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大阪高等裁判所 平成12年(行コ)93号 判決 2001年11月02日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人門真市教育委員会が平成10年4月18日付けで控訴人に対してした放課後児童健全育成事業への参加申請の拒否処分は,これを取り消す。

3  被控訴人門真市は,控訴人に対し,100万円及びこれに対する平成10年10月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は,第一審,二審とも被控訴人らの負担とする。

第2事案の概要

1  事案の概要は,2に控訴人の当審における主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決7頁7行目の「原告訴訟代理人」の前に「申立代理人である」を加える。)。

2  控訴人の当審における付加主張

(1)  本件参加拒否処分の処分性について

本件活動は,児童福祉法に基づく放課後児童健全育成事業として実施されているものであり,本件参加拒否処分は抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。すなわち,本件活動は,平成6年から門真市立速見小学校で開始されたが,その実施要項(甲35)によると,事業の趣旨の記載は「児童の帰宅後の実態を見ると」で始まり,事業の名称が「放課後児童健全育成事業」であったことからして,被控訴人教育委員会では,本件活動をいわゆる学童保育事業として位置づけていたということができる。そして,被控訴人教育委員会は,児童福祉法の平成9年改正により放課後児童健全育成事業が法制化されたことに伴い,本件活動の実施要項を改正し,対象児童として昼間保護者のいない家庭の児童を明記したこと,門真市議会定例会において,被控訴人教育委員会教育長等が,本件活動につき,昼間保護者のいない家庭の小学校低学年の児童の健全育成を図る趣旨も含まれている旨を答弁していることなどからしても,本件活動が児童福祉法に基づく放課後児童健全育成事業として位置づけられるものであることは明らかである。なお,平成10年度において,厚生省により本件活動が児童福祉法に基づく放課後児童健全育成事業に該当しないとして,国庫補助の対象とはならなかったが,本件活動が国庫補助の対象としてふさわしいか否かの判断に基づくものであり,本件活動が放課後児童健全育成事業とは異なる内容の事業であることを示すものではない。

(2)  本件参加拒否の適法性について

ア 被控訴人教育委員会による本件参加拒否の理由は,「毎日活動時間終了時まで参加できることを原則とする」との基準に合致しないというものであるが,そもそもこの基準は,被控訴人教育委員会が定めた本件要項(甲6)には規定がない。被控訴人教育委員会の事務担当者が募集要項(甲1)を作成するにあたり,上記基準を権限なく付加したものと考えられ,その基準自体効力を生じていない。

また,本件参加希望票(甲2)には,「毎日,活動時間終了時まで参加することを原則としておりますが,塾・習いごと・その他の理由で,どうしても午後5時以前に帰宅しなければならない場合は,右欄に記入してください。」との記載があり,早退を認めるような募集の仕方をしておきながら,実際にはそれに反して一切の例外を認めないという被控訴人教育委員会の取扱いは,運用において権限を濫用した違法がある。

イ 本件活動につき,児童福祉法に基づく放課後児童健全育成事業と地域の一般児童の健全育成事業の複合的性格を有すると考えると,同じ放課後児童対策を目的としながら,両事業への参加条件に本質的な差異を設けることは,住民が地方自治体から等しく役務の提供を受ける権利を保障する地方自治法10条2項に違反する不合理な差別に当たり,憲法14条にも反する。すなわち,被控訴人市においては,児童福祉法に基づく放課後児童健全育成事業と目的及び対象児童を同じくする少年健全育成事業(留守家庭児童会)を実施する小学校と,本件活動を実施する小学校とに分かれており(両方とも実施されていない小学校もある。),同じ小学校で両事業を並列して実施することはしておらず,本件活動が実施されている小学校区の児童は別の小学校区の少年健全育成事業(留守家庭児童会)には参加できないものとされている。このように,居住する小学校校区の違いにより地方自治体が提供する役務を受けることができなくなるのは,合理的な理由がなく,憲法14条,地方自治法10条2項に違反する。

第3当裁判所の判断

当裁判所も,控訴人の本件請求のうち,被控訴人教育委員会に対する訴えは,本件参加拒否処分が抗告訴訟の対象となる行政処分であるということはできず,却下すべきものであり,被控訴人市に対する請求は理由がなく棄却すべきものと判断する。その理由は,次のとおり補正,付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第三 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。

1  原判決の補正

(1)  原判決29頁4行目の「生活実像」を「生活実態」と改める。

(2)  同35頁8行目の「右差異が」から同頁9行目末尾までを,「平成10年度の本件活動の国庫補助金の交付については,厚生省において,本件活動が,昼間保護者のいない家庭の児童のほか,「本事業の主旨に賛同し,参加を希望する児童」をも対象にしていることから,児童福祉法に基づく放課後児童健全育成事業とは認められないとして,「実施要綱の不備」を理由に,国庫補助金の交付を認めなかったこと(甲37,当審における調査嘱託の結果)」と改める。

2  控訴人の当審における付加主張に対する判断

(1)  控訴人は,平成6年に門真市立速見小学校で始まった本件活動につき,いわゆる学童保育としての位置づけで開始され,児童福祉法の平成9年改正により放課後児童健全育成事業が法制化されたことに伴い,本件活動が児童福祉法に基づく放課後児童健全育成事業として位置づけられることになったと主張する。

そこで,平成6年に速見小学校で開始された本件活動の開始時における実施要項(甲35)と本件要項(甲6)を比べると,本件活動は,開始当初から,児童の保護者が昼間家庭にいるかいないかにかかわらず,全学年の児童を対象に,異なった学年による児童の集団活動を推進することにより,少子化等に伴う友だち同士の触れ合いや体験的な学習の不足による人間形成への悪影響に対する対策を施すことを目的としたものであると認められるのに対し,児童福祉法に基づく放課後児童健全育成事業は,昼間保護者のいない家庭の小学校低学年の児童につき,適切な遊び及び生活の場を与えて,その健全な育成を図ることを目的とするもの(児童福祉法6条の2第6項)であり,両者は本質的に異なるというべきである。

もちろん,本件活動においても,昼間保護者のいない家庭の小学校低学年の児童については,その児童が保護者以外の成人によって指導・監督されながら,他の児童と遊び等をして過ごし,健全育成が図られるという意味では,放課後児童健全育成事業とほぼ同様の効果が生じていることは確かである。しかし,原判決も説示するとおり,児童福祉法に基づく放課後児童健全育成事業と本件活動との間に,その対象,目的,内容において差異があることからすると,本件活動が児童福祉法に基づく放課後児童健全育成事業に該当する,あるいはこれを包含すると解することはできない。

(なお,本件活動について,平成10年度の国庫補助金の交付が受けられなかったのは,上記認定のとおり,厚生省において,児童福祉法に基づく放課後児童健全育成事業が予定している対象児童と,本件活動の対象児童とが異なるため,本件活動が児童福祉法に基づく放課後児童健全育成事業とは認められないと判断したためである。)

(2)  控訴人は,本件活動における「毎日活動時間終了時まで参加できることを原則とする」との基準につき,被控訴人教育委員会が定めた本件要項(甲6)にはその旨の規定がなく,被控訴人教育委員会の事務担当者が募集要項(甲1)を作成するにあたり,権限なく付加したものと考えられ,その基準自体効力を生じていない旨を主張する。

確かに,本件要項には,上記の基準は明文では規定されていない。しかし,本件要項において,活動時間につき,「月曜日~金曜日・授業終了時~午後5時,長期休業中・午前9時~午後5時」と明記されていること,本件活動は,前記のとおり,異なった学年による児童の集団活動を推進することにより,少子化等に伴う友だち同士の触れ合いや体験的な学習の不足による人間形成への悪影響に対する対策を施すことを目的としたものであり,対象児童は,昼間保護者のいない家庭の児童のほか,「本事業の主旨に賛同し,参加を希望する児童」とされていることなどからすると,「毎日活動時間終了時まで参加できることを原則とする」との基準は,本件要項が予定しているものということができるのであって,被控訴人教育委員会の事務担当者が募集要項を作成するにあたり上記基準を権限なく付加したものではない。

また,控訴人は,本件参加希望票(甲2)に,塾,習いごとその他の理由で午後5時以前に帰宅しなければならない児童についても例外的に対象となるような記載をしておきながら,一切の例外を認めないという被控訴人教育委員会の取扱いは,運用において権限を濫用した違法があると主張する。

確かに,本件参加希望票には,「毎日,活動時間終了時まで参加することを原則としておりますが,塾・習いごと・その他の理由で,どうしても午後5時以前に帰宅しなければならない場合は,右欄に記入してください。」との記載があり,毎日活動時間終了時まで参加できなくとも,本件活動に参加することが認められる場合もあるかのような記載がされているところ,前記認定のとおり,四宮小学校での本件活動において同小学校の校庭で実施される門真スポーツクラブ主催のサッカー教室に参加する児童を除いては,塾通い等のために早退するのに参加が認められた児童は皆無なのであるから,上記の記載が適切なものといえるかは問題とする余地があろう。しかし,毎日活動時間終了時まで参加できる児童を対象とすること自体,一定の合理性を有することは前記判示のとおりであり,例外を認めないことも被控訴人教育委員会の裁量権の範囲内であって,募集要項に上記の記載をしたことから早退者にも参加することを認めないと権限の濫用により違法になるとは到底解することができない。

(3)  また,控訴人は,居住する小学校区の違いにより,地方自治体が提供する役務を受けることができなくなるのは,合理的な理由がなく,憲法14条,地方自治法10条2項に違反する旨を主張する。

前記認定のとおり,被控訴人市には,同市立の小学校が17校あるが,児童福祉法に基づく放課後児童健全育成事業と目的及び対象児童を同じくする少年健全育成事業(留守家庭児童会)を実施するものが7校,本件活動を実施するものが6校,いずれも実施していないものが4校であり,居住する小学校区とは別の校区の小学校が実施している事業には参加できないことになっている。この結果,居住する小学校区の違いにより,これらの事業に参加できたり参加できなかったりすることは,控訴人が指摘するとおりである。

しかし,本件活動や少年健全育成事業(留守家庭児童会)を実施するためには,担当指導員の確保等の受け入れ態勢の整備や財政的手当てが必要であり,全小学校で同時に一斉に実施できるものではない。また,実施する事業の内容や参加対象者の基準も,参加希望者数や保護者の要望等を踏まえて,政策的に判断すべき事項であり(被控訴人市においては平成6年から本件活動を実施する小学校の数が漸増していることは,前述のとおりである。),居住する小学校区によって,実施する事業により参加の基準等が異なることもやむを得ないということができる。したがって,本件において,控訴人の児童が本件活動に参加できないことにつき,差別的な取扱いがされているわけではなく,憲法14条や地方自治法10条2項に違反するものではない。

3  控訴人の原審及び当審における主張に照らして,改めて本件全証拠を検討しても,上記認定,判断を左右するに足りる証拠は認められない。

第4結論

以上のとおり,原判決は正当であって,本件控訴はすべて理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 太田幸夫 裁判官 川谷道郎 裁判官 大島眞一)

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