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大阪高等裁判所 平成13年(ネ)891号 判決 2001年9月06日

主文

1  第1審原告の控訴(第892号事件)に基づき原判決主文第1及び第2項を次のとおり変更する。

第1審被告は第1審原告に対し3億4387万6017円及び内金2億5579万4168円に対する平成12年9月1日から完済まで年25パーセントの割合による金員を支払え。

2  第1審被告の控訴(第891号事件)を棄却する。

3  訴訟費用は第1,2審とも第1審被告の負担とする。

4  この判決は第1項に限り仮に執行することができる。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  第891号事件

(1)  第1審被告(控訴人)

ア 原判決主文第2ないし4項を取り消す。

イ 第1審原告の予備的請求を棄却する。

ウ 訴訟費用は第1,2審とも第1審原告の負担とする。

(2)  第1審原告(被控訴人)

ア 本件控訴を棄却する。

イ 控訴費用は第1審被告の負担とする。

2  第892号事件

(1)  第1審原告(控訴人)

ア 原判決主文第1項を取り消す。

イ 主文第1項と同旨(主位的請求)。

ウ 第1審被告は第1審原告に対し1億1100万円及びこれに対する平成6年11月8日から完済まで年6パーセントの割合による金員を支払え(予備的請求)。

エ 訴訟費用は第1,2審とも第1審被告の負担とする。

(2)  第1審被告(被控訴人)

ア 本件控訴を棄却する。

イ 控訴費用は第1審原告の負担とする。

第2当事者の主張

1  請求原因

(1)  当事者等

ア 第1審原告は,いわゆる「旧住専7社」より,各社の資産・営業に関する権利を平成8年8月31日付け契約をもって,同年10月1日付けで譲り受け,それらの資産の管理,換価,回収を目的として設立されたものである(旧商号・株式会社住宅金融債権管理機構)。第1審原告は,平成11年4月1日,株式会社整理回収銀行と合併し(存続会社は株式会社住宅債権管理機構),現商号(株式会社整理回収機構)に商号変更したものである。

イ A信用組合は,組合員に対する資金の貸付等をその業務とする信用組合である。同信用組合は,平成10年7月25日の臨時総代会をもって,事業全部の譲渡等を決議した上,同年11月30日に解散を決議し,現在,清算手続中である。

ウ 第1審被告は,中華民国籍を有する者で,昭和57年から平成10年7月までA信用組合の理事長の職にあった。

エ Bは,第1審被告と内縁関係にある者である。

オ C及びDは,第1審被告とBとの間の長男,次男である。

カ 第1審被告の親族関係は別紙(1)「E家族関係図」のとおりである。

(2)  信用組合取引契約

ア C,D及びB名義の契約の存在

C,D及びB(以下,この3名を「Cら3名」という。)の名義で平成6年9月29日にA信用組合との間で,次の内容の信用組合取引契約が締結された。

(ア) 適用範囲

手形債務,証書貸付,債務保証その他一切の取引に関して生じた債務について適用する。

(イ) 遅延損害金

債務を履行しない場合,年25%の割合の損害金を支払う。

(ウ) 期限の利益の喪失

債務の一部を履行しなかった場合には,A信用組合の請求により期限の利益を失い,債務者は直ちに債務を弁済しなければならない。

イ 実質的な契約当事者

上記アの信用組合取引契約当事者は,第1審被告とA信用組合である。

(3)  本件消費貸借契約

ア Cら3名の名義の契約の存在

Cら3名の名義で平成6年9月30日にA信用組合との間で,下記(ア)ないし(ウ)のとおり合計5億5000万円の金銭消費貸借契約(証書貸付。以下「本件消費貸借契約」という。)が締結された。

(ア) C名義分 1億9000万円

(イ) D名義分 1億8500万円

(ウ) B名義分 1億7500万円

(エ) 利息 (ア)ないし(ウ)共通6%

(オ) 返済期日 同上平成6年11月7日

イ 実質的な契約当事者

本件消費貸借契約の契約当事者は,第1審被告とA信用組合である。

(ア) 目的

この借入金は,当時売り出されていたF株式会社の株式(以下「F株」という。)400株を入札するための資金であった。

(イ) F株の入札者

以下の状況からしてF株の入札者は第1審被告であった。

a 第1審被告にとってF株入札は利殖の好機であった。

b 入札に当り,入札価格及び株数を決めたのは第1審被告であった。

c F株上場後,第1審被告はF株を買い増しした。

d 第1審被告は, 合計500株のF株を借入金の担保としてA信用組合に差し入れた。

e 第1審被告は,大蔵大臣を株主とするF株株券を被告名義に書き換えた。

f 第1審被告は,F社の配当金を受領した。

g 第1審被告はF株400株を売却した。

h 第1審被告は,F株400株の前記売買代金から3億円を返済に充てた残りの約1439万円については,自己の支出に充てる等して使つた。

(ウ) C実質入札・第1審被告名義借用に関する消極事実

Cが第1審被告名義を借用して入札したことを基礎づける事実は皆無である。名義借用に関する消極事実を列挙すると以下のとおりである。

a 売出・入札の趣旨からして(目論見書の記載),借名による入札は認められない。第1審被告が入札者であり,株主である。

b Cを入札者と評価し得ない。

c Cは,自身の名義で入札できた。

d Cによる被告名義借用の事実はない。

e 名義書換に当り,C名義にすることも可能であった。

f 第1審被告名義のF株400株をCが売却することも可能であった。

(エ) 借主が第1審被告であることの根拠事実

a いずれの主張によっても名義借りである。

b 上記(イ)(ウ)のとおり,F株の入札者は第1審被告である。

c 第1審被告自身はA信用組合から借入ができなかった。

d 第1審被告には信用あるいは資力があった。

e 利払いをしたのは第1審被告である。

f 借換を第1審被告が勝手に行った。

g Cの判断が何もない。

h 利息によって利益を上げようとする案(第1審被告の主張)が杜撰である。

i 第1審被告の供述から,Cは名義貸人であるとの意識が窺える。

ウ 金銭の交付及びその後の金銭の流れ

(ア) A信用組合は,平成6年9月30日,ア(ア)ないし(ウ)記載の金額の金銭をそれぞれA信用組合のCら3名の名義の別段預金に入金した。

(イ) これらの各金銭は,同日,これらの別段預金から全額引き出されて,A信用組合の第1審被告名義の普通預金口座に入金された。続いて,同日,同普通預金口座から5億7768万円が引き出され,株式会社G銀行甲支店におけるA信用組合の当座預金口座(預り金口座)に同額が入金された。

(ウ) さらに,同日,同口座から同額が引き出されて,その全額が,第1審被告名義で,F株400株を入札するために,国庫に納付された。

(4)  借換契約1

ア Cら3名の名義の契約の存在

Cら3名の名義で平成6年11月10日にA信用組合との間で,本件消費貸借契約に基づく債務の返済を目的として,次の消費貸借契約(以下「借換契約1」という。)が締結された。

(ア) 貸付金額  C名義分 1億9000万円

D名義分  1億8500万円B名義分 1億8000万円

(イ) 利息  年5%

(ウ) 返済期日  平成6年12月9日

(エ) 貸付方法  手形貸付(利息天引)

イ 実質的な契約当事者

借換契約1の契約当事者は,第1審被告とA信用組合である。その根拠となる事実は次のとおりである。

(ア) Cが意識のない時期に第1審被告が契約している。

(イ) 大阪府の検査で第1審被告が借主とされている。

ウ 金銭の交付及びその後の金銭の流れ

ア(ア)記載の金銭は,平成6年11月10日,利息天引後の金額(C名義分として1億8921万9179円。D名義分として1億8423万9727円。B名義分として1億7926万0274円。合計5億5271万9180円)が,Cら3名の名義の別段預金に入金された。その後,A信用組合の第1審被告名義の普通預金口座に入金され,さらに,同日,同口座から5億5379万7257円が引き出された。そのうち5億5000万円が本件消費貸借契約に基づく元金の弁済に,また,そのうち379万7257円がその利息の弁済に充てられた。

エ 借換契約1に基づく利息の支払(普通預金出金分)

第1審被告は,普通預金口座から借換契約1に関する約定利息金の支払に充てるべく,以下のとおり,利息金相当額をそれぞれ出金の上,A信用組合に対し,平成8年9月2日分までの約定利息金を支払った(総額2919万4509円)。

(ア) 平成7年5月12日 231万1232円,225万0410円,218万9589円

(イ) 平成7年9月21日 129万0958円,125万6986円,122万3013円

(ウ) 平成7年12月19日 249万8630円,243万2876円,236万7123円

(エ) 平成8年3月6日 131万1780円,127万7260円,124万2739円

(オ) 平成8年5月24日 64万5479円,62万8493円,61万1506円

(カ) 平成8年7月29日 62万4657円,60万8219円,59万1780円

(キ) 平成8年12月24日 131万1780円,127万7260円,124万2739円以上の結果,平成8年9月2日までの約定利息金が支払済みとなった。

オ 借換契約1に基づく債務の返済

第1審被告は,A信用組合に差し入れていたF株の担保を解放させて株券を入手の上,かねてより証券取引していたH証券株式会社に持ち込んで売却した。その代金は,成約の度,H証券から,第1審被告の普通預金口座に送金された。第1審被告は,送金がある度,借換契約1に基づくCら3名の名義の債務(元本及び利息)を次のとおり弁済した。そのうち元本に充当されたものは,次のとおり合計3億1200万円である。

(ア) 平成9年1月21日  7700万円

(ア(ア)記載のB名義の債務に充当)

(イ) 同年1月24日  7800万円

(ア(ア)記載のD名義の債務に充当)

(ウ) 同年1月28日  7900万円

(ア(ア)記載のC名義の債務に充当)

(エ) 同年1月29日  3100万円

(ア(ア)記載のB名義の債務に充当)

(オ) 同年2月7日  4700万円

(ア(ア)記載のB名義の債務に充当)

カ 借換契約1に基づく残債務額

この結果,借換契約1に基づくCら3名の名義の債務の残元本は合計2億4300万円となった。

(5)  借換契約2

ア C名義の契約の存在

Cの名義で平成9年3月19日にI連合会(以下「I連合会」という)との間で,借換契約1に基づく債務の返済を目的として,次の消費貸借契約(以下「借換契約2」という。)が締結された。

(ア) 金額  8800万円

(イ) 利息  年2.6%

(ウ) 遅延損害金  年13%

(エ) 返済期日  平成12年3月6日(一括返済)

(オ) 貸付方法  証書貸付。I連合会による代理貸付であり,A信用組合が委託による保証人となる。

(カ) 担保設定  第1審被告所有の不動産

(キ) 連帯保証人 D

イ 実質的な契約当事者

借換契約2の契約当事者は,第1審被告とI連合会である。その根拠となる事実は次のとおりである。

(ア) 「借換」契約である。

(イ) 第1審被告が担保提供している。

(ウ) Cは手続を何もしていない。

(エ) 利払いを第1審被告がしている。

(オ) Cが債務を認めていることについて

a 原判決は,Cが債務を認めていること,すなわち借換契約3に際して担保提供をしていることや,借換契約2及び3の利払いの一部を自ら行っていること,その後の訴訟において債務を認める態度をとりその趣旨の判決が確定していることなどをあげ,Cは債務負担の意思を明確にしている以上,借主と認定されるべきである,としている。

b Cが利払いをしていたという事実認定には疑問がある。

c 担保として提供したという不動産は,淡路島の山林という不要不急の不動産であり,値段も固定資産評価で全部で100~200万円程度にしかならないものである。この担保提供にCの債務負担の意思を見いだすことには疑問がある。

d Cは,名義を貸したものとして,連帯保証人的な地位にあったということができる。あるいは,Cも含めた第1審被告側は,自身が債権者であるA信用組合との関係においてはともかく,対外的には,例えば監督官庁である大阪府との関係においてや,その債権を譲り受けた第1審原告との関係においては,名義人である以上,債務を逃れることが困難であることを当然に理解していた。その負債を例えば民法第93条但書の類推適用によって否定することは相当に困難であるし,そうやって真実の借主である第1審被告に負債を振れば,かえって一家として多くの資産を失う。Cの態度は,このような考えからのものであって,借主だからではない。

ウ 金銭の交付及びその後の金銭の流れ

ア記載の金銭は,平成9年3月19日,C名義の普通預金口座に入金された。その後,そのうち8706万3449円が同口座から引き出された。これから次の各債務の弁済がされた。

(ア) C名義の債務の平成9年4月30日までの利息420万0767円

(イ) D名義の残元本1億0700万円のうちの5100万円及び平成9年4月30日までの利息

(ウ) B名義の残元本2500万円及び平成9年3月19日までの利息

エ 借換契約2に基づく利息の支払

(ア) 平成9年5月6日から平成10年10月6日まで総額359万8348円がCの普通預金口座から引き落とされ約定利息金としてA信用組合に支払われた。

(イ) この引き落としに先立ち,別紙(2)「利息支払金の財源」のとおり,同預金に相当額の支払原資が入金等された。

(ウ) 第1審被告が利払いの支払原資を賄ったものとしては,次のとおり6件合計115万6534円である。

① 平成9年11月6日 75万円(利払い19万4323円)

② 平成10年2月6日 20万円(利払い19万4323円)

③ 平成10年3月6日 16万円(利払い17万5517円)

④ 平成10年5月6日 20万円(利払い19万5287円)

⑤ 平成10年7月6日 20万円(利払い19万5287円)

⑥ 平成10年8月6日 20万円(利払い20万1797円)

(エ) ところで,Cが支払原資を工面した可能性があるのは,次のとおり6件合計129万4683円である。

① 平成9年5月6日 30万7156円(Jの口座から)。

② 平成9年6月9日 20万円(利払い19万4323円)

③ 平成10年1月6日 20万円(利払い19万4323円)

④ 平成10年6月5日 16万円(利払い20万1797円)

⑤ 平成10年9月7日 20万円(利払い20万1797円)

⑥ 平成10年10月6日 20万円(利払い19万5287円)

なお,平成10年1月6日の20万円は,同日,第1審被告の普通預金から同額が出金されていることから,第1審被告がC名義の普通預金に入金したといえる。

(オ) その余の5件合計114万7131円の利払い分は,いずれも株式会社Kの普通預金口座から相当額が出金されたものである。すなわち,第1審被告が支払原資を賄ったといえる。

(カ) 原判決は,Cが利息を支払っていた旨を認定する。確かに,C名義の普通預金口座から引き落とされていたことは明らかであるが,それだけを根拠にCが支払った旨を認定するのは誤りである。

そもそも,支払原資については,そのすべてをCが賄ったのではない。Cが支払原資を賄った可能性があるのは,前記のとおり110万0360円であり,それは利払い総額の3分の1以下である。第1審被告が賄った金額の方が多いのである。

もっとも,第1審被告が支払原資全額を賄ったともいえない。しかし,第1審被告が借換契約1に関する利払い及び返済をした事実に照らして,第1審被告が借換契約2の利払いを継続したことは容易に推察し得る。第1審被告がC名義の普通預金口座を利用して,利払いしていたと認定すべきである。

オ 借換契約1及び2に基づく残債務額

以上により,A信用組合らに対するCら3名の名義の債務の残元本は,次のとおりとなった。

(ア) C名義分

借換契約1につき 1億1100万円

借換契約2につき 8800万円

合計    1億9900万円

(ただし,借換契約2については,将来の求償債務である。)

(イ) D名義分 借換契約1につき 5600万円

(ウ) B名義分    0円

(6)  借換契約3

ア C名義の契約の存在

Cの名義で平成9年3月28日にA信用組合との間で,借換契約1及び借換契約2に基づく債務の返済を目的として,次の消費貸借契約(以下「借換契約3」という。)を締結した。

(ア) 金額  1億6700万円

(イ) 利息  年4%(毎月6日に前1か月分を支払う。)

(ウ) 遅延損害金  年25%

(エ) 返済期日  平成12年3月6日(一括返済)

(オ) 貸付方法  証書貸付

(カ) 連帯保証人 D

(キ) 担保設定  C所有の不動産

(ク) 特約  Cが債務の一部でも履行を遅滞したときは,A信用組合の請求により,期限の利益を失う。

イ 実質的な契約当事者

借換契約3の契約当事者は,第1審被告とA信用組合である。その理由は上記(5)イ(ア)ないし(オ)のとおりである。

ウ 金銭の交付及びその後の金銭の流れ

ア記載の金銭は,同日,C名義の普通預金口座に入金された。その後,そのうち1億6639万6056円が同口座から引き出され,次の弁済がされた。

(ア) D名義の残元本5600万円(ただし,平成9年3月29日から同年4月30日までの過払い利息分の20万2520円を控除した5579万7480円)

(イ) C名義の借換契約1に基づく残元本1億1100万円(ただし,平成9年3月29日から同年4月30日までの過払い利息分の40万1424円を控除した1億1059万8576円)

エ 借換契約3に関する利払い

(ア) 平成9年5月6日から平成10年3月30日まで総額581万1139円がCの普通預金口座から引き落とされ利払いが行われた。

(イ) 株式会社Kらが別紙(3)『利息支払金の財源』のとおりそれらの原資等を同預金に入金等した。

(ウ) 第1審被告の普通預金口座から振り替えられて,約定利息の支払原資になったものとしては,次の利払いがある(合計81万7342円)。

① 平成9年5月6日の25万円

② 平成9年11月6日の56万7342円

(エ) 借換契約2及び借換契約3の利払いについて,第1審被告は,株式会社Kの普通預金から相当額を振り替える等して,自転車操業的に利拡い原資を工面していた。

原判決は,Cが利払いしていた旨を認定するが,借換契約2と同様,Cと第1審被告のどちらが利払いしたかといえば,第1審被告がC名義で利払いしていたと評価されるべきである。

オ 借換契約1ないし3に基づく残債務額

以上により,A信用組合に対するCら3名の名義の債務の残元本は,次のとおりとなった。

(ア) C名義分

借換契約2につき 8800万円

借換契約3につき 1億6700万円

合計   2億5500万円

(ただし,借換契約2については,将来の求償債務である。)

(イ) D名義分  0円

(ウ) B名義分  0円

(7)  債権譲渡

ア A信用組合及びI連合会は,平成10年11月24日,株式会社整理回収銀行(以下「整理回収銀行」という。)に対して,(6)オ(ア)記載の各債権を譲渡した。この債権譲渡に対し,Cの名義で,異議のない承諾がされた。

イ 上記アの承諾者は,第1審被告である。

ウ また,第1審原告は,平成11年4月1日,整理回収銀行を吸収合併した。

(8)  期限の利益の喪失

ア 第1審被告は,(6)エ(ア)記載の借換契約3に基づく債務について,平成10年4月1日以降,元本及び利息等をいずれも支払わなかった。そこで,整理回収銀行は,平成11年2月15日,C名義宛で,期限の利益を喪失させ,一括返済を求める旨の意思表示をした。

イ この意思表示の相手方は,第1審被告である。

(9)  代位弁済

第1審被告は,(5)エ(ア)記載の借換契約2に基づくI連合会に対する債務について,平成11年6月7日以降,約定利息金を支払わなかった。そこで,第1審原告は,平成11年10月6日,I連合会に対し,元本,約定利息金及び遅延損害金として合計8879万4168円を代位弁済し,第1審被告に対する同額の求償債権を取得した。

(10)  まとめ(主位的請求)

よって,第1審原告は第1審被告に対し次の金員の支払を求める。

ア 借換契約2について

(ア) 求償債権元本 8879万4168円

(イ) 遅延損害金(その1) 2000万9081円

ただし,(ア)に対する代位弁済日の翌日(平成11年10月7日)から平成12年8月31日まで約定による年25%の割合によるもの

(ウ) 遅延損害金(その2)

(ア)に対する平成12年9月1日から年25%の割合による遅延損害金

イ 借換契約3について

(ア) 借受金債務元本 1億6700万0000円

(イ) 約定利息金 378万9207円

ただし,(ア)に対する平成10年4月1日から期限の利益喪失の日である平成11年2月15日まで約定による利率を下回る年2.5%の割合によるもの

(ウ) 遅延損害金 6428万3561円

ただし,(ア)に対する期限の利益喪失の日の翌日である平成11年2月16日から平成12年8月31日まで約定による年25%の割合によるもの

(エ) 遅延損害金(その2)

(ア) に対する平成12年9月1日から年25%の割合による遅延損害金

(11)  予備的主張

ア 仮に,上記信用組合取引契約,本件消費貸借契約及び借換契約1ないし3の契約の一方の当事者がCら3名,又はCであるとしても,第1審被告は,Cら3名のこれらの各債務について次のとおり損失保証をした。

イ すなわち,第1審被告は,本件消費貸借契約の締結の際に,当時A信用組合の理事であったMらに対し,第1審被告自身がその債務の返済について責任を持つ旨を明言しており,その損失保証は,Cら3名の借入金が最終的に完済されるまで効力を有する趣旨のものであった。

ウ よって,その損失保証契約に基づき,(10)記載の金銭の支払を求める。

(12)  債権者代位権に基づく請求(予備的請求)

ア A信用組合のCに対する貸金債権

仮に借換契約3の借主がCであるとすると,第1審原告はCに対し借換契約3に基づき1億6700万円の債権を有する。上記のとおり,第1審原告はこの債権を譲り受けた。

イ Cの無資力

Cは総額7億7000万円以上の債務を負っている。しかし,その有する資産は,資産価値に乏しい山林等4筆の土地だけであり,著しい債務超過の状態である。

ウ Cの第1審被告に対する貸金債権

(ア) 仮に本件消費貸借契約に基づいてCがその1億9000万円を借り入れたとすると,これが第1審被告のF株の購入に充てられたことから,Cは第1審被告に対しこの1億9000万円を貸し付けたことになる。

(イ) 第1審被告は平成9年1月28日にCに対し,7900万円を弁済した。

エ 債権者代位権行使の通知

第1審原告は平成11年7月2日にCに対し,ウ記載のCの第1審被告に対する貸付金債権を代位行使する旨を通知した。

オ まとめ

よって,第1審原告は,第1審被告に対し,ア記載の債権を保全するため,債権者代位権に基づき,ウ記載のCの第1審被告に対する貸付金債権の残元金である1億1100万円及びこれに対する平成6年11月8日から完済まで年6分の割合による遅延損害金の支払を請求する。

2  請求原因に対する認否及び第1審被告の主張

(1)  請求原因(1)(当事者等)について

ア 同ア,同イの事実は知らない。

イ 同ウないしカの事実は認める。

(2)  同(2)(信用組合取引契約)について

ア 同アの事実は認める。

イ 同イの事実は否認する。

同信用組合取引契約の契約当事者は,CとA信用組合である。

(3)  同(3)(本件消費貸借契約)について

ア 同アの事実は認める。

イ 同イの事実は否認する。

本件消費貸借契約の契約当事者は,CとA信用組合である。

(ア) F株の入札者と本件消費貸借契約の借主が誰かとは無関係である。

(イ) 同イ(イ)の事実はいずれも争う。F株の売却代金で債務の弁済に充てられた金額は3億1200万円で,残額は239万円にすぎない。

(ウ) 同イ(ウ)の事実はいずれも争う。F株の払込者及び所有者はCである。

(エ) 同イ(エ)の事実はいずれも争う。

ウ 同ウについて

(ア) 同(ア)の事実は否認する。

(イ) 同(イ)(ウ)の事実は認める。ただし,F株の取得者はCである。

(4)  同(4)(借換契約1)について

ア 同アの事実は認める。

イ 同イの冒頭事実は否認する。

借換契約1の契約当事者は,CとA信用組合である。

(ア) 同イ(ア)の事実は認める。

(イ) 同イ(イ)の事実は争う。

ウ 同ウの事実のうち,平成6年11月10日に利息天引後の5億5271万9180円がA信用組合の第1審被告名義の普通預金口座に入金されたことは認め,その余は否認する。

天引後の貸付金が第1審被告の普通預金口座に入金となった事情は次のとおりである。Cは平成6年10月24日脳出血のため緊急入院し,平成6年11月21日に退院するまでA信用組合の借入金の処理ができなかった。同人に代わって父の第1審被告が処理(借換分の受領)を行ったことから借換のための融資金が一時第1審被告の普通預金口座に入金されたのである。利息天引後の融資金が第1審被告の普通預金に入金となったからといって,天引利息相当金を第1審被告が支払したことにはならない。

エ 同エの事実のうち,第1審被告が(ア)ないし(キ)に記載の日に同記載の金額を借換契約に基づく利息として支払ったことは認める。

(ア) これは第1審被告がCの債務を立て替えて支払い,その支払金額を同人に貸し付けたものである。

(イ) 本件消費貸借契約による5億5000万円の借入及び借換契約による5億5000万円に対する平成9年2月7日までの借入金利息は合計6605万3371円である。被控訴人の主張で利払として被控訴人の預金口座から出金された金額はその主張では合計金3027万3486円となる。その余の残金3577万9885円は全額Cの預金から支払われている。よって第1審被告の預金から出金されている金額は利息総額の半分以下である。この事実をもってすれば借主はCと判断されるべきである。

オ 同オの事実のうち,第1審被告がその主張の弁済をしたことは否認する。ただし,客観的に第1審被告が主張するとおりの弁済及び充当がされたことは認める。

カ 同カの事実は認める。

(5)  同(5)(借換契約2)について

ア 同アの事実は認める。

イ 同イの事実は否認する。

借換契約2の契約当事者は,CとI連合会である。同イ(ア)ないし(オ)の事実はすべて争う。

ウ 同ウの事実のうち,Cが借換契約2による融資金でCら3名の名義の債務の弁済をしたことは認める。

エ(ア) 同エ(ア)(イ)の事実は争う。

(イ) 同エ(ウ)①ないし⑥のとおり第1審被告の口座からCの口座に入金があったことは認める。これは第1審被告からCに貸し付けがあったことによるものである。

(ウ) 同エ(エ)ないし(カ)の事実は否認する。借換契約2に基づく利息の支払は名実ともにCが行ったものである。

オ 同オの事実は争う。

(6)  同(6)(借換契約3)について

ア 同アの事実は認める。

イ 同イの事実は否認する。

借換契約3の契約当事者は,CとA信用組合である。

ウ 同ウ,エの事実は否認する。

エ 同オの事実は争う。

(7)  同(7)(債権譲渡)アないしウの事実は知らない。

(8)  同(8)(期限の利益の喪失)の事実は争う。

(9)  同(9)(代位弁済)の事実は否認する。

(10)  同(10)の主張は争う。

(11)  同(11)(予備的主張)について

ア 同アの事実のうち,上記信用組合取引契約,本件消費貸借契約及び借換契約1ないし3の契約の一方の当事者がCであることは認め,その余は否認する。

イ 同イの事実は否認する。

(12)  同(12)(債権者代位権に基づく請求)について

ア 同アの事実のうち,借換契約1の借主がCであることは認め,その余は知らない。

イ 同イの事実は認める。

ウ 同ウの事実について

(ア) 同(ア)の事実は認める。

ただし,F株の取得者はCであり,第1審被告は入札のために名義を貸したにすぎない。

すなわち,A信用組合は,平成6年7月下旬ころ,政府が保有するF株が売却されることになったことから,組合員にその買受けのための資金を融資し,金利の収益を得ようと考え,Cとの間で,Cに平均金利よりも高めの利率で融資するが,後日Cが取得したF株の転売によって利益を得たときには,その利益をCとA信用組合で折半することを合意した。

他方,F株の入札のためには,申込価格の3割に当る金額を保証金として納付する必要があったが,Cがその保証金を用意できなかったことから,A信用組合が振り出した小切手で納付することになり,資金の裏付けなしにそのような小切手を振り出すためには,当時の理事長であった第1審被告をF株の入札の名義人とする必要があった。

なお,上記小切手による金銭は,F株の購入代金に充当されておらず,A信用組合は,その全額を引き上げているし,F株のすべてを担保として提供を受けている。

(イ) 同(イ)の事実は争う。

エ 同エの事実は争う。

3  抗弁(主位的請求に対し)

(1)  第1審原告は,他の訴訟において,本件消費貸借契約の借主はCら3名であると主張し,Cに対し確定判決まで得ている。

にもかかわらず同一の金銭消費貸借契約について,本訴において借主は第1審被告であると主張を変更している。

(2)  しかし,ひとつの金銭消費貸借契約において2人の借主が存在するはずがなく,第1審原告が先にCが借主と判断して確定判決を得ているのであるから,それに加えて被告に対して請求することは自己矛盾する主張を行っていることである。

(3)  よって,時間的に先に判決において確定されている事実をもとに第1審原告はその後の請求を行うべきである。自らがCに対して確定判決を得ておきながら同一の消費貸借契約に基づきさらに第1審被告に請求することは,権利の濫用であり認められるべきではない。

4  抗弁に対する認否

抗弁事実は争う。

理由

第1事実の確定

1  当事者間に争いのない事実

以下の事実は当事者間に争いがない。

(1)  請求原因(1)(当事者等)ウないしカの事実。

(2)  同(2)(信用組合取引契約)アの事実。

(3)  同(3)(本件消費貸借契約)アの事実。

(4)  同(3)ウ(イ)(ウ)の事実。

(5)  同(4)(借換契約1)アの事実。

(6)  同(4)イ(ア)の事実。

(7)  平成6年11月10日に利息天引後の5億5271万9180円がA信用組合の第1審被告名義の普通預金口座に入金された。

(8)  第1審被告が同(4)エ(ア)ないし(キ)記載の日に同記載の金額を借換契約1に基づく利息として支払った。

(9)  客観的に,請求原因(4)オのとおりの弁済及び充当がされた。

(10)  同(5)(借換契約2)アの事実。

(11)  同(5)エ(ウ)①ないし⑥のとおり第1審被告の預金口座からCの預金口座に入金があった。

(12)  同(6)(借換契約3)アの事実。

2  事実の認定

(1)  当事者等

ア 証拠(甲2)並びに弁論の全趣旨によれば,請求原因(1)アの事実が認められる。

イ 証拠(甲1)並びに弁論の全趣旨によれば,同(1)イの事実が認められる。

ウ なお,同(1)ウないしカの事実は当事者間に争いがない。

エ 証拠(甲4の3,甲6,甲53,甲55)並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

(ア) 株式会社Kは,不動産売買,仲介,管理及び賃貸等を目的として昭和60年3月に設立された会社であり,平成10年6月当時,Cが代表取締役であったほか,D,L(Cの妻)が取締役,Bが監査役にそれぞれ就任していた。

(イ) Dは,大学在学中に宅地建物取引主任の資格を取得し,昭和60年3月の株式会社Kの設立の直後ころからその取引主任者として登録をした。しかし,実際には,Dは昭和53年にドイツ資本の会社に入社し,株式会社Kの業務に関わったことはない。

(ウ) 株式会社Kは,平成7年6月ころには実質的な営業活動を停止していて収益がなく,平成11年ころには営業活動をまったく行っていなかった。

(2)  信用組合取引契約

請求原因(2)アの事実は当事者間に争いがない。同(2)イについては,後に判断する。

(3)  本件消費貸借契約

ア 請求原因(3)アの事実は当事者間に争いがない。同(3)イについては,後に判断する。

イ 証拠(甲20の1ないし3,甲21の1ないし3,甲22の1ないし3)並びに弁論の全趣旨によれば,同(3)ウ(ア)の事実が認められ,同(3)ウ(イ)(ウ)の事実は当事者間に争いがない。

(4)  借換契約1

ア 請求原因(4)アの事実は当事者間に争いがない。同(4)イについては,後に判断する。

イ 証拠(甲62の1ないし4,甲63の1ないし4,甲64の1ないし4,甲65)並びに弁論の全趣旨によれば,同(4)ウの事実が認められる。

ウ 第1審被告が同(4)エ(ア)ないし(キ)記載の日に同記載の金額を借換契約1に基づく利息として支払ったことは,前記のとおり,当事者間に争いがない。

エ 証拠(甲17,甲26ないし30の各1ないし3,甲40)並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

(ア) 第1審被告の名義でA信用組合に差し入れられていたF株について,第1審被告名義でH証券株式会社に対し売却の委託がされ,これらが以下のaないしeに記載の日ころに同記載の金額で売却され,同記載の日に同金額が同証券会社からA信用組合の第1審被告の普通預金口座に振り込まれた。

a 平成9年1月21日  7787万0950円

b 同年1月24日  7849万5179円

c 同年1月28日  7903万3789円

d 同年1月29日  3156万2604円

e 同年2月7日  4732万8039円

(イ)a 第1審被告は,(ア)a記載の日にA信用組合の第1審被告の普通預金口座から7700万円を払い戻し,これで借換契約1に基づくBの債務の元本のうちの同額分の弁済をした。

b 同様に(ア)b記載の日に7800万円を払い戻し,これで借換契約1に基づくDの債務の元本のうちの同額分の弁済をした。

c 同様に(ア)c記載の日に7900万円を払い戻し,これで借換契約1に基づくCの債務の元本のうちの同額分の弁済をした。

d 同様に(ア)d記載の日に3100万円を払い戻し,これで借換契約1に基づくBの債務の元本のうちの同額分の弁済をした。

e 同様に(ア)e記載の日に4700万円を払い戻し,これで借換契約1に基づくBの債務の元本のうちの同額分の弁済をした。

(ウ) 以上の弁済の結果,Cら3名の借換契約1に基づく債務の残元本額は2億4300万円となったことは計数上明らかである。

(5)  借換契約2

ア 請求原因(5)アの事実は当事者間に争いがない。同(5)イについては,後に判断する。

イ 証拠(甲113の1ないし7)並びに弁論の全趣旨によれば,同(5)ウの事実が認められる。

ウ 証拠(甲84の1ないし6,甲85の1ないし3,甲86の1ないし4,甲87の1ないし5,甲88の1ないし4,甲89の1ないし6,甲90の1ないし5,甲91の1ないし4,甲92の1ないし3,甲93の1ないし4,甲94の1ないし4,甲95の1ないし4,甲96の1ないし5,甲97の1ないし3,甲98の1ないし4,甲99の1ないし4,甲100の1ないし3,甲101の1ないし3)並びに弁論の全趣旨によれば,別紙(2)記載の各日(全部で18日)に同記載の金額(ただし,平成10年1月6日の弁済利息額は19万4323円である。)が借換契約2に基づく債務の利息としてI連合会に弁済されたこと,この利息弁済に至る経過が同別紙に記載のとおりであることが認められる。なお,Jは,Cの長女である(甲4の3)。

また,証拠(甲23)によれば,平成10年1月6日に第1審被告のA信用組合の普通預金口座から20万円が払い戻されていることが認められる。

エ 以上の結果,A信用組合に対するCら3名の名義の債務の元本が同(5)オのとおりとなったことは計数上明らかである。

(6)  借換契約3

ア 請求原因(6)アの事実は当事者間に争いがない。同(6)イについては,後に判断する。

イ 証拠(甲102の1ないし5)並びに弁論の全趣旨によれば,同(6)ウの事実が認められる。

ウ 証拠(甲32の2,甲103の1ないし4,甲104の1ないし4,甲105の1,2,甲106の1ないし4,甲107の1ないし4,甲108の1,2,甲109の1ないし4)並びに弁論の全趣旨によれば,別紙(3)記載の各日(全部で7日)に同記載の金額が借換契約3に基づく債務の利息としてA信用組合に弁済されたこと,この利息弁済に至る経過が同別紙に記載のとおりであることが認められる。

エ 以上の結果,A信用組合に対するCら3名の名義の債務の元本が同(6)オのとおりとなったことは計数上明らかである。

(7)  債権譲渡

証拠(甲12,甲13の1ないし3)並びに弁論の全趣旨よれば,請求原因(7)アの事実が認められ,同(7)ウは先に認定したとおりである。同(7)イについては,後に判断する。

(8)  期限の利益の喪失

証拠(甲10の2,甲14の1,2)によれば,請求原因(8)アの事実が認められる。同(8)イについては,後に判断する。

(9)  代位弁済

証拠(甲59)によれば,請求原因(9)の事実が認められる。

3  主要な争点に関する事実の認定(請求原因(2)ないし(8)の各イについて)

(1)  A信用組合の組織・人員

証拠(甲1,甲7,甲61の1,2)並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

ア A信用組合は,組合員に対する資金の貸し付け等のほか,組合員以外の者に対する法令の定めるところによる資金の貸付及び手形の割引等をもその事業目的に含むものである。

イ A信用組合は,昭和28年に設立され,昭和38年には旧組合名称から現在の名称に変更した上,乙支店を廃止したが,昭和40年に丙支店を開設した。

ウ 第1審被告は,昭和30年にA信用組合の乙支店長に就任し,昭和40年5月に常務理事,昭和53年5月に専務理事についた後,昭和57年12月30日から理事長の地位にあった。

エ 平成6年ころ,Mが常務理事,Nが丙支店長に地位にあり,本店の経理部,営業部総務部,丙支店の各部門をあわせて職員総数が約三十数名程度,払込済出資総額が1億6000万円強の規模の組合であった。

(2)  A信用組合本店における平成6年当時以降の融資の体制

証拠(甲38)によれば,次の事実が認められる。

ア A信用組合が行う融資の最終決定権者は,第1審被告である。

イ 本店の渉外担当者からまず営業部長又は常務理事であるMに報告され,その両名から第1審被告に図られ,融資の有無が決定される。

例外的に,少額の融資,担保が十分な融資については,常務理事,支店長の裁量で決定されることもあった。

ウ 融資の決定があった後,稟議書が作成される。この稟議書については全件,第1審被告の決済を受けた。

エ A信用組合内には,特に,融資に関する取扱規程は定められなかった。

オ O,Pグループ等に対する融資のような理事長(第1審被告)の直接案件もあった。この融資の場合,第1審被告から常務理事等に融資を行う旨の説明があり,稟議書の作成が指示される。B,C,Dに対する本件における各融資も理事長の直接案件であった。

(3)  A信用組合の経営成績

証拠(甲66,甲68,甲74の1ないし3,乙5)並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

ア A信用組合は,平成5年当時すでに預金・積金,貸出金の総額が減少する長期的な傾向にあり,平成4年度の決算上でも当期利益額は前年比約19%減少の3000万円程度であった。

そのため,A信用組合は剰余金処分案中の出資配当金の配当を年5%(それまでは年8%を維持してきた。)に引き下げ,役員賞与を前年に引き続いてカットすることなどの処理を行った。

イ しかし,平成5年2月8日までに行われた大阪府の信用組合定例検査において,以下のとおりの指摘,指示を受けた。

(ア) 限度超過貸出金の不良債権化,法令通達違反事項の増加,支払準備率の低下,有価証券の含み損の未償却,未収利息の過大計上等が発生している。

(イ) 収益管理体制を確立するため,延滞貸出金や分類貸出金の増加による収益管理の悪化の回避,不良債権の早期回収,収益体制を向上させ,経営を健全化させる。

(ウ) 内部事務処理体制の充実強化させる。

ウ A信用組合は平成5年4月に改善を要する事項についての是正措置を講ずる旨の回答をした。しかし,その後も,景気の回復もなく,営業不振傾向は改善されず,平成5年度の決算上では当期利益額は前年比約11%減少の2500万円程度となった。

エ 平成6年3月25日の大阪府による業務及び財産状況の検査結果においても,前年と同様,以下のとおりの指摘等を受けた。

(ア) 限度超過貸出金の不良化や有価証券含み損の未償却等について,依然改善が困難な事態となっている。

(イ) 収益状況が悪化しており,実質上利益が出ていない。適正な利益を計上できるよう経営努力を払われたい。

(ウ) 融資姿勢として,中小口貸出を着実に取り組むとともに合理的な金利引下げの配慮が必要である。

オ A信用組合は,同年5月23日に改善を要する事項について改善措置を講ずる旨の回答をした。

(4)  本件株式の購入の経緯とその後の経過

証拠(甲20,甲21の1ないし3,甲22の1ないし3,甲23ないし25,甲35の1ないし3,甲36の1ないし3,甲42,ないし44,甲46の1,2,甲47の1,2,甲49の1ないし7,甲50の1ないし4,甲51の1ないし4,甲52ないし55,甲56,乙1,乙3,乙5,証人Q,同M,同C)によれば,次の事実が認められる。

ア 上記(3)のようなA信用組合を取り巻く厳しい経営環境にあった平成6年7月ころF株式会社の株式売出届出目論見書の内容が明らかになった。

第1審被告は,A信用組合及び自分の資産運用の一環として,A信用組合の利息収入をも補う目的のもとに,F株の購入を計画し,そのころA信用組合の常務会において,常務理事らに対し「A信用組合としてF株を入札する。自分もA信用組合から借金して,F株を入札したい。家族名義に振り分けて借り受けたい。

F株は確実に値上がりするから,上がればすぐに売却し,返済については自分が責任をもって行う。A信用組合には決して迷惑をかけない。利払いもきちんと行う。」という意向を伝えた。

イ その後,第1審被告は,A信用組合が入札するF株数を240株,自分が入札する株数を400株と決め,常務理事らにその旨伝え,入札準備を指示した。

常務理事らは,第1審被告の指示に従い,入札申入書の入手・作成,株式会社G銀行甲支店に対する保証書の作成依頼(A信用組合の入札分),その保証料の支払い手続,第1審被告入札分のA信用組合名義の保証書の作成等,諸準備を行った上,各入札手続をとった。

ウ 平成6年8月29日にA信用組合,第1審被告とも入札の申入れのとおり株数のF株の落札をすることができた。その結果,第1審被告も同年9月30日までに買受代金5億7768万8000円を払い込むこととなった。

それまでに第1審被告は,F株の落札を予測して,買受代金のうちの2768万円を自らの預金の払戻金で賄い,残額の5億5000万円をA信用組合から借り入れることに決め,常務理事らにその旨を伝えた。その上で,具体的には,借受人をC,D及びBの3名としてA信用組合からの貸付を起こすよう同理事らにその準備を指示していた。

エ M常務理事らは,第1審被告の指示した貸付金5億5000万円を上記3名に請求原因(3)アの各金額に割り振り,これを金銭消費貸借契約用紙の所定欄に記入した上,他の約定書等の用紙とともに第1審被告に交付した。

それとともに,同常務理事は部下にこの貸付の稟議書の作成をするよう命じた。

オ 平成6年9月29日ころ,Cから3名の名義の同日付けの信用組合取引約定書(甲35の1ないし3),同月30日付けの借入申込書(甲49ないし51の各1)が提出され,A信用組合との間で本件消費貸借契約が成立した。

この中で,返済期限を平成6年11月7日と定めたのは,F株が上場された後,短期間で株価の上昇があると見込み,その売却代金で返済を行おうと目論んでいたことによる。

本件消費貸借契約が成立した後,請求原因(3)ウの経過でF株の代金の納付がされた。

カ ところが,F株が上場された後も,期待に反して値上がりのしないままであったことから,第1審被告は,約定どおりに5億5000万円の返済を行うことができなかった。

そのため,証書貸付の方法による本件消費貸借契約を手形貸付の方法に改めるため,借換契約1を結ぶこととし,M常務理事らに契約書の作成等を実行させ,請求原因(4)アのとおりの契約を結び,本件消費貸借契約に基づく各債務を弁済する手続をさせた。

なお,Cは,脳出血,高血圧,右半身麻痺のため,同年10月24日に芦屋市立R病院に緊急入院し,2週間はベッド上の安静を要し,その後改善傾向が見られ,同年11月21日に退院した。そのため,同人は,借換契約1には一切関与しなかった。

キ 第1審被告は平成6年10月20日ころ国からF株の株券を受け取り,同年11月30日までにこれをM常務理事に担保として引き渡した。同日におけるF株は1株当96万3000円と低迷していた。

その後,平成7年4月20日になって第1審被告はF株の400株について国から名義変更を受けた。なお,このF株についてCに対する名義変更手続が行われたことはない。

ク A信用組合は,平成7年1月に大阪府からの定例の検査を受けた。そのなかで,借換契約1は,Cら3名の貸付額を合算してみて限度超過貸付である上,員外貸付(実需者は第1審被告)に当る法令違反のものであるほか,理事長(第1審被告)の親族による名義貸しでもあるとの指摘を受け,その是正を求められた。A信用組合は,平成9年3月5日にも大阪府による検査基準日を平成8年9月9日とする検査結果の通知を受け,従来と同様の指摘・指示を受けたほか,平成7年度には,適正な経理処理を行えば,4億5000万円の当期損失が出ていたにも関わらず,大阪府の指導に従わず,配当を実施したことは遺憾であるなどの指摘を受けた。

ケ このような検査の進行中の平成9年1月に第1審被告はM常務理事に指示してF株の株券の引渡しをさせ,証券会社に委託してその売却を進めた。その結果,上記3(4)エのとおり株の売却を行い,その代金を受け取り,借受契約1に基づくCら3名名義の債務の一部弁済を行った。その際,弁済の充当は第1審被告が債務者及び弁済額の指定等を請求原因(4)オのとおり明示して,M常務理事に指示してその手続を行わせたものである。第1審被告は,この債務の充当において,員外貸付でもある借換契約1による債務者の数を減らすべく,B,Dの債務の消滅を優先させたものであった。

このときも,Cは,事前に売却の実行,債務の弁済の充当について知らされず,意見を述べることもなかった。

コ 第1審被告は,大阪府の指摘・指示する限度超過貸付,員外貸付,名義貸し貸付等の解消を図るとともに,自分の金利負担をできるだけ解消することなどを意図して,平成9年3月にI連合会からC名義で融資を受けようと思い至り,その旨をM常務理事に伝え,同時にI連合会との折衝,事務の処理をするよう指示した。

これがI連合会の丁支店長権限内の融資案件であったことから,融資額が8800万円と決まり,規定どおりの担保の提供を求められ,請求原因(5)アのとおりこれを実行し,従来と同様に契約書等の作成を行って,借換契約2による貸付を受けるに至った。

この際も,第1審被告が借換契約2による借入金によりCら3名名義の債務の一部弁済を行い,その債務者の指定,充当内容も請求原因(5)ウのとおりM常務理事に指示して処理させた。

サ その後,同月28日に借換契約3が結ばれたが,これもそれまでのものと同様,第1審被告がM常務理事に指示して契約書等を作成させ,実行したものである。請求原因(6)ウの債務の一部弁済,充当も第1審被告の指示によりM常務理事らが実行処理したものである。

以上の事実が認められる。

第2判断

1  以上の争いのない事実及び認定事実によれば,次のとおり判断することができる。

(1)  F株の購入者について

F株の購入は,その発案を第1審被告が行い,その目的はA信用組合の経営状況の改善等にあったほか,第1審被告が入札株数,入札者の名義(第1審被告とする。)等の入札の条件を自らが決定し,これを前提に入札申入れに必要な事務一切をA信用組合の理事らに行わせ,そのとおり実行し実現したものであった。これらの事実からして,F株の入札者は第1審被告であると認められる。甲第53号証,乙第5ないし第7号証,乙第16号証,証人C及び第1審被告本人尋問の結果中には,F株の入札者がCである旨の供述部分があるが,これを裏付ける客観的な証拠はまったくなく,以上に認定した事実経過に照らして採用できない。

(2)  金銭消費貸借契約の目的,締結時の実情等

ア 各金銭消費貸借契約の目的

本件消費貸借契約,借換契約1ないし3はすべてF株の購入資金を取得するためのもの,又はその返済のためのものであった。

イ 本件消費貸借契約締結時の実情

第1審被告は,本件消費貸借契約によってF株購入代金の一部をA信用組合から借り受けることを発案・決定をしたほか,その借主名義の特定,借受金額,借受条件等の決定及びこれらの内容のA信用組合に対する伝達及び指示を自分自身が行い,A信用組合の理事らに対し消費貸借契約書等の作成等の事務処理を指示し,これを実行させた。

ウ 借換契約1の締結時の実情等

(ア) 借換の実行

第1審被告は,その後,F株の株価の推移を見て,本件消費貸借契約に定めた弁済期限までにF株を売却することを断念し,A信用組合からの借換契約1による借受金によって本件消費貸借契約に基づく債務の返済を行う(証書貸付を手形貸付に変換する趣旨もあった。)ことを発案・決定したほか,その借主名義の特定,借受金額,借受条件等の決定及びこれらの内容のA信用組合に対する伝達及び指示をすべて自分自身が行い,A信用組合に対し消費貸借契約書等の作成等の事務処理をも指示し,これを実行させた。

(イ) 弁済内容

第1審被告は,借換契約1によって借り受けた5億5500万円(利息天引前の金額)によって本件消費貸借契約に基づく債務の全額を返済することを決め,その処理を行うようA信用組合の理事らに指示したほか,一部利息の支払いをすることを決め,それらの事務処理の指示もした。

エ 借換契約1に基づく債務の弁済

(ア) 利息の弁済

第1審被告は,請求原因 (4)エ(ア)ないし(キ)記載(8頁)のとおり,自分の普通預金口座から出金して借換契約1に基づく利息債務の弁済をした。

(イ) F株の売却と債務の弁済

a 第1審被告は,F株を売却して借換契約1に基づく債務の弁済をすることを発案,決定し,A信用組合の理事に指示してF株の引渡しを受け,自分が証券会社に委託し,売却を進め,その代金を自分の預金口座に入金させた。

b 証拠(甲8の1ないし3)によれば,A信用組合は,借換契約1の借主との約定によって,借主の提供した担保を自らが判断した時期方法等によって売却等をして担保権を実行することができることが認められる。

したがって,上記aのF株の売却をA信用組合による担保権の実行と見る余地がないではない。現に,その趣旨のMの供述もある。

しかし,第1審被告が自分で証券会社に委託し,これにM常務理事らA信用組合の職員等を関与させず,売却代金を自分の預金口座に入金させるなどしている点に着目すると,第1審被告が個人でF株の売却を行ったと認めるのが相当である。

c のみならず,第1審被告は,CがF株の入札をしていないと供述しながら,上記F株の売却に当っては,Cに何らの相談をしていないし,Cもこの点について意見を述べず,その後も異議を述べるなどした形跡はまったく窺えない。

d 第1審被告は,このF株の売却代金が自分の預金口座に入金される都度,それからの払戻金額(弁済の金額),弁済を行う借主の名前を決め,A信用組合の理事らに伝達,指示し,それを実行させた。

この点についても,Cはその当時まったく関与せず,その後も異議を述べるなどした形跡はまったく窺えない。

オ 借換契約2及び3の締結時の実情及び借換契約1に基づく債務の弁済等

(ア) 借換の実行

a 第1審被告は,A信用組合が大阪府から指摘を受けている違法貸付の解消を図り,同時に貸金の回収を図るとともに,借換契約による自らの金利の負担を軽減するなどのために,C名義でI連合会からの借入を起こすことを発案し,その借入の折衝等を理事に指示し,実行させた。

b 第1審被告は,このI連合会からの借入額が8800万円であったことから,借入契約1による債務の弁済をするため,さらにA信用組合から借入を起こすこと,その借入額を1億6700万円とすることを決め,理事らに指示して借換契約3の借り入れ事務を処理させた。このとき,Cが各消費貸借契約書をM常務理事に交付したことはあった(同証言)が,それ以上の関与をしたことは窺えない。

(イ) 債務の弁済

a 第1審被告は,このC名義のI連合会からの借入金によって借入契約1による債務の弁済をすることにし,その弁済内容,すなわち,弁済対象の債務の債務者の特定,各弁済額,その充当の方法を決定して,これをA信用組合の理事らに伝え,その事務処理をするように指示し,実行させた。

この点についても,Cはその当時まったく関与せず,その後も異議を述べるなどした形跡はまったく窺えない。

b また,借入契約3による借入金によって借入契約1に基づく債務を弁済することにし,その弁済内容を決めて,これを理事らに指示,実行させたこと,この場合も,Cが関与しなかったことは上記aのときと同様である。

カ 借換契約2及び3に基づく債務の弁済

(ア) 借換契約2に基づくI連合会に対する利息債務は,その一部について別紙(2)記載の経過で同記載の金額の弁済がされた。

(イ) その弁済原資のいわば「資産項目」は,①Cの娘の預金債権,②現金,③株式会社Kの預金債権,④第1審被告の預金債権に分かれる。

a この①は,特段の反証もないことから,Cの実質資産か,同人がこれを取得したものと認めるのが相当である。

b ②は,株式会社Kの預金口座を経てCの預金口座に入金されたものと直接Cの預金口座に入金されたものがある。しかし,その余の事情の詳細は証拠上不明であるから,いずれもその実質保有者を確定することはできない。ただし,平成10年1月26日の現金20万円については,同日付けで第1審被告のA信用組合の普通預金口座から20万円が払い戻されていることから,特段の反証もないことから,その実質権利者は第1審被告であると認めるのが相当である。

c 株式会社Kは,平成7年6月ころには実質的な営業活動を停止していて収益がなく,平成11年ころには営業活動をまったく行っていなかった会社である(25頁)。したがって,平成9年当時の③は,実質的に見て同会社固有の資産とは認め難いものであり,Cか第1審被告の実質資産と推認される。しかし,この場合も,その余の事情の詳細は証拠上不明であるから,いずれもその実質保有者を確定することはできない。

d ④は,名実ともに第1審被告の資産であったと認められる。

e これらをまとめると,借換契約2及び3に基づく利息債務で弁済の経過が明らかなもののうち,Cが弁済したと認められる弁済はごく僅かであって,その余の大多数は,第1審被告がこれを行ったか,いずれが行ったかを確定し難いものであるということができる。

2  これまでに確定した事実,上記1の認定判断に甲第38,第42,第43号証,証人Q,同Mの各証言を総合して,次のとおり認定するのが相当である。

請求原因(2)ないし(6)の各イの契約,すなわち,信用取引契約,本件消費貸借契約及び借換契約1ないし3の当事者の一方(その相手方はA信用組合かI連合会),同(7)イのA信用組合及びI連合会の整理回収銀行に対する借換契約2及び3に基づく債権の譲渡に対する承諾者及び同(8)アの意思表示の相手方は,いずれも第1審被告である。

第1審被告及びCの各陳述及び各供述中のこの認定に反する部分は,上記確定及び上記認定判断に照らし採用することができず,他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

3  ところで,第1審被告は,第1審原告が,他の訴訟において,本件消費貸借契約の借主はCら3名であると主張し,Cに対し確定判決まで得ているにもかかわらず,同一の金銭消費貸借契約について,本訴において借主は第1審被告であると主張を変更しているなどと主張している。

(1)  確かに,証拠(乙14)並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

ア 第1審原告は平成11年9月20日にCに対し次の内容の訴えを提起した。

(ア) 請求の趣旨 Cは第1審原告に対し1億7078万9207円及び内金1億6700万円に対する平成11年2月16日から完済まで年25%の割合による金員を支払え。

(イ) 請求原因 A信用組合はCに対し平成9年3月28日に1億6700万円を,利息を年4%(毎月6日に前1か月分を支払う。),遅延損害金を年25%,返済期日を平成12年3月6日(一括返済)と定めて貸し渡した(本件借換契約3)。

イ Cは,この訴訟で,請求原因事実をすべて認める旨の陳述をした。

そのため,受訴裁判所である大阪地方裁判所は,平成11年10月27日に第1審原告の請求を全部認容する判決を言い渡し,これが確定した。

(2)  この事実は,上記1の認定に重大な影響を与えかねない性質のものであることは否定できない。特に,借換契約3のような過去に生起した一回限りの歴史的な事実の経験者(自然人)が,場面が異なることによって異なった認識を表明する場合は特にそうである。

しかし,本件における第1審原告は,A信用組合の組織を引き継いだ法人である。その引継の経過は請求原因(1)アのとおりである。そのうえ,A信用組合は同(1)イのとおり平成10年11月30日には解散決議を行い,その後は清算手続中の法人であって,承継法人にとって,その事務処理の内容を把握することが一般的に困難であると推認されるものである。

これらの特殊の事情のほか,本件消費貸借契約以下の各契約の名義者がCら3名であり,これが名義貸しであることに加え,本件訴訟経過にかんがみると,上記(1)の事実は,同2の当裁判所の認定を左右するに足りないというべきである。

この点の第1審被告の主張も採用することができない。

4  以上の説示に基づいて,次のとおり判断する。

(1)  借換契約2の消費貸借契約における債権者は,I連合会から整理回収銀行を経て平成11年4月1日に第1審原告となった。第1審原告は平成11年10月6日に請求原因(9)(16頁)のとおり代位弁済を行い,第1審被告に対し次の求償権を取得した。

ア 求償債権元本8879万4168円。

イ アに対する代位弁済日の翌日である平成11年10月7日から平成12年8月31日まで信用取引約定による年25%の割合による遅延損害金2000万9081円。

ウ アに対する平成12年9月1日から年25%の割合による遅延損害金。

(2)  同様の経過によって,第1審原告は借換契約3における債権者となり,次の貸金債権を取得した。

ア 貸金元本1億6700万0000円。

イ アに対する平成10年4月1日から期限の利益喪失の日である平成11年2月15日まで約定の範囲内の年2.5%の割合による約定利息金378万9207円。

ウ アに対する期限の利益喪失の日の翌日である平成11年2月16日から平成12年8月31日まで約定による年25%の割合による遅延損害金6428万3561円。

エ アに対する平成12年9月1日から年25%の割合による遅延損害金。

5  第1審被告は,第1審原告による主位的請求が権利濫用に当るとして,上記3のとおり主張しているが,そこで説示したところからして,第1審原告の主位的請求が権利濫用になるとはいえず,第1審被告のこの抗弁も採用できない。

第3以上の次第で,第1審原告の第1審被告に対し次の各金員の支払を求める主位的請求はすべて理由があり認容すべきものである。したがって,予備的請求については判断を要しない。

1  元本合計 求償債権元本8879万4168円に貸金元本1億6700万0000円を加えた合計2億5579万4168円。

2  利息及び確定損害金 求償債権元本8879万4168円に対する平成11年10月7日から平成12年8月31日までの遅延損害金2000万9081円に貸金元本1億6700万0000円に対する平成10年4月1日から平成11年2月15日までの約定利息金378万9207円及び同元本に対する平成12年8月31日までの年25%の割合による遅延損害金6428万3561円の合計8808万1849円。

3  1と2の合計 3億4387万6017円。

4  遅延損害金 上記両元本合計2億5579万4168円に対する平成12年9月1日から年25%の割合による遅延損害金。

これと異なる原判決は相当でなく,これを変更することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩井俊 裁判官 大出晃之 裁判官 高橋善久)

別紙省略

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