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大阪高等裁判所 平成13年(行コ)23号 判決 2001年11月27日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

(3)  訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。

2  被控訴人ら

主文同旨

第2事案の概要

本件は,被控訴人らが,吹田市公文書公開条例(昭和61年吹田市条例第32号,以下「本件条例」という。)5条に基づき,控訴人に対し,財団法人大阪府千里センター(以下「千里センター」という。)が吹田市内に所有する物件(登記簿上大阪府名義のものを含む。)に係る固定資産税に関する文書類の公開を請求したところ,控訴人が本件条例6条1項6号に定める非公開事由に該当することを理由として,請求に係る文書を公開しない旨の決定(以下「本件非公開決定」という。)をしたため,被控訴人らが,これを不服として本件非公開決定の取消しを請求したものである。

1  本件条例の定め,前提事実,争点及びこれに関する当事者の主張は,後記2,3のとおり付加するほか、原判決の事実及び理由第2の1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。

2  控訴人の主張

(1)  地方税法22条の趣旨について

原判決は,地方税法22条の趣旨について,「地方税の賦課徴収に必要な限度を越え,私人の秘密が漏示されることはプライバシーの権利を侵害することとなるため,このような基本的人権の侵害を未然に防止することを目的として規定されたものと解される」として,同条の趣旨をもっぱら納税者等のプライバシー保護に求めている。しかし,同条の趣旨は,税務行政の円滑適正な執行を確保し,徴税システム全体を保護することにもある。租税事務に従事する者が,国家公務員法や地方公務員法によって守秘義務を課されているにもかかわらず,地方税法等の租税法が罰則を加重しているのは,税務調査によって得られた納税者等の秘密が外部に漏示されるとなると,納税者等の協力が期待できなくなることを慮ったからであり,税務行政秩序を維持し,確保しようとしたからにほかならない。納税者等のプライバシー保護と徴税システム全体の保護はいわば表裏一体の関係にあるのであって,後者の保護も軽視できない。租税行政庁において,租税資料開示禁止の原則が定められていることを思い致すべきである。

したがって,本件における具体的判断に当たっても,税務行政秩序の維持・確保という側面が重視されるべきである。

(2)  本件における具体的判断について

ア 納税通知書又はこれに代わるものについて

(ア) 原判決は,「名寄帳兼課税台帳がこれに当たるとしたうえ,課税対象の不動産の所有者が明らかになる情報,不動産の評価額,課税標準額等の不動産の価値及び固定資産税額が明らかになる情報は,地方税法22条の秘密の定義に当たるが,千里センターは,大阪府が100パーセント出資している財団法人であり,その役員構成や経営状況が公開されていることからすれば,その高い公益性・公共性からして,所有不動産の評価等に関する情報を他人に知られたくないことについて客観的に相当の利益を有しないものであり,同条にいう秘密に該当する情報を記載した文書とは認められない。」とする。

(イ) しかし,地方税法22条の趣旨は,前記のとおり,納税者等のプライバシー保護の目的に尽きるものではなく,税務行政秩序の維持・確保という側面を重視すべきであるから,千里センターに公共的性格があるからといって、同条にいう秘密にはあたらないというような「例外的扱い」は許されないというべきである。また,千里センターは,地方自治法1条の3にいう普通地方公共団体たる大阪府の出先機関ではなく,民法34条にいう財団法人であるところ,公益法人とはいえ,事業内容としても一般の私法人と変わらない面もあるから,その意味でも,「例外的扱い」は許されない。

(ウ) なお,納税通知書は,納税義務者に送付されており,控訴人の手元にないから,公開は不可能である。

イ 経緯説明書又は事情説明書について

(ア) 原判決は,これらの文書には,地方税に関する調査事務の過程で得られた私人の秘密が含まれている可能性があるが,控訴人において,各文書がどのような文書から成り立っているか,各文書につき地方税法22条にいう秘密が含まれているか,秘密を含む文書についてそれ以外の部分を公開することができないかどうかを具体的に主張・立証していないとする。

(イ) しかし,控訴人が当審で提出した乙3ないし5によれば,これらの文書に地方税法22条にいう秘密が含まれていることは明らかである。

ウ 往復文書類について

(ア) 原判決は,控訴人の主張だけでは,地方税法22条にいう秘密が含まれているかどうか判断できないとする。

(イ) しかし,控訴人が当審で提出した乙6によれば,これらの文書に地方税法22条にいう秘密が含まれていることは明らかである。

エ 本件条例2条1項文書について

(ア) 原判決は,これらの文書も,地方税法22条の秘密の定義に当たるが,前記アの文書と同様,千里センターの高い公益性・公共性からして,他人に知られないことについて客観的に相当の利益を有しないものであり,同条にいう秘密に該当する情報を記載した文書とは認められないとする。

(イ) しかし,前記アのとおり,税務行政秩序の維持・確保という側面を重視すべきであり,千里センターに公共的性格があるからといって、「例外的扱い」をすべきではない。

3  被控訴人らの主張

(1)  原判決は,地方税法22条にいう「秘密」について,「税務調査事務過程において知り得た情報のうち,いわゆる実質秘,すなわち一般に知られていない事実であって,本人が他人に知られないことについて客観的に相当の利益を有するものをいうと解されるところ,これに該当するといえるためには,実施機関において当該情報が一般に知られておらず,かつ,本人が他人に知られないことについて客観的に相当の利益を有することを主張・立証する必要がある」とするが,控訴人は,原審において,この見解に反論せず,本件公開文書の公開がプライバシーの侵害にならないことを容認してきたものであるから,原判決の指摘に基づいてプライバシーの侵害に関する主張・立証をすることは時機に遅れたもので許されない。

(2)  控訴人は,当審において,乙1(納税通知書の見本),乙2(名寄帳兼課税台帳の見本),乙3((財)吹田センター所有地の課税・非課税・減免地積等一覧表の見本),乙4((財)吹田センター所有地の減免等判断基準一覧の見本」),乙5((財)吹田センター所有家屋課税・非課税床面積等一覧の見本),乙6(回答書の見本)を提出したが,これらによっても,控訴人の主張に理由があるとはいえない。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も,本件非公開決定は,違法な処分であり,その取消しを認めるべきものと判断するが,その理由は,後記2のとおり改めるほか,原判決の事実及び理由第3に記載のとおりであるから,これを引用する。

2(1)  原判決の事実及び理由第3の2の11行目「被告」から14行目「できない。」までを「この点について,控訴人は,「同条の趣旨は,税務行政の円滑適正な執行を確保し,徴税システム全体を保護することにもあるとし,租税事務に従事する者が,国家公務員法や地方公務員法によって守秘義務を課されているにもかかわらず,地方税法等の租税法が罰則を加重しているのは,税務調査によって得られた納税者等の私人の秘密が外部に漏れるとなると,納税者等の協力が期待できなくなることを慮ったからであり,税務行政秩序を維持し,確保しようとしたからにほかならない。」旨主張する。確かに,納税者等の私人の秘密と徴税システム全体の保護は無縁なものではなく,納税者等の私人の秘密を保護することにより税務行政秩序が守られるという側面もあるので,同条が税務行政秩序の維持・確保に資するものであることは否定できないが,法形式並びに同条の法意及び文言に照らすと,それは間接的・副次的な産物にすぎず,地方税法等の租税法が罰則を加重しているのは,一般の公務員に比して,租税事務に従事する者は,その職務を遂行する過程において,私人の秘密をより多く知りうる地位にあり、また,知ることが必要であるところから,納税義務者等の私人の秘密を侵害するおそれが高いことを配慮したからであって,控訴人主張のような事由によるものとはいえない。」と改める。

(2)  原判決の事実及び理由第3の3(1)の26行目の末尾に「この点について,控訴人は,「地方税法22条の趣旨は,納税者等のプライバシー保護の目的に尽きるものではなく,税務行政秩序の維持・確保という側面を重視すべきであるから,千里センターに公共的性格があるからといって、同条の秘密にあたらないというような「例外的扱い」をすべきではないし,また,千里センターは,公益法人とはいえ,事業内容としても一般の私法人と変わらない面もあるから,その意味でも,「例外的扱い」は許されない。」旨主張するが,同条の趣旨は,納税義務者等の私人の秘密を保護するものであって,税務行政秩序の維持・確保は間接的・副次的な産物にすぎず,控訴人主張のように,「事業内容としても一般の私法人と変わらない面もある。」というのみでは,いまだ千里センターが他人に知られないことについて同条によって保護されるに値する権利利益を有するとは認められないから,控訴人の上記主張は失当である。なお,控訴人は,千里センターの「納税通知書」及び「名寄帳兼課税台帳」の内容が地方税法22条の秘密に該当することを証する証拠として,納税通知書の見本(乙1)及び名寄帳兼課税台帳の見本(乙2)を提出したが,これらによっても,「納税通知書」及び「名寄帳兼課税台帳」に,同条にいう秘密が記録されているとは認められない。」を加える。

(3)  原判決の事実及び理由第3の3(2)の17行目から32行目までを削除し,「この点について,控訴人は,①「財団法人大阪府千里センターが,現に所有する土地の課税・非課税・減免の判断等について」(平成10年12月15日文書番号第469号)及び②「財団法人大阪府千里センターが,現に所有する家屋の課税・非課税の判断等について」(平成11年3月17日文書番号第648号)の内容が地方税法22条の秘密に該当することを証する証拠として,「(財)吹田センター所有地の課税・非課税・減免地積等一覧表の見本」(乙3),「(財)吹田センター所有地の減免等判断基準一覧の見本」(乙4),「(財)吹田センター所有家屋課税・非課税床面積等一覧の見本」(乙5)が上記①,②の文書の見本であるとし,これらを提出したが,これらによっても,上記①,②の各文書に同条にいう秘密が記録されているとは認められない。」を加える。

(4)  原判決の事実及び理由第3の3(3)の7行目から9行目までを削除し,「この点について,控訴人は,「財団法人大阪府千里センター所有の土地に対する照会について」(平成10年3月4日文書番号第555号)及びその回答(平成10年3月20日大阪府千里センター発の千管第361号)の内容が地方税法22条の秘密に該当することを証する証拠として,「回答書の見本」(乙6)が上記回答書の見本であるとし,これを提出したが,これによっても,その文書に同条にいう秘密が記録されているとは認められない。」を加える。

(5)  原判決の事実及び理由第3の3(4)の11行目の末尾に「なお,控訴人は,税務行政秩序の維持・確保という側面を重視すべきであり,千里センターに公共的性格があるからといって、例外的扱いをすべきではないと主張するが,前示のとおり,同条の趣旨は,納税義務者等の私人の秘密を保護するものであって,税務行政秩序の維持・確保は間接的・副次的な産物にすぎないから,控訴人の主張は,その前提を欠くものというほかなく,採用の限りでない。」を加える。

3  結  語

以上によると,本件非公開決定は,違法な処分であり,その取消しを認めた原判決は相当である。よって,本件控訴は理由がないから,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大谷種臣 裁判官 佐藤嘉彦 裁判官 和田真)

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