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大阪高等裁判所 平成13年(ネ)1353号 判決 2003年4月15日

住所<省略>

控訴人

X1

同代表者代表取締役

X2

住所<省略>

控訴人

X2

上記2名訴訟代理人弁護士

三木俊博

中嶋弘

住所<省略>

被控訴人訴訟引受人

野村證券株式会社

(旧商号・野村證券分割準備株式会社)

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

高坂敬三

同訴訟復代理人弁護士

小林京子

住所<省略>

脱退被控訴人

野村ホールディングス株式会社

(旧商号・野村證券株式会社)

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

高坂敬三

主文

1  原判決を次のとおり変更する。

(1)  被控訴人訴訟引受人は,控訴人X1に対し6383万6343円,控訴人X2に対し850万7248円及びこれらに対する平成6年6月2日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は,第1,2審を通じて,これを11分し,その10を控訴人らの負担とし,その余を被控訴人訴訟引受人の負担とする。

3  この判決は,1項(1)に限り仮に執行することができる。

事実

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人訴訟引受人は,控訴人X1に対し6億6295万3468円,控訴人X2に対し3502万4258円及びこれらに対する平成6年6月2日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(なお,控訴人らは,本訴請求のうち,上記範囲を超える金員の支払を求める部分につき訴えを取り下げた。)。

3  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人訴訟引受人の負担とする。

4  仮執行宣言

第2当事者の主張

次のとおり訂正するほか,原判決の「事実」中の「二 当事者の主張」に記載のとおりであるから,これを引用する。なお,以下,特に断らない限り,脱退被控訴人及び被控訴人訴訟引受人のいずれも「被控訴人」と表示する。

1  原判決の訂正

(1)  原判決5頁末行の「B社員」から6頁1行目の「C課長」までを「B(以下「B」という。),D(以下「D」という。)課長,C(以下「C」という。)課長」と改め,同行末尾に行を改めて次のとおり加える。

「 被控訴人訴訟引受人は,平成13年10月1日,脱退被控訴人から,証券業その他の証券取引法に基づき営む業務(ただし,一部の例外を除く。)を承継し,同年11月19日,本件訴訟の訴訟引受を命ずる旨の決定を受け,平成14年2月20日,脱退被控訴人は,本件訴訟から脱退した。」

(2)  同6頁6行目の「六四銘柄」を「57銘柄」と,7行目の「三七銘柄」を「38銘柄」と,8行目の「五〇銘柄」を「48銘柄」と,10行目の「四銘柄」を「6銘柄」と,11行目の「七五〇回」を「751回」とそれぞれ改める。

(3)  同7頁1行目を「取引総額 68億5930万6203円」と,3行目の「別紙「X1集計一覧表」」を本判決添付の「別紙1」とそれぞれ改める。

(4)  同8頁1行目の「別紙「X2集計一覧表」」を本判決添付の「別紙3」と,9行目の「即決」を「決断」と,10行目の「継続反復」を「反復継続」とそれぞれ改める。

(5)  同9頁4行目の「被告会社」の次に「神戸支店」を加える。

(6)  同11頁2行目の「(二月五日)」及び3行目から4行目にかけての「(六日)」をいずれも削り,4行目の「同二月一日(六日)」を「同日」と改め,5行目の「(二一日)」を削り,7行目の「証券内容等」を「内容等」と,8行目の「別紙の原告ら各集計一覧表」を本判決添付の「別紙2及び4」とそれぞれ改める。

(7)  同12頁3行目の「証券投資信託」の次に「である転換社債ファンド」を加える。

(8)  同13頁1行目の「断定的判断」の前に「D課長の」を,7行目から8行目にかけての「一三日に」の次に「上記投資信託を」をそれぞれ加える。

(9)  同17頁末行の「一〇月下旬」を「平成2年10月下旬」と改める。

(10)  同18頁5行目から6行目にかけての「これを」を「ローム株3万株」と改める。

(11)  同22頁4行目から5行目にかけての「一一月下旬から三月上旬」を「平成2年11月下旬から平成3年3月上旬」と,5行目から6行目にかけての「三月一日」を「同月1日」と,7行目の「一〇月一八日」を「平成2年10月18日」と,8行目から9行目にかけての「売却したことに取り扱われているが」を「売却したが」とそれぞれ改める。

(12)  同29頁2行目の「(証券取引法」から3行目の「第一一条)」までを「(平成5年法律44号による改正前の証券取引法(以下「旧証券取引法」という。)54条1項1号,協会員の投資勧誘,顧客管理等に関する準則(公正慣習規則9号)11条)」と改める。

(13)  同33頁8行目の「相場の変動」の前に「投資した資金に対する」を加える。

(14)  同34頁9行目の「信用取引に」を「信用取引を」と改める。

(15)  同35頁3行目から4行目にかけての「(証券取引法」から5行目の「二条一号)。」までを「(旧証券取引法50条1項1号,証券会社の健全性の準則等に関する大蔵省令2条1号)。」と改める。

(16)  同39頁の「「引かれ玉の放置」」の前に「いわゆる」を加える。

(17)  同47頁の「証券」を「証券取引」と改める。

(18)  同49頁10行目から50頁4行目までを次のとおり改める。

「 よって,控訴人らは,被控訴人訴訟引受人に対し,使用者責任(民法715条)に基づき,控訴人会社においては前記損害の内金6億6295万3468円,控訴人X2においては前記損害の内金3502万4258円及びこれらに対する平成6年6月2日(訴状送達の日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。」

(19)  同52頁の1行目から3行目までを次のとおり改める。

「(二) 請求原因(二)(1)のうち,控訴人会社と被控訴人との本件取引の内容が,別紙1記載のとおりであること(外貨建てワラントの諸経費欄の記載を除く。)は認める。

(なお,被控訴人は,控訴人X2と被控訴人との本件取引の内容が,別紙3記載のとおりであること(外貨建てワラントの諸経費欄の記載を除く。)を明らかに争わない。)。」

(20)  同70頁7行目から71頁3行目までを次のとおり改める。

「 控訴人会社は,年商8億円の●●●古紙回収販売業を営む営利企業であり,控訴人X2は,控訴人会社の代表者として,控訴人会社を経営している。控訴人X2は,被控訴人との取引に先立つ昭和62年3月ころから平成2年6月まで,控訴人会社名義で,大和証券株式会社(以下「大和証券」という。)において,資金規模数千万円に及ぶ証券取引を行い,その投資方針は,買い付けてから1か月から2か月の短期の利鞘を稼ぐことを目的とする投機的なものであり,ナンピン買いを行うなど,昭和62年当時において,相当の証券取引の知識を有し,また,本業でも,経済取引の経験は十分であり,インパクトローン(資金使途に制限のない外貨建貸付け)を利用するなど新しい資金調達の方法も積極的に取り入れていた。

このように控訴人らは,証券取引に対する適格性を十分に有しており,控訴人らが本件投資に不適格であったとは到底いうことはできない。」

(21)  同72頁6行目から9行目までを次のとおり改める。

「 本件において,被控訴人神戸支店のBは,東京エレクトロンワラントの取引勧誘に際し,控訴人X2に対し,被控訴人発行のワラント取引説明書(乙10)を持参し,ワラントとは新株を一定の価格で引き受ける権利を証券化したものであること,ギヤリング効果といって株よりも数倍値動きが激しく,例えば,株が倍になればワラントは3倍程度,株が2割下落すれば,ワラントは6割程度下落するというようにハイリスク,ハイリターンの商品であること,権利行使価格が決まっており,新株引受権を行使するには権利行使価格に相当する金銭を払い込むことが必要なこと,ワラントには権利行使期間があり,4年ないし5年の権利行使期間内に権利を行使しないとワラントの価値はゼロとなること,価格はポイントで示され,為替の影響があることなど,ワラントの内容,取引の仕組み,危険性等について,1時間程度に及ぶ十分な説明をした。また,控訴人らの保有するワラントの評価については,Bらが電話や訪問の際に伝えていたほか,3か月ごとに,被控訴人からワラント時価評価のお知らせが郵送されており,控訴人らは,自らの判断でワラントの保有を継続していた。

次に,控訴人会社は,平成2年8月2日のローム株の取引を手始めに,信用取引を開始したが,その前日の同月1日,D課長及びBは,控訴人X2に対し,信用取引の約諾書を持参し,取引には6か月の期間があり,その間に反対売買又は現引しなければならないこと,保有には一定の金利がかかること,担保については一定の現金と有価証券が必要なことなど信用取引の仕組みとリスクを十分に説明した。

このようにB,D課長らは,ワラント取引及び信用取引の仕組みやリスクについて,事前に控訴人会社代表者の控訴人X2に十分に説明しており,説明義務違反はない。」

(22)  同73頁2行目の「断定的判断」から3行目の「取引の結果」までを「被控訴人から断定的判断の提供があったと主張するが,これらの取引により」と改める。

(23)  同74頁末行に行を改めて次のとおり加える。

「 また,控訴人らの取引は,大和証券での取引当時から短期の値幅取り,利鞘稼ぎを目的とし,本件証券取引においても,積極的に高い収益を求め,資金が固定化しないように活発に取引をしようというものであって,このような投資方針の下では,取引回数が多くなるのは必然的なものある。

さらに,本件取引の大半は,平成2年以降に行われているが,株価は長期的な下落傾向にあり,安定的な株価の上昇が見込めない状況の下で株式投資で収益を挙げようとすれば,特定の銘柄を長期に保有するのは危険であり,値動きのよい銘柄を選んで短期の投資を繰り返すことは,合理的な投資手法であるといえる。

そして,控訴人らの損失の大部分は,このような短期の投資によるものではなく,ローム株のような数か月以上保有した長期的な株式投資や,権利消滅まで売却しなかったワラントによって生じているのであるから,短期投資の繰り返しや回転率の高さが控訴人らの損失につながっているわけではなく,このような短期の投資がされていることが過当であるということはできないし,また,本件取引は,控訴人X2が自ら理解及び判断をして主体的に行ったものにほかならないから,取引回数が多いからといって,本件取引が過当取引として違法,不当となるものではない。」

2  当審における控訴人の補充主張

(1)  本件取引の内容

控訴人会社と被控訴人との本件取引の内容は,別紙1記載のとおりであり,このうち,ワラント取引のみを取り上げたものが,別紙2である。

また,控訴人X2と被控訴人との本件取引の内容は,別紙3記載のとおりであり,このうち,ワラント取引のみを取り上げたものが,別紙4である。

(2)  過当取引

ア 過当取引を違法とする根拠

過当取引とは,当該投資者の投資知識・経験,投資意向,資金の量及び性格に適合しない,数量と頻度の高い証券取引をいう。

過当取引は,我が国証券取引法の母法である米国法では,チャーニングと呼ばれ,1934年証券取引所法10条b項,証券取引委員会規則10条b項5号により違法とされている。

我が国では,大蔵省通達「投資者本位の営業姿勢の徹底について」(昭和49年12月2日)が「投資者に対する投資勧誘に際しては,投資者の意向,投資経験及び資力等に最も適した投資が行われるよう十分に配慮すること」,「特に証券投資に関する知識,経験が不十分な投資者及び資力の乏しい投資者に対する投資勧誘については,より一層慎重を期すること」とし,公正慣習規則8号の9条3項20号(現在の9条3項8号)では証券会社の従業員がその顧客に対し過当な数量の有価証券取引を勧誘することを禁止している。

また,旧証券取引法49条の2は「顧客に対して誠実かつ公正に,その業務を遂行しなければならない。」という誠実公正義務を証券会社及び従業員に課している。

これらの規定は,証券会社(外務員を含む。)が証券取引の専門家として豊富な情報を有し,かつ公正であるべき市場の担い手として公共的使命を有していること,免許を受けて国から業務を公認されていること,一般顧客を証券取引に勧誘して取引をさせていること,他方,顧客は専門家としての証券会社による助言・推奨に信頼を寄せ,依存する関係があることから,証券会社に信任義務という高度の注意義務(委託者の最大利益を図るべき高度の注意義務)を課したことを明らかにしたものであり,過当取引は,上記信任義務に違反するものとして違法性が認められる。

イ 過当取引の要件

過当取引の違法性が認められるためには,米国法上(ア) 過当性,(イ) 口座支配,(ウ) 悪意性が必要とされ,我が国でもこれが踏襲されている。

(ア) 過当性

過当取引の実質的違法根拠が信任義務違反であることから,過当性とは,顧客の口座の性格(顧客の投資目的,投資意向,資金の性格)に照らして金額・回数が過大であることであり,一般には年次資金回転率,手数料比率,売買回数,証券保有期間,乗り換え売買の有無,出し入れ取引の有無などから総合的に判断するものとされている。

① 年次資金回転率

控訴人会社の本件取引は,平成元年8月から平成4年10月までの39か月間であるが,実質的に取引を行っていた期間は平成3年12月までの29か月間であり,取引総額は68億5930万6203円,月末の平均投資残高は6億7620万1215円であるから,年次資金回転率は4.20となる。

(計算式) 6859306203/676201215×12/29=4.20

さらに,本件では平成3年7月以降は取引が目立って減少しているので,特に頻繁に取引が行われた平成3年6月までの23か月間に限定すると,取引総額62億6821万4203円,月末の平均投資残高5億8705万9595円であるから,年次資金回転率は5.57回にも達する。

(計算式) 6268214203/587059595×12/23=5.57

この年次資金回転率は,米国で過当取引が決定的と言われる6回には満たないものの,控訴人会社の取引がワラントを多数含むこと,ワラントは値が下がった場合に下落幅が大きいため証券会社が売却を勧めずに放置されることから,回転率が低くなる傾向にあることをも考慮すると,極めて高いということができる。

② 手数料比率

控訴人会社の損害額は,6億6295万3468円であり,このうち手数料(外貨建ワラントの場合は相対売買であるため証券会社の利鞘)は2億0171万6707円にものぼり,控訴人会社の損失のうち,実に30.43%が,手数料として被控訴人の利益となっている。

③ 売買回数

本件取引期間中,控訴人会社は751回の取引を行い,全取引期間は1153日であるから,1.53日に1回の割合で取引をしたこととなる。しかも,銘柄数は,株式の現物取引57銘柄,同信用取引38銘柄,転換社債6銘柄,投資信託6銘柄,ワラント48銘柄にものぼり,一般投資家が収支・損益を把握し,投資判断ができる量をはるかに超えている。

④ 証券保有期間

控訴人会社の取引においては,証券保有期間が9日以内の取引が118回に及び,しかも,取引の半数が1か月以内に決済されているというように,極めて保有期間の短い取引であることが特徴的である。

⑤ 乗り換え売買

控訴人会社と被控訴人との取引は,証券を売却しては,次の証券に乗り換えるという乗り換え売買が継続して行われている。

このことは,本件取引が取引を常時継続している,休みない取引であることを示している。

⑥ 不合理な取引

控訴人会社と被控訴人との取引には,次のとおり不合理な取引が存在する。

第1に,御幸毛織株について,平成3年10月11日及び同月14日に4万1000株を信用取引で買い付け,平成4年3月26日にすべて現引をした後,同年4月6日から9日にかけて売却している。これは現引後わずか11日から16日で売却したものであり,長期間保有するため現引した趣旨に反する不合理な取引である。

第2に,昭和アルミ株について,平成3年4月5日信用取引で買い付けたが,わずか3日後の同月8日に売却するとともに,再び信用取引で買い直し(米国では「出し入れ取引」と呼ばれ,過当売買の徴表とされている。)をし,同日中に再び売却し(日計り),翌9日には,再び信用取引で買い直しをしている。値上がりを期待するのであれば買いの建株を保有継続すればよいし,値下がりを危惧して決済するのであれば,決済して再び買いを建てることは矛盾し,合理的に説明できない取引である。

さらに,信用買い建株を放置したまま,現物株を平成3年5月29日には売却し,信用買い建株は同年10月9日の期限まで放置されている。

第3に,中越パルプ株について,平成3年1月24日に信用取引で買い付け,同月30日に決済したかと思えば,2日後の同年2月1日に再び買い建をし,これを同日中に決済し(日計り),今度は同月8日に売り建をした(途転)。

さらに,上記売り建株を5日後には決済したかと思えば,再び信用で買い建をした(またしても途転)。

第4に,平成2年8月2日にローム3万株を信用で買い付け,約2か月後の同年10月5日に現引している。

そもそも信用取引で買い建株を現引する際には株式の代金全部(ローム3万株であれば約1億5000万円)が必要となるところ,当時控訴人会社は現引代金など到底有しておらず,現引代金自体をb銀行から借り入れて捻出し,出庫したローム株を同銀行に担保として差し入れていた。信用取引の期限が来ていないのに,建株からわずか2か月あまりで借入れまでさせて現引させたことが不合理な取引なのであり,控訴人らは,そのような不合理な取引に気づくこともなく,言われるがままに従っている。

これらの取引は,長期保有のために現引したはずの株を直ちに売却したり,株を売却してはすぐに買いを建てる,買いを建てたかと思えば次に売りに転じ,売りを建てたかと思えば次は買いというように,客観的に不合理な取引であると言わざるを得ず,被控訴人が手数料を得る以外に,顧客にとっては何らのメリットもない無意味な取引である。

⑦ 投資金額の過大性

控訴人会社だけでも,被控訴人との間で,わずか39か月間に投資総額68億5930万6203円もの取引が行われているのであり,控訴人会社が資本金わずか3000万円,年商6億円から8億円,年間営業利益7000万円から1億6000万円程度の規模しかないことと比較すると,その投資に向けられた金額はあまりにも過大である。

月末の平均投資残高で見ても,6億円以上を投資に向けているのであり,実に1年分の売上げに相当する金額,約6年から7年分の営業利益に相当する金額を常時投資していることになり,しかも,投資金の大半が借入金であることを考慮すると,投資金額の過大性は明らかである。

⑧ 以上のとおり,控訴人会社だけをとってみても,被控訴人との取引は,その取引頻度,投資金額及び資金回転率のいずれにおいても過大であること,個々の取引の不合理性,出し入れ取引の存在など過当性を認めるに十分である。

(イ) 口座支配

控訴人X2(控訴人会社は控訴人X2の個人商店に等しいから控訴人会社についても同様である。)は,昭和62年まで証券取引を行ったことがなかったが,同年4月に大和証券との証券取引を開始し,平成2年6月までの39か月間に,別紙5記載のとおり,11銘柄について32回の株式の現物取引をした。このうち購入後1か月以内又は1か月から2か月以内に売却した取引は各3取引のみであって,1,2か月の短期に利鞘を稼ぐという投機的利益を求めていたものではない。また,同時に保有していた銘柄数は,1銘柄から3銘柄(最高時で4銘柄)で,通常の素人投資家が把握・管理可能な範囲であり,取引頻度も月平均0.82回に過ぎず,借入れによる投資もなかった。

このように控訴人X2と大和証券との証券取引は,頻繁,過当なものではなかった。

加えて,控訴人X2は,早朝7時からから夜7時まで現場に出て働き,取引先との折衝,資金調達のための銀行との交渉など社内の一切を取り仕切っており,証券取引に関する情報を収集する余力も,時間的余裕もなく,大和証券の担当者の推奨に素直に従ってきたにすぎず,自ら選択した銘柄は取引先企業のa,fなど一部の●●●の株式だけであった。また,控訴人X2は,被控訴人との取引を開始した平成元年8月までの投資経験は,2年半足らずにすぎず,被控訴人との取引においても,被控訴人神戸支店のB,D,Cらが多くの銘柄を推奨し,控訴人X2がこれに追随することにより,短期・頻繁売買,特定銘柄の集中大量売買,分散分割小口売買,出し入れ売買,同一日に複数銘柄の取引などを行い,評価損を生じた銘柄は長期間放置して最終的に多大の損失をもたらし,また,株価下落傾向の相場状況であったにもかかわらず,大量のワラントを購入し,しかもマイナスパリティワラントや権利行使期限までの残存期間が2年未満のワラントを多数取引した。このように控訴人会社は,被控訴人の担当者の言うがままに取引を拡大したため,投資資金が枯渇し,やむをえず銀行借入れをしたが,もはや日本円での借入枠が一杯になったため,窮余の策として銀行から外貨による借入れを勧められ,被控訴人からの推奨に応ずるためにインパクトローンによる借入れをしたのであり,控訴人X2がインパクトローンの経験があることや為替リスクがあることを知っていることは,本件証券取引の違法性とは何の関係もないこと,被控訴人との取引の月末投資残銘柄の推移をみると,平成2年8月は20銘柄,同年10月は30銘柄,平成3年1月は46銘柄,同年4月は65銘柄,同年6月は60銘柄と多数の銘柄を同時に保有していることからすると,控訴人らは,各銘柄の損益状況,全体状況を把握し,管理できる状態にはなく,被控訴人の担当者に黙従するしかなかったものであり,被控訴人による控訴人らの口座支配は明らかである。

(ウ) 悪意性

前記の過当性及び口座支配が認められれば,特段の事情がない限り,悪意性は推認される。

また,本件で最も注目すべきは,控訴人らの保有銘柄の大半がワラントであることである。

過当取引は,口座の性格に照らして過当か否かを判断するものであり,取引をした銘柄の中に危険性の高い証券を多数含むことは,顧客利益を無視するものとして考慮される。ワラントは,権利行使期限が来れば必ず紙くずになる点,権利行使期限前であっても残存期間2年を切ると事実上紙くずに近くなる点,相対売買であるため売却できない場合がある点,価格形成が不透明である点などにおいて,これまで我が国で販売された証券の中でも最も危険性の高い証券のひとつであり,ワラントが多数含まれ,しかも,マイナスパリティワラント(発行会社の株価が権利行使価格を下回っているワラント)や権利行使期限までの残存期間が2年未満のワラントを多数取引していることは,控訴人らの口座の抱えるリスクが極めて大きいことを意味する。

さらに,本件取引の原資は多くが銀行からの借入金であり,目減りすることが許されない性格のものである。

したがって,危険性の高いワラントを多数取引させ,また,不合理で顧客の利益を配慮しない取引手法を用いて,頻繁な売買が行われている本件においては,被控訴人が,控訴人らの信頼を濫用して,その利益を無視し,又は配慮せずに,手数料,利鞘等の自己の利益の拡大を図ったものであって,悪意性が顕著であり,過当取引の違法があることは明らかである。

(3)  ワラント取引の違法性

控訴人会社のワラント取引による損失は,別紙2のとおり,2億8518万1718円(うち被控訴人が取得した利鞘は6823万7318円),控訴人X2のワラント取引による損失は,別紙4のとおり,3803万6423円(うち被控訴人が取得した利鞘は364万2038円)である。

ア 説明義務違反

従来株式の現物取引の経験しかなかった控訴人らにとって,期間の経過によって紙くずになるワラント取引は初めての経験であり,しかも,株式の現物取引よりも格段の危険性の増大がみられるのであるから,被控訴人は控訴人らに対し,従来の株式投資と比較して,具体的にどのようなリスクがあるのかを適切に理解できるように説明しなければならない。

そして,ワラントが株式投資の延長線上で理解してはならないことをも加味すると,ワラントを勧誘する際には,単に「新株引受権証券である。」というだけでは足りず,その表章する具体的な権利内容を理解させ,投資者が自己決定・投資決定を適切に行うことができる説明でなければならず,具体的には,① ワラントの意義,② 権利行使価格,権利行使期間,権利行使による取得株式数の意味,③ 外貨建てワラントの価格形成のメカニズム及びハイリスクな商品であり無価値となることもあること,④ 外貨建てワラントは上場株式等と異なり,証券会社との相対取引によることについて十分に説明し,顧客がそれらについて的確に認識できるようにすべきである。

ところが,本件では,被控訴人神戸支店のBは,相対売買を誤解していたのみならず,まさに株式投資の延長上でワラント投資を理解して勧誘し,有利性に重点を置いた説明をしたのであり,権利行使期限が近づくと取引ができなくなる場合があることも告げていなかったため,控訴人らは,平成3年6月に南海電鉄ワラントをCから勧誘され購入した後,南海電鉄株価とワラント価格がいずれも低迷した際,Dが「株が上がればワラントも上がる。」と言っていたことから控訴人X2は株価が回復するのを待っていた。ところが,平成5年4月に南海電鉄の株価が回復したのに,同ワラント価格は回復しなかったので,控訴人X2は,被控訴人のみならず財務局や証券業協会にまで説明を求めた。このように,控訴人X2は,Dから株価と単純に連動するなどと誤解を招く説明を受け,ワラント取引を株式投資の延長上にとらえていたために,南海電鉄ワラントでは売却時期を見誤ったのである。

そもそも,ワラントは新株を買う権利であり,コールオプションの一種であるから,ワラントを権利行使することによる引受株数から,1株当たりのワラントコストを算出し,これに権利行使価格を加算して得られた1株当たりの株式引受コストを算出し,株価がこれを超えればワラントが実質的価値を持ち,権利行使の意味があるという判断を基礎にしなければワラント投資は不可能なのであるのに,被控訴人神戸支店のBは株式引受コストも,引受株式数も説明していないのであるから,控訴人らとしては,当該ワラントの株式引受コストを算出することすらできず,したがって,株価がいくらになれば,権利行使の実益があるか判断することができなかった。

また,ワラントの中には特に個別銘柄としての危険性を有するものが存在する。マイナスパリティワラントと権利行使期限までの残存期間の短いワラントである。このような個別銘柄の危険性についても,十分に説明し,理解させなければならない。本件では,マイナスパリティワラントが45銘柄も存在し(甲85),権利行使期限までの残存期間が2年未満の銘柄が6銘柄存在したのに(甲86),このような個別銘柄の危険性の説明は一切されていない。

したがって,被控訴人の説明義務違反は明らかである。

イ 保護義務違反

控訴人らの取引口座に占めるワラントの比率は異常に大きく,平成2年6月の75%をはじめ,投資資金の大半をワラントに傾けているが,ワラントの危険性を認識した者は,自己の投資金の半分以上をワラントに投資するようなことはしないはずであり,本業を持つ一般投資家が,片手間に行う証券投資において,ワラントを保有する割合としてはあまりにも大きすぎる。

また,そもそもワラントの危険性及び性格を理解した投資家が,期間の経過とともに価値が下落していくワラントを長期間放置するはずがないのに,控訴人らがワラントを長期保有したこと自体,ワラントの危険性も性格も理解していなかったことの何よりの証左である。

さらに,被控訴人神戸支店のDなどは,平成2年7月の時点では,ワラントについて「だめだと思っていました。」と証言しているにもかかわらず,その後も多数のワラントを推奨し,控訴人らに保有させているのは,控訴人らがワラントの危険性を認識していないことを示すのみならず,被控訴人として,顧客の利益をないがしろにするものであり,保護義務に違反し違法である。

(4)  まとめ

以上のとおり,控訴人会社と被控訴人との本件一連の取引は,過当売買に該当し,違法であるとともに,控訴人らと被控訴人との本件ワラント取引については,説明義務違反・保護義務違反があり,全体として違法である。

理由

第1当裁判所の判断

1  本件取引について

控訴人会社と被控訴人との間の本件取引の内容が別紙1のとおりであること(外貨建てワラント取引の諸経費欄を除く。),控訴人X2と被控訴人との本件取引の内容が別紙3のとおりであること(外貨建てワラント取引の諸経費欄を除く。)は,いずれも当事者間に争いがない。

2  本件の経過等

(1)  争いのない事実,証拠(甲1,16,24ないし59,62ないし77,81,85,86,95,乙1ないし19(以上,枝番のある書証は枝番も含む。),証人B,証人D,証人C,控訴人X2)及び弁論の全趣旨を総合すれば,本件の経過等として,次の事実が認められる。

ア(ア) 控訴人会社は,●●●において,古紙類の回収,販売業を営む資本金3000万円の有限会社であり,平成元年当時,控訴人会社の従業員(家族を含む。)は約11名,売上高は約7億7000万円(同年5月31日決算)で,●●●の規模であった。控訴人会社の主たる業務は,回収した古紙を製紙会社に原材料として売却するものであるが,その価格は,紙相場の価格に大きく影響され,控訴人会社の利益も紙相場に大きく影響されるため,控訴人X2(昭和11年○月○日生)もある程度相場について知識を有していた。

控訴人X2は,高校を卒業後,家業の古紙回収業に従事するようになった後,昭和43年○月○日に控訴人会社を設立し,以後,その代表取締役として,控訴人会社を経営している。

(イ) 控訴人X2は,昭和62年4月に,控訴人会社名義で大和証券との間で証券取引を開始し,その後平成2年6月まで,別紙5記載のとおり,合計11銘柄について株式の現物取引をした。このうち,控訴人X2が自ら選択した銘柄としては,取引先又は関連企業のa株,g株,f株等があり,その他の銘柄は,大和証券の担当者の推奨を受けて売買したものであった。控訴人会社の大和証券における証券取引は,優良株を長期間保有することにより資産を維持しようとするものではなく,買い付けてから数か月で売却して他の銘柄の株を買い付け,利鞘を稼ぐというものであった。

なお,控訴人X2は,大和証券との上記取引を開始するまで,証券取引の経験はなかった。

イ(ア) Bは,大学を卒業した直後の平成元年4月,被控訴人に入社し,神戸支店営業課に配属された後,同年7月ころ,新規顧客の開拓として,e法人名簿の中から控訴人会社を選んで,控訴人X2に電話をし,その後も何度か電話をしたり,直接控訴人X2を訪問し,新規発行の転換社債の案内をするなど,被控訴人との証券取引を勧誘したが,控訴人X2は興味を示さなかった。

Bは,同年8月,控訴人X2に対し,任天堂が増資した際の失権株の取引を勧誘したところ,控訴人X2は,控訴人会社名義で,1株1万1500円で2000株,1株1万1600円で1000株の合計3000株(3460万円)の入札に応じ,同月28日,別紙1記載のNo.1のとおり上記株を購入し,控訴人会社と被控訴人との取引が開始された。

(イ) 次いで,Bは,控訴人X2に対し,住友セメント及び大東京火災の新規公募株を推奨し,控訴人会社は,別紙1記載のNo.2,3のとおり,平成元年9月14日に住友セメント株3万株を,同年10月16日に大東京火災株5000株を購入した。

さらに,控訴人会社は,別紙1記載のとおり,同年11月17日,20日及び21日,上記任天堂株及び住友セメント株を売却して合計1468万5116円の利益を上げ,同月21日に東芝株1万株を,同月22日に神戸製鋼株2万株等を購入するなど,Bの推奨する株式の売買をするようになった。

控訴人X2は,株式新聞等の株式専門誌(紙)に目を通すなどし,自己の保有する銘柄の株価や相場の動向に関心を持っていたが,Bから推奨されて初めて購入した任天堂株で大きな利益を上げたことなどから,Bひいては被控訴人を信頼するようになった。

他方,Bは,控訴人X2に対し,1日に2回位電話をし,また,2,3日おき位に訪問し,新規公募株等を中心に取引を勧めていた。もっとも,被控訴人との取引のうち,控訴人X2が自ら銘柄を選択した控訴人会社の取引も1割から2割程度あったが,その他の取引は,控訴人X2がBの推奨を受けて行われたものであった。

ウ(ア) ワラントは,一定の行使期間(権利行使期間)内に一定の価格(権利行使価格)で一定の数量(権利行使株数,1ワラント当たりの払込金額を権利行使価格で除したもの。)の発行会社の新株を引き受けることができる権利又はこれを表象する証券であり,ワラント取引は,次のような特質を有している。

① ワラントには,権利行使期間の制約があり,これを経過すると,権利が消滅し,経済的に無価値となる。

② ワラントの権利行使価格は,ワラント債を発行する条件を決定する際の株価に一定割合を上乗せして決定されるところ,ワラントが取引の対象になるのは,将来,株価が権利行使価格よりも値上がりすることにより,新株引受権を行使する経済的利益が生じるからにほかならず,ワラントの投資価値は,株価が権利行使価格よりも上昇することに対する期待の存在を前提として成り立っている。

ところで,ワラントの価格形成における理論価格(パリティ)は,株価と権利行使価格との差額によって規定されるが,現実のワラントの市場価格は,パリティと,株価上昇の期待度,株価の変動性の大小,権利行使期間の長短,需要と供給の関係等複雑な要因を含むプレミアムとによって形成される。

発行会社の株価が権利行使価格を下回っている場合には,新株引受権を行使する経済的利益がなく,ワラントの理論的な価値はない。もっとも,権利行使期間内であれば,将来株価が上昇する可能性自体はあるので,株価が値上がりする期待度等に基づきプレミアムが生じてワラントの市場価格が形成されるが,権利行使期間が短くなれば,株価上昇の期待度が減少する分だけ,ワラントの評価は低くなり,取引が困難になる傾向がある。このため,株価が権利行使価格を下回っているマイナスパリティのワラントや権利行使の残存期間の短いワラント(特に,権利行使期限までの残存期間が2年未満のワラント)の取引では損失を被る危険性が大きくなる。

③ そして,ワラントの市場価格は,基本的には株価に連動して変動するが,ギアリング効果により株価の変動に比べて格段に大きく変動するとともに,プレミアムは,株価の変動に必ずしも連動しないため,ワラントの価格の変動をより複雑なものとしている。しかも,ワラントについては,証券取引所に上場されず,店頭市場における,証券会社との相対取引により取引されるため,一般投資者にとって,その価格形成過程を把握することは困難であり,価格の変動の予測もさらに困難である。また,外貨建てワラントの場合,上記のような事情に為替変動によるリスクが加わることとなる。

このため,一般投資者としては,適切な投資活動を行うためには,豊富な知識と経験を有し,情報収集・分析能力に優れた専門家としての証券会社からの情報,助言,指導に依拠して証券取引を行わざるを得ない実情にある。

(イ) Bは,平成元年12月末ころ,控訴人X2に対し,ワラントの話をし,被控訴人発行のワラント取引説明書(平.元.05現在。乙10と同じもの。以下「本件ワラント取引説明書」という。)を交付したが,具体的な銘柄の案内はしなかった。

Bは,平成2年1月,利益が出そうなワラントの銘柄があれば,タイミングを見て控訴人X2に推奨しようと思っていたところ,たまたま東京エレクトロン株の値上がりが見込めそうだと思い,外貨建て東京エレクトロンワラント(以下,特にことわらない限り,「ワラント」とは外貨建てワラントを意味する。)もポイント(1ワラント当たりの単価。以下同じ。)は高かったが,これも値上がりが見込めそうだと思い,平成元年1月31日,控訴人X2に対し,東京エレクトロンワラントの購入を電話で勧め,その際,ワラントの約定金額は,ポイント数掛けるワラント数掛ける為替で決まるなどと説明した。

Bは,同日,控訴人X2を訪れ,東京エレクトロン株の話を含めて1時間位話をし,その中で,15分から20分位かけてワラントについて一般的な説明をした。その説明内容は,「ワラントは,ハイリスク,ハイリターンの商品の商品であること」,「ギアリング効果といって,株が倍になればワラントは3倍になるし,また,逆に下がれば,その倍くらい下がる」,「権利行使期限があって,それを過ぎると紙くずになってしまう。」,「外貨建てなので,為替のリスクもある。」などというものであった。

しかし,Bは,この当時,ワラントは理論よりも人気という需給関係で価格が動いているものと考えていたこともあって,上記の説明以上に,権利行使価格,権利行使による引受株式数,株価に権利行使価格を加算して算出した1株当たりの株式引受コストが,株価を超えればワラントが実質的価値を有し,権利行使の実益があること,権利行使期間経過前でも,権利行使期限までの残存期間の短いワラントは,事実上流通性を失って,売却できなくなる場合があること,マイナスパリティワラント又は権利行使期限までの残存期間の短いワラントは,損失を被る危険性が高いこと,ワラントは証券会社との相対取引であることなどについての説明をしなかった。

このため控訴人X2は,ワラントは,株価の変動に大きく左右され,しかも,権利行使期限のあるハイリスク,ハイリターンの商品であること,ワラントの価格がポイント数で表されることなどについては理解したものの,権利行使期限までの残存期間の長短を問わず,株価とワラントは単純に連動し,ワラントの価格が一時的に下がっても,株価が上昇すれば,ワラントの価格も回復するものと考え,また,ワラントの実質的価値や,マイナスパリティワラント又は権利行使期限までの残存期間の短いワラントは損失を被る危険性が高いことなどについては認識していなかった。

控訴人会社は,同日,Bを通じて,被控訴人から,別紙1及び2記載のNo.11のとおり,東京エレクトロンワラント30ワラントを1ワラント88・5ポイント(1913万8567円)で購入した。

その際,Bは,持参した本件ワラント取引説明書を控訴人X2に交付し,その末尾のワラント取引に関する確認書(平成2年1月31日付けのもの。乙3)を切り離して,控訴人会社の記名押印を得た上で,提出を受けた。また,控訴人会社は,同月26日付けで,被控訴人との間で外国証券取引口座設定約諾書を取り交わし,被控訴人に同口座を開設した。

その後,別紙2及び4に記載のとおり,控訴人らが被控訴人とワラント取引を行う過程においても,Bは,控訴人X2に対し,権利行使期限とポイント数以外に詳しい説明をしていないし,また,控訴人X2方からも,それ以外のことを聞かれなかった。

(ウ) Bは,東京エレクトロンワラントは控訴人会社との最初のワラント取引であり,確実に利益を取ってもらおうと考え,買付けの翌日の平成2年2月1日,控訴人X2に売却を勧め,控訴人会社は,別紙1記載のNo.11のとおりこれを売却し,71万7845円の利益を得た。

控訴人会社は,同日,東京エレクトロン株8000株及び小野薬品ワラントを買い付け,上記代金として,同時に売却したトーアスチール株,森精機株の売却代金と東京エレクトロンワラントの売却代金を使用した。

控訴人会社は,小野薬品ワラントの取引後も,同月16日,日新製鋼ワラント75ワラント(1006万2843円),同月28日,小森コーポレーションワラント(国内ワラント)45ワラント(1161万円)を購入した。

このうち,日新製鋼ワラントは,Bが勧めたものではなく,控訴人X2からBに「日新製鋼ワラントのポイントはいくらなんだ。」と電話で問い合わせがあったことを契機として買付けがされた。

また,被控訴人は,毎月,その月のすべての有価証券取引等の明細を記載した取引報告書(甲30)並びに同報告書記載の取引明細及び被控訴人に預託している金銭及び証券残高を記載し,その内容に間違いないことを顧客に回答させる回答書(乙13の1ないし46)を控訴人会社に送付した。この取引報告書には,取引銘柄,数量,単価等が記載され,ワラント取引については,ワラントであること,数量・単価も明記されていた。控訴人会社は,その内容について相違ない旨の回答書に記名押印して被控訴人に提出していた。さらに,被控訴人は,平成2年2月28日以降,平成2年2月28日以降,3か月に一度の割合で,控訴人らが保有するワラントの銘柄,買付け時の明細,時価評価(気配値・時価評価額・時価評価損益。平成3年11月からは権利行使期限も記載した。)等を記載した外貨建ワラントの時価評価のお知らせ(乙11の1ないし13)を送付した。

その後,被控訴人は,平成4年9月10日以降は,3か月に一度の割合で,控訴人らに対し,1年以内に権利行使期限が到来する銘柄に関するワラント権利行使期限のお知らせ(乙12の1ないし3)を送付した。

エ(ア) 平成2年初めから株式相場は下落基調となり,控訴人会社が保有する株式も値下がりし,Bは,控訴人X2から苦情を言われたので,平成2年2月26日,被控訴人神戸支店のD課長と同行して,控訴人X2を訪ねた。その際,D課長は,控訴人X2に対し,株式環境について説明し,損切りして入れ替えることを勧めた。以後,控訴人X2は,D課長に直接電話をしたり,D課長が控訴人X2に銘柄を勧めるようになった。控訴人会社は,D課長の推奨を受けて,別紙2記載のとおり,同月28日に小森コーポレーションワラント(ただし,国内ワラント)を,同年3月13日に松下電器産業(松下電産)ワラントを買い付け,同年4月23日以降も日商岩井ワラント等を次々と買い付けた。

D課長は,ワラントの具体的な銘柄の説明をする毎に,控訴人X2に対し,残存期間が過ぎればゼロになる,値動きが激しいことなどの説明をしたが,Bが控訴人X2に対してワラントについて最初にきちんと説明していると思っていたこと,当時は,顧客の99%は権利を行使して株を取得するということを考えず,ワラントのままで値上がり益を狙っているというふうに考えていたので,ワラントの一般的な説明をしてもかえって客の理解を妨げると考え,控訴人X2に対し,その説明をしなかった。

(イ) 控訴人会社は,D課長及びB社員の勧誘により,平成2年5月22日,購入資金をa銀行から借入れ,投資信託である転換社債ファンド9005CBワラント型(90年5月発行分)1万口を額面金1億円で購入した。

これより先,B社員は,控訴人X2から「銀行から資金を借りてくれと言われているが,なにかいい商品がないだろうか。有利な商品があったら紹介してくれ。」と言われていたので,上記転換社債ファンドを案内した。

D課長らが,当時,控訴人X2に交付したパンフレットには,上記転換社債ファンドは,値動きのある転換社債等に投資するものであり,確定利回りのものではなく,また,一定の利回りを保証できるようなものではない旨が明記されていた。

その後,控訴人会社は,平成2年7月31日以降,D課長の推奨を受けて,店頭取引株であるエムディーアイ(MDI)株,アオキインターナショナル株の取引を始めた。

(ウ) 控訴人X2は,平成2年2月から同年6月にかけて,大和証券に預託していた控訴人会社の資金を被控訴人の取引口座に移し,同月には,大和証券との証券取引を終了した。

また,別紙3記載のとおり,控訴人X2は,同年6月8日,個人名義でも,被控訴人との取引を開始した。

オ(ア) 平成2年7月下旬当時,ワラント相場の下落が激しかったため,被控訴人会社神戸支店においては,上記状況に対応するため,ワラントを保有する顧客に対し,一旦すべて売却を勧めるという方針をとり,当時のE副支店長が,D課長,Bとともに,控訴人X2と面談してワラントの売却を勧めた。

しかしながら,控訴人X2は,決算の関係で全部の売却はできないとしてこれを断り,日本信販ワラントと鈴木自動車ワラントを売却したのみで,同控訴人の判断で他のワラントは保有し続けた。

(イ) D課長は,そのころ,控訴人X2から,それまでの取引による評価損失を取り返す方法を相談され,少ない資金で大きな利益を上げることができる可能性のある信用取引を始めることを勧めた。同年8月1日,控訴人X2から信用取引をしたい旨の申出があり,D課長とBが信用取引の約諾書を持参した上,控訴人X2に対し,取引には6か月の期間があり,その間に反対売買するか,現引するかしなければならないこと,保有するには一定の金利がかかること,担保については1割の現金と有価証券が必要であること,現物取引と比べて少ない資金で大きな利益が上がることもあるが,損失が出た場合も多額になること等,信用取引の仕組みとリスクを説明し,控訴人会社は,信用取引口座設定約諾書(乙9)を被控訴人に差し入れた上で取引を開始した。

控訴人会社は,別紙1記載のNo.61のとおり,平成2年8月2日から同月9日にかけて合計3万株のローム株を1株5360円ないし5000円で信用取引で買い付け,さらに同日3000株を1株5000円の現物取引で買い付けたが,その後ローム株は値下がりした。

控訴人X2は,同年9月になってローム株が1株3000円台に下落した時点で,D課長やBの勧誘によらずに,同月21日及び同月26日に各1万株の現物取引での買い付けをした後,同年10月5日,信用取引で同年8月に買い付けたローム株3万株を現引した。

(ウ) D課長は,平成2年9月下旬,控訴人会社に対し,当時,新規に公募される予定のカプコン株の購入を勧めた。

カプコン株は,当時人気の高かった公募株式であり,多数の顧客から希望が寄せられていたことから,被控訴人では,原則として1口座1000株に案内が制限されていた。

控訴人X2もカプコン株公開の話を事前に知っており,D課長に対し5000株の買付けを強く要請した。また,控訴人X2は,c銀行から,購入資金1億7000万円の借入れをした。

D課長は,これに対して1人1000株しか割り当てられない,それ以上買いたいのであれば,上場日の初値を買ったらどうかと勧めた。

控訴人会社は,別紙1記載のNo.69及び76のとおり,平成2年10月8日,カプコン株1000株(単価1万2800円)の購入を初めとし,同月18日までの間に,前後6回にわたり,合計1万1000株を買い付けた。

カ(ア) 平成2年11月,D課長の転勤に伴い,後任の被控訴人神戸支店の営業課長Cが,Bとともに控訴人らの口座を担当することになった。

引き継ぎの挨拶のため,D,B,Cの3人で控訴人会社を訪問したが,その際,控訴人X2から別段苦情や不満めいた言葉はなく,控訴人らは,その後も引き続きC課長とワラント取引,信用取引を含めた証券取引を継続的に行った。

控訴人会社は,平成3年1月に,C課長の推奨を受けて,セーレン株及びローム株各3万株を買い付けた。その資金は,控訴人会社が,d銀行から,1億円を借り入れて調達した。

控訴人会社は平成2年8月信用取引でローム株を買い付けたが,その後,値下がりしたため現引して継続的に保有していたところ,控訴人X2はその値動きをよく見ており,2000円近くに下落したので底値だろうという自己の判断でナンピン買いとして上記ローム株を購入した。

また,セーレン株についても,控訴人X2の方からC課長の意見を求めた上で,取引した。

(イ) 控訴人らは,平成3年6月に南海電鉄ワラントをCから勧誘されて購入した。控訴人X2は,南海電鉄株価とワラント価格がいずれも低迷した際,Dから「株が上がればワラントも上がる。」,「株の値が戻ればワラントも戻る。」と聞いていたので,株価が回復するのを待っていた。

控訴人X2は,平成5年4月ころ,南海電鉄の株価がワラント購入時まで回復したので,南海電鉄ワラントを売却しようと考え,被控訴人に電話したが,ワラントの価格は下がったままであったため,不審に思い,被控訴人に説明を求めたが,納得の行く説明を得られなかった。

そこで,控訴人X2は,大蔵省,南海電鉄,日本証券業協会,近畿財務局にも電話して,事情を話し,又は問い合わせをした。

その後,控訴人X2は,被控訴人の担当者が南海電鉄発行の新株引受権証券売出届出目論見書及び同訂正事項分(甲69)の交付を受けた。

(ウ) 控訴人らは,平成6年5月17日,本件訴訟を提起した。

キ 別紙2及び4記載の控訴人らと被控訴人とのワラント取引のうち,買付けの時点で,マイナスパリティのワラントが45銘柄あり(甲85),権利行使期限までの残存期間が2年未満のワラントが6銘柄あった(甲86)。

(2)  以上の認定に反し,控訴人X2の供述及び報告書(甲16。以下,これらを併せて「控訴人X2の本件供述」という。)中には,ワラント取引の仕組みや危険性についての説明はBから一切なく,ワラント取引であることを知ったのは,別紙1記載のNo.27の日商岩井ワラントの取引からであり,東京エレクトロンワラント,日新製鋼ワラント等は,株式であると思って買い付けに同意した旨の部分があるが,被控訴人は,毎月,その月のすべての有価証券取引等の明細を記載した取引報告書(甲30)並びに同報告書記載の取引明細及び被控訴人に預託している金銭及び証券残高を記載し,その内容に間違いないことを顧客に回答させる回答書(乙13の1ないし46)を控訴人会社に送付しており,この取引報告書には,ワラント取引についてはワラントであること,数量・単価も明記されており,控訴人会社は,その内容について相違ない旨の回答書に記名押印して被控訴人に提出していたこと,上記取引報告書等を見れば,ワラントは株式とは単価,数量とも大きく異なることは,一目瞭然であるのに,控訴人X2は何らその旨の苦情を述べていないこと,証人B及び証人Dの控訴人X2の供述と反対の趣旨の供述に照らし,控訴人X2の本件供述中の上記部分は措信することができない。

また,控訴人X2の本件供述中には,平成2年7月終わりか,8月初めころ,E副支店長が,D課長,Bとともに控訴人X2を訪れ,控訴人らが保有するワラントが値下がりし,損失が出ているので,その売却処分を勧め,その資金によりローム株の信用取引をして損失を取り戻すように勧められたので,控訴人らの保有するワラントはすべて売却することとなったのに,実際には日本信販ワラントと鈴木自動車ワラントしか売却されていないことが後でわかり,問い詰めたが,結局,保有を押しつけられた旨の部分があるが,その後も控訴人X2との間にトラブルもなく多額のワラント取引を継続していること,被控訴人神戸支店の方針として顧客にワラントの売却を勧め,顧客がこれに応じているのに,担当者がこれを無視して顧客の売却注文を執行しないということは考えにくいこと並びに証人B及び証人Dの証言などに照らせば,控訴人X2の上記供述部分は措信することができない。

さらに,控訴人X2の本件供述中のワラント,株式又は証券投資信託の個別銘柄について,必ず値上がりする旨,必ず儲かる旨等の断定的判断の提供に関する部分も取引の経過や証人B及び証人Dの証言などに照らして措信することができない。

他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

3  本件取引の違法性について

(1)  適合性原則違反について

前記認定事実によれば,控訴人X2(昭和11年○月○日生)は,被控訴人と証券取引を開始した平成元年当時,古紙回収,販売業を営む控訴人会社を代表取締役として経営していたこと,控訴人会社の同年5月31日決算期の売上高は約7億7000万円で,●●●規模であり,控訴人会社の事業が紙相場の動向に大きく影響を受けることから,控訴人X2も相場取引についてある程度の知識と経験を有していたことがうかがわれること,控訴人X2は,被控訴人との証券取引を開始する前の昭和62年3月ころから平成2年6月までの間,別紙5記載のとおり,大和証券と株式の現物取引を行い(買付金額合計2億6129万円),このうち,大和証券の担当者から推奨を受けて取引をした銘柄以外に,控訴人X2が自ら選択して取引をした銘柄として,a株,g株,f株等があり,その買付金額は数千万円に及んでおり,また,株式新聞等の業界専門誌(紙)にも目を通していたもので,控訴人X2は,株式取引については既に相当の経験を有し,自主的,主体的な判断に基づいてその取引を行うか否かを決することができる能力を身につけていたものとうかがわれること,控訴人らは,平成元年4月から平成4年10月までの間,別紙1及び3記載のとおり,被控訴人との間で,株式の現物取引及び信用取引,ワラント取引を行い(取引総額は68億円を超える。),その取引資金のため,控訴人会社は金融機関から融資を受けたが,その際に被控訴人が融資を勧めたり,融資先を紹介するなどして関与したことはなく,すべて控訴人X2の判断で融資を受けたものであり,その際には,インパクトローン(資金使途に制限のない外貨建貸付け)を利用するなど新しい資金調達の方法も積極的に取り入れていたこと(甲77,証人B,控訴人X2)に照らすと,控訴人らと被控訴人との証券取引の数量や金額が大和証券の取引と比べてはるかに大きいこと,ワラント取引が,一般の個人投資家にとっては高いリスクを伴う,投機的な色彩の強いものであること等を考慮してもなお,控訴人らの証券取引に対する適格性は十分にあり,控訴人らが本件投資に不適格であったものと認めることはできない。

したがって,控訴人らの適合性原則違反の主張は採用することができない。

(2)  過当取引について

過当取引とは,投資者の投資知識・経験や投資目的,資金の量及び性格に適合しない不適切な数量と頻度の高い証券取引をいうところ,証券会社は,証券取引の専門家として必要な知識,経験,情報収集・分析能力を有し,一般投資者との間には上記の点で格段の量的・質的差異があり,一般投資者は,専門家である証券会社から提供される情報や助言・指導に依拠して投資を行わざるを得ないという実情にある。他方,証券会社は,一般投資者を証券取引に勧誘することによって利益を得ているものであり,証券会社が,投資者の投資知識・経験や投資目的,資金の量と性格に適合しない数量と頻度の高い証券取引に不当に勧誘することは,投資者の危険と犠牲において証券会社が利益を図ることとなるから,信義則上,証券会社は,投資者の知識,経験,投資目的,資金の量と性格等に照らして不適切に多量・頻繁な証券取引に勧誘してはならない義務を有しているというべきである(過当取引の禁止)。

ところで,前記認定のとおり,控訴人会社は,平成元年4月から平成4年10月までの39か月間に,被控訴人との間で,別紙1記載のとおりの取引を行い,その取引回数,取引頻度は多大なものではあるが,前記認定の控訴人会社の経営状況,控訴人X2の投資知識・経験,投資目的,資金の量や性格及び本件の経過等に照らすと,本件取引は,被控訴人の担当者の推奨に従って取引をしたものが大部分を占めることを考慮しても,控訴人X2が自ら理解及び最終的な判断をして行ったものであったというべきであり,その数量,回数,資金,資金回転率等から過当性を肯定することはできず,被控訴人における控訴人会社の口座支配の事実も認めることはできないから,本件取引が過当取引に当たり違法であるとの控訴人らの主張は採用することができない。

(3)  ワラント取引の違法性について

前記2(1)ウ(ア)のようなワラント取引の特質に鑑みると,被控訴人の使用人であるB,D及びCは,控訴人らに対し本件ワラント取引の勧誘をするに当たって,控訴人らの職業,年齢,証券取引に関する知識,経験等に照らして,本件ワラント取引による利益やリスクに関する的確な情報の提供や説明を行い,控訴人らがこれについての正しい理解を形成した上で,その自主的な判断に基づいて本件ワラント取引を行うか否かを決することができるように配慮すべき信義則上の義務(説明義務)を負うというべきである。

これを本件についてみるに,① Bは,控訴人会社にワラント取引の勧誘をするに際し,控訴人X2に対し,「ワラントは,ハイリスク,ハイリターンの商品であること」,「ギアリング効果といって,株が倍になればワラントは3倍になるし,また,逆に下がれば,その倍くらい下がる」,「権利行使期限があって,それを過ぎると紙くずになってしまう。」,「外貨建てなので,為替のリスクもある。」などとワラントの一般的な説明を一応したが,その当時,ワラントは理論よりも人気という需給関係で価格が動いているものと考えていたこともあって,上記の説明以上に,権利行使価格,権利行使による引受株式数,株価に権利行使価格を加算して算出した1株当たりの株式引受コストが,株価を超えればワラントが実質的価値を有し,権利行使の実益があること,権利行使期間経過前であっても,権利行使期限までの残存期間が短くなると事実上流通性を失って,売却できなくなる場合があること,マイナスパリティワラント又は権利行使期限までの残存期間の短いワラントは,損失を被る危険性が高いこと,ワラントは証券会社との相対取引であることなどについての説明をせず,その後ワラント取引を継続するに当たっても,そのような説明をしなかったこと,② Dも,Bがワラントについて最初にきちんと説明していると思っていたほか,当時は,顧客の99%は権利を行使して株を取得するということを考えず,ワラントのままで値上がり益をねらっているというふうに考えていたので,ワラントの一般的な説明をしてもかえって客の理解を妨げると考え,控訴人X2に対し,その説明をしなかったこと,③ Cも,控訴人X2に対し,改めてワラントの一般的な説明をした形跡はうかがわれないこと,④ このため控訴人X2は,ワラントは,株価の変動に大きく左右され,しかも,権利行使期限のあるハイリスク,ハイリターンの商品であること,ワラントの価格がポイント数で表されることなどについては理解したものの,権利行使期限までの残存期間の長短を問わず,株価とワラントの価格は単純に連動し,ワラントの価格が下がっても,株価が上昇すれば,ワラントの価格も回復するものと考え,また,ワラントの実質的価値や,マイナスパリティワラント又は権利行使期限までの残存期間の短いワラントは損失を被る危険性が高いことなどについては認識せずに,下落した株価ひいてはワラントの価格の回復を待っていたため,権利行使期間内に処分する機会を失して,権利行使をすることなく失権したワラントが,別紙2及び4記載のとおり相当数あったことが認められる。

以上のとおり,Bは,控訴人X2に対し,ワラント取引の勧誘をするに際し,ワラント取引についての一応の説明を行っただけで,説明の内容としては不十分であり,D及びCも,ワラントの仕組み及び危険性等の具体的な説明はしていないのであるから,B,D及びCは,ワラント取引を勧誘し,開始するに当たって及びその後ワラント取引を継続するに当たっての必要な説明義務を怠ったというべきであり,B,D及びCによる控訴人らに対するワラント取引の勧誘等の行為は説明義務に違反した違法なものとして,不法行為に当たるものと認められる。

したがって,B,D及びCの使用者である被控訴人は,民法715条により使用者責任を負うというべきである。

(4)  その他の違法事由について

控訴人らは,店頭取引又は信用取引についての説明義務違反,断定的判断の提供,不実,誤導表示,実質的一任売買による本件取引の違法を主張するが,これを肯定する控訴人X2の本件供述は,証人B,証人D,証人Cの証言及び前記の本件の経過等に照らして,採用することができず,他にこれを認めるに足りる証拠はないから,上記違法事由があったものと認めることはできず,控訴人らの上記主張は採用することができない。

4  損害について

(1)  控訴人らのワラント取引による損害

前記のとおり,控訴人らは,被控訴人との各ワラント取引により,控訴人会社においては別紙2記載のとおり合計2億8518万1718円の損失(権利行使期間を経過して損害が確定したものも含む。以下同じ。),控訴人X2においては別紙4記載のとおり合計3803万6423円の損失を受け,上記各損失額に相当する損害を被った。

(2)  過失相殺

本件ワラント取引の勧誘に当たって,B,D及びCのワラント取引についての説明が不十分であったことは前記説示のとおりであるが,他方で,① 本来,証券取引は投資家が自己の判断と責任において行うべきものであるところ,前記2(1)認定の事実によれば,控訴人X2は,Bから本件ワラント取引に先立ちワラント取引についての一応の説明を受け,個々の取引においても,B又はDから,買付け時には,ワラントの単価,取引額等の連絡を受け,また,被控訴人に問い合わせをすることによってワラントの価格がわかることを知っていたこと,② 被控訴人は,平成2年7月下旬に,控訴人X2に対し,控訴人会社が保有するすべてのワラントの売却を勧めているのに,控訴人X2の判断で,2銘柄を除き,売却しなかったこと,③ ワラントの価格の変動については,被控訴人は,平成2年2月28日以降,控訴人らに対し,3か月に一度の割合で,控訴人らが保有するワラントの銘柄,買付け時の明細,時価評価(時価評価額・時価評価損益等。平成3年11月からは権利行使期限も含む。)等を記載した外貨建ワラントの時価評価のお知らせ(乙11の1ないし13)を送付したこと,④ 控訴人X2は,控訴人会社とのワラント取引を開始するに際し,本件ワラント取引説明書の交付を受け,また,被控訴人から,毎月,その月のすべての有価証券取引等の明細を記載した取引報告書(甲30)並びに同報告書記載の取引明細及び被控訴人に預託している金銭及び証券残高を記載し,その内容に間違いないことを顧客に回答させる回答書(乙13の1ないし46)の送付を受け,この取引報告書には,ワラント取引についてはワラントであること,数量・単価も明記されていたことに照らすと,控訴人X2が,B,D又はCに対してワラントについてのより詳しい説明を求めたり,被控訴人から交付又は送付された上記各書面を検討して被控訴人に問い合わせをするなどすれば,本件ワラント取引の具体的内容を把握し,ワラント取引の危険性等について理解を深めることが可能であり,また,それによって損害の拡大を阻止することも可能であったということができる。

そうすると,控訴人らには,本件ワラント取引に係る損害の発生及び拡大について相当大きな落ち度があったというべきであり,B,D及びCの勧誘行為の違法性の程度その他本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると,過失相殺として控訴人らの被った損害額の8割を減ずるのが相当と認める。したがって,上記過失相殺後の損害額は,控訴人会社が5703万6343円,控訴人X2が760万7284円(いずれも,円未満切捨て)となる。

(3)  弁護士費用

控訴人らが本件訴訟の提起・追行をその訴訟代理人らに委任したことは本件記録上明らかであるところ,本件事案の内容,請求認容額,審理の経過等本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると,控訴人らが被控訴人らに賠償として求め得る弁護士費用相当損害金は,控訴人会社においては680万円,控訴人X2においては90万円を相当と認める。

(4)  まとめ

そうすると,被控訴人訴訟引受人は,使用者責任に基づく損害賠償として,控訴人会社に対しては6383万6343円,控訴人X2に対しては850万7248円(以上,いずれも前記(2)の過失相殺後の損害額に前記(3)の弁護士費用相当損害金を加算したもの)及びこれらに対する訴状送達の日であることが記録上明らかな平成6年6月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務があるというべきである。

第2結論

以上によれば,控訴人らの本訴請求は,前記認定の限度で理由があり,その余は理由がないから,これと異なる原判決を上記判断に従って変更することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 林醇 裁判官 大鷹一郎 裁判官 浅見宣義)

<以下省略>

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