大阪高等裁判所 平成12年(行コ)7号 判決 2001年3月01日
控訴人(一審原告)
甲
控訴人(一審原告)
乙
右両名訴訟代理人弁護士
古殿宣敬
被控訴人(一審被告)
長田税務署長
丸田昭和
右指定代理人
森木田邦裕
同
高谷昌樹
同
馬場一
同
岩本竜一
主文
一 原判決を次のとおり変更する。
1 控訴人甲の平成4年1月17日相続に係る相続税について、被控訴人が平成6年6月21日なした更正決定(ただし、平成8年12月10日付け裁決による一部取消後のもの)のうち課税価格1億9927万8000円を超える部分、並びに過少申告加算税及び重加算税を賦課する旨の決定(ただし、過少申告加算税賦課決定については、平成8年12月10日付け裁決による一部取消後のもの)を取り消す。
2 控訴人乙の平成4年1月17日相続に係る相続税について、被控訴人が平成6年6月21日なした更正決定(ただし、平成8年12月10日付け裁決による一部取消後のもの)のうち課税価格1億9927万8000円を超える部分及び過少申告加算税を賦課する旨の決定(ただし、平成8年12月10月付け裁決による一部取消後のもの)を取り消す。
二 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人ら
主文と同旨
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人らの負担とする。
(以下、控訴人甲を「原告甲」、控訴人乙を「原告乙」、被控訴人を「被告」という。また、略称については原判決のそれによる。)
第二事案の概要
一 本件は、祖母の遺産を相続した原告らの相続税につき、被告が平成6年6月21日付けで行った再更正処分(ただし、平成8年12月10日付け裁決による一部取消後のもの)及び過少申告加算税と重加算税(重加算税については原告甲のみ)の各賦課決定処分(ただし、過少申告加算税賦課決定については、平成8年12月10日付け裁決による一部取消後のもの)が違法であるとして、原告らがその取消しを求めた事案である。
原審は、原告甲の相続税についての重加算税賦課決定の一部を取り消し、原告甲のその余の請求、原告乙の請求をいずれも棄却したが、原告らが控訴を提起した。
二 争いのない事実、争点及び当事者の主張は、次に付加するほか、原判決「事実及び理由」欄第二の一、二(原判決4頁末行から21頁9行目まで)に記載されたとおりであるから、これを引用する。
1 原告らの付加主張
(一) 原判決別表(以下、「原判決別表」を単に「別表」という。)Ⅷ記載の各不動産の帰属について
(1) 別表Ⅷ順号1、2、10の不動産は、丙の生前、丁に贈与されており、丙の遺産を構成しない。
別表Ⅷ順号3ないし5の宅地三筆も、丁、原告甲、原告乙に持分各40分の1が贈与されており、右持分合計40分の3については、丙の遺産を構成しない。
(2) 時機に遅れた攻撃防御方法との主張について
原告甲は、丙の死亡時20歳の文学部の大学生であり、父の勧めに従い、長田税務署の指示に従って、相続税の申告をしたが、その際、不動産については、丙の相続財産として申告するよう指導された。
また、本件では、被告の行った更正処分についての争いであり、不動産の帰属は問題となっていなかった。
したがって、前記(1)の各不動産の帰属についての主張が遅れたことについて、原告らに故意、過失はない。
(二) 丁の資産取得原因について
本件において、被告は、丙の資産形成の立証を行っていない。
証券会社(A証券)の担当者であった戊は、「丙の亡夫己は資産家であって、丙は己の財産を相続した。」旨の供述をしており、右供述によると、丙の管理する財産は己の相続財産に由来することになる。
己は、昭和31年1月20日に死亡しており、相続人は丙(相続分3分の1)、丁(相続分3分の2)であったから、丙の管理していた財産の3分の2は、丁が己から相続したものに由来し、原告両名は、丁の右財産を各2分の1ずつ相続したことになる。
2 被告の付加主張
(一) 本件不動産の帰属について
原告らは、別表Ⅷ順号1、2、10の不動産が、丙の遺産に含まれないと主張するが、右主張は、提訴後3年以上経過した控訴審の第三回口頭弁論期日において主張されたものであるところ、その間、第一審では13回の口頭弁論期日が重ねられているのであるから、原告らの右主張は、時機に遅れたものであることは明らかである。
原告らは、右各不動産の存在を認識しており、これが丙の遺産に含まれないと主張することを妨げるような事情は存せず、故意に右主張をこれまでしなかったか、これまで主張しなかったことについて重大な過失があるというべきであるから、右主張は却下されるべきである。
(二) 丁の資産取得原因について
証券会社の戊の供述は、前任者からの伝聞に過ぎず、その裏付けもなく、丁が己の遺産を相続したと認めることはできない。
第三当裁判所の判断
一 本件更正処分の適法性(本件各動産、本件各不動産は丙の遺産に属するか)について
1 本件各動産の帰属について
(一) 判断の前提となる事実関係
判断の前提となる事実関係については、原判決22頁3行目から40頁4行目までに記載されたとおりであるからこれを引用する。
(二) 右事実から推測できる事実等について
(1) 本件各動産の名義からの推測
本件各動産には、別表Ⅱのとおり、名義が付されている。
しかし、これらの預貯金や投資信託は、これを容易に現金化することができ、また、その資金をもって、別の名義の預貯金の口座に入金することや、別の名義で投資信託を購入することができる。また、家族の名義を使用して、これらの種類の資産を保有することはよく見られることである。
したがって、これらの帰属については、その名義によってこれを判断することが困難なことが多いというべきである。
(2) 本件各動産の帰属を認定するに際して重視すべき要素(原資の帰属)について
本件各動産の帰属を確定するには、その管理の主体や内容も重要な要素であるが、本件のように、丙が原告らの後見人であり、しかも、その取引の内容は、いわゆる「募集もの」を購入したりするもので、投機的な取引でもなく、その収益やこれらを現金化した後の使途も、原告らを含めた生活費に費消したり、同種の動産の購入や預貯金に充てられたと推測できることに照らすと、丙がこれらの取引行為をしていたというだけで、取引の対象となった動産の全てが丙に帰属すると推認することはできず、原告らのために、原告らを代理して取引していたという可能性を否定することはできない。
また、後記のとおり、原告らが相続により一定の資産を取得した可能性が存する以上、原告らが若年であるという事実をもって、原告らが多額の資産を所有していると認定することの妨げとすることはできない。
したがって、本件では、丙が本件各動産についての取引行為を単独で行っていたこと、及び原告らが若年であったことという事実だけでは、本件各動産の帰属を定める決め手とはならず、右の帰属を判断するためには、その原資が誰に帰属したかが重要な要素となると考えられる。
(3) 原資の帰属について
ところで、右に引用した原判決記載の事実によっても、本件各動産の資産が形成された経緯は明らかとはいえない。
丙が、ヤミ米を扱っていたことがあると窺われるものの、その規模や期間は明らかではなく、丙が、特定の職業についたり、他の事業を行っていたことを窺わせる証拠もない(なお、丙には家賃収入もあったが、後記のとおり、丁も別表Ⅷ記載の順号10の不動産を所有しており、丁にも家賃収入があったと認められる。)。しかし、本件各動産及び本件各不動産の評価は、総額7億円余にのぼるが、丙一人がヤミ米を扱っていたというだけで、これらの資産を築き上げたと考えるには疑問の余地がある。
(4) 己の遺産の相続の可能性
むしろ、丙と取引をしていたA証券神戸支店の担当者である戊に対する大蔵事務官作成の質問てん末書(乙14)によると、戊は、前任者から、丙の亡夫は資産家であり、丙はその財産を相続したという情報を引き継いだこと、その当時、己が残した端株を多数所有していると丙から聞いたことを供述している。これらのことは、丁の遺品であるノート(甲21)にも、昭和52年8月31日当時、己名義の株式が残っている旨の記載があることからも裏付けられる。
原告らは、原審において、己は大工をしており、それ程の収入はなかったという主張をしているが、証人庚は、原審証言中において、己が大工と聞いたのは初耳で、同人は工場長をやっていて、部下がしょっちゅう出入りしていたと聞いていたと供述している。右庚の証言は、原告らが、本件各動産の原資が丁に帰属し、丙や己に資産はなかったと主張していた時期における証言であって、右証人においてあえて虚偽の供述をする動機は見当たらないから、信用できると考える。
また、己にとって丙が三人目の妻であることを考えると、己にはそれなりの資力があったものと思われる。
以上によると、本件各動産の原資が己の遺産に由来する可能性を否定することができず、これを前提とすると、丙と丁が己の遺産を法定相続分どおり相続し(丙3分の1、丁3分の2)、これを丙が運用していたところ、更に丁の死亡により、原告両名が同人の遺産を法定相続分どおり相続し(各二分の一)、その後も丙が従来と同様の運用を継続し、その結果、別表Ⅱの各動産の大部分が形成されたとすると、原資の明確なものを除き、原告らは、全体の各3分の1を丁を経由して取得したこととなる。
なお、己の相続に際して、遺言書が作成された形跡は窺えず、丁が己の相続に際して、不利に扱われるような事情も認められない。むしろ、丙にとって丁は自慢の娘であったと認められ(前記質問てん末書)、己にとっても同様であったと推認できる。
(三) 個別的検討その1〔本件各動産(別表Ⅱの動産)のうち、丙名義以外の動産について〕
前記1(二)(2)で説示したとおり、本件では、原告らが若年であるにもかかわらず多額の資産を有し、また、後見人であった丙がこれを単独で管理し、原告らのために取引をすることは一向に不自然とはいえない。
したがって、主に、その原資の帰属を検討することとする。
(1) A証券神戸支店における取引(別表Ⅱの順号11ないし68関係)
順号11の債券、同12ないし14の転換社債、同15ないし41の投資信託の原資については、A証券の丙名義の顧客口座(301655)から振り替えられた金員及び原告甲名義で取引された有価証券の運用益を充てていることが認められるが(甲22、乙1、弁論の全趣旨)、右丙名義の口座の金員は、K証券で取引をしていた丁名義の株式を預け入れたものが原資となっていることが窺える(甲七ないし九、乙一)。
順号42ないし68の投資信託の原資についても、右と同じA証券の丙名義の顧客口座から振り替えられた金員及び原告乙名義で取引された有価証券の運用益を充てていることが認められるが(甲22、乙1、弁論の全趣旨)、右丙名義の口座の金員は、K証券で取引をしていた丁名義の株式を預け入れたものが原資となっていることは、前記のとおりである。
(2) B証券神戸支店における取引(別表Ⅱの順号71関係)、C株(別表Ⅱの順号72)、D株(別表Ⅱの順号77、78)
順号71の投資信託の原資については、これを確認することはできない。
順号72及び77、78の株式の原資についても、これを確認することはできないが、順号77、78の株式については、その名義が「庚姓」であり、丁が生存し、しかも離婚前に取得したことが推認できる。(甲22、乙4、弁論の全趣旨)。
(3) E銀行兵庫支店(当時の呼称であるが、以下、特に断らない。)における取引(別表Ⅱの順号92ないし102関係)
ア 順号92ないし95のスーパーMMC(原告甲名義)について
この原資は、平成2年4月13日に解約されたE銀行の原告甲名義の定期預金(0060472-004外)及びこれらの解約時の未収利息との合計3237万3148円を充てているところ、右定期預金の原資のうち1673万0861円については、丁の死亡に伴う死亡保険金、退職金及び遺族年金を原資とするものであるが(甲22、乙6、弁論の全趣旨)、他の原資については、これを確認することができない。
そうすると、順号92ないし95の財産の本件相続開始時の評価額3449万2467円(別表Ⅱ付表②欄)を、同財産の預入時の元本3237万3148円のうちに遺族年金等を原資とする1673万0861円が占める割合によって按分した1782万6152円(別表Ⅱ付表⑥欄)は、原告らに帰属することが明らかである。
イ 順号96のスーパーMMCの原資(原告甲名義)について
この原資は、F証券神戸支店の原告甲名義の口座(3452915)で売却された転換社債の代金を充てたものであるところ、右転換社債は、昭和62年9月11日に右口座において300万円で取得されたものであり、右300万円のうち80万円はE銀行兵庫支店の原告甲名義の普通預金口座から出金されており、右は丁の死亡に伴う遺族年金等が原資となっていることが認められ、右300万円のうち200万円は同銀行の丙名義の普通預金口座から出金された200万円が原資となっていることが推認されるが(甲22、乙5、6、弁論の全趣旨)、その余の原資については不明である。
そうすると、順号96の財産の相続開始時の評価額318万9284円(別表Ⅱ付表②欄)を、右300万円の中で右現金80万円が占める割合によって按分した85万0476円(別表Ⅱ付表⑥欄)は、原告らに帰属することが明らかである。
ウ 順号97のスーパーMMC(原告甲名義)について
この原資は、平成3年7月25日、原告甲名義の普通預金口座(4416899)に入金された利付国債の償還金10万5412円、割引国債の償還金300万円、現金189万3929円及び当該普通預金にあった659円であるが(甲22、乙6、弁論の全趣旨)、これらの入金が誰に帰属していたかは明らかではない。
エ 順号98ないし100のスーパーMMC(原告乙名義)について
この原資は、当初預入金額2761万5459円のうち2372万0574円については、E銀行の原告乙名義の定期預金(0110657-003外)及びその未収利息が充てられたところ、右定期預金のうち171万8329円については、丁の遺族年金が振込入金されているE銀行の原告甲名義の普通預金口座から振替出金された金員を充てているが(甲22、乙6、弁論の全趣旨)、右定期預金のうちの残りについては、その原資が誰に帰属するかは不明である。
そうすると、順号98ないし100の財産の相続開始時の評価額2942万3315円(別表Ⅱ付表②欄)を、同財産の預入時の元本2761万5459円のうちに右171万8329円が占める割合によって按分した183万0820円(別表Ⅱ付表⑥欄)は、原告らに帰属することが明らかである。
オ 順号101のスーパーMMC(原告乙名義)について
この原資は、E銀行の原告乙名義の普通預金口座(0064379)に振込入金された合計470万8301円が充てられているところ、うち32万1800円については、平成2年4月16日に振込入金された丁の死亡に伴う遺族年金であり、その余は、平成2年5月9日、F証券の原告乙名義の顧客口座(3452914)から小切手で出金され、同日入金された438万6501円が充てられているが(甲22、乙5、6、弁論の全趣旨)、その原資の帰属は不明である。
そうすると、順号101の財産の相続開始時の評価額468万4202円(②欄)を、右預入金額440万円のうちに右差額1万3499円が占める割合によって按分した1万4371円(⑥欄)は、原告らに帰属することが明らかである。
カ 順号102のスーパーMMC(原告乙名義)について
この原資である現金150万円の原資の帰属は不明である。
キ まとめ
順号92ないし102の財産のうち、丁の死亡に伴う遺族年金等を原資とする2052万1819円が原告らに帰属することが明らかである以外は、原資の帰属については、その名義が判明するものもあるが、これらの動産の名義が便宜的に使用されていた可能性が高く、その原資の帰属を特定するに足る資料のない限り、その原資が、己の遺産である可能性を否定できない。
(4) 順号115、116の財産(郵便局における取引)、順号117、118の財産(J銀行長田支店における取引)、順号119の財産(G信用金庫丸山支店における取引)
ア 順号115、116の原資は不明であるが、117の原資は、A証券の原告乙名義の顧客口座(554170)及びA証券の原告甲名義の顧客口座(554162)から有価証券の運用益が継続的に振込入金されている(甲22、乙1、8、弁論の全趣旨)。
順号118については、右117の普通預金から平成3年4月30日に振替出金された300万円が充てられており、その原資は、117と同じである(甲22、乙1、8、弁論の全趣旨)。
なお、順号119の財産は、G信用金庫丸山支店において、昭和61年2月19日に預け入れられた原告乙名義の定期預金であるが(乙9の1ないし3、弁論の全趣旨)、その原資は、同店の丙名義の普通預金からの振替金である。
イ 順号115ないし119の財産に関する原告らの主張について
原告らは、右の順号115ないし118の原告甲名義の各預貯金(合計604万1647円)及び順号119の原告乙名義の預金(153万7210円)は、原告らが小遣い及び祝い金等としてもらった金員や原告甲自身がアルバイトをして得た収入を預け入れたものであるから、原告ら固有の財産であると主張する。
しかし、本件相続開始時点(平成4年1月17日)で満20歳であった原告甲がアルバイト収入で約600万円もの貯蓄をしていたとは考え難く、証拠(乙15、16の1、2)によれば、原告甲が株式会社H(H)でアルバイトをしていたのは、平成2年6月ころから平成3年4月までのことであり、その収入は、毎月一回I銀行六甲支店の原告甲名義の普通預金口座に振り込まれていたところ、平成2年10月9日(3万3000円)から最終の振込みである平成3年5月24日(2万9880円)までの間の八回分の合計は34万5760円にすぎず、平成2年10月から平成4年1月17日までの間の同口座からの出金の合計は13万8103円で、同日現在の残高は47万2021円であることが認められ、原告甲が他にいかなるアルバイトをし、どれだけの額の収入を得ていたかを認めるに足りる証拠はない。
以上によると、右アルバイト先からの入金と本件相続開始時までの出金の差額である20万7657円が原告甲に帰属するものであることは明らかであるが、その余については、原告甲の収入によって得られたと認めることはできない。
次に、丙が管理していた資産の総額やその管理の状況から考えると、これまで、種々の祝い事や小遣いとして、丙や丁から原告に対する贈与があったとしても不思議ではなく、その金額が約600万円(原告甲)及び150万円(原告乙)という多額に上ることも、丙や丁らの資産保有状況から考えて不自然であるとまではいえないが、そのような祝い金があったとしても、その金額を確定することはできず、また、原告らが単独でこれらの預貯金を管理していたという状況も窺えないのであるから、右の預貯金は、専ら、丙や丁が管理していた財産の一部と考えるのが相当である。
したがって、原告らの主張は、前記20万7657円に関する部分を除いて、採用することができない。
(4) 個別的検討その2〔本件各動産(別表Ⅱの動産)のうち、丙名義の動産について〕
(1) 本件各動産(別表Ⅱ記載の動産)のうち、丙名義の動産については、前記(二)で説示したように、その名義によって帰属を判断することは困難であるところ、本件においては、その原資の帰属が明らかではなく、己の遺産に由来する可能性を否定することができないというべきであるから、右丙名義の動産の全部が丙の遺産であると認めることはできず、その遺産性を肯定し得るのは、全体の3分の1に限られると解するのが相当である(別表Ⅱの順号1ないし9の動産については、丙の遺産として申告がなされていたが、原告らは、右の各動産の原資が己の遺産に由来するものではなくて、丙の固有の資産に由来することまでを自白しているものではないと解する。)。
(2) なお、丙名義の動産の評価額の合計は、1億7991万8933円であり、その理由は、原判決44頁3行目から48頁6行目に記載されたとおりであるから、これを引用する。
(五) 本件各動産の帰属についてのまとめ
(1) 弁論の全趣旨によると、本件相続開始時において、本件各動産のうち原告甲名義のものの評価額の合計は、1億6676万1433円であり、同じく原告乙名義のものの評価額の合計は、1億2741万2448円であり、同じく丙名義のものの評価額は、1億7991万8933円であることが認められる。
右合計額4億7409万2814円の原資の帰属については、丁の死亡に伴う遺族年金等を原資とする2052万1819円が原告らに帰属すること(前記(三)(3)キ)、原告甲のアルバイト収入の残額である20万7657円が原告甲に帰属すること(同(4)イ)が明らかといえるが、それ以外のものについては、その取得原資を遡り、その名義を特定することはできても、これらの名義が便宜的に利用されていたことを否定できず、結局、それらの原資が、その名義人に帰属するという裏付けはない。
そうすると、前記(二)に述べたとおり、結局は、本件各動産の大部分については、むしろ、己から法定相続分に従って承継した資産が原資になっている可能性を否定できず、丙に帰属すると認めることのできるものは、その原資が明確である右の合計額2072万9476円を除いた残額4億5336万3338円の3分の1(1億5112万1113円)を超えることはないというべきである(なお、本件各不動産の帰属は後記2のとおりであるが、その取得原資が同じく不明であることに加え、その帰属割合に照らすと、本件各不動産の帰属の認定が、本件各動産の帰属についての右認定に影響を及ぼすことはない。)。
その後、原告らの名義のものに置き換えられていったが、最終的に、それぞれの持分が本件各動産の3分の1程度であることを併せ考えると、丙の意図としては、本来、丁が所有していたものに相当するものを原告らの名義に振り分けてこれを取得させたとみることができる。
(2) なお、丁の相続に際して、相続税の申告がなされていないところ(弁論の全趣旨)、原告ら自身の主張によっても、丁死亡当時の丁は少なくとも2億円の動産を有していたというのであるから、相続人らである原告らに申告、納税義務の存することは明らかであり、これを申告、納税しなかったことは遺憾なことであり、非難されるべきである。
しかし、右の事実を併せ考えても、既に認定説示したところに照らすと、本件各動産から原資の明らかなものを除き、残りの全てが丙に帰属していたとまで認定することはできないといわざるを得ない。
2 本件各不動産(別表Ⅷの不動産)の帰属について
(一) 甲38ないし44及び弁論の全趣旨によると、丙は、別表Ⅷの不動産を所有していたが、本件相続開始時において、うち順号1の不動産については、昭和55年6月までの間に全部丁に贈与した旨の登記がなされており(甲38)、順号2の不動産については、昭和58年11月までの間に、6分の5を丁に、6分の1を原告乙に贈与した旨の登記がなされており(甲39)、順号3ないし5の不動産については、昭和59年10月、各40分の1をそれぞれ丁、原告甲、同乙に贈与した旨の登記がなされており(甲40)、順号10の不動産については、昭和40年7月、丁に売り渡した旨の登記がなされている(甲44)ことが認められる。
そうすると、本件各動産の場合とは異なり、一般に、不動産については、短期間に買い換えることが予定されておらず、一個当たりの価格が高額に上ることもあって、登記簿上の名義が真実の所有者を反映していることが多いというべきところ、本件各不動産についても、長期間保有されており、他に不動産を売買したような形跡は窺えないから、右の所有名義の移転は、実体関係を反映していると考えるのが相当である。
(二) 時機に遅れた攻撃防御であるとの主張について
被告は、原告らが、当審において、本件各不動産の一部が丁(したがって、その相続人である原告ら)及び原告らに帰属し、丙の遺産を構成しない部分があると主張するに至ったことが、時機に遅れた攻撃防御方法であると主張する。
しかし、原告らの主張は、本来、被告に主張立証責任がある事実について、一部否認し、その反証を提出したに過ぎず、むしろ、自白の撤回の可否の問題である。原告らが、原審において、不動産登記簿を調査することなく、本件各不動産が丙の遺産に帰属すると考えていたことは明らかであるところ、事実は、前記(一)のとおりであるから、右自白は真実に反し、かつ、錯誤に基づくものであるから、その撤回は許されると考える。また、右に伴って、原告らが提出した証拠は不動産登記簿のみであって、訴訟の完結を遅延させるおそれも認められないから、この点からしても、右の主張ないしは証拠を却下する必要もないと考える。
(三) なお、本件各不動産の帰属については、前記(一)のとおり考えるべきであるが、順号3ないし8の不動産を丙が取得した時期は、いずれも己の死亡前であるところ、己から承継取得したものではない(甲40ないし43)。しかも、右不動産のうち、順号3ないし5については、丙が己と婚姻(昭和7年11月1日)する前の昭和7年4月12日に購入したことが認められる。
これらのことから、丙が己の遺産だけでなく、固有の資産を有していた可能性も否定できないけれども、右3ないし5の地目は山林であり、昭和7年当時、どの程度の価値を有したかは不明であること、右取得の時期と己との婚姻の時期までの期間が短期であることを考えると、その取得原資もまた不明といわざるを得ない。
3 相続税額
(一) 動産の価額
前記1(五)(1)のとおり、本件各動産のうち、丙の遺産の評価は、本件各動産の評価合計から2072万9476円を除いたものの3分の1である1億5112万1113円である。
(二) 不動産の価額
本件相続に係る相続財産には、別表Ⅷ記載の各不動産があり、これを財産評価基本通達等に基づき評価すると(ただし、同表順号3の土地については、別表Ⅷ付表のとおり、平成6年法律22号による改正前の租税特別措置法69条の3の規定に基づき減額した後の金額)、その価額は、同表「評価額」欄記載のとおりであり、合計2億4738万6531円であることは、当事者間に争いがない。
右本件各不動産のうち、丙に帰属するものは、順号3、4、5の各不動産の各40分の37の持分と、順号6ないし9の各不動産であり、その評価額は、2億2517万1156円である。
(三) 債務、葬式費用
弁論の全趣旨によれば、債務、葬式費用は原告ら各人につき129万6660円(合計259万3320円)であることが認められる。
(四) 課税価格
本件相続に係る課税価格は、右(一)の本件各動産の評価額1億5112万1113円と右(二)の不動産の価額2億2517万1156円の合計から右(三)の債務、葬式費用259万3320円を控除した3億7369万8000円(千円未満切り捨て)となり、原告らが法定相続分(各2分の1)に従い相続財産を取得したものとして計算すると、各人の課税価格は、いずれも1億8684万9000円となる。
(五) 相続税額の計算
右を前提に関係法条を適用すると、原告らの納付すべき税額は、以下のとおり、原告甲が4895万7050円、原告乙が4871万7050円となる。
課税される遺産総額は、右(四)の原告ら各人の課税価格の合計額3億7369万8000円から遺産に係る基礎控除額6700万円(4800万円に950万円の二倍を加えた額)を控除した3億0669万8000円であり、これを法定相続分に従って按分すると各1億5334万9000円となる。これに相続税法16条(平成4年法16号の改正法による。同附則2条)が定める税率を乗ずると、各人の相続税の総額の基礎となる税額は、4895万7050円となり、原告ら各人の課税価格がその課税価格全体に占める割合はそれぞれ2分の1であるから、原告ら各人の相続税額は、結局、4895万7050円となる。そして、原告乙については、本件相続時に満16歳であったから、未成年者控除の適用があり、その額は6万円に4年を乗じた24万円である。したがって、原告らの納付すべき税額は、原告甲が右4895万7050円であり、原告乙が24万円を控除した4871万7050円である。
4 争点1-本件更正処分の適法性についてのまとめ
以上によれば、納付すべき税額を原告甲につき1億3007万4500円、原告乙につき1億2983万4500円とした本件更正処分(本件裁決により一部取り消された後のもの)は、いずれも右3の納付すべき税額の範囲を超えてなされたものであるから、違法というべきである。
そして、前記3(四)のとおり、原告らの課税価格はいずれも1億8684万9000円であるから、本件相続に係る相続税について、被告が平成6年6月21日になした各更正決定(ただし、平成8年12月10日付け裁決による一部取消後のもの)のうち、課税価格1億9927万8000円を超える部分の取消しを求める原告らの本件各請求は、いずれも理由があるというべきである。
二 本件賦課決定処分の適法性について
右一で認定したところによれば、結局、原告らにおいて過少申告はなかったことになるから、本件相続に係る原告甲の相続税ついて、被告が平成6年6月21日付けでなした過少申告加算税及び重加算税を賦課する決定、並びに、本件相続に係る原告乙の相続税について、被告が同日付けでなした過少申告加算税を賦課する旨の決定は、いずれも要件を充足せず、取り消されるべきである。
三 結論
以上によると、原告らの請求はいずれも理由があるから、これと異なる原判決を変更することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法67条、61条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 山田陽三 裁判官 西井和徒)
裁判長裁判官 鳥越健治は、転補のため、署名押印することができない。 裁判官 山田陽三