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大阪高等裁判所 平成13年(ラ)540号 決定 2001年6月04日

抗告人(買受人)

神興ホーム有限会社

同代表者代表取締役

主文

原決定を取り消し、抗告人に対する売却を不許可とする。

理由

第1本件抗告の趣旨及び理由

別紙「執行抗告状」(写し)≪省略≫記載のとおり。

その要旨は、「抗告人は、最高価買受人であるところ、売却許可決定添付の別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)は、土地区画整理事業区域内にあり、仮換地の時期、土地の形状変更の有無、使用可能時期が未定であることが判明したが、物件明細書には何らの記載もなく、抗告人は、本件土地を直ちに使用できるものとして落札した。したがって、原決定の取消し及び売却不許可決定を求める。」というものであると解される。

第2当裁判所の判断

1  一件記録によれば、以下の事実を認めることができる。

(1)  本件土地について、平成一二年九月八日、神戸地方裁判所において競売開始決定がされ、執行官に対して現況調査命令が、評価人に対し、評価命令がそれぞれされた。そして、本件土地について、さらに同年一〇月一九日、続行決定がされた。

(2)  本件土地を含む周辺地域は、「神戸国際港都建設事業 浜山地区土地区画整理事業(平成四年三月二一日都市計画決定済み、平成五年一月二七日事業計画決定済み)」(以下「本件区画整理事業」という。)の施行地区となっており、平均一七パーセントの減歩率が見込まれている上、本件土地は、角地に位置することから、角切りを要する場合がある。そして、同事業の仮換地は指定されておらず、その時期は未定であり、現時点では、本件土地上に建物を建てるために建築確認申請をしても、神戸市建築主事において建築確認をするかどうかは不明である。

(3)  執行官作成の現況調査報告書において、債権者から提出された仮換地図面が添付されているが、その詳細は不明であるとして、どのような事業による換地・仮換地であるかなどについては触れられていない。

また、評価人作成の評価書においても、「主な公法上の規制等」の欄に「都市計画区分・市街化区域」、「用途地域・近隣商業地域」、「建ぺい率・八〇%」、「容積率・三〇〇%」「防火規制・防火地域」と記載してあるほかは、特記事項も「特になし」としか記載されていない。そして、評価人は、本件土地の評価額として一〇一〇万円と評価したが、従前地の評価であることは明記していない。

(4)  本件土地について、平成一三年二月二〇日付けで作成された物件明細書には、備考欄に自動販売機が設置されていたり、近隣者が駐車しているなどの記載はあるが、本件区画整理事業については何らの記載もされていない。

原審裁判所は、上記現況調査報告書及び評価書を受けて、最低売却価額を一〇一〇万円と決定し、売却実施命令を発し、期間入札が行われた結果、抗告人が最高価買受申出人となって落札した。

(5)  抗告人は、買受け申出に当たり、本件競売事件の物件明細書、現況調査報告書、評価書を閲覧して、問題となるような賃借権もなかったことから、本件土地を取得して、地上に建物を建てる予定であったところ、本件土地を取得しても、上記のとおり、早期にこれを実現することができない状況である。

2  民事執行法七五条一項は、最高価買受申出人等が買受けの申出をした後に天災その他自己の責めに帰することができない事由により競売不動産が損傷した場合には、執行裁判所に対し、売却許可決定の取消しを申し出ることができる旨規定している。この規定は、最高価買受申出人等が不測の損害を受けないよう保護する趣旨で設けられているから、同条項にいう「損傷」とは、物理的損傷ばかりでなく、行政上の法規制があるなどの事由により競売不動産の交換価値が低下した場合も含まれると解される。そして、その損傷の事実が買受け申出以前に生じていたものであっても、これが物件明細書等に記載されていないなどしていて、これを知らないことにつき、最高価買受申出人等の責めに帰し得ない場合には、同規定により売却許可決定を取り消すことができるものと解するのが相当である。

これを本件についてみると、なるほど土地区画整理事業は、減歩があっても従前地の価値を確保する目的を有しているが、上記認定事実によれば、本件土地についての実際の減歩率は不明である上、角切りを要することが考えられること、本件土地は宅地であり、抗告人が自己使用か、転売予定か、いずれであってもこれを宅地以外の目的で使用することを予定して買受けを申し出たとは認められないこと、本件区画整理事業については、仮換地の時期すら不明であって、本件土地上に直ちに建物を建てることができるかどうかも分からない状況であること、将来、本件区画整理事業の手続が進展し、減歩が実際に行われた場合に、建物敷地として使用できるかどうかは不確定であることが認められ、これらの事情が本件不動産の価額を相当程度に低下させるものであることは明らかである。

したがって、本件土地には、民事執行法七五条一項にいう「損傷」があるものと認めるのが相当である。そして、この「損傷」は、抗告人による本件不動産の買受け申出以前に生じたものであるが、買受けに当たり、その存在を知らなかったことは、上記認定の事実からすれば抗告人の責めに帰することができないものというべきであり、また、この損傷が軽微であるともいえないから、民事執行法七一条五項により本件売却許可決定を取り消し、抗告人に対する売却を不許可とするのが相当である。

3  よって、本件抗告は理由があるから、原決定を取り消した上、不許可決定をすることとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 見満正治 裁判官 辻本利雄 下村眞美)

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