大阪高等裁判所 平成13年(う)1137号 判決 2001年12月07日
主文
本件控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中80日を原判決の刑に算入する。
理由
本件控訴の趣意は弁護人丸野敏雅作成の控訴趣意書及び控訴趣意補充書に,控訴趣意書に対する答弁は検察官岡本誠二作成の答弁書に,それぞれ記載されたとおりであるから,これらを引用する。
第1控訴趣意中,訴訟手続の法令違反の主張について
論旨は,要するに,原判決は,本件起訴にかかる犯罪事実以外の被告人の被害者に対する各暴行・傷害の余罪をも認定し,これらも実質上処罰する趣旨で,被告人に対し重い刑を科したものであって,これは憲法31条に抵触するから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある,というのである。
そこで,所論にかんがみ,記録を調査すると,本件は14歳の中学2年生の少女に対する傷害及び監禁致傷各1件の事案であるが,原判決は,(犯行に至る経緯)中の「2 本件犯行に至る経緯」の項において,起訴された事実以外の被害者に対する暴行・傷害の事実を約2頁にわたって詳細に認定し,とりわけ,平成12年12月7日の行為については,その日,場所を特定して暴行等の態様も詳細に記載し,さらに,同日以降の行為の認定も具体的であるうえ,判示の(罪となるべき事実)の傷害とは関連のない診断書類4通をこれらの事実に対する証拠として挙げるなどしていること,また,(量刑の理由)の項においても,起訴されていないA港でのリンチ行為について記載したり,「一連の傷害,監禁行為」という表現を用いたり,起訴事実からは導き出されない「丸坊主にされた」事実を認定したりしていること,そして,被告人を求刑どおり懲役5年の刑に処していることが認められ,これらを総合すれば,所論が,原判決においては,被告人の被害者に対する暴行・傷害の余罪を認定し,これらを実質上処罰する趣旨で,被告人に対し主文のとおりの刑を科したとの主張をするのにも,あながち理由なしとしない。
しかしながら,本件各犯行は,被告人らがいわば遊び感覚で,わずか14歳の女子中学生に対し常軌を逸した暴行・傷害を加え,被害者を家畜以下の扱いにより監禁したという,通常人の感覚ではまことに理解し難い特異な犯行であって,この特異性を明らかにするためには,本件の傷害の動機や犯行の発覚を免れるという監禁致傷の目的,被告人の性格などを究明し,その暴行等が行われた背景事情や人間関係,ひいては,本件各犯行に至る経緯の中で被告人らが被害者に対し加え続けた暴行等の行状に具体的に触れざるを得ないうえ,それらの暴行等によって被害者が受けた傷害の程度についてもある程度記載せざるを得ないこと,原判決は,(犯行に至る経緯)と(罪となるべき事実)とを明確に区別し,(証拠の標目)の項においても両者の証拠を分けて挙示していること,余罪とされる暴行等は本件の傷害・監禁致傷に比してその程度においてかなりの差があるうえ,(量刑の理由)の項で述べている「一連の傷害,監禁行為」という言葉や,「丸坊主にされた」という事実も,これらの点が本件の審判において当然犯情として考慮されるべき事柄であることにかんがみると,その表現において適切を欠くきらいがあったとしても,余罪処罰として違法ならしめるほどのことといえないし,また,下記において述べるとおり,原判決が被告人を求刑どおりの厳罰に処したのは,本件各犯行の異常性,結果の重大性,被告人の主導的な立場,その前科の内容などを考慮すれば相当であることなどに照らせば,原判決は,被告人の余罪を単に犯罪の動機,目的,被告人の性格等の情状を推知するための資料としてこれを考慮したに過ぎないというべきであって,所論が主張するような憲法違反の点は認められず,原判決に訴訟手続の法令違反はない。論旨は理由がない。
第2控訴趣意中,量刑不当の主張について
論旨は,原判決の量刑不当を主張するので,所論にかんがみ,記録を調査し,当審における事実取調べの結果もあわせて検討する。
本件は,当時31歳の被告人が,22歳の自分の養子の男1名及びいずれも17歳の少女2名とともに,14歳の中学2年生の少女に対し,理不尽な言いがかりを付け,同女の苦しむ様子を見て楽しむという目的で,ターボライター等でその身体をあぶって焼いたり,同女をクッションドラムに閉じ込めて坂道を転がすなどして重傷を負わせたうえ,その犯行の発覚を免れるために,同女を約21日間にわたりクッションドラムや車の後部トランク内に閉じこめて監禁し,その結果生命の危険も生ずるような重傷を負わせたという事案である。
被告人らは,遊びやその延長線上で本件各犯行に及んだものであり,その動機は異常かつ身勝手であって,そのような人間性を喪失したかのような精神状態に対しては戦慄さえ覚えること,犯行態様も極めて無慈悲かつ残虐であるうえ,被害者は監禁中トイレに行くことさえ許されず,その間尿を垂れ流すという極めて不衛生で非人道的な仕打ちを受けていたものであって,その被った精神的・肉体的苦痛は想像を絶する程のものであったと考えられること,結果もまた重大であって,被害者は皮膚移植を要するような熱傷や,死に直面するまでの脱水等の傷害を受け,その後遺症により将来モデルになりたいという希望も奪われたこと,被告人は,元暴力団員であり,かつ共犯者らの中で飛び抜けて年上であって,被害者が被告人に別れ話を持ち出したことから率先して同女に暴行を加えるようになり,他の共犯者もこれに誘発されて本件の暴行等に及んだものと認められるのであるから,被告人が本件において最も重い責任を負うべきであるのは自明の事柄であること,被告人は,原判示の累犯前科のとおり,懲役刑の前科3犯を有し,とりわけ平成7年10月に受けた判決にかかる逮捕監禁罪は本件各犯行と酷似する犯行であって,被告人には年端もいかない少女と関係を持ちこれに暴行,監禁などの暴力行為に及ぶ行動傾向が明らかであって,再犯のおそれが強いことなどを総合考慮すれば,被告人の刑事責任は相当に重い。
したがって,被告人が自ら警察に出頭し,捜査段階から本件の各事実を素直に認め,一応反省の態度を示していること,被害者側に見舞金として30万円を支払っていることなどの所論指摘の諸事情を十分考慮しても,被告人を求刑どおり懲役5年に処した原判決の量刑は相当であって,これが不当に重いとはいえない。論旨は理由がない。
よって,刑訴法396条,刑法21条,刑訴法181条1項ただし書を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 河上元康 裁判官 細井正弘 裁判官 水野智幸)