大阪高等裁判所 平成13年(行コ)13号 判決 2002年1月25日
主文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 控訴人の被控訴人Aに対する平成11年11月24日付公文書名「知事交際費支出関係書類,出納簿(平成11年8月ないし10月)」に関する公文書一部開示決定中,別紙非開示部分目録に記載した部分を非開示とした処分のうち,別紙知事交際費一覧表記載の番号72,75,76,78,84,87,89,90,92,95,102,104,113の情報が記録されている交際費前渡資金現金出納簿,交際費執行伺書,支出証明書,請求書,領収書(領収証),振込金受取書,郵便振替払込金受領証の各部分(但し,債権者の振込先銀行名,口座番号,従業員の氏名及び印影部分を除く。)及び支出命令書の部分(資金前渡職員の振込銀行名,口座部分)を非開示とした処分を取り消す。
3 控訴人の被控訴人Bに対する平成11年11月1日付公文書名「知事交際費支出関係書類,出納簿(平成11年4月ないし9月)」に関する公文書一部開示決定中,別紙非開示部分目録に記載した部分を非開示とした処分のうち,別紙知事交際費一覧表記載の番号3,12,14,16,20,22,24,30,31,43,44,49,50,53,72,75,76,78,84,87,89,90,92,95,102,104の情報が記録されている交際費前渡資金現金出納簿,交際費執行伺書,支出証明書,請求書,領収書(領収証),振込金受取書,払込票兼受領証,郵便振替払込金受領証の各部分(但し,債権者の振込先銀行名,口座番号,従業員の氏名及び印影部分を除く。)及び支出命令書の部分(資金前渡職員の振込銀行名,口座部分)を非開示とした処分を取り消す。
4 被控訴人らのその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを3分し,その1を控訴人の,その余を被控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人らの請求を棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審を通じて被控訴人らの負担とする。
第2事案の概要
1 本件は,被控訴人Aが,控訴人に対し,奈良県情報公開条例(平成8年3月27日奈良県条例第28号・以下「本件条例」という。)に基づき,「知事交際費支出関係書類,出納簿(平成11年8月ないし10月)」の開示を,及び被控訴人Bが,控訴人に対し,本件条例に基づき,「知事交際費支出関係書類,出納簿(平成11年4月ないし9月)」の開示をそれぞれ請求したところ,控訴人は被控訴人Aの請求については平成11年11月24日付で,同Bの請求については同年11月1日付で,別紙非開示部分目録(以下「非開示目録」という。)記載の部分についてこれを非開示とする公文書一部開示決定をしたので,被控訴人らが控訴人に対し非開示部分の取り消しを求めた事案である。原審は,非開示目録4の従業員の氏名,印影を除いて,その余の部分を非開示とした上記決定を取り消したところ,控訴人が敗訴部分の取消しを求めて控訴に及んだ。
2 前提となる事実
争いのない事実に証拠(認定事実に付記したもの)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実を認めることができる。
(1) 当事者
被控訴人らはそれぞれ奈良県の住民であり,控訴人は本件条例2条1項の実施機関である。
(2) 本件条例の内容(原審甲事件及び乙事件の各乙1)
本件条例には以下の定めがある。
1条(目的) この条例は,県民の公文書の開示を求める権利を明らかにするとともに,情報公開の総合的な推進に関し必要な事項を定めることにより,県政に対する県民の理解と信頼を深め,県民の県政への参加を促進し,もって公正で開かれた県民本位の県政を一層推進することを目的とする。
3条(解釈及び運用) 実施機関は,この条例の解釈及び運用に当たっては,県民の公文書の開示を求める権利を十分に尊重するものとする。この場合において,実施機関は,個人に関する情報がみだりに公にされることがないよう最大限の配慮をしなければならない。
10条 実施機関は,公文書の開示の請求に係る公文書に次の各号のいずれかに該当する情報が記録されているときは,当該公文書の開示をしないことができる。
2号 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,特定の個人が識別され,又は識別され得るもの。ただし,次に掲げる情報を除く。
ア 法令等の規定により何人でも閲覧することができる情報
イ 公表することを目的として実施機関が作成し,又は取得した情報
ウ 法令等の規定による許可,免許,届出等の際に実施機関が作成し,又は取得した情報であって,開示することが公益上必要であると認められるもの
3号 法人(国及び地方公共団体を除く。)その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって,開示することにより,当該法人等又は当該事業を営む個人の競争上又は事業運営上の地位,社会的信用その他正当な利益が損なわれると認められるもの。ただし,次に掲げる情報を除く。
ア 事業活動によって生じ,又は生ずるおそれがある危害から人の生命,身体又は健康を保護するために,開示することが必要であると認められる情報
イ 違法又は不当な事業活動によって生じ,又は生ずるおそれがある支障から人の財産又は生活を保護するために,開示することが必要であると認められる情報
ウ ア又はイに掲げる情報に準ずる情報であって,開示することが公益上必要であると認められるもの
8号 県又は国等が行う取締り,監査,検査,許可,認可,試験,入札,交渉,渉外,争訟,人事その他の事務事業に関する情報であって,開示することにより,当該事務事業の目的が損なわれるおそれがあるもの,特定のものに不当な利益若しくは不利益が生ずるおそれがあるもの,関係当事者間の信頼関係若しくは協力関係が損なわれると認められるもの又は当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれがあるもの。
11条(公文書の一部開示) 実施機関は,公文書の開示の請求に係る公文書に前条各号のいずれかに該当する情報が記録されている場合において,当該情報が記録されている部分とそれ以外の部分とを容易に分離することができ,かつ,当該分離により公文書の開示の請求の趣旨が損なわれることがないと認めるときは,当該情報が記録されている部分を除いて,公文書の開示をするものとする。
(3) 奈良県情報公開条例の解釈運用基準(原審甲事件甲3)
平成8年7月5日に制定された奈良県情報公開条例の解釈運用基準(以下「本件基準」という。)中には以下の記載がある(「解釈」につき本件に関連すると思われる部分の抜粋である。)。
① 本件条例10条2号
ア 「個人に関する情報」とは,次のような個人に関する一切の情報をいう。
(ア) 思想,信条,信仰等個人の内心の秘密に関する情報
(イ) 職業,資格,学歴等個人の経歴又は社会的活動に関する情報
(ウ) 収入,資産等個人の財産の状況に関する情報
(エ) 健康状態,病歴等個人の心身の状況に関する情報
(オ) 家族関係,生活記録等個人の家庭の状況に関する情報
イ 「事業を営む個人の当該事業に関する
情報を除く」とは,個人に関する情報であっても,事業を営む個人の当該事業に関する情報は,性質上,本条3号(法人等事業活動情報)で判断するものとし,本号から除外するという趣旨である。
なお,事業を営む個人に関する情報であっても,当該事業とは直接関係のない個人に関する情報は,本号に含まれる。
ウ 「特定の個人が識別され,又は識別され得るもの」とは,当該情報から特定の個人が明らかに識別され,又は識別され得る可能性がある場合をいい,次のような情報をいう。
(ア) 住所,氏名等のように個人が直接識別される情報
(イ) 他の情報と結び付けることにより,間接的に特定の個人が識別され得る情報
エ ただし書イについて
「公表することを目的として実施機関が作成し,又は取得した情報」とは,次のような個人情報をいう。
(ア) 公表することを目的として作成された情報
(イ) 当該個人が公表されることを了承し,又は公表されることを前提として提供した情報
(ウ) 当該個人が自主的に公表した資料等から何人も知り得る情報
(エ) 公にすることが慣行となっており,公表しても社会通念上個人のプライバシーを侵害するおそれがないと認められる情報
② 本件条例10条3号
ア 「当該事業に関する情報」とは,営利を目的とするかどうかを問わず,事業内容,事業用資産,事業所得等事業活動に関する一切の情報をいう。
なお,当該事業とは直接関係のない個人に関する情報(家族構成等)は,本号には該当せず,本条2号(個人情報)の規定により開示・非開示を判断するものとする。
イ 「競争上又は事業運営上の地位,社会的信用その他正当な利益が損なわれると認められるもの」とは,次のような情報をいう。
(ア) 生産技術上のノウハウに関する情報
(イ) 営業上又は販売上のノウハウに関する情報
(ウ) 経営方針,経理,人事等の内部管理に関する情報
(エ) 社会的評価,社会的信用等に関する情報
③ 本件条例10条8号
ア 本号に列挙している事務事業は,代表的なものを例示したものである。
イ 「その他の事務事業」に関する情報とは,例示した事務事業のほか,県又は国等の機関が行う一切の事務事業に関する情報をいう。
ウ 「当該事務事業の目的が損なわれるおそれがあるもの」とは,事務事業の性質上,それらに関する情報を開示すれば,当該事務事業の目的に沿った成果が得られないなど支障が生じ,又は実施する意味を喪失するおそれがある場合等をいう。
エ 「関係当事者間の信頼関係若しくは協力関係が損なわれると認められるもの」とは,公にしないことを条件に任意に提供された情報等のように,開示することにより,関係当事者間の信頼関係若しくは協力関係が損なわれ,それ以降における情報収集や相手方の理解協力を得ることが困難になり,あるいは,約束違反の責任が追及され損害賠償の原因等となるおそれがある情報をいう。
(4) 本件処分の経緯(原審甲事件甲1,原審乙事件甲1の1・2)
① 被控訴人Aは,平成11年11月11日,控訴人に対し,「知事交際費支出関係書類,出納簿(平成11年8月ないし10月)」の開示の請求をした(以下「本件A請求」という。)。
また,被控訴人Bは,平成11年10月26日,控訴人に対し,「知事交際費支出関係書類,出納簿(平成11年4月ないし9月)」の開示の請求をした(以下「本件B請求」という。本件A請求と本件B請求をあわせて以下「本件請求」という。)。
② 控訴人は,本件請求にかかる公文書を,交際費前渡資金現金出納簿,支出負担行為変更決議書,支出命令書,交際費執行伺書,精算書並びにその添付書類としての請求書,領収書,振込金受取書及び支出証明書と特定した。
③ 控訴人は,本件A請求に対しては平成11年11月24日,本件B請求に対しては同月1日それぞれ,①非開示目録1記載部分については本件条例10条2号及び8号に,②同目録2記載部分については本件条例10条8号に,③同目録3記載部分については本件条例10条3号に,④同目録4記載部分については本件条例10条2号にそれぞれ該当するとの理由で開示しないこととし,その余の公文書を開示する旨の決定を行った(上記のとおり控訴人が本件A請求,本件B請求に対してした公文書一部開示決定は,月こそ一部異なるが,非開示の部分並びに非開示の理由ともに同一であって,以下本件請求に対するそれぞれの決定をあわせて「本件処分」,本件処分によって非開示とされた部分を「本件非開示部分」という。)。
3 当事者の主張
(1) 控訴人の主張
① 非開示目録1について
本件条例10条2号本文は,個人のプライバシー概念は抽象的であり,その具体的内容や保護すべき範囲が明確でなく,個人情報は一度開示されるとその被害回復はほとんど不可能であるところから,広く個人に関する情報で,特定の個人が識別され得る情報を非開示としたものである。そして,本号にいう「個人に関する情報」とは,氏名,住所のほか,①思想,信条,信仰等個人の内心の秘密に関する情報,②職業,資格,学歴等個人の経歴又は社会的活動に関する情報,③収入,資産等個人の財産の状況に関する情報,④健康状態,病歴等個人の心身の状況に関する情報,⑤家族関係,生活記録等個人の家庭の状況に関する情報をいい,「特定の個人が識別され,又は識別され得るもの」とは,特定の個人が明らかに識別され又は識別され得る可能性がある場合をいうものである。
交際費前渡資金現金出納簿,交際費執行伺書,請求書、領収書,振込金受取書及び支出証明書には,お見舞いや香料,樒代,お祝い等の相手方等を示す情報として,個人の氏名,肩書き,印影等が記載・捺印されている。これらは,特定の個人が識別され,又は他の情報と組み合せることにより,特定の個人が識別され得る情報であって,本号本文に該当する。
交際費の相手方が本号ただし書のア及びウに該当しないことは明らかであるが,交際費支出の事実が一般に公表,披露されることがもともと予定されているものは,本号ただし書イに該当すると考えられる。しかし,お見舞いや,香料,樒代,お祝い等の支出は,当該相手方個人の私生活等に関連してなされたものであり,その性質,内容等からしても,一般に公表,披露されることが予定されているものではないから,本号ただし書イにも該当しない。
② 非開示目録1,2について
本件条例10条8号にいう「その他の事務事業」とは,条例に具体的に例示されている渉外等の外,県又は国等の機関が行う一切の事務事業をいうものであり,知事の交際事務は「その他の事務事業」に該当する。
また,知事の交際事務には,懇談,慶弔,見舞い,賛助,協賛,餞別などのようにさまざまなものがあるが,いずれにしても,これらは,相手方との間の信頼関係ないし友好関係の維持増進を目的として行われるものである。そして,相手方の氏名等の公表,披露が当然予定されるような場合等は別として,相手方を識別し得るような公文書の公開によって相手方の氏名等が明らかにされることになれば,懇談については,相手方に不快,不信の感情を抱かせ,今後県の行うこの種の会合への出席を避けるなどの事態が生ずることも考えられ,また一般に,交際費の支出の要否,内容等は,県の相手方とのかかわり等を斟酌して個別に決定されるという性質を有するものであることから,不満や不快の念を抱く者が出ることが容易に予想される。そのような事態は,交際の相手方との間の信頼関係あるいは友好関係を損なうおそれがあり,交際それ自体の目的に反し,ひいては交際事務の目的が達成できなくなるおそれがあるというべきである。さらに,これらの交際費の支出の要否やその内容等は,支出権者である知事自身が,個別,具体的な事例ごとに,裁量によって決定すべきものであるところ,交際の相手方や内容等が逐一公開されることとなった場合には,知事においても前記のような事態が生じることを懸念して,必要な交際費の支出を差し控え,あるいはその支出を画一的にすることを余儀なくされることも考えられ,知事の交際事務を適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれがあるといわなければならない。したがって,公文書のうち交際の相手方が識別され得るものは,相手方の氏名等が外部に公表,披露されることがもともと予定されているものなど,相手方の氏名等を公表することによって前記のようなおそれがあるとは認められないようなものを除き,本件条例10条8号により,公開しないことができる文書に該当する(最高裁平成3年(行ツ)第18号・平成6年1月27日第1小法廷判決(以下「平成6年判決」という。)参照)。
本件において非開示とされている情報は,慶祝,弔慰,お見舞い,賛助・会費であるが,これはいずれも広く一般県民に公表・披露することがもともと予定されている情報ではない。したがって,これらの交際の相手方に関する情報は,「開示することにより,関係当事者間の信頼関係若しくは協力関係が損なわれると認められるもの」,及び「当該事務事業の・・・・・・※公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれがあるもの」に当たるから,本件条例10条8号により,公開しないことができる文書に該当する。
また,本件条例10条8号が規定している要件は,その意味内容が一義的に明確なものではなく,多かれ少なかれ判断的な要素を含むものであり,その的確な判断のためには行政事務の全容把握が必要となるから,同要件該当性の判断については,性質上行政庁(実施機関)に一定限度の裁量が認められるべきである。そして当該判断の適否については,裁判所は,行政機関の判断を前提として,その判断が合理的なものといえるか否かを判断すべきであって,裁判所が独自に実施機関と同じ立場に立って判断をやり直すべきではない。
③ 非開示目録3について
本件条例10条3号にいう「競争上又は事業運営上の地位,社会的信用その他正当な利益が損なわれると認められるもの」とは,次のような情報をいうものである。
ア 生産技術上のノウハウに関する情報
イ 営業上又は販売上のノウハウに関する情報
ウ 経営方針,経理,人事等の内部管理に関する情報
エ 社会的評価,社会的信用等に関する情報
振込金受取書に記載されている債権者の振込先銀行名及び口座番号等は,当該事業者が事業活動を行う上での重要な経理等の内部管理に関する情報で,当該事業者が取引関係にない者にまで積極的に公表しているものではないし,広く一般に知られているものでもない。
これらの情報をどの範囲で誰に開示するかは当該事業者が自由に選択決定しうるものであり,事業者の同意もなく,その事業活動とも無関係に広くこれを開示すれば,事業者の正当な利益が損なわれるので,債権者の振込先銀行名,口座番号等は同号本文に該当する。また,この情報は,人の生命,身体,健康,財産又は生活を保護するために開示することが必要な情報ではないし,開示することが公益上必要と認められる情報にも当たらないから,本号ただし書のいずれにも該当しない。
④ 非開示目録4について
ア 従業員の氏名,印影は,本件条例10条2号に該当する。
債権者からの請求書及び領収書には,それを担当した従業員の氏名並びに私印と認められる印影が記載・捺印されており,これらは特定の個人が識別されるものであるので,本号本文に該当する。従業員の氏名,印影が,本号ただし書ア及びウに該当しないことは明らかであり,また,それは県民の要望に応えて公表することが予定されている情報とは認められないから,本号ただし書イにも該当しない。
イ 資金前渡は,当該地方公共団体の職員に概括的に経費の金額を交付して現金支払いをさせ,事後に精算処理が行われる制度であり,資金前渡職員となった職員は,交付を受けた経費の目的内において,その支出管理を行うことになる。そして,前渡資金の交付は,当該職員が資金前渡用として開設した口座を通じて行われるので,当該口座の振込先銀行名及び口座番号等は,職員個人に関する情報であって,特定の個人が識別されるものであり,本号本文に該当する。そして,前渡資金用の口座は,前述のとおり,適正かつ安全に前渡資金を管理するため,資金前渡職員がそれ専用の個人口座を開設したものであるから,当該口座の情報は県民の要望に応えて公表することが予定されている情報ではなく,本号ただし書イには該当しない。また,それが本号ただし書ア及びウに該当しないことは明らかである。
⑤ 最高裁は,平成13年3月27日,大阪府知事の交際費支出に関する公文書の非開示処分取消請求事件についての判決(最高裁平成8年(行ツ)第210号,211号第3小法廷判決,以下「大阪府知事事件判決」という。)を,平成13年5月29日,京都府知事の交際費支出に関する公文書の非開示処分取消請求事件についての判決(最高裁平成9年(行ツ)第152号第3小法廷判決,以下「京都府知事事件判決」という。)をそれぞれ言い渡したが,大阪府条例の8条4号,5号及び京都府条例の5条6号と奈良県条例の10条8号,大阪府条例の9条1号及び京都府条例の5条1号と奈良県条例の10条2号は,それぞれ基本的に同趣旨を定めており,上記両事件の判旨は,本件にもほとんどそのまま当てはまる。
ただ,大阪府知事事件判決は,生花料,供花料及びしきみ料と団体の会費は開示すべきとしているが,この点は,次の理由で妥当ではない。
ア 生花,供花及びしきみは,葬儀会場で参列者の目に触れることがあっても,その参列者は通常故人及びその遺族と懇意にしてきた人々のみであり,対象者は自ずから限定されるので,相手方及び内容等が不特定の者に知られることを容認しているものとはいえない。
イ 会費には,維持会費と出席会費とがあるが,維持会費の場合,その額は当該団体が定めるものであっても,知事があて職でその役員等でない限り,会に加入するか否かはその都度知事自身が判断している。また,出席会費の場合,その額は当該団体が定めるものであっても,出席するか否かは,相手方とのかかわり等を個別に斟酌して,知事自身が判断している。そして,同日同時間帯に知事宛に案内のある行事は数多く存在し,その中から特定の会のみに出席するため,相手方を開示すれば,当該相手方との信頼関係あるいは友好関係を損なうおそれがあるばかりではなく,出席できなかった相手方に不満や不快の念を抱く者がでることは容易に予想されるところである。
(2) 被控訴人らの主張
① 非開示目録1について
本件条例10条2号本文の条文の構造からすると,開示しないとができる情報であることの要件は,「個人に関する情報」であり,かつ,「特定の個人が識別され,又は識別され得る」ものであることである。
「個人に関する情報」の具体的内容はさまざまであり,公開することにより被害が発生するか否かも被害内容も千差万別であり,被害回復がほとんど不可能かどうかも一様ではない。そうすると,本号において保護されるべき「個人に関する情報」は,公開されることにより重大な被害を受けることが予想され,かつ,この被害の回復が困難なものに限られると解するべきである。仮に「個人に関する情報」に該当するということであれば,この事情につき控訴人側において具体的に主張立証しなければならない。
② 非開示目録1,2について
本件条例10条8号の要件を満たすためには,「県又は国等が行う取締り,監査,検査,許可,認可,試験,入札,交渉,渉外,争訟,人事その他の事務事業に関する情報」であることと,「開示することにより,当該事務事業の目的が損なわれるおそれがあるもの,特定のものに不当な利益若しくは不利益が生ずるおそれがあるもの,関係当事者間の信頼関係若しくは協力関係が損なわれると認められるもの又は当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれがあるもの」であることの2つの要件が満たされなければならない。仮に本号に該当するというには,控訴人の側においてそれぞれの要件を具体的に立証する必要がある。
③ 非開示目録3について
本件条例10条3号本文に該当するには,「法人(国及び地方公共団体を除く。)その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報」であって,「開示することにより,当該法人等又は当該事業を営む個人の競争上又は事業運営上の地位,社会的信用その他正当な利益が損なわれると認められるもの」の要件がそれぞれ満たされなければならない。仮に本号に該当するというには,控訴人の側においてそれぞれの要件を具体的に立証する必要がある。
④ 非開示目録4について
ア 従業員の氏名,印影は通常の業務において公にしているものであって,当該従業員個人の私的な生活場面に関係する情報は何も含まれていないから,従業員が回復困難な重大な不利益を被るということは通常考えられない。したがって従業員の氏名,印影は「個人に関する情報」に該当しない。
イ 支出命令書は行政文書であり,資金前渡は職務の一環として行われるものである。資金前渡職員の振込先銀行名と口座番号は職務上与えられたものであって,当該職員の私生活にはおおよそ無関係な情報であり,「個人に関する情報」に該当しない。
⑤ 大阪府知事判決及び京都府知事判決について
ア 大阪府知事判決及び京都府知事判決は,それら自体問題のある判決であるが,その点はおいても,前者は昭和60年10月29日に,後者は平成2年6月19日にそれぞれ非公開処分がなされた知事交際費に関する事案であり,平成11年11月24日に非公開処分がなされた本件とでは,非公開処分の時期が著しく異なる。
取消訴訟における行政処分の違法性判断の基準時は当該処分時であるというのが判例,通説であるところ,上記両判決は行政処分時の条例解釈に基づかなければならないという制約のもとになされた判断であり,両判決が平成11年当時における情報公開条例の解釈、適用による首長交際費にかかる支出関連文書の公開の可否について何らかの判断を行ったものとは到底いえない。むしろ,上記各判決は,各地方自治体において既に首長交際費について全面公開の流れが定まった中でなされた本件処分に対しては,異なる判断を行うことを認めているとさえいえる。
イ 平成6年判決以降,本件処分がなされた平成11年11月24日,あるいは現在まで,多数の自治体による知事等首長の交際費の公開が行われ,しかも,公開によって交際事務に何らかの支障が生じているという事実はまったくない。そして,本件処分時までに,国民の間でも,自治体の知事交際費が公開されることは周知の事実となっていた。本件処分がなされた平成11年11月当時においては,交際費の公開という情報公開条例の解釈,運用は,国民一般の常識として定着しているといってよい。このような自治体行政の変化に伴って社会的に証明された「公開によっても何ら交際事務に支障が生ずることはない」という事実は,本件条例の解釈,適用において決定的な意味を持つ事実であり,かつ,大阪府知事判決及び京都府知事判決の妥当範囲,限界を本件訴訟の判決において明らかにするに必要かつ十分な事実といわねばならない。
第3当裁判所の判断
1 本件各文書の記載内容等
前提となる事実に証拠(原審甲事件甲2の1~40,乙2の1~26,3,4の1~24,6の1~26,7の1~41,8の1~24,原審乙事件乙2の1~33,3の1~35,4の1~30,5の1~22,6の1~26,7の1~41)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実を認めることができる。
(1) 交際費前渡資金現金出納簿には,現金の出納状況を,年月日,項目,摘要,収入金額・支出金額に分けて記載し,そのうち項目欄にはその使途の種別(会費・賛助,弔慰,慶祝,お見舞,餞別,名刺等)が記載されている。また,摘要欄には具体的使途(お祝い,お祝い花代,香料,ご霊前,供花料,樒代,お供え,盛篭,お見舞い,お見舞い花代,会費,賛助,寸志,餞別,名刺代,葉書代)と支出の相手方が記載されており,前者については開示されているが,後者については非開示とされている。
(2) 交際費執行伺書には,執行予定日,支出項目,支出の相手方・内容,支出予定額が記載されており,そのうち支出の相手方・内容は,交際費前渡資金現金出納簿の摘要欄記載のものと同様の記載があり,具体的使途については開示されているが,支出の相手方は非開示とされている。
(3) 添付書類である請求書,領収書(領収証),振込金受取書及び支出証明書等には,品目,金額,日付,支出の相手方,支出の内容等が記載されているが,そのうち,支出の相手方,供花料等を業者に送金する場合の送金先(業者の取引銀行名,振込口座等),会費を送金する際の相手方の口座番号,領収書(領収証)の従業員の印影等は非開示とされている。
(4) 支出命令書には,資金前渡職員に対する支出の日時や金額等が記載されているが,そのうち支払方法欄の,資金前渡職員の口座振替先の銀行名,支店名,預金種目,口座番号の記載は非開示とされている。
(5) 上記各文書の記載内容を控訴人の各交際ごと(年月日順)に整理すると,別紙知事交際費一覧表(以下「別紙一覧表」という。)記載のとおりとなる(すべてが開示されているものを含む。)。
2 本件条例の解釈
(1) 本件条例10条8号該当性について
知事の前記交際は,本件条例10条8号の交渉,渉外その他の事務に該当するから,これらの事務に関する情報を記録した文書を公開しないことができるか否かは,これらの情報を公にすることにより,当該若しくは同種の交渉等事務としての交際事務実施の目的が損なわれるおそれがあるか否か,特定のものに不当な利益若しくは不利益が生ずるおそれがあるか否か,関係当事者間の信頼関係若しくは協力関係が損なわれると認められるか否か,又は当該事務若しくは将来の事務の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれがあるか否かによることとなる。
知事の交際事務は,相手方との間の信頼関係ないし友好関係の維持増進を目的として行われるものである。そして,相手方の氏名等の公表,披露が当然予定されるような場合等は別として,相手方を識別し得るような公文書の公開によって相手方の氏名等が明らかにされることになれば,懇談については,相手方に不快,不信の感情を抱かせ,今後県の行うこの種の会合への出席を避けるなどの事態が生ずることも考えられ,また,一般に,交際費の支出の要否,内容等は,県の相手方とのかかわり等を斟酌して個別に決定されるという性質を有するものであることから,不満や不快の念を抱く者が出ることが容易に予想される。そのような事態は,交際の相手方との間の信頼関係あるいは友好関係を損なうおそれがあり,交際それ自体の目的に反し,ひいては交際事務の目的が達成できなくなるおそれがあるというべきである。さらに,これらの交際費の支出の要否やその内容等は,支出権者である知事自身が,個別,具体的な事例ごとに,裁量によって決定すべきものであるところ,交際の相手方や内容等が逐一公開されることとなった場合には,知事においても前記のような事態が生じることを懸念して,必要な交際費の支出を差し控え,あるいはその支出を画一的にすることを余儀なくされることも考えられ,知事の交際事務を適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれがあるといわなければならない。したがって,本件文書のうち交際の相手方が識別され得るものは,相手方の氏名等が外部に公表,披露されることがもともと予定されているものなど,相手方の氏名等を公表することによって上記のようなおそれがあるとは認められないようなものを除き,本件条例10条8号により,公開しないことができる文書に該当する(大阪府知事事件判決及び京都府知事事件判決参照)。
(2) 本件条例10条2号該当性
本件における知事の交際は,それが知事の職務としてされるものであっても,私人である相手方からみた場合,私的な出来事である。本件条例10条2号は,個人に関する情報で特定の個人が識別され,又は識別され得るものは公開しないことができるとしている。これは,私事に関する情報のうち性質上公開に親しまないような個人情報が記録されている文書を公開してはならないとしているものと解されるが,知事の交際の相手方となった私人としては,懇談の場合であると慶弔等の場合であるを問わず,その具体的な費用,金額等までは一般に他人に知られたくないと望むものであり,そうすると,このような交際に関する情報は,その交際の性質,内容等からして交際内容等が一般に公表,披露されることがもともと予定されているものを除いては,同号に該当するというべきである。したがって,本件文書のうち私人である相手方が識別できるようなものであれば,原則として,同号により公開してはならない文書に該当する(大阪府知事事件判決及び京都府知事事件判決参照)。
(3) 被控訴人らは,大阪府知事事件判決及び京都府知事事件判決について,前者は昭和60年に,後者は平成2年に非公開処分がなされた事案であり,平成11年に非公開処分がなされた本件とでは,非公開処分の時期が著しく異なり,大阪府知事事件判決及び京都府知事事件判決の判旨は本件には妥当しない旨主張する。大阪府知事事件判決及び京都府知事事件判決の事案と本件事案とでは非公開処分の時期が異なることは被控訴人ら主張のとおりであるが,そのことが直ちに条例の解釈に影響を及ぼすものということはできない。被控訴人らは,本件処分時,あるいは現在までに多数の自治体により首長交際費の公開が行われ,交際費の全面公開という情報公開条例の解釈,運用は,国民一般の常識として定着している旨主張する。
確かに,証拠(原審甲事件甲4,5,6の1・6の2の1~4・6の3の1~3,8,9,10の1・2,当審甲11の1・2,13の1~5,14の1~20,15の1~6・8・9の1・2・12の1・2・13~18・20,16,17の1・2)及び弁論の全趣旨によれば,現在,首長交際費の全面公開あるいは全面公開に近い運用をしている自治体が相当数存すること,昭和60年あるいは平成2年より平成11年のほうがそのような運用をしている自治体が増えているであろうことは認められるが,他方,そのような運用をしていない自治体もかなり存することが認められる(当審甲16,乙20)のであって,交際費の全面公開という情報公開条例の解釈,運用が,国民一般に対する常識として定着しているとまでいえるかは疑問である。
そして,知事交際費に対する「透明化」の要請の観点からすれば,上記の運用が望ましいとはいえるとしても,そもそも,住民に公的な情報に対する開示請求権をいかなる限度で,どのような要件の下で付与するかは,地方公共団体における立法政策の問題であり,具体的な情報公開請求権の内容,範囲等は各条例に定めるところによるものと解されるのであり,上記のような運用が一部でなされているからといって,本件条例の解釈として直ちに被控訴人らにそのような情報公開請求権があることを裏付けるとまでいうことは困難であり,被控訴人らの上記主張は採用することができない。
3 本件交際費に関する情報について
(1) 会費
会費については,知事が会費を支払う事実が一般に知られ得る状態にあり,また,会費の額を当該団体が定めるものであって,知事が県の相手方とのかかわり等を斟酌して個別に決定するものでない場合等においては,これらの会費にかかる知事の交際に関する情報は,相手方の氏名等が外部に公表,披露されることがもともと予定されているものなど,相手方の氏名等を公表することによって前記2(1)のおそれがあるとは認められないものとして,本件条例10条8号に該当しないと解される。原審乙事件甲4,5及び弁論の全趣旨によれば,本件の会費のうち,別紙一覧表番号69の「日本国際連合協会奈良県本部平成11年度会費」は,控訴人において,当該規約の中で知事が職指定されており,この規約は特に非公開として扱われていないことから,あらかじめ公表,披露されていることが予定されているものに該当するとして,公開処分をしているが,その余の会費については,その都度,知事が公務とのかねあいをみながら出席するかどうかを判断しており,また,維持会費と認められるものについても,会費の支出について,公開を前提とした規約等に記載されているものなどはないので,上記公開した会費とは異なり,公表,披露されることが予定されているものではなく,相手方の氏名等が開示された場合には,入会していない団体や支出金額の多寡による団体間の不満,不快の念が生ずることが予想され,相手方との信頼関係,協力関係が損われ,交際の目的に反するおそれがあるなどの理由で非公開としているものと認められる。そして,原審甲事件乙8の1~24,原審乙事件乙6の1~26,7の1~41,8の1~24によれば,会費の支払いを受けた相手方には,団体と個人の双方が含まれていることが認められる。
以上によれば,これらの会費については,知事が会費を支払う事実が一般に知られ得る状態にあるなどということはできないから,これらの会費にかかる知事の交際に関する情報は,相手方の氏名等が外部に公表,披露されることがもともと予定されているものなど,相手方の氏名等を公表することによって前記2(1)のおそれがあるとは認められないものとはいえいないといわざるを得ない。
そうすると,別紙一覧表の項目欄に「会費・賛助」とあるうち,摘要欄に「会費」とあるものにかかる知事の交際(別紙一覧表番号1,4,32,41,59,68,70,80,81,83,94,105,107)に関する情報は,本件条例10条8号あるいは同2号に該当するものというべきである。
(2) 香料(御霊前も含む。)
香料にかかる知事の交際は,その相手方にとって私的な出来事というべきである。そして,香料は,葬儀の際に一般参列者等にこれが贈られた事実や具体的金額が披露されるようなものではなく,また,供花等が知事の名を付して飾られた香料が贈られた事実も合わせて一般参列者に知られることになったとしても,その具体的金額までが知られることは通常考えられない。そうすると,香料贈呈の事実又は少なくともその具体的金額が不特定の者に知られ得るものであったとはいえないから,これらの香料にかかる知事の交際は,少なくともその内容が不特定の者に知られ得る状態でされたものということはできず,その交際の性質,内容等からして交際内容等が一般に公表,披露されることがもともと予定されているものということはできない。したがって,香料にかかる知事の交際(別紙一覧表番号2,5,11,13,15,17ないし19,21,23,26,27,39,42,47,48,51,54,64,74,77,82,86,88,91,93,101,103,106,110,116,117)に関する情報は,本件条例10条2号に該当するものというべきである。
(3) 供花料,樒代,お供え,盛篭
供花,樒,お供え及び盛篭は,いずれも知事が交際の相手方に対し弔意を表すために贈ったものと認められるところ,これら供花等は,葬儀に際し知事の名を付して一般参列者の目に触れる場所に飾られるのが通例であり,また,これらを見ればそのおおよその価格を知ることができるものである。そうすると,これらの供花等の贈呈の事実及びその内容が不特定の者に知られ得るものであったということができるから,これらの供花等にかかる知事の交際は,その相手方の氏名及び内容が不特定の者に知られ得る状態でされたものということができる。したがって,これらの交際に関する情報は,相手方の氏名等が外部に公表,披露されることがもともと予定されているものとして,本件条例10条8号に該当しないというべきである。また,これらの情報は,その交際の性質,内容等からして交際内容等が一般に公表,披露されることがもともと予定されているものということができるから,本件条例10条2号にも該当しないというべきである。したがって,供花料等にかかる知事の交際(別紙一覧表番号3,12,14,16,20,22,24,30,31,43,44,49,50,53,72,75,76,78,84,87,89,90,92,95,102,104,113)に関する情報は,本件条例10条2号,同8号のいずれにも該当しないというべきである。
(4) お祝い及びお祝い花代
お祝いは,お祝い金贈呈の事実やその内容(具体的金額)が一般に披露されるようなものであったとは考え難いし,それらの事実が不特定の者に知られ得るものであったとはいい難い。そうすると,これらのお祝い金にかかる知事の交際費に関する情報は,少なくともその内容が不特定の者に知られ得る状態でされたものということができず,これらの交際費に関する情報は,相手方の氏名等が外部に公表,披露されることがもともと予定されているものなど,相手方の氏名等を公表することによって前記2(1)のおそれがあるとは認められないようなものということはできない。そして,上記の事情は,お祝い花代にもあてはまる。したがって,お祝い及びお祝い花代にかかる知事の交際(別紙一覧表番号6,7,9,33,35~38,46,56,58,61,66,85,97,99,100,111,112)に関する情報は,本件条例10条8号に該当するものというべきである。
(5) お見舞い及びお見舞い花代
見舞いにかかる知事の交際は,その相手方にとって私的な出来事というべきであり,交際の性質,内容等からして交際内容などが一般に公表,披露されることがもともと予定されているものということができず,お見舞い及びお見舞い花代にかかる知事の交際に関する情報(別紙一覧表番号8,34,40,62,73,96,98,108,109,114)は本件条例10条2号に該当するものというべきである。
(6) 寸志,賛助,餞別
これらの金員は,その性質からして,その贈呈の事実やその具体的金額が一般に公表,披露されるようなものであったとは考え難く,それらの事実が不特定の者に知られ得るものであったとはいい難い。そうすると,これら寸志等に係る知事の交際に関する情報は,少なくともその内容が不特定の者に知られ得る状態でされたものということはできず,これらの交際費に関する情報は,相手方の氏名等が外部に公表,披露されることがもともと予定されているものなど,相手方の氏名等を公表することによって前記2(1)のおそれがあるとは認められないようなものということはできない。したがって,これら寸志等にかかる知事の交際(別紙一覧表番号10,25,28,29,52,57,60,63,67,79)に関する情報は,本件条例10条8号に該当するものというべきである。
4 支出命令書について
前記認定事実,証拠(原審甲事件甲2の2,乙2の3,4の3,6~8の各3,原審乙事件乙2~7の各3)及び弁論の全趣旨によれば,知事交際費は,県の秘書課員である資金前渡職員に対して概括的に経費の金額を交付して現金支払いをさせ,事後に精算処理が行われる取扱いがなされていること,資金前渡職員は,交付を受けた経費の目的内において,その支出管理を行うことになること,支出命令書には,当月分の知事交際費前渡資金として秘書課資金前渡職員宛に交付される金額の総額,支払方法等が記載されていること,本件処分では,そのうち,口座振替払される資金前渡職員の銀行口座名が非公開とされていることが認められる。
控訴人は,この部分を非公開とした理由として,前渡資金の交付は,当該職員が資金前渡用として開設した口座を通じて行われるので,当該口座の振込先銀行名及び口座番号等は,職員個人に関する情報であって,特定の個人が識別されるものであり,本件条例10条2号本文に該当する,そして,前渡資金用の口座は,前述のとおり,適正かつ安全に前渡資金を管理するため,資金前渡職員がそれ専用の個人口座を開設したものであるから,当該口座の情報は県民の要望に応えて公表することが予定されている情報ではなく,本号ただし書にも該当しない,また,それが本号ただし書ア及びウに該当しないことは明らかである旨主張する。しかし,資金前渡職員の口座は,知事交際費の適正な支出を目的として公務として開設されているものであって,当該職員の私的な銀行口座とはその性質を全く異にするものといわねばならない。したがって,支出命令書の資金前渡職員の口座部分が本件条例10条2号に該当するとして非公開とすべきである旨の控訴人の主張は採用することができない。
5 債権者の振込先銀行名及び口座番号について
前記認定事実,証拠(原審甲事件甲2の14,2の24,2の26,乙2の6,4の12,6の6,7の15,7の25,7の27,8の12,原審乙事件乙2の9,2の10,2の22,3の9,3の18,3の19,3の21,6の6,7の15,7の25,7の27)及び弁論の全趣旨によれば,知事が供花をする場合において,花店に依頼し,その費用を当該花店に送金する場合があり,控訴人は,この送金に際して作成された振込金受取書のうち振込先銀行名及び口座番号を非公開とし,また,当該花店が作成した請求書,領収証に取引銀行が記載されていた場合にはその部分を非公開としたこと,知事が「会費」を送金した場合,郵便振替払込金受領証等の口座番号等を非公開としたことが認められる。
これら振込金受取書等に記載されている債権者の振込先銀行名及び口座番号等は,当該事業者が事業活動を行う上での重要な経理等の内部管理に関する情報で,当該事業者は取引の必要性から書面に記載したものにすぎず,取引関係にない者にまで積極的に公表しているものではないし,広く一般に知られているものでもないといえる。そして,これらの情報をどの範囲で誰に開示するかは当該事業者が自由に選択決定しうるものであり,事業者の同意もなく,その事業活動とも無関係に広くこれを開示すれば,悪用されるおそれも考えられるなど,事業者の正当な利益が損なわれると推認される。そうすると,債権者の振込先銀行名,口座番号等は本件条例10条3号本文に該当すると解される。また,この情報は,人の生命,身体,健康,財産又は生活を保護するために開示することが必要な情報ではないし,開示することが公益上必要と認められる情報にも当たらないから,本号ただし書のいずれにも該当しない。したがって,これらの部分を非公開とした処分は違法なものとはいえない。
6 債権者の従業員の氏名及び印影について
これらの部分を非公開とした控訴人の処分について,原審は違法なものとはいえないと判断したが,この部分については,被控訴人らからの不服申立てがない。
第4結論
よって,被控訴人らの本訴請求について,上記6を除きこれを認容した原判決は一部不当であるから,原判決を変更することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 浅野正樹 裁判官 東畑良雄 裁判官 古久保正入)
<編注:『※』部分は原文のとおり。>
file_2.jpg別紙