり、当初融資は旧債振替禁止条項の趣旨に反しない。

すなわち、当初融資と既存融資は、債務者が同一であり、融資日も極めて近接しており、資金使途説明も同一のものであるから、両者は一体のものということができる上、実質的にも、融資金は二之宮ハウジングの分譲マンション建設資金に使用されているから、当初融資は、信用保証機関による信用保証がもっぱら金融機関の債権回収の手段に利用されることを防止する旧債振替禁止の趣旨に抵触しない。

(二) 旧債振替禁止条項(4条)ただし書に照らし、被告は旧債振替禁止条項違反を主張できない。

すなわち、原告は、二之宮ハウジングからの既存融資の申込みにつき、被告の保証が必要となるので、被告審査役Cに対して保証の可否を申し入れ、信用保証が可能であるとの内諾を得たが、正式の決定までに約1か月を要するということであったので、つなぎ融資として、融資期間を1か月とする既存融資を実行することとし、これをCに伝え、了解を得た。したがって、原告は、被告の同意の下に既存融資の弁済を受けたのであり、旧債振替禁止条項に違反せず、被告は、旧債振替されることを知って当初の保証契約に応じたのであるから、旧債振替禁止条項違反による免責を主張することはできない。

仮に、被告が主張するように、Cが被告を代表して旧債振替を承諾する権限を有していなかったとしても、原告としては、保証業務について専門的経験と知識を有するCを全面的に信頼し、その指示、意向に従ってきたのである。しかも、旧債振替についての承諾は、保証行為自体ではなく、その付随的な条件にすぎないものであり、Cがその点についての承諾権限を有していたか否かは被告の内部的事柄であり、原告には知り得ないことである。

したがって、Cが旧債振替についてこれを認識し、承諾をした以上、被告としては、旧債振替を知らず、これを承諾していないとして、保証責任を免れることは許されない。

2  当初の保証契約と本件保証契約の関係について

(一) 原告は、当初融資の返済方法の変更に伴って定められた平成6年4月16日の支払期日に二之宮ハウジングから当初融資の返済が得られない状況であったので、被告に代位弁済を申し入れたところ、被告は、延滞事故の発生を避け、代位弁済なしに済ませたいとして、原告に対し、二之宮ハウジングへの借換えのための融資(融資の更改)を実行するよう強く要求した。そこで、原告もこれを了承して本件融資を実行し、被告との間で本件保証契約を締結するに至った。

本件融資金の使途は前記二5(三)のとおりであるが、本件保証契約は、当初の保証契約とは保証に係る融資金の使途が異なること、保証期間も異なること、「前回保証の融資を完済した後に実行すること」が保証の条件になっていること、新たな保証書が発行されていること、保証番号が異なることなどの点に照らし、当初の保証契約とは全く別個の新たな契約であるから、当初の保証契約の瑕疵は承継しない。

(二) (当審追加主張)

(1) 本件融資による債務切替の目的が、当初融資の返済期限の猶予であっても、そのことだけから旧債務(当初融資)と新債務(本件融資)が同一性を有することになるわけでなく(最高裁平成10年12月8日第三小法廷判決・金融法務事情1548号29頁)、むしろ、本件両融資は、返済方法や利率などが相違している。根抵当権はそのまま維持されているが、その被担保債権の範囲は「銀行取引、手形債権、小切手債権」であり、債務の同一性の有無に関わりなく被担保債権となるのであるから、根抵当権がそのまま維持されているからといって、両融資が同一性を有することにはならない。

仮に、当初融資と本件融資が同一性を有しているのであれば、当初融資における保証契約は本件融資に引き継がれることになるにもかかわらず、改めて本件保証契約を締結したということは、当事者の意識としても当初融資と本件融資が別個のものと理解されていたことを推測させる。

(2) 仮に主たる債務である当初融資と本件融資が同一性を有しているとしても、これらの債務に個別に保証契約が締結されている以上、各保証は別個のものというべきである。

当初の保証書発行後、その保証内容(返済方法、条件)を変更する必要が生じたことから、3度にわたり当初の保証書についての変更信用保証書が発行されている。これらは当初の保証書の内容を変更するものであるが、「保証番号」や「貸付期間」からみても、当初の保証書と同一性を有している。

しかし、本件保証書(甲一の2)は、これらの変更信用保証書(<証拠省略>)と異なり、その形式からして、当初保証書(<証拠省略>)と同様、独立した基本保証書としての形式を具備しているから、本件保証と当初保証は別個のものである。

(3) 準消費貸借において、新旧両債務の同一性が論じられるのは、旧債務に伴う担保や抗弁権などが新債務に引き継がれるか否かが問題となるときであるが、本件の場合は、旧債務の担保の流用が主張されているわけではない。むしろ、準消費貸借により新債務(本件融資)が成立し、本件保証は右本件融資に基づく債務を保証したものである上、単に本件融資により当初融資の返済がなされることを条件としていただけで、それ以外には当初保証との関連性は一切存在しないから、保証をした者が免責されることはない。

(4) 錯誤の主張について(前記三2(二)の抗弁に対する反論)

被告が主張する錯誤は、資金の使途についてのものであり、動機の錯誤にすぎず、実質的に資金の使途に錯誤があったわけでもない。

法人が行う取引における認識の有無は、代表権者についてだけでなく、その代理的立場にある者の認識をも含めて考えるべきであるから、本件の場合錯誤の主張をすること自体失当であるし、少なくとも、被告には重過失がある。

3  被告の主張3について

(一) 本件融資に基づく金員のうち当初融資に基づく債務の支払に充てられたのは1億9,710万6,880円である。

(二) 被告は、本件保証契約に係る信用保証書に「前回保証の完済後実行願います。」と記載しているところ、当時、二之宮ハウジングに資力がなかったことを十分理解していたのであるから、本件保証契約によって保証される本件融資金が二之宮ハウジングの普通預金口座に入金されると同時に当初融資の貸付金の支払に充てられることを当然理解しており、旧債振替について同意した。

第三当裁判所の判断

一  当初の保証契約に基づく保証債務の消滅について

1  当初融資が本件基本契約4条の旧債振替に該当するか否かについて

前記第二の二3、4記載のとおり、原告は、平成2年3月16日に二之宮ハウジングに対して2億2,000万円を貸し渡し(既存融資)、その後、同年4月17日、被告の当初保証を得た上、1億2,000万円及び8,000万円の合計2億円を二之宮ハウジングに融資し(当初融資)、右融資金の全額が既存融資の債務の支払に充てられたというのであるから、当初融資は、本件基本契約4条で禁止されている旧債振替に当たるというべきである。当初融資に際して締結された当初保証は、本件基本契約4条の旧債振替に該当するというべきである。

これに対し、原告は、既存融資はいわゆる「つなぎ融資」であり、当初融資は旧債振替禁止条項の趣旨に反しないと主張するところ、たしかに、旧債振替禁止の趣旨は原告の主張するとおりであるが、しかし、本件の既存融資がいわゆる「つなぎ融資」といえるかどうかについても疑義があるのみならず、つなぎ融資に係る場合が右4条の旧債振替の対象から除外されているとも考えられない。

すなわち、<証拠省略>によれば、被告においてつなぎ融資というのは、債務者から被告に対して信用保証の依頼がなされた後、信用保証書発行までの間に債務者に緊急の資金の必要が生じた場合などに、被告から右4条ただし書所定の書面による事前の承諾を得て融資を先行させることの意味であることが認められるのであって、右4条においては、例外を設けることなく、右のようなつなぎ融資の場合も含めて旧債振替に当たるとした上で、書面による事前の承諾を要求していると解される。

2  旧債振替禁止条項違反の主張の可否について

原告は、本件基本契約4条ただし書に照らして、被告は旧債振替禁止条項違反を主張できないと主張する。

(一) <証拠省略>によれば、次の事実が認められる。

(1) 被告審査役Cは、平成2年3、4月当時、大阪市中央区<以下省略>所在の被告本所の業務部保証課に勤務し、保証審査業務に携わるかたわら、三和銀行瓦町支店、三菱銀行船場支店、同大阪南支店、原告大阪支店、同新大阪支店を担当し、週1回くらいの割合で右各支店を回り、信用保証業務の相談に当たっていた。

(2) 原告新大阪支店のDは、平成2年3月初めころ、二之宮ハウジングのマンション分譲販売事業(総事業費約7億5,000万円)の資金の一部である2億2,000万円の融資申込みにつき、被告の保証が必要となるので、Cに保証の可否を問い合わせ、「大丈夫でしょう。何とかやってみましょう。保証限度額が2億円との結論が出て信用保証書が発行されるまで1か月くらいかかります。」との返事を得た。

(3) そこで、原告は、店内禀議(甲五)により、二之宮ハウジングが3月中旬に融資実行を要請していることを考慮して、外貨手貸インパクトローン2億2,006万4,000円を、返済期を同年4月16日として同年3月16日に貸し付け、返済期限において2億円につき被告の信用保証付きの証書貸付に切り替え、2,000万円につき円貨の手貸に切り替えることとし、既存融資を実行した。

(4) 原告は、同年3月26日、二之宮ハウジングの代表者が所有する不動産に根抵当権設定登記を得、Cは、同日、二之宮ハウジングの物上保証人となる予定のEに対し、電話でその旨を確認した。

(5) 原告は、平成2年4月10日、被告に対し、資金使途を増加運転資金とする二之宮ハウジングの信用保証委託申込書(乙一二の2)とともに、資金使途を分譲マンション建設資金として、当初の保証契約に係る信用保証依頼書(乙一二の1)を提出し、同月11日、Eが所有する不動産につき根抵当権設定登記を得た。

(6) Cは、同月13日、上司に対し、当初の保証契約の内諾を申請し、同月16日、担当役員から当初の保証契約の内諾の決裁を得た(乙一三)。そして、原告と被告は、平成2年4月17日、当初の保証契約を締結した。

(二) しかして、前掲証人Dの原審証言及び甲一〇(同証人の陳述書)中には、「被告の審査役であるCが当初融資が旧債振替に当たることについて事前に了解していた」との原告の主張に沿う供述(陳述)部分があり、また、甲五(原告において既存融資を実行する際に作成された禀議書)の「返済財源・方法」欄には、「テナント分譲マンション売却による。(200万円については期限に保証付証貸にて2ヶ年間で分割返済に切り替えする。)(大阪府保証協会了解済)」と記載されている。

しかし、Dは、原審証言において、一般に旧債振替が禁止されていることは知っていたが、本件のように、二之宮ハウジングへの既存融資を当初保証の付された当初融資によって切り替えることが旧債振替禁止条項にいう旧債振替に該当するという認識は全くなかったと供述しているのであって(旧債振替に該当するとは考えなかった理由のひとつとして、Cの指導があったからとも証言するが、具体的にどのような指導があったのかは必ずしも明確ではない。)、そうであれば、Dとしては、既存融資を実行するに当たり、Cや被告から何らかの承諾を得る必要はなく、もっぱら、当初融資に際して被告の信用保証を確実に得られるという確証さえ得られればよいと考えていた可能性が高く、Cに対し、右既存融資のことを説明していたという供述を直ちに信用することはできない。

そして、前記甲五の稟議書の記載についても、Dにおいて、Cから、1か月後には当初融資に対し当初保証が付されることの内諾を得たことをもって、当初融資の回収が確実となったと考え、「大阪府保証協会了解済」と記載したのにすぎないという可能性を否定できないから、この記載に前記(一)の認定事実を総合しても、Cが当初融資が旧債振替に当たることについて事前に了解していたとの原告の主張事実を認めるには足りないというべきである。

なお、前記(一)(4)のとおり、Cは、平成2年3月26日にEに根抵当権設定の意思確認をしているが、その旨の登記がされたのは、同年4月11日であって、それだけでは、同年3月16日の既存融資の実行を知っていたことにならない。

(三) また、仮に、原告が主張するように、被告の審査役であるCが当初融資が旧債振替に当たることについて事前に了解していたとしても、同人の代理権限について何ら主張立証のない本件においては、右について被告が承諾していたとまではいうことができないし、その他に、被告において、当初保証の際に、原告が既存融資を実行しており、当初融資により既存融資の弁済がなされる予定であることを認識していたことを認めるに足りる証拠はない。

3  以上によれば、被告は、本件基本契約12条に基づき、当初の保証契約に基づく保証債務の全額について免責され、右の保証債務は消滅したということができる。

二  当初の保証契約と本件保証契約の関係について

1  <証拠省略>によれば、次の事実が認められる。

(一) 当初の保証契約については、貸付(保証)金額が1億2,000万円と8,000万円との2口で、保証種別をいずれも01、保証番号を<省略>と<省略>とする2通の信用保証書が発行され、いずれも貸付(保証)期間が貸付実行日から48か月、貸付形式が証書貸付、資金使途が運転資金、返済方法が13か月目から1か月330万円(元本1億2,000万円の分)及び220万円(元本8,000万円の分)の均等分割返済(なお、最終期日に残額を一括返済)とされ、前記各根抵当権を代位弁済と同時に被告に移転することが約された。

(二) 次いで、原告と被告は、平成3年9月26日ころ、当初融資の返済方法の変更に対応して、当初の保証契約の保証条件を変更し、元金の弁済開始日を平成4年3月とし(分割弁済額及び最終弁済期はそのままとし、残額は最終期日に一括返済する。)、その旨の変更信用保証書2通が作成され、更に、平成4年2月28日ころ及び同年12月8日ころにも、右と同様の変更手続が取られた。

(三) 原告は、平成6年5月13日、被告に対し、二之宮ハウジング作成の2通の返済猶予願書(乙九の1、2)並びに資金使途を借換資金及びその他とする信用保証委託申込書(乙一四の2)とともに、自己作成の資金使途を「運転資金」とする信用保証依頼書(乙一四の1)を提出したが、同書面の「資金使途と必要理由」の欄には「既保証ののりかえ延期継続」と記載されている。

(四) 被告は、同月24日、貸付(保証)金額を2億円、貸付(保証)期限を貸付実行の日から12か月、貸付形式を証書貸付、資金使途を運転資金、返済方法を期日一括返済とし、前記各根抵当権を代位弁済と同時に被告に移転する旨約された本件保証契約に係る保証種別01、保証番号<省略>の信用保証書(甲一の2ないし4)を作成し、更に、同年6月21日ころ、右信用保証書の有効期限を同月23日から同年7月23日に延長する延長承認書(甲一の1)を作成して原告に交付した。

(五) 原告は、平成6年6月30日、本件融資に係る金銭消費貸借契約証書(甲二)を作成し、印紙代10万円、16日分の貸付利息42万7,397円、本件保証契約の保証料200万円、当初の保証契約の保証料の未納分36万5,723円を控除した1億9,710万6,880円を原告方の二之宮ハウジング名義の普通預金口座に振替入金し、即時、預金残高2億0,050万0,392円となった右預金口座から当初融資に基づく残元金1億0,680万円及び7,120万円と残利息1,313万2,010円及び930万1,841円の合計2億0,043万3,851円を引き落とし、また、前記保証料合計236万5,723円を二之宮ハウジングの別段預金に入金し、同日、36万5,723円が、同年7月13日、200万円が、それぞれ被告に対し支払われた。

2  右の認定事実によれば、当初融資は、3回変更された上、本件融資に切り替えられたが、切替の理由については、当時、中小企業信用保険法上の保険限度額が信用保証額と同額の2億円に改訂されたので、当初の保証契約の1億2,000万円と8,000万円との2口の信用保証を1口にまとめて、2億円の保証とする必要上、本件保証契約締結に至ったものと認められ(弁論の全趣旨)、その他には格別の理由も窺えない。

そうすると、前記1(三)の信用保証依頼書の記載内容をも併せ考えると、当初の保証契約と本件保証契約とは、保証番号を異にして、前者について2通の信用保証書が、後者について1通の信用保証書が発行されている点において異なってはいるものの、その理由は、貸付口数と金額が異なるため、別途信用保証書を作成し直す必要があったためというにすぎず、これを実質的に見ると、本件保証契約は、被告が主張するように、当初の保証契約の延期継続にすぎないというべきである。

したがって、両者は同一性を有しているということができるから、前記一のとおり、当初の保証契約に基づく保証債務が消滅した以上、被告は、本件保証契約に基づく債務を負わないというべきである。

以上の認定及び判断に反する原告の当審主張は、いずれも採用することができない。

3  錯誤無効について

なお、前記1で認定した事実関係によれば、当初融資は本件融資によって切り替えられたと認められるところ、被告としては、当初保証が前記一のとおり旧債振替条項違反により消滅していることを知っていたのであれば、本件保証契約に応ずることはおよそ考えられず、本件保証契約が当初保証の有効な存在を前提とするものであることは、原告においても十分認識していたものと推認されるから、本件保証契約は要素の錯誤により無効ということもできる。

原告は、右の錯誤につき被告に重大な過失があったと主張するが、前記一2のとおり、被告ないしはCが当初融資によって既存融資を返済する予定であったことを了解していたことを認めることはできないのであるから、右の主張も採用できない。

三  結論

以上によれば、原告の請求は理由がなく、これを全部棄却すべきであるから、これと異なる原判決は、その限度で取消しを免れない。

よって、原告の本件控訴は理由がないからこれを棄却し、本件附帯控訴に基づき、被告敗訴部分を取り消して原告の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法67条、61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鳥越健治 裁判官 山田陽三 西井和徒)

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