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大阪高等裁判所 平成12年(行コ)100号 判決 2001年5月24日

控訴人

控訴人

両名訴訟代理人弁護士

森賢昭

被控訴人

西宮税務署長

林貞好

訴訟代理人弁護士

滝澤功治

指定代理人

大濱寿美

高谷昌樹

堀本繁喜

三木茂樹

主文

1  本件各控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1当事者が求めた裁判

1  控訴人ら

(1)  原判決を取り消す。

(2)  控訴人らの平成6年11月16日相続開始に係る相続税について、被控訴人が平成9年8月7日になした更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、いずれも平成10年1月5日付け異議決定により一部取り消された後のもの。以下、「本件更正処分」、「本件過少申告加算税賦課決定処分」という。)を取り消す。

(3)  訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文同旨。

第2事案の概要

1(1)  本件は、平成6年11月16日死亡した丙(以下「被相続人丙」という。)の相続人である控訴人らが相続税の申告をなすに当たり、かつて被相続人丙が所有し、相続開始時点で控訴人甲の所有であった西宮市新甲陽町宅地297.54平米(以下「本件土地」という。)上の被相続人丙所有の建物(以下「本件建物」という。)について借地権を伴わないものとして申告を行ったところ、被控訴人から本件更正処分・本件過少申告加算税賦課決定処分を受けたため、これらの取消しを求めている事案である。

(2)  原判決は「①被相続人丙は本件土地上に本件建物を建築・所有し、その対価として、控訴人甲に対し、本件土地の固定資産税額の約10倍に当たる月額20万を支払っていたのであり、親子間の貸借とはいえ、その利用権が使用貸借ではあり得ず、借地借家法上の借地権を有していたものといわざるを得ない。②本件土地の借地権は、相当地代通達が適用される特殊な賃貸借とはいえないから、原則に戻って評価通達の貸家建付借地権として評価するのが相当である。③評価通達に定めた貸家建付借地権の評価方法は合理的なものであり、また、相当地代通達も特殊な土地貸借について例外的な評価の取扱を定めるものとしては不合理とはいえない。」旨判示し、控訴人らの請求を棄却した(なお、一部却下された部分もある。)。

(3)  控訴人らは原判決を不服として本件控訴に及んだ。

2  争いのない事実、主要な争点、当事者の主張は原判決の事実及び理由、第二記載のとおりであるからこれを引用する。

3  控訴人らの控訴理由

(1)  本件は、相続人の1人が高齢の被相続人から土地を買受けた直後、被相続人に対して建物の新築を認めた事案であり、このような土地利用権に借地権価額といった高額の価値を認定することは実質課税を定めた相続税法の趣旨に反し、社会常識に反するものである。

(2)  原判決は、前記1(2)①のとおりの形式的な理由から、被相続人丙の利用権を借地権と評価し、借地借家法の適用を受ける通常の借地権と同様に扱っている。しかし、被相続人丙の利用権が、仮に借地権に当たるとしても、これを通常の借地権価額と同様の強力なものとみるのは不合理である。その理由は以下のとおりである。

ア 被相続人丙は老齢かつ病身であり、医業を廃止した後、安定収入である家賃を得るべく本件土地を利用したのであり、これによって得られる家賃収入は実質的に生計を一にする控訴人甲の扶養とみることができる。

イ 本件建物の所有権はいずれ相続により、被相続人丙から控訴人甲に移転すべきものである。にもかかわらず、控訴人甲が強力な利用権の設定をすることなどおよそ考えられない。

ウ 債権関係は当事者間で多種多様であり、課税という側面では特に経済的価値評価の相当性が問題になる。借地権が移転したものとみなす通達があるからといって、それによって借地権が移転する訳ではない。通常の権利金、これに経済的に見合う

相当地代もしくは通常地代を支払わなくても、被相続人丙が本件土地に本件建物を建設できたのは、控訴人甲に権利性の強い借地権の設定をする意思がなかったためであるとみるのが相当である。原判決が指摘する借地借家法2条は強行法規であるが、契約当事者の意志を全く無視して契約の拘束力を判断する規定ではない。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も本件更正処分、本件過少申告加算税賦課決定処分はいずれも適法であり、本件各控訴は理由がないものであると判断する。その理由は以下に付加するほか原判決の事実及び理由、第三記載のとおりであるからこれを引用する。

2  以下の事実は当事者間で争いがない。

(1)  被相続人丙は、昭和57年2月10日、本件土地を前主から買い受け、昭和62年6月15日、控訴人甲に5177万1960円で売り渡した。同売買価格は昭和62年分の路線価に本件土地面積を乗じた相続税評価額によるものであり、贈与税の対象とされない最低限度の取引金額であった。

(2)  被相続人丙は、控訴人甲から本件土地を権利金を支払うことなく、月額20万円で借り受け、本件土地上に5000万円余りをかけて本件建物を建築した。

(3)  被相続人丙は、その後、本件建物を株式会社A(以下「A」という。)に月額40万円で賃貸した。Aの代表取締役は控訴人甲の夫丁であり、控訴人甲もその取締役をしている。

(4)  本件建物はAの事務所並びに控訴人甲及びその家族との居宅として利用されている。

3  上記2の事実によると、本件土地の売買、本件建物の建設等の一連の行為は、被相続人丙が相続税対策として行ったものと認められる。したがって、その際、本件土地利用権について賃貸借を採用し、それが相当地代通達の適用を受けるものではない以上、原則に戻って評価通達の貸家建付借地権の評価方法が採られることはやむを得ない。

4  控訴人らは「被相続人丙らには本件土地利用権を借地借家法の適用を受けるような強固なものとする意思はなかった。」旨主張する。

確かに、本件土地利用権の設定が、前記のとおり、被相続人丙の相続税対策の一環として行われたものであることからすれば、当事者の意識としては借地借家法を排除し、極めて効力の弱いものとする意図を持っていたものと認められる。しかし、このような当事者の意思は法的保護に値するものではない。

そして、上記でみた本件の実体に照らすと、通常の評価を行うことが実質課税を定めた相続税法の趣旨に反するとか、社会通念に反するなどとはいえないことが明らかである。

5  以上のとおり、原判決は相当であって本件各控訴は理由がない。

よって、本件各控訴をいずれも棄却することとし主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井筒宏成 裁判官 古川正孝 裁判官 和田真)

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