大阪高等裁判所 平成13年(ネ)1345号 判決 2003年1月28日
控訴人
X
同訴訟代理人弁護士
小林徹也
同
梅田章二
同
村田浩治
同
河村学
被控訴人
大誠電機工業株式会社
同代表者代表清算人
A
同訴訟代理人弁護士
吉田肇
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求める裁判
1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 控訴人が,被控訴人に対し,雇用契約に基づく権利を有することを確認する。
(3) 被控訴人は,控訴人に対し,平成11年10月以降毎月23日限り,月額27万9497円の割合による金員を支払え。
(4) 被控訴人は,控訴人に対し,800万円を支払え。
(5) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
(6) 第(3)項及び第(4)項につき仮執行の宣言
2 被控訴人
本件控訴を棄却する。
第2事案の概要
事案の概要は,次のとおり付加,訂正するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決3頁8行目の「被告は,」の次に,「昭和21年10月に設立され,」を加える。
2 同5頁5行目の「あり」の次に「(以下,これらの者を「控訴人ら」ということがある。)」を加える。
3 同8頁4行目の次に改行して,次を加える。
「被控訴人は,控訴人らを解雇した平成11年9月から平成12年8月までの間,売上の減少,業績悪化により赤字を計上して法人税の還付を受けており,仮に控訴人らの雇用を維持したままであれば,深刻な経営危機に陥っていたことは明らかである。
本件整理解雇後のことではあるが,被控訴人は平成13年10月に大口顧客であるJR西日本テクノス株式会社(JR西日本の子会社)から,同社に対する売上の8割を占める業務(ダンパー,コックの分解,清掃,組立て,タワミ,支持板の塗装業務等)について,平成14年1月以降請負契約を締結しない,当面は平成13年12月末日までの契約期間3ヶ月の請負契約を締結する旨通告された。被控訴人としては,残った業務は利益率も低く,会社を存続させることは到底不可能であったため,JR西日本テクノスに再考を強く要請したが,同社の態度は硬く,やむを得ず3ヶ月の請負契約を締結せざるを得なかった。このような事態となって,被控訴人は会社の存続を計るために一層の人員削減や正社員のパート化などを検討したが,それにも限界があり,利益の上がらない残った請負業務を続けることは大きく赤字を累積するだけで近いうちに社員に対する退職金の支払いも困難になることが予想されるため,やむを得ず社員全員に事態を説明し,既に受注していた残務の処理が終わる平成14年3月末まで業務を継続し,全社員が退職するのを待って,会社を解散し清算手続きに入った。」
4 同10頁10行目の「被告」を「控訴人」と改める。
5 同11頁6行目から同12頁1行目までを次のとおり改める。
「本件はJR西日本と被控訴人とが結託して請負を偽装した労働者供給契約を締結することにより,JR西日本が使用者責任を回避しつつ労働者を使い,被控訴人が中間搾取的利益を享受するという契約枠組みを作出したものであり,この契約は,職業安定法及び労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。)に明確に違反する違法な契約である。本件業務従事者である控訴人らは,その労働実態からして実質的にはJR西日本に雇用されていたというべきであった。
そして,本件解雇は,JR西日本が労働組合を結成した控訴人らを排除するために,この契約枠組みを利用して,先ず形式的に被控訴人との間で締結している請負契約の更新を拒絶し,次いで被控訴人がこれを受けて,もともと被控訴人での就労を予定していない控訴人らを余剰人員として解雇することによってこれを実現したものである。このように,本件解雇は,本来許されない違法な労働者供給契約を利用して行われた解雇であり,その契約の目的は,整理解雇の法理の実質的な適用を回避する等被控訴人の雇用責任を曖昧にしようとした点にある。したがって,解雇の有効性判断に当たっても人員整理の必要性という点も意図的に作出された事態であることにかんがみれば,その解雇の必要性はより厳格に判断されなければならない。また,労働者を不安定な地位に置くことにより,違法に利益を享受してきた被控訴人が負うべき労働者の雇用継続の努力義務の程度を通常の場合より高く設定する必要があるというべきである。」
6 同19頁9行目から22頁3行目までを次のとおり改める。
「(二) 勤労権及び人格権侵害の不法行為
(1) 控訴人の労働実態
前記のとおり,控訴人は,JR西日本が行う電車誘導業務において,同社の指揮命令を受けて労務の提供を行っていたのであり,同社が控訴人の実質的な使用者であった。
(2) 直接雇用の原則
職業安定法は,有料職業紹介を禁止し(同法32条等),労働者供給事業(同法44条)を禁止している。また,労働基準法も中間搾取を禁止して(同法6条),賃金の直接払いの原則を規定している(同法4条)ことからも明らかなように,日本の法制は労働力を実際に利用しているものに使用者責任を負わせることを原則としてきた。契約上の雇用主と実際に指揮命令を行って労働者を使用するものが分離している状態は使用者責任を曖昧にして労働者の保護がはかれないからである。これらの規定は憲法27条に規定する労働権に由来するものであり,極めて重要な原則である。
昭和61年に労働者派遣法が施行され,派遣労働は,自由化されたといわれている現在においてもあくまでも一時的労働というのが法の建前である。派遣元は届出が義務づけられ,就労条件の明示義務など各種の義務が課されている上,製造,医療及び港湾など労働者派遣が禁止されているのであり,さらに常用の労働の代替に当たるような1年を超える派遣は派遣先の雇用努力義務が明記されている。このように,派遣はあくまでも一時的労働,例外的労働であり,長期にわたり直接の労務の提供を受けるには,やはり雇用主が就労について責任を負うことが原則であり,直接雇用の形態が雇用における原則的形態であるということは現在においても変わりはない。
(3) 請負と派遣の区別の労働省告示の意義
ア 請負であれば使用者としての責任は請負元にあり,しかるべき雇傭上の独立した責任が請負元使用者にあることになるし,違法な労務供給事業ということになれば供給元はもちろん,供給先についても職業安定法や労働者派遣法の罰則等を含めた法規の適用や指導,勧告の対象となる。雇用が長期にわたっている場合,行政の指導は供給先企業に対し使用者として責任を果たすよう求める場合も当然にある。したがって,請負にあたるか派遣にあたるかという判断は,法規の適用や法秩序の元でいかなる責任を供給元や供給先に負わせるかを判断する分かれ目になる重要な判断基準である。請負でないとすれば,労働の実態に応じ,かつ直接雇用の原則に従って供給先はもちろん,こうした違法状態の作出に関与した供給元にもしかるべき責任が問われることはいうまでもない。したがって,派遣か請負かの区別は重大である。
イ 本件では,JR西日本の行う誘導業務に関わる業務の提供であることは疑いないところであり,被控訴人に独立した専門的技能が全くなく,研修等もすべてJR西日本において行っている実態からみれば,控訴人らの業務が請負契約に基づく仕事の完成に向けた行為とは到底いえないことは明白であり,違法な労働者供給事業として控訴人らの権利を侵害する行為があったことは明白である。
実際上も請負であれば請負元は専門的技能をもって仕事を請け負うという建前であるから,仮に契約が打ち切られても他の注文主を探して仕事を受注するという形で契約解消に伴うリスクを回避する手段があるはずであるが,本件ではそのような実態はない。
(4) 被控訴人とJR西日本の労働者供給行為による権利侵害
ア 労働権(憲法27条)の侵害
控訴人は,実態としてはJR西日本の労働者であるにもかかわらず,形式上は被控訴人の労働者として扱われ,明らかに職業安定法,労働者派遣法に違反し,労働者の就労安定と労働する権利の保障を侵害するものである。具体的には以下のとおりである。
イ 平等権,均等待遇を求める権利の侵害
控訴人は,本来であれば,JR西日本の労働者として扱われなければならないし,適法に控訴人がJR西日本で労働に従事するとすればJR西日本の直接雇用の社員としてでなければ労務の提供ができない。しかしJR西日本と被控訴人の労務供給行為の結果,控訴人はJR西日本社員として本来であれば同社員と同一の労働に従事しながら,賃金,有給休暇及び退職金について全く異なる労働条件の下で同社員と同一の労働を提供させられる扱いを受け,本来であればJR西日本に対して主張できる平等の待遇を求める権利を侵害されていた。
ウ 団結権,団体交渉権の侵害
控訴人は,本来はJR西日本の社員として自らの労働条件の向上を求めて同社に対して労働組合を結成して団体交渉を行う権利を有している。しかし,控訴人は被控訴人の社員として当事者能力のない被控訴人に対して賃金交渉を求めることを余儀なくされ,本来交渉すべき相手であるJR西日本と交渉ができなかった。そして,組合を結成し本来の使用者であるJR西日本に対して雇用確保を求めようとした途端,こうした行為を理由に出勤停止の処分を受けるなど間接的な不当労働行為を受け,団結権等憲法に定められた権利の行使を妨げられてきたのである。
エ 解雇制限の利益を受ける権利に対する侵害
控訴人は,JR西日本ではなく被控訴人に雇用されたため,正当事由がなければ解雇されないという権利が侵害され,10年以上も勤務を継続しているにもかかわらず,形式上は請負契約の解約として控訴人の継続雇用を求める権利侵害の結果を招いた。
(三) 雇用継続の期待権の侵害による不法行為
仮に,JR西日本と被控訴人との継続的な労働者供給行為そのものが不法行為を構成しないとしても,JR西日本と被控訴人との間で長年にわたって労務を提供してきた事実は,控訴人に対し労務提供契約が継続されるという期待権を生じさせ,JR西日本と被控訴人には控訴人の雇用を継続させる作為義務が生じるに至った。
本来であれば,控訴人は継続的な常用的な労働者としてのみ本件業務に従事しえたのであるから,このような状態のもとでは,被控訴人とJR西日本とは控訴人に対して本件業務が違法であることを理由に契約を打ち切ることは許されないし,業務がなくなってもいないのに労務の提供を受けることを打ち切ることは許されない。したがって,JR西日本と被控訴人とが労働者供給行為を一方的に打ち切った行為は控訴人の期待権を侵害する共同不法行為にあたる。
(四) 以上の不法行為によって控訴人は長期にわたって不安定な地位におかれ,また期待権を侵害されたことにより多大な精神的苦痛を受け,これに対する慰謝料としては800万円が相当である。」
7 同23頁10行目の「J西日本」を「JR西日本」に改める。
第3当裁判所の判断
当裁判所も,控訴人の請求は理由がないものと判断するが,その理由は,次のとおり付加,訂正するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第四 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決25頁11行目(36頁左段9行目の<証拠省略>)の「二〇、」の次に「50,」を加える。
2 同26頁2行目(36頁左段9行目の<証拠省略>)の「2、」の次に「33,」を加える。
3 同頁6行目末尾に続けて,次を加える。
「本件業務は,JR西日本の吹田工場では,電車車両の定期検査及び修理,臨時検査及び修理,廃車解体,検査修理後の車両の試運転を行っており,そのために電車車両を,東海道本線から工場へ入場させ,また,工場から出場させ,あるいは工場内の留置番線上を入替移動させるなどの必要があったが,そのような電車車両の入出場あるいは入替移動のための誘導業務であり,誘導のために必要となる電車車両の分離,連結及びポイント転てつ機の操作なども含まれていた。原告らは,手旗によりまたは添乗するなどして誘導したが,電車車両の運転それ自体はJR西日本の社員が行っていた。」
4 同30頁7行目の「○○」とあるのを「●●」と,同頁11行目及び同33頁6行目の各「△△」をいずれも「▲▲」と,32頁6行目及び10行目の各「許否」をいずれも「拒否」と改める。
5 同35頁6行目の次に改行して,次を加える。
「被控訴人は,平成11年9月1日から平成12年8月31日までの年度については赤字を計上して,法人税の還付を受けた。」
6 同頁末行の次に改行して,次のとおり加える。
「被控訴人は,平成13年10月に大口顧客であるJR西日本テクノス株式会社(JR西日本の子会社)から,同社に対する売上の8割を占める業務(ダンパー,コックの分解,清掃,組立,タワミ,支持板の塗装業務等)について,平成14年1月以降請負契約を締結しない,当面は平成13年12月末日までの契約期間3ヶ月の請負契約を締結する旨の通告を受けた。被控訴人としては,同社に対し再考を求めたが,請負契約を継続してもらうことができなかったため,このままでは赤字を累積するだけで社員に対する退職金の支払いも困難になることが予想されたため,社員全員に事態を説明し,既に受注していた残務の処理が終わる平成14年3月末まで業務を継続し,同月31日に被控訴人の株主総会で解散の決議をし,同年4月4日その旨の登記をした。」
7 同36頁6行目の「るなどして,」から同頁7行目の「していたのであって」までを次のとおり改める。
「たことから,被控訴人は,前示のとおり,勧奨退職により余剰人員の整理を進め,平成9年3月から平成11年3月までに博多営業所に勤務していた正社員6名が退職し,本社勤務の正社員5名及び吹田出張所所長が退職し,本社勤務のパート社員5名が退職していったのであって」
8 同頁8,9行目の「原告らが」から「明らかである。」までを,「さらに吹田出張所に余剰人員が出ることになるのは明らかであった。」に改める。
9 同37頁6行目の次に改行の上,次を加える。
「さらに,被控訴人は,平成14年1月以降からはJR西日本テクノス株式会社からの請負契約も打ち切られ,結局同年3月31日に株主総会で解散の決議をし,同年4月4日にその旨の登記をしたという事後的な事情からも,平成11年9月30日の時点お(ママ)ける,被控訴人においては業績の回復は困難な状況にあり,人員整理の必要があるとの判断は真にやむを得ないものであったということができる。」
10 同41頁2行目の「原告は」の次に「本件請負契約は職業安定法及び労働者派遣法を潜脱する目的で締結された違法な契約であり,本件業務に従事する控訴人らは」を加え,同頁4行目の「不合理である」を「不合理であり,このような場合には解雇のための要件もより厳格に適用されなければならない」と改め,同頁5行目の「認められず,」の次に「また,本件請負契約が前記各法律に違反するか否かにより解雇の有効性の判断を左右するものではない。」を加える。
11 同42頁1行目の「も仕入れ」を「申し入れ」と,44頁8行目の「12月ころ」を「11月ころ」とそれぞれ改める。
12 同44頁9行目の「などした」を「などして」と改める。
13 同48頁4行目の次に改行して,次を加える。
「(四) また,控訴人は,平成2年11月ころに就職した際には,被控訴人に就職したとの意識を持ち,その後吹田工場で働いていたときにも同様の意識を持っていた。しかし,平成10年5月に労働組合を結成して,被控訴人の経営者と賃金について団体交渉をするようになり,団体交渉を重ねていくうちに被控訴人の経営者には決定権がないと思われたことから,実質的にはJR西日本が雇主であると思うようになった。」
14 同48頁6行目から52頁12行目までを次のとおり改める。
「(1) 控訴人と被控訴人との間に雇用契約が成立したことは当事者間に争いがなく,そして,控訴人が本件業務を遂行してきたのは,被控訴人が労務指揮権に基づいて控訴人を本件業務に配置し就労を命じ,控訴人がこれに従ったものであって,控訴人にとって本件業務の遂行が控訴人と被控訴人との間の雇用契約に基づく労務の提供に該当することは明らかである。
(2) 控訴人は,控訴人の就業の実態から,実質的にはJR西日本との間で雇用契約が成立したと主張する。そして,本件訴訟においては,被控訴人に対し雇用契約に基づく権利を有することの確認を求め,他方で,大阪高等裁判所平成13年(ネ)第1156号事件において,JR西日本に対し同様に雇用契約に基づく権利を有することの確認を求めていることは当裁判所に顕著な事実である。
雇用契約は,債権契約であるから,一般的には,労働者が異なった使用者との間で複数の雇用契約を同時に成立させることも法的に不可能ではないし,また労務提供の時間が異なればこれらを現実に履行することも不可能ではない。しかしながら,本件業務についてみると,控訴人が提供してきた労務の内容はそれが被控訴人に対するものであったとしても,JR西日本に対するものであったとしても同一のものであるから,両者に対する雇用契約を同時に成立させ,これを履行することは不可能であるというほかはない。
(3) JR西日本としては,被控訴人との本件請負契約の履行として,控訴人の本件業務の遂行を受け入れてきたのであって,JR西日本が控訴人との間で雇用契約を締結する意思がなかったことは明らかである。控訴人としても,被控訴人に採用されてからは,被控訴人に雇用されているものと認識していたのであって,平成10年に労働組合を結成して賃金について被控訴人と団体交渉をしたが,交渉が進まなかったことから,実質的にはJR西日本が雇主であると思うようになったというのであり,これは控訴人の一方的な考えないし思い込みというほかはない。
(4) 控訴人は,本件請負契約は,仕事の完成を目的とする民法上の請負に当たらず,職業安定法及び労働者派遣法を潜脱する目的で締結された違法な契約であり,本件業務に従事する控訴人らは実質的にはJR西日本に雇用されていた旨主張する。
なるほど,先に認定した本件業務の内容からすれば,本件請負契約は,その表題にもかかわらず,仕事の完成を目的とするというより,JR西日本が被控訴人に本件業務を委託する契約(法律上は準委任ないしそれに類する無名契約)と解する方が本件業務の実態に符合するように思われる。
ところで,請負(業務委託等を含む。)によって事業が行われる場合には派遣法の労働者派遣に該当しないが,現実には,契約上では請負の方式をとりながら,業務の実態としては労働者派遣に該当するものが存することが否定できないことから,労働者派遣と請負との区別に関する基準として,「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区別に関する基準」(昭和61年4月17日付労働省告示)が存するが,それによれば,請負を労働者派遣との(ママ)区別するために,事業としての独立性を中心に,労務管理上の観点からと,事業経営上の観点からの独立性の判断基準を定めているのであり(以下,同告示にいう請負を「派遣法上の請負」ということがある。),民法上の請負のように仕事の完成を目的とするか否かに重点が置かれているわけではないのである。したがって,派遣法上の請負とは,その要件をみたす限り民法上の請負も含みながら,その外に,仕事の完成と(ママ)目的としない例えばビル管理,清掃,宿日直等のいわゆる業務委託等の契約(民法上の準委任ないしそれに類する無名契約)を含めた広い概念と解されるのであり,本件業務が仕事の完成を目的とするものではなく,民法上の請負に該当しないとしても,そのことをもって直ちに派遣法上の請負に該当しないというものではない。
そして,前記認定のとおり,本件業務については,JR西日本の電車職場助役が被控訴人の本件業務主務者に対し,業務を指示し,同主務者が具体的な作業順序等を組立てたうえ,黒板に板書するなどしたうえ,本件業務従事者及び車両運転者を交えてその確認を行うなどして,業務に当たっているのであって,本件業務従事者の個々においてJR西日本の指揮監督を受けていたものではなく,本件業務の基本的な部分においてはJR西日本から独立して業務を遂行しているものと認められ,また,被控訴人がJR西日本とは全く別個の独立した企業であることも前記認定のとおりであるうえ,さらに,被控訴人は,吹田工場で,本件業務のほかに,本件業務従事者をいて,JR西日本とは全く関係のない,被控訴人の業務である車端ダンパーの取り付け,取り外しや空気コックの洗浄等の業務に当たらせていたのである。これらの事情からすれば,本件業務のみをもって控訴人と被控訴人との雇用関係が労働者派遣や労働者供給行為に該当するか否かを論ずるのも相当ではないことはもちろん,本件請負契約が労働者派遣ないし労働者供給行為に該当するものと解することはできない。
なお,仮に本件業務の内容が派遣法上の請負には該当せず,労働者派遣に該当するとし,これが平成3年3月から本件解雇時まで継続してきたとしても,これによって,当然に控訴人とJR西日本との間に雇用契約が成立したものとみることはできない。けだし,労働者派遣法40条の3は,派遣先に対し派遣労働者を雇い入れるよう努力すべき義務を認め,同法49条2項及び3項はそれについて指導,助言及び勧告をし,最終的には企業名の発表を含めた行政指導をすることによって間接的に派遣労働者の雇用を強制することを定めているが,同法によっても派遣先に雇用すべき義務が発生するものではなく,雇用契約はあくまでも労使双方の意思の合致がなければ成立しないからである。さらに付言すれば,上記のとおり,本件業務は,被控訴人と控訴人との間の雇用契約を前提とする本件請負契約によるものであるから,これが派遣法上の請負に該当するならば適法な業務委託等の契約に基づくものであるから労働者供給行為に該当しないし,派遣法上の請負に該当せず労働者派遣に該当するとしても,職業安定法4条6項によれば労働者供給行為には該当しない。
以上のとおりであるから,控訴人とJR西日本との間に雇用契約の成立に向けた意思の合致があるわけではなく,同契約の成立を認めることはできない。
(5) 控訴人は,被控訴人とJR西日本の労働供給行為により,労働権,平等権及び均等待遇を求める権利,並びに団結権及び団体交渉権について権利侵害が生じたと主張する(事案の概要6「(二)(4)アないしウ」)が,同主張は控訴人がJR西日本に雇用された労働者であることを前提とするものであって,この前提が認められないことは先に判示したとおりであるから,同主張を採用することはできない。
また,控訴人は,解雇制限を受ける権利が侵害されたと主張する(事案の概要6「(二)(4)エ」)が,争点1について判断したとおりであって,同主張は理由がない。
なお,本件業務が違法な労働者派遣に当たるとしても,控訴人が履行してきた業務の内容は前記のとおりであって,それ自体が違法なものではないし,むしろ,控訴人も本件業務に就くことを希望していたのであるから,控訴人が本件業務についたことによって精神的苦痛を生じたとも認めることはできない。
(6) 控訴人は,被控訴人とJR西日本が労働者供給契約を一方的に打ち切り,控訴人の労務提供契約が継続されるという期待権を侵害したと主張する(事案の概要6「(三)」)。
しかしながら,控訴人が主張する労働者供給契約は,被控訴人とJR西日本との間では1年間の本件請負契約として締結され,更新されてきたが,平成11年9月末日の期間満了をもって更新されることなく終了した。被控訴人としては契約の更新を希望したものの,JR西日本との間で合意に至らなかったが,この点について,両者間に法的な問題が生じたわけでもない。契約の当事者はあくまでも被控訴人とJR西日本であり,したがって,被控訴人の従業員に過ぎない控訴人との関係において,被控訴人とJR西日本が本件請負契約を継続すべき法的な作為義務を負っていたとみることもできない。したがって,被控訴人とJR西日本が本件請負契約を更新しなかったことが,控訴人に対し不法行為となるものではない。
控訴人の主張する期待権というものは,事実上のものに過ぎず,法的に保護されるべき権利としての性質をもつものと認めることはできない。
したがって,控訴人の同主張は理由がない。
(7) 以上のとおり,不法行為を理由とする控訴人の慰謝料請求は理由がない。」
第4結論
よって,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担について民訴法67条,61条を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 吉原耕平 裁判官 小見山進 裁判官 瀧萃聡之)