大阪高等裁判所 平成13年(う)1420号 判決 2001年12月18日
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は,主任弁護人吉田秀文ら共同作成名義の控訴趣意書に記載されたとおりであるから,これを引用する。
所論は,被告人に対して公民権停止3年を言い渡した原判決の量刑は,重すぎて不当であり,被告人に対しては公民権不停止の宣告をすべきである,というのである。
そこで,記録を調査して検討すると,本件は,大阪市a区選出の市議会議員であった被告人が,法定の除外事由がないのに,a区内に住む支援者やその遺族らに対して,平成10年,同11年及び同12年のいずれも8月のお盆のころに,被告人の名前で初盆の供花合計32基(時価合計16万円相当)を配達させて供与し,もって寄附をしたという事案であるところ,被告人のこのような行為は,金のかからない選挙の実現を目指す公職選挙法改正の趣旨にもとるものであるばかりでなく,選挙が選挙人の自由な意思の表明によって公明かつ適正に行われることを妨げ,ひいては民主政治の健全な発達をも阻害するものといえる。特に,原判示第2の2の行為に際しては,被告人は,税理士から公職選挙法に触れるおそれがあるとの指摘を受けたので,企業後援会からの支出であるように帳簿を操作するよう事務員に命じており,犯情は芳しくない。そして,選挙の公正保持が民主政治の根幹であることから,選挙の公正を害する選挙犯罪により処罰された者を選挙の不適格者として一定期間公職の選挙に関与させないことによって,選挙の公正を確保するとともに,一般予防の効果をも挙げることを目的として設けられた公民権停止の制度の趣旨及びこの種事犯に対する公民権停止の期間の動向との均衡などを考えると,本件各犯行が,違法な寄附行為の中でも,法定刑として罰金刑のみが定められた,比較的軽微な類型に属するものであることや,被告人はもっぱら選挙での見返りを期待して本件各犯行を犯したものとまでは認められず,供与額も多額とはいえないこと,被告人は本件各犯行を捜査段階から一貫して認めており,本件各犯行を反省する態度を示していること,議員を辞職するなど相応の社会的制裁を受けていること,公民権は国民の主権に直結するものであり,その停止には慎重でなければならないことなど,所論が指摘する被告人のために酌むべき事情を十分考慮しても,原判決が公民権停止の期間を3年間に短縮して量刑したことは,やむを得ないものとして是認することができ,これが重すぎて不当であるとは認められない。
論旨は理由がない。
よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 那須彰 裁判官 宮本孝文 裁判官 河原俊也)