大阪高等裁判所 平成13年(行コ)18号 判決 2001年10月05日
控訴人
甲
訴訟代理人弁護士
水野武夫
同
阿部秀一郎
同
末崎衛
同
山内玲
被控訴人
兵庫税務署長
石井求
指定代理人
黒田純江
同
高谷昌樹
同
鴫谷卓郎
同
岡本章
同
大串仁司
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1申立て
1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人が平成9年12月19日付けでした、控訴人の平成8年分所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(これらを合わせて、以下「平成8年度処分」という。)を取り消す。
(3) 被控訴人が平成10年7月9日付けでした、控訴人の平成9年分所得税の更正処分(以下「平成9年度処分」という。)を取り消す。
(4) 訴訟費用は、第1・2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
主文同旨
第2事案の概要
1 原判決の「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」記載のとおりであるからこれを引用する。
2 控訴人の当審における主張(原判決非難)
(1) 原判決は所得税法12条の解釈を誤っている。
本件代理店報酬は、本件代理店契約に基づき支払われたものであるから、本件代理店契約の契約当事者である控訴人に帰属する。これが支払われた後にどのように処分されたかは、支払われた時点で誰に帰属したかとは別問題である。
原判決は、実質所得者課税の原則について、法律的帰属説ではなく、判断が困難で法的安定性を欠く経済的帰属説を採用している。行為計算否認規定のない所得税法においては、名義貸しであったとしても、法律行為が真正になされている以上、その効果は控訴人に帰属する。保険料手数料が控訴人に帰属することは、控訴人、B保険代行、A生命の三者において争いがないのだから、事業収益も当然控訴人に帰属することになる。
被控訴人の主張によると、A生命による源泉徴収は誤納であることになるが、A生命が知り得ない控訴人とB保険代行との関係によって、A生命が源泉徴収義務の存否を判断しなければならなくなることは、A生命に不可能を強いるものであり、法的安定性を著しく害する。しかし、被控訴人はA生命の源泉徴収が誤納でなかったと主張しているのだから、これは被控訴人が本件代理店報酬が控訴人に帰属していることを自認していることになる。
(2) 原判決は、本件代理店契約締結の動機について、控訴人の利益を考えてなされたものであるのに、B保険代行の利益のためになされたものと事実誤認している。乙税理士は、本件代理店報酬がB保険代行に帰属すると誤解していた。
(3) 国税当局の法人課税部門は、本件代理店報酬が控訴人の所得であると認定して、B保険代行に修正申告させているのに、本件各処分は、本件代理店報酬が控訴人に帰属しないことが前提になっており、処理に矛盾が生じている。
(4) 原判決は、被控訴人の主張していない事実に基づいて、信義則違反がないと判断している。
3 被控訴人の反論
(1) 本件代理店契約における契約の名義は形式的なものであり、控訴人は単なる名義人にすぎない。本件代理店契約にかかる業務はすべてB保険代行が行い、その収益を享受したのもB保険代行であったから、本件代理店報酬はB保険代行に帰属しており、このことは所得税法12条の解釈について法律的帰属説に従うか経済的帰属説に従うかによって異なるものではない。
B保険代行が本件代理店報酬から源泉徴収税額を差し引かれる不利益を蒙ったことは、B保険代行が、旧保険募集取締法10条を潜脱して収益を得ようとして、控訴人名義を借用した契約形態の結果であるから、B保険代行において、その不合理を主張することは許されない。
(2) 控訴人主張の点について、原判決に事実誤認はない。
(3) 法人課税部門において本件代理店報酬が控訴人の所得であると認定した事実はない。
(4) 原判決の信義則違反がないとの判断に弁論主義違反はない。
第3当裁判所の判断
1 以下に訂正、付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第三 当裁判所の判断」のとおりであるから、ここに引用する。
(1) 23頁10行目の「本件代理店契約締結」の次に「のとき」と加える。
(2) 26頁10行目の「原告は、」の次に「自己の名において」と加える。
(3) 31頁9行目の「原告の」から同頁末行の「通知処分をし」までを「、控訴人の平成6年分の所得税に関する更正の請求に対し、本件代理店報酬は控訴人に帰属するものでないことを理由として、更正すべき理由がない旨の通知処分をし」と改める。
2 控訴人の当審における主張について
(1) 原判決の認定の事実によれば、本件代理店契約の実質的な当事者はA生命とB保険代行であり、本件代理店報酬を享受したのもB保険代行であると認めるのが相当である。契約書等の名義がB保険代行ではなく控訴人となっているのは、旧保険募集取締法10条に形式上反しない外形を整えたにすぎない。控訴人は、控訴人には本件代理店契約を締結することの独自の利益があったというが、その具体的利益を認めることのできる証拠はない。控訴人は、乙税理士が誤解していた旨主張するが、以上の事実に照らせば誤解があったとは認められない。また、原判決に被控訴人の主張していない事実をもって判断したと認められる点はない。
したがって、本件代理店報酬は控訴人には帰属していないということができ、これと同旨の判断を前提になされた本件各処分は適法である。
(2) 控訴人は、国税当局の処理に矛盾があるとする。なるほど、B保険代行は本件代理店報酬全額ではなく委託手数料を収入として計上する修正申告を行っているのだから、B保険代行の法人税の申告にあたっては、本件代理店報酬が控訴人に帰属することを前提としての税務申告がなされたことが明らかである。したがって、本件各処分の前提と齟齬し、徴税の処理に矛盾があるといえないわけではない。しかし、本件は、控訴人に対する処分の適否が争われている手続であり、本件各処分の前提となっている本件代理店報酬が控訴人に帰属しないとの認定に誤りがない以上、他の者に対する処理との間に矛盾があるからといって、それをもって本件各処分を違法とする理由とすることはできない。
第4結論
よって、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 妹尾圭策 裁判官 稻葉重子)
裁判官 渡邊雅文は、転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官 妹尾圭策