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大阪高等裁判所 平成13年(行コ)10号 判決 2001年7月13日

控訴人

京都市長

桝本賴兼

同訴訟代理人弁護士

崎間昌一郎

被控訴人

甲野花子

同訴訟代理人弁護士

佐賀千惠美

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた裁判

1  控訴の趣旨

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人の請求を棄却する。

(3)  訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。

2  控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第2  当事者の主張

1  当事者の主張は、次項に当審における当事者の主張を掲げるほかは、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」欄(二頁九行目から一一頁六行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

2  当審における当事者の主張

(1)  控訴人の主張

ア 国民健康保険に係る診療報酬明細書(以下「レセプト」という。)の性格について

レセプトというものは、作成者である保険医療機関等以外の第三者によって「訂正」されるものではなく、また、審査権限から訂正権限が導き出されるものではない。すなわち、

(ア) レセプトとは、保険医療機関等から保険者に対する診療報酬のための請求書類に他ならない。当該請求書類を受けて、審査権限を有する連合会または審査委員会が、当該請求書類に記載された請求内容のうち、どれだけが適正なものであるかを認定し、適正であると認定した分に相当する診療報酬を保険医療機関等に支払うものである。すなわち、その過程では、審査権限を有する連合会又は審査委員会は、レセプトを訂正することはないのであり(審査の過程で誤った請求が発見された場合には、チェック印が記入されることはあるが、これは審査支払事務の便宜上行われるもので、訂正ではない。)、適正な請求がどれだけであるかを認定するために、「訂正」(記載の削除や書換え等)は必要でない。

つまり、レセプトは、保険医療機関等がどのような内容の診療報酬請求をしているかを表象している記録であり、被保険者が真実受けた医療内容を表象するものではない。連合会又は審査委員会は、レセプトに表象された請求内容のうち何が適正なものであるかを認定する審査権限を有しているだけであり、被保険者が真実に受けた医療内容に合わせてレセプトの記載を訂正する権限を有しているものではない。

したがって、レセプトは、保険医療機関等がどのような内容の診療報酬請求をしているかを表象している記録であるから、保険医療機関等がどのような内容の請求をしたのかという事実をねじ曲げることとなる第三者によるレセプトの訂正が認められるはずがない。

(イ) 控訴人は、審査委員会がレセプトの記載を訂正する旨の原審での主張を撤回する。

イ レセプトの審査権限について

法四五条四項では、保険者は、保険医療機関等から療養の給付に関する費用の請求があったときは、保険医療機関及び保険医療養担当規則及び算定方法の定めに照らして審査した上、支払うこととされているが、この審査に関しては、昭和三三年一二月四日付け保発第七一号の二厚生省保険局長通達で、「審査は、診療報酬明細書に記載されている事項につき、書面審査を基調として、その診療内容が療養担当規則に定めるところに合致しているかどうか、その請求点数が診療報酬算定方法に照らし、誤りがないかどうかを検討し、もって適正な診療報酬額を審査算定するもの」とされている。

このことからも明らかなように、保険者が行う審査は、診療報酬請求が適正に算定され、レセプトが適正に記載されているかどうかの書面上の審査であり、法四五条五項により連合会に委託している審査も、この書面審査である。

そして、京都市は、保険者の連合会への法四五条五項による審査・支払の委託により、保険者の審査権限を喪失したものであるが、仮にそうでないとしても、保険者自身が法四五条五項に基づき行使できるその権限は制限されており、保険医療機関等への調査権限はないため、本件レセプトの訂正権限を有していない。また、委託者たる京都市が受託者たる連合会に対する指示権限も認められない。

さらに、法六五条一項、二項は、不正利得について保険者に法に基づく徴収金としての徴収権限を認めたもので、このことから、レセプト自体から判明しない不正請求の審査権限を導き出すことはできない。

ウ 審査委員会の調査権限について

連合会に審査事務を委託しているのは、レセプトの審査が、専門的かつ膨大な事務量を要するものであるからであり、個々の医療機関を調査し、実際にレセプトに記載されたとおりの診療が行われたかどうかを確認するような事務を審査委員会に委託して行うことは予定されていない。上記のように、審査は書面審査を基調とすべきであるとされているが、審査委員会の書面審査のみでは適否の判断が困難である場合に、審査の適正をはかる趣旨から、法八九条は、審査委員会に、通常行う診療報酬の算定等に係る書面審査を補う調査権限を認めた。これは、書面上からは明らかにならない虚偽請求の確認調査までの権限を与えたものではなく、当該書面審査の便宜上、誤って請求された箇所に審査権限者がチェック印を記入することがあっても、請求内容を変更してしまうような訂正の権限を与えられているわけでもなく、また、そのような権限を審査権限者が持つ必要性もない。したがって、調査権限の帰属如何にかかわらず、調査権限を有するものがレセプトの訂正権限まで有するものでないことは明らかである。

エ 都道府県知事の調査権限について

(ア) 法四五条の二第一項により、都道府県知事は、保険医療機関等について、市町村等からレセプト等を参考資料とし借用したり、保険医療機関等の開設者又は管理者、保険医、保険薬剤師その他の従業員であった者に出頭を求めたり、関係書類の提出又は提示を命じたりしているところ、その調査は、必要に応じて、診療録と診療報酬請求とが一致しているかどうかまで含めて調査されている。これらの調査の結果、不適切な診療報酬請求が判明した場合、保険医療機関等から、被保険者名、診療年月日、疑義箇所、返還点数、返還金額等を列記した診療費返還内訳を提出させ、該当保険者及び連合会に通知し、原則として、連合会において診療報酬の返還の事務を行っている。

(イ) 京都市国民健康保険の場合についても、京都府が調査権限を行使し、返還金が生じた結果、支払額を変更した事例は、平成一一年三月から平成十二年二月までの一年間に行われたもので、一般被保険者分及び退職被保険者分を合わせて、件数にして三三一三件、金額にして九〇八万〇八五九円となっており、京都府の調査によって、保険医の指定の取消しなど特殊な場合に限らず、診療報酬を返還させることは日常的に行われている。

(ウ) 控訴人は、本件についても、被控訴人からの申出に基づき、京都府に対し、事実関係を連絡し、調査するように求めたところ、京都府において調査が行われているものである。

(エ) いずれにせよ、上記都道府県知事の調査権限が、保険者である京都府に帰属しないことは明らかであるから、当該調査権限を根拠に保険者である京都市に訂正権限を導き出すことはできない。

(オ) 上記において、レセプトに記載された請求内容に誤りが発見された場合、請求を行った保険医療機関等に過誤調整することの同意を得た上で、原則として、京都府から連合会に支払額を変更するように指示がなされ、連合会が過誤調整を行っているが、レセプトの記載を変更するようなことは一切行っていない。このことからも、調査権限の行使の結果、何が適正な請求でなかったのかの認定は、レセプトを訂正することによって行われるものではないことが明らかである。

オ まとめ

保険者たる京都市は、法四五条四項において、保険診療報酬請求について審査し、支払うことと定められているが、法は、特に保険者に対しこの審査のための調査権限は認めていないから、レセプト記載自体からの審査権限しかない。このような審査権限の行使をもっては、被控訴人が求める訂正内容が訂正されるべきかの判断は、保険者たる京都市にはできないから、結局、控訴人は、本件訂正請求については、調査、訂正権限のないものである。

(2)  被控訴人の主張

ア レセプトの訂正について

レセプトの最下段には、保険金支払額についての審査結果と決定内容を記入する欄があることからすれば、レセプトの訂正は書面上予定されている。

イ 保険者の審査権限及び訂正権限について

(ア) 保険者は、受領したレセプトについて、被保険者の資格の確認、重複請求の有無、算定の誤り等につき点検を行い、疑義があるものについては、連合会に再審査依頼を求めることができることからすれば、保険者の審査権限は否定できない。

(イ) 保険者は、連合会の会員であり、保険者の連合会に対する委託は内部的事務処理の行使と解すべきところ、保険者は、連合会の有する審査権限及び訂正権限を当然に有している。

ウ 審査委員会の調査権限について

法八九条は、都道府県知事の承認さえ得れば、審査委員会も調査権限があることを認めているのであるから、控訴人が直接調査権限のないことを理由として被控訴人の訂正請求を門前払いしたことは違法である。

エ 本件条例にいう個人情報と訂正について

(ア) 個人情報の内容

本件条例にいう個人情報とは、個人に関する情報で、個人が識別され、又は識別され得るものをいうところ、個人情報は、控訴人が作成した文書等にとどまらず、第三者が作成したものでも、個人に関する情報で、個人が識別され、又は識別され得るものであって、かつ京都市が保有しているものは、これに含まれる。そして、レセプトは、個人情報である。

(イ) 訂正の対象範囲

本件条例の目的は、京都市が保有する個人情報の開示、訂正及び削除を請求する権利を保障することであり、同条例二一ないし二三条で誤った個人情報の訂正が保障されている。

同条例二条(5)号は、公文書とは、実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書で、実施機関が管理しているものと規定し、一五条は、公文書に記録されている個人情報の開示を請求できる旨規定し、二一ないし二三条で誤った個人情報の訂正が保障されている。すなわち、京都市が作成したものでなくても、京都市の職員が職務上取得し、公文書に記録されている個人情報が誤っていれば、その内容を訂正すべきである。その情報を記載した文書の作成権限や文書の狭義の訂正権限は問わない。作成権限もなく、狭義の訂正権限(文書そのものへの訂正権限)がなくとも、京都市が保有する個人情報の内容を訂正するという意味の広義の訂正をするべきである。

控訴人の主張によると、京都市が取得した公文書の個人情報が誤っていても、それが第三者の作成文書であるため、文書自体を京都市が狭義に訂正できなければ、つまり独自に訂正権限を有する京都市の作成文書でなければ、訂正できないことになる。したがって、誤った情報が訂正されないまま京都市に保有し続けられるという、本件条例の目的に反する結果となる。

オ 本件条例上の必要な調査について

本件条例二三条一項は、実施機関は、訂正請求があったときは、必要な調査をしたうえ、訂正をする旨又はしない旨の決定をしなければならないと規定している。同条例においては、条例の義務づける必要な調査につき、実施機関と調査権限の関係についての明確な規定は存在しない。

実施機関が、文書の作成者に対し、独自に調査権限を有しないから必要な調査が不可能であるというわけではない。必要な調査は、法的に調査権として明示し確立されているものに限定する必要はない。

第3  証拠関係

証拠関係は、原審及び当審の各記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第4  当裁判所の判断

当裁判所の判断は、次のとおり付加等するほかは、原判決「事実及び理由」の「第三 当裁判所の判断」欄(一一頁九行目から一九頁九行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

1  一三頁五行目の「3」の次に、「(1)」を付加する。

2  一四頁初行の次に改行して、次のとおり付加する。

「(2) すなわち、本件条例は、基本的人権を擁護するうえで個人情報の保護が重要であることにかんがみ、個人情報の適正な取扱いの確保に関し必要な事項を定めるとともに、京都市が保有する個人情報の開示、訂正及び削除を請求する権利を保障することにより、個人の権利利益の保護及び市政の公正かつ適正な運営に資することを目的として制定されたものであり(一条)、第三章において、実施機関に対する個人情報の開示、訂正及び削除を求める具体的請求権を創設的に認めたものである。したがって、個人情報を開示、訂正するか否かの要件は、本件条例の文言に即し、その制定趣旨に基づいて解釈すべきであり、本件条例の文言から離れて本件条例を解釈すべきではない。

(3) 本件条例二条は、(ア)個人情報とは、個人に関する情報で、個人が識別され、又は識別され得るものをいう、(イ)実施機関とは、京都市長等をいう、(ウ)公文書とは、実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書等で、決定、供覧その他これらに準じる手続が終了し、実施機関が管理しているものをいう、と各用語を定義している((1)号、(2)号及び(5)号)。上記定義からすれば、実施機関が自己の名義で作成した文書(以下「自己文書」という。)にとどまらず、第三者がその名義で作成した文書(以下「第三者文書」という。)であっても、実施機関の職員が職務上取得した文書で、決定、供覧その他これらに準じる手続が終了し、実施機関が管理しているものは公文書に該当することになる。すなわち、公文書が自己文書に限られるのであれば、実施機関の職員が職務上「取得した文書の表現は不要であるから、この部分は、第三者文書であっても、実施機関の職員が職務上取得した文書は公文書に該当すると解釈されなければならない。

(4) 本件条例一五条一項は、何人も、実施機関に対し、自己の個人情報で、(ア)平成四年二月一日以後に作成し、又は取得した公文書、(イ)平成四年二月一日以前に作成し、又は取得した公文書で一定のもの等の開示を請求することができる旨規定している。本件レセプトは、被控訴人を診療した個々の保険医療機関等が、法に定める保険請求の規定に基づいて、被控訴人に対して担当した療養の給付に関する費用を京都市に請求するために作成したものであり、京都市の職員が職務上作成した文書ではないが、京都市が保険医療機関等に支払った診療報酬額の明細となるため、京都市の職員が、歳入歳出の証拠書類の一部として保管しているものである(弁論の全趣旨)。被控訴人は、本件条例一五条一項に基づき、実施機関に対し、本件レセプトの開示を請求し、実施機関は、一八条一項の規定により、被控訴人に対し、本件レセプトを開示した(争いのない事実)。

(5)ア 本件条例二一条一項は、一八条一項の規定による開示を受けた自己の個人情報の内容に事実についての誤りがあると認める者は、実施機関に対し、その訂正を請求することができる旨規定している。これによれば、訂正請求権者は、「一八条一項の規定による開示を受けた自己の個人情報の内容に事実についての誤りがあると認める者」であり、訂正請求の対象は、「一八条一項の規定による開示を受けた自己の個人情報の内容」である。一八条一項の規定による開示の対象は、前記のとおり、実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書等で、実施機関が管理しているものであるところ、二一条一項は、訂正請求の対象を定めるに当たって、第三者文書を排除していないこと、自己の個人情報の内容に事実についての誤りがある場合に、訂正の必要があることは、自己文書でも第三者文書でも変わりがないことからすれば、第三者文書も、訂正請求の対象になると解すべきである。

イ  この点について、控訴人は、上記第2、2、(1)、アのとおり、主張する。

確かに、一般的に、文書の作成名義人以外の者は、訂正権限が付与されていない限り、当該文書そのものを訂正することはできないといわなければならず、本件条例は、文書の訂正権限と本件条例の定める訂正請求との関係についての明確な規定をおいていないが、本件条例は、自己の個人情報の内容たる事実に誤りがある場合において、誤りの部分を明らかにする必要があるため、自己の個人情報の開示を受け、その内容に事実についての誤りがあると認める者に対し、その訂正を請求することができる旨の具体的権利を付与したものであるところ、控訴人の主張によると、第三者文書について個人情報の内容たる事実に誤りがあっても実施機関に訂正権限が付与されていない限り、当該文書による誤った情報が訂正されないまま、実施機関に保有し続けられることになり、上記主張を前提とすると、本件条例の目的を達成することができなくなるといわなければならない。

本件条例が規定する訂正請求の目的とするところは、個人情報の内容たる事実の誤り部分を明らかにすることにあり、実施機関は、個人情報の内容に事実についての誤りがある場合、当該文書そのものの訂正権限の有無にかかわらず、当該文書の誤り部分を明らかにするため、本件条例に基づき、訂正の措置をとることができるし、とらなければならないと解すべきである。本件条例は、訂正権限が付与されている者による当該文書そのものの訂正を想定しているのではなく、上記のような訂正の措置を請求できる権利を付与したものと解するのが相当である。

そして、レセプトは、保険医療機関等がどのような内容の診療報酬請求をしているかを表象している記録であるが、その部分には、被保険者が受けたとされる医療内容が個人情報として記載されているものであるから、その開示を受け、その内容に事実についての誤りがあると認める者は、その訂正を請求することができるというべきである。

したがって、控訴人の上記第2、2、(1)、ア中の第三者による訂正ができない旨の主張は理由がない。」

3  一七頁二行目の次に改行して、次のとおり付加する。

「本件条例二三条一項は、実施機関は、訂正請求があったときは、必要な調査をしたうえ、当該請求に係る個人情報の訂正をする旨又はしない旨の決定をしなければならないと規定しているところ、本件条例は、個人情報の開示、訂正及び削除を求める具体的請求権を創設的に認めたものであるから、この規定により、上記決定を行うに当たり、実施機関に訂正請求に関する必要な調査権及び調査義務を認めたものと解される。そして、本件条例二二条二項は、訂正請求者は、請求書に、請求する訂正の内容が事実に合致することを証する資料を添付しなければならない旨規定しているから、個人情報の内容に事実についての誤りがあることの立証責任を訂正請求者に負わせたものと認められる。

控訴人は、上記第2、2、(1)、ア中、イ及びオにおいて、保険者である京都市は、法四五条四項において、保険診療報酬請求について審査し、支払うことと定められているが、法は、保険者に対し、この審査のための調査権限を認めておらず、レセプトの記載自体からの審査権限しかないところ、このような審査権限から、保険者である京都市の訂正権限を導き出されるものではない旨主張する。

確かに、保険者である京都市は、国民健康保険の療養の給付に関する費用の審査及び支払に関する事務を連合会に委託しており、そのため、連合会において、提出されたレセプトについて審査が行われる扱いになっている。また、個々の保険医療機関等に対し、診療録等の提出又は提示を求めたり、出頭や説明を求めるなどの調査権限は、都道府県知事及び審査委員会のみに認められており、保険者である市町村にこれを認める法の規定は見当たらない。

しかし、およそ行政官庁の権限は、その行政官庁自身が行使し、最終的な責任を負うのが原則であるから、法に基づき、保険者である京都市が上記事務を連合会に委託したとしても、保険者である京都市は、そのすべての権限ないし責任を失うのではなく、受託者に対する指揮監督権を留保していると解すべきである。

ところで、上記訂正請求権は、本件条例に根拠を置くものであるところ、上記のとおり、本件条例は、訂正請求に係る決定を行うに当たり、実施機関に訂正請求に関する必要な調査権及び調査義務を認めていると解されるから、実施機関は、国民健康保険法に基づくレセプトの審査権限、調査権限及び訂正権限の有無と関係なく、上記調査権を行使して、被控訴人が求める訂正内容について訂正されるべきか否かの判断を行うべきであり、法において保険者である京都市に審査権限及び調査権限が認められていないからとの理由だけで、当該請求に係る個人情報の訂正をしない旨の決定をすることは許されないものといわなければならない。そして、本件条例の予定する上記調査に当たっては、上記指揮監督権も含めた実施機関の有するすべての権限を適正かつ誠実に行使すべきであり、そのようにして行われた調査の内容並びに訂正請求者が請求書に添付した請求する訂正の内容が事実に合致することを証する資料を総合的に検討し、その結果、当該個人情報の内容たる事実について誤りが存在すると認めたときは、訂正をする旨の決定をし、存在しないと認めたときは、訂正をしない旨の決定をすることとなるが、上記検討の結果、なお個人情報の内容たる事実について誤りの有無が不明であれば、上記のとおり、個人情報の内容たる事実について誤りが存在することの立証責任は訂正請求者にあるのであるから、当該請求に係る個人情報について訂正をしない旨の決定をせざるを得ないことになるのであって、法に基づくレセプトの審査権限及び調査権限を有しないことを理由に、本件条例の予定する調査を行わないまま当該請求に係る個人情報について訂正をしない旨の決定をすることはできないというべきである。

したがって、控訴人の上記第2、2、(1)、ア中、イ及びオの保険者の審査権限に関する主張は理由がない。」

4  一八頁九行目の次に改行して、次のとおり付加する。

「控訴人は、当審においても、上記第2、2、(1)、ウのとおり主張する。しかし、前記のとおり、本件条例が規定する訂正は、訂正権限が付与されている者による当該文書そのものの訂正を想定しているのではなく、また、実施機関が訂正するべきか否かの判断をするためには、法に基づくレセプトの審査権限、調査権限及び訂正権限の有無と関係なく、本件条例に基づく調査権を行使して行うべきである。したがって、控訴人の上記主張は理由がない。

さらに、控訴人は、上記第2、2、(1)、エのとおり主張する。確かに、都道府県知事の調査権限が保険者である京都府に帰属することを認める法の規定はない。しかし、前記のとおり、本件条例が規定する訂正は、訂正権限が付与されている者による当該文書そのものの訂正を想定しているのではなく、また、実施機関が訂正するべきか否かの判断をするためには、法に基づくレセプトの審査権限、調査権限及び訂正権限の有無と関係なく、本件条例に基づく調査権を行使して行うべきであるから、結局、控訴人の上記主張も理由がない。」

第5  結論

以上によれば、控訴人は、被控訴人の本件レセプトの訂正請求について、必要な調査をしたうえ、当該請求に係る個人情報について訂正をする旨又はしない旨の判断をすべきであったのに、訂正する権限がないこと及び法に基づく調査権限がないことを理由に、被控訴人の本件訂正請求の訂正をしないことを決定した本件処分は違法といわなければならない。

よって、控訴人の主張は理由がないから、本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・見満正治、裁判官・辻本利雄、裁判官・一谷好文)

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