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大阪高等裁判所 平成13年(ネ)268号 判決 2001年11月01日

控訴人(1審甲事件被告,乙事件原告)

(以下「控訴人」という。)

控訴人(1審乙事件原告)

クリーン・テクノロジー株式会社

(以下「控訴人クリーン・テクノロジー」という。)

同両名訴訟代理人弁護士

小松陽一郎

池下利男

村田秀人

福田あやこ

宇田浩康

内藤欣也

同補佐人弁理士

澤喜代治

被控訴人(1審甲事件原告,乙事件被告)

エフテック株式会社

(以下「被控訴人エフテック」という。)

同訴訟代理人弁護士

藤田健

同補佐人弁理士

小谷悦司

植木久一

被控訴人(1審乙事件被告)

日星産業株式会社

(以下「被控訴人日星産業」という。)

同訴訟代理人弁護士

野田宗典

嶋田雅弘

野田宗典訴訟復代理人弁護士

藤田健

同補佐人弁理士

萼経夫

中村壽夫

宮崎嘉夫

主文

1  控訴人らの本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は,控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人ら

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人エフテックの請求を棄却する。

(3)  被控訴人エフテックは,原判決別紙イ号装置目録及びロ号装置目録各記載の粉塵除去装置並びにそれを有する排ガス処理装置を製造し,販売し,貸し渡し,販売若しくは貸渡しの申出をし,又は販売若しくは貸渡しのための展示をしてはならない。

(4)  被控訴人日星産業は,原判決別紙イ号装置目録及びロ号装置目録各記載の粉塵除去装置並びにそれを有する排ガス処理装置を販売し,貸し渡し,販売若しくは貸渡しの申出をし,又は販売若しくは貸渡しのための展示をしてはならない。

(5)  被控訴人エフテックは,(3)項記載の粉塵除去装置及びそれを有する排ガス処理装置を廃棄せよ。

(6)  被控訴人日星産業は,(4)項記載の粉塵除去装置及びそれを有する排ガス処理装置を廃棄せよ。

(7)  被控訴人両名は,控訴人クリーン・テクノロジーに対し,連帯して1000万円及びこれに対する平成11年7月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

(8)  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。

(9)  仮執行宣言

2  被控訴人ら

主文と同旨

第2事案の概要

1  争いのない事実等

(1)  控訴人は,「粉塵除去方法とその装置」の発明(以下「本件第1発明」という。)についての特許(特許番号 第2850169号。以下「本件第1特許権」という。)と,「気液分離方法,気液分離装置,粉塵除去方法及びその装置」の発明(以下「本件第2発明」という。)についての特許(特許番号 第2819251号。以下「本件第2特許権」という。)を有している。

本件の前提となるその余の事実については,次のとおり付加,訂正するほか,原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」一に記載のとおりであるから,これを引用する。

(2)  原判決の訂正等

ア 原判決10頁末行の「固且つ」を「且つ」と改める。

イ 同12頁8行目の「内周面及び内周面」を「内周面及び該内周面」と,同末行の「該分離装置」を「該液分離装置」と各改める。

ウ 同13頁3,4行目と同5~8行目を入れ替えた上,項目の番号を順に付け替える。

エ 同14頁10行目の「甲六、七」の次に「,8」を加える。

2  請求及び原判決の結論

(1)  甲事件

甲事件は,粉塵除去装置の製造,販売業者である被控訴人エフテックが,本件第1特許権及び本件第2特許権の特許権者である控訴人に対し,控訴人又は本件各特許権について独占的通常実施権の設定を受けた控訴人クリーン・テクノロジーの従業員が,被控訴人エフテックの代理店又はユーザーに,本件各装置の製造,販売行為は本件各特許権を侵害している等の事実を告知することは,不正競争防止法2条1項13号の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知又は流布に当たるとして,その禁止を求めたものである。

(2)  乙事件

乙事件は,控訴人及び本件各特許権について独占的通常実施権の設定を受けた控訴人クリーン・テクノロジーが,被控訴人エフテック及び本件各装置の販売業者である被控訴人日星産業に対し,本件各装置の製造,販売等は本件各特許権を侵害するものとして,その製造,販売等の差止め及び廃棄並びに損害賠償を求めたものである。

(3)  原判決は,本件各装置の製造,販売等はいずれも本件各特許権を侵害しないと判断し,甲事件の請求を全部認容し,乙事件の請求を全部棄却した。

控訴人らは,上記判決を不服として,控訴を提起した。

3  争点

(1)  本件各装置は,本件第1発明の技術的範囲に属するか(甲・乙事件共通)。

ア 本件各装置は,請求項1の構成要件Bの「可動ブラシからなるフィルター2」及び同Caの「可動ブラシからなるフィルター2が含塵気流中の粉塵を粗取りする」との要件を充足するか。

イ 本件各装置は,請求項1の構成要件Caの「共に」との要件を充足するか。

ウ 上記ア,イについての均等論の成否(当審で追加された争点)

(2)  本件各装置は,本件第2発明の技術的範囲に属するか(甲・乙事件共通)。

(3)  本件告知は,不正競争防止法2条1項13号の不正競争行為に当たるか(甲事件)。

(4)  損害の発生及び額(乙事件)

4  争点に関する当事者の主張

(1)  争点(1)ウを除くその余の争点に関する主張

次のとおり付加,訂正等するほか,原判決「事実及び理由」中の「第二事案の概要」三に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決中の「争点1(一)」,「争点1(二)」,「争点2」,「争点3」及び「争点4」とあるのは,それぞれ,本判決中の「争点(1)ア」,「争点(1)イ」,「争点(2)」,「争点(3)」及び「争点(4)」に対応する。

ア 原判決の訂正等

(ア) 原判決19頁9行目の「異相」の次に「(主に固相)の粒子」を加える。

(イ) 同30頁8行目から同末行までを削る。

イ 当審における主張

【控訴人ら】

(ア) 争点(1)アについて

原判決は,本件第1発明・請求項1の構成要件B及びCaの「可動ブラシからなるフィルター2」について,「粉塵を粗取りする」との機能的な記載以外にその構造を具体化する記載がないとし,公知技術やフィルターの一般的な意味内容から,「流入気体がブラシの毛間を通過する間にブラシの毛により大部分の粉塵が捕集される構造のものをいうと解すべきである。」と判断しているが,本件第1発明の明細書の記載によると,「粉塵を粗取りする」とは,a「粉塵を除去するためのフィルター1で囲まれた容器の中に可動ブラシからなるフィルター2が挿入,配置され」,b「可動ブラシからなるフィルター2はその全体が,含塵気流中に暴露されている上,含塵気流と直接接触して積極的に粉塵を除去すること」を意味していると解すべきであり,それで足りる。すなわち,可動ブラシ(フィルター2)に捕集される粉塵の量は,フィルター1に捕集される量に比べ相当少なく,「粗取り」するとは,ある程度捕集するという意味である。

一方,公知技術に記載されたブラシは,いずれも,積極的に粉塵を除去していない。

本件各装置においては,含塵気流が円筒状フィルター内で循環している間に,ブラシと含塵気流とが積極的に接触するだけでなく,静電気が発生し易く,これらの点から,粉塵の粗取りが積極的に行われるといえるから,本件第1発明・請求項1の構成要件Bの「可動ブラシからなるフィルター2」及び同Caの「可動ブラシからなるフィルター2が含塵気流中の粉塵を粗取りする」との要件を充足する。

(イ) 争点(1)イについて

仮に,本件第1発明・請求項1の構成要件Caの「共に」が時間的な意味で「同時に」という意味を含むものであったとしても,本件各装置のブラシが間欠作動するよう設計されているとはいえない。

本件各装置の回路図(乙4)からは,二つのラインに本件各装置を配設して交互に稼働させ,含塵気流中の粉塵を除去しているラインでは,ブラシが回転できないように「設計」されているとはいえず,設定次第によって,ブラシは連続的に回転,作動する。

【被控訴人エフテック】

(ア) 控訴人らの上記主張(ア)について

控訴人らは,一方で,粉塵を「粗取り」するとは,ある程度粉塵を除去するという意味であると主張しており,積極的に粉塵を除去するということと相容れない主張をしている。

そして,本件各装置は,公知技術のブラシ以上に粉塵を積極的に除去する構成となっておらず,請求項1の構成要件Bの「可動ブラシからなるフィルター2」及び同Caの「可動ブラシからなるフィルター2が含塵気流中の粉塵を粗取りする」との要件を充足しない。

(イ) 控訴人らの上記主張(イ)について

ブラシを回転させて円筒状フィルターに捕集された粉塵を除去している最中に,同時に,含塵気流を流入(吸引)することは,円筒状フィルターの目詰まりを引き起こしてしまうため,本件各装置では,これらが同時に行われないように設計されている。

【被控訴人日星産業】

(ア) 控訴人らの上記主張(ア)について

粉塵を粗取りする可動ブラシの構成を控訴人らの主張するもので足りるとするなら,可動ブラシの形態は何でもよく,含塵気流と直接接触するよう配置されるブラシであれば,公知技術と相違はない。

また,「粗取り」することをある程度捕集するという意味と解するならば,公知技術との相違はない。

控訴人らの主張する可動ブラシの構成を粉塵を積極的に粗取りするものというのであれば,公知技術のブラシの構成も粉塵を積極的に粗取りするものといえる。

(イ) 控訴人らの上記主張(イ)について

本件各装置では,含塵気流の導入と可動ブラシの回転が同時に行われないように設計されている。

(2)  争点(1)ウ(均等論)に関する主張(当審における新主張)

【控訴人ら】

ア 本件第1発明・請求項1の構成要件B及びCaの可動ブラシに関する相違点における均等論

(ア) 仮に,本件各装置が,本件第1発明・請求項1の構成要件B及びCaの可動ブラシを文言上充足していないとしても,本件第1発明における可動ブラシの植毛状態と本件各装置におけるそれとの差異は極めて微少であり,次に述べるとおり,本件各装置は,本件第1発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属する。

(イ) 本質的部分,置換可能性(同一の作用効果)

含塵気流中の粉塵を粗取りするということが本件第1発明の本質的部分であるが,上記差異によって,粗取りの程度を左右することはない。したがって,上記差異部分を置き換えても同一の作用効果を奏するとともに,本質的部分ではないということになる。

(ウ) 本件各装置において上記差異部分を置き換えることに,当業者が,本件各装置製造時点において容易に想到することができたといえる。

(エ) 本件各装置は,本件第1発明に関する特許出願における公知技術と同一とはいえず,又は当業者がこれから上記出願時に容易に推考できたとはいえない。

(オ) 本件各装置は,本件第1発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たらない。

イ 本件第1発明・請求項1の構成要件Caの「共に」に関する相違点における均等論

(ア) 仮に,本件各装置が,本件第1発明・請求項1の構成要件Caの「共に」を文言上充足していないとしても,その差異は極めて微少であり,次に述べるとおり,本件各装置は,本件第1発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属する。

(イ) 本質的部分,置換可能性(同一の作用効果)

可動ブラシ(フィルター2)がフィルター1に捕集された粉塵を取り除く機能と含塵気流中の粉塵を粗取りする機能を共に有することで「シンプルに低コスト化が可能」であることが本件第1発明の本質的部分であるが,可動ブラシ(フィルター2)によるフィルター1の粉塵の取り除きと気流中の粉塵の粗取りとが同時になされるか否かは極めて微少な差異であり,本質的部分とはいえない。

上記粉塵の取り除きと粗取りを同時に行っても,そうでなくても,「シンプルに低コスト化」を実現することができるから,上記差異部分を本件各装置のものに置き換えても同一の作用効果を奏することができる。

(ウ) 本件各装置において上記差異部分を置き換えることに,当業者が,本件各装置製造時点において容易に想到することができたといえる。

(エ) 本件各装置は,本件第1発明に関する特許出願における公知技術と同一とはいえず,又は当業者がこれから上記出願時に容易に推考できたとはいえない。

(オ) 本件各装置は,本件第1発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たらない。

【被控訴人エフテック】

ア 控訴人らは,可動ブラシの植毛状態は本件第1発明の本質的部分ではなく,含塵気流中の粉塵を粗取りすることが本質的部分であると主張するが,上記主張は,早期審査に関する事情説明書(甲13)の主張と矛盾しており,禁反言の適用を受ける。もし,可動ブラシによって粉塵を粗取りすることが本質的部分であるならば,そのような本質的部分は公知であり,本件第1発明は進歩性を欠く。

また,上記のとおり粉塵を粗取りすることが本件第1発明の本質的部分であるとしても,本件各装置のブラシ5a,5bは,流入気体がブラシの毛間を通過する間にブラシの毛により大部分の粉塵が捕集される構造となっていないので,本件第1発明の目的を達成することができず,同一作用効果を奏していない。

イ 控訴人らは,可動ブラシ(フィルター2)が,「含塵気流中の粉塵の粗取り」する機能と「フィルター1に捕集された粉塵の除去」する機能を共に有することが本件第1発明の本質的部分であり,これを同時に行うか否かは本質的部分ではないと主張する。

しかし,控訴人は,特許出願手続において,可動ブラシによる「含塵気流中の粉塵の粗取り」と「フィルター1に捕集された粉塵の除去」を時間的な意味で同時に行うことは,フィルターに捕集された粉塵のブラシによる除去を間欠的に実施していた従来の技術の欠点を補うためであり,「粉塵除去装置をシンプルな構造とすることができ,低コスト化がはかれるという効果を奏」し,「長期にわたって安定したろ過能力が得られるとの効果を奏する」ことになると主張してきた。したがって,「シンプルに低コスト化が可能」であることが本質的部分であるとしても,「シンプルに低コスト化が可能」になるのは可動ブラシによる「含塵気流中の粉塵の粗取り」と「フィルター1に捕集された粉塵の除去」を時間的な意味で「同時に」行うことの結果であるから,これを時間的な意味で「同時に」行うことは本件第1発明の本質的部分ということになる。

また,本件各装置は,ブラシ5a,5bによる「含塵気流中の粉塵の粗取り」と「フィルター1に捕集された粉塵の除去」を時間的に同時に行うことがないから,控訴人らが主張する同一の作用効果を奏することもない。

ウ 控訴人らは,本件各装置のような可動ブラシによる「含塵気流中の粉塵の粗取り」と「フィルター1に捕集された粉塵の除去」を時間的な意味で「同時に」行わない装置を,本件第1発明の特許出願過程において特許請求の範囲から意識的に除外した。

【被控訴人日星産業】

被控訴人エフテックの上記主張アないしウと同じである。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も,控訴人らの請求は理由がなく,その結果,被控訴人エフテックの請求は理由があると判断する。

その理由は,次に付加,訂正するほか,原判決「事実及び理由」中「第四争点に対する判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。

2  原判決の訂正等

(1)  原判決36頁1行目の「前記フィルターに」の次に「摺接することによって当該フィルターに」を加え,同4行目の「たとえず」を「例えば」と改める。

(2)  同38頁7行目の「上下方向にわたり」を「上端付近から下端付近に至るまで水平方向に」と改める。

(3)  同40頁末行の「公開特許公報」の次に「(丙5)」を加える。

(4)  同42頁6行目の「その中の」を「その中に」と,同8行目の「用いられる」を「用いる」と各改める。

(5)  同43頁6行目の「理化学大辞典」を「理化学辞典」と改める。

(6)  同44頁7行目の「あったのであること」を「あったこと」と,同10行目の「流入気体がブラシの毛間を通過する」を「流入気体の大部分が,フィルター1を通過するまでの間に,ブラシの毛間を通過し,その」と各改める。

(7)  同48頁2行目の「粉塵を」を「粉塵の」と,同末行の「前処置用」を「前処理用」と各改める。

(8)  同51頁2行目の「細かな」を「細かい」と改める。

3  当審における主張に対する判断

(1)  争点(1)アについて

当審において控訴人らが争点(1)アについて主張するところは,要するに,本件第1発明・請求項1の構成要件B及びCaの可動ブラシを限定的に解釈すべきではないという点にある。

上記可動ブラシを「流入気体の大部分が,フィルター1を通過するまでの間に,ブラシの毛間を通過し,その間にブラシの毛により大部分の粉塵が捕集される構造のもの」と解すべきことについては,前述したとおりであるが,控訴人らの主張にかんがみ,次の点を補足する。

ア 証拠(乙2,3)によると,本件各装置のブラシは,原判決別紙イ号装置目録記載のとおり,回転軸の上端付近から下端付近に至るまで,螺旋状に半回転して植毛されており,上から見た場合,回転軸を中心に,ブラシが放射状に植毛され,全体として円形となり,底が見えない状態にある。したがって,含塵気流を本件各装置の円筒状フィルター内に流入させてこれを放置した場合,粉塵が重力に従って落下し,これがブラシに捕集され得ることが窺える。

しかし,本件各装置のブラシは,回転軸を中心に上端付近から下端付近にかけて螺旋状に半回転して植毛されているにすぎず,本件第1発明の明細書に記載された実施例概略図が,ほぼ円筒状フィルター内部のほとんど全部をブラシで埋め尽くすような記載となっているのとは顕著な差異がある(乙2によれば,控訴人クリーン・テクノロジーの本件第1特許権の実施品のブラシが回転軸を中心に螺旋状に11回転していると認められることに照らしても,その差異を窺うことができる。)。

そして,本件各装置の含塵気流入り口2aから円筒状フィルター7内に含塵気流を流入させた場合は,同時に,除塵済み気流出口2bから気流を排出しており,気流は円筒状フィルター7を通過するので,多くの粉塵が,ブラシ5a,5bを通過することなく,円筒状フィルター7に捕集されることが認められるが,本件第1発明の明細書に記載された実施例では,含塵気流を流入した場合に,気流がフィルター1を通過するまでの間に,可動ブラシ(フィルター2)によって,大部分の粉塵が予め捕集されることが窺われる。

イ 控訴人らは,本件第1発明・請求項1の構成要件Caの「粗取り」について,その意味は可動ブラシが含塵気流と直接接触して粉塵を積極的に除去することと解すべきであるが,その量はある程度で足りると主張する。

前記アの事実及び甲14,19,丙2~6に記載された公知技術を照らし合わせた場合,公知技術に記載されたブラシは,積極的に粉塵を除去しているとはいえないが,本件各装置において,流入気体が円筒状フィルター7を通過する前に,ブラシ5a,5bが予め粉塵を除去していることが認められるものの,上記公知技術における程度以上に,粉塵を積極的に捕集していると認めることはできない。

なお,控訴人らは,本件各装置において,静電気が発生し易いことからも,ブラシによる粉塵の粗取りが積極的に行われていると主張するが,本件第1発明の明細書には,静電気により粉塵を捕集することは何ら記載されていないだけでなく,一方,上記の公知技術についての明細書中に,ブラシがフィルターに接触して粉塵を掻き落とす装置が開示されていることも併せ考えると(甲19,丙2),静電気の発生により,本件各装置のブラシが粉塵を積極的に捕集していると認めることはできない。

(2)  争点(1)イについて

控訴人らは,本件第1発明・請求項1の構成要件Caの「共に」との要件が時間的な意味で「同時に」という意味を含むものであったとしても,本件各装置のブラシが間欠作動するよう設計されているとはいえないと主張するが,その主張するところは,設定を変えることは容易であり,設定を変えることにより,上記要件を充足することができる以上,本件各装置は上記要件を充足することにほかならないということにあると考える。

しかし,甲15,24~26によると,本件各装置は,二つのライン(Aライン,Bライン)に各装置を配設して交互に稼働させ,含塵気流中の粉塵を除去しているラインでは,ブラシが回転できない状態で運転されることが認められるが,通常の用法下においては,容易に上記運転パターンを変更することができないことが窺える。

また,本件各装置に改変を加えることによって,本件第1発明・請求項1の構成要件を全て充足させることができるからといって,本件各装置が同構成要件を充足するとはいえない。

そうすると,本件各装置を上記のように運転させることを「設計」というか「設定」というかはともかく,本件各装置は,本件第1発明・請求項1の構成要件Caの「共に」との要件を充足しないというべきである。

(3)  争点(1)ウ(均等論)について

ア 本件第1発明・請求項1の構成要件B及びCaの可動ブラシに関する相違点における均等論

(ア) 前述したとおり,本件第1発明・請求項1の可動ブラシと本件各装置のブラシとの間には,植毛状態について差異を認めることができる。

控訴人らは,上記差異が本件第1発明の本質的部分とはいえないと主張するが,前述したとおり,本件第1発明・請求項1の可動ブラシは,「流入気体の大部分が,フィルター1を通過するまでの間に,ブラシの毛間を通過し,その間にブラシの毛により大部分の粉塵が捕集される構造のもの」である必要があり,公知技術との対比上,この点につき,新規性,進歩性を有すると考える。

そして,本件各装置のブラシによって,含塵気流中の粉塵の一部が捕集されることは認められるものの,粉塵の捕集の態様は積極的であるとは認められず,その捕集の量は粉塵の大部分ということはできないと考えられ,上記相違点は,まさに本件第1発明の本質的部分というべきである。

しかも,上記要件を満たさないと認められる本件各装置は,本件第1発明と同一の作用効果を有するということもできないといわざるを得ない。

(イ) そうすると,その余の点を考慮するまでもなく,上記の相違点にもかかわらず,本件各装置が,本件第1発明・請求項1に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属すると認めることはできない。

イ 本件第1発明・請求項1の構成要件Caの「共に」に関する相違点における均等論

(ア) 前述したとおり,本件第1発明・請求項1の可動ブラシと本件各装置のブラシとの間には,運転時期(粉塵気流中の粉塵の捕集と,フィルターに捕集された粉塵の除去の時間的関係)について差異を認めることができる。

控訴人らは,上記差異が本件第1発明の本質的部分とはいえないと主張するが,前記引用に係る原判決「事実及び理由」中の「第四 争点に対する判断」二に記載のとおり,早期審査に関する事情説明書(甲13)によると,本件第1発明は,従来技術が,フィルターに捕集された粉塵の除去を間欠的に実施していた欠点を補うため,可動ブラシによる含塵気流中の粉塵の粗取りとフィルター1に捕集された粉塵の除去とを同時にかつ常時連続的に行うことを特徴としたものと解されるから,可動ブラシによる「含塵気流中の粉塵の粗取り」と「フィルター1に捕集された粉塵の除去」を時間的な意味で「同時」に行うことは,本件第1発明の本質的部分というべきである。

(イ) そうすると,その余の点を考慮するまでもなく,上記の相違点にもかかわらず,本件各装置が,本件第1発明・請求項1に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属すると認めることはできない。

第4結論

以上によると,控訴人らの請求を棄却し,被控訴人エフテックの請求を認容した原判決は相当である。よって,控訴人らの本件控訴をいずれも棄却し,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹原俊一 裁判官 小野洋一 裁判官 山田陽三)

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