大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成12年(行コ)62号 判決 2001年2月07日

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人が控訴人に対し平成一〇年一二月一八日付日記第二〇一号及び同第二〇二号をもってした、控訴人の神戸地方法務局須磨出張所平成一〇年一一月二〇日受付第四七八六四号及び同第四七八六五号の登記申請を却下するとの処分を取り消す。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一申立て

主文同旨

第二主張

当事者の主張は、原判決事実摘示(第二「事案の概要」)のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  事実の経過

争いのない事実、証拠、弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

1  控訴人は、平成一〇年一月一三日ころ、株式会社ウェザーリポート(平成一〇年八月一八日、株式会社舞子リゾートに商号を変更した。以下、「株式会社舞子リゾート」という。)から原判決別紙物件目録記載一及び二の建物(以下、「本件建物」という。)の建築工事を請け負った。

建築主事は、平成一〇年一月三〇日原判決別紙物件目録記載一の建物(以下、「本件建物一」という。)の、同年三月四日同目録記載二の付属建物の、同月九日同目録記載二の主たる建物(以下、同目録記載二の建物を「本件建物二」という。)の各新築の、同年七月一四日本件建物一の増築の各確認通知をした。なお、右建築確認において、その建築主は株式会社舞子リゾートとされていた。

控訴人は、平成一〇年三月三一日までに本件建物二を、同年八月三一日までに本件建物一をそれぞれ完成させた。そして、控訴人は、株式会社舞子リゾートに対し、平成一〇年四月一日本件建物二を、同年七月中旬ころに本件建物一内のレストランを、同年九月一日本件建物一内のホテルをそれぞれ引き渡した。株式会社舞子リゾートは、右各引渡しを受けた日から、それぞれの営業を開始している。

しかし、株式会社舞子リゾートは、控訴人との間で本件建物の請負代金の額について合意に至らなかったため、その支払をしていない。

(甲第二、第三号証の各四、第四号証、第五号証の三、乙第二ないし四号証の各一、二、第一一号証)

2  控訴人は、平成一〇年一〇月二〇日、本件建物の表示登記の申請書を神戸地方法務局須磨出張所に提出した(同出張所同日受付第四四〇九二号及び第四四〇九三号)。その際、同申請書に添付された所有権を証する書面としては、建築確認通知書のほかは、控訴人又はその従業員が作成した建物所有権証明書、工事完了証明書及び上申書だけであった。

神戸地方法務局須磨出張所の担当登記官は、平成一〇年一〇月二九日、来庁した控訴人代理人に対し、本件建物は建築確認の建築主が控訴人以外の者であるから、控訴人が表示登記を申請する場合には、建築確認の建築主である株式会社舞子リゾートの作成にかかる、本件建物の所有権が建築工事人である控訴人に帰属している旨の証明書を添付するのが通例であることを説明した。その際、控訴人代理人は、本件建物は株式会社舞子リゾートの発注により控訴人が建築し、現在株式会社舞子リゾートがホテル、レストランとして使用しているが、工事請負契約書が作成されておらず、控訴人は工事代金の支払を受けていないので、工事代金の回収のために登記申請をした旨説明した。

控訴人は、舞子リゾートの証明書を得ることとし、同年一一月一二日、担当登記官の指導に従い表示登記の申請を取り下げた。

(弁論の全趣旨)

3  控訴人は、その後、株式会社舞子リゾートと交渉をし、控訴人と株式会社舞子リゾートとの間で、平成一〇年一一月、次の内容の確認書(以下、「本件確認書」という。)を作成した。

(一)  株式会社舞子リゾートは、控訴人に対し、本件建物の請負代金を支払っていないことを確認する。

(二)  株式会社舞子リゾートと控訴人とは、今後速やかに、請負代金の額を確定する。

(三)  株式会社舞子リゾートは、請負代金を支払っていないことから、本件建物の所有権が控訴人に帰属していることを認め、請負代金を支払うまでの間、控訴人名義で本件建物に保存登記をすることに同意する。

(四)  控訴人は、請負代金が支払われたときには、株式会社舞子リゾート又はその指定する者に本件建物の所有権移転登記手続をする。

(五)  控訴人は、株式会社舞子リゾートの権利を保全するため、保存登記と同時に株式会社舞子リゾートに対し所有権移転請求権仮登記をする。

(甲第六号証、乙第二〇号証)

4  株式会社舞子リゾートは、平成一〇年一一月二〇日付で、本件確認書に基づいて、神戸地方法務局須磨出張所宛の申述書(以下、「本件申述書」という。)を作成した。

その申述書には、本件建物の建築確認通知書の建築主は株式会社舞子リゾートになっているが、株式会社舞子リゾートが建築材料を供給せず、かつ建築工事代金全額を支払っていない(所有者を注文者とする旨の特約もない)ので、本件建物の所有権が控訴人に帰属していることに争いがなく、したがって、控訴人を申請人とする表示登記を申請することにつき異議なく承諾する旨記載されている。

(甲第五号証の一、乙第四号証の一)

5  控訴人は、平成一〇年一一月二〇日、神戸地方法務局須磨出張所に対し、本件建物の表示登記の申請を行い、被控訴人登記官は、神戸地方法務局須磨出張所同日受付第四七八六四号及び第四七八六五号をもってこれを受け付けた(以下、「本件登記申請」という。)。

本件登記申請書には、建物所有権証明書(控訴人が本件建物を所有する旨の記載がある。)、工事完了証明書、建築確認通知書、建物図面及び上申書に加え、株式会社舞子リゾート作成の本件申述書(印鑑証明書添付)が添付されていた。

なお、上申書には、控訴人が本件建物の建築工事人であるにもかかわらず、本件建物の表示登記の申請をするに至った理由が次のとおり記載されている。控訴人は、本件建物の建築材料を全て供給したにもかかわらず、株式会社舞子リゾートから未だ工事代金を受領していない。控訴人は、確認通知書を保管し、株式会社舞子リゾートに工事完了引渡証明書を交付していない。これらのことから、本件建物の所有権が控訴人に帰属しており、控訴人の権利を確保するために、申請に及んだものである。

(争いがない、甲第二、第三号証の各一ないし四、第四号証、第五号証の一、二)

6  担当登記官は、平成一〇年一二月一日、本件建物の物理的な状況の確認及び所有者の調査のため、本件建物を実地に調査した。

本件建物の物理的な状況については、控訴人の常務取締役及び控訴人従業員の案内で調査したが、問題はなかった。

本件建物の所有者に関して、担当登記官は、株式会社舞子リゾート代表者Aからおおむね次のとおりの内容を聴取した。

(一)  控訴人側から、Aに対し事前に電話連絡があり、法務局の調査に対しては、なんでも、うん、うんと言ってくださいと言われていた。

(二)  株式会社舞子リゾートと控訴人との間の本件建物の建築に関する請負契約書は、簡易なものが存在したが、今手元にはない。

(三)  本件建物の工事代金は、控訴人から請求された金額が株式会社舞子リゾートの見込額を大幅に超えていたので、現在協議中であり、その支払いをしていない。

(四)  本件申述書は、工事代金の問題を解決するため別に作成した本件確認書に基づいて作成したものである(なお、この際、Aから本件確認書の写しを提供された。)。

(五)  株式会社舞子リゾートは、本件建物の建築に当たり、敷地所有者である神戸市と一〇年間の土地賃貸借契約を締結しているが、本件建物を控訴人名義で登記すると賃貸借契約がどうなるのか心配なので、神戸市と控訴人代理人に相談したいから、登記の実行は一時待ってもらいたい。

(乙第四号証の一)

7  担当登記官は、実地調査時に、控訴人の取締役に対し、Aから表示登記の実行を一時待ってほしいとの申出があった旨説明し、その了承を得て、本件登記申請の受否の判断を一時留保していた。ところが、翌一二月二日以降、同登記官に対し、A、株式会社舞子リゾートの代理人又は控訴人代理人から、次のとおり、連絡、要請等があった。

(一)  Aは、平成一〇年一二月二日、担当登記官に対し、電話で次のとおり連絡をした。

神戸市は、本件建物を控訴人名義にすることは、本件建物の敷地に関する神戸市と株式会社舞子リゾート間の賃貸借契約に違反する可能性があり、違反するのであれば、本件建物の撤去を求めることも考えられるので、弁護士に相談する旨言っている。これは、控訴人代理人の説明と相違するので、控訴人代理人に連絡したい。なお、本件申述書の取消しもあり得る。

そこで、担当登記官は、Aに対し、早急に結果を連絡するよう求めた。

(二)  Aは、平成一〇年一二月三日に三回にわたり、担当登記官に対し、電話で次のとおり連絡をした。

(1) 控訴人代理人は、神戸市が言うような本件建物の撤去などはあり得ない、本件申述書の取消しには応じない旨言っている。

(2) 神戸市の弁護士の判断を待っている。控訴人との間の本件確認書はその内容に疑問が生じているから、株式会社舞子リゾートの弁護士と相談するので、登記の実行は待ってほしい。場合によっては、控訴人と本件建物の所有権について争うようになるかもしれない。

(3) 弁護士に相談したところ、本件確認書等は当初からおかしいのではないか、早く撤回するようにと言われたので、控訴人代理人に連絡する。その結果、弁護士間の話となるかもしれないが、早急に対処するので、登記実行を待ってほしい。本件申述書の撤回等については、来週早々に文書で提出したい。

そこで、担当登記官は、その都度、Aに対し、次のとおり答えた。

(1) 登記の実行を長期間待つことはできない。

(2) 神戸市との問題は本件登記申請と直接関係がない。株式会社舞子リゾートが本件建物について所有権を主張するのであれば、その旨記載した書面を提出願いたい。本件登記申請の処理は当該書面が提出された時点で判断する。

(3) 控訴人に対し、担当登記官にしたのと同じ内容の連絡をして下さい。

(三)  Aは、平成一〇年一二月四日、担当登記官に対し、電話で、弁護士と相談した結果、本件申述書の撤回を来週後半に神戸地方法務局須磨出張所にお願いすることにした旨連絡してきた。担当登記官は、Aに対し、本件申述書を撤回するのであれば、控訴人への対応の事実を明記した撤回書の作成を依頼した。

株式会社舞子リゾートの弁護士は、平成一〇年一二月四日、担当登記官に対し、電話で次の内容の連絡をした。

本件建物の請負工事仮契約書には、建物は完成後七日以内に引き渡すと明記され、株式会社舞子リゾートへの引渡しが完了していると考えられるから、来週早々、控訴人に対し、本件申述書を撤回し、本件建物の所有権は株式会社舞子リゾートにある旨を明記した文書を送付する。神戸地方法務局須磨出張所へは、右文書の写しを添付して、本件申述書を撤回し、本件建物の所有権は株式会社舞子リゾートにある旨記載した文書を提出する。

担当登記官は、右申出を了解し、その時点で本件登記の実行について判断すると回答した。

(四)  株式会社舞子リゾートの弁護士は、平成一〇年一二月八日、控訴人代理人に対し、次の内容の書面を発送した。

本件確認書に基づく保存登記手続は、美津濃株式会社の問題を解決するための便法としてのものであり、また、株式会社舞子リゾートの所有権移転請求権保全の仮登記を同時に行うことになっている。ところが、控訴人の本件登記申請は、美津濃株式会社の問題を解決する目的を逸脱する動きがあるやに仄聞しており、保全仮登記手続も行われていないので、本件確認書に基づく約束(前提)が履行されていないと考えざるを得ず、本件申述書を撤回する。本件建物については、仮工事請負契約書が作成されているのみであり、これによれば、引渡しの時期は完成の日から七日以内とされていて、本件建物は既に完成して株式会社舞子リゾートに引き渡されており、また、神戸市との土地賃貸借契約書では譲渡・転貸は一切禁止されているので、本件建物の所有権は株式会社舞子リゾートにあると考えざるを得ない。

(五)  担当登記官は、平成一〇年一二月一〇日、Aに対し、電話で、文書の提出を催促した。Aは、株式会社舞子リゾートの弁護士が控訴人代理人に対し、本件申述書を撤回し、株式会社舞子リゾートが本件建物の所有権を主張する旨を明記した書面を送付したので、その写しを送付する、株式会社舞子リゾートは本件建物の所有権を主張すると答えた。そして、同日、株式会社舞子リゾートの弁護士事務所から、神戸地方法務局須磨出張所の担当登記官に対し、右書面がファックスで送信された。

(六)  Aは、平成一〇年一二月一一日、神戸地方法務局須磨出張所に対し、控訴人と株式会社舞子リゾート間の本件建物についての仮工事請負契約書の写しを送信した。

(七)  担当登記官は、平成一〇年一二月一四日、Aに対し、株式会社舞子リゾートが一度は控訴人の本件登記申請を認めながら、その後本件建物の所有権を主張する理由を尋ねた。

Aは、担当登記官に対し、控訴人代理人の口車に乗せられて本件申述書を作成したが、詐欺にあったようなものであるので、本件申述書を撤回し、本件建物の所有権を主張する書面を作成して、控訴人代理人に送付したと答えるとともに、本件登記申請にかかる表示登記を実行しないように申し入れた。

(八)  控訴人代理人らは、平成一〇年一二月一四日付で、神戸地方法務局須磨出張所に対し、本件登記申請にかかる表示登記を実行するよう求めるとともに、右表示登記が実行されないときには、右表示登記が実行される時期及び表示登記が実行されない理由を速やかに文書で説明するように求め、誠意ある対応がなされないときには、法的手段を講ずる趣旨を記載した文書を送付した。(乙第五ないし一一号証、第一七、第一八号証)

8  担当登記官は、平成一〇年一二月一五日、株式会社舞子リゾートの事務所を訪れ、Aから事情聴取をして、次のとおりの回答を得た。

株式会社舞子リゾートは、美津濃株式会社と控訴人とが結託し、控訴人が本件建物の所有権を主張して、本件建物から株式会社舞子リゾートを排除し、他社に営業させるとの情報を入手した。そのため、控訴人のこれまでの行為に対し不信の念を抱いたので、弁護士にこれまでの経緯を説明して相談したところ、弁護士から本件建物の所有権は株式会社舞子リゾートにあると言われた。そこで、株式会社舞子リゾートは、平成一〇年一二月八日、控訴人に対し、本件申述書の撤回及び本件建物の所有権が株式会社舞子リゾートにある旨を記載した書面を送付した。

土地所有者の神戸市との間で美津濃株式会社を代表企業、株式会社舞子リゾートを構成企業として賃貸借契約を締結した上、株式会社舞子リゾートが建築主として建築確認を受け、控訴人を建築工事人として本件建物を完成させた。本件建物二については、平成一〇年四月一日に株式会社舞子リゾートが引渡しを受けて同日から営業を開始し、本件建物一内のレストランについては、同年七月四日に引渡しを受けて同日から営業を開始し、本件建物一内のホテルについても、同年九月一日に引渡しを受けて同日から営業を開始しているが、控訴人から苦情を受けたことはない。

本件建物の工事代金については、仮工事請負契約書において完成後一括払いとなっており、控訴人から工事代金の請求があったが、株式会社舞子リゾートの当初予定額を大幅に超えていたため、双方で協議中である。

(乙第四号証の二)

9  被控訴人登記官は、本件建物の所有権が控訴人に帰属すると一応推認することすらできないと判断し、建物の表示に関する登記の申請書に掲げる建物の表示に関する事項が登記官の調査の結果と符合しないとき(不動産登記法四九条一〇号)に当たるとして、平成一〇年一二月一八日、本件登記申請を却下した(以下、「本件却下処分」という。)。

(争いがない、甲第一号証の一ないし三、乙第四号証の二)

二  本件却下処分の違法性について

1  以下の事実を勘案すれば、被控訴人登記官は、本件建物の所有権が控訴人に帰属すると一応推認することができるので、本件登記申請書に掲げる建物の表示に関する事項が登記官の調査の結果と符合しないときに当たらないと認めるのが相当であるから、被控訴人登記官としては控訴人の申請を認めて表示登記をすべきである。

(一)  前記一で認定した事実によれば、被控訴人登記官が本件処分までに受領した書面により明確に認めることができ、控訴人と株式会社舞子リゾートの間で意見の相違のない事実は、次のとおりである。

(1) 控訴人は、平成一〇年一月一三日ころ、株式会社舞子リゾートから、本件建物の建築を請負い、同年八月三一日までに、これを全て完成した。

(2) 右建築に要する材料は、全て控訴人が供給し、株式会社舞子リゾートは供給していない。

(3) 株式会社舞子リゾートは、控訴人に対し、本件建物の建築請負代金を全く支払っていない。ただし、建築請負代金の額については、控訴人と株式会社舞子リゾートとの間で争いがある。

(4) 控訴人は、平成一〇年九月一日までに、完成した本件建物全てを株式会社舞子リゾートに引渡し、同社がこれを使用している。

(5) 控訴人と株式会社舞子リゾートは、平成一〇年一一月に、本件建物の所有権が控訴人に帰属することを確認し、請負代金を支払うまで本件建物について控訴人名義で保存登記をすることに株式会社舞子リゾートは同意し、保存登記と同時に株式会社舞子リゾートに所有権移転請求権仮登記をすることを合意し、その旨の本件確認書を作成した。

(6) 平成一〇年一二月一〇日に、株式会社舞子リゾートの代理人弁護士より担当登記官に、本件申述書を撤回し、右(5)の本件確認書の効力を否定する内容の書面が届けられた。

(二)  右(一)(1)ないし(5)の事実によると、本件建物については建築工事人である控訴人から建築主である株式会社舞子リゾートに引渡しがされてはいるが、本件確認書によりその所有権は控訴人に帰属することが合意されているから、この段階では本件建物の所有権が控訴人に帰属することは明白であったといえる。

(三)  右(一)(6)の書面による本件申述書の撤回と本件確認書の効力の否定とにより、控訴人の所有権の一応の立証が崩れたのかが問題となる。

右書面は、株式会社舞子リゾートと控訴人との間で本件確認書を破棄するとの合意がされたというものではなく、本件確認書が作成されたことを前提として、その効力を争っている。

しかし、以下のとおり、右書面(右一7(四))やAの説明(右一7(七))では、右確認書の効力を否定するに足りるだけの理由が説明されているとは考えられない。

(1) 右書面には、本件確認書に基づく保存登記手続は美津濃株式会社の問題を解決するための便法としてのものである、また、本件確認書に基づく約束(前提)が履行されていないとの記載がある。

しかし、右書面でいう所有権保存登記が便法であるとか、本件確認書には前提があるとかは、本件確認書(乙二〇号証)にはその旨の記載はないし、ほかにその趣旨の資料はない。また、美津濃株式会社の問題を解決する目的とは何のことか、それが本件確認書の効力にどう響くのかは説明がない。

(2) 右書面には、株式会社舞子リゾートの所有権移転請求権保全の仮登記を同時に行うことになっているが、保全仮登記手続が行われていないとの記載がある。

しかし、保全のための所有権移転請求権仮登記は、表示登記がされた後に行われるべきものであるから、右仮登記がされていないことは表示登記の申請を妨げるものではないし、株式会社舞子リゾートが右仮登記を主張することは控訴人の所有権や所有権保存登記を容認することでもある。

(3) 右書面には、本件建物については、仮工事請負契約書が作成されているのみであり、これによれば引渡しの時期は完成の日から七日以内とされていて、本件建物は既に完成して株式会社舞子リゾートに引き渡されており、また、神戸市との土地賃貸借契約書では譲渡・転貸は一切禁止されているので、本件建物の所有権は株式会社舞子リゾートにあると考えざるを得ないとの記載がある。

しかし、本件建物の引渡しがなされていたとしても、本件建物の所有権が控訴人に帰属すると解すべきことは前記のとおりである。また、株式会社舞子リゾートと神戸市との間の本件建物の敷地の賃貸借契約において譲渡・転貸が禁止されているとしても、このような事実から、本件建物の所有権が株式会社舞子リゾートに帰属すると解することになるものではない。

(4) Aの担当登記官に対する説明も、詐欺にあった「ようなものだ」と言うのであって、詐欺だと言っているわけでもない。そして、他にAの説明に、本件確認書の効力を否定するに足りるだけの具体的なものも認められない。

これらを見ると、株式会社舞子リゾートの本件申述書の撤回は、控訴人の表示登記に反対というだけで、それ以上に本件建物の所有権が控訴人に帰属しないこと、つまり本件確認書が効力を有しないことの説明が一応の納得も得られるものではない。

前記確認書の効力を否定する理由については一応の証拠も存しないというべきである。

(四)  不動産登記簿に所有者として登記されても、それは所有権を確定するものではなく、当事者間で所有権を争う機会があるのであるから、登記官は表示登記の申請人が真実の所有者であるとの確信を抱かなくとも、所有者であると一応認めることができれば、表示登記を実行すべきである。

本件では、株式会社舞子リゾートが控訴人の所有権を争うに至っているが、控訴人の所有権を基礎づける本件確認書の効力を否定する一応の証拠も存しないので、本件登記申請書に掲げる建物の表示に関する事項が登記官の調査の結果と符合しないときに当たらないから、登記官としては控訴人の申請を認めて表示登記をすべきである。

2  したがって、本件建物の所有権が控訴人に帰属すると一応推認することすらできないと判断し、本件登記申請書に掲げる建物の表示に関する事項が登記官の調査の結果と符合しないとき(不動産登記法四九条一〇号)に当たるとして、平成一〇年一二月一八日本件登記申請を却下した被控訴人登記官の本件却下処分は、違法であるから、これを取り消すのが相当である。

三  以上によれば、控訴人の本訴請求は理由があるので、これと異なる原判決を取り消した上、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井関正裕 裁判官 前坂光雄 裁判官 牧賢二)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例