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大阪高等裁判所 平成12年(ネ)519号 判決

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、控訴人に対し、金九八五万四八〇〇円及びこれに対する平成一〇年三月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

四  仮執行宣言

第二事案の概要

以下に補正するほか、原判決「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決三頁一一行目から同四頁一行目にかけての「会社であり、」の次に「平成九年一、二月当時、」を加え、同二行目から三行目にかけての「社員である。」を「社員であったものである。」と改める。

二  同五頁一一行目の「五月三〇日」を「五月三一日」と改める。

三  同七頁一行目から二行目にかけての「その後、的場らが本件土地を造成しないまま他に転売したため」を「ところが、的場らは本件土地を造成しないまま他に転売していたため」と改める。

四  同八頁八行目から九行目にかけての「強く申し向けて」を「確約して」と改める。

五  同一〇頁三行目から四行目にかけての「義務があるのに、葉山及び東はこれを怠った。」を「義務がある。しかるに、葉山及び東は、的場らが残代金決済以前に倒産して自ら本件土地を造成することができず、これを転売したこと、そのため控訴人が本件税額軽減制度の適用を受けることができなくなったことを十分承知しながら、その事実を控訴人に秘匿したまま残代金の決済に導いたものであり、控訴人主張の注意義務(原判決第二の三1)に故意に違反したことは明らかである。仮にそうでないとしても、過失による責任は免れない。」と改める。

六  同一〇頁八行目の次に行を改めて、次のとおり加える。

「(被控訴人の主張)

控訴人の主張は、すべて争う。

単なる仲介業者に過ぎない被控訴人に対し、控訴人主張の義務を課すには、少なくとも、買主の転売によって、税の軽減が受けられなくなることが予見可能な具体的状況が必要であるが、かような状況は存在しなかった。

仮に、被控訴人に控訴人主張の義務があったとしても、被控訴人は、本件売買契約に「売主が本件税額軽減制度の適用を受けることができず、一般の長期譲渡所得として申告することになった場合、買主は売主に対して本件税額軽減制度が適用された場合の税額と申告税額との差額を補償しなければならない。」旨の特約条項を付したことにより、右義務を履行した。特約条項の内容については、控訴人自身が承認しているものであり、的場らに対し右義務の履行を求めれば足りるのである。

被控訴人が損害を被ったとすれば、それは、的場らの右特約条項の不履行により生じたものであって、税の軽減を受けられないことによって生じたものではない。また、的場らの転売が本件売買契約上債務不履行になるとしても、被控訴人は、右転売を阻止する義務はないし、的場らの義務につき保証債務等を負ってもいない。」

七  同一一頁二行目の次に行を改めて、次のとおり加える。

「(被控訴人の主張)

控訴人の主張は争う。控訴人の主張する損害額は、履行利益・得べかりし利益=本件売買契約の存続・履行を前提にしたものだけである。控訴人の主張する調査、報告等の安全配慮義務等は、いずれも本件売買契約を締結させない義務、本件売買契約を途中で解消させる義務であるが、これらの義務と履行利益・得べかりし利益との間には、因果関係がないから、本件売買契約を締結させない義務、本件売買契約を途中で解消させる義務等に基づく(売買の履行を前提とした)減税相当額の損害賠償請求は、失当である。」

第三当裁判所の判断

一  争点1(被控訴人の債務不履行ないし不法行為の成否)について

1  証拠(甲二、三、五、八、一一、一六の1ないし7、二三、乙二、証人葉山(原審)、同東(当審)、控訴人本人(原審))及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 控訴人は、本件不動産を他に賃貸していたところ、平成八年一二月ころ、賃借人がこれを明け渡したため、以後空き家となっていた。

そのため、控訴人は、平成九年一月ころから、不動産業者より本件不動産を売却してほしい旨の申入れを受けるようになった。

控訴人は、被控訴人に本件土地上にマンションを建築させてこれを売卸しようと考え、親戚で被控訴人の社員である渡辺純(以下「渡辺」という。)に被控訴人の意向を聞いてくれるよう依頼したところ、渡辺から、マンション建設は無理だけれども、被控訴人の仲介により本件不動産を他に売却したらどうかと勧められた。そこで、控訴人は、被控訴人に売買の媒介方を打診した。

(二) 葉山と東は、同年一月三一日ころ、控訴人方を訪れ、本件不動産の売却につき相談を受けた。控訴人は、希望する手取額を述べたので、葉山と東は、計算書(甲二)を示して本件税額軽減制度の概要及び右制度が適用されれば、適用されない場合に比べ約一〇〇〇万円の譲渡税が軽減されることを説明した。その際、葉山と東は、控訴人に対し、右制度が適用されることや、適用が受けられなかったときには、被控訴人が責任を持つ旨を確約したことはなかったものの、適用が受けられない可能性もあると説明したこともなく、受けられる見通しが高いものとして右の説明をし、売却を勧めた。

控訴人は、右説明を聞き、本件不動産を売却すれば、本件税額軽減制度の適用により約一〇〇〇万円の税金が軽減されると考え、これを売却することを決め、被控訴人にその仲介を委託した。

(三) 本件土地は、面積が広く、そのままでは一般人に売却することは困難であり、売却先は事実上不動産業者に限られていた。また、本件税額軽減制度が適用されるためには、買主が他に転売することなく、自ら本件不動産を造成する必要があった。

そこで、葉山は、以前被控訴人と取引があり、トラブルもなく、また、土地造成の実績がある的場に購入を依頼することにした。葉山が的場に対し、本件税額軽減制度を利用したいとの話をしたところ、同人も最終的にこれを了承し、自ら造成をする前提で、本件不動産を購入することを約した。

(四) 控訴人は、同年二月三日、原判決第二の二2記載のとおり、被控訴人との間で本件媒介契約を締結した。その際、葉山は、万一本件税額軽減制度の適用が受けられない事態が生じた場合のことを考え、控訴人の了承を得た上で、売買契約書に後記(五)<2>の特約条項を設けた。

(五) 控訴人は、被控訴人の仲介により、同月一八日、的場外一名(的場の意向により買主は二名となった。)との間で、本件売買契約を締結した。この契約には、<1>売主が確定申告時に本件税額軽減制度の適用を受けるために、買主は、平成一〇年二月末日までに申告に必要な書類を売主に交付しなければならない、<2>万一、売主が本件税額軽減制度の適用を受けることができず、一般の長期譲渡所得として申告することになった場合には、買主は、売主に対し、右軽減措置が適用された場合の税額と申告税額との差額を申告日から三か月内に補償しなければならない旨の特約条項が設けられていた。

残代金の決済は、平成九年五月三〇日に行われた。

(六) ところが、的場は、右残代金決済の当時、既に自ら本件土地を造成する資力を欠いていたため、これを株式会社西沢建設に転売し(所有権移転登記は残代金決済当日の同年五月三〇日付であり、控訴人からの中間省略登記がなされた。)、その転売代金をもって、(五)の残代金の決済を行っていた。

葉山及び東は、平成九年末ころ、的場が倒産したことを知り、また、平成一〇年三月、前記中間省略登記がなされていることを知った。

2  右事実のもとで、被控訴人に控訴人主張の債務不履行ないし不法行為が認められるか否かにつき検討する。

不動産仲介業者が取引当事者の同一性、目的物の権利関係等にとどまらず、その仲介する不動産取引による課税の有無についても調査確認すべき業務上の注意義務を負うべきか否かは問題がある。しかし、不動産仲介業者又はその従業員は、不動産取引の専門家として、不動産自体に関する知識だけでなく、その取引に必要な民法、税法その他の法律上の知識を有することが一般に期待されているものであることに鑑みると、少なくとも、仲介業者又はその従業員が課税上有利であることを示して不動産取引を勧め、委託者がそのことを主たる動機として仲介を委託したという事情がある場合には、仲介業者は、不動産取引による課税の有無あるいは課税額等につき調査確認してこれを委託者に説明し、同人に不測の損害を与えないよう配慮すべき業務上の注意義務を負うと解するのが相当である。

本件でも、1(二)のとおり、被控訴人の社員である葉山と東は、本件税額軽減制度の適用が受けられるとの高い見通しのもとに、計算書に基づき減税見込額を控訴人に説明して本件不動産の売却を勧め、控訴人も右説明を聞いて被控訴人に本件売買契約の仲介を委託したのであるから、被控訴人は右注意義務を負っていたというべきである。もっとも、右注意義務の内容は課税要件によって異なるものであり、課税されるか否かが当該取引の対象、数量、価格等、取引自体から容易に認識できる事実にかかっている場合には、仲介業者は、右事実及びこれに対する課税の有無につき正確に調査すべき義務を免れないが、本件のように、課税されるか否かが買主の第三者への転売という取引外の行為にかかっている場合には、これを認識することは多くの場合容易でない(残代金決済前には登記簿に現れない。)から、仲介業者としては、買主の職業、過去の取引実績等に照らし、買主自らが当該土地を造成する意思と能力を有すると一応認められれば、それ以上、買主の造成能力(資力)を詳細に調査する義務や、契約後における買主の資力の変化及び行動をチェックする義務まではなく、ただ、取引終了時(残代金決済時)までに、転売あるいは転売が疑われる事実を認識した場合には、これを調査して委託者(売主)に説明する義務を負うに止まると解するのが相当である。この場合、売主が事後に予想外の課税をされて損害を被ることがあり得るが、これに対しては、1(五)のような特約条項により、転売をした買主の責任を追及していくほかはないと解される。

本件において、的場は、1(三)のとおり、本件売買契約前に被控訴人との取引や土地造成の実績があり、自ら造成をする前提で本件不動産の買主となったのであるから、本件土地を造成する意思と能力があると一応認められる状況にあったということができる。したがって、被控訴人には、的場の造成能力や契約後の行動等に関し、それ以上の調査をする義務はなかったと解するのが相当である。

これに対し、控訴人は、葉山及び東が本件税額軽減制度の適用を受けられる旨確約したため、その適用が受けられることを条件として本件媒介契約を締結したのであるから、被控訴人は、的場の造成能力や契約後の行動を詳細に調査する義務を負っていたと主張する。しかし、1(二)、(四)、(五)で認定した事実によれば、葉山及び東が本件税額軽減制度の適用を受けられる旨確約したとか、右制度の適用が受けられることを条件として本件媒介契約が締結されたとまでは認められず、右主張は失当である。

控訴人は、葉山と東は的場が倒産し本件土地を転売したことを知りながら、これを控訴人に秘匿したまま残代金の決済に導いたと主張するが、葉山と東が的場の倒産及び転売の事実を知っていたと認めるに足りる証拠はないから、右事実を控訴人に説明する義務を負っていたとはいえず、右主張は失当である。他に、葉山及び東が、転売が疑われるような事実を取引終了時(残代金決済時)までに認識していたことを認めるに足りる証拠もない。

なお、被控訴人は、単なる仲介業者に過ぎないから、本件税額軽減制度が適用されない場合には、被控訴人が軽減税額相当分を補填する旨保証したなどの特段の事由がない限り、的場らの本件売買契約に基づく債務の履行責任を負うものではないと解すべきところ、右特段の事由の存在を認めるに足りる証拠はない。よって、被控訴人は、的場らの前記特約条項の不履行につき責任を負うこともないというべきである。

3  以上によれば、被控訴人に債務不履行ないし不法行為の責任を認めることはできないといわざるを得ない。よって、その余の争点につき判断するまでもなく、控訴人の請求は理由がない。

二  結論

以上の次第で、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松尾政行 裁判官 亀田廣美 裁判官 坂倉充信)

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