大阪高等裁判所 平成12年(行コ)25号 判決 2002年10月10日
平成一二年(行コ)第二四号事件控訴人兼同第二五号事件被控訴人
尼崎税務署長
小林佐敏
平成一二年(行コ)第二五号事件被控訴人
西宮税務署長
中野秀之
平成一二年(行コ)第二五号事件被控訴人
西宮税務署長事務承継者
芦屋税務署長
堀野三郎
平成一二年(行コ)第二五号事件被控訴人
国
同代表者法務大臣
森山眞弓
右四名指定代理人
黒田純江
外七名
平成一二年(行コ)第二四号事件被控訴人兼同第二五号事件控訴人
株式会社サンヨーオートセンター
同代表者代表取締役
阿部徳行
平成一二年(行コ)第二四号事件被控訴人兼同第二五号事件控訴人
株式会社中央自動車鈑金工業所
同代表者代表取締役
阿部徳行
平成一二年(行コ)第二五号事件控訴人
阿部まみえ
平成一二年(行コ)第二五号事件控訴人
教野寿枝(旧姓阿部)
右四名訴訟代理人弁護士
大士弘
同
松井健二
同
水野武夫
同
末崎衛
主文
1(1) 一審被告尼崎税務署長の控訴に基づき、原判決主文第一項の1ないし4を取り消す。
(2) 一審原告株式会社サンヨーオートセンター及び同株式会社中央自動車鈑金工業所の一審被告尼崎税務署長に対する請求をいずれも棄却する。
2(1) 一審原告株式会社サンヨーオートセンターの、一審被告尼崎税務署長が平成七年七月二四日付でした源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分(ただし、平成九年三月三一日付の源泉所得税の加算税賦課決定等通知書により変更された後の部分)の無効確認請求を棄却する。
(2) 一審原告株式会社サンヨーオートセンターの、一審被告尼崎税務署長が平成七年七月二四日付でした源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分(ただし、平成九年三月三一日付の源泉所得税の加算税賦課決定等通知書により変更された後の部分)の取消しを求める訴えを却下する。
3(1) 一審原告株式会社中央自動車鈑金工業所の、一審被告尼崎税務署長が平成七年七月二四日付でした源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分(ただし、平成九年三月三一日付の源泉所得税の加算税賦課決定等通知書により変更された後の部分)の無効確認請求を棄却する。
(2) 一審原告株式会社中央自動車鈑金工業所の、一審被告尼崎税務署長が平成七年七月二四日付でした源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分(ただし、平成九年三月三一日付の源泉所得税の加算税賦課決定等通知書により変更された後の部分)の取消しを求める訴えを却下する。
4(1) 一審原告阿部まみえの、一審被告西宮税務署長が同原告の平成五年分の所得税について平成七年七月二四日付でした更正処分(ただし、平成九年三月一一日付の更正処分変更決定処分により変更された後の部分)のうち、総所得金額八〇七万三二七四円、納付すべき税額一億二六九三万八七〇〇円を超える部分及び平成七年七月二四日付でした過少申告加算税賦課決定処分(ただし、平成九年三月一一日付の加算税賦課決定処分変更決定処分により変更された後の部分)の無効確認請求を棄却する。
(2) 一審原告阿部まみえの、一審被告西宮税務署長が同原告の平成五年分の所得税について平成七年七月二四日付でした更正処分(ただし、平成九年三月一一日付の更正処分変更決定処分により変更された後の部分)のうち、総所得金額八〇七万三二七四円、納付すべき税額一億二六九三万八七〇〇円を超える部分及び平成七年七月二四日付でした過少申告加算税賦課決定処分(ただし、平成九年三月一一日付の加算税賦課決定処分変更決定処分により変更された後の部分)の取消しを求める訴えを却下する。
5(1) 一審原告教野寿枝の、一審被告西宮税務署長が同原告の平成五年分の所得税について平成七年七月二四日付でした更正処分(ただし、平成九年三月一一日付の更正処分変更決定処分により変更された後の部分)のうち、総所得金額六八五万二九六八円、納付すべき税額一億二六四三万〇四〇〇円を超える部分及び平成七年七月二四日付でした過少申告加算税賦課決定処分(ただし、平成九年三月一一日付の加算税賦課決定処分変更決定処分により変更された後の部分)の無効確認請求を棄却する。
(2) 一審原告教野寿枝の、一審被告西宮税務署長が同原告の平成五年分の所得税について平成七年七月二四日付でした更正処分(ただし、平成九年三月一一日付の更正処分変更決定処分により変更された後の部分)のうち、総所得金額六八五万二九六八円、納付すべき税額一億二六四三万〇四〇〇円を超える部分及び平成七年七月二四日付でした過少申告加算税賦課決定処分(ただし、平成九年三月一一日付の加算税賦課決定処分変更決定処分により変更された後の部分)の取消しを求める訴えを却下する。
6 一審原告株式会社サンヨーオートセンター及び同株式会社中央自動車鈑金工業所の一審被告国に対する本件控訴をいずれも棄却する。
7 訴訟費用は第一、二審を通じて、一審被告国との関係で生じた費用については一審原告株式会社サンヨーオートセンター及び同株式会社中央自動車鈑金工業所の、一審原告株式会社サンヨーオートセンター及び同株式会社中央自動車鈑金工業所と一審被告尼崎税務署長との関係で生じた費用については同一審原告らの、一審原告阿部まみえと一審被告西宮税務署との関係で生じた費用については同一審原告の、一審原告教野寿枝と被控訴人芦屋税務署長との関係で生じた費用については同一審原告の各負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 一審被告尼崎税務署長の控訴の趣旨
上記主文第1項と同旨
2 一審原告らの控訴の趣旨
(1) 一審原告らの控訴に基づき、原判決主文第二項の1ないし4及び第3項を取り消す。
(2)ア 主位的請求(当審で追加)
一審被告尼崎税務署長が一審原告株式会社サンヨーオートセンターに対し、平成七年七月二四日付でした源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分(ただし、平成九年三月三一日付の源泉所得税の加算税賦課決定等通知書により変更された後の部分)が無効であることを確認する。
イ 予備的請求(当審で引き下げ)
一審被告尼崎税務署長が一審原告株式会社サンヨーオートセンターに対し、平成七年七月二四日付でした源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分(ただし、平成九年三月三一日付の源泉所得税の加算税賦課決定等通知書により変更された後の部分)を取り消す。
(3) 一審被告国は、一審原告株式会社サンヨーオートセンターに対し、五億六七八七万一八九八円及び内金四三五〇万一三〇〇円に対する平成七年六月二四日から、内金五〇〇万円に対する平成七年八月一日から、内金四四一万六六〇〇円に対する平成八年三月六日から、内金五〇〇万円に対する平成八年三月一九日から、内金五億一四九五万三四九八円に対する平成九年二月一日から還付のための支払決定の日まで年7.3パーセントの割合による金員を支払え。
(4)ア 主位的請求(当審で追加)
一審被告尼崎税務署長が一審原告株式会社中央自動車鈑金工業所に対し、平成七年七月二四日付でした源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分(ただし、平成九年三月三一日付の源泉所得税の加算税賦課決定等通知書により変更された後の部分)が無効であることを確認する。
イ 予備的請求(当審で引き下げ)
一審被告尼崎税務署長が一審原告株式会社中央自動車鈑金工業所に対し、平成七年七月二四日付でした源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分(ただし、平成九年三月三一日付の源泉所得税の加算税賦課決定等通知書により変更された後の部分)を取り消す。
(5) 一審被告国は、一審原告株式会社中央自動車鈑金工業所に対し、一億三二八二万六四五八円及び内金五三三万七八〇〇円に対する平成七年六月一日から、内金五四万四三〇〇円に対する平成八年八月一日から、内金一億二六九四万四三五八円に対する平成九年二月一日から還付のための支払決定の日まで年7.3パーセントの割合による金員を支払え。
(6)ア 主位的請求(当審で追加)
一審被告西宮税務署長が一審原告阿部まみえの平成五年分の所得税について、平成七年七月二四日付でした更正処分(ただし、平成九年三月一一日付の更正処分変更決定処分により変更された後の部分)のうち、総所得金額八〇七万三二七四円、納付すべき税額一億二六九三万八七〇〇円を超える部分及び平成七年七月二四日付でした過少申告加算税賦課決定処分(ただし、平成九年三月一一日付の加算税賦課決定処分変更決定処分により変更された後の部分)が無効であることを確認する。
イ 予備的請求(当審で引き下げ)
一審被告西宮税務署長が一審原告阿部まみえの平成五年分の所得税について、平成七年七月二四日付でした更正処分(ただし、平成九年三月一一日付の更正処分変更決定処分により変更された後の部分)のうち、総所得金額八〇七万三二七四円、納付すべき税額一億二六九三万八七〇〇円を超える部分及び平成七年七月二四日付でした過少申告加算税賦課決定処分(ただし、平成九年三月一一日付の加算税賦課決定処分変更決定処分により変更された後の部分)を取り消す。
(7)ア 主位的請求(当審で追加)
一審被告西宮税務署長が一審原告教野寿枝の平成五年分の所得税について、平成七年七月二四日付でした更正処分(ただし、平成九年三月一一日付の更正処分変更決定処分により変更された後の部分)のうち、総所得金額六八五万二九六八円、納付すべき税額一億二六四三万〇四〇〇円を超える部分及び平成七年七月二四日付でした過少申告加算税賦課決定処分(ただし、平成九年三月一一日付の加算税賦課決定処分変更決定処分により変更された後の部分)が無効であることを確認する。
イ 予備的請求(当審で引き下げ)
一審被告西宮税務署長が一審原告教野寿枝の平成五年分の所得税について、平成七年七月二四日付でした更正処分(ただし、平成九年三月一一日付の更正処分変更決定処分により変更された後の部分)のうち、総所得金額六八五万二九六八円、納付すべき税額一億二六四三万〇四〇〇円を超える部分及び平成七年七月二四日付でした過少申告加算税賦課決定処分(ただし、平成九年三月一一日付の加算税賦課決定処分変更決定処分により変更された後の部分)を取り消す。
第2 事案の概要
本件は、阪急産業株式会社(以下「阪急産業」という。)に対して、一審原告株式会社サンヨーオートセンター及び一審原告株式会社中央自動車鈑金工業所が、各所有の土地建物(以下一括しては「本件不動産」といい、土地に関しては「本件各土地」という。)を、阿部徳行(以下「徳行」という。)、阿部妙子(以下「妙子」という。)、一審原告阿部まみえ及び一審原告教野寿枝が、各保有の株式会社キャンベルゴヒャク(以下「キャンベルゴヒャク」という、同社は本件不動産を使用して、中古車販売業を営んでいた。)の全株式二〇株(以下「本件株式」という。)をそれぞれ売却したことに関連してなされた課税処分等についての税金訴訟である。
(以下、一審原告株式会社サンヨーオートセンターを「一審原告サンヨーオート」と、一審原告株式会社中央自動車鈑金工業所を「一審原告中央自動車」とこの両一審原告を一括して呼称するときは「一審原告両法人」といい、一審原告阿部まみえを「一審原告まみえ」と、一審原告教野寿枝を「一審原告寿枝」といい、この両一審原告を一括して呼称するときは「一審原告両個人」という。)
1 概要は次のとおり整理できる。
(1) 一審原告らは、阪急産業に本件不動産を総額一八億円で、本件株式を総額四二億円でそれぞれ売却したとして、法人税等及び所得税の確定申告及び一審原告両個人は所得税についての修正申告をしたところ、一審被告尼崎税務署長(一審原告両法人関係)及び一審被告西宮税務署長(一審原告両個人関係)は、本件株式の真実の譲渡価格は八七七二万六四四〇円であり、本件不動産の真実の譲渡価格は六〇億円から八七七二万六四四〇円を差し引いた金額であるとした上、本件株式の譲渡価格が実質の価格を大きくかけ離れた高額であるのは、本件各土地の真実の譲渡価格を本件株式の譲渡価格に付け替えたものだとして、更正処分等をした。
すなわち、一審被告各税務署長は、本件株式の譲渡価格は上記のとおり八七七二万六四四〇円で、本件不動産の譲渡価格は六〇億円からこの金額を差し引いた金額であることを前提に、一審原告両法人に対して、法人税及び法人特別税について更正処分及び重加算税賦課決定処分を、また、株式の売主である徳行、妙子及び一審原告両個人について、株式の実質的価値を超えて受け取った部分は、一審原告両個人に関しては、法人税法三七条六項所定の一審原告両法人からの寄付金(一時所得)に該当し、徳行、妙子に関しては同法三五条所定の賞与に該当するとして、これら所得について一審原告両個人に対しては所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を、一審原告両法人に対しては役員である徳行、妙子の賞与分の所得について源泉所得税の不納付があるとして、納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分をした。
(2) 後記のとおり、税務署長による更正決定あるいは処分理由の変更があって錯綜しているが、本訴において対象とされている各処分は以下のとおりである。
ア 一審原告両法人関係(一審被告尼崎税務署長による各処分)
① 法人税及び法人特別税についての平成七年七月二四日付の更正処分及び同日付重加算税賦課決定処分
一審原告サンヨーオートについては、本件法人税更正処分、本件法人特別税更正処分、本件法人税加算税賦課決定処分、本件法人特別税加算税賦課決定処分のそれぞれ「一」と、一審原告中央自動車については、同各処分のそれぞれ「二」と、原審が呼称しているもの。
② 源泉所得税の平成七年七月二四日付納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分
一審原告サンヨーオートについては、本件納税告知処分及び本件不納付加算税賦課決定処分のそれぞれ「一」と、一審原告中央自動車については、同各処分のそれぞれ「二」と、原審が呼称しているもの。
イ 一審原告両個人(西宮税務署長による各処分)
所得税についての平成七年七月二四日付の更正処分及び同日付過少申告加算税賦課決定処分
一審原告まみえについては、本件所得税更正処分、本件所得税過少申告加算税賦課決定処分のそれぞれ「一」と、一審原告寿枝については、同各処分のそれぞれ「二」と、原審が呼称しているもの。
(3) 本訴の対象となっている上記各処分は、一審原告両法人に対する法人税及び法人特別税関係の更正処分等と、株式売却に伴う一審原告両個人の所得及び一審原告両法人の役員である徳行、妙子の役員としての所得に関連する処分であって、一審原告両法人に対する納税告知処分等と一審原告両個人に対する所得税更正処分等に分類でき、後記のとおり株式売却に基づく所得に関連する一審原告らに対する各処分については審査請求が取り下げられている。
そこで、法人税及び法人特別税関係の更正決定処分等を「本件法人税等関連各処分」と、株式売却に伴う所得に関連する一審原告両法人に対する納税告知処分等と一審原告両個人に対する所得税更正処分等を、それぞれ、「本件納税告知処分等」、「本件所得税更正処分等」と、そして、この所得に関連する処分を一括するときは「株式売却に伴う所得関連各処分」とそれぞれ呼称することとし、さらに、「株式売却に伴う所得関連各処分」について関連を明確にするために「(一審原告両法人に対する告知処分等及び一審原告両個人に対する所得税更正処分等)」と括弧書きを付加することとする。
(4) 一審原告らは、上記各処分について異議申立てをしたが、この申立ては国税不服審判所長に対する審査請求とみなされた。
この審査請求手続において、一審原告らは、本件不動産の譲渡価格が三五億円、本件株式の譲渡価格が二五億円であるとの前提での主張もした上、株式売却に伴う所得関連各処分(一審原告両法人に対する告知処分等及び一審原告両個人に対する所得税更正処分等)については、審査請求をいずれも取り下げた。
国税不服審判所長は、本件不動産譲渡代金は一審原告両法人が審査手続で主張した三五億円を上回ることはないとした上、一審原告両法人に対する本件法人税等関連処分等を一部取り消す旨の裁決(本件裁決)をした。
本決裁決に基づき一審被告尼崎税務署長、同西宮税務署長は、株式売却に伴う所得関連各処分(一審原告両法人に対する告知処分等及び一審原告両個人に対する所得税更正処分等)を変更した。
(5) 一審原告らは、阪急産業との間で作成されている契約書どおりの売買(本件不動産譲渡価格が一八億円、本件株式譲渡価格が四二億円)であるとして、一審原告両法人は本件法人税等関連各処分と本件納税告知処分等の取消しを、一審原告両個人は本件所得税更正処分等の取消しを求めるとともに、一審原告両法人は一審被告国に対し、既に納付した源泉徴収税額及び延滞税額相当額分につき不当利得があるとして返還を求めて訴えを提起した。
(なお、本件裁決により、取消の範囲について変更があったことになるが、煩雑なので、処分の呼称等については、必要のない限り、そのままとする。)
(6) 原審は、一審原告両法人の本件法人税等関連各処分の取消し請求を認容し、一審原告らが審査を取り下げた株式売却に伴う所得関連各処分(一審原告両法人に対する告知処分等及び一審原告両個人に対する所得税更正処分等)の各取消し請求を却下し、一審原告両法人の一審被告国に対する不当利得返還請求を棄却した。
一審原告ら及び一審被告尼崎税務署長の双方から控訴がなされ、当審で、一審原告らは、審査請求を取り下げた株式売却に伴う所得関連各処分(一審原告両法人に対する告知処分等及び一審原告両個人に対する所得税更正処分等)について、無効確認の訴えを主位的請求として追加し、他方、一審被告らは、当審において、本件法人税等関連各処分について、予備的に国税通則法一三二条に基づく行為・計算否認の主張を追加した。
(7) 本件紛争の背景は、不動産と株式の売買代金の総額についての内訳によって税額が変動することにある。すなわち、株式の売買益は分離課税であること、土地代金を付け替えれば土地の売買に伴う譲渡益はその分減少し、譲渡所得税が減少すること、その結果、株主の所得は生じないか、減少し、所得税についても同様の結果となる。
2 前提となる事実
原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」の冒頭及び一(一七頁四行目以下三六頁一〇行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
3 争点
次のとおり原判決三七頁一行目から九行目を改め、九行目の次に行を改めて付加する。
「1 株式売却に伴う所得関連各処分(本件納税告知処分一・二、本件不納付加算税賦課決定処分一・二、本件所得税更正処分一・二、本件所得税過少申告加算税賦課決定処分一・二)の無効原因の存否及び審査請求の取下げにより国税不服審判所の裁決を経ていないこれら各処分の各取消しを求める訴えの適法性。
2 株式売却に伴う所得関連各処分(本件納税告知処分一・二、本件不納付加算税賦課決定処分一・二、本件所得税更正処分一・二、本件所得税過少申告加算税賦課決定処分一・二)及び本件法人税等関連各処分(本件法人税更正処分一・二、本件法人特別税更正処分一・二、本件法人税加算税賦課決定処分一・二、本件法人特別税加算税賦課決定処分一・二)の適法性(取消し事由の存否)。
3 本件不動産売買の当事者の合意についての法人税法一三二条一項(同族会社の行為又は計算の否認規定)適用の当否。
4 一審原告両法人の不当利得返還請求権の存否」。
4 争点1についての当事者の主張
争点1は、審査請求の取下げのあった株式売却に伴う所得関連各処分(一審原告両法人に対する告知処分等及び一審原告両個人に対する所得税更正処分等)に関しての争点であるところ、当事者の主張は、以下のとおり、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」の「三 当事者の主張」の三七頁末行から四四頁五行目まで(1、(一)及び(二))を引用、補充した上、一審原告らの追加請求であるこれら各処分の無効原因の存否についての主張を付加する。
(1) 一審原告らの主張
ア 無効原因について
一審原告両法人代表者の徳行及び同役員の妙子並びに一審原告両個人は、本件裁決において本件不動産の代金価格が三五億円、本件株式の譲渡価格が二五億円との認定がなされた場合、その認定額と本件株式との譲渡価格四二億円との差額を一審原告両法人に返還する意思であった。
現に本件裁決及び藤井審判官の教示を受けて、一審原告両法人は一審原告まみえと、変更後の本件不動産売却代金の返還を受ける旨の合意をし、平成九年四月二五日、そのための会計処理を行っている(甲90ないし94)。
一審被告税務署長らが、一審原告らのこのような意思及び会計処理に反して、上記差額部分を寄付金あるいは賞与と認定する課税上の根拠は全くない。とりわけ差額部分を認定賞与として源泉所得税を課すことは税額算出の過程が一義的に明白であることを要する源泉徴収制度の前提を無視する不当なものであって、本件納税告知処分等は課税の根拠に欠け、源泉徴収制度の前提を無視する違法な処分であって無効である。
イ 取消し請求に関する訴えの適法性について
① 一審原告両法人代表者の徳行は、原審での尋問で、国税不服審判所の審判官から、「二重課税は関係ない。」とか「(本件裁決の結論のように、本件不動産と本件株式の各譲渡価格を三五億円と二五億円に変えるとして)それに応じたお金の動きをすれば、元々の源泉の問題とか、寄付金の問題は起こらない。」との教示を受けた旨の供述をしているところ、この供述にある審判官の教示は、一審原告らからの「本件株式から本件不動産の譲渡価格へ振り替えた所得が認定賞与あるいは寄付金とされているのは、結果的に二重課税となる。」との不服を受けてなされたものであることからすると、徳行の上記供述の趣旨は容易に理解することができ、一審原告らの上記主張は立証されたというべきである。
一審原告両法人に対して行った平成七年一月一七日付けの法人税等の更正処分において、一審被告尼崎税務署長は上記振替部分を貸付金と認定していることからも明らかなとおり、振替部分が認定賞与等に当たるか否かは課税当局でさえ判断に迷うものであって、素人である一審原告らが上記の教示によって二重課税がないと信じたことに過失はない。
② 仮に上記事情は、国税通則法一五条一項三号所定の「正当理由」として認められないとしても、国税不服審判所長が国税局に付置され組織的には国税庁の一部とされており、一審被告の各税務署長と国税不服審判所長との行政上の上下関係に照らすならば、上記事情があるのに、一審被告らが、裁決を経ていないことを理由として、処分取消しの訴えを不適法であると主張することは信義則に反し、この主張は却下されるべきである。
(2) 一審被告らの反論
ア 無効原因について
審査請求の取下げのあった株式売却に伴う所得関連各処分(一審原告両法人に対する告知処分等及び一審原告両個人に対する所得税更正処分等)は、いずれも行政処分であるから、無効原因があるというためには処分それ自体に重大かつ明白な瑕疵が存在することが必要である。
本件において、仮に本件各契約を精査した結果、一審原告両法人から役員の徳行らに対する賞与が認められないとしても、その賞与認定の瑕疵は、処分時において、処分の外形上客観的に明白な瑕疵であるとは認められず、したがって、一審原告両法人に対する本件納税告知処分一及び二には無効原因に該当する事由は存在しない。そうである以上、本件不納付加算税賦課決定処分一及び二にも無効原因はない。
一審原告両個人に対する本件所得税更正処分一及び二についても、仮に一審原告両個人が取得した金員を寄付金(一時所得)と認定したことに誤認があるとしても、その瑕疵は、処分当時、処分の外形上、客観的に明白であるとはいえない(最高裁昭和三三年六月一四日第一小法廷判決・税務訴訟資料二六号五四五頁)ので、無効原因はない。また、そうである以上、本件過少申告加算税賦課決定処分一及び二にも無効原因はない。
よって、一審原告らが当審で追加した本件納税告知処分等の無効確認請求(主位的請求)は、その余の点を検討するまでもなく棄却されるべきである。
イ 取消し請求に関する訴えの適法性について
① 一審原告らが主張する審判官の教示は、税法上あり得ない処分を前提としており、審判官がそのような教示を行うはずはないが、国税当局が誤った更正処分を是正するのは当然のことで、そのことと一審原告らに過失があるか否かの問題は全く次元の異なる問題である。
そもそも、一審原告らは、税に関する専門的知識を備えた公認会計士や税理士等の補助者を有し、国税不服審判所長の教示内容を十分に吟味できる立場にあったから、本件裁決に係る教示について一審原告らが主張するような誤信が生じるはずはなく、行政庁の責に帰すべき事由が一方的に大きい場合に該当しない。
いずれにしても徳行の上記供述は、具体性に欠け、趣旨が不明確であって到底信用するに足りないもので、国税通則法一五条一項三号所定の「正当理由」の有無に関する原判決の認定判断は正当である。
② 国税不服審判所は、国税の課税・徴収等の執行系統から分離され、第三者として審査請求の審理裁決を行う独立した機関であって、一審被告各税務署長とは別の組織であるから、一審被告らが上記で主張するところが信義則に反するとはいえない。
5 争点2についての当事者の主張
本件各処分の取消し事由の存否が争点であるところ、双方の主張は、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」の「三 当事者の主張」の四四頁七行目以下から一〇七頁七行目まで(2、(一)及び(二))を引用した上、本件各処分は前記のとおり一審原告両法人にのみ関係する本件法人税等関連各処分と一審原告ら全員が関係する株式売却に伴う所得関連各処分(一審原告両法人に対する告知処分等及び一審原告両個人に対する所得税更正処分等)とに分類できるので、この分類に従って、主張を付加、補充することとする。
(本件法人税等関連各処分について)
原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」の「三 当事者の主張」の、一審原告サンヨーオートについては、五一頁八行目以下から六一頁八行目までと六六頁九行目から六九頁五行目まで(2、(一)の(2)、(3)及び(5))を、一審原告中央自動車については同六九頁六行目から七九頁二行目までと八三頁六行目から八五頁一行目まで(2、(一)の(5)ないし(7)及び(9))を引用した上、以下のとおり、付加、補充する。
(1) 一審被告らの主張
ア 本件法人税等関連各処分の適法性は、結局のところ本件法人税更正処分一及び二の適法性にかかるところ、課税処分の取消訴訟における実体上の審理の対象は、当該課税処分によって確定された税額の適否であり、課税行政庁の課税処分における認定等に誤りがあっても、確定された税額が総額において処分時に租税法規によって客観的に定まっている税額を上回らなければ当該課税処分は適法と解される(いわゆる「総額主義」。最高裁昭和三六年一二月一日第二小法廷判決・集民五七号一七頁、同昭和四二年九月一二日第三小法廷判決・訟務月報一三巻一一号一四一八頁、同昭和四九年四月一八日第一小法廷判決・訟務月報二〇巻一一号一七五頁、同昭和五〇年六月一二日第一小法廷判決・訟務月報二一巻七号一五四七頁、同平成四年二月一八日第三小法廷判決・民集四六巻二号七七頁等)。
本件において国税不服審判所は本件不動産の売買価格を三五億円、本件株式の譲渡価格を二五億円との前提のもとに、本件法人税等関連各処分を一部取り消した。したがって、本件法人税等関連各処分の取消訴訟における審理の対象は、上記一部取消後の税額を基礎付ける事実の存否ということになり、本件の課税行政庁たる一審被告尼崎税務署長は、本件不動産の売買価格が三五億円を下らないことを主張・立証することを要し、かつ、それで足りることになる。
一審原告両法人は、裁決の拘束力を主張するが、国税通則法一〇二条一項は「裁決は、関係行政庁を拘束する。」と規定するにとどまるところ、行政処分の審査請求手続と行政処分の取消訴訟手続とは全く別個の手続であり、裁決を経た後の課税処分の取消訴訟において、課税庁が裁決で認定された金額と異なる主張をすることも、また、裁決理由中の判断と異なる主張を行うことも許される(大阪地裁昭和四八年一二月五日判決・税務訴訟資料七一号一一〇五頁、大阪地裁昭和四八年五月一四日判決・税務訴訟資料七一号一一〇五頁、大阪地裁昭和四八年五月一四日判決・税務訴訟資料七〇号六六頁、東京地裁昭和六三年四月二〇日判決・税務訴訟資料一六四号八七頁)。一審原告らの上記主張は失当である。
イ ところで、当事者が選択した法形式を前提とした場合、私法上の取引関係が仮装のもので当事者の合意の実質と異なるか否かの判断は、当該契約内容が既に履行された後の状態を前提としてではなく、当該取引の当事者が選択した異常で不自然な法律構成と自然な法律構成を比較し、その間で法的効果に相違が生じる場合に、当事者がいずれの構成に基づく法的効果を意図していたかを検討すべきである(同様の考え方に立脚する裁判例として大阪地裁平成一〇年一〇月一六日判決・訟務月報四五巻六号一一五三頁、大阪高裁平成一〇年一〇月一六日判決・訟務月報四七巻一二号三七六七頁<乙48>)。
本件不動産と本件株式についての本件各契約書には、本件不動産の代金額は一八億円、本件株式の譲渡額は四二億円と記載されているものの、本件各売買契約書に記載されたこれら代金額は本件不動産、本件株式いずれについても著しく対価的均衡を欠くものであった。
すなわち、本件株式売買契約の実行時には既にキャンベルゴヒャクの資産は殆どなく、上記四二億円という代金額は本件株式の合理的、客観的価格から甚だしく乖離し、著しく不合理であった。他方、本件不動産も、土地の売買実例(坪一五〇万円=総額四二億四〇〇〇万円)や阪急産業から強烈な買い進みのある状況下での取引であったことに照らすと、上記一八億円という代金額は余りに低額に過ぎ、結局、本件不動産、本件株式いずれについても上記各契約書記載の代金額は対価的均衡性を著しく欠くものであった。
ウ 本件各売買契約は個別に代金額が決定されたものではなく、最初に代金総額を六〇億円と決定した上、租税回避の目的を達成すべく本件不動産の売買と本件株式の譲渡を抱き合せ、それぞれの代金額を一審原告らが強引に決定したものである。
現に、阪急産業は本件株式は値打ちのない株式と考えており、阪急電鉄の連結対象会社となり金融商品会計基準が適用されたことを機に作成された平成一三年三月三一日決算期の財務諸表上、本件各土地について五七億三五七五万円余りが土地勘定に計上されたのに対し、本件株式は投資有価証券勘定として一億四二万円余りが計上されるにとどまっている。このほか、本件株式の譲渡代金は株主名義人らの口座から一審原告サンヨーオートの口座に還流しており、これらの事情は本件各売買契約書上の代金額が当事者の真意に沿うものでないことを表している。
仮に本件不動産売買契約にのみ無効取消事由が存在した場合、阪急産業に本件株式売買四二億円の代金支払に応じる意思がないことも、また本件株式譲渡契約にのみ無効取消事由が存した場合にも、本件不動産売買代金一八億円のみをもって一審原告両法人に本件不動産の引渡し等に応じる意思がないことも明らかで、結局、本件各契約の当事者には上記代金記載額に拘束される意思はないのである。
よって、本件各契約書に記載された代金額は仮装のもので、本件各契約の当事者が真に合意した代金額は、上記代金記載額とは異なる。
エ そこで本件各契約の当事者が真に合意した代金額いかんが問題となるところ、本件で当事者間において明確に合意されていたのは、本件不動産と本件株式の代金総額を六〇億円とすることのみであるが、だからといって、本件各契約が代金額が不特定であるという理由で全部無効と解されるものでないことは当然である。
経済実体を考慮し、客観的、合理的に当事者双方の意思を解釈すれば、当事者間に成立したと認められる合意は、本件不動産及び本件株式についてその合計額を六〇億円とし、その内訳は、それぞれ相当額として成立したものと解するよりほかはないところ、本件不動産の代金相当額の認定は、本件不動産が著しい買い進みの状況の下で取引されたことからみて、通常の不動産鑑定等の方法によって直接認定するのは相当ではなく、上記代金総額六〇億円から本件株式の代金相当額を控除した金額をもって本件不動産の代金相当額であるとみるのが最も妥当である。
本件株式全株(二〇株)の代金相当評価額、すなわち時価は、石光仁公認会計士作成の鑑定意見書(乙53の2、以下「石鑑定意見書」という。)によれば四億九二四五万四六〇〇円(一株当たり二四六二万二七三〇円)であるとされている。この評価額は、合理的な計算の範囲内で最大限高価に本件株式を評価したものであるから、どのように本件株式の評価額を算定しようとも、国税不服審判所が認定した上記譲渡価格二五億円を上回ることはあり得ない。また経済的合理性を有する本件不動産の代金相当額も、三五億円を大きく上回り、この金額を下らないことは明らかである。
オ このように、本件不動産売買契約において当事者が合意した本件不動産の譲渡価格が三五億円を下らないことは明らかであるから、本件法人税各更正処分はいずれも適法である。
なお、このように本件不動産の譲渡代金額を認定すると、本件不動産売買は国土法の規制に違反する取引ということになるが、課税庁の認定が国土法の規制内の価格に限定されるものではなく(東京地裁平成一〇年五月一三日判決・税務訴訟資料二三二号七頁)、国土法の規制との関係は、上記結論を左右しない。
(2) 一審原告らの反論
ア 一般に裁決の拘束力(国税通則法一〇二条一項)は主文と不可分一体となる理由について生じるものと解されるところ、本件裁決は、一審被告尼崎税務署長の主張を斥け、本件不動産の価格を一八億円、本件株式の価格を四二億円とする確定的な合意があったものと認定している(乙5、6)。
よって、一審被告らは、本件訴訟で、もはや本件不動産の譲渡価格について当事者間に一八億円とする合意があったことを前提とした主張しかできず、総額主義の主張は本件裁決の拘束力に抵触し、この主張は行政事件訴訟法七条、民事訴訟法一五七条を準用して排斥されるべきである。
なお一審被告らが先例として挙げる裁判例は、いずれも事案を異にしており、本件裁決の拘束力に関する先例とはならない。
イ 一審被告らは、代金額は一審原告らがその有利な立場を利用して強引に決定したもので、対価的均衡性を著しく欠いており、本件各契約は不可分一体の取引として、各当事者には契約書上の代金額に拘束される意思はなく、本件各契約は仮装行為である旨主張するようである。
しかし、実質課税を原則するとしても、真実に存在する法律関係から遊離して、その経済的成果なり目的に即して法律要件の存否を判断することまで許容されるものではない。本件各契約の締結に至る経緯について一審原告らが主張するとおり(原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」の「三 当事者の主張」の2、(二)、(1)、九七頁二行目から一〇一頁九行目まで)、本件各契約の当事者間において、平成五年二月二〇日以降終始一貫して本件不動産の代金は一八億円、本件株式の代金は四二億円とする合意を前提に、実務的処理及び本件各売買契約書の作成が行われており、本件各契約が当事者の真意に基づき締結されたことに疑いを入れる余地はない。これを仮装行為であると断じる一審被告らの主張は、真実に存在する法律関係から遊離して法律要件の存否を判断するもので失当である。
ウ 本件各契約書上の代金額が経済的対価性を欠くものでないことに関しての原審での主張(原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」の「三 当事者の主張」の2、(二)、(2)、一〇一頁以下)を補足すると、一審原告両法人の代表者である徳行にとって最大の問題は本件各契約によって本件不動産の所有権を失うことではなく、キャンベルゴヒャクの営業が継続できなくなり、その結果、グループ全体の収益力が大きく失われる点にあり、他方、阪急産業にとっても、本件不動産の所有権を取得することではなく、本件各土地を駐車場として利用することにこそ意味があった。
この双方の思惑を達成する方法として、徳行は本件株式の売買という手段を選択するとともに、キャンベルゴヒャクの収益力を考慮して四二億円という代金額を提示したのに対し、阪急産業は、本件各土地を駐車場として速やかに利用を開始するためにはキャンベルゴヒャクという会社を自由に支配することが最も簡便な方法であるため本件株式の売買に応じるとともに、場外馬券売場開設のため既に費やした費用や将来の上記事業による収益力等にかんがみ、本件株式の代金を四二億円とすることに同意したのである。
このような双方の思惑のもとに本件各契約成立に至ったもので、本件株式の上記譲渡代金には経済的合理性が認められ、そうである以上、本件各契約の代金額を上記のとおり決定した理由として、租税負担の回避や国土法の規制潜脱目的を指摘するのは筋違いというもので、一審原告らにはそのような意図ないし目的はない。
一審被告らは、平成五年三月三〇日に、約五億円の価値を有する西宮市宮西町の五〇七平方メートル余りの宅地(以下「西宮土地」という。)の所有名義をキャンベルゴヒャクから徳行及び妙子に変更したことをもって、本件株式の価値を低下させたのは不自然である旨主張するが、徳行らが西宮土地について上記名義変更を行ったのは、阪急産業からキャンベルゴヒャクの負債を無くすように求められたからで、現に、この名義変更により同土地の実勢価格以上の価格に見合うキャンベルゴヒャクの負債を減少させている。
また本件株式の代金の相当部分が一審原告両個人の口座から一審原告両法人の口座に入金されているのも、上記株主らは、一審原告両法人に金員あるいは土地等を貸付け、利息、賃料を受領していたからで、このようなことは資金繰りの方法として中小企業において通常行われていることで、不自然というには当たらない。
なお、平成一三年度三月三一日決算期の阪急産業の財務諸表上、本件各土地について五七億三五七五万円余りが土地勘定に計上され、本件株式は投資有価証券勘定として一億四二万円余りが計上されるにとどまったとしても、その原因は阪急産業が阪急電鉄の連結対象会社となり金融商品会計基準が適用され、これに従う本件株式については時価評価をせざるを得なくなったことにある。
そもそも、本件株式の売買が多額の損失を生じさせる取引であったかどうかは契約時を基準に判断されるべきもので、契約締結後七年間も経過した後に生じた事情が本件株式の代金額が経済的合理性に欠け。取引が仮装であることを裏付けることなどあり得ない。
6 争点3についての当事者の主張
争点3の法人税法一三二条一項(同族会社の行為又は計算の否認規定)の適用についての当事者の主張は、つぎのとおりである。
(1) 一審被告らの主張
ア 法人税法一三二条一項所定の同族会社の行為・計算否認規定の適用要件は、①同族会社の行為・計算で行われたこと、②これを容認した場合にはその同族会社の法人税、あるいは株主等の所得税、相続税を不当に減少させる結果となると認められることで、この「不当に減少させる結果となると認められる」とは、純経済人の行為として不合理・不自然な行為・計算がこれに該当するものと解されるところ、一審原告両法人は代表者である徳行及びその親族らが発行済株式総数の五〇パーセント以上を保有する同族会社で、本件各契約は、それぞれ別個の当事者間で締結された契約であるとはいえ、本件各契約締結の経緯、動機・目的、対象物件の時価等に照らすと本件不動産の所有者が一審原告両法人であること及び本件株式の保有者が徳行とその親族であることを利用して対価性を著しく欠く異常な配分価格が設定されたもので、純経済人の行為として不合理・不自然な行為であることは明らかであるから、上記各適用要件を充足し、本件には法人税法一三二条の適用が認められる(なお類似事案の判例として最高裁昭和四八年一二月一四日第二小法廷判決(訟務月報二〇巻六号一四六頁))。
イ そうすると、本件各契約の当事者の合意いかんにかかわらず、一審被告尼崎税務署長は、本件取引によって生じた収益を経済的に合理性のある収益額に引き直し法人税の課税標準等又は法人税の額を計算することが可能となるところ、本件各契約の代金総額六〇億円から本件不動産と本件株式の時価合計額を差し引いた、いわゆるプレミアム部分を本件不動産と本件株式の時価による比率をもって按分して、本件不動産と本件株式の時価にそれぞれ上乗せした金額が上記の経済的合理性のある収益額となる。そこで本件不動産については一審原告ら提出の三誠不動産鑑定所作成に係る「不動産鑑定評価書」(甲79、以下「不動産鑑定評価書」という。)に記載された価格(一六億三七〇〇万円)を、他方、本件株式については類似業種比準方式又は純資産方式による評価額の上限(四億六二七〇万七六三一円)ないしは石鑑定意見書による評価額((四億九二四五万四六〇〇円)に基づき上記按分計算を行うと、本件不動産の経済的合理性のある代金額は三五億円を下ることはないのである。よって、一審被告尼崎税務署長は、法人税法一三二条一項(同族会社の行為又は計算の否認規定)の適用により、本件不動産について三五億円を下らない譲渡価格を認定することができ、結局、本件法人税等関連各処分は適法である。
ウ 一審被告らの上記予備的主張は、訴訟の段階で法人税法一三二条一項所定の同族会社の行為・計算否認規定の適用を主張するものであるが、いわゆる処分理由の差替えとして当然許される(最高裁昭和五六年七月一四日第三小法廷判決・民集三五巻五号九〇一頁、最高裁平成一一年一月二九日第三小法廷判決及びその下級審判決<乙51、52>、那覇地裁平成七年七月一九日判決・税務訴訟資料二一三号一六三頁)。なお同条は新たな処分を行うものではないから(東京高裁昭和四八年三月一四日判決・税務訴訟資料六九号八四五頁)、期間制限の問題は生じない。また、その適用の基礎となるべき事実関係については殆ど主張・立証済みであるから上記予備的主張は民事訴訟法一五七条一項所定の時機に後れた攻撃防禦方法の提出には当たらず、もとより本件裁決の拘束力にも抵触しない。
(2) 一審原告らの反論
ア 一審被告らは原審の争点整理手続で法人税法一三二条一項の適用による否認は主張しないと明言していたことなどに照らすと、その上記予備的主張は時機に後れた攻撃防禦方法の提出に該当することはもとより、訴訟上の信義則にも反する。
ところで法人税法一三二条一項は、あくまで課税処分時において行使されることが予定されているものと解される上、更正処分を行う期間も経過しており、本件訴訟において原課税処分の適法性を維持するため法人税法一三二条一項の適用を主張することは許されない(なお後記最高裁平成一一年一月二九日第三小法廷判決及びその下級審判決<乙51、52>は、本件と事案を異にし、先例としての価値を有しない。)。更に総額主義を前提としても本件法人税等関連各処分は法人税法一三二条一項所定の否認によるものではなく、したがって当該処分時には同条項の否認による課税標準及び税額が客観的に存在しないことになり、これにより本件法人税等関連各処分の適法性を基礎付けることはできない。また一審原告両法人はいずれも青色申告を行ったものである上、一審被告らの上記主位的主張と予備的主張とでは基本的課税要件事実の同一性を欠いている。したがって一審被告らの上記予備的主張はいわゆる処分理由の差替えとはいえないし、仮にそういえたとしても上記処分理由の差替えは許されない。また本件裁決の拘束力にも抵触する(以上につき甲95の1及び2)。
イ ところで法人税法一三二条一項所定の同族会社の行為・計算否認規定の適用要件は、①否認しようとする当該行為または計算が「同族会社」の行為または計算であり、②当該行為または計算を容認すれば、法人税の負担を「不当に」減少させる結果となるもの、すなわち当該行為または計算が経済的合理性を欠くものであって、③当該行為または計算につき、税務署長の「認めるところ」によって、当該行為または計算に置き換えられるべき通常の行為または計算が存在することが必要であると解されるところ、本件株式の取引は一審原告両個人の行為であって、法人税法一三二条一項の否認の対象とはならない上(ちなみに相続税法六四条につき浦和地裁昭和五六年二月二五日判決・訟務月報二七巻五号一〇〇五頁)、本件不動産の譲渡代金額は一審原告両法人とは何ら資本関係のない阪急産業との間における自由な交渉によって決せられたもので、その価格も国土法による規制に違反しておらず、本件不動産売買はその譲渡代金価格の決定方法や金額の点からみても合理的なものである。そればかりか本件不動産の譲渡価格を一審被告らの価格に置き換えると当然に国土法の規制に抵触することになり、そのような取引が「通常の」行為または計算といえないことは明らかで、本件では置き換えられるべき「通常の」行為または計算は存在しないといってよい(なお以上につき甲95の1及び2)。よって、本件各契約に基づく取引は、法人税法一三二条一項の適用要件を全く充足せず、同条項による否認が認められる余地はない(なお一審被告らが類似事案に関する裁判例として挙げる上記最高裁昭和四八年一二月一四日第二小法廷判決等は本件と事案を異にし、先例としての価値を有しない。)。
(一審原告両法人に対する告知処分等及び一審原告両個人に対する所得税更正処分等について)
(1) 一審被告らの主張(補充)
本件法人税等関連各処分はいずれも適法であり、そうであれば、その範囲でなされた賞与ないし寄付金の認定は適正なものであることは、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」の「三 当事者の主張」の、一審原告サンヨーオートについては、六一頁九行目以下から六六頁八行目まで(2、(一)の(4)の①ないし⑤)を、一審原告中央自動車については同七九頁三行目から八三頁五行目まで(2、(一)の(8)の①ないし④)、一審原告まみえに関しては同八五頁二行目から九〇頁七行目まで(2、(一)の(10)の①ないし④、(11))、一審原告寿枝については同九〇頁八行目から九六頁三行目まで(2、(一)の(12)の①ないし④、(13))のとおりである。
(2) 一審原告らの反論(補充)
本件納税告知処分等には、争点1において主張したとおり課税の根拠に欠けるものであって違法である。
また仮に法人税法一三二条一項により本件不動産の譲渡価格が三五億円を下らないとしても、それは法人税の課税関係においてだけ、現実に行われていない行為・計算が存在するものとみなされるだけのことで、いわゆる対応調整が自動的に行われるわけではない。したがって、徳行、妙子、一審原告両個人に対する所得課税の関係において、法人税法一三二条一項の効果は及ばないものと解され、一審原告両法人代表者の徳行及び役員の妙子に対し役員賞与を支給した事実も、一審原告まみえ及び同妙子に対し金員を贈与した事実も存しないことになる。よって、本件において万が一法人税法一三二条一項の行為・計算否認が認められるとしても、本件納税告知処分等の適法性まで基礎付けることはできない。
本件各売買の譲渡価格に合理性があることは、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」の「三 当事者の主張」の九六頁四行目から一〇七頁六行目(2、(二))までと上記で主張したとおりである。
7 不当利得返還請求の存否について当事者の主張
この争点は、一審原告両法人は、納付義務の存否・範囲等実体的な関係について争うことができるかとの点と一審被告国に誤納金に関する不当利得が存在するかにあるが、双方の主張は次のとおりである。
(1) 一審原告両法人の主張
ア 源泉徴収に係る所得税については、その税額が法令の定めるところに従って当然に、いわば自動的に確定するものであり、公定力を有する課税処分が介在することにより確定するものではない(最高裁昭和四五年一二月二四日判決・民集二四巻一三号二二四三頁)。他方、納税告知処分は徴収処分にとどまり、その告知に対して納税義務の不存在を理由とした不服審査や抗告訴訟が許容されてはいるものの、これはあくまで過誤徴収を防止するためのものに過ぎない。したがって、徴収義務者(支払者)は、納税義務の存在を主張する国に対し、納税義務不存在確認の訴えを提起することができ、また、源泉所得税が納付された後は、誤納金として不当利得返還請求訴訟を提起することができるのであって、これに反する一審被告国の主張は失当である。
イ 一審原告両法人が、源泉所得税について、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」の「一 前提となる事実」(括弧内は省略)の13の(一)及び(二)(三四頁以下)に記載のとおり、法人税及び法人特別税の還付金等を充当され、または現金納付したことは当事者間に争いはないところ、本件納税告知処分一及び二及び本件不納付加算税賦課決定処分一及び二は違法な処分であり、一審原告両法人から徳行及び妙子に対する役員賞与の支払いはないから、一審原告両法人に源泉支払義務は発生していない。そうすると、一審被告国は、上記アの金員を法律上の原因なく利得し、他方、一審原告両法人は、同金員相当額の損害を被ったことになり、よって、一審原告両法人は、一審被告国に対し、不当利得返還請求権に基づき、上記金員の支払いを求める。
(2) 一審被告国の主張
一般に納税申告書の提出または更正、決定等により適法に確定した国税については、たとえ取消事由が存在したとしても、これらの行為または処分に重大かつ明白な瑕疵がない限り、既に納付された税額について過誤納金が発生する余地はなく、更正の請求等がされて初めて過誤納金が発生するものと解されるから、これについて遅延利息や加算金が生じる余地はなく、したがって、一審原告両法人の本件不当利得返還請求は失当である。
本件法人税等関連各処分は、いずれも適法であり、そうである以上、その範囲内で行われた本件納税告知処分等も適法であるから、一審被告国に不当利得は発生せず、一審原告両法人の上記主張は理由がない。
第3 当裁判所の判断
当裁判所は、(1) 株式売却に伴う所得関連各処分(一審原告両法人に対する告知処分等及び一審原告両個人に対する所得税更正処分等)の無効確認請求(主位的請求)は、いずれも理由がないから棄却し、(2) 同処分等の各取消しを求める訴えは(予備的請求)、いずれも不適法却下を免れず、そして、本件不動産売買契約において当事者が合意した本件不動産の譲渡価格は三五億円を下回らないことは明らかであるとの一審被告らの主張は理由があると認められ、よって、本件法人税等関連各処分は適法であるから、その取消しを求める一審原告両法人の請求も理由がなく、棄却されるものであると判断する。以下、判断の基礎となる事実を確定した上、その理由を詳説する。
1 基礎的事実
阪急産業と一審原告両法人との本件不動産についての及び一審原告両個人との本件株式についての、各売買契約締結の経過及びその後の事情は、基本的には、原判決「事実及び理由」の「第三 当裁判所の判断」の一一三頁八行目から一四〇頁二行目(二、1)までに記載のとおりである。そこで、これを引用した上、付加的認定事実を補足して以下のとおり整理する(なお、原判決一一三頁八ないし一一行目にて摘示の証拠に、乙56、57を加える。)。
(本件取引経過)
(1) キャンベルゴヒャクは、平成元年一二月一日、妙子を代表取締役として、発行済株式の総数二〇株、資本金一〇〇万円として設立されたが、その実質的な経営者は徳行であった。
キャンベルゴヒャクの営業には三〇〇〇坪以上の展示場を必要としたため、一審原告両法人は平成元年(一部は平成三年)合計約二八〇〇坪の本件各土地を合計一三億一一〇二万四三〇五円で購入し、本件各土地の一部に事務所兼店舗、修理工場等として本件各建物を建築して、本件各土地及び本件各建物(本件不動産)をキャンベルゴヒャクに賃貸した。こうして、キャンベルゴヒャクは、一審原告サンヨーオートが所有者から賃貸した隣接土地と本件各土地を合わせた約三三〇〇坪の展示場において、平成二年二月から、一審原告サンヨーオートから仕入れた中古車を販売する営業を開始した。
キャンベルゴヒャクは平成元年四月一日から始まる第一期事業年度以降、第四期事業年度までの間に下記のとおりの金額の税引前純利益を計上し、また、中古車の仕入れ先である一審原告サンヨーオートに対して、仕入手数料を支払ったことから、これに上記地代、家賃収入を加えたものを修正税引前純利益(第一期につき四一二四万円余り、第二期につき三億三三七八万円余り、第三期につき二億六三四四万円余り、第四期につき一億六六八七万円余り)として計上している(乙5)。
記(千円未満は切捨て)
<税引前純利益><仕入手数料><賃料>
第一期
一三九二万円 一二八〇万円 一四五二万円
第二期
一億三二四七万円 一億一四一九万円 八七一二万円
第三期
八三四五万円 九二八七万円 八七一二万円
第四期
六四六万円 七三二八万円 八七一二万円
(2) 日本中央競馬会は、高松市に阪神競馬場の場外勝馬投票券発売所「ウインズ高松」の建設を計画し、これを請け負った阪急産業は、平成五年春のオープンを目指して建設工事を開始したところ、基礎工事が終わりかけた平成四年四月八日に、建設に反対する付近住民から高松地方裁判所に建設禁止の仮処分が申し立てられた。
そこで、日本中央競馬会は、上記仮処分対策として、阪急産業に、ウインズ高松近辺に駐車場用地を確保することを要請し、阪急産業は、大丸ハウスの代表取締役米岡稔に駐車場用地確保の仲介を依頼したが、その候補地の一つがキャンベルゴヒャクの中古展示場である本件各土地であった。
親会社から上記情報を得たアドックの当時の代表者徳善は、平成五年二月六日、本件各土地売却の仲介を申し出る意図でキャンベルゴヒャクに赴き、徳行にその旨申し入れた。
徳行は、当初、適当な代替地がないことなどから売却に難色を示したが、徳善は本件各土地の売却を求め続けた。
(3) 日本中央競馬会は、地域住民との仮処分裁判を少しでも有利に進めるため駐車場用地の確保を進めている証拠として裁判所に提出できるよう、阪急産業に、アドックへの本件各土地の譲渡に関する一審原告両法人の委任状をもらうよう指示し、これが発展して、阪急産業が本件各土地と本件株式を購入するに至ったのであるが、関係書類をもとに、この経過を要約すると次のとおりとなる。
ア 平成五年二月一四日、一審原告サンヨーオート作成のアドック宛の「キャンベルゴヒャクと阪急産業の土地交渉」に関する委任状(甲86)が作成された。
その際、徳行は、キャンベルゴヒャクの買収、すなわち本件株式の譲渡(M&A契約)も希望する旨申し添えた(乙11)。
イ 徳善は、徳行の本件株式の譲渡の申出を阪急産業側に伝えたが、同人は本件各土地の売買価格は、三五億円から四〇億円位と踏んでいた(乙8、9)。
同月二〇日、徳善は、大丸ハウスの米岡と共に、キャンベルゴヒャクの事務所を訪れ、本件不動産の売却代金を打診したところ、徳行から「株式会社(キャンベルゴヒャク)を一括して六〇億円で売り渡す。明渡しは同年四月二〇日とする。ただし、今日中に回答が得られなければこの話は打切りにする。」という強硬な態度を示された。
その旨の連絡を受けた日本中央競馬会は、上記仮処分対策の必要上、これを受入れるよりほかないものと考え、阪急産業にその旨指示した。
日本中央競馬会からの回答を聞いた徳行は、本件不動産に一八億円の、また本件株式に四二億円の各譲渡代金額を付し、両者を一括して代金総額六〇億円で売却する旨を申し出た。
徳行の上記意向は、国土法の規制を免れるとともに、短期所有に係る本件各土地を譲渡することによる税負担の増大を避けるためであった(乙11別添手帳の「平成五年二月一〇日」欄、徳行代表者本人・第八回調書八頁、なお第七回調書六九頁、なお平成八年法第一七号による改正前の租税特別措置法六三条)。
ウ 阪急産業は、本件株式は値打ちのないものと認識しており、また、本件不動産を日本中央競馬会に賃貸する関係から、本件不動産の価格の方が低額であることに不満を感じたが、本件各土地の取得はウインズ高松建設計画の遂行に必要不可欠なことから、上記六〇億円の内訳に拘るのは得策ではないと考え、徳行の上記申入れにそのまま応じることとした(乙8、なお乙17別添3)。
徳行の上記意向を踏まえ、徳善と阪急産業の担当取締役小川勝吉との打ち合わせ結果が、同月二二日付「打合せ記録(乙28)」として残されているが、その内容は、譲渡価格の総額は六〇億円、譲渡の対象物件として本件株式及び資産、本件不動産、一審原告サンヨーオートの借地権等が含まれていること、譲渡する資産のうち在庫商品(中古車)、可動性のある備品は除くこと、「キャンベル五〇〇」という商標は一審原告サンヨーオートに返すことなどを合意条件とするというものである。
同月二六日、阪急産業が顧問弁護士に作成させた「商号、営業、不動産等譲渡契約書」に、キャンベルゴヒャク(代表者妙子)、一審原告サンヨーオート(代表者徳行)、一審原告中央自動車(代表者徳行)及び徳行との間で、同契約書の表題に「予約」の二文字を挿入訂正の上、当事者が記名押印して「商号、営業、不動産等譲渡予約契約書」(甲47、以下「本件予約契約書①」という。)二通が作成された。
この本件予約契約書①は、阪急産業がキャンベルゴヒャクの商号、営業を譲り受ける契約でありながら、キャンベルゴヒャク自身が発行済みの株式全部を阪急産業に譲渡し(第一条)、また、阪急産業は、同年四月一四日、譲渡代金のほか、譲渡に要する一切の費用として、六〇億円を土地建物の明渡しと引換えに、徳行に支払う(五条は)との内容となっている。
ところで、上記総額六〇億円の内訳について記載がなかったため、一審原告両法人の顧問会計士である金井公認会計士は、本件予約契約書①の末尾に上記六〇億円の内訳は本件株式四二億円で、本件不動産が一八億円である旨を付記し、関係者全員の了解を得たが、阪急産業の側は、自己が保管する本件予約契約書①に上記六〇億円の内訳を付記しなかった(乙27)。
エ その後、国土法の手続が完了していなかったが、同年四月六日、とりあえず、「株式及び土地、建物等の売買予約契約書」(甲48、以下「本件予約契約書②」という。)が作成され、上記関係当事者がこれに記名押印した。
本件予約契約書②の末尾には、売買代金総額六〇億円の内訳として、譲渡価格は、本件株式が四二億円、本件不動産が一八億円である旨記載されており、そして、第二条に基づき阪急産業から本件不動産及び本件株式の各売買の手付金九億円(以下「本件手付金」という。)が支払われた。
本件予約契約書②において、徳行がキャンベルゴヒャクの株主代表である旨付記されているものの、その記載は対象となる株式欄になされており、また、阪急産業は、キャンベルゴヒャクの株式全部を買い受けながら、キャンベルゴヒャクの本件不動産についての賃借権等も買い受ける内容となっており、そして、賃貸借契約書等はこの契約書に添付されていない。
オ 同月七日、一審原告サンヨーオートは、キャンベルゴヒャクの主たる資産及び負債を引き継ぎ、同社に対する未払金として六八五一万円余りが計上された。
その後、本件不動産に本件株式を抱き合わせて総額六〇億円で売買することについて、双方の顧問会計士から、税法上の問題が指摘され、書面のやり取りがあったが、これらの書面のやり取りから、一審原告ら側は、本件不動産の売買と本件株式の売買とが本来一体の取引であることが表面化しないことを、阪急産業側は、本件株式は値打ちのない株式であるとの認識を前提に、これを抱き合わされたことにより、本来の目的である本件不動産売買に低廉譲渡の問題が生じ、本件株式の売買だけが実行されてしまうことをおそれていたことが窺われるのである。
すなわち、一審原告両法人の金井顧問会計士は、徳行と面談した結果を踏まえ、同月一七日、阪急産業の顧問会計士である矢野龍彦公認会計士に、「キャンベル社のM&Aの決済を四月三〇日迄にお願いしたい。」、「M&A契約とサンヨー社、中央社の土地売買契約の時点は従来より同時期とはしない旨意見を伝えてあるので誤解ないよう、再度御回答申します。」との文書(乙17別添1)を送付し、同月三〇日には、本件不動産の明渡しには本件株式の代金の手当が必要であるとして、「小川氏の話では、値うちのない株の売買は速刻には応じられないとのことでしたが、本件の契約の当初より、株売却の先行を申し入れてあり、……その点を踏えお願いする次第です。」との文書(乙17別添3)も送付した。
阪急産業の顧問会計士の矢野公認会計士は、同月二〇日、「株式の側のリスクを極力減少させるために、土地については、国土法の上限金額いっぱいの金額配分を検討しております。」との文書(乙17別添2)を送付し、上記税法上の問題について注意を喚起している。
カ 同年五月七日、一審原告両法人と阪急産業は、香川県知事に対し、本件各土地のうち一審原告サンヨーオート所有分の売買予定対価の額を一三億三四五五万一五四一円、一審原告中央自動車所有分のそれを三億一五六三万六五四四円として、国土法上の届出を行った。
同月三一日、同知事から不勧告通知(甲81、82)があったが、その各通知には、それぞれの土地につき隣接地との一体利用を前提とした限定価格であるとの付記がなされていた。
これを受け同年七月八日、日本長期信用銀行梅田支店に、徳行、妙子、阪急産業代表取締役の眞鍋英壽、双方の顧問会計士が一同に会し、一審原告両法人と阪急産業は、本件不動産を合計一八億円(サンヨーオート所有の土地につき一三億三四五五万一五四一円、建物につき一億四三二五万七六九八円、中央自動車所有の土地につき三億一五六三万六五四四円、建物につき六五五万四二一七円)で売買する旨記載された平成五年七月八日付け本件不動産売買契約書(甲50)に記名・押印し、徳行、妙子らは阪急産業に、本件株式二〇株(徳行八株、妙子六株、一審原告まみえ三株、同寿枝三株)を一株二億一〇〇〇万円、合計四二億円で譲渡する旨記載された平成五年四月六日付け本件株式譲渡契約書(甲49)に記名・押印した。
本件株式譲渡契約書の日付は、本件不動産売買との一体性を秘匿するため上記手付金支払いの日に遡らせたものであり、本件株式譲渡契約書上、本件手付金九億円は、本件株式の譲渡代金に充当されるものとされた(約定一条二項、乙8、17別添1、18)。
キ 同日、本件株式の譲渡代金が上記徳行らの各個人名義の普通預金口座に入金された。そのうち一審原告両個人の分(合計一二億六〇〇〇万円)については、同日付けで日本長期信用銀行に新規開設された同原告ら名義の口座に入金され、その翌日から同月一四日にかけ全額が出金され、うち九億円は、一旦、一審原告両個人の別の普通預金口座を経由して、同六年三月三一日までの間に一審原告サンヨーオート名義の当座預金口座に振り返られた(乙41、甲56、57)。
なお、一審原告両個人は、自己がキャンベルゴヒャクの本件株式を保有していたことも、それが売却されたことも全く知らされていなかった(乙23、24)。
(その後の事情)
(1) 徳行は、阪急産業の要請に従い、本件株式の譲渡に際して、キャンベルゴヒャクの従業員を解雇した。そして、阪急産業はキャンベルゴヒャクの営業を引き継がず、キャンベルゴヒャクは休業状態とされ、中古車販売に必要な古物商の許可も返上したが、ただ、資本金額だけは平成八年三月六日四〇〇万円に、同月二三日一〇〇〇万円に順次増額された。
(2) 阪急産業は、当初、本件不動産の取得原価を一八億円、また本件株式の取得原価を四二億円として会計処理を行った。しかし平成一二年四月一日から始まる事業年度から親会社の阪急電鉄の連結対象会社となり金融商品会計基準が適用されたことから、取得した株式の時価が取得原価の五〇パーセントを下回る場合、その時価まで評価減を行う必要が生じ、上記事業年度の決算期の財務諸表に、自主的に本件各土地の土地勘定として収用による減額部分を控除した五七億三五七五万八九〇三円を計上し、他方、本件株式を一億四二万四四九五円として投資有価証券勘定に計上した(乙56、57)。
一審原告サンヨーオートは、平成六年四月までの一年間、本件各土地から約五〇〇メートルの場所に仮設店舗を設け、キャンベルゴヒャクが販売した中古車の所有権留保解除手続やクレームの処理を行った。同年五月からは、本件各土地から約四キロメートル離れた約一四〇〇坪の土地で、「ファーレン高松」を開設し、解雇したキャンベルゴヒャクの従業員を再雇用した上、中古車の販売を含む営業を再開したが、営業の形態は変えているものの、自社の「経歴書」と題する書面(乙24)には、同社の沿革として、「平成五年五月サービス体制向上のため、「株式会社キャンベルゴヒャク」を吸収合併「株式会社サンヨーオートセンター高松支店」とする」旨を記載した。
しかし阪急産業から本件株式譲渡契約書第一一条(競業避止義務)に基づくクレームが出された経緯はない。
(3) 大丸ハウスは、本件不動産の売買契約及びこれと一体をなす本件株式の売買契約に関する媒介委託契約に基づきアドックが有する報酬債権を譲り受けたとして、徳行、妙子及び本件訴訟における一審原告らを被告として、一億八〇〇〇万円の連帯支払を求める訴えを高松地方裁判所に提起(同裁判所平成五年(ワ)第四二〇号事件)し、この訴訟は、大丸ハウスに対し、一審原告両法人は本件不動産売買契約の仲介手数料として、連帯して五四〇〇万円を支払い、徳行、妙子及び一審原告両個人は、本件株式売買契約の仲介手数料として、連帯して三〇五〇万円を支払う、という内容の和解により終了した(甲88、乙12)。
この和解において、一審原告両法人が本件不動産を阪急産業に合計一八億円で売り渡す契約、並びに徳行、妙子及び一審原告両個人が本件株式を合計四二億円で売り渡す契約がそれぞれ有効に成立したことが確認されている。
2 本件不動産価格について
(1) 一般的に、私人間の取引において、格別の事由のない限り、各契約書記載のとおりの合意が当事者間で成立したものと認めるべきである。
本件にあっては、本件裁決においても、平成五年四月六日付「株式及び土地、建物等の売買予約契約書」(本件予約契約書②)において、本件不動産、本件株式の売買価格は確定していたものと認めている(乙5、6。もっとも、本件裁決は、一審原告両法人が、本件各土地については、買い進みがあったこと、利用目的が駐車場であることを考慮し、他方、本件株式については、キャンベルゴヒャクの将来性、収益力を考慮の上評価して、本件不動産の価格を三五億円、本件株式の価格を二五億円である旨主張しているのは、請求人(一審原告両法人)自身、本件予約契約書②記載の価格がいわゆる時価を適切に反映したものではないことを承認したものとした上、請求人(一審原告両法人)が主張している本件各土地の合計価格三三億円余は、適切な価格三二億円余を上回っているとして、本件法人税等関連各処分を一部取り消したのである。)。
また、本件各土地は一三億円余りで購入した土地であり、その時価は一六億三七〇〇万円(ただし、原判決別紙物件目録一1末尾記載の高松市田村町字西内<番地略>公衆用道路五一平方メートルを除く。)程度で、本件不動産契約書に記載された代金額(一八億円)との間に不均衡はなく、しかも、その一八億円という代金記載額は国土法の規制を踏まえた金額であるといえなくもない。
(2) しかし、上記のとおり、一審原告両法人は、本件裁決の審査請求手続で、本件不動産の価格を三五億円、本件株式の価格を二五億円であると主張した経緯があることに加え、下記指摘の各事情からすると、本件各契約書に記載された各譲渡代金額(本件不動産一八億円、本件株式四二億円)は、それぞれ別個・独立に、その経済的実体を踏まえ決定された金額ではなく、代金総額を六〇億円にするということを前提に、この金額を上記目的(国土法の適用除外と租税回避)に沿うよう適当に配分・割り付けて得られた金額に過ぎないものであって、本件各契約は一体不可分の関係にあると認めざるを得ない。
ア まず、上記の基礎的事実の「(本件取引経過)」の本件予約契約書①、②に関して指摘したとおり、売買の目的物について各別にその価格等が検討された様子はないことが窺え、このことは、総額を六〇億円とすることが主たる確定事項であったことを示しているといえる。
次に、原判決が、本件不動産の売買契約及び本件株式の譲渡契約においては、本件不動産と本件株式を併せて譲渡することにより、本件各土地の譲渡価格の一部を本件株式の譲渡価格に「付け替えた」もので、本件株式の実質価格は八七七二万六四四〇円を限度とするものであったことを窺わせるものとして挙げている(原判決一四二頁四行目から一四七頁三行目)事情がある。
すなわち、阪急産業が必要としたのは本件各土地だけで、徳行が本件不動産を一八億円、本件株式を四二億円として合計六〇億円ですべてを売却したいと申し入れたのは、国土法の規制をクリアーでき、税金が安くなるという理由からであること、キャンベルゴヒャクは阪急産業の要請により従業員を解雇し、中古車販売に必要な古物商の許可も返上して休業状態である一方、その営業は阪急産業に引き継がれず、一審原告サンヨーオートは、「ファーレン高松」を開設し、中古車の販売を含む営業をしており、解雇したキャンベルゴヒャクの従業員を再雇用していること、株式譲渡契約書における競業避止義務を定めた条項にもかかわらず阪急産業から一審原告らに対して何らかの異議もあった形跡がないこと等の本件株式の譲渡によって阪急産業とのM&A契約が実行された形跡が全くないという事情である。
イ 石鑑定意見書(乙53の2)は、本件株式二〇株の時価を合計四億九二四五万四六〇〇円(一株二四六二万二七三〇円)相当としているところ、この鑑定価格は充分根拠があると認められる。
すなわち、平成五年四月、キャンベルゴヒャクの資産(在庫中古車、可動性を有する備品等)は一審原告サンヨーオートに引き継がれ、本件各契約が締結されたとされる同年七月八日の時点では本件不動産に対する利用権以外には残存していなかったのであり、本件不動産及び本件株式の譲渡によりキャンベルゴヒャクの従業員は全員解雇され、また、同社の有利な立地条件、一審原告サンヨーオートからの仕入れルート等も当然失われていたのである。
もっともキャンベルゴヒャクは、本件各土地で営業を開始後、過去三事業年度平均すると七〇〇〇万円を超える税引前純利益を計上していたことなどからみて、本件株式の時価評価を行うに当たっては、やはり純資産だけではなく、本件不動産からの立退補償を含む所得補償の点も十分に考慮する必要があることは否定できないが、石鑑定意見書は、本件株式の譲渡は実質的にはキャンベルゴヒャクが保有する純資産及び形式的な法人格の譲渡でしかないことを指摘しつつも、本件不動産からの立退補償を含む所得補償の必要性も考慮に入れ、簿価純資産法だけではなく収益還元価格法も加えて本件株式の時価評価を行っており、その算出手法は客観的かつ合理的なものと解される。
これに加え、石鑑定意見書は、収益還元価格法の適用に当たっても、上記事実のとおり将来の予想利益は逓減傾向(とくに直前の第四期の税引前純利益は僅か六〇〇万円台にまで落ち込み、一審原告らがいう修正税引前純利益も前年度と比較して一億円近く減少している。)を示しているのに、敢えて過去三年間の純利益の平均値を採り、かつ危険率も最小限の値である三パーセントを採用するなどして本件株式の時価を合理的な範囲内で最大限高く評価することにより一審原告らの利益にも十分に配慮していることなどのほか本件訴訟に顕れた一切の事情を総合勘案するならば、石鑑定意見書の証拠価値は高いものといわざるを得ず、本件株式の時価を上記のとおり認定するよりほかはない。
一審原告らは、キャンベルゴヒャクの収益力は、各事業年度ごとの税引前純利益に、グループ企業である一審原告両法人に対する仕入手数料や賃料をも加えて把握されるべきであるところ、キャンベルゴヒャクの実質純利益は、上記事実のとおり年間二億円を超えるものとして、徳行が本件株式の実質的価値を四二億円と定めたのは相当である旨主張する。しかし、そもそも上記二億円という純利益は、税引前の価格であって、これを直ちに株式の時価評価の基礎価格とすることには疑問があるほか、本来、キャンベルゴヒャクから一審原告両法人に支払われる仕入手数料等は、一審原告法人らの株式価値を高めることはあっても、キャンベルゴヒャクの本件株式それ自体の実質的価値を高めるものではないと考えるのが合理的である上、仮に、これら仕入手数料をキャンベルゴヒャクの収益力の中に加えるとしても、上記のとおり将来の予想利益は逓減する傾向にあったのである。その他、将来の危険率等を考慮に入れるならば、本件株式の客観的な時価評価として四二億円もの株式評価が成り立つ余地があるとは到底認められず、また、そうした株式評価を裏付けるに足る客観的な証拠も提出されていない。一審原告らの上記主張は採用の限りではない。
ウ 本件各土地の時価評価につき、不動産鑑定評価書(甲79)は、合計一六億三七〇〇万円(ただし、原判決別紙物件目録一1末尾記載の高松市田村町字西内<番地略>公衆用道路五一平方メートルを除く。)としている。
一審被告らは、当時の建設省が本件各土地の一部を一平方メートル当たり四五万九六〇〇円で収用した経緯があり(乙58)、これによれば本件各土地の時価は四二億八〇〇〇万円余りである旨主張するが、この主張評価額を客観的に裏付けるに足る証拠は提出されていない。もっとも本件各土地の取引は阪急産業からの激しい買い進みのある状況下で行われたのであるが、その点を考慮に入れても、上記不動産鑑定評価書の時価評価が現実の時価とまったくかけ離れた価格でないことは明らかである。
エ 上記判断を左右するに足る主張・立証はないばかりか、阪急産業は、当初、本件不動産の取得原価を一八億円、また本件株式の取得原価を四二億円として会計処理を行ったものの、平成一二年四月一日から始まる事業年度から親会社の連結対象会社となり金融商品会計基準が適用されたことから、上記事業年度の決算期の財務諸表に本件各土地の土地勘定として収用による減額部分を控除した五七億三五七五万八九〇三円を計上し、他方、本件株式を一億四二万四四九五円として投資有価証券勘定に計上して評価の見直しを行っていることによっても、裏付けられるところである。
(3) 以上指摘した事情、すなわち本件各売買契約の締結に当たって、その目的物の価格が各別に検討された形跡はなく、代金総額を六〇億円とすることが主たる確定事項であったこと、本件各契約書に記載の上記価格は国土法の規制をクリアーし、かつ税負担の増大を避けることを目的として付されたものであること、そして本件株式の譲渡によってM&A契約が実行された形跡は全くなく、本件株式の時価はどれだけ高く見積もっても五億円余りに過ぎないことなどの事情を総合すると、本件各契約書に記載された譲渡代金額(本件不動産一八億円、本件株式四二億円)は、いずれも国土法の規制を免れ、かつ、本件各土地の譲渡に伴う税負担の増大を回避するという目的に沿うよう上記六〇億円を適当に配分・割り付けただけの金額に過ぎないものであることは明らかである。
そして、このように本件各土地の譲渡に伴う税負担の増大を回避するという目的に沿うよう上記六〇億円を適当に配分・割り付けられた金額に過ぎない以上、本件株式譲渡契約書に記載の譲渡代金額(四二億円)は上記目的を達成するための仮装の金額であって、当事者間には別途真実の売買代金額が存在していたと認めるよりほかはない。
3 本件法人税等関連各処分の適法性について
(1) 課税処分の取消訴訟における実体上の審理の対象は、当該課税処分によって確定された税額の適否であり、課税処分における課税行政庁の認定等に誤りがあっても、これにより確定された税額が総額において処分時に租税法規によって客観的に定まっている税額を上回らなければ当該課税処分は適法と解される(総額主義)。そして、国税不服審判所は、上記のとおり、一審原告両法人の主張する本件不動産の売買価格を三五億円、本件株式の譲渡価格を二五億円と認定し、本件法人税各更正処分を一部取り消している。
したがって、本件法人税等関連各処分の取消訴訟における審理の対象は、上記取消後の税額を基礎付ける事実の存否いかんということになるから、結局、本件の課税行政庁たる一審被告尼崎税務署長は、本件法人税各更正処分の適法性を基礎付けるためには、本件不動産の売買価格が三五億円を下らないことを主張・立証することを要し、かつ、それで足りることになる。
そこで、以上の観点から、本件各土地の価格について検討することとする。
(2) 本件株式二〇株の時価評価は、最大限高く評価しても合計四億九二四五万円余りであるから、結局のところ本件株式譲渡契約において、徳行らは、上記のとおり合計五億円に満たない株式に四二億円もの代金を付したことになる。もとより株式の取引価格をいくらにするかは当事者の交渉により自由に決定することができる事柄ではあるが、時価相当額を基準として売買するというのが一般の株取引の通例であって、このことは本件のごとく億を超える株の高額取引の場合には、なおさらのことである。
そうすると本件株式の譲渡のように、契約書に記載された譲渡価格と時価が著しく懸絶している売買は、たとえ、その契約書作成に至る関係書類が残され、その記載価格が真実のものであることを当事者が力説しているとしても、契約書記載どおりの売買の存在を是認し難いというほかない(ちなみに最高裁昭和三六年八月八日第三小法廷判決・民集一五巻七号二〇〇五頁)。
なるほど、本件各土地は一三億円余りで購入した土地であり、しかも、その時価は一六億三七〇〇万円(ただし、原判決別紙物件目録一1末尾記載の高松市田村町字西内<番地略>公衆用道路五一平方メートルを除く。)程度で、本件不動産契約書に記載された代金額(一八億円)との間に不均衡はなく、しかも、その一八億円という代金記載額は国土法の規制を踏まえた金額である。しかし上記で指摘したとおり、本件各契約書に記載された各譲渡代金額(本件不動産一八億円、本件株式四二億円)は、それぞれ別個・独立に、その経済的実体を踏まえ決定された金額ではなく、代金総額を六〇億円にするということを前提に、この金額を上記目的(国土法の適用除外と租税回避)に沿うよう適当に配分・割り付けて得られた金額に過ぎず、それ自体に特段の意味があるわけではなく、上記記載金額が当事者の真実の意思ではなかったものというよりほかない。
とりわけ本件株式の譲渡金額に対する配分・割付額四二億円は、上記の目的を達成するうえで要ともいうべき重要な意味を有しており、この配分・割付額が仮装の金額に過ぎないというよりほかない以上、これと一体不可分の関係にある本件不動産の売買代金額が当事者の真意に基づくものであるとは認められないのである。
(3) このように、本件各売買における代金の配分・割付は仮装の金額に過ぎないとすると、次に本件不動産について当事者が合意した真の譲渡価格はいくらであるかが問題となる。その点は、売買の目的物の市場価格、取引当事者の必要性等を考慮して当事者の合理的な意思を探索するよりほかはないとしても、その正確かつ具体的な価格を明らかにすることは相当の困難を伴う。ただ上記総額主義の立場を前提とする限り、本件不動産の真の譲渡価格を具体的に認定し、確定する必要まではなく、少なくとも本件法人税等関連各処分の適法性を基礎付けるに足る譲渡価格の合意が成立していたこと、すなわち本件不動産についていうと当事者間に三五億円を下らない譲渡価格の合意が成立していたか否かを検討すれば足りるものというべきである。
本件株式の譲渡は、本件不動産について国土法の規制をクリアーするとともに、その譲渡に伴う税負担の増大を回避するための便法として採用されたものに過ぎず、それ自体の価格としては、買い進みによる価格のつり上げを最大限考慮したとしても、本来、時価相当額の数倍を超える対価を要求できる筋合いのものではなく、他方、阪急産業においても本件株式の譲渡には興味がなく、本件各土地の取得によりウインズ高松の駐車場を確保することにだけ関心があり、本件株式それ自体に対し時価相当額の数倍を超える対価を支払う意思など全くなかったことは上記の検討からも明らかである。
そうすると、本件株式二〇株の時価相当額は合計四億九二四五万円余りであるところ、仮に本件株式に買い進みがあったとしても、通常はその時価相当額を数倍(二〇億円)も上回る価格で売買されることは考えられず、結局、本件不動産の真の譲渡価格は、本件株式の取引価格を最大限高く認定しても、四〇億円を下回ることはないことに帰着する。
もっとも、このように本件不動産の譲渡価格を認定すると、本件各土地に対する国土法の規制を超えることになるが、一般の土地取引においても、時として、いわゆる裏契約などの方法を用いることにより、国土法の規制を超える価格での取引が行われることが、ままあることは周知の事実であり、本件にあっても、税負担回避の目的とも相俟って、本件株式の譲渡を一種の隠れ蓑としつつ、国土法上の規制を超える取引が行われたものとみられ、本件における上記国土法の規制の存在は、上記認定判断に対し何ら影響を与えない。
(4) 上記のとおり本件不動産の価格は、本件裁決が前提とした三五億円を下回ることはない。そして本件法人税更正処分一及び二で採用された本件各土地についての一審原告両法人の各譲渡価格割合(一審原告サンヨーオート80.9パーセント、同中央自動車19.1パーセント、原判決五三及び七一頁参照)は合理的なものと認められ、結局、上記総額主義の立場から、本件法人税等関連各処分は、いずれも適法であり、この点に関する一審原告両法人の請求は棄却されるべきである。
なお、一審原告らは、一審被告らが本件訴訟で総額主義を前提とした上、本件不動産の譲渡価格が三五億円を下らないことを主張することは本件裁決の拘束力(国税通則法一〇二条二項)に抵触し許されないものと主張する。しかし、同法一〇二条一項は「裁決は、関係行政庁を拘束する。」と規定するにとどまる上、行政処分の審査請求手続と行政処分の取消訴訟手続とは全く異なる手続であるから、一審被告らが、本件訴訟において、本件裁決の認定判断と異なる主張を行ったとしても、本件裁決の拘束力には何ら抵触しない。よって、一審原告らの上記主張は失当というほかはない。
以上のとおり、本件不動産売買契約において当事者が合意した本件不動産の譲渡価格が三五億円を下回らないので、本件法人税等関連各処分についての取消請求は理由がないことに帰着する。
4 株式売却に伴う所得関連各処分の適法性について
当裁判所は、以下のとおり株式売却に伴う所得関連各処分(一審原告両法人に対する告知処分等及び一審原告両個人に対する所得税更正処分等)についての、無効確認請求(主位的請求)はいずれも理由がないからこれを棄却し、またその各取消しを求める訴えは(予備的請求)、いずれも不適法却下を免れないものと判断する。
(1) 主位的無効確認請求について
ア 株式売却に伴う所得関連各処分(一審原告両法人に対する告知処分等及び一審原告両個人に対する所得税更正処分等)は、いずれも行政処分(行政事件訴訟法三条二項)に該当するので、無効確認を求めるには、一審原告らにおいて、無効原因として、これらの処分に重大かつ明白な瑕疵が存在していることを主張・立証する必要がある(最高裁昭和三〇年一二月二六日第三小法廷判決・民集九巻一四号二〇七〇頁)。
イ 一審原告らは、行徳、妙子、一審原告まみえ及び同寿枝には、本件裁決で認定された本件株式の譲渡価格(二五億円)と実際の譲渡価格(四二億円)の差額を一審原告両法人に返還する意思があり、現に、そのための会計処理まで行っているのであるから、かかる徳行らの意思及び会計処理に反して上記差額部分を賞与ないし寄付金として認定する本件納税告知処分等は、いずれも課税の根拠を欠き、かつ一義的に明確であることが求められる源泉徴収制度の建前をも無視する違法無効な処分である旨主張するのみである。
これらの主張は、いずれも株式売却に伴う所得関連各処分の後に生じた事情に基づくものである上、その内容も一審原告らの単なる意向や内部的な会計処理を理由とするものに過ぎず、上記各処分の根拠を失わせるような性質のものでないことは明らかである。
したがって、一審原告らが主張する事由は、株式売却に伴う所得関連各処分(一審原告両法人に対する告知処分等及び一審原告両個人に対する所得税更正処分等)の「瑕疵」とさえ評価することができないもので、その余の点を検討するまでもなく、株式売却に伴う所得関連各処分(一審原告両法人に対する告知処分等及び一審原告両個人に対する所得税更正処分等)の無効確認請求は理由がないことに帰着する。
ウ なお念のため付言するに、石鑑定意見書が指摘するとおり、本件株式の実質的価値の把握は容易でない以上、上記認定賞与ないし寄付金の誤認を理由とする瑕疵の主張は「重大かつ明白な瑕疵」とは到底いい難く、よって仮に一審原告らの上記主張が、上記瑕疵の主張を含むものであったとしても、結論は何ら異ならない。
(2) 予備的請求について
ア 一審原告らは、平成八年六月二七日、株式売却に伴う所得関連各処分(一審原告両法人に対する告知処分等及び一審原告両個人に対する所得税更正処分等)の審査請求を取り下げ、上記の各処分につき裁決を経ていないことは当事者間に争いはない。よって、本件納税告知処分等につき裁決を経ていないことにつき通則法一一五条一項三号の「正当な理由」があるか否かが問題となる。
イ 一審原告らは、国税不服審判所の審判官から、本件法人税更正処分等及び本件納税告知処分等の審査請求の全部又は一部の取下げに応じれば、全ての重加算税賦課決定処分が取り消され、源泉所得税及び所得税も賦課されなくなることを内々に教示されたことなどから、上記審査請求を取り下げたものであるとして、本件納税告知処分等につき裁決を経ていないことについて「正当な理由」がある旨主張するところ、そもそも、通則法一一五条一項三号にいう「正当の理由があるとき」とは、二重に不服申立てを経させる必要性と合理性に乏しい場合をいうのであって、上記のような国税不服審判所からの教示に基づき審査請求を取り下げたような場合が、これに含まれるかは甚だ疑問である。
のみならず、一審原告両法人代表者である徳行は、審判官から上記のような教示があった旨供述するが、一審原告両法人は、審査請求において、本件各土地を三五億円、本件株式を二五億円の価格での売買であるとも主張していたのであるから、この対価を前提として本件法人税等関連各処分等についての裁決があれば、これに基づき株式売却に伴う所得関連各処分(一審原告両法人に対する告知処分等及び一審原告両個人に対する所得税更正処分等)は変更されることになるとのことが話題となっていたことは当然推測される(現に、本件裁決に基づき変更された。)ものの、審判官から一審原告らが主張し、徳行が供述するような法に反した教示があったとは到底認め難いところで、一審原告らの上記主張事実を認めるに足る証拠がなく、一審原告らの上記主張は採用の限りではない。
なお、一審原告らは、一審被告らが、本件納税告知処分等の取消しを求める訴えの不適法を主張することは信義則に反するとも主張するが、この主張を基礎付ける事実の立証はなく、したがって、一審原告らの上記主張も採用の限りではない。
ウ よって、本件納税告知処分等の各取消しを求める訴え(予備的請求)は、いずれも不適法であるから却下を免れない。
5 本件不当利得返還請求について
当裁判所は以下のとおり一審原告両法人の一審被告国に対する不当利得(誤納金)返還請求は理由がないものと判断する。
(1) 上記のとおり、株式売却に伴う所得関連各処分には重大かつ明白な瑕疵は認められず無効原因は存在せず、また、上記各処分の取消しを求める訴えは裁決を経ておらず、不適法却下を免れないことから、結局、本件納税告知処分一及び二は有効に存続していることになるが、そもそも納税告知処分は、源泉所得税の徴収の第一段階として、税務署長において支払者に対し、すでに自動的に確定している税額のほか、納期限・納付場所等を示して納税を告知するものであって(通則法一五条二、三項、三六条)、課税処分ではなく徴収処分にとどまるものと解される(最高裁昭和四五年一二月二四日・民集二四巻一三号二二四三頁)。そうすると、納税告知処分が所定の期間内に行政上の不服申立て及び抗告訴訟(取消訴訟)が提起されないまま確定したとしても、その前提となる納税義務(源泉徴収義務)の存否・範囲等実体的な関係についてまで不可争性(確定力)が生じるものとはいえず(最高裁昭和五三年二月一〇日判決・訟務月報二四巻一〇号二一〇八頁)、したがって、一審原告両法人は、本件不当利得返還請求訴訟において、本件納税告知の前提となった納付義務の存否・範囲等実体的な関係について争うことができるものと解される。
(2) ところで、一審原告両法人が、源泉所得税について、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」の「一前提となる事実」の13の(一)及び(二)(三四頁以下)に記載のとおり、法人税及び法人特別税の還付金等を充当され、または現金納付したことは当事者間に争いはないところ、この一審原告両法人が現金納付等を行った金額は、原判決の同12の(一)(三二頁以下)及び同別表7、8に記載のとおり、本件裁決に基づき本件納税告知処分一及び二を変更した後の各納税告知処分に従ったものである。
上記のとおり本件各土地は三五億円を下回らない価格で売却されたと認められるので、本件裁決に従って変更された後の納税告知処分は適法であると解され、したがって、この変更により一審原告両法人に対する上記誤納金は発生していないこととなる。
(3) よって、一審原告両法人の一審被告国に対する不当利得返還請求は理由がないことに帰着する。
第4 結語
以上のとおり、当裁判所の上記結論と異なる原判決はその限度で取り消しを免れず、よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・岡部崇明、裁判官・白井博文、裁判官・伊良原恵吾)