大阪高等裁判所 平成12年(ネ)694号 判決 2001年3月08日
控訴人(一審本訴被告、同反訴原告)
株式会社ホリキリ
右代表者代表取締役
【A】
右訴訟代理人弁護士
米田宏己
同
西信子
同
山崎邦夫
同
石川直基
被控訴人(一審本訴原告、同反訴被告)
ベルフォーラム株式会社
右代表者代表取締役
【B】
右訴訟代理人弁護士
本渡諒一
同
伊藤孝江
同
木島喜一
右補佐人弁理士
清水久義
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は、控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決中控訴人の敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 被控訴人は、控訴人に対し、原判決別紙商標権目録記載の登録商標につき、移転登録手続をせよ。
4 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文と同旨
(以下、控訴人を「被告」、被控訴人を「原告」という。)
第二事案の概要
一 前提となる事実(証拠を摘示しない事実は当事者間に争いがない。)
1 当事者
(一) 原告は、建築工事の企画、設計及び施工等を目的とする株式会社である。
(二) 被告は、建築工事及び内装工事の企画、設計、施工を主たる業務とする株式会社である(乙1)。
2 原告商品の販売
原告は、一六枚のタイルを組み合わせたユニット式ジョイントタイル(以下、単にこのユニット式ジョイントタイルを指すときは「本件商品」といい、特に原告が販売する同商品を指すときは「原告商品」という。)を、「セラール CERAL」という商品表示(以下「本件表示」という。)を使用し、マンションのバルコニー用商品として販売している。
3 原告の商標権
原告は、原判決別紙商標権目録記載の商標権を有しており(以下、この商標権を「原告商標権」、この商標権に係る商標を「原告商標」という。)、右商標を使用して原告商品を販売している。なお、原告商標と本件表示は、ほぼ同じ内容のものである。
4 被告商品の販売
(一) 被告は、九枚のタイルを組み合わせたユニット式ジョイントタイル(以下「被告商品」という。)を、「セラール300 CERAL」との商品表示(以下「被告表示」という。)及び原判決別紙被告商標目録記載の商標(以下「被告商標」という。)を使用して販売している(なお被告表示と被告商標とはほぼ同じ内容のものであり、被告商標は被告表示に含まれるものである。)。
(二) 被告は、平成一〇年一〇月二一日以降、被告表示及び被告商標の使用を中止した。
(三) 被告表示及び被告商標は、本件表示及び原告商標と類似する。
(四) 被告は、平成六年から平成一〇年一〇日二〇日までの間に、被告商標を使用した被告商品を販売した。
なお、右被告商品の販売数と右販売にかかる利益額については、後記のとおり、当事者間に争いがある。
二 原告の本訴請求
1 不正競争防止法に基づく請求
右請求は、原告が、本件表示は原告商品の商品表示として周知性を有しているところ、被告商品についての被告表示の使用は、不正競争防止法二条一項一号に定める不正競争行為に該当するとして、被告に対し、①同法三条一項に基づき、被告商品を販売等するに当たって被告表示を使用することの差止め、②同条二項に基づき、原判決別紙著作物目録記載のパンフレット等の破棄、③同法四条に基づき、被告が被告商品を販売し始めた平成六年から平成一〇年一〇月二〇日までの間の被告商品の販売に係る損害賠償をそれぞれ求めたものである。
2 商標権侵害に基づく請求
右請求は、原告が、被告商標は原告商標と類似するから、被告商品を販売等するに当たって被告商標を使用する行為は原告商標権を侵害するとして、被告に対し、①商標法三六条一項に基づき、被告商品を販売等するに当たって被告商標を使用することの差止め、②同条二項に基づき、原判決別紙著作物目録記載のパンフレット等の破棄、③商標権侵害に基づき、平成九年七月二五日(原告商標権の登録日)から平成一〇年一〇月二〇日(被告商標の最終使用日)までの間の被告商品の販売に係る損害賠償をそれぞれ求めたものである。
三 被告の反訴請求
右請求は、被告が、原告商標を案出し、商品化したのは被告であるから、原告商標の商標登録請求権は本来被告が有すべきであり、真の商標権者は被告であるところ、原告は被告の商標登録請求権を冒用して商標登録出願をし、原告商標の商標登録を得たとして、原告に対し、真正な登録名義の回復を原因とする原告商標の移転登録を求めたものである。
四 原審の判断
原審は、本訴につき、本件表示は、原告代表者の個人企業であったロックウエストの商品であることを示す商品表示として周知性を取得したことを認めたものの、これは原告の商品としての商品表示としては周知性を取得したとは認められないとして、不正競争防止法に基づく請求を棄却し、原告商標権に基づく請求については、差止請求を棄却し、損害賠償請求を一部認容した。また、被告の反訴請求については、主張自体失当としてこれを棄却した。そこで、被告が、控訴を提起し、前記第一のとおりの裁判を求めた(原告は、敗訴部分について控訴を提起していない。)。
五 争点
(本訴について)
1 不正競争防止法関係
(一) 本件表示は、原告商品を示す周知の商品表示か。
(二) 被告商品は原告商品と誤認混同するおそれがあるか。
(三) 被告による先使用権の有無
(四) 損害額
2 商標権侵害関係
(一) 本件における原告の商標権の行使は権利濫用か。
(一)の2 過失の推定の可否
(二) 損害額
(二)の2 相殺の可否
(反訴について)
3 反訴の訴えの利益の有無
4 被告は原告に対する原告商標の移転登録請求権を有するか。
第三当事者の主張
一 争点に関する当事者の主張
争点に関する当事者の主張は、後記二以下を付加するほか、原判決一二頁五行目から二一頁九行目までに記載されたとおりであるから、これを引用する。
二 当審における被告の主張
1 権利濫用もしくはクリーンハンドの理論(争点2(一))について
(一) 権利濫用
原告商標の商標登録請求権は、本来被告が有するべきであるが、仮に、原告が商標権者であったとしても、本件商品の商品化に被告は甚大な貢献をしており、原告の被った損害の全損害を被告に負担せしめることは、右貢献を全く評価しないものであり、不法行為の基本理念である損害の公平な分担に反するものである。したがって、仮に損害賠償義務を認めるにしても、全損害の割合的負担によるべきである。
(二) クリーンハンドの理論
被告は、自らが商標権者として「セラール」について商標登録出願しようとしたが、当時日本硝子が右セラールの商標権者であったため、出願を断念した経緯がある。
しかるに、原告と被告は、右商標権者日本硝子の存在を認識しながら、本件表示を付した商品を販売していたのであり、原告自身、日本硝子の商標権を侵害していた者である。このような侵害者が、たまたま商品区分変更の間隙をぬって、被告をさしおいて商標登録出願をし、登録されるやこれを奇貨として、商品化に多大な貢献をした被告に対し、差止め及び損害賠償を求めるのは、クリーンハンドの原則、信義誠実の原則に反する行為であり許されない。
2 過失の推定について
本件表示の真実の商標権者は、被告であるから、被告の本件表示の使用に、原告の商標権侵害についての過失はなかったし、過失を推定することは許されない。
3 損害額(販売枚数と経費ー争点2(二))について
被告は、原審において、損害の算定について、通説と考えられた純利益説を前提として粗利益の額(同期間中九三〇〇枚の被告商標を使用した被告商品を販売し、これにより二四八六万八二〇〇円の売上を得、一八四七万九〇七〇円の売上原価を要し、六三八万九一三〇円の粗利益を得たとの主張)を争わなかったが、粗利益説に準じた判断がなされる以上、販売枚数及び経費について次のとおり主張する。
(一) 販売枚数
被告が、平成九年七月二五日から平成一〇年一〇月二〇日までの期間中、受注マンションに対し、被告商標を付して販売した被告商品の枚数は、右期間中に受注したものに限り合計すると四二四一枚となり、その粗利益は、三〇〇万三〇六五円である。
(二) 経費
右四二四一枚の販売に要した経費は、二四七万一一〇五円である。
(三) 利益
したがって、被告が、右期間中被告商品を販売することによって得た利益は、五三万一九六〇円である。
4 相殺(当審で追加された主張ー争点2(二)の2)
原告は、平成七年一二月、被告の得意先である訴外高島屋及び同兼松都市開発株式会社に対し、本件表示をした商品の販売中止を要請する文書を送付した。当時の原告の表示使用差止請求権の根拠は不正競争防止法に基づくものであったところ、原告の不正競争防止法に基づく主張は事実に反し、しかも、被告が先使用権を有していた。
被告は、得意先に迷惑が波及することをおそれ、高島屋納品分については表示を変更した上、「本件表示は使用しない」旨の文書を提出した。
原告は、右文書の写しをもって、被告の得意先をまわり、あたかも被告が違法行為をしているかの如く吹聴し、被告の営業を妨害した。
被告は、原告の右行為により営業活動に多大の損害を受け、原告に対し損害賠償請求権を有する。
仮に、原告の損害賠償請求権が認容されるのであれば、被告の原告に対する損害賠償請求権と右認容額と対当額において相殺する。
三 当審における原告の主張
1 被告の主張二1(権利濫用、クリーンハンドの原則)についての反論
原告商標の登録出願は適法になされており、原告は原告商標についての商標権者である。被告は、原告の権利を侵害したものであるから、損害賠償請求に際し、権利濫用やクリーンハンドの理論が適用されることはない。
2 被告の主張二2(過失の推定)についての反論
被告は、原告が従前から本件表示を使用していることを十分に認識しながら、意図的に本件表示類似の被告表示を使用したのであるから、被告の行為は故意に基づくものである。
3 被告の主張二3(損害)についての反論
(一) 時機に遅れた攻撃防御方法の却下の申立て
被告が当審において提出する、被告商品の販売枚数に関する書証は、時機に遅れた攻撃防御方法であるから、却下すべきである。
被告は、原審における反証が不十分であったというが、損害額の反証の機会を自ら放棄していたというべきである。
(二) 被告主張の販売枚数を争う。
被告の提出する証拠には、枚数などに齟齬があるなど信用できない。
(三) 経費については争う。
被告の主張する経費には裏付けのないものや、被告表示を付した被告商品の販売に関係しないものも含まれている可能性がある。
4 被告の主張二4(相殺)についての反論
原告が、高島屋外一社に内容証明郵便を送付したことは認めるが、被告が違法行為をしているかの如く吹聴したことはなく、したがって、被告が、営業を妨害された事実もない。
第四当裁判所の判断
一 事実経過
本件紛争にかかる事実の経過は、原判決二一頁末行から三二頁八行目までに記載されたとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決二二頁八行目の「原告」を「原告代表者」と改め、同二七頁二行目の「、23」を削る。)
二 不正競争防止法に基づく請求について
原判決は、不正競争防止法に基づく請求をいずれも棄却したところ、原告は、控訴を提起しておらず、原判決が一部認容した損害賠償請求については、後記のとおり、商標権に基づき、原判決の限度で認容することができるから、不正競争防止法に基づく請求については、当審において、判断することを要しない。
三 商標権に基づく請求(争点2)について
1 権利濫用もしくはクリーンハンドの理論(争点2(一))について
(一) 原告が原告商標権を有していること、被告商標が原告商標と類似することは、前記第二の一(基礎となる事実)記載のとおりである。
(二) 被告は、原告商標を使用した本件商品は、原告代表者からの相談を受けて、被告が商品化し、商品名も考案したのであるから、原告商標について商標登録請求権は被告こそが有するのであって、原告が、原告商標について商標出願し、右商標権に基づいて被告に対して被告商標の使用の差止め及び損害賠償を求めることは権利濫用であると主張するので、以下、検討する。
たしかに、前記一で引用した原判決記載のとおり、本件商品に「セラール」「CERAL」の名を付してマンションのバルコニー用の商品として売り出すに当たって、被告が大きな寄与をしたと認めることができる。しかし、「セラール」という商品表示(本件表示)は、ロックウエストの商品の表示として使用されることが予定されたものであって、被告の出所を表示するための商標として、案出されたものではない。そして、原告は、ロックウエストの休眠後、引き続き本件表示を使用していたところ、原告商標の登録を適法に出願し、その登録を得たのである。後記(三)のとおり、原告商標登録を得たことについて、被告の主張するようなクリーンハンドの原則に違反する事情が認められない以上、原告が被告に対し右商標権に基づく権利を行使することが権利濫用に当たるとは考えられないし、被告の貢献度を損害賠償の算定に当たり、考慮すべきであるとする主張も採用することができない。
(三) また、被告は、自らが商標権者として「セラール」について商標登録出願しようとしたが、当時日本硝子が右セラールの商標権者であったため、出願を断念した経緯があるところ、原告は、このような経緯を知りながら、商品区分変更の間隙をぬって、被告をさしおいて商標登録出願をしたのであるから、このような原告が被告に対して本件のような請求をすることはクリーンハンドの原則に反すると主張する。
たしかに、乙26、原告代表者及び被告代表者の各原審供述によると、平成二年当時、本件表示を商標登録することが可能かどうかが調査され、日本硝子が同様の商標権を有していることが判明したため、これを断念したことが認められるが、当時、本件表示を使用していたのはロックウエスト及び平成二年七月二五日に設立された原告であって、被告代表者自身が原告の株式を保有していたことに照らすと、被告が本件表示を商標登録出願しようとしたという被告代表者の供述を直ちに信用することはできず、むしろ、設立された当初の原告においてこれを出願しようとしたと認めるのが相当である。
そうすると、前記のとおり、ロックウエストが使用してきた本件表示を原告が使用していたところ、その後、商品区分変更により、商標登録が可能になったと判断して、原告が商標登録出願したことについて、被告との関係で、クリーンハンドの原則の適用を受ける理由はないというべきである。
2 過失の推定(争点2(一)の2)について
被告は、被告が本件表示の真実の商標権者であるから、被告が本件表示を使用するに当たり、原告の商標権侵害についての過失はなかったし、過失を推定することは許されないと主張する。
しかし、後記四で引用する原判決記載のとおり、被告が真実の商標権者であると認めることはできず、被告の主張は、その前提を欠くというべきであり、他に、商標法三九条、特許法一〇三条の規定を排除すべき事情も見当たらない。
3 損害額(争点2(二))について
(一) 当裁判所も、被告が、原告商標権の登録日である平成九年七月二五日から最後に被告商標を使用した平成一〇年一〇月二〇日までの間に被告商標を使用した被告商品を販売したことにより、原告の商標権を侵害し、原告は、被告に対して、損害賠償五三九万四四〇二円及びこれに対する平成一〇年一〇月二一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができると考える。
その理由は、次に付加、訂正するほか、原判決四三頁六行目から五二頁五行目までに記載されたとおりであるからこれを引用する(ただし、原判決四七頁八行目の「34に添付された」を「38の」と改める。)。
(二) 原判決四三頁八行目から四四頁二行目まで(粗利益についての説示の項)を次のとおり改める。
(1) 被告は、原審において、原告商標権の登録日である平成九年七月二五日から最後に被告商標を使用した平成一〇年一〇月二〇日までの間に九三〇〇枚の被告商標を使用した被告商品を販売し、それにより二四八六万八二〇〇円の売上を得たこと、そのために一八四七万九〇八〇円の売上原価を要し、六三八万九一三〇円の粗利益を得たことについて争っていなかったが、当審に至って、右の粗利益の額を争い、右期間における被告商品の販売数は四二四一枚であり、その粗利益は三〇〇万三〇六五円であったと主張するので(平成一二年五月三一日付準備書面添付受注現場明細一覧表。なお、平成一二年一〇月一四日付準備書面において、枚数の齟齬を指摘する。)、以下検討する。
(2) 販売枚数
被告は、仕入れた商品のうち、販売した枚数は八九三七枚で、うち被告商標を付して販売したものは四二四一枚であり、うち四六九六枚については、被告商標を使用せず、「バルコニー用タイル」などの名称で販売したと主張する。
たしかに、マンション購入者用に配布されたと思われるパンフレット類の中には、「バルコニー用タイル」とのみ記載されているものがあるが(乙54、64)、被告において、被告商標を付したパンフレット等を作成した上で被告商品を販売していたことに照らすと、実際の販売の現場、さらには、マンションの施工主に対する販売活動において、被告商品について被告商標が使用されていたと認めるのが相当である。
また、被告が主張する販売箇所、販売枚数については、変遷があるうえ、被告商標を使用せずに販売したと被告が主張する販売枚数については、これを直接裏付ける証拠はなく、その他には、前記九三〇〇枚以外に販売枚数を推定させるに足る資料が見当たらず、右の期間中において販売した被告商品の総数を明らかにするには足りないというべきである。
原審では、近畿セキスイ商事から仕入れた九三〇〇枚全てに被告商標を使用して販売したことを前提とする主張について、これを争わないと述べたと認められること、被告において、在庫を有していたと推測されることなどに照らすと、被告は、右期間において、被告商標を使用した被告商品を九三〇〇枚販売したと認めるべきであると考える。
(3) 一枚当たりの粗利益について
被告の当審における前記主張によると、被告商品一枚当たりの粗利益額は七〇八円となり、右金額は、原審において争わなかった一枚当たりの粗利益額である六八七円を超えるものであり、被告は、一枚当たりの粗利益額の認定については争っておらず、弁論の全趣旨から一枚当たりの粗利益額は六八七円と認めるのが相当である。
(4) 以上によると、右期間の被告商標を付した被告商品の販売による粗利益の金額については、原判決のとおり六三八万九一三〇円と認定することができる。
(三) 売上原価以外に控除すべき経費について
被告は当審において、公告宣伝費、積算に要する人件費、インテリアプラン集のコピー代(コピー人件費)、販売人件費、倉庫保管費、運搬費などの費用について証拠を提出するが、前記(一)に引用した原判決に記載されたとおり、被告は、被告商品以外に数多くのマンション用オプション品の販売をしており(乙5、31)、右の事実に照らしてみると、当審で提出された各証拠によって認められる経費のうち、被告商品の販売のために要した経費のみを算定することは困難といわなければならない。
また、被告は、歩留まり保管費、アフターなどの経費を主張するが、これを認めるに足る証拠はない。
4 相殺の可否(争点2(二)の2)について
被告は、原告が、未だ本件商標権の登録がなされる前に、被告の得意先に対し、被告が違法行為をしているかの如く吹聴して、被告の営業を妨害し、被告は原告に対し損害賠償請求権を取得したと主張するが、被告主張の相殺の受働債権となる原告の債権は、不法行為に基づく損害賠償請求権であるから、右自働債権の存否について判断するまでもなく、被告の相殺の主張は理由がない。
四 反訴について
当裁判所も被告の反訴請求は理由がないと考える。
その理由は、原判決五二頁七行目から五六頁二行目までに記載されたとおりであるから、これを引用する。
なお、前記三で述べたところからすれば、原告商標について本来商標権を取得すべき者が被告であるといえないことは、明らかである。
五 結論
以上によると、原告の本訴請求は、原判決主文掲記の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却すべきであり、被告の反訴請求は、理由がないからこれを棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当である。よって、本件控訴を棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法六七条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 若林諒 裁判官 山田陽三)
裁判長裁判官 鳥越健治は、転補につき、署名押印することができない。 裁判官 若林諒