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大阪高等裁判所 平成13年(ネ)3558号 判決 2002年12月18日

控訴人(第1事件被告兼第2事件原告)

ビジネスプラン株式会社

訴訟代理人弁護士

鳩谷邦丸

別城信太郎

訴訟復代理人弁護士

種谷有希子

被控訴人(第1事件原告兼第2事件被告)

株式会社ディー・エム・シーネットワーク

訴訟代理人弁護士

森下弘

主文

1  原判決主文第3項を取り消す。

2  被控訴人は,控訴人に対し,2000万円及びこれに対する平成11年10月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  控訴人のその余の控訴を棄却する。

4  控訴人と被控訴人間の訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを2分し,その1を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。

5  この判決は,第2項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第1控訴の趣旨等

1  原判決主文第1項及び第3項をいずれも取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  被控訴人は,控訴人に対し,2000万円及びこれに対する平成11年10月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4  3につき仮執行宣言

[以下,「第2 事案の概要」,「第3 争点に関する当事者の主張」及び「第4当裁判所の判断」の部分は,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」,「第3 争点に関する当事者の主張」及び「第4 当裁判所の判断」のうち,原審第1事件相被告王亜株式会社(以下「王亜」という。)に関する部分を除いた部分を付加訂正した。ゴシック体太字の部分が,当審において,内容的に付加訂正を加えた主要な箇所である。それ以外の字句の訂正,部分的削除等については,特に指摘していない。なお,証拠引用の書証番号は,特に断らない限り第1事件に関するものである。]

第2事案の概要

〔第1事件〕

第1事件は,被控訴人が,控訴人及び王亜に対し,被控訴人と控訴人との間の商品独占供給契約に基づき,違約金1億円及びこれに対する被控訴人側から前記契約を解除した日の翌日である平成10年7月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

〔第2事件〕

第2事件は,控訴人が被控訴人に対し,前記商品独占供給契約に基づき,違約金1億円及びこれに対する第2事件訴状送達日の翌日である平成11年10月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は,第1事件に関し,被控訴人の控訴人に対する請求を2000万円及び遅延損害金(起算日,率は請求どおり)の限度で認容し,控訴人に対するその余の請求及び王亜に対する請求を棄却し,第2事件に関しては,控訴人の被控訴人に対する請求を棄却した。

そこで,控訴人が控訴を提起するとともに,被控訴人に対する請求額を2000万円及びこれに対する平成11年10月30日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金に減縮した。

なお,原判決中,被控訴人の王亜に対する請求を棄却した部分については,被控訴人が控訴せず,確定した。

1前提事実(証拠掲記のない事実は当事者間に争いがない。)

(1)被控訴人は,「純粋二酸化塩素液剤」を原料とする除菌・消臭等の効用を有する商品(以下「本件商品」という。)を製造,販売する会社である。

本件商品は,溶存二酸化塩素を高濃度に含有することができるとともに,ほぼ一定の薬濃度に維持された二酸化塩素ガスを長時間継続して放出させることができる「純粋二酸化塩素液剤」ないしこれを含有するゲル状組成物及び発泡性組成物である。

(2) 本件契約

ア 被控訴人は,平成9年12月18日,控訴人との間で,被控訴人が,控訴人及びその外注会社が製造する本件商品を第三者に販売するために独占的に買い受ける旨の商品独占供給契約(以下「本件契約」という。)を締結し,同日,契約金2500万円の内金として1000万円を控訴人に支払った。

イ 本件契約は,次の内容の条項を含むものである。(第3条ないし第5条につき,甲1)

・第2条 被控訴人は,控訴人に契約金として2500万円の内1000万円を本契約の締結時に現金又は小切手により支払うものとし,残金は,お互いの協議により支払うものとする。

控訴人は本契約金の返却の義務を負わないものとする。

・第3条 控訴人は,被控訴人の求める商品及び数量を,不良のないことを確認の上,個別に取り決めの納入期日までに滞りなく供給するものとする。

・第4条 被控訴人は,毎月末日までに納品された分について,翌々月5日までに現金又は銀行振込みの方法によって代金を支払う。

前項の規定にかかわらず,被控訴人は,控訴人の承認を得て,支払に代えて,締日から3か月以内の支払期日を記載した約束手形を交付することができる。

被控訴人は,代金支払の期限を徒過したときは,期日の翌日から支払済に至るまで年14.6%の割合による遅延損害金を支払わなければならない。

・第5条 被控訴人は,控訴人から,平成10年4月以降,控訴人の被控訴人への売渡し価格で1年間を平均して毎月1000万円以上の商品を購入するものとする。ただし,この期限は協議の上,最大3か月間延長することができる。

・第10条 被控訴人は,控訴人が供給する液剤及び商品を利用して新たに商品を製造したり加工してはならない。

・第11条 被控訴人は,控訴人の商品上及び製造上の機密並びに特許出願に関する情報を第三者に漏洩してはならない。

・第12条 被控訴人に,以下1)から3)までの各号に該当する事実のある場合には,控訴人は何らの催告を要せずに本契約を解除し,そのときまでに引き渡した商品の代金を直ちに全額請求することができる。

1) 3回分以上の代金の滞納

2) 他の債務について,保全処分,強制執行,競売又は破産の申立てがなされたとき。

3) 商品の販売業務を遂行する能力を失ったと認められるとき。

・第17条 控訴人又は被控訴人が本件契約に違反した場合は,違反した当事者が相手方に対して損害賠償の他に違約金として,第2条に記載の契約金の10倍相当額を支払うものとする。

(3) 被控訴人は,株式会社ジェネシス(以下「ジェネシス」という。)から大量に本件商品を受注できたとして,平成10年1月20日に,控訴人に対し,多数のゲル剤の発注を行い,これを受けた控訴人は,早速,容器の検討に入った。

一番最初に控訴人が提案したのは中栓方式であり,控訴人が被控訴人を経由して控訴人の旧代理店に販売するゲル剤であるピュアキューブ303は中栓方式を採用していた。その後,控訴人は,中栓方式から穴開き中栓の方式に変更し,その型代は被控訴人が支払った。

その後も,ジェネシスからは,成分が十分に放出されないとか,シールがはがれているといった苦情が寄せられ,控訴人は,その都度,関係者と協議して改善策を講じてきた。

(4) 被控訴人による解除の意思表示

被控訴人は,控訴人に対し,平成10年6月29日付け内容証明郵便において,本件商品には,①液剤について,青色容器の脱色,キュービテナーの経時変化による液漏れ,②ゲル剤について,液漏れによるラベルの漂白,蓋が開いたままの納品,混合状態不良で効果がないなどの欠陥があり,控訴人には,本件契約第3条に反する債務不履行があるとして,同債務不履行に基づき本件契約を解除する旨の意思表示をするとともに,本件契約第17条に基づく違約金として2億5000万円の支払を請求し,同通知は,同月30日,控訴人に到達した。(甲43の1・2)

(5) 控訴人による解除の意思表示

控訴人は,被控訴人に対し,平成10年7月13日付け内容証明郵便において,被控訴人が前記(2)アの解除通知で主張する債務不履行事由は,いずれも本件契約の解除を基礎づける理由たり得ないと反論するとともに,被控訴人の前記対応は,本件契約第12条3号に定める「商品の販売業務を遂行する能力を失ったと認められるとき」に該当するとして,本件契約を解除する旨の意思表示をし,同通知は,同月14日,被控訴人に到達した。(第2事件甲3の1・2)

(6) 被控訴人は,現在,次の各商品を製造,販売している(以下,これらの商品を併せて「被控訴人商品」という。)。

ア 被控訴人を製造発売元として表示している分

(ア) 商品名「プロプレ(S)」,「プロプレ(M)」(ゲル剤)

(イ) 商品名「プロプレミスト」(液剤)

(ウ) 商品名「プロプレフォーム」(泡剤)

(エ) 商品名「ピュアマジック」(四方シール不織布包装ゲル剤)

イ ジェネシス(あるいはジェネシス サニテック事業部)を総発売元として表示している分

(ア) 商品名「ネオテック」(ゲル剤)

(イ) 商品名[PAC5000」,「PAC5000S」(液剤)

被控訴人商品のうち,プロプレは,溶存二酸化塩素ガス,亜塩素酸塩を構成成分に有する二酸化塩素液剤及び高吸水性樹脂を含有するゲル状組成物であり,プロプレミストは,溶存二酸化塩素ガス,亜塩素酸塩及びPH調整剤を構成成分に有する二酸化塩素液剤である。被控訴人商品のうちゲル剤は,いずれも中栓方式を採用している。

2  争点

〔第1事件〕

(1)  控訴人には本件契約第3条に違反する債務不履行があるか。

〔第2事件〕

(2) 被控訴人には本件契約第4条に違反する債務不履行(代金不払い)があるか。

(3) 被控訴人には本件契約第10条,第11条に違反する債務不履行があるか。

ア  被控訴人は,本件契約の有効期間中から類似商品の製造・販売に着手していたか。

イ  被控訴人は,控訴人の特許出願に係る発明に関する情報を第三者に漏洩する行為を行ったか。(当審で追加されたもの)

第3争点に関する当事者の主張

〔第1事件〕

1  争点(1)(控訴人には本件契約第3条に違反する債務不履行があるか。)について

【被控訴人の主張】

(1)  控訴人は,次のとおり,被控訴人又は被控訴人の販売代理店であるジェネシスに欠陥商品を納品し続け,その改善が一向に見られなかった。これは,本件契約第3条に定める「不良のないことを確認の上」供給すべき義務に反するものであり,控訴人には債務の本旨に反する債務不履行がある。

ア 殺菌料製剤・高度さらし粉溶液UFC4000

王亜は,平成9年11月20日,UFC4000(1file_2.jpgボトル)12本をジェネシスへ直接納品した(この時,被控訴人と控訴人との間では,UFC4000も取扱商品に含める旨が口頭で約定されていた。)。

ところが,平成9年12月20日ころ,ジェネシスから被控訴人に対し,UFC4000を小分けして数社に殺菌試験用に頒布したところ,菌が減るどころか増えているとのクレームが入った。

イ ゲル剤

(ア) ジェネシスに平成10年1月24日に納品されたPAC5000G40gゲル50個は,ゲル状固化が不完全で「シャブシャブ状態」(液状)であった。

(イ) 平成10年2月28日にジェネシスに納品されたネオテックス40gゲル100個は,シュリンク内でガスが発生し,ラベルの漂白が生じていた。この原因は,容器の外側をシュリンク包装したところ,容器内から漏れた二酸化塩素ガスがシュリンクと容器の外側の間に滞留して結露し,ラベルを漂白したことであり,控訴人の設計・製造ミスに基づくものであった。

(ウ) 平成10年3月21日にジェネシスに納品されたネオテックス40gゲル200個は,中蓋のシールがガスで持ち上げられ,外蓋が開いた状態であった。この原因は,シュリンク包装を取り止め,容器内の二酸化塩素ガスが漏れ出ないよう本体容器内に中蓋シールを装着したところ,シールの粘着力が強かったことから,二酸化塩素ガスが容器内部に充満,膨張する形で内圧が高まり,それが容器の内蓋のシール及び外蓋を押し上げたためであった。

(エ) 平成10年3月24日に納品された40gゲル100個は,容器のラベルがはがれた状態であり,普通ならばこげ茶色のゲル剤も白色化し,殺菌効果もなかった。この原因は,容器本体の受口部分の上部を2㎜削ったために外蓋との間に隙間ができ,外蓋が中蓋のシールを押さえ付けられなくなり,しかも中蓋シールの粘着力が弱かったため,二酸化塩素ガスが漏出したことによる。

(オ) 平成10年4月2日にはネオテックス40gゲル300個が,同月11日にはネオテックス40gゲル200個が,同年5月2日にはネオテックス40gゲル500個がそれぞれジェネシスへ納品された。

これらは,容器開封後のゲル剤からガスが発生しないものがほとんどであった。この原因は,中蓋の超強粘シールが持ち上げられないように,控訴人が中蓋のシールの端に小さな穴を開けたため,そこからゲル剤自体に含まれていた二酸化塩素ガスのほとんどすべてが漏れ出てしまい,使用時には二酸化塩素ガスがほとんど放出されなかったことによる。

ウ 液剤

(ア) 平成10年1月17日,王亜からジェネシスに納品されたPAC5000S(10file_3.jpg・キュービテナー・噴霧様液剤)1ケースには,殺菌効果がなかった。

(イ) 平成10年2月28日に納品された,①PAC5000S1file_4.jpg(本体)10本,②PAC5000S1file_5.jpg(スプレー付き)10本,③PAC5000S2file_6.jpg(本体)5本,④PAC5000S2file_7.jpg(スプレー付き)4本は,容器の口(キャップ部分)から液漏れを起こしたが,その原因は,液剤の容器の成型時に容器の口(キャップ部分)に隙間が開いていたことにあった。

(ウ) 平成10年3月から4月にかけて納品された,1file_8.jpg入り及び2file_9.jpg入りの容器であるキュービテナーが1か月近く経過して脱色(白色化)した。

(エ) 平成10年3月17日に納品された10file_10.jpg入りの容器であるキュービテナーは,使用期間が9か月とされていたにもかかわらず,3か月も経たないうちに経時変化を起こして容器が破損し,容器中の液剤が漏れ出してしまった。また,同年3月から4月にかけて納品された1file_11.jpg及び2file_12.jpg分のキュービテナーも,1か月近く経過した時点で経時変化を起こし,容器が膨張してしまった。

(2)  控訴人の主張に対する反論

ア ゲル剤について

控訴人は,ゲル剤について中栓方式の採用を拒否したのはジェネシスであるから,その指示・要望に従って製造をした控訴人には責任がない旨主張する。

しかしながら,容器内から二酸化塩素ガスが漏れるような不具合を生じさせた原因は控訴人の設計ミスであり,仮にジェネシスが中栓方式を嫌ったとしても,控訴人にはそれでも不具合が発生しないように設計,製造する責任がある。このことは,本件契約第3条に,控訴人において「不良のないことを確認の上」供給する旨明記されていることからも明らかである。

イ 液剤の希釈率について

控訴人は,キュービテナーに脱色・膨張が起きた原因は,ジェネシスが当初の希釈率よりも高い希釈率を要求した結果である旨主張する。

しかしながら,本件契約において義務づけられた「不良のないことを確認の上」供給すべき責任は,控訴人及び王亜にあり,ジェネシスの要求があることは責を免れる理由にならない。製造・販売を行う者は,注文者からの要求が過酷であったとしても,その安全性に万全を尽くし,安全性が保てない場合には,専門家の立場から危険性を回避すべき責任がある。控訴人は,青色容器(1file_13.jpg及び2file_14.jpg)に当初予定していた液剤の2倍の濃度の液剤を入れた場合の試験をせず,その場合の危険性を認めている。

(3)  当審における補充主張

被控訴人は,ジェネシスを通じて控訴人に対して大量に本件商品を発注したが,そのうちのゲル剤について,欠陥・不具合が次々と発生し,その改善策はことごとく失敗し続けた。その最終段階で,控訴人は,中蓋のシールの端に小さな穴を開けたが,そのことについて被控訴人及びジェネシスに一切告げていなかった。また,液剤の漏出についても,当初の液漏れについては,成型屋のミスであることを控訴人も認めている。控訴人の不良のないことを確認の上供給する義務が果たされていなかったことは明らかである。

【控訴人の主張】

控訴人には,以下のとおり,契約の解除原因たるべき債務不履行はない。被控訴人の指摘するクレームは,ジェネシスの特別の要望に基づき,ゲル剤の標準方式や液剤の希釈標準倍数から離れたジェネシス向けのOEM受注分でのみ生じており,標準方式を使ったゲル剤や普通の希釈標準倍数を使った液剤にはクレームがない。しかも,上記クレームは,被控訴人が針小棒大に主張しているにすぎない上,平成10年3月末までに納品した分についてのみ生じたもので,同年4月以降の納品分にクレームはなかった。

(1)  ゲル剤について

被控訴人主張のクレームは,ジェネシスを発売元とするOEM受注分について,ジェネシスの特別の要望に基づき,標準方式である中栓方式を使用せず,シールで止める変則仕様により製造した商品について生じたものである。

被控訴人は,ジェネシスのOEM分について,いったん中栓方式に同意し,容器の金型も完成していたが,その段階になって,ゲルが見えないように,かつ触れないようにしてほしいとのジェネシスの要望を伝えてきたので,控訴人は,次のとおり,同容器を基本としながら改良を重ねた。

ア 被控訴人が平成10年1月24日納品分と主張するPAC5000G40gの納品は,同年2月6日であるが,出荷個数50個のうち十数個についてゲル状固化不足が生じていたことは控訴人も争わない。

しかし,ゲル状固化不足が生じたのは,次の理由によるものである。

被控訴人は,サンプル用としてジェネシスが大至急必要としているとして,自ら間に合わせの既製容器を購入し,蓋に電気ドリルで穴を開けたものを控訴人に渡し,その日に出荷するように依頼した。しかも,作り始めて間もなく集荷のトラックが来たため,控訴人は,ゲルが固まったことを確認する間もなく出荷せざるを得なかった。その結果,固化する前に揺らされて吸水していない高吸水性ポリマーが容器内壁に付着し,その分,溶液中の高吸水性ポリマーが不足したため,ゲル状固化不足が生じたと思われる。

イ 平成10年2月28日納品のPAC5000Gについては,ゲル剤の容器について標準方式の中栓方式を用いることが決まり,控訴人は中栓方式の容器の発注も済ませていたが,その段階で,ジェネシスから,消費者から中身が見えず,触ることもできないようにしてほしいという要望が出た。控訴人は,いったんこれを断ったが,ジェネシスが重ねて強く要望したため,シュリンク方式の容器の展開図を描いてジェネシスに送った。

シュリンク方式の納入分100個のうち,二酸化塩素ガスを含んだ水蒸気が結露してラベルを漂白したものが何十個かあるが,これはシュリンクをやめれば解決できる問題であった。また,この納品分には,放出口付近が黄色くなったものがあるが,これは,控訴人において,「天面にこのシールを貼ると二酸化塩素ガスは黄色いですから,その色を呈しますが,いいですか。」とあらかじめ確認し,ジェネシスの承諾を得た上で試作に入ったものである。しかし,ジェネシスが容器の色として白色を選んだため目立つことになり,ジェネシス側で変更を要望してきた。

ウ 控訴人は,ジェネシスの要望を受けて,穴開き中栓を入れ,この穴にPETフィルムとアルミの二層構造のガスバリアシールをしてキャップを取り付ける方式を考案し,展開図をジェネシスに送って了承を得た。控訴人は,シールがはがれないことを確認した上で,まず100個を送ったところ,ジェネシスが,穴開き中栓とキャップの隙間がない,中栓の穴の個数が少ないため成分が充分に放出されないと指摘してきた。そのため,控訴人は,容器本体の上部を2㎜削り,蓋をした状態で隙間があるものを製造して100個送ったところ,ジェネシスは今度はシールがはがれていると言い出した。

控訴人は,同要請にも応え,シールを超強粘タイプとすることとし,被控訴人及びジェネシスもそれを了解した。控訴人は,平成10年3月以降,この方式で500個単位で1回,300個単位で1回出荷したが,これには一切返品がない。

なお,中蓋がガスで持ち上げられて開いていたという指摘は,本件紛争後平成11年9月まではなかったものであり,そもそも,ガスが穴開き中栓を持ち上げることはあり得ない。

(2)  液剤について

ア 平成10年1月17日納品のPAC5000Sについて

容器が変形したり漂白したりするのは,酸化力があることの裏付けであり,本件商品の殺菌力は酸化力によるのであるから,殺菌効果が低いことと容器が白く変色することとは矛盾する。

しかも,青色容器は,平成10年2月中旬にできたもので,同年1月17日当時は存在しないのであるから,青色容器が白く変色したということも事実に反する。

イ 平成10年2月28日納品のPAC5000Sについて

液漏れがあったのは2file_15.jpg5本にすぎない。

青色容器が決まった時点では,10倍希釈用原液を入れることが予定されており(当初,5倍希釈用原液としていたのを,被控訴人の要望で10倍希釈用原液とした。),その後,ジェネシスの要望で,20倍希釈用の原液を入れることになったものである。そのため,控訴人の想定以上の脱色を生じたのであるが,そもそも脱色のことは,被控訴人も液剤の特性上当然と理解しており,被控訴人の手配により「この溶剤はお買いあげ後三ヶ月以内にお使い下さい。長期保存により容器が変質する恐れが有ります。」と記載された注意書のシールを作って控訴人に渡し,今後の出荷分はこのシールを貼って出すようにとの指示を出していたほどであった。

ただ,上記青色容器の脱色は,控訴人が渡している製品保管マニュアルどおりに保管すれば,非常に軽微なものにとどまるものであった。また,キュービテナー内のポリエチレンの袋が経時変化を起こすのは,当液剤の特性上当然であって,そのために,控訴人は,製品保管マニュアルを渡し,容器に「要冷暗所保管」と明示し,かつ,容器保証期限を明記していた。容器ラベルに大きく明示されている冷暗所保管(15℃以下の暗所保管)がされている限り,3か月以内に容器に穴が開くことはない。保管方法を守らなかった本件商品の不具合につき,控訴人が責任を問われる理由はない。

(3)  当審における補充主張

ア OEM等で標準方式が採用されなかった商品については,注文者の意向・注文を聞きながら,少量を順次改善を加えながら納品していって,最終的に完成を見るといった方法が一般に行われている。このように順次改善を加えている途中で,契約解除事由たり得る債務不履行を観念し得るものではない。順次の改善が待たれないのであれば,クレームのない標準方式に戻せば済むことである。もっとも,平成10年4月以降のジェネシス向けOEM分のゲル剤については,改善が終了して完成品となっており,ただ1個の返品もなく,不具合は全くなかった。

イ 乙84の業務提携契約書6条によると,既に平成9年12月1日時点で,被控訴人は,本件商品の保管に厳重な管理を要することを知悉していた。仮に本件商品の容器に破損が生じたとしても,保管方法を遵守していなかった以上,控訴人が責任を問われる理由はない。

ウ ゲル剤の標準方式,つまり中栓方式を採用する商品については一切クレームがなかったが,かかる標準方式を採用する分についても二酸化塩素ガスの漏れはあり,その漏れ具合は,超強粘タイプにつきシールに穴を開けて二酸化塩素ガスを逃がした場合より,むしろ大きいのである。

〔第2事件〕

2 争点(2)(被控訴人には本件契約第4条に違反する債務不履行(代金不払い)があるか。)について

【控訴人の主張】

(1)  被控訴人は,控訴人が納品した本件商品について,平成10年4月以降の納品分についても全く支払をしない。このように,被控訴人は,本件商品の代金を滞納しており,本件契約第4条1項に違反する債務不履行があった。

(2)  当審における補充主張

控訴人は,平成10年2月28日分のジェネシス向けOEM分以外の商品は,その都度,被控訴人に納品している。ちなみに,約定は,毎月末締めの翌々月5日払いである。そして,被控訴人は,控訴人に対し,平成10年6月8日には,上記OEM分の1324万5000円を除く,残額の大部分である170万2033円を支払った。

しかるに,控訴人からの解除通知後は,上記OEM分のほか,クレームのない商品分の代金15万1579円(ちなみに,このうちの大部分である11万0900円は,平成10年5月末締め分である。)の計1339万6579円の支払を全くしない。したがって,いずれにしても,被控訴人の代金不払いという契約違反の事実は動かし難い。

【被控訴人の主張】

控訴人は,本件商品の代金等1339万6579円を被控訴人に請求したが,その注文書に記載された商品のほとんどすべては,本件商品の欠陥・不具合の発生によって返品されており,納品された商品も不具合の連続であった。控訴人は,本件商品に欠陥があるにもかかわらず,代金を被控訴人に請求し,その支払がないことをもって「滞納」といっているにすぎない。

3 争点(3)ア(被控訴人は,本件契約の有効期間中から類似商品の製造・販売に着手していたか。)について

【控訴人の主張】

(1)ア被控訴人は,本件契約が有効に解除される前である平成10年6月下旬から,控訴人の従業員で本件商品の製造上の機密に通じているCを引き抜き,本件商品の原料の1つであるパスタクリーンAWX201を平成10年6月29日,株式会社トスコ(以下「トスコ」という。)がパスタライズ株式会社(以下「パスタライズ」という。)に依頼し,同社が有限会社プラウト(以下「プラウト」という。)に送付する方法(控訴人は,従前,これを株式会社ユニバース(以下「ユニバース」という。)がパスタライズに依頼し,同社がプラウトに送付するという方法をとっていた。)で入手することにより,類似商品である被控訴人商品の開発行為に着手し,同年8月には「ネオテック」と命名された商品を作製した。かかる行為は,本件契約第10条に定める「甲が供給する液剤及び商品を利用して新たに商品を製造」した場合に該当し,本件契約第11条に定める「甲の商品上および製造上の機密および特許出願に関する情報を第三者に漏洩」した場合に該当する。

イ  当審における補充主張

乙83の1・2によれば,平成10年7月14日の段階で,本件商品の類似品たる被控訴人の製造に係る「プロプレ」のサンプル品が存在した。このことからも,被控訴人が本件契約の有効期間中から類似商品の製造・販売に着手していたことは明らかである。

(2) 被控訴人商品は,控訴人の有する特許権(特許第3110724号。以下「控訴人特許」という。また,控訴人特許の国内優先権の基礎となる平成9年11月28日出願に係る発明を,以下「控訴人発明」という。)を侵害する(特許権取得前であれば,控訴人の営業秘密を使用している。)商品であり,本件商品の類似商品である。

【被控訴人の主張】

(1)  被控訴人は,本件契約の有効期間中から被控訴人商品の製造・販売に着手したことはない。

(2)  被控訴人商品は,従前の技術の範囲内にとどまるものである。控訴人のいう「純粋二酸化塩素液剤」とは,「溶存二酸化塩素ガス,亜塩素酸塩及びpH調整剤を構成成分に有するもの」でしかなく,その具体的な内容は,溶存二酸化塩素ガスとは,「亜塩素酸塩水溶液」に二酸化塩素ガスを溶解させた水溶液(二酸化塩素ガス水溶液)を混合させて製造したパスタライズ製造の「SG液」であり,亜塩素酸塩とは亜塩素酸リチウムであり,pH調整剤はそれらとともに構成成分となっているだけであって,それ自体に新規性が存するものではない。

控訴人発明は,「純粋二酸化塩素液剤」を用いるところに新規性があるものでしかないが,被控訴人は,「純粋二酸化塩素液剤」を使用していない。また,控訴人発明によれば,「純粋二酸化塩素液剤」には亜塩素酸リチウムが使用されることが前提となっているところ,被控訴人商品は亜塩素酸リチウムを使用していないから,控訴人商品との間に類似性はなく,控訴人特許の侵害が問題となる余地もない。

ちなみに,被控訴人は,「純粋二酸化塩素液剤」を製造しているパスタライズ又はそれを販売しているユニバースから,「純粋二酸化塩素液剤」を購入してはいない。

4 争点(3)イ(被控訴人は,控訴人の特許出願に係る発明に関する情報を第三者に漏洩する行為を行ったか。)について

【控訴人の主張】

(1)  被控訴人は,控訴人の平成11年10月12日特許出願に係る発明に関する情報を事前に入手し,これを使用して,「徐放性がありかつ保存安全性に優れた二酸化塩素含有液剤」とする発明を完成させ,平成10年6月11日特許出願に及んでいた(以下,同日特許出願に係る発明を「被控訴人発明」という。)。これは,被控訴人が控訴人の特許出願に係る発明に関する情報を第三者に漏洩したものにほかならない。

(2)  すなわち,控訴人発明の「純粋二酸化塩素液剤」とは,亜塩素酸塩及びPH剤の2種類に加えて溶存二酸化塩素ガスを不可欠の構成成分とし,かかる3種類の成分を一定の酸性状態で配合するという方法により,二酸化塩素が持続的かつ高濃度に発生する液剤及びかかる液剤を含有したゲル状組成物のことであり,かかる液剤及びかかる液剤を含有したゲル状組成物が控訴人発明の技術的範囲である。

これに対し,被控訴人発明は,塩素酸あるいは塩素酸塩,亜塩素酸塩及びPH剤の3種類に加えて溶存二酸化塩素ガスを不可欠の構成成分とし,かかる4種類の成分を一定の酸性状態で配合するという方法により,二酸化塩素が持続的かつ高濃度に発生する液剤及びかかる液剤を含有したゲル状組成物であり,控訴人発明とは,塩素酸あるいは塩素酸塩を新たな構成成分としている点で一見異なる。しかし,被控訴人は,控訴人が控訴人発明において亜塩素酸塩を加える効果と全く同じ効果を期待して塩素酸あるいは塩素酸塩を加えているのであり,塩素酸あるいは塩素酸塩を新たな構成成分としている点は,控訴人発明の技術的範囲を逃れる単なる方便にすぎない。被控訴人は,亜塩素酸ナトリウム水溶液を希釈したものにクエン酸数gを投入し,1日置いて十分賦活させることによって,実は,希釈亜塩素酸ナトリウム水溶液中に,溶存二酸化塩素ガスを発生させているのである。

被控訴人が特許出願した被控訴人発明は,控訴人の控訴人発明と実質的に同一内容であり,しかも,被控訴人は,特許出願の少なくとも約1か月前から実験を行っていたものである。

(3)  被控訴人発明においては,その効果の徐放性,持続性は,液剤から溶存二酸化塩素が消費されると,液剤に含有される塩素酸又は亜塩素酸から化学平衡的に二酸化塩素が補充されるためと考えられているが,この理論は,「溶存二酸化塩素の減少が亜塩素酸リチウム由来の亜塩素酸によって常に補充されることになる。」とする控訴人発明と全く同一である。けだし,控訴人発明の新規性は,二酸化塩素ガスが順次自動的に補充供給されるシステムにあり,そのため,長期間,溶存二酸化塩素ガス濃度を一定に維持することができるからである。被控訴人が公開されていない控訴人発明の内容を知り得たのは,被控訴人が平成10年6月29日付けで控訴人を退社した控訴人の従業員から控訴人発明についての知識を取得したからにほかならない。

(4)  本件の真相は,被控訴人が控訴人と本件契約を締結したものの,被控訴人が自ら控訴人発明と実質的に類似の製品の製造に着手したことから,控訴人との本件契約が不要となり解除に至ったものである。

【被控訴人の主張】

控訴人発明と被控訴人発明とは,実質的に同一内容のものではない。控訴人発明は「純粋二酸化塩素液剤」を構成要件としているが,被控訴人発明はそれを構成要件としてはおらず,決定的に異なる。したがって,控訴人発明の情報を用いて被控訴人発明の発明をしたものではない。

第4当裁判所の判断

〔第1事件〕

1  争点(1)(控訴人には本件契約第3条に違反する債務不履行があるか。)について

(1)前記第2の1の事実に証拠(各項末尾掲記のほか,甲45の1,甲46~48,甲76,乙27,乙43,乙56の1~3,証人D,同E,被控訴人代表者B,控訴人代表者A)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

ア 控訴人代表者Aは,平成7年ころ,株式会社牛信(以下「牛信」という。)に塩素製剤のサンプルを持ち込み,「純粋二酸化塩素水溶液及び製造機械の特許は米国リオ・リンダ・ケミカル社(以下「リオ・リンダ社」という。)が持っているが,極東アジア圏の独占販売権は控訴人の関連会社であるユニバースが持っている。」と説明して使用・購入を勧めた。牛信は,控訴人の商品に興味を持ち,関連会社で販売することにした。

イ プラウト代表取締役のDは,平成8年秋ころ,牛信の紹介で控訴人を知った。Dは,控訴人の純粋二酸化塩素製剤に興味を持ち,控訴人代表者Aの「リオ・リンダ社の特許については,控訴人が極東アジア圏の販売権を独占している」という説明を信用して,プラウトと控訴人との販売総代理店契約を締結したが,平成9年8月か9月ころ,前記控訴人代表者Aの説明が虚偽であることが判明し,控訴人に不信感を抱くようになった。

ウ 被控訴人は,平成9年9月ころから,控訴人やジェネシスとの間で,本件契約の締結交渉を開始し,同年12月1日,ジェネシスとの間で,被控訴人がジェネシスに本件商品をジェネシス向けのOEM製品(OEMは,OriginalEquipment Manufacturingの略)として販売する旨の契約を締結した。ジェネシスにおいては,専務取締役であったEが責任者となって,本件商品の取扱い,交渉等を担当していた。

同月18日,被控訴人と控訴人の間で本件契約が締結されたことに伴い,それまで控訴人の販売総代理店であったプラウトは,被控訴人の一次販売店となるとともに,控訴人から原材料SG液,LG液の供給を受けてゲル剤及び液剤を製造することとなった。その際,控訴人は,プラウトに対し,ゲル剤については中栓方式(使用前は,容器中のビニール製中栓によりゲルを密閉し,使用時には,手で中栓を取り外し,細長い穴が数個開いた上蓋をかぶせて,その穴から二酸化塩素ガスを放出する方式)を,液剤については10倍希釈用原液を標準方式として製造を委託した。(乙84)

エ ジェネシスは,平成10年1月20日,被控訴人に対し,ジェネシス向けのOEM分として,①PAC5000・1file_16.jpg(スプレー付)1000個,②PAC5000・1file_17.jpg(本体)1000個,③PAC5000・2file_18.jpg(スプレー付)1000個,④PAC5000・2file_19.jpg(本体)1000個,⑤ネオテックス40g1万個を発注し,被控訴人は,これらの商品を控訴人に発注した。

これらの商品に関する控訴人と被控訴人及びジェネシスとの交渉経過,納入,返品の状況は次のとおりであった。

(ア) ゲル剤

a プラウトは,平成10年1月19日,控訴人に対し,中栓方式の容器展開図を送信した。控訴人がジェネシスにこの容器を提案したところ,当時ジェネシスの専務取締役であったEは,ゲルが見えず,かつ触れないような容器にしてほしいと要望した。控訴人は,容器の金型ができているので標準方式の中栓方式にしてほしいと述べて,いったんジェネシスの要望を断ったが,ジェネシスが再度強く要望したので,他の容器を検討することにした。(乙10の1~3,18の1・2,乙31)

b このような経緯を経て,平成10年1月24日,PAC5000G40gゲル50個がジェネシスに納品された。これは,被控訴人が市販の容器の中栓に電気ドリルで3ないし4個穴を開けたものに,控訴人の工場で中身を入れたもので,販売用の商品ではなかったが,50個のうち十数個の商品で,ゲルがほとんど液体化していた。(乙11の1・2)

c ジェネシス及び被控訴人は,控訴人に対し,ゲルが見えず,触れない形状に容器を変えてほしいと再度要望した。そこで,控訴人代表者Aは,容器の中に不織布の中蓋を載せて,上蓋の穴からゲルが見えないようにした上で,上蓋の穴を隠す銀色シールを天面に貼り,透明シュリンク包装をした容器の展開図をEに渡した。また,プラウトが茶色の容器を提案したのに対し,Eが白色容器を希望したので,控訴人代表者Aが,「白色容器の場合,天面にシールを貼ると容器が二酸化塩素ガスで黄色に変色するが,それでも構わないか。」と尋ねたところ,Eは,「それでは商品にならないので困る。そこを何とか改善してほしい。」と言った。これ以後,容器等の改変は,すべて,控訴人の指示を受けてプラウトが行った。(乙12の1~3,乙19)

d このような交渉を経て,平成10年2月28日,ネオテックス40gゲル100個がジェネシスに納品された。これらは,シュリンク包装の中で二酸化塩素ガスを含んだ水蒸気が滞留して結露したため,容器の外側に貼られたラベルが脱色し,シールをめくると容器の一部が黄色に変色していた。また,容器の外側が液体でベトベトになり,容器を持つと液体が手に付くような状態であった。(甲27~30)

e ジェネシスは,シールをめくった時に容器に黄色の変色があるのは好ましくないとして,控訴人に対して改善を要求したので,控訴人は,シュリンク包装をやめ,プラウトに依頼して4㎜穴を28個開けた穴開き中栓の金型を注文し,上蓋と穴開き中栓の間にPETフィルムとアルミの二層構造のガスバリアシールを入れてキャップを取り付ける形態の容器の展開図を作成し,これをジェネシスに送付した。この容器は,中栓の穴が少ないため,成分である二酸化塩素ガスが充分放出されない可能性があったが,控訴人代表者Aは,そのことをジェネシスや被控訴人に指摘しなかった。(乙13の1~3,乙20)

f このような経過を経て,平成10年3月21日,ネオテックス40gゲル200個がジェネシスに納品された。この商品は,中蓋がガスで持ち上げられて開いた状態になるため,同月23日,200個全部が被控訴人に返品された。(甲31,32,42)

g また,平成10年3月24日ジェネシスに納品されたネオテックス40gゲル100個は,中栓と上蓋の間の銀色シールがはがれて浮いた状態になり,銀色シールをはがすと容器が黄色に変色し,こげ茶色のはずのゲル剤が白色化していたため返品された。これは,控訴人が容器本体の上側を2㎜削ったため,本体上蓋でシールを押圧できず,ラベルの接着力が足りないことが原因であった。そこで,シールを超強粘タイプに変えたところ,今度はシールがめくれず,中蓋全体が持ち上がる状態が生じた。控訴人は,シールのうち黒字が印刷された部分に小さな穴を開けて二酸化塩素ガスを逃がすことにしたが,ジェネシスにこのことを告げなかった。(乙14の1~4,乙15の1~5)

h 平成10年4月2日納品のネオテックス40gゲル300個,同月11日納品のネオテックス40gゲル200個,同年5月2日納品のネオテックス40gゲル500個は,いずれも,開封してもガスが発生しなかった(前記gのように,シールに穴を開ければ,商品開封前に二酸化塩素ガスが漏れるものと推測される。)。また,同月20日納品のネオテックス500gゲル30個は,中のゲルが液体状で酢のような臭いがした。しかし,被控訴人及びジェネシスは,これらの商品を控訴人に返品しなかった。

(イ) 液剤

a 被控訴人及び控訴人は,当初,液剤を10倍希釈用溶液にすることを予定しており,被控訴人が平成10年1月19日にジェネシスに送付した見積書の2枚目には,新規商品(希釈率変更・値段変更)として,PAC5000(PP1)10L,PAC5000S(PP1S)10L,PAC5000F(PP1F)10L,PAC5000FS(PP1FS)10Lについて,いずれも「10倍希釈」とする記載があった。(乙40)

b ジェネシスのEは,平成10年2月15日,被控訴人に対し,溶剤の価格が68%アルコールの約2倍と高く,消費者の購入に大きな障壁となることから,「価格を更に下げるかまたは現在のスプレー液剤と噴霧液剤について,20~30倍に希釈して使用できるように濃度を上げられないものでしょうか?これでアルコールと同様の使い方で,同様の効果性があれば急速にシェアを拡大できると思います。」と記載したファックスを送付した。(乙32)

c 控訴人代表者Aは,10倍希釈用溶液用の青色容器に20倍希釈用の溶液を入れた場合には,溶液の濃度が高いため容器に脱色等が発生するのではないかと危惧したが,特に青色容器に20倍希釈用溶液を入れた場合の強度試験をすることなく,ジェネシスの希望どおり10倍希釈溶液用の青色容器に20倍希釈用溶液を入れて販売した。その際,控訴人代表者Aは,Eに対し,「効果を上げるためには濃縮しなければならないので,容器が通常の期間ほど長く持たない可能性があるが,3か月くらいを目途として大丈夫だ。」と説明した。

d 平成10年2月28日,ジェネシスが注文した液剤のうち,①PAC5000S1file_20.jpg(本体)10本,②PAC5000S1file_21.jpg(スプレー付)10本,③PAC5000S2file_22.jpg(本体)5本,④PAC5000S2file_23.jpg(スプレー付)4本が納品された。これらの商品のうち,2file_24.jpg(本体)5本は,容器の成型時に隙間が開いていたため容器の口から液漏れを起こし,控訴人に返品された。その他の液剤も,約半月後には容器の膨張と漂白が発生し,顧客からのクレームや在庫品の変化を理由としてジェネシスから被控訴人に大部分返品された。(甲33~36)

e 平成10年3月17日,PAC5000S10file_25.jpg10ケースがジェネシスに納品された。このうち4ケースは販売されたが,残りの6ケースはジェネシスにおいて通常の倉庫に保管していたところ,同年6月初めにすべて液漏れを起こした。このほか,ジェネシスで保管していた1file_26.jpg及び2file_27.jpgの液剤にも容器が膨れ上がって破裂する寸前のものがあったことから,プラウトのDや被控訴人代表者Bは,青色容器の脱色を何とかしてほしいと控訴人代表者Aに要請したが,容器が変更されることはなかった。(甲37~39)

オ 他方,控訴人は,被控訴人に対し,平成9年12月18日から平成10年3月末日までに,ジェネシス以外の販売店を出荷先として,40gゲル剤6464個,500gゲル剤53個,10file_28.jpg・キュービテナー入り液剤22本,1file_29.jpg青色容器入り液剤44本,2file_30.jpg青色容器入り液剤60本,その他の商品831本を販売した。これらのゲル剤及び液剤は,いずれも標準方式で製造されており,代理店や消費者からのクレームや返品もなかった。(乙28の1~3)

カ 被控訴人は,平成10年3月以降,控訴人から,同年2月1日からの商品・容器・ラベル等の代金を請求されたが,この請求には,40gゲル1万個,PAC5000S(1file_31.jpgスプレー付き)1000個など商品の欠陥・不都合のため返品された分の代金も含まれていた。被控訴人は,当初,ジェネシスからの支払が滞っているので支払を待ってほしいと言い,次に,同年3月末にジェネシスを退社したEが新会社を設立してジェネシスのOEM商品の在庫を引き取るので支払を待ってほしいと述べていた。しかし,Eが設立した株式会社サニテックス・ジャパンが開催した販売代理店募集のための事業説明会は,応募者が少ないため3回の予定が1回で終了し,ジェネシスのOEM分をEの新会社が引き取る計画は頓挫した。(乙34~38)

キ 平成10年6月初めころ,ジェネシスで保管していたPAC5000S10file_32.jpg6ケースが液漏れを起こし,1file_33.jpg及び2file_34.jpgの液剤の容器も変形した(前記エe)。そこで,被控訴人が控訴人に対し,青色容器の耐久性に関する証明書を提出すれば代金を支払うと述べたところ,控訴人は,「現行使用容器はPAC5000Sを充填した状態で常温保管にて6ヶ月以上の耐久性を有する」と記載した同月18日付け容器耐久性証明書を提出したが,同証明書末尾の試験報告書には,容器に6か月の耐久性があることを示す記載はなかった。被控訴人は,これ以上控訴人との契約を継続することはできないと考え,控訴人及び王亜に対し,同月29日付けで解除通知を出した。(甲2,3)

ク ジェネシスは,平成13年4月27日株主総会の決議により解散し,平成14年3月31日,清算が結了した。(乙75)

(2) 前記(1)の事実によれば,控訴人が販売用として納品したジェネシス向けのOEM分商品のうち,ゲル剤については,①平成10年2月28日納品の100個にラベルの脱色,容器の変色などがあった,②同年3月21日納品の200個の中蓋がガスで持ち上げられていた,③同月24日納品の100個のシールがはがれ,ゲルが白色化していた,④同年4月2日納品の300個,同月11日納品の200個,同年5月2日納品の500個はガスが発生しなかった,⑤同月20日納品の30個は液状化し,酢のような臭いがしたという欠陥があり,これらの欠陥のため,ジェネシスは商品を消費者に販売することができなかったこと,被控訴人及びジェネシスは,ゲル剤に問題が発生するたびに控訴人に改善を要求したが,これらの欠陥は改善されないままであったことが認められる。

また,前記(1)の事実によれば,ジェネシス向けのOEM商品のうち,液剤については,①平成10年2月28日納品された液剤中,2?(本体)5本は,容器成型時に隙間が開いていたことが原因で容器の口から液漏れを起こし,その他の製品も約半月後には容器の膨張及び漂白が発生したこと,②同年3月17日に納品された液剤も,被控訴人が保証した3か月よりも前に青色容器の変色又は膨張変形が起きたことが認められる。

なお,ジェネシスの元代表取締役であるF作成の陳述書(乙74)は,本件商品についてジェネシスにクレームが寄せられた事実はなく,また,殺菌効果がないことが判明した事実もない旨の記載が存する。しかし,本件商品の欠陥を記載した甲47,48はF自身が記名押印していること(このことはFも乙74で認めている。)や,ジェネシスの元専務取締役であるDが本件商品に甲47,48記載の欠陥があったことを肯定する証言をしていることなどに照らし,乙74を採用することはできない。

そうすると,控訴人は,平成10年2月から5月にかけて,内容物や二酸化塩素ガスが漏れるなどの欠陥が存するため商品価値を有しないゲル剤及び液剤をジェネシスに納品し,被控訴人及びジェネシスの再三の要求にもかかわらず,商品の欠陥を是正できなかったものと認められ,これは,本件契約第3条に定める「甲(控訴人)は,乙(被控訴人)の定める商品及び数量を,不良のないことを確認の上,個別に取り決めの納入期日までに滞りなく供給するものとする。」という条項に違反する債務不履行であるといえる。

(3) この点につき,控訴人は,被控訴人主張の欠陥は,ジェネシスの特別の要望に基づき,標準方式以外の方式を用いた場合に生じたものであり,同時期に控訴人又はプラウトで作成した標準方式のゲル剤,液剤にクレーム,返品はなかったから,控訴人には,契約の解除原因となるべき債務不履行はないと主張しており,前記(1)で認定した事実によれば,本件商品のうち,標準方式を採用した商品については消費者からのクレームも返品もなかったことが認められる。

しかし,本件契約第3条は,控訴人が「不良のないことを確認の上」商品を供給する義務を負うと定めており,本件契約に,買主である被控訴人が商品の形状・濃度について特別な要望をした場合に控訴人の前記義務が免除される旨の条項は存在しない。しかも,本件において,二酸化塩素ガス消臭・殺菌剤の製法及び効能に関する専門的知識を有していたのは控訴人のみであり,本件契約の相手方である被控訴人及びそのOEM先のジェネシスは二酸化塩素製剤に関する知識を有しない(証人E,被控訴人代表者B,弁論の全趣旨)から,控訴人には,注文者から標準様式と異なる要望があった場合にも,可能な限り,商品の本来の効能である殺菌効果及び安全性が確保された商品を供給するべく努力する義務があり,仮に,注文者の要望に従った場合には,商品として要求される品質を保持できる確証がない場合には,標準方式と異なる方式を採用することに伴う危険性を指摘して,再考を促すべき義務があるというべきである。

しかるに,前記(1)で認定した事実によれば,控訴人代表者Aは,ゲル剤について,上蓋と穴開き中栓の間に二層構造のガスバリアシールを入れてキャップを取り付ける容器を提案した時,中栓の穴が少ないため二酸化塩素ガスが充分放出されない可能性を知りながら,これをジェネシス又は被控訴人に指摘せず(エ(ア)e),シールを超強粘タイプに変えたため中蓋全体が持ち上がった時,ジェネシスに告げずにシールに穴を開けて二酸化塩素ガスを逃がしたことから(エ(ア)g),ゲル剤を開封してもガスが発生せず効果が出ないという不具合を発生させた。また,控訴人代表者Aは,液剤についても,20倍希釈溶液を10倍希釈用の青色容器に入れた場合には容器に脱色,変形等が生じるのではないかとの危惧感を感じていながら,青色容器の強度試験をすることなく同容器に20倍希釈溶液を入れて納入した結果,青色容器が3か月以内に変形,漂白,破裂するという不具合を生じさせた(エ(イ)d,e)。

しかも,証拠(甲11,控訴人代表者A)によれば,控訴人は,平成10年2月12日,被控訴人に対し,「特許出願中ピュアCLO2ゲルの効果について」と題する文書を送り,その中で,実際にはピュアCLO2ゲルの試験をしていないにもかかわらず,某国立大学の試験結果で100%の消臭率を上げたかのような虚偽の記載を付け加えるなど,本件商品の品質について被控訴人を欺罔する行為をしていることが認められる。

以上によれば,控訴人は,注文者から標準方式と異なる要望があった場合に,売主として当然とるべき義務を怠ったものであり,ジェネシス及び被控訴人から,標準方式と異なる方式又は標準希釈倍率と異なる希釈率を要求されたことをもって,これを控訴人の責に帰すべからざる事由とすることはできない。

(4) なお,控訴人は,被控訴人は容器の脱色を液剤の特性上当然と理解しており,自らの手配により「この溶剤はお買いあげ後三ヶ月以内にお使い下さい。長期保存により容器が変質する恐れが有ります。」と印刷された三角シールを作って控訴人に手渡し,今後の出荷分はこのシールを貼って出すようにとの指示を出したと主張する。

しかし,上記三角シール(乙49)の記載内容は,3か月を超える長期保存を行った場合,本件商品の容器が変質するおそれがある旨を警告するものであるところ,前記(1)のとおり,本件商品の容器の変質はいずれも3か月以内,ことに,前記(1)エ(イ)eの平成10年3月17日に納品されたPAC5000S10file_35.jpgの6ケース分以外は,いずれも納品直後から1か月以内の短期間のうちに容器の変質が生じたとのクレームが入っており,仮に控訴人主張のように被控訴人が上記三角シールを発注して商品に貼り付けた事実が存するとしても,被控訴人が上記のような1か月程度の短期間での容器の変質を容認していたとまで認めることはできない。

したがって,控訴人の前記主張を採用することはできない。

(5)ア さらに,控訴人は,OEM等で標準方式が採用されなかった商品については,注文者の意向・注文を聞きながら,少量を順次改善を加えながら納品していって,最終的に完成を見るといった方法が一般に行われているところ,このように順次改善を加えている途中で,契約解除事由たり得る債務不履行を観念し得るものではないと主張し,F作成の陳述書(乙88)には同旨の記載がある。

しかしながら,乙88以外に,OEM等による発注分につき控訴人主張のような納品方法が採られていることを裏付ける証拠はない。また,控訴人は,本件商品を開発途上の試供品ないしサンプルとしてではなく,ジェネシスらを通じて消費者に販売するための商品として被控訴人やジェネシスに納品したのであるから,前記のような欠陥を有し商品価値のない商品を納品したことを正当化することはできないと考えられることや,本件契約中には前記控訴人主張のような納品方法を容認する趣旨の条項が見当たらないことなどを考慮すると,控訴人の前記主張を採用することはできない。

イ また,控訴人は,本件商品のうち標準方式を採用したものでも二酸化塩素ガスの漏れがあることや,本件商品の容器に破損が生じたのは被控訴人ないしジェネシス側が保管方法を遵守していなかったためである旨主張するが,かかる控訴人主張事実を裏付ける証拠はなく,いずれも採用することはできない。

(6) 以上によれば,控訴人には,ジェネシスのOEM分の商品の供給について,本件契約第3条に違反する債務不履行があり,被控訴人は控訴人に対し繰り返し催告を行ったものであるから,平成10年6月30日到達の内容証明郵便をもって被控訴人が控訴人に対してした解除の意思表示により,本件契約は解除されたものというべきである。

そして,本件契約第17条は,「甲(控訴人)または乙(被控訴人)が本件契約に違反した場合は,違反した当事者が相手方に対して損害賠償の他に違約金として,第2条に記載の契約金の10倍相当額を支払うものとする。」と定めているところ,本件契約第2条所定の契約金は2500万円であるが,被控訴人が控訴人に支払った契約金は1000万円であるから,被控訴人は,本件契約第17条に基づき,控訴人の本件違反により,既払いの契約金1000万円の10倍である1億円の支払を控訴人に請求できることになりそうである。

しかし,被控訴人が控訴人に請求できる違約金は,次の理由により,2000万円にとどまるものというべきである。すなわち,本件契約第17条は,契約の一方当事者に契約違反があった場合には,損害賠償のほかに,違反の内容・期間・程度を問わず一律に契約金の10倍の違約金を相手方に支払う義務を課すものであり,違約金の額は,契約金全額が支払われた場合には2億5000万円ということになるし,本件のように内金1000万円のみが既払いであるためにその10倍としても1億円という巨額に達し,本件契約第5条で予定された月間取引額1000万円と対比しても,その10倍に及ぶものであるところ,契約金の10倍というような違約金の定めは,特段の事情がなければ,社会的に相当な範囲を超え,著しく高額なものとして公序良俗に反する疑いがあるといわざるを得ない。しかるところ,本件契約の性質・内容や本件契約締結に至る経緯をみても,本件において,このような違約金の定めを正当化するような特段の事情があったことはうかがわれない。さらに,本件においては,前記(1)の認定事実によれば,被控訴人のOEM先であるジェネシスがゲル剤の容器について特別のパッケージ仕様を要求したことや,液剤について当初は10倍希釈を予定していたのに,ジェネシスの要求で20倍希釈の溶液に変更になったことが不良品発生の一因となったものと推認されること,本件契約の締結から解除までの期間は約半年程度であり,その間に被控訴人と控訴人との間で取引された本件商品の金額は必ずしも明らかではないが,1億円と対比すればそれほど大きなものとは考えられないこと(第2事件甲12の1によると,控訴人が本訴提起前に被控訴人に請求した本件商品の代金等の額は1300万円余である。),不良品の発生はジェネシス向けのOEM分のみであり,その他の製品は特段不良品の発生はみられず(乙28の1~3),全体として被控訴人が被った損害はそれほど大きなものではなかったと推認されること等の事情が存在する。以上のような事実を総合すると,被控訴人が控訴人に対し請求できる違約金の額は,当事者の衡平を図るために2000万円に減額するのが相当であり,被控訴人が控訴人に対し同金額を超えて違約金を請求することは信義則上許されないものと解するのが相当である(なお,本件においては,被控訴人と控訴人の双方が,相手方に契約違反があるとして,本件契約第17条に基づき1億円の違約金の請求を互いにしており,本件契約の違約金の条項が公序良俗に反するとか,信義則上減額されるべきであるといった主張を双方ともにしているわけではない。しかし,前記のように信義則により違約金の額を減額すべきであることを基礎づける主要事実は,当事者の主張に現われており,弁論に顕出されているものというべきであるから,前記のような認定判断をすることは弁論主義に反するものではない。)。

〔第2事件〕

2 争点(2)(被控訴人には本件契約第4条に違反する債務不履行(代金不払い)があるか。)について

(1) 証拠(第2事件甲12の1・2,乙91の1・2,乙92,被控訴人代表者B)によれば,控訴人は,被控訴人に対し,平成10年2月1日から同年5月末日までに販売した本件商品・容器・ラベルの各代金及び出張旅費等について1339万6579円の請求をしたが,本件契約4条で定められた支払期日を経過しても被控訴人から代金の支払はなかったことが認められる。

(2) しかし,前記請求金額のうち1324万5000円は,ジェネシスOEM分,すなわちジェネシスが平成10年2月28日に発注した40gゲル1万個,PAC5000S1file_36.jpg(スプレー付き)1000個などに対するものであった(乙92)ところ,前記〔第1事件〕1(1)エ,カで認定したとおり,控訴人が同月1日から同年5月末日までにジェネシスのOEM分として販売した本件商品は,ゲル剤,液剤ともに二酸化塩素消臭・殺菌製剤として要求される品質を具備しない欠陥商品であるから,これらの商品を控訴人が被控訴人又はジェネシスに納入したことをもって,債務の本旨に従った履行の提供があったとはいえない。

したがって,被控訴人が支払を拒絶したとしても履行遅滞に陥ることはなく,債務を履行しないことについての正当な理由があり,本件契約第4条1項に違反する債務不履行があったとはいえない。

(3)  なお,控訴人は,前記請求金額1339万6579円のうちには,本件で欠陥が問題とされているジェネシスOEM分である1324万5000円のほか,クレームのない商品分の代金15万1579円も含まれていると主張し,控訴人代表者A作成の陳述書(乙92)にもこれに沿った記載がある。

しかし,乙91の1によると,前記15万1579円には本件商品の一つであるネオテックスのラベル代や社員派遣旅費等も含まれているところ,これらがジェネシスOEM分と全く無関係の別の商品に関するものと認めるに足りる証拠はない。また,上記15万1579円については,ジェネシスOEM分である1324万5000円と比較しても金額的にごく僅少であり,これについて別途被控訴人に対して支払を求めることは格別,本件契約第17条に基づく多額の違約金(前記1のとおり金額としては2000万円が相当と認められる。)の請求を基礎づける事実とすることは,信義則上許されないというべきである。

したがって,いずれにしても前記控訴人の主張を採用することはできない。

3 争点(3)イ(被控訴人は,控訴人発明に関する情報を第三者に漏洩する行為を行ったか。)について(被控訴人は,この争点に関する控訴人の主張が時機に遅れたものであるとするが,本件訴訟の経過に照らし,必ずしもそのように解することはできない。)

(1)  証拠(各項末尾掲記のほか,乙41,70,73)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

ア(ア)控訴人は,発明の名称を「純粋二酸化塩素液剤,これを含有するゲル状組成物及び発泡性組成物,並びに,これらを入れるための容器」とする控訴人発明について,平成9年11月28日に特許出願し,その後平成10年11月26日にこの内容を含む特許出願(以下「後出願分」という。)をするとともに上記先出願に基づく国内優先権の主張を行った。後出願分は平成11年10月12日公開され,平成12年9月14日特許登録された。(乙29)

(イ) 控訴人発明の内容の詳細は,別紙1の明細書(以下「控訴人明細書」という。)記載のとおりであるが,「溶存二酸化塩素ガス,亜塩素酸塩及びpH調整剤を構成成分に有することを特徴とする純粋二酸化塩素液剤。」(請求項1),「溶存二酸化塩素ガス,亜塩素酸塩及びpH調整剤を構成成分に有する純粋二酸化塩素液剤並びに高吸水性樹脂を含有することを特徴とするゲル状組成物。」(請求項4)を内容とするものである。

(ウ) 控訴人発明については,後出願分に関する審査請求の時点で,平成12年6月27日,特許庁審査官から,「純粋二酸化塩素」の「純粋」の意味するところが不明であることを理由の一つとする拒絶理由通知がなされた。これに対し,控訴人から,同年7月10日,上記「純粋」は純度の高いものを意味するのではなく,二酸化塩素が液剤中において本来の状態である二酸化塩素ガスとして存在すること,すなわち,亜塩素酸ナトリウムに形を変えることなく,液剤中に溶存二酸化塩素ガスを含有することを意味する旨の意見書が提出された。(甲77の2,乙42)

(エ) 控訴人明細書には,次の各記載がある。

a 「【0002】【従来の技術】二酸化塩素ガスは,強力な酸化剤であるので,その酸化作用により,減菌したり,また,悪臭成分を分解したりすることが知られており,そのために,二酸化塩素は,殺菌剤,消臭剤等として使用されている。かかる二酸化塩素は,水の容積の20倍溶けて黄褐色の水溶液となるので,その取り扱いの観点から,水溶液の形態で用いることが望まれるが,二酸化塩素水溶液は,空気と触れると,二酸化塩素ガスを急激に発生させる。そこで,二酸化塩素ガスを過酸化炭酸ナトリウム(Na2C2O6)水溶液に溶解させて亜塩素酸ナトリウム(NaClO2)を主成分とするpH9に保持した水溶液,いわゆる,安定化二酸化塩素水溶液とすることによって,安定性を維持しつつ二酸化塩素ガスを持続的に発生させることが提案されている。」

b 「【0004】【発明が解決しようとする課題】しかしながら,安定化二酸化塩素水溶液は,その安定性を維持するためにpH9のアルカリ性に保持されているので,該水溶液中では,次の式(1)に示されているように解離している。」

「【0005】【化1】NaClO2→Na++ClO2-(1)」

「【0006】そのために,殺菌,消臭等の作用を発現させる遊離の二酸化塩素ガスの発生が極めて少なく,十分な殺菌,消臭等の効果を達成することは,難しいという問題がある。」

c 「【0010】本発明は,かかる問題を解決することを目的としている。即ち,本発明は,溶存二酸化塩素を高濃度に含有することができると共に略一定の薬効濃度に維持された二酸化塩素ガスを長時間継続して放出させることができる純粋二酸化塩素液剤,これを含有するゲル状組成物・・・を低コストで提供することを目的としている。」

d 「【0011】【課題を解決するための手段】本第1発明は,上記目的を達成するために,溶存二酸化塩素ガス,亜塩素酸塩及びpH調整剤を構成成分に有することを特徴とする純粋二酸化塩素液剤である。」

「【0014】第4発明は,溶存二酸化塩素ガス,亜塩素酸塩及びpH調整剤を構成成分に有する純粋二酸化塩素液剤並びに高吸水性樹脂を含有することを特徴とするゲル状組成物である。」

e 「【0053】次に,本発明の作用を説明すると,次のとおりとなる。」

「【0054】二酸化塩素ガスを水に溶解した場合の平衡反応・・・は,例えば,次の式(2)・・・でそれぞれ示される。」

「【0055】【化2】2ClO2+H2Ofile_37.jpgaHClO2+HClO3(2)」

f 「【0057】・・・二酸化塩素ガス(ClO2)は,常温では圧倒的に溶存二酸化塩素ガスとして存在する。」

「【0058】かかる溶存二酸化塩素の水溶液に亜塩素酸塩及びpH調製剤として,それぞれ,亜塩素酸リチウム及びクエン酸を添加すると,該液のpHが酸性に保持されると共にそのpHの急激な変化が抑制される。そのために,亜塩素酸リチウムは,クエン酸が存在によって,次の式(4)に示されるように,水中で電離して亜塩素酸を生成する。」

「【0059】【化4】LiClO2+H+→Li++HClO2(4)」

「【0060】このように,亜塩素酸が生成すると,平衡状態にある式(2)においては,反応が←方向,即ち,左方向に進行することとなるので,二酸化ガス水溶液に亜塩素酸リチウム及びクエン酸がそれぞれ存在すると,上記溶存二酸化塩素ガスの最大濃度の2900ppm以下では,溶存二酸化塩素ガス濃度が増大することとなる。そのために,本発明の「純粋二酸化塩素液剤」は,溶存二酸化塩素を高濃度に含有することができる。」

g 「【0061】さらに,式(2)における4種の化合物の内で,ClO2が最も反応性が高く且つ水溶液中から揮発しやすい(沸点11℃,蒸気圧500トリチェリー(0℃)ために,式(2)における反応が←方向,即ち,左方向に進行することとなるので,溶存二酸化塩素の減少が亜塩素酸リチウム由来の亜塩素酸によって常に補充されることになる。」

h 「【0062】しかも,クエン酸は,本発明の純粋二酸化塩素液剤のpHを酸性にするのみならず,pHの急激な低下を抑制するバッファーとして働き,上記式(4)において,亜塩素酸リチウムから亜塩素酸への急激な変化を抑えて,式(2)における溶存二酸化塩素の急激な放出増加による該液剤の抗菌,消臭等に係わる効力の持続性の減少を抑制する。」

i 「【0063】したがって,本発明の「純粋二酸化塩素液剤」によれば,溶存二酸化塩素を,高濃度に含有することができると共に,該溶存二酸化塩素を放出しても補充させることによって略一定の薬効濃度に維持された二酸化塩素ガスを長時間継続して放出させることができ,しかも,溶存二酸化塩素の急激な放出増加による該液剤の抗菌,消臭等に係わる効力の持続性の減少を抑制することができる。このような本発明の「純粋二酸化塩素液剤」の優れた作用は,本発明の「ゲル状組成物」・・・においても,同様に発揮される。」

j 「【0067】【発明の効果】本発明によれば,溶存二酸化塩素を高濃度に含有することができると共に略一定の薬効濃度に維持された二酸化塩素ガスを長時間継続して放出させることができる純粋二酸化塩素液剤,これを含有するゲル状組成物・・・を低コストで提供することができる。・・・」

イ(ア) 被控訴人は,発明の名称を「徐放性がありかつ保存安定性に優れた二酸化塩素含有液剤」とする発明(被控訴人発明)について,平成10年6月11日特許出願をし,その後平成11年5月28日に特許出願するに当たり,前記被控訴人発明に関する特許出願を基礎出願とする国内優先権の主張を行い,その出願が平成12年2月29日に出願公開された。(乙69)

(イ) 被控訴人発明の内容の詳細は,別紙2の明細書(以下「被控訴人明細書」という。)記載のとおりであるが,「溶存二酸化塩素ガス,塩素酸および/または塩素酸塩,亜塩素酸塩およびpH調整剤を含有する二酸化塩素含有液剤。」(請求項1),「溶存二酸化塩素ガス,塩素酸および亜塩素酸塩を含有する二酸化塩素含有液剤。」(請求項2),「請求項1~6いずれかに記載の二酸化塩素含有液剤およびゲル剤からなる二酸化塩素含有ゲル状組成物。」(請求項7)を内容とするものである。

(ウ) 被控訴人明細書には,次の各記載がある。

a 「【0002】【従来の技術】二酸化塩素(ClO2)は強い酸化力を有する。この強力な酸化作用を利用して,二酸化塩素は殺菌剤,漂白剤あるいは消臭剤の成分として利用が提案されている。」

「【0003】二酸化塩素は常温で気体であるため,使用する現場において二酸化塩素ガスを発生させながら使用することが通常の使用方法とされている。」

「【0004】しかしながら,二酸化塩素は熱安定性が悪く極めて不安定な物質であるため,二酸化塩素の金属塩を溶解させ水溶液の形態(「安定化二酸化塩素」と呼ばれている)で使用し,二酸化塩素自体の不安定性の問題を回避しようとする試みが行われている。二酸化塩素の金属塩としては,亜塩素酸ナトリウムあるいは亜塩素酸リチウム等があり,例えば亜塩素酸ナトリウムを例にとると,それは水溶液中では以下のように電離している。

NaClO2→Na++ClO2-」

「【0005】ここで,このような安定化二酸化塩素を殺菌剤あるいは消臭剤として使用しようとする場合,殺菌および消臭等の成分である亜塩素酸イオンは,その酸化力が二酸化塩素ガスより劣るため,殺菌力および消臭力等も二酸化塩素ガスより劣る。また,係る溶液から発生する二酸化塩素ガスの発生量は極めて少量であり,十分な殺菌および消臭効果を期待することができない。」

b 「【0006】【発明が解決しようとする課題】本発明は上記事情に鑑みなされたもので,二酸化塩素自体の酸化力に由来する優れた抗菌,消臭力のある安定した二酸化塩素含有液剤を提供することにある。

本発明はさらにその抗菌,消臭作用に持続性のある二酸化塩素含有液剤を提供することにある。」

「【0007】本発明の別の目的は,上記のような二酸化塩素含有液剤を含有するゲル状組成物・・・・を提供することにある。」

c 「【0008】【課題を解決するための手段】すなわち本発明は,溶存二酸化塩素ガス,塩素酸あるいは塩素酸塩,亜塩素酸塩および必要によりpH調整剤を含有する二酸化塩素含有液剤に関する。本発明のベース媒体は,水である。」

「【0009】酸化塩素ガスは水に2900ppmまで溶解して存在する(溶存)ことができる。溶存二酸化塩素ガス水溶液は,0.1ppmの濃度で殺菌効果が得られることが知られているので,最終的に得られる液剤の二酸化塩素ガスの溶存濃度が,0.1~2900ppmの間,好ましくは1.0~2900ppmの間にあればよく,所望であれば用途に合わせてその濃度を調整してもよい。」

d 「【0012】・・・このpH調整剤は最終的に得られる本発明の液剤を酸性,好ましくはpHを2~7にするために添加されるものである。塩素酸が含まれる場合には,本発明の液剤が最終的に酸性を示しておれば,上記pH調整剤の添加は必ずしも必要ではない。」

e 「【0017】本発明の二酸化塩素含有液剤は保存安定性に優れており,しかも,その効果に徐放性,持続性があり,長期にわたって二酸化塩素の有する抗菌,消臭効果を得ることができる。効果の徐放性,持続性は,液剤から溶存二酸化塩素が消費されると,液剤に含有されている塩素酸および/または亜塩素酸から化学平衡的に二酸化塩素が補充されるためと考えている。」

「【0018】本発明の溶存二酸化塩素含有液剤は,ゲル剤に吸収させて使用しても良い。このような組成物を本発明では,「二酸化塩素含有ゲル組成物」という。ゲル状にすることにより効果の徐放性,持続性をより向上させることができる。ゲル剤としては高吸水性ポリマー,例えば合成ポリマー,デンプン系ポリマー,セルロース系ポリマー等種々の高吸水性ポリマーが使用できる。高吸水性ポリマーが酸性の場合は,本発明の二酸化塩素含有液剤は酸性に調整していなくてもよい。酸性の高吸水性ポリマーにpH調整剤の役割を兼ねさせることができる。」

f 「【0030】・・・【実施例】実施例1

二酸化塩素含有液剤の製造

溶存二酸化塩素ガス2500ppm含有する水溶液250mfile_38.jpgに,亜塩素酸ナトリウムを5%含有する水溶液749mfile_39.jpgを加えた。このものに塩素酸ナトリウムを5%含有する水溶液1mfile_40.jpgを加え,さらにクエン酸3g加えて室温で30分攪拌した。・・・」

g 「【0036】【発明の効果】本発明は二酸化塩素ガスの有する殺菌,消臭,抗菌等の作用を持続的に発揮でき,しかも安定性に優れた二酸化塩素含有液剤を提供した。本発明の二酸化塩素含有液剤は,そのままあるいは希釈した形態,ゲル剤でゲル化してゲル状組成物の形態・・・で使用することもできる。」

(2)ア  ところで,控訴人発明の請求項4は,(同請求項1の)「純粋二酸化塩素液剤並びに高吸収性樹脂を含有することを特徴とするゲル状組成物。」となっているのに対し,被控訴人発明の請求項7は,「請求項1・・・記載の二酸化塩素含有液剤及びゲル剤からなる二酸化塩素含有ゲル状組成物。」となっているので,高吸収性樹脂とゲル剤との異同が問題となる。しかし,①控訴人発明も被控訴人発明も,いずれも「ゲル状組成物」に関するものであることや,②被控訴人発明においては,前記(1)イ(ウ)eのとおり,「ゲル剤としては高吸水性ポリマー,例えば合成ポリマー,デンプン系ポリマー,セルロース系ポリマー等種々の高吸水性ポリマーが使用できる。」とされているのに対し,乙73によると,控訴人発明の請求項5では,「高吸水性樹脂がデンプン系吸水性樹脂,セルロース系吸水性樹脂又は合成ポリマー系吸水性樹脂であることを特徴とする請求項4記載のゲル状組成物。」となっており,「高吸水性ポリマー」と「高吸水性樹脂」は同じものについて別の表現を用いているものと考えられること,さらに,③甲77の2添付資料8の「安定化二酸化塩素を含有するゲル状組成物」の公開特許公報において,「本発明で用いる特定の吸水性樹脂としては,公知の各種吸水性樹脂の中から,吸水能,カルボキシル基の有無,吸水時のゲル強度等を考慮して決定される」(204頁右下欄3行~6行),「各種吸水樹脂は,安定化二酸化塩素水溶液を十分に吸収しうるものでなければならず,脱イオン水の吸水率が樹脂自重の100~1000倍となるものであれば問題なく使用できる」(205頁左上欄7行~10行)とされていることなどを参酌すると,控訴人発明の「高吸水性樹脂」と被控訴人発明の「ゲル剤」は同義のものと考えられる。そうすると,控訴人発明の請求項4と被控訴人発明の請求項7との関係についても,結局,各請求項1の発明が利用関係に立つか否かによって決せられることとなる。

また,被控訴人明細書中のその余の請求項についても,請求項1に代表される被控訴人発明の原理を展開させたものと評価できるから,これらと控訴人発明との関係は,前同様に請求項1の発明が控訴人発明の請求項1と利用関係に立つか否かによって決せられることとなるというべきである。

イ  そこで,控訴人発明と被控訴人発明の各請求項1(以下,(2)の項では,単に「控訴人発明」,「被控訴人発明」と表現する。)を比較検討すると,①被控訴人発明では,控訴人発明の配合成分「溶存二酸化塩素ガス,亜塩素酸塩及びpH調整剤」のほか,「塩素酸および/または塩素酸塩」を更に配合していること,②控訴人発明では「純粋二酸化塩素液剤」となっているのに対し,被控訴人発明では「二酸化塩素含有液剤」となっている点の2点に相違点が認められる。

そのうち,控訴人発明における「純粋二酸化塩素」の「純粋」の意味については,前記(1)ア(ウ)の控訴人の意見のとおり,純度の高いものを意味するのではなく,二酸化塩素が液剤中において本来の状態である二酸化塩素ガスとして存在すること,すなわち,亜塩素酸ナトリウムに形を変えることなく,液剤中に溶存二酸化塩素ガスを含有することを意味するものと考えられる。けだし,特許庁審査官からの「純粋の意味が不明確である」との拒絶理由通知に対する,控訴人の前記意見について,特許庁審査官が一応の合理性を認めたために,控訴人発明(後出願分)が特許登録されたと考えられるからである。そうすると,「純粋二酸化塩素液剤」は,溶存二酸化塩素ガスを含有するものであって,被控訴人発明の「二酸化塩素含有液剤」と異なるものではない。

したがって,被控訴人発明が控訴人発明と実質的に異なる点は,「塩素酸および/または塩素酸塩」が添加されている点のみとなる。

ウ(ア)  被控訴人発明について,前記(1)イ(ウ)eのとおり,「本発明の二酸化塩素含有液剤は保存安定性に優れており,しかも,その効果に徐放性,持続性があり,長期にわたって二酸化塩素の有する抗菌,消臭効果を得ることができる。効果の徐放性,持続性は,液剤から溶存二酸化塩素が消費されると,液剤に含有されている塩素酸および/または亜塩素酸から化学平衡的に二酸化塩素が補充されるためと考えている。」とされているところ,このことは,塩素酸および/または塩素酸塩の存在下でも,亜塩素酸からも化学平衡的に二酸化塩素が補充されることにより,効果の徐放性,持続性が維持されることが想定されているといえる。

(イ) さらに,前記(1)ア(エ)fの反応式(4),すなわち,

LiClO2+H+→Li++HClO2

については,亜塩素酸リチウム(LiClO2)の代わりに,塩素酸のアルカリ金属塩(XClO3)を加えた場合も,反応式(4)と同様の反応,すなわち,

XClO3+H+→X++HClO3

が生じ,その結果,反応式(2)の平衡状態,すなわち,

2ClO2+H2OaHClO2+HClO3

のもとで,生成したHClO3によって,左方向(二酸化塩素ClO2を発生させる方向)に平衡反応が進むことになる。つまり,亜塩素酸塩と塩素酸塩のいずれを添加することによっても,平衡状態から二酸化塩素を発生させる方向への反応が進む。

しかしながら,塩素酸塩の解離の方が亜塩素酸塩の解離よりも常に先行するものと認めるに足りる証拠はなく,また,仮に塩素酸塩の解離の方が先行するとしても,液剤の酸性が維持されている(液剤中にH+が残存している)限り,引き続いて亜塩素酸塩の解離に起因する反応式(2)の左方向への平衡反応が起こるから,当該亜塩素酸塩に起因する平衡反応の機構は,被控訴人発明においても,なお残されているといえる。

(ウ) また,前記(1)イ(ウ)gの実施例1での亜塩素酸ナトリウムと塩素酸ナトリウムの配合比(749:1)からすると,被控訴人発明においては,主として,多量成分である亜塩素酸塩から化学平衡的に二酸化塩素が補充されることを意図していると考えられる。

(エ) 以上のことからすると,被控訴人発明で塩素酸および/または塩素酸塩を添加した場合でも,亜塩素酸塩と酸との反応(前記反応式(4))を阻害することはないと考えられ,被控訴人発明においても,亜塩素酸塩から化学平衡的に二酸化塩素が発生,補充される反応機構(これが控訴人発明の作用であることは,前記(1)ア(エ)eないしgのとおりである。)は維持されているというべきである。

エ  したがって,被控訴人発明における添加成分である「塩素酸および/または塩素酸塩」は,単なる付加であり,被控訴人発明は控訴人発明を利用したものというべきである。

(3)  (2)で検討したところによると,被控訴人発明は,全体としても控訴人発明を利用したものと認められる。

そして,控訴人発明については,前記(1)ア(ア)のとおり,平成9年11月28日に特許出願されており,被控訴人発明が特許出願された平成10年6月11日時点では,控訴人発明は既に特許庁において明らかになっているが,公開されてはおらず,いまだ秘密性は保持されているといえる。

さらに,被控訴人が,被控訴人発明を特許出願することは,将来的に特許法64条により公開されることを前提とした行為であるから,被控訴人発明が前記(2)のとおり控訴人発明を利用したものである以上,控訴人発明に関する情報を被控訴人発明の出願公開によって最終的に第三者に知らしめるものといえ,本件契約第11条に違反するものと解するのが相当である。

もっとも,被控訴人発明については,前記イ(ア)のとおり,結果的に,後願として平成11年5月28日に特許出願された被控訴人発明を含む発明が出願公開され,被控訴人発明自体は公開されることなく,特許法42条1項により取り下げたものとみなされているが,被控訴人発明が出願された時点では,上記後願発明が出願されるか否かは不確定であり,被控訴人発明自体が公開されることを前提として出願されている以上,上記経緯で被控訴人発明が公開されなかったとしても,被控訴人発明の出願が本件契約第11条に違反するとの前記判断を左右するものではない。

(4) また,証拠(甲76,乙27,被控訴人代表者B,控訴人代表者A)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

ア控訴人の従業員は,平成9年12月当時,開発部長の肩書を有するCと女性事務員の2名のみであった。

イ しかし,Cは,平成10年6月29日,控訴人代表者Aに電話で,控訴人を退職する旨の連絡を行って,控訴人から貸与された社宅を引き払うと,同年7月17日,被控訴人の本店所在地に住民票を移転し,以後,被控訴人のテクニカルマネージャーなる肩書を付した名刺を使用していた。被控訴人は,Cに対し,一時期住居を提供し,同年10月ころに30万円を渡したほか,数回にわたって現金を渡している。(乙55,67,87)

ウCは,トスコの関係者と懇意であったが,トスコは,平成10年6月29日及び同年7月24日,パスタライズからパスタクリーンAWX201を2個購入してこれをプラウトに直送させ,同月29日には,パスタライズからパスタクリーンAWX201を40個購入してこれをプラウトに直送させた。なお,パスタクリーンAWX201は,前記アのSG液と同一商品である。(乙45の1~3,乙47)

エ 被控訴人代表者Bは,平成10年7月下旬ころ,東京の株式会社菱食本社を訪問し,同社事業開発部のGに対して,控訴人との契約を解除した,これまで特許出願中の二酸化塩素製剤はすべてCが考えていたが,Cを引き抜いたので,もう控訴人では製品を作れないなどと述べ,被控訴人と取引をするよう持ちかけた。

オ 被控訴人は,平成10年8月25日,Cを通じて,新商品ピュアマジック(ネオテック)のサンプルを大阪食品衛生協会に持ち込んで抗菌力試験を行い,同年9月3日付け検査成績書を得た。また,被控訴人は,同年8月3日,酸化性抗菌剤プロプレ(性状:褐色透明液体)について,日本食品分析センターに対し,マウスを用いた急性経口毒性試験を依頼し,同年9月22日,試験結果についての報告を得た。(乙9の8,乙60)

(5) 前記(4)の事実によれば,被控訴人が控訴人に対して本件契約の解除通知を送付した平成10年6月29日,控訴人従業員であるCが控訴人に退職する旨連絡し,同日,Cと懇意のトスコが本件商品の原材料パスタクリーンを2個購入してプラウトに直送したことが認められ,これによると,遅くとも同日時点においては,被控訴人,C及びプラウトの間で,控訴人が提供するパスタクリーンを用いて二酸化塩素製剤を製造することについて意思の疎通があったことが推認される。

以上により,①前記(1)イ(ア)のとおり,被控訴人は,本件契約の解除通知をした平成10年6月29日よりも前の日である同月11日に,特許庁に対して被控訴人発明の特許出願をしているが,その時点で,控訴人発明の特許出願は既に行われているものの,公開されていなかったこと,②それにもかかわらず,被控訴人発明は,控訴人発明を利用した関係に立つこと,③前記(4)のとおり,被控訴人は,控訴人の元従業員で,ただ一人,控訴人発明に関する詳細な技術知識を有すると思われるCに対し,Cが控訴人を退職して間もなく,金銭を渡すなどして被控訴人の事業を手伝わせており,しかも,前記のとおり本件契約解除通知の時点で既に,被控訴人とCとの間で,被控訴人発明に基づき,プロプレ等の二酸化塩素製剤を製造することについて意思の疎通があったと考えられること,④被控訴人が,被控訴人発明を独自に着想し開発したと認めるに足りる証拠はなく,かえって,従前,二酸化塩素ガス消臭・殺菌剤の製法及び効能に関する専門的知識を有していたのは控訴人のみであり,本件契約の相手方である被控訴人及びそのOEM先のジェネシスは二酸化塩素製剤に関する知識を有していなかったこと(前記1(3))などを考慮すると,被控訴人は,本件契約の解除通知を行うよりも相当以前から,控訴人従業員であるCと意を通じ,Cから控訴人発明に関する技術知識の提供を受け,これに基づいて被控訴人発明を完成させて特許出願したものと推認することができる。

(6)  そうすると,かかる被控訴人の行為は,本件契約第11条で禁止されている,控訴人の商品上及び製造上の機密並びに特許出願に関する情報を第三者に漏洩する行為に当たるというべきである。

4 したがって,前記3のとおり,被控訴人には,本件契約第11条に違反する行為があったものと認められ,被控訴人は控訴人に対し,本件契約第17条に基づく違約金を支払う義務がある。もっとも,違約金の金額については,前記1(6)と同様の理由により,2000万円をもって相当と認める。

なお,控訴人は,被控訴人が本件契約の有効期間中から本件商品の類似商品である被控訴人商品の製造・販売に着手しており,かかる被控訴人の行為は本件契約第10条に違反する旨を主張する(争点(3)ア)。しかし,仮に控訴人の主張どおりの事実が認められるとしても,当該被控訴人の行為は,少なくとも本件契約違反という側面では,前記本件契約第11条違反の行為を含めて,全体として事実上1個の債務不履行行為と評価し得ること(被控訴人商品が控訴人発明に関する特許権を侵害するか否かは,別途審理判断されるべきである。),前記本件契約第11条違反の行為に基づき被控訴人に違約金の支払を命じることで,控訴人の当審における減縮後の請求を全部認容し得ることなどからすると,争点(3)アについては判断するまでもないと考えられる。

5 その他,原審及び当審における当事者提出の各準備書面記載の主張に照らし,原審及び当審で提出された全証拠を改めて精査しても,前記1ないし4の認定,判断を左右するほどのものはない。

第5結論

以上の次第で,第1事件における被控訴人の控訴人に対する請求及び第2事件における控訴人の被控訴人に対する請求は,いずれも2000万円及びこれに対する各遅延損害金の支払を求める限度で理由があることとなる。

したがって,第2事件に関し,当審において上記限度に減縮した控訴人の請求はすべて理由があることとなり,これを棄却した原判決は不当であって,本件控訴中これに関する部分は理由がある。

他方,第1事件に関し,被控訴人の控訴人に対する請求を2000万円の限度で認容した原判決は相当であり,本件控訴中これに関する部分は理由がない。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹原俊一 裁判官 小野洋一 裁判官 西井和徒)

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