大阪高等裁判所 平成12年(行コ)101号 判決 2001年3月16日
控訴人
甲野花子(仮名)
同訴訟代理人弁護士
浅野博史
被控訴人
兵庫県知事 貝原俊民
同訴訟代理人弁護士
俵正市
同訴訟復代理人弁護士
寺内則雄
同指定代理人
垣内秀敏
畠充治
小橋浩一
上村政弘
井上勝文
大西信一郎
谷公一
余田大造
四海達也
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第三 当裁判所の判断
当裁判所の判断は、次のとおり付加・補正するほか、原判決「事実及び理由」中「第三 当裁判所の判断」記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決二五頁一〇行目「接する」の次に「と感じる」を加える。
二 同二九頁二行目「原告は、」の次に「事前に相談すれば反対されることが明らかであったため、」を加える。
三 同頁一二行目「原告は、」の次に「春子には相談していなかったけれども、」を加える。
四 同三〇頁二行目「目に」を「目を」に改める。
五 同頁一二行目「いたが、」の欠に「控訴人の退職の決意が強固であると感じたことから、」を加える。
六 同三一頁四行目「原告は、」の次に「休暇を取得する手続を取ることなく、」を加える。
七 同三二頁五行目「右両日において」から次行「渡した。」までを「控訴人は、同月一六日に三谷副所長から退職願の書式を受領し、同月一八日に同人に診断書を渡した。」に改める。
八 同三七頁二行目「原告は」から同三八頁一行目「帰った。」までを次のとおり改める。
「控訴人は、数回にわたって北岡所長及び三谷副所長に対し、「退職願を提出したことで、母親にひどく叱られた。退職願の取消しというのはできないのでしょうか。」等と言った。北岡所長は、それまで控訴人の退職の意思が強かったことから、控訴人の真意に疑問を抱き、「お母さんに怒られて気が変わったのか。あなたの本当の気持ちはどうなのか。」と尋ねたが、控訴人は無言であった。そこで、北岡所長がさらに、「元に戻ったとしても、仕事がやりづらいのではないか。」等と言ったが、控訴人は考え込んだ様子で、無言であった。そして、北岡所長がこのような説得を続けて約三〇分経過したころ、励ますような口調で、「今までいろいろなことであなたの相談に乗ってきて、あなたの性格はそれなりに知っているつもりだ。あなたは一度決めたらそれに向かって進むといういい性格をしている。それに向かって進んだらどうか。」と言うと、控訴人が納得した様子に見えたので、三谷副所長に退職手続の説明等を任せて退出した。三谷副所長も、控訴人に「元に戻ったとしても、人間関係が前よりも難しくなると思う。」「甲野さんの事務は、他の皆が苦労しながらも一生懸命処理してくれている。」と言い、「自分の進みたい道に進んで、頑張って欲しい。」等と励ました。そして、「退職しても、今後の人生は応援していきたい。」と言うと、控訴人は「分かりました。」と答えた。そこで、三谷副所長は、退職手当に関する申告書の提出等、今後の退職に伴う手続についておおまかに説明し、控訴人は何ら異議を述べずこの説明を聞いていた。三谷副所長がこの説明を終え、詳細については麻埜課長補佐から説明するが、それは後日にしようと言うと、控訴人は、「それでは」と言って席を立った。」
九 同三八頁一二行目「同日」の次に「午後六時ころ」を加える。
一〇 同三九頁四行目「(乙七)」を削る。
一一 同頁六行目「三〇日に」の次に「口座振替により支給された」を加える。
一二 同四〇頁一〇行目「右撤回の意思表示は」を「右春子の申し入れは、控訴人の退職願撤回の意思表示としての」に改め、同頁同行目末尾「る」を削る。
一三 同四一頁二行目「前記」から同四二頁五行目「相当である。」までを次のとおり改める。
「前認定の事実(原判決「事実及び理由」中「第三 当裁判所の判断」の一10及び11)によれば、控訴人は、平成八年七月二九日に西宮保健所所長室において北岡所長及び三谷副所長と面談した際、最初は退職願を撤回するつもりであったと認められるが、面談を続けるうちに、北岡所長らから退職願を撤回しないようにとの趣旨の説得を受け、これに納得した様子となり、三谷副所長がおおまかな退職手続の説明をした時にこれを拒否せず、その説明を受け、同月三一日に免職辞令を何ら異議を述べずに受領し、八月一二日に退職手当に関する申告書、地方職員共済組合兵庫県支部への退職届書と資格喪失届書を提出し、同月三〇日に退職手当を受領し、これを返還しようとしておらず、九月三〇日に職員き章の紛失届を提出しており、その間退職願を撤回する旨の書面を提出していないから、これら事実に照らすと、控訴人は、七月二九日に北岡所長らと面談した際、北岡所長及び三谷副所長の退職願を撤回しないようにとの趣旨の説得に応じ、結局退職願を撤回しなかったものと認められる。
ところで、甲一、乙二五、二六、原審における控訴人の供述中には、同面談の際、北岡所長らは冷淡で、控訴人は、同所長らから一旦退職願を提出すると退職願の撤回が不可能であると思い込まされ、そのため抵抗しても仕方がないというような気持ちで免職辞令を受け取ったとの部分がある。そして、乙二六によれば、控訴人は退職願を撤回できないという理由を聞いたかどうかは記憶がない、あるいは理由を聞く段階に至らなかったというのであるが、控訴人が真に退職願を撤回する意思を持ち続けていたとすれば、北岡所長らに対し退職願を撤回することが不可能であるという法律的・制度的理由を確かめ、また、内容の重要性に照らすと、もしその理由を聞いていれば、これを覚えている筈であり、次に、被控訴人の職員は一旦退職願を提出するとこれを撤回することがおよそ許されないと認めるに足りる証拠はなく、したがって、北岡所長らが一旦退職願を提出すると退職願を撤回することは不可能であると述べたというのは、俄に肯けない。そして、乙一、一三、二九によれば、北岡所長及び三谷副所長は一旦退職願を提出すると退職願の撤回が不可能であると述べたことはないというのであるから、これら事実に照らすと、控訴人は北岡所長らから一旦退職願を提出すると退職願を撤回することが不可能であると思い込まされた旨の上記各証拠は採用することができない。」
一四 同四二頁六行目「三」から同四九頁三行目「ない。」までを削る。
第四 よって、控訴人の本訴請求は、理由がないから棄却すべきであり、これと結論を同じくする原判決は結局相当であって、控訴人の本件控訴は、理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担について行政事件訴訟法七条等民訴法六七条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大喜多啓光 裁判官 安達嗣雄 橋本良成)