大阪高等裁判所 平成13年(ネ)2900号 判決 2001年12月19日
主文
1 原判決を次のとおり変更する。
(1) 被控訴人は、控訴人に対し、200万円及びこれに対する平成12年10月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 控訴人のその余の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを10分し、その9を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。
3 この判決は、1(1)につき仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は、控訴人に対し、2174万5479円及び内金1984万5479円に対する平成12年10月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
(4) 仮執行宣言
2 被控訴人
(1) 本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
次のとおり改めるほか、原判決「事実及び理由」の「第2 当事者の主張」(原判決1頁21行目から5頁10行目まで)のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決3頁1行目の「Kには、」の次及び20行目の「Kとしては、」の次にそれぞれ「信義則上、」を加える。
2 原判決4頁2行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「5 A、Kによる上記の本件土地購入斡旋行為は、被控訴人から融資を受けさせる目的で、被控訴人の事業の執行につきなされたものであるから、被控訴人は、控訴人に対し、民法715条に基づき、上記3(3)の損害を、仮にそれが認められないとしても、上記4(3)の損害を賠償する責任がある。」
3 原判決5頁10行目の「同4の事実」を「同4、5の各事実」と改める。
第3 判断
1 控訴人の本訴請求は、被控訴人に対し、200万円及びこれに対する平成12年10月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容すべきであるが、その余は失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおりである。
(1) 原判決「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」「Ⅰ」ないし「Ⅲ」の「2」(原判決5頁12行目から8頁22行目まで)のとおりであるから、これを引用する。
(2) 証拠(甲2、乙2の1・2、原審における控訴人本人の供述及び調査嘱託の結果)に弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
ア 本件土地は、建築基準法(以下「法」ともいう。)42条に規定する道路に2メートル以上接していないので、法43条により建築物を建築することができない。
イ 本件土地に建物が建築可能になるためには、次のいずれかの要件を充足する必要がある。
A 前面道路が法42条に規定する道路となり、その道路に2メートル以上接する場合
B 本件土地が法に規定する道路に、大津市建築基準条例(以下「条例」という。)3条に規定する路地状の敷地で接する場合
C 本件土地及び予定建築物について、法43条ただし書きの規定による建築許可を得た場合
ウ 条例3条には、都市計画区域内における建築物の敷地が路地状の部分のみによって道路に接する場合においては、その路地状の部分の幅員は、敷地の路地状の部分の奥行による区分が10メートル以下のものについては2メートル以上、同区分が10メートルを超え20メートル以下のものについては3メートル以上、同区分が20メートルを超えるものについては4メートル以上でなければならないと定められている。
エ ところが、控訴人は、本件土地の売買契約における売主やその仲介業者であるC株式会社からはもとより、A、Kからも、本件土地が法42条、43条の接道義務のある土地であることについて説明を受けたことはなかった。
オ 控訴人は、前面道路の現在の所有者であるC株式会社と交渉したけれども、通行権の設定を拒否されている。
以上のとおり認められる。
(3) 前記(1)、(2)で認定したところに基づき、被控訴人の従業員であるA又はKに、本件土地の取引についての説明義務及びその違反があるか否かについて検討するに、Aは、同人の方から控訴人に対して、資産運用に有利である旨告げた上、被控訴人の住宅ローンによる融資を受けて本件土地を購入するように強く働きかけて勧誘し、その結果、控訴人が購入を決意したこと、以後、本件土地の売買手続及び融資手続の一切はAにおいて行い、控訴人は、ただ売買の当日初めて売主のBに引き合わされて売買契約書及び住宅ローン契約書等に署名押印したにすぎないこと、ところで、本件土地はそのままでは、建築基準法42条、43条の接道義務を満たさない、建物敷地として利用不能の土地であって建物を建築するためには、前面道路である231番1の土地について通行地役権の設定等による通行権の取得が不可欠であることなどの事実によれば、本件土地の売買契約は、被控訴人の融資契約と一体となって、被控訴人の利益のために、従業員Aの斡旋によって行われたのであるから、このような場合には、信義則上、Aは控訴人に対し、本件土地の売買契約に先立って、上記接道義務の不充足などについて説明すべき義務を負うものというのが相当である。しかるに、控訴人は、同売買契約の締結された昭和62年7月7日まではもちろん、その後もこの点についてAからも説明を受けていないことは、前記で認定説示したところによって明らかである。したがって、Aは、控訴人に対し、不法行為に基づき、控訴人の被った後記損害を賠償すべき義務を負うところ、Aによる本件売買の斡旋は、その代金の融資契約と一体をなしていることは上記で説示のとおりであり、被控訴人の事業の執行につきなされたものというべきであるから、被控訴人は民法715条によって控訴人に対し同様の損害賠償責任を負うといわなければならない。
(4) そこで、控訴人の損害について検討するに、請求の原因3(3)の主位的主張のうち、アの、被控訴人からの借入れ元利金の返済金1599万9554円については、借入れと返済によって控訴人に法的な損失が生じたわけではないので主張自体失当である。また、イの、控訴人が自己所有にかかる農地を宅地に地目変更し造成工事をしたことに要した費用についても、上記Aの説明義務違反の不法行為と相当因果関係のある損害とは認め難い。ウの弁護士費用についても、ア、イの各損害が認め難い以上失当である。
(5) 予備的主張(請求の原因4)の損害について検討する。
控訴人は、本件土地に建物を建築するためには、今後、本件土地の前面道路である231番1の土地の所有者であるC株式会社に対し、同地を承役地とし本件土地を要役地とする、上記接道義務を充たすための通行地役権設定を受けること等による通行権の取得のために、訴えの提起や交渉及びこれに必要な弁護士費用などの出捐をやむなくされるであろうことは、前記で認定説示したところから容易に推認できる。したがって、これに要する費用は前記で認定した、Aの説明義務違反によって控訴人の被った損害ということができる。その額については同損害の性質上これを立証することが極めて困難というべきであるが、弁論の全趣旨並びに前記で認定した本件土地及び231番1の各面積・位置と予想される訴訟の難易などを総合考慮すると、控訴人が本件売買契約の締結をAに任せ切りにした点に何らかの落ち度を想定し得ないではないことを斟酌しても、控訴人が被り、被控訴人が賠償すべき相当な損害額は、一般社会通念上、上記のC株式会社に対する提訴・交渉及び弁護士費用などに要すると考えられる金額のうち200万円を下ることはないと認めるのが相当である。
2 以上によれば、控訴人の本訴請求は、被控訴人に対し、200万円及びこれに対する平成12年10月4日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから認容すべきもので、その余の請求は失当であるから棄却すべきであり、これと一部結論を異にする原判決は不当であるから、上記のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法67条2項、61条、64条、仮執行の宣言につき同法259条1項を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 根本眞 裁判官 鎌田義勝 松田亨)