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大阪高等裁判所 平成13年(ネ)2450号 判決 2001年12月19日

控訴人

大阪府中小企業信用保証協会

同代表者理事

同訴訟代理人弁護士

中務嗣治郎

鈴木秋夫

ほか一五名

被控訴人

主文

1  原判決を次のとおり変更する。

2  被控訴人は、控訴人に対し、一億一四〇〇万〇四九九円及びうち八七九九万九九九九円に対する平成一三年一月一七日から支払済みまで年一四パーセントの割合(一年三六五日の計算)による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一・二審を通じ被控訴人の負担とする。

4  この判決は、第二項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  主文第一項ないし第三項と同旨

2  仮執行の宣言

第2事案の概要

以下に付加、訂正、削除したうえ原判決の「第2 事案の概要」の記載を引用する。

(1)  四頁下から二行目から五頁一行目までを以下のとおり改める。

「ア 三和銀行は、平成一〇年一二月二五日、本件借入金の未収利息債権一二一万九九四五円(平成一〇年九月二九日から同年一二月二五日までの利息)とa社の当座預金一四四七円・普通預金五四二三円及びBの別段預金八九三円・普通預金二万一四七〇円の合計二万九二三三円とを対当額で相殺し、その結果未収利息金残額は前記(8)の一一九万〇七一二円となった(≪証拠省略≫)。」

(2)  五頁二・三行目の「四一三〇万円」の次に「(ただし、別表6では四〇四三万二〇五五円とされている。)」を加える。

(3)  五頁一三行目の「C」から同頁一五行目の「受理された」までを「被控訴人を除く相続人四名はいずれも大阪家庭裁判所堺支部に相続放棄の申述をし、C及びDのした申述は同年一二月一三日に、E及びFのした申述は同月二〇日にそれぞれ受理された」と改める。

(4)  五頁下から八行目の「原告」から次行の末尾までを以下のとおり改める。

「本件借入については、控訴人、B及びCが銀行に対して保証をしていた。したがって、前記の代位弁済をした控訴人は、共同保証人であるB及びCに対して各自の負担部分について求償権を取得した。上記の保証について保証人の間で負担割合についての約定はないから、負担割合は各自平等である。」

(5)  五頁下から三行目の「相殺」(二か所)の前にいずれも「Bの預金債権との」を、同行の「別表1記載のとおりとなり」の次に「(同表記載の未収利息の金額は、a社の預金債権との相殺後のもの)」をそれぞれ改める。

(6)  六頁一三行目の次に改行して以下のとおり加える。

「(6) 控訴人が被控訴人に対して代位弁済後年一四パーセントの割合による遅延損害金の支払を請求することができる根拠は、以下のとおりである。

a社から委託を受けてa社の三和銀行に対する債務を連帯保証した控訴人は、受託保証人として三和銀行に対して代位弁済したことによって、当然に銀行に代位する。

弁済による代位の制度は、代位弁済者の債務者に対する求償権を確保することを目的として、弁済によって消滅するはずの債権者の債務者に対する原債権及びその担保権を代位弁済者に移転させ、代位弁済者がその求償権を有する限度で原債権及び人的担保を含む担保権を行使することを認めるものである。この場合、原債権の連帯保証人は弁済者に移転する原債権についての人的担保として位置づけられるのであって、求償の当事者として位置づけられるものではない。すなわち、弁済による代位の制度において確保することを目的とされている求償権は、原債権の主たる債務者に対する求償権であって、共同連帯保証人間の求償権ではない。

最高裁判所昭和六一年二月二〇日第一小法廷判決・民集四〇巻一号四三頁も、代位弁済者の原債権の連帯保証人に対する請求権は、代位弁済者の主債務者に対する求償権を限度とする考えを示し、共同連帯保証人間の求償権を限度としているわけではない。

本件では、控訴人とa社との間の信用保証委託契約における遅延損害金の約定利率は年一四・六パーセントであり、代位弁済によって控訴人に移転する原債権における遅延損害金の約定利率は年一四パーセントである。代位弁済によって原債権の移転を受けた控訴人としては、被控訴人に対してa社に対する求償権の約定利率年一四・六パーセントと代位弁済によって移転する原債権の約定利率年一四パーセントの小さい方である原債権における約定利率年一四パーセントの遅延損害金を請求しても、共同保証人を不当に害することはない。」

(7)  六頁下から四行目から次行にかけての「始めて」を「初めて」と改める。

(8)  八頁九行目の「である被告」を削除し、同行の「利息」を「遅延損害金」と改める。

第3判断

1  原判決は被控訴人のした相続放棄の効力を認めなかったところ、これに対して被控訴人から不服の申立てがないから、原判決記載の争点(2){注:熟慮期間経過後の相続放棄の効力}は当審における審判の対象とならない。

そこで、争点(1)(遅延損害金の利率)について、以下で検討を加える。

(1)  保証人と債務者との間に求償権について法定利息と異なる約定利率による遅延損害金を支払う旨の特約がある場合には、代位弁済をした保証人は、物上保証人等の利害関係人に対する関係において、債権者の有していた債権及び担保権につき、同特約に基づく遅延損害金を含む求償権の総額を上限として、これを行使することができる(最高裁判所昭和五九年五月二九日第三小法廷判決・民集三八巻七号八八五頁)。

したがって、本件借入についての保証人である控訴人は、債務者であるa社との間で、求償権について弁済額及びこれに対する弁済日の翌日から支払済みまで法定利息と異なる年一四・六パーセントの割合による遅延損害金を支払う旨の特約をしたのであるから、代位弁済をした保証人として、同特約に基づく年一四・六パーセントの割合による遅延損害金を含む求償権の総額を限度として、銀行が有していた本件借入の保証人に対する債権を行使することができるというべきである。そして、本件借入についての約定遅延損害金は年一四パーセントであるから、控訴人が行使することができる求償権についての遅延損害金の利率は年一四パーセントにとどまる。

弁済による代位の規定は求償権を確保させるためのものであるが、ここでいう求償権は、主たる債務者に対する債権をいうのであって、共同保証人に対する求償権をいうものではない。したがって、代位弁済をした者は、原債権者の有していた債権及び人的担保を含む担保権を行使することができる権利を取得したものというべきである。

そうすると、代位弁済をした者は、この取得した権利に基づいて、原債権についての保証人に対してその保証債務の履行を請求することができ、この場合に、原債権について定められていた約定利率による遅延損害金の支払を請求することができることは明らかである。

以上のような弁済による代位の趣旨及び目的に照らして考えると、原債権について法定利率と異なる約定利率による遅延損害金を支払う旨の約定がある場合において、代位弁済をした者が他の共同保証人に対して求償権を行使するときは、代位弁済者は、代位弁済に関する原債務者との間の特約による求償権の範囲内において、原債権についての約定利率に基づく遅延損害金の支払を請求できると解するのが合理的である。

債権者と主たる債務者との間で法定利率と異なる割合による遅延損害金を支払う旨の特約がある場合は、主たる債務者についての保証人は、その保証債務の内容として、債権者に対して法定利率と異なる割合による遅延損害金を支払う義務をもともと負っていたのであるから、代位弁済をした者に対して前記の割合による遅延損害金の支払義務を負うと解しても、元来負っていた保証人としての責任が加重されることにはならない。

(2)  以上により、控訴人は本件求償金について年一四パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めることができると解すべきである。

そして、引用に係る原判決記載の控訴人の請求原因(1)ないし(5)記載の事実(計算関係を含む。){注:判示事項に係る遅延損害金の利率の主張、並びにCの無資力、三和銀行からの相殺、a社から控訴人への返済及びCとa社の各破産による配当による計算関係の主張}のうち、被控訴人に対する請求に関する部分は、これ肯認することができる。

2  結論

よって、控訴人の請求は理由があるから、これを全部認容すべきところ、これを一部認容してその余を棄却した原判決は一部不当であるから、原判決を変更することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 妹尾圭策 裁判官 稻葉重子 栂村明剛)

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