大阪高等裁判所 平成12年(行コ)113号 判決 2001年10月12日
控訴人
甲野太郎(仮名)
(ほか40名)
上記41名訴訟代理人弁護士
井関和彦
河村武信
豊川義明
大江洋一
森信雄
城塚健之
坂本団
被控訴人
高槻市長 奥本務
同訴訟代理人弁護士
俵正市
寺内則雄
井川一裕
主文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第2 事案の概要
本件事案の概要は、次のとおり付加するほか、原判決「事実及び理由」中「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決19頁6行目の次に行を改めて、次のとおり加える。
「(4) 期末手当は生活補給金的要素が強いのに対し、勤勉手当は、報償金的要素が強い性格のものであって、期末手当の支給割合が職員個々に適用されるよう支給時期ごとに定められているのに対して、勤勉手当の支給割合は、国家公務員の場合と同様に、まず職員全員の給与総額に占める割合として規定され、ついで職員個々の支給割合について期間率と成績率によって算定されることになっている。」
2 同26頁5行目の次に行を改めて、次のとおり加える。
「 近時雇用関係の特殊性を考慮した労働者の個人情報保護基準が定立されてきた。すなわちILOの「労働者の個人データの保護に関する実施コード」によれば、人事情報に関する労働者の権利として、<1>保管されている個人データ及びその処理について定期的に知らされるとともに、原則として通常の就業時間中に、自己のすべての個人データにアクセスし、記録を調査し複写する権利、<2>誤った、又は不完全な個人データの訂正権等が認められている。すなわち、労働者の個人情報の保護は、一般的保護と特別に具体化された保護という重畳的な適用下におかれている。これらの動向を踏まえ、我が国においても、1999年の職業安定法及び労働者派遣法の改正によって、労働者の個人情報規定が設けられるに至った。すなわち、職業紹介事業を営む者並びに労働者派遣事業者に対し、労働者の個人情報を適正に管理する措置を講じなければならないとの規定が設けられ(職安法5条の4第2項、派遣法24条の3第2項)、これを受けて定められた指針では、個人情報の管理に関する規定を作成し、その中に本人から求められた場合の開示と訂正(削除を含む。)の取扱に関する事項を定めることとされている(労働省告示「職業安定事業の運営に当たり留意すべき事項に関する指針」第4・2・(3)、同「派遣元事業者が講ずべき措置に関する指針」第2・10・(2))。
(7) 本件で問題となっているのは、一般的な人事考課制度の下における人事考課内容ではなく、勤勉手当という賃金額に直接結びつけられた個別具体的な考課内容であり、その内容如何によって賃金額が変動するという意味において、考課内容は労働条件そのものと評価することができる。そして、地方公務員についても労働基準法15条の適用があると解されるから、本件考課内容すなわち本件文書は労働条件そのものとして当該控訴人に開示されるべきである。」
第3 当裁判所の判断
当裁判所の判断は、次のとおり付加・補正するほか、原判決「事実及び理由」中「第三 当裁判所の判断」一ないし三記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決38頁3行目「(一)」の次に「勤務評定は、職員が実際に達成した勤務実績、職務遂行上見られた能力、態度について、客観的かつ継続的に把握することにより、職員の日常の勤務成績を十分に適正配置、昇任、研修等に反映させ、公正かつ公平な人事管理を行うための重要な資料とする目的で行われるものであり、」を加える。
2 同頁8行目「分析評定」から同頁11行目「である。」までを「第1次評定者及び第2次評定者が職員の分析評定を行う。分析評定とは、勤務実績、職務能力及び職務態度の各評定要素について、その評定のポイント毎にS(極めて優れている)・A(優れている)・B(良好)・C(やや劣る)・P(劣る)の5段階絶対評価(ただし、職務態度の「規律性」についてはSを除く4段階)を行うものである。評定要素の定義は原判決別紙二記載のとおりであって、その内容は広範かつ複雑であるが、<1>報告書には上記のような結論としての評価が記載されるだけで、その具体的理由や該当事実は記載されない。なお、第1次評定者及び第2次評定者は、<1>報告書を提出する際に、それぞれ最終評定者に説明・意見を交換することができる。」に改める。
3 同39頁3行目「各評定項目」を「各評定要素」に改める。
4 同頁6行目「である。」の次に「<1>報告書には、最終評定者による総合判定においても、結論としての評価が記載されるだけで、その具体的理由や該当事実は記載されない。」を加える。
5 同40頁5行目「評定者が」を「第1次評定者が実施要領により、」に改める。
6 同頁7行目「その後、」の次に「2か月毎に」を加える。
7 同頁8行目「評価等(評価・原因・改善策等)、評定者意見が付され、」を「評価等(評価・原因・改善策等)が記載され、これに第2次評定者及び最終評定者の意見が付され、」に改める。
8 同41頁9行目「<4>勤務成績報告書(以下「<4>報告書」という。)は、」の次に「前記勤勉手当の成績率等の運用に関する要項により、」を加える。
9 同42頁11行目「であるため、」を「であるが、<1>報告書は、前記のように評定要素毎の結論的評価が記載されているだけであるから、仮に同文書が本人に開示され本人がそのような結論的評価を知っても、その理由までは知ることができず、また、<2>整理票は、<1>報告書の明細資料となるものであるが、原判決別紙三のとおり同整理票の記載がなされる余地はそれ程広くないから、前記のように広範かつ複雑な評定要素の内容が常に詳細かつ網羅的に記載されることはないものと解される。したがって、<1>報告書だけが開示された場合は勿論のこと、<2>整理票が併せて開示された場合も、開示を受けた本人が、これら文書における評価が自己評価より低いと考えたときは、<1>報告書や<2>整理票の内容だけからそのような評価の理由を十分知ることはできないことが少なくなく、また、整理票の記載内容には評定者の判断が加わることは避けられないから、」に改める。
10 同44頁5行目「本人が」から同頁11行目「ある。」までを「前記のとおり評定要素は広範かつ複雑であり、しかも、各評価要素は主観的判断を完全に排除できない性質のものであるから、各評価要素毎に捉えると、本人と評定者の判断が一致しないことは異とするに足りず、そして、各評価要素についての判断・見解の差異の積み重ねの結果として、評定ポイントの評価に決定的な違いを招来することも、十分想定しうるところである。しかし、このような場合に、本人と評定者の間で判断や見解の差異が容易に調整されると予想することはできない。」に改める。
11 同53頁4行目「しかし、」から同頁7行目「ある。」までを「控訴人らが勤勉手当の支給額につき関心と利害関係を有することは当然のことであるけれども、勤務評定は、前記のように単に勤勉手当の支給額を決定するためだけに行われるものではなく、広く高槻市において職員の適正配置、昇任、研修等人事管理を公正かつ公平に行うための重要な資料とする目的で行われるものであるから、このような点をも考慮して本件文書についての非開示事由の存否を判断すべきであって、本件文書が控訴人らの勤勉手当の額に反映されることだけを決定的要素としてその非開示事由の有無を決定することは妥当でない。」に改める。
12 同54頁3行目「ではない。」の次に「もっとも、勤務評定に関する文書に被評定者本人に関して誤った事実が記載される可能性が絶無であるとはいえず、このような場合には、その訂正の方法が問題となりうる。しかし、このような場合にも、被評定者本人にその訂正を求めうる機会を与えるかどうか、もしこのような機会を与える場合にはこれをどのような手続とするかは、勤務評定制度に関する政策問題であって、このような問題があるからというだけで、本件文書を非開示とする理由がないということはできない。」を加える。
13 同55頁7行目「するが、」の次に「本件は、具体的法規である本件条例13条1項及び2項について、その立法趣旨や文言に基づいて解釈すべきであるから、」を加える。
14 同56頁6行目の次に行を改めて、次のとおり加える。
「6 控訴人らは、考課内容は労働条件そのものであるから本件文書は控訴人らに開示されるべきであると主張するけれども、本件文書は勤勉手当を決定する資料にすぎず、これを決定する処分ではないから、控訴人らの上記主張は、それ自体失当である。」
第4 結論
よって、控訴人らの本件請求は理由がないから棄却すべきであり、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担について行訴法7条、民訴法67条1項、61条、65条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大喜多啓光 裁判官 安達嗣雄 橋本良成)