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大阪高等裁判所 平成13年(う)1021号 判決 2001年11月01日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役4年に処する。

原審における未決勾留日数中20日をその刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は,弁護人二宮誠行作成の控訴趣意書に記載のとおりであるから,これを引用する。

論旨は,原判決の量刑が重過ぎる,というのである。

そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討すると,本件は,金銭に窮した被告人が,保育園に侵入した上,所携のドライバーを示して園児や同児の身代わりとなった女性保育士を人質に取り,現金を取得する際に凶器として用いるための包丁等を要求したという,建造物侵入及び人質による強要行為等の処罰に関する法律違反の事案である。原判決も「量刑の理由」の項で説示するように,その犯行は,動機に酌量の余地がない上,手口,態様も甚だ卑劣であること,また,これによって園児らが受けた心の傷も看過できないこと,それにもかかわらず,慰謝の措置は全く講じられていないこと,加えて,被告人にあっては,これまで前科17犯を有し,平成13年4月28日に前刑の執行を受け終わったばかりであるのに,そのわずか4日後に本件犯行に及んでいるもので,遵法精神の希薄さも認められることに照らすと,確かに,その刑責には重いものがある。しかしながら,他方,本件犯行は実質的には強盗のための手段として行われたものであるところ,その強盗の目的は遂げていないこと,使用した凶器が短小で,その脅迫は迫力に欠けること,幸い人質となった園児らに怪我はなく,また,もともと被告人には積極的に人質に危害を加える意思があったとも認め難いこと,そして,人質に取っていた時間も比較的短く,途中,保育士が園児の身代わりになることを許してもいること,更には,捜査公判を通じて罪を認め反省していることなど,被告人のために酌むべき事情も少なからず存するのであって,これらを十分考慮するとともに,人質による強要行為等の処罰に関する法律1条1項の法定刑が6月以上10年以下の懲役とされていて,強盗罪のそれよりも相当軽いことにも思いをいたすならば,被告人を懲役6年に処した原判決の量刑は,余りにも重きに過ぎるといわなければならない。論旨は理由がある。

よって,刑訴法397条1項,381条により原判決を破棄し,同法400条ただし書により更に判決することとし,原判決の認定した事実(累犯加重の原因となる前科を含む。)にその掲げる各法条(ただし,訴訟費用の不負担については当審分も含む。)を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 白井万久 裁判官 増田耕兒 裁判官 磯貝祐一)

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