大阪高等裁判所 平成13年(行コ)41号 判決 2003年2月06日
主文
一 一審原告らⅠの本件控訴及び一審原告らⅡの本件附帯控訴に基づき原判決中一審被告aに関する部分を次のとおり変更する。
(一) 一審被告aは京都市に対し26億1257万7972円及びこれに対する平成5年6月30日以降支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(二) 一審原告らの一審被告aに対するその余の請求をいずれも棄却する。
二 一審原告らⅠの一審被告i及び一審被告jに対する本件控訴をいずれも棄却する。
三 一審被告aの本件控訴を棄却する。
四 一審原告らと一審被告aとの間に生じた訴訟費用は,第1,2審を通じて10分し,その6を一審被告aの,その余を一審原告らの各負担とし,一審原告らⅠの一審被告i及び一審被告jに対する控訴について,控訴費用は一審原告らⅠの負担とし,一審原告らと一審被告a参加人との間に生じた訴訟費用は,第1,2審を通じて10分し,その6を同参加人の,その余を一審原告らの各負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
(一審原告らⅠの控訴事件について)
一 一審原告らⅠ
1 原判決を次のとおり変更する。
2 一審被告a,一審被告i及び一審被告jは,京都市に対し,連帯して,43億5429万6613円及びこれに対する平成5年6月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は第1,2審とも一審被告らの負担とする。
4 仮執行宣言
二 一審被告a
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は一審原告らⅠの負担とする。
三 一審被告i及び一審被告j
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は一審原告らⅠの負担とする。
(一審被告aの控訴事件について)
一 一審被告a
1 原判決中一審被告a敗訴部分を取り消す。
2 一審原告らの一審被告aに対する請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は第1,2審を通じて一審原告らの負担とする。
二 一審原告ら
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は一審被告aの負担とする。
(一審原告らⅡの附帯控訴事件について)
一 一審原告らⅡ
1 原判決を次のとおり変更する。
2 一審被告aは,京都市に対し,43億5429万6613円及びこれに対する平成5年6月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 附帯控訴費用は一審被告aの負担とする。
二 一審被告a
1 本件附帯控訴を棄却する。
2 附帯控訴費用は一審原告らⅡの負担とする。
第二事案の概要
一審被告i及び一審被告j(以下「一審被告iら」という。)は,ゴルフ場建設予定地として山林を買収したが,京都市からゴルフ場開発の不許可決定を受けたため,同決定は違法であると主張して,京都市に対し損害賠償を求める民事調停を申し立てたところ,調停裁判所は,上記山林を京都市が代金約43億円で買い取ることを骨子とする民事調停法17条決定を行い,当時京都市長であった一審被告aはこれに異議を申し立てず,上記決定は確定した。
本件は,京都市民である一審原告らが,①一審被告aに対しては,一審被告iらと共謀の上又は単独で,上記代金が著しく高額であることを知り又は知り得たにもかかわらず,上記17条決定に異議を述べる等せず同決定を確定させ,その結果,上記代金と上記山林の適正価格との差額分に相当する損害を京都市に被らせたと主張して,債務不履行又は不法行為による損害賠償請求(民法所定の遅延損害金の請求を含む。)を,京都市に代位して地方自治法242条の2第1項4号前段に基づき行い,②一審被告iらに対しては,上記17条決定の確定は,一審被告aと共謀してなしたものであるから不法行為に当たり,そうでなくとも,上記代金額は著しく高額であり,上記決定による売買は暴利行為に当たり無効であるとして,前記適正価格との差額分について不当利得返還請求又は不法行為による損害賠償請求(民法所定の遅延損害金の請求を含む。)を,地方自治法242条の2第1項4号後段に基づいて行う事案である。
その他,本件事案の概要は,後記二のとおり当審における当事者の主張を付加し,一のとおり付加訂正するほか原判決「事実」中の「第二 当事者の主張」のとおりであるから,これを引用する。
一 原判決6頁3行目の「物件目録」の次に「記載」を加え,同4行目の「記載」を削除し,同7頁3行目の「本件決定」を「確定した本件決定」と,同8頁8行目の「関わらず」を「かかわらず」と,同9行目の「確定させた。」を「確定させ,」と,同9頁10行目の「支払額と相当価格」を「同支払額と本件土地の相当価格と」と,10頁3行目の「(2)」を「同(2)」とそれぞれ改め,同11頁2行目の「支払済みまで」の次に「民法所定の」を加え,同11行目末尾の「訴え」を「法242条の2所定の住民訴訟提起」と改める。
二 当審における当事者の主張
【一審原告らの主張】
1 本件土地の適正価格について
(一) 不動産鑑定士b作成の鑑定評価報告書(丙3・以下「b評価書」という。)について
一審被告aは,b評価書が本件土地の適正価格を総額約47億6963万円と評価したことに基づき,一審被告jから本件土地を総額約47億5623万円で買い取ることを骨子とする本件決定に対し異議を申し立てなかったものであるが,b評価書には,以下のとおり問題がある。
(1) b評価書は,①本件土地の傾斜が,実際は5度ないし30度であるにもかかわらず,これを5度と誤って評価し,②本件土地が接道していないのに,接道していると誤認し,③評価の基準地の内D事例(原判決別紙取引事例目録記載九(以下同目録記載の各事例を「事例一」等という。)については所在地を誤認した上で評価する等基本的な点で明白な誤りがあり,b評価書の判断は信用できないというべきであり,また,京都市側も,b評価書を検討すれば容易に以上の点が判明したにもかかわらず,上記検討を怠ったものである。
(2) 一審被告iは,平成元年ころ,ゴルフ場開発を目的として本件土地を1平方メートル当たり約1600円で買収しており,同価格は市場形成の大きな要素となるというべきところ(同価格については取引事例として不動産鑑定士協会に記録されていた。),その後のバブル崩壊により平成4年5月時点での土地価格が上記金額をはるかに下回ることは専門家でなくても推定しうる。しかるに,bは,上記の一審被告iの買収価格を知らなかったなどとおよそ信用し難い証言をしており,そもそも本件土地について適正価格を大幅に上回る価格で評価することを目的としていたというべきである。
なお,一審被告a及び同参加人(以下「一審被告aら」という。)は,上記一審被告iの取得価格は国土法の届出価格によるものであり,届出価格は実際の取引価格と乖離することがありうるから,これを判断材料とすることはできない旨主張するが,一審被告iの現実の買収価格が上記届出価格と異なるとの立証はされておらず,上記主張は単なる憶測にすぎない。
そもそも,国土法の届出価格については,不勧告決定をするか否か判断するにあたり地価が適切な価格にコントロールされるため厳密な審査が行われるものである。京都市は自ら国土法に基づいて上記審査を行うべき責務を負いながら,国土法上不勧告決定された地価が低すぎ,それより高額な地価が相当であると主張しており,国土法の趣旨や自らの責務に背馳するものというべきである。
(3) bは,本件土地について開発を前提としない価格を求めるよう京都市から指示されたと証言し,本件評価書にも本件土地は山林のまま保有することが最有効利用である旨の記載がある。しかるに,b評価書は,基準地として潜在的な開発可能性がある土地として,高槻市内の採石場近くを基準地として選定し,また,比較事例の選定においても開発予定地を安易に選ぶ等,実質的には,本件土地の価格についてゴルフ場等の開発を前提とした評価をする誤りをおかしている。
(4) b評価書中のA事例(事例一〇)は採石場に隣接する土地であるところ,bは,この点を除外したまま地域要因や個別要因を検討している点で問題があり,また,同B事例(事例六)は,市街化調整区域外でゴルフ場開発も可能なゴルフ場建設予定地であり,標高も低く,公道にも接面し,周辺に小規模集落が散在するなど本件土地とは異なる点が多々あるのにこれを考慮せずに適正価格を評価しており不当である。
(二) 不動産鑑定士c作成の鑑定評価と題する書面(甲26・以下「c評価書」という。)について
(1) 一審被告aらは,c評価書が判断資料とした同書記載AないしD事例の取引価格は不正確であると主張するが,上記各事例の取引価格は不動産鑑定士が通常参照する取引カードに記載されているものであるし,同価格が不正確であることをうかがわせる証拠も何ら提出されておらず,かえって,前記のとおり,b評価書の方が不適切な取引事例に基づいた評価をしている。
(2) また,一審被告aらは,c評価書が,選択した事例地について,土地価格比準表に従わず,独自に地域要因等の補正をしている点を批判する。しかしながら,土地価格比準表に基づく補正が認められるのは,事例地と評価対象地との価格の差異が一定の範囲内に留まる場合に限られるところ,c評価書が選定した上記事例地の取引価格は本件土地の取引価格に比して著しく高額であるから,上記比準表による補正を行うことはできず,鑑定士による専門的個別的な見地から補正を行うべきであるから,上記批判は失当である。
(三) 本件土地の適正価格の認定に関する原判決の問題点について
原判決は,本件土地の平成元年ころの価格は高く見積もっても1平方メートル当たり1600円であるとした上,バブル崩壊後の土地価格の下落により,平成4年5月時点での土地価格は上記金額を上回らないと判断したが,本件では上記時点での適正価格の判断は可能であり,それを怠った点で不当である。
すなわち,本件土地の適正価格を判断するに際しては,①本件土地について,ゴルフ場等の開発の可能性があることを一切前提とせず,あくまで山林として評価すること,②前記の一審被告iによる本件土地買収価格が本件土地の価格形成に大きな影響を与えること,③本件土地は京都市内にあるから,基準地等は全て京都府下から選定し,また,本件土地と同一地域として評価の基準とすべき土地は全て京都市内の本件土地周辺に限定すべきこと,④バブル経済時の土地価格の異常な高騰やゴルフ場開発による土地の買い進み等を考慮すべきことが必要である(その意味で,c評価書は,一審被告iの取得価格に引きずられた評価をしており問題がある。)。以上を前提として,c評価書が選定した適切な比較事例の基準地価である1平方メートル当たり1059円に,適切な時点修正や事情補正を行い,近隣の京都市内の山林の基準地価をも考慮すれば,本件土地の平成4年5月時点の適正価格は,1平方メートル当たり300円と認められる。
この点について,原判決は,c評価書を退けた上で,本件土地の適正価格をできるだけ高く評価しても,1平方メートル当たり1600円であるとした。しかしながら,原判決は,c評価書について,事例五及び六の地域要因比較及び個別的要因比較による修正を問題視するが,いずれも理由がなく,少なくともc評価書に基づいて本件土地の適正価格を算定すべきであった。また,原判決がなぜできるだけ高く評価する必要があるのか不明であるし,本件土地がゴルフ場開発のために取得された土地であり,取得価格を基準に1600円と算出したとしても,その中にはゴルフ場開発による利益がある程度含まれていると見るべきであるから,何らかの補正がされるべきであった。
2 一審被告aの職務違反及び責任について
(一) 原判決は,地方公共団体が土地を取得するかどうか,いくらの代金で取得するかは,原則として,それを決定する権限を有する長の政策的ないし合目的的な裁量に属する事項であり,それが地方財政法4条の観点から違法となるのは,単に土地代金額が経済的な適正価格を上回るというだけでは足りず,当該土地を取得する具体的な行政目的,その時の経済情勢等に照らして,上記決定権を有する長がその裁量の範囲を逸脱し,権限を濫用した場合に限られるとする。
しかしながら,国土法は,政令指定都市市長等に,当該市等の地価をコントロールさせ,地価の異常高騰を防止することを目的とするものであるから,京都市は,市内の土地価格を適正に維持する責務を負い,自らが取得する土地についても価格を監視規制するべきである。それゆえ,京都市が土地を取得する際,代金をどの程度にすべきかについては,原則として京都市長に裁量権はなく,特段の事情がない限り取得代金額が適正価格を上回るだけで違法になると考えるべきである。
(二)(1) そこで検討するに,本件では,良好な自然環境を保持し,同時に地域振興を諮るため京都市が本件土地を取得する必要性は一応あったものと考えられるが,本件決定当時,本件土地の具体的な利用計画も定まっておらず,将来有効に活用しうるという程度の抽象的な見込みしか立っていなかった(なお,京都市が,本件土地一帯を都市公園とすることを決定したのは平成8年である。)。また,京都市は,本件調停において一審被告iらの損害賠償請求に一切応じない姿勢を明確に決定しており,調停打ち切り後に民事訴訟が提起されればその段階で和解を検討しても良かったのである。したがって,本件決定当時,京都市が本件土地を取得する必要性は緊急に差し迫っていたものとはいい難い。
(2) しかるに,京都市の本件調停に対する対応は,①調停申立時期が,本件土地についてゴルフ場開発を認めない方針を正式に決定した以前であること,②第1回調停期日が開かれる前に第2回期日が指定され,その後の期日指定も短い間隔で集中してなされたこと等から,余りに性急であったというべきである。京都市は,調停裁判所に対し,b評価書等適正金額を評価するための資料を提出せずに17条決定を求めて本件決定を得た後,さらに,市議会に対し,本件決定が裁判所の判断であるから信用しうるとの説明を繰り返す等しており,当初から本件決定を悪用する意図を有していたと思われる。
(3) また,本件決定は京都市議会の承認を経ることを条件に効力を有すると規定されていたのであるから(甲21の16),京都市としては,本件決定に異議を申し立てなかったとしても本件土地の買取を急ぐ必要はなく,平成4年9月の定例市議会において再度上記承認をすべきか否かを審理し議決することも検討してしかるべきであったのであり,その際に,土地評価委員会に諮問する等して,本件土地の適正価格を慎重に評価すべきであった。
(4) なお,一審被告aらは,本件土地の適正価格を知ることは事実上不可能であった旨主張するが,市議会内でも,法律家団体,市民運動グループ等からも,京都市の本件土地の取得価格は著しく高額であるとの意見が多数あり,この問題はマスコミでも報じられていたのであるから,一審被告aは本件土地の取得価格が異常に高額であることを知っていたか,あるいは容易に知り得たというべきであって,この点に過失がないとは到底いえない。
(5) さらに,一審被告aは,本件決定が出された平成4年5月13日に,直ちに市議会に対し本件決定に対し異議を申し立てない旨の議案を提出せず,市議会閉会間近の同月21日に上記議案を提出するなど市議会における十分な審議を意図的に制約する極めて問題ある行動を取っている。
(6) 京都市議会における審議に際しても,一審被告aは,本件土地価格の評価の依頼方法や評価内容,土地評価委員会に諮問しなかった点,一審被告iの本件土地の買取価格との乖離等に関して多数の質問を受け,本件決定における本件土地価格の異常さについても指摘されていたにもかかわらず,これに対する具体的で十分な回答をしない等異常な対応を取ったといわざるを得ない。
(7) 最終的に,京都市議会は,一審被告aから提出された議案どおり,本件決定に異議を述べない旨を議決したが,同決議は,市長である一審被告aに対し異議を述べない権限を与えたにすぎず,これを義務付ける趣旨ではなかったと解すべきである。けだし,そう解することが,地方公共団体の長を,議会と同様に住民代表機関とし,議会の決議に基づいて行うべき事務についても自らの判断と責任で行うよう義務付けている法の趣旨に合致するからである(地方自治法138条の2)。
そうとすると,一審被告aは,上記京都市議会の決議にしたがい本件決定に異議を述べなかったからといって,上記異議を述べたことの違法性が否定されるものではない。
(三) 以上によれば,一審被告aが本件決定に対し異議を述べず,本件土地を買収したことについては,違法性を否定すべき特段の事情は認められないというべきである。
3 一審被告aの違法行為と相当因果関係にある京都市の損害の認定について原判決は,一審被告aの土地取得価格の判断に一定の裁量を認め,適正価格の2倍をもってその裁量権の範囲としこれを超えた部分についてのみ損害賠償を認めた。しかしながら,仮に,上記のとおり取得価格の判断に一定の裁量が認められるにしても,適正価格を上回ってでも取得しなければならない必要性の有無が,購入目的の妥当性,購入の必要性,緊急性,真摯でねばり強い価格交渉の有無等諸般の事情を考慮して検討されなければならないところ,本件では適正価格を超える金額で取得すべき必要性は全く認められないから,原判決の前記判断は不当である。
4 一審被告iらに対する請求について
一審被告iらは,本件調停を申し立てた平成4年3月28日や,ゴルフ場開発の不許可決定を受ける相当以前から,京都市との打ち合わせを何度もしていること,本件調停については,第1回調停期日が開かれる以前の段階で第2回期日の請け書が代理人から提出されており,双方の要望で相当短い間隔で期日が指定されたこと,本件調停手続中にb評価書が作成されたが,同書の添付資料は一審被告iから提出を受けるなど同一審被告の協力を受けていたこと等を総合すれば,京都市と一審被告iらは,調停手続によることで,市の不動産評価委員会に諮問することを回避でき,他方,市は,市議会や市民に対し裁判所の指定する金額であるから不当ではないと説明することが可能になり,さらに異議申立期間を利用して短期間に市が買い取る結論を導き得たものであって,一審被告iらは京都市と共謀の上,本件決定の価格が不当であることを知りながら,本件調停を利用して,京都市に本件土地を上記価格で買い取らせたことが認められる。
したがって,一審被告iらも一審被告aと連帯して京都市に対し損害賠償をなすべき義務を負う。
また,原判決は,一審被告aが本件決定に対し異議を申し立てず,これを確定させたことは違法であると認定しながら,確定した本件決定内容にもとづく一審被告iらと京都市との売買自体は有効と判断した。しかしながら,一審被告iらは,本件土地の当初の取得価格を知悉しており,本件決定で示された代金額が違法に高額であることを知っていたというべきであり,その上で京都市から同代金を取得した以上,不当利得返還義務を負う。
【一審被告aらの主張】
1 b評価書について
(一) 原判決は,b評価書について,①本件土地の傾斜が相当部分において30度以上あるのにこれを約5度として評価している点,②本件土地は公道に接していないのに,直接接面しているものとして評価している点,③b評価書中のD事例(原判決別紙取引事例目録記載九・c評価書I事例)の位置を誤認し,実際の位置より約12キロメートル北東方向に存在するものとして評価した点,④b評価書中のA事例(事例一〇)は採石場に隣接する土地であり,同B事例(事例六)はゴルフ場建設予定地であって,本件土地については開発を前提としない山林として評価する以上,上記各事例について相当程度減額方向での修正が必要であるにもかかわらずそのような考慮がされていない点から,b評価書による本件土地の適正価格の評価は不当であるとした。
(二)(1) しかしながら,b評価書については,その作成者であるb不動産鑑定士らに対し,不動産の鑑定評価に関する法律42条に基づき同法40条の懲戒を求める申立が国土庁長官に対してなされたが,同長官は,調査の結果,b評価書は不当な鑑定評価をしたものではないと判断して上記申立を退けた。したがって,b評価書の内容に不当な点はないというべきである。
(2) b評価書が,本件土地の傾斜が相当部分において30度以上あるのにこれを約5度として評価したとの点(前記①)については,bが5度~30度と記載すべきところを「~30度」を書き落としたものであり誤記にすぎず,さらに,仮に5度を前提としても,土地価格比準表(丙18)によれば5度~30度の場合と評価額に差異は生じないから,結論に影響を与えない誤記である。
(3) b評価書が,本件土地が公道に直接接面するとして評価したとの点(前記②)についても,本件土地は付近の府道に事実上接道しており,bは近接面とすべきところを誤記したものにすぎないし,前記比準表によると,建物等と異なり山林の評価の場合,公道に接面していなくても接近していれば,公道に至るまでの通路用地の買取等は容易であり,接面している場合と評価において差異は生じないから,上記誤記は結論に影響を及ぼさない。
(4) b評価書中のD事例(事例九・c評価書I事例)の位置を誤認し,実際の位置より約12キロメートル北東方向に存在するものとして評価したとの点(前記③)については,bが上記D事例の位置を誤認したのは事実であるが,前記比準表(丙18)によれば,正確な位置を前提にしても,D事例の評価額は1平方メートル当たり3194円で,位置を誤認していた段階での評価額である3496円と大差がなく,結論に影響を及ぼすものではない。
(5) b評価書中のA事例(事例一〇)は採石場に隣接する土地であり,同B事例(事例六)はゴルフ場建設予定地であって,本件土地については開発を前提としない山林として評価する以上,上記各事例について相当程度減額方向での修正が必要であるにもかかわらずそのような考慮がされていないとする点(前記④)についても,b評価書は,本件調停により本件土地を取得する場合の適正価格を求めるために作成されたものであるところ,作成の条件としては,本件土地についてゴルフ場の開発許可がされることを前提としないというものであり,限定無しにあらゆる開発をしないという条件ではなかった。
そして,土地を取得する際に,取引の一方当事者である売主に対する配慮をせず,買主の立場から一方的に評価を低額にするような条件を設定することは相当ではないし,また,そもそも,本件土地のような林地の適正価格を比準方式で評価する場合,基準とされる土地価格比準表(丙18ないし22)には,土地の最有効使用や開発可能地か否かといった点は考慮することを要しないとされており,b評価書も結論としては,開発の点については土地評価の要素として全く考慮していない。
また,b評価書は,前記B事例について,ゴルフ場建設用地としての買い進みがあったとして減価補正を行っているし,前記A事例についても,地域格差等により大幅に減額して試算しており,妥当である。
(6) 以上によれば,b評価書の評価内容は十分に信用することができるというべきである。
2 c評価書について
原判決は,c評価書が同書記載のAないしD事例(以下「cAないしD事例」等という。)を採用した上事情補正,時点修正等を行い,これを前提に本件土地の適正価格を1平方メートル当たり1040円と評価した点について,cAないしD事例の上記修正等による評価には特に不合理な点は認められないとする。
しかしながら,cAないしD事例における取引価格はいずれも1059円と,近接する他の地点の取引事例(丙56のS地等・なお,S地については砂防ダム建設目的で土地が取得されたから価格が跳ね上がったと一審原告らは主張するが採用できない。)や直近の基準地価格に比しても,約7分の1から2分の1と極端に低額である。また,上記cA事例は,府道に事実上接面し集落にも比較的近い等山中の袋地である他の3事例と明らかに異なるのに全て取得価格が同一であり,そもそも,cAないしD事例はいずれもゴルフ場建設用地として買収されたものであるが,かかる場合の取引価格は実際より低額に表示されている事例も多いと思われる。
cAないしD事例は,本件土地の一部であるが,その所在は異なり,個別要因にも差があるにもかかわらず,取引時期が平成元年3月ないし11月とバブル経済最後の年で一定の価格変動があったのに全て同一価格で取引されており,取引価格を決定する際に何らかの作為が行われたというべきである。
また,cAないしD事例は,地権者から一審被告iが購入した土地であるが,同取引はいずれも公簿面積によるものであったところ,その合計は41万1479平方メートルで,本件土地の公簿面積は97万0902平方メートルであり,一審被告iの本件土地の買収価格とされる20億円を前提に計算すると,cAないしD事例が1平方メートル当たり1059円なのに対し,それ以外の本件土地は1平方メートル当たり2796円となるが,cAないしD事例がそれ以外の本件土地よりも交通,地勢等の諸要因が優れていることは明らかであって,土地価格に整合性が全くない。以上によれば,AないしD事例の上記取引価格及び一審被告iの買収価格はいずれも信ぴょう性に欠けるものといわざるを得ない。
以上から,cAないしD事例は,本件土地の比準価格を算定するための基準地としては極めて不適切な事例であったといわざるを得ない。
また,c評価書は,本件土地と取引事例とを比較する際,通常用いられる土地価格比準表の数値を根拠としたとするが,実際には,上記比準表を無視し,専門的な見解と称して恣意的な格差率を用いた評価をしており,その結果,本件土地の適正価格を不当に低く算出している。
なお,以上の点について,一審原告らは,c評価書は,対象地と取引事例地との価格差がプラス50,マイナス30の範囲内にあることを要するところ,本件では取引事例地の価格が上記範囲内になかったため比準表の格差率をそのまま用いることができなかったと主張する。しかしながら,c評価書は,そもそも対象地の概算価格を前記AないしD事例等不適切な資料に基づいて誤って評価した結果,各取引事例地について比準表の格差率を適用できなくなったものにすぎず,上記主張は失当である。
以上によれば,c評価書における本件土地の評価は不合理なものであって到底採用できないというべきである。
3 本件土地の適正価格に関する原判決の認定について
(一) 原判決は,①一審被告iが,平成2年10月,引用にかかる原判決別紙物件目録記載一三の土地を,同年12月19日,同目録記載四及び五の各土地を,いずれも売買価格1平方メートル当たり1515円で取得する旨国土法に基づく届出をしたこと,②一審被告iが本件土地上に建設を予定していたゴルフ場の事業計画概要書(甲15の1,2)には用地買収費として約20億円と記載されていること,③バブル崩壊後地価が低落傾向にあること等を理由に,本件決定がなされた平成4年5月当時における本件土地の適正価格について,できるだけ高額に評価しても1平方メートル当たり1600円,合計21億4365万3712円を上回らないと認定した。
(二) しかしながら,そもそも,売主の土地取得価格をもって適正価格とする見解は存在せず,適正価格はあくまで鑑定評価により定めるほかない。
そして,本件土地のようにゴルフ場建設予定地として売買される土地については,国土法に基づく届出予定価格が実際の売買代金よりも大幅に低額となるケースも少なからずあり,上記届出価格が国土法上の不勧告通知を受けたとしても,それは取引価格として不当に高額ではないとされたものにすぎず,上記価格が適正と認定されたわけではない。
その場合,ゴルフ場建設の事業計画概要書に記載された用地買収費も上記届出予定価格に適合するよう,現実の買収価格より低額に記載されることが推測される。
また,本件土地については,まず,一審被告iが地権者から買収し,これを一審被告jに売却したものであるが,上記事業計画概要書が作成された当時,両一審被告は,経営者が同一であって,一審被告iの譲渡益課税額を低減するため,実際の売買価格より低い価格を計上した可能性もある。したがって,前記(一)①②の各価格に基づいて本件土地の適正価格を算定することはできない。
また,一定の目的のために複数の土地を買収する場合,買収時点での取得価格よりも,買収が完了し一団の土地を形成した後の方が全体の価格が高くなる事例も多い。
さらに,事例六については,b評価書のみならずc評価書も取引事例として採用した規範性の高いものである上,本件土地より公道までの距離や標高において減価要素があるにもかかわらず,事例六の売買代金額にc評価書が採用する時点修正をしても1平方メートル当たり3875円となるところ,原判決は,これをはるかに下回る1600円を本件土地の適正価格と判断しており不当である。
4 京都市が本件土地を取得する必要性について
原判決は,京都市が本件土地を取得する具体的な行政目的はなく,かつ,取得する差し迫った必要性はないとした。
しかし,本件土地の取得は,①直接には,京都市が一審被告iらから80億円の損害賠償を求める調停を申し立てられたため,その解決を図ることを目的とし,②最終的には,市民の健康につながる自然公園用地にあてるという行政目的に基づくものである。
そして,現に上記調停が申し立てられた状況下で,これを解決する必要があったから,差し迫った必要性がなかったとはいえない。
すなわち,一審被告iらは京都市担当者の指導に基づいてゴルフ場建設を計画していたところ,京都市は最終的に上記建設を不許可とする決定をしたものであり,上記経緯からしても,また,都市計画法の関係規定に照らしても,上記決定が適法であったとは当然には言えない。そして,本件調停が不成立となった場合,一審被告iらが上記不許可決定について取消訴訟や損害賠償請求訴訟等を提起することは必至の状況であったが,京都市が,上記訴訟で必ず勝訴しうるとは限らず,敗訴により多額の損害賠償債務を負う可能性もあった。
したがって,京都市が,上記訴訟に至ることを回避すべく,本件土地を適正価格により買い取ることで紛争を解決しようと判断したことは適切であり,本件決定に対する異議申立期間の経過が迫っている状況下で,京都市が本件土地を買収する緊急性及び必要性がなかったとは到底いえない。
5 本件調停の進行状況及び京都市の内部規律違反について
(一) 一審原告らは,本件調停手続の進行が余りに性急であり,また,本件決定は,簡易裁判所が本件土地の適正価格を判断した上でなしたものではなかったと主張する。
しかしながら,京都市としては,本件土地を適正価格で取得することにより上記調停事件を解決することを決定し,本件土地の買収には市議会の承認を要することから同年5月末閉会の定例市議会に諮る必要があって本件調停の進行を急いだものであるから,調停手続の進行が拙速で京都市側の調査,検討等が不十分なままに本件決定に至ったとはいえない。
さらに,本件決定自体は違法ではなく,これに対し,京都市議会が異議を述べない旨を決議したのであるから,同決議に従って一審被告aが異議を述べたことが違法になることはあり得ない。
(二) また,一審原告らは,一審被告aが,土地取得に際しての内部規律である京都市公有財産規則にも違反して本件土地を取得したとする。
しかしながら,京都市公有財産規則は,京都市が土地を取得する場合,原則として京都市不動産評価委員会(以下「評価委員会」という。)に土地価格について調査,審議,評定を諮問すべきとするが,例外的に上記諮問を要しない場合について,京都市不動産評価事務取扱要綱15条が個別具体的に定めており(丙2),同条(2)では,調停等により当該土地の価格が決定された場合は上記諮問を要しない旨規定されている。
そして,本件では,京都市及び一審被告iらが,調停に代わる決定である本件決定に異議を述べなかったことにより,本件決定と同内容の調停が成立したものとみなされるから,上記要綱の文言及び実質的な趣旨に照らして,上記諮問を要しない場合に当たるというべきである。
したがって,京都市が本件土地を取得するに際し評価委員会に対する諮問を求めなかったとしても前記京都市公有財産規則に違反するものとはいえない。
なお,一審被告aは,信頼しうるb不動産鑑定士による鑑定結果に基づいて本件土地の適正価格を判断したものであって,この点からも評価委員会に対し諮問する必要性はなかったというべきである。平成4年5月18日以降,京都市議会で,上記価格が高額にすぎるとの反対意見はあったが,それは一審被告iの事業計画では本件土地取得価格が20億円とされていたことを根拠とするところ,同価格が適正なものと認めうる証拠はないから,評価委員会に諮問すべきであったとはいえない。
6 京都市議会における審議の経緯について
(一) 一審原告らは,本件決定後,京都市議会における本件議案についての審議があまりにも性急であったと主張する。
しかしながら,同市議会においては,本件議案に対し反対の立場を取る野党側から激しい質問と討論が展開され,3日間にわたる市議会本会議における審議及び普通予算特別委員会における2日間における質疑討論を経て,議決されたものであるから性急との批判は当たらないし,実際,野党議員からも審議が性急であるとの意見は出なかった。
(二) 一審原告らは,京都市議会の質疑等で,本件土地の買取価格が高額過ぎることについて,議員から具体的な質問が出されたにもかかわらず,これに対し,一審被告a及び京都市側は,買取の必要性や買取価格の適正さ等について具体的な説明をほとんどしなかったと主張する。
しかしながら,一審被告a及び京都市側は,市議会に対し,b評価書を開示しており,買取価格の適正さについても同評価書に全て説明されている。また,京都市側は,市議会に対し,本件土地の買取価格が国土法上の指導価格の範囲内であるとの調査に基づく答弁を行っている。以上から,京都市側から市議会に対し,上記各点に関する具体的な説明はなされていたというべきである。
評価委員会に諮問しなかった理由についても,予算特別委員長が,市議会本会議で前記の内容どおり明確に説明しているし,また,一審被告iの事業計画に記載された買取価格20億円という価格の信用性についても,野党議員の方からゴルフ場建設用地買収価格については業者の表明をそのまま採用できないことを具体的事例を挙げて発言しており,問題点も明らかになっている。また,野党議員からは,b鑑定書の問題点についても指摘されているが,前記のとおりb鑑定書の評価には問題がないというべきであるから,この点に関する一審被告aの説明の有無は問題にならない。
7 本件議決の一審被告aに対する拘束力について
一審原告は,本件議決は,市長である一審被告aに対し,本件決定に対し異議を申し立てない旨の権限を付与するものにとどまり,異議を述べることを義務付けるものではないと主張する。
しかしながら,本件議決は地方自治法96条1項に基づくものであるところ,同項による市議会決議は当該議決事項について市の最終的意思を決定するものであるから,市長としては,市長に決議を執行するか否かの決定を委ねる旨の附帯決議がなされる等特段の事情がない限り,上記決議を執行する義務があると解すべきである。しかるに,本件議決は,京都市が本件決定に対し異議を申し立てないことを確定的に決定する趣旨であるから,京都市長の一審被告aとしては,本件議決に従い本件決定に対し異議を申し立てない義務があったというべきである。
8 本件議決の違法性と一審被告aの責任
(一) 本件議決の違法性
本件議決が,単に適正価格を大幅に超過する価格で本件土地を購入することのみを内容とするのであれば,それは違法という余地は十分あり,その場合,本件議決に従った市長も違法行為を行ったと評価することもできる。しかしながら,本件議決は,それのみならず本件土地の買取によって,一審被告iらが京都市に対し約80億円の損害賠償を請求する民事調停事件等一切の紛争を解決することを目的としてなされたものである。そして,上記損害賠償請求は従前の経緯から必ずしも全く理由を欠くというものとは断定できず,本件議決は,本件土地の買取価格が高額に過ぎるという点で違法な部分が一部あるとしても,上記紛争解決という正当な行政目的を実現するという意味で,全体としては適法というべきであり,少なくとも本件議決が一義的に違法ということはできない。
(二) 再議に付する義務について
本件議案が審理された京都市議会は,審理のために会期が延長された上,本件議決後に閉会されたものであるから,市長であった一審被告aは,仮に本件議決が違法であったとしても,本件決定の異議申立期間内に再議に付すること(地方自治法176条)は事実上不可能であった。
(三) 本件議決が違法な場合の一審被告aの責任
市議会の議決は,行政行為又は準行政行為であるから,市長が議決を誤導する等特段の事情がない限り,仮に同議決が市長の提出議案にかかるものであっても,重大かつ明白な瑕疵(違法性)がある場合のみ無効になり,そのような場合に当たらないときは,当該議決が再議により撤回されるまでは有効なものとして,市長に対し,議決内容を執行することを義務付けるというべきである。
しかるに,本件では,一審被告aは,本件土地の適正価格の根拠としてb鑑定書を開示するとともに,野党議員から,本件土地がゴルフ場建設用地として購入された際の事業計画書上の価格が20億円とされていることが明らかにされても同事実を否定していないのであるから,上記の本件議決を誤導したものとはいえない。
かえって,賛成派の多数の市議会議員は,本件土地の買取価格や本件決定に至るまでの拙速さには不満はあるが,一審被告iらとの紛争の解決を先送りすれば,将来一層の負担が生ずることになると判断して,本件議案に賛成して本件議決がなされたものであり,以上の経緯に鑑みれば,一審被告aに,20億円を下らない本件土地を47億円以上で買収しようと判断したことに誤りといえる部分があったとしても,同部分を含めて一審被告iらとの紛争の全体的な解決を図るために本件議案を提出し,最終的な決定権を有する市議会が,上記の部分的な誤りを認識した上で,将来の負担を回避し紛争の終局的解決に意義を認め,本件議決に至ったものであるから,本件議決は京都市議会が主体的に行ったものである。
したがって,一審被告aには,本件議決に従ったことによる職責違反は何ら存在しないというべきである。
9 一審被告aの過失について
原判決が判示するとおり,一審被告aが本件決定に異議を述べなかったことが違法であったとしても,以下の理由から一審被告aには過失があったとはいえないというべきである。
(一) 第1に,原判決は,b評価書の評価について多々問題点があったと認定するが,前記のとおり,上記評価書については国土庁長官が不当性はないと判断しており,仮に上記問題点があったとしても,一審被告aがこれに気がつくことは困難であった。
なお,本件決定に異議を述べないとの案件に関する京都市議会の審議の際,議員からb評価書にはゴルフ場建設用地の取引事例があるから不当な評価であるとの指摘があったが,同事例は前記事例六であり,c評価書でも事例として採用されており,また,ゴルフ場建設用地を事例地としたからといって直ちに評価額が不当に高額になるとはいえないから,上記指摘があったことをもって一審被告aの過失が認められるとはいい難い。
(二) 第2に,一審被告aは,本件決定後,本件土地の買取価格が高額にすぎる旨の批判を市議会議員や市民グループから受けたが,同批判は,前記のとおり一審被告iの取得価格が20億円であったことに基づくものであるところ,同価格が真実そのとおりであり,また,適正なものであるかを検討した上でなされたものとはいえない。
かえって,前記のとおりb評価書は不当なものとはいえず,上記取得金額は,b評価書に記載された本件土地周辺の取引事例地の価格の約7分の1ないし2分の1という異常な低価であることから,容易には信用できないものであった。
したがって,一審被告aは,原判決が認定するとおり,本件土地の適正価格が仮に21億4365万3712円であったとしても,それが適正価格であると知ることは期待できなかった。
(三) 第3に,原判決は,京都市は,本件調停の際に,b評価書を裁判所に提出せず,本件土地の適正価格について何ら資料のない裁判所に本件決定を求めたとするが,一審被告aとしては,b評価書が本件調停でどう扱われているか知り得ず,また,裁判所に対し,京都市としての本件土地の取得希望上限額を伝えた結果,本件決定が出されたのであるから,裁判所が相当と判断して本件決定を出したものと信ずるのが当然で,それが違法ないし不相当なものであるとは評価し得なかった。
第三当裁判所の判断
(一審被告らの本案前の主張について)
一審被告らの本案前の主張についての判断は,原判決15頁10行目の「右確定」を「本件決定の効力」と,同16頁9行目の「主張は」を「主張にかかる各行為は、個々の行為としては」とそれぞれ改める以外は,原判決「理由」中の「第一被告らの本案前の主張について」(原判決14頁6行目から同17頁3行目まで)のとおりであるからこれを引用する。
(本案について)
一 本件の経緯等について
1 本件の経緯等は,2のとおり付加訂正するほか原判決「理由」中の「第二 本案について」の一及び二(原判決17頁5行目から同34頁3行目まで)のとおりであるからこれを引用する。
2 原判決22頁2行目から3行目にかけての「前記のような判断をした」を「前記のとおり本件ゴルフ場の建設を認めないと判断した」と,同8行目の「買収する」を「買収することで紛争解決を図る」と,同23頁6行目,7行目,同24頁2行目及び7行目,同27頁6行目の「期日」をいずれも「調停期日」と,同25頁10行目の「決済」を「決裁」とそれぞれ改め,同27頁7行目の「本件決定の内容は、」の次に「次の(一)ないし(六)のとおりであり、」を加え,同29頁10行目冒頭の「なるになる、」を「なる、」と改める。
二 本件土地の適正価格について
一審被告らの責任の有無を判断する前提として,そもそも,本件決定で定められた本件土地の価格が著しく高額に過ぎるものであったのか否かが問題となるが,この点については,後記2のとおり当審における当事者の主張に対する判断をし,1のとおり付加訂正するほか,原判決「理由」中の第二の三(原判決34頁6行目から同43頁5行目まで)のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決36頁7行目の「評価しており、」から同8行目末尾までを「評価している。」と,同37頁7行目の「生じ、その試算価格が1058円になっている。」を「生じている。」とそれぞれ改め,同9行目の「いずれも、」の次に本件土地について」を,同38頁3行目の「基本的な事項」の次に「に関する認識や判断の合理性」をそれぞれ加え,同39頁7行目の「こと等と考慮して」を「こと等を考慮して」と改める。
2 当審における当事者の主張について
(一) b評価書について
(1) 一審被告aらは,b評価書の作成者であるb不動産鑑定士らに対し,不動産の鑑定評価に関する法律42条に基づき同法40条の懲戒を求める申立が国土庁長官に対してなされたが,同長官は,調査の結果,b評価書は不当な鑑定評価をしたものではないと判断して上記申立を退けたことを根拠として,b評価書の内容に不当な点はないと主張する。
しかしながら,上記国土庁長官の判断は,そもそも行政的な監督権の発動としてなされたものであり,いかなる理由から不当な鑑定評価ではないと判断したのかも証拠上明らかではなく,上記判断が,b評価書における評価内容の当否について実質的な判断を行ったものであるかも不明であるので,上記主張は採用できない。
(2) 一審被告aらは,b評価書が,本件土地の傾斜について,5度~30度と記載すべきところを「~30度」を書き落としたものであり,さらに,仮に5度を前提としても,土地価格比準表(丙18)によれば5度~30度の場合と評価額に差異は生じないから,結論に影響を与えない誤記であると主張する。
しかしながら,土地の適正価格に関する不動産鑑定においては傾斜の程度は重要であり,しかも,上記のとおりそれが5度から30度と差異が著しい場合,上記比準表における基準如何をとわず,適正価格の判定に影響を及ぼしたとの疑いは否定し難いというべきである。
上記と同様に,b評価書中に本件土地が公道に直接面する旨の誤った記載がある点についても,bによる本件土地価格の評価に影響を及ぼさなかったとはいい難い。
(3) 一審被告aらは,b評価書中のD事例(以下同評価書中の事例を「b事例D」等という。事例九・cI事例)の位置を誤認し,実際の位置より約12キロメートル北東方向に存在するものとして評価したが,上記比準表(丙18)によれば,正確な位置を前提にしても,b事例Dの評価額は1平方メートル当たり3194円で,位置を誤認して評価した価格の3496円と大差がなく,結論に影響を及ぼすものではないと主張する。
しかしながら,以上を前提とすると,b評価書が採用した4つの取引事例の各比準価格(1平方メートル当たり・以下同)は,b事例Aが4195円であるのに対し,他の3事例は3044円ないし3194円であり,上記事例Aと1000円もの差異が生じてしまい,そもそも上記事例Aの比準価格自体の妥当性が疑問となる。また,b評価書は,上記4事例の最大値と最小値を平均して本件土地の比準価格を算定しているが,かかる算定方式が合理的かも疑問が残る。
(4) 一審被告aらは,b事例A(事例一〇)は採石場に隣接する土地であり,b事例B(事例六)はゴルフ場建設予定地であるが,そもそも,本件土地のような林地を比準方式で鑑定評価する場合は,土地の最有効使用や開発可能地か否かといった点は考慮することを要せず,また,b評価書においても 開発の点を土地評価の要素として全く考慮せず,b事例Bについて,ゴルフ場建設用地としての買い進みがあったとして減価補正を行っているし,b事例Aについても,地域格差等により大幅に減額して試算しており,妥当であると主張する。
しかしながら,林地の比準価格を評価する場合,基準とすべき取引事例地が同じく林地であっても,採石場やゴルフ場建設予定地等一定の開発や事業による利益が見込まれる場合は,その点を十分考慮して比準価格を評価する必要があるというべきである。しかるに,b評価書は,b事例Bについてはゴルフ場としての土地買収の点を考慮するといっても,それは125分の100を乗ずる程度であり(丙3),また,b事例Aについては考慮された地域格差の項目中には採石場に隣接する点は明記されておらず(丙3),事業利益等上記の点を十分評価して取引事例地の価格を評価したか極めて疑問である。したがって,一審被告aらの上記主張は採用できない。
その他,一審被告aらは,b評価書の評価の適正さについてるる主張するがいずれも採用し難い。
(5) さらに,土地の適正価格を評価する際には,対象地自体の取引事例があれば当然これを検討すべきであり,特に,対象地が本件のように林地である場合,適切な取引事例の選択が必ずしも容易でないと思われるから,対象地自体の取引事例を検討する必要性はより高くなるというべきであって,b評価書にも,評価の基準となる近隣地は本件土地全体である旨の記載があるし(丙3・10頁),bも対象地の取引事例としての重要性を自認するところである(証人b)。しかるに,b評価書は,本件土地の過去の取引事例であり,不動産鑑定士が参照すべき取引事例カードにも記載されているcAないしD事例について一切検討しておらず,この点において基本的かつ重大な問題があるといわざるを得ない。
その他にも,b評価書には,b事例Bが実際には市街化調整区域外である(甲26)のに,市街化調整区域内の土地として評価したり,基準地とした林地(大阪(林)-3)についても採石場付近の土地であることを考慮せずにその比準価格を算定する等不合理な点が認められる。
(6) 以上によれば,b評価書における本件土地の評価額は,上記各問題点が存する結果,適正価格を大幅に上回る額になったものといわざるを得ず,これを採用することは到底できない。
(二) c評価書について
(1) cAないしD事例について
① 一審被告aらは,cAないしD事例は,取引価格がいずれも1059円であり,近接する他の地点の取引事例や直近の基準地価格に比しても,約7分の1から2分の1と極端に低額である等不合理な点があるから,取引事例として採用すべきではない旨主張する。
しかしながら,cAないしD事例と近接する事例地のうち,b事例AないしD及び直近の基準地(大阪(林)-3)については,前記のとおりb評価書の認定した比準価格はいずれも採用することができず,一審被告aらが上記以外の近接地として指摘するS地(京都市d区e町1095所在・丙6)についても,砂防ダムを建設する目的で売買された事例であること,f線g駅南西5.3キロメートル,大型集合商業地域であるhニュータウンから南西約2ないし3キロメートルの位置にあること等本件土地とは条件において著しく異なる点が多々認められる(甲49,丙56,弁論の全趣旨)。この点について,一審被告aらは,S地とcA事例との比較検討を行い,S地に比してcA事例の取引価格が低すぎる旨主張するが(平成14年7月24日付準備書面),同主張で用いられている個別要因比較格差率は,上記各点に照らして妥当性に疑問があり採用できない。
以上によれば,上記S地の事例価格をもってcAないしD事例が取引事例として不適切であるとはいい難い。
② 次に,一審被告aらは,cAないしD事例はいずれもゴルフ場建設用地として買収されたものであり,このような場合,その取引価格は実際より著しく低額に表示されることが多いことから,上記各事例で表示された取引価格は信用し難いとし,さらに,cAないしD事例は,所在が異なり,個別要因等にも差があるにもかかわらず全て同一価格で取引されており,取引価格を決定する際に何らかの作為が行われたものであると主張するが,上記各事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
③ また,一審被告aらは,(ア)cAないしD事例の取引価格と(イ)本件土地の内上記4事例以外の土地の取引価格をそれぞれ試算して,両者に整合性がないから上記4事例は取引事例としては採用し難いと主張する。
しかしながら,本件土地は多数の筆の土地から成り,各土地の購入時期も異なること(甲26・5頁),cAないしD事例以外の各土地の売買が,公簿取引だったのか実測取引であったのか等具体的な取引条件等も不明であること(弁論の全趣旨)からすれば,前記試算の合理性には疑問が残るので,上記主張は採用できない。
④ 以上の各点や,cAないしD事例について記載した取引事例カードの各記載内容(丙64ないし67)及び弁論の全趣旨によれば,引用にかかる原判決認定のとおり,cAないしD事例は,本件土地の比準価格を算定するための基準地として適切であったことが認められ,同認定を左右する証拠はない。
(2) c評価書の用いた格差率について
① 一審被告aらは,本件土地と取引事例とを比較する際,通常用いられる土地価格比準表を無視して恣意的な格差率を用いた評価をしており,その結果,本件土地の適正価格を不当に低く算出したと主張する。
確かに,引用にかかる原判決指摘の各点(原判決39頁4行目ないし同40頁6行目まで)を含め,c評価書が各取引事例の評価において用いた地域要因比較や個別的要因比較等における格差率の設定には疑問な点もあり,同評価書における本件土地の評価額(1平方メートル当たり1040円)をそのまま採用することはできないというべきであるが,上記の点以外については,c評価書の事例地の選択やその他の評価判断等は,概ね合理的なものということができるから,上記主張は採用し難い。
② これに対し,一審原告らは,原判決は,c評価書について,事例五及び六の地域要因比較及び個別的要因比較による修正を問題視するが,いずれも理由がなく,少なくともc評価書に基づいて本件土地の適正価格を算定すべきであると主張する。
しかしながら,事例五(cE事例)については,c評価書は個別的要因比較による修正率を353分の100とし,分母の内200は上記事例地が採石場として売買された点を考慮したものとされるが(甲26),上記事情を考慮しても200にまで達するのか疑問である。また,事例六(cF事例)についても,地域要因比較による修正率を225分の100とし,分母の内交通接近条件として45,道路条件として40を考慮したものとされるが,いずれも上記事例地の立地条件に照らして妥当なものか疑問が残る。
したがって,原判決判示のとおり,c評価書による土地評価額に基づいて本件土地の適正価格を算定することは相当とはいえないから,一審原告の上記主張は採用し難い。
(三) 本件土地の適正価格の評価について
(1) 一審被告aらは,原判決が,一審被告iが国土法に基づいて届け出た本件土地の取得価格等を基準として本件土地の適正価格を評価した点について,土地売買において,売主の以前の土地取得価格をもって適正価格と見る見解はなく,適正価格はあくまで鑑定評価により定めるほかないから,一審被告iの前記取得価格を基準とすることは許されないと主張する。
しかしながら,前記のとおり,土地の価格を評価する際に基準とすべき事例地については,評価対象地を含む近隣地から選択すべきものであるから,評価対象地そのものの過去の取引事例を事例地として選択することは何ら問題がなく,上記主張は採用できない。
(2) 一審被告aらは,本件土地のようにゴルフ場建設予定地として売買される土地については,国土法に基づく届出予定価格が実際の売買代金よりも大幅に低額となるケースも少なからずあり,上記届出価格が国土法上の不勧告通知を受けたとしても,それは取引価格として不当に高額ではないとされたものにすぎず,上記価格が適正と認定されたわけではなく,その場合,ゴルフ場建設の事業計画概要書に記載された用地買収費も上記届出予定価格に適合するよう,現実の買収価格より低額に記載されることが推測されると主張する。
しかしながら,本件土地について上記主張の各事実が存すると認めるに足りる的確な証拠はなく,上記主張は憶測の域を出ないものであって採用し難い。
(3) さらに,一審被告aらは,本件土地については,まず,一審被告iが地権者から買収し,これを一審被告jに売却したものであるが,上記事業計画概要書が作成された当時,両一審被告は,経営者が同一であって,一審被告iの譲渡益課税額を低減するため,実際の売買価格より低い価格を計上した可能性もあるとして,上記事業計画概要書記載の用地買収費に基づいて本件土地の適正価格を算定することはできないと主張するが,前記と同様に,これらの事実を認めるに足りる的確な証拠はなく採用できない。
(4) また,一審被告aらは,一定の目的のために複数の土地を買収する場合,買収時点での取得価格よりも,買収が完了し一団の土地を形成した後の方が全体の価格が高くなる事例も多いと主張する。
しかしながら,前記のとおり,一審被告iの取得価格は1平方メートル当たり1515円であるところ,引用にかかる原判決が指摘するバブル経済崩壊後の地価下落傾向や,後記のとおり,上記取得価格自体がゴルフ場建設用地取得を目的としたものでありことをも踏まえれば,一審被告aらの上記主張で指摘された点を考慮しても,本件土地の適正価格が同1600円を超えるものとは認め難いというべきである。
(5) さらに,一審被告aらは,事例六については,b評価書のみならずc評価書も取引事例として採用した規範性の高いものである上,本件土地より公道までの距離や標高において減価要素があるにもかかわらず,事例六の売買代金額にc評価書が採用する時点修正をしても1平方メートル当たり3875円となるところ,原判決は,これをはるかに下回る1600円を本件土地の適正価格と判断しており不当であると主張する。
しかしながら,事例六(b事例B)についてのb評価書の評価内容自体採用し難いし,他方で,c評価書についても,上記事例についての事情補正率は,ゴルフ場建設用地としての取得という点を考慮していない点で問題があり,地域要因比較値にも疑問があることから直ちには採用できない。したがって,上記主張は,主張の前提を欠くものであって採用し難い。
(6) これに対し,一審原告らは,バブル経済時の土地価格の異常な高騰やゴルフ場開発による土地の買い進み等を考慮すべきことが必要であるとして,c鑑定が選定した比較事例の基準地価である1平方メートル当たり1059円に,適切な時点修正や事情補正を行い,近隣の京都市内の山林の基準地価をも考慮すべきである等として,本件土地の平成4年5月時点の適正価格は,1平方メートル当たり300円であると主張する。
しかしながら,本件土地は行政区域としては京都府内に位置するが,社会的経済的に見れば大阪府高槻市により密接な関係があることが認められるから(丙3,弁論の全趣旨),上記京都市内の山林を基準地として採用することは相当とはいえず,その他,一審原告らの上記主張については,これを根拠付ける専門的な見解も証拠上ないから失当というべきである。
さらに,一審原告らは,本件土地がゴルフ場開発のために取得された土地であり,原判決のとおり取得価格を基準に1600円と算出したとしても,その中にはゴルフ場開発による利益がある程度含まれると見るべきであるから,何らかの補正をすべきであると主張する。
確かに,本件土地の適正価格の評価に当たっては,ゴルフ場開発目的で取得された点を減価要素として考慮すべきであるが,他方で,前記一審被告aらの主張のとおり,本件土地が買収の結果一団の土地を形成している点も増価要素として考慮する必要があり,一審被告iの国土法届出価格が1515円であることをも踏まえれば1600円をさらに減額修正すべきとまではいえず,上記主張は採用することができない。
(7) 以上の各点に引用にかかる原判決認定の各事実を総合すれば,本件土地の平成4年5月当時における適正価格は,1平方メートル当たり1600円,合計21億4365万3712円を上回るものとはいえず,前記認定,判示を総合すると,同額をもって適正価格と認めるべきである。一審原告ら及び一審被告aらは,それぞれ当審において,本件土地の適正価格についてるる主張するがいずれも採用し難い。
三 一審被告aの責任について
1 そこで以上を前提に検討するに,一審被告aは,京都市長として京都市議会による本件議決に基づいて本件決定に対し異議を述べなかったものであるが,このように,市議会の議決に基づいて市長が行った行為について,地方自治法242条の2第1項4号の規定に基づく代位請求に係る損害賠償請求を求めうるのは,上記行為自体が,市長が当該市に対して負う財務会計法規上の義務に違反するものであるときに限られると解すべきであるところ,このような財務会計法規上の義務違反が認められるのは,上記行為の前提である上記市議会の議決が著しく合理性を欠く違法なものであって,そのため同議決に地方自治体における地方財務行政の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存する場合に限られるというべきである(最高裁判所平成4年12月15日第3小法廷判決・民集46巻9号2753頁参照)。
そして,本件では,最終的には,市長の京都市に対する財務会計法規上の義務違反が問題となるのであるから,同義務違反の存否の認定に当たっては,単に,当該地方議会での審議や議決の当否のみならず,当該議決に至るまでの議案提出や議決に至るまでに,市長が京都市議会に対して行った説明や具体的対応等をも十分考慮すべきである。
以上に対し,一審被告aらは,市議会の議決に明白かつ重大な瑕疵がある場合とか,市長自身が市議会に対し虚偽の説明を行い議決を誤らせた等の特段の事情がない限り,市長が市議会の議決に基づいて行った行為は違法とはなり得ないと主張する。
しかしながら,上記の重大かつ明白な瑕疵という基準は,行政行為が無効となる場合についてのものであるところ,本件では,行政行為の有効性ではなく,地方自治法242条の2第1項4号の規定に基づく損害賠償請求権の有無をめぐり,市長の地方公共団体に対する職務上の義務違反が問題となるのであるから,上記基準を採用する必然性はない。また,上記規定の趣旨に鑑みれば,前提となる議決に無効となるまでの瑕疵がない場合であっても,市長が財務会計法規に基づく職務上の義務に違反したことを理由として損害賠償責任を負うべき場合もある。
したがって,一審被告aらの主張する上記基準を本件で用いることは妥当ではないと解すべきである。
2 本件議決の適法性について
(一) そこで,一審被告aが,本件議決に従って本件決定に異議を述べなかった行為自体が財務会計法規上の義務に違反したものであったか否かの判断の前提となる,本件議決が著しく合理性を欠く違法なもので,そのためこれに地方自治体における財政の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存したといえるかを検討する。
そもそも,地方公共団体における経費は,その目的を達成するための必要かつ最小の限度を超えて支出してはならないとされる(地方財政法4条1項)から,地方公共団体が土地を取得する場合も,できる限り適正かつ安価な代金で取得するよう最大限の努力をすべきことは当然であり,そうであれば,地方議会の行った適正価格を大幅に超える代金額で土地を取得する旨の議決が違法なものと評価される場合もあると解される。
他方で,地方議会は,さまざまな公共目的を実現する見地から,必要な土地を適切かつ迅速に取得する権限が認められるべきであり,代金額を含めいかなる内容で当該土地を取得するかについて広範な裁量権を有すると解さなければならない。
したがって,土地取得にかかる地方議会の議決の違法性の有無や程度は,単に取得価格が適正価格を上回ったか否かを事後的に判断するのみならず,上記取得価格の算定が手続的にも実体的にも適正に行われたか,当該土地を取得する具体的な行政目的や必要性がどの程度あったか等の諸事情を総合し,当該議決がなされた時点を基準として,地方議会に認められた裁量権の逸脱,濫用があったか否かという観点をも踏まえて判断するのが相当である。
(二) そこで,以上を前提に京都市議会における本件議決の違法性の有無及びその程度について検討するに,引用にかかる原判決認定の各事実,証拠(丙45ないし47)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実を認定することができる。
(1) 本件土地の適正価格の評価について
① b評価書について
前記認定のとおり,本件決定で示された本件土地の買取価格は,b評価書の評価価格に基づくものであったが,b評価書については,前記のとおり,ゴルフ場開発予定地として買収されたb事例Bが取引事例として採用されていること,本件土地自体の従前の取引事例では買収総額が20億円とされているにもかかわらず,同事例が全く考慮されていないこと,b以外に複数鑑定を求めておらず,b評価書の評価の当否につき十分検証しうる資料に乏しかったことなど,市議会がその当時客観的に認識し得た事情に照らして合理性に疑問があったところ,京都市議会においても,市議会議員から上記問題点が具体的かつ明確に指摘されていたのであるから,京都市議会としては,問題を解明し検討すべく関係部署を通じて調査等すべきであったが,そのような対応は取られなかった。
また,b評価書は京都市議会に開示されていた上,その評価価格の合理性について疑問が呈されていたものであり,京都市議会としては,前記のとおり,本件土地の傾斜度や,取引事例地の位置を誤認する等b評価書の記載内容の客観的な誤りについても当然認識し得たはずであるが,これを十分検討することを怠った。
② 評価委員会に対する諮問の必要性について
京都市公有財産規則は,京都市が土地を取得する場合,原則として評価委員会に土地価格について調査,審議,評定を諮問すべきことを定めているが,例外的に上記諮問を要しない場合を,京都市不動産評価事務取扱要綱15条が個別具体的に定めており,同条(2)では,調停等により当該土地の価格が確定した場合は上記諮問を要しない旨規定されている(丙2)。
そして,本件では,京都市及び一審被告iらが,調停に代わる決定である本件決定に異議を述べないことにより,本件決定と同内容の調停が成立したものとみなされるから,形式的には上記要綱15条が規定する例外事由に該当するかに見える。
しかしながら,京都市公有財産規則は,京都市による財産の取得が適正になされることにより,市財政の健全化を図る趣旨と解され,上記要綱15条が,判決,和解,調停等で土地価格が確定した場合は評価委員会に対する諮問を要しないと規定したのは,上記場合は通常裁判所が紛争の実態や提出された関係資料を踏まえて適正な判断を行うことが期待できるからであると解される。ところが,本件は,原判決認定のとおり,調停裁判所に対しては,b評価書を含め本件土地の適正価格を算定するための資料は一切提出されておらず,同裁判所が京都市代理人の要望に基づいて本件決定を出したものであるから,上記要綱15条が想定する事例に該当するとはいえない。さらに,本件決定で示された本件土地の買取価格は40億円を超える高額なものであり,かつ,前記のとおり,市議会において上記買取価格やb評価書について批判がなされていたのであるから,市による財産取得の適正を図る趣旨から,評価委員会での慎重な審議を要する事案であったというべきである。
したがって,本件が,上記要綱15条所定の事由に該当する事案であったとはいえず,評価委員会に諮問することなく本件議決を行ったことは,上記規則に違反するものであったといえる。
③ 以上によれば,京都市議会は,本件決定に示された本件土地の買取価格が適正かについて,当然なすべき実体的な調査や審議を尽くさず,また,手続的にも内規に違反した上で,上記買取価格での買取を是認する旨の本件議決を行ったものであり,この点で違法があったというべきである。
(2) 京都市が本件土地を本件決定を確定させることによって取得する必要性について
一審被告aらは,京都市による本件土地の取得は,①直接には,京都市が一審被告iらから80億円の損害賠償を求める調停を申し立てられたため,その解決を図ることを目的とし,②最終的には,市民の健康につながる自然公園用地にあてるという行政目的に基づくものであり,③現に上記調停が申し立てられた状況下で,これを解決する必要があったから,差し迫った必要性がなかったとはいえないと主張する。
しかしながら,一審被告iらが上記調停で主張する京都市に対する80億円の損害賠償請求は,一審被告iらが京都市担当者の行政指導に基づいてゴルフ場建設を計画し,また,建設用地として本件土地を取得することにつき国土法に基づく届出に対し京都市が不勧告通知をしたにもかかわらず,京都市は最終的に上記建設を不許可とする決定をしたことを理由とするものであるところ,調停申立書(丙38)の記載内容や判例(昭和56年1月27日第3小法廷判決・民集35巻1号35頁参照)に照らしても,本件調停が不成立となり一審被告iらが上記損害賠償を請求する訴訟を提起したとしてもそれが認容される見込みが乏しいことは明らかであったし,京都市自身も,当初から一貫して上記損害賠償請求に応じないとの意向を明らかにしていたのであるから,京都市が本件調停事件を解決するために,高額な代金を支払ってまで,一審被告iらから本件土地を購入する差し迫った必要性はなかったというべきである。
なお,一審被告aらは,一審被告iらが京都市に対し行政処分の取消訴訟を提起した場合,京都市が敗訴する可能性がなくはなかったと主張するが,この点については,京都市議会の審議の際に議員等から何ら言及されておらず,本件議案と上記行政訴訟との関係が本件議決の際に考慮されていたとはいえない。
また,一審被告aらは,京都市が,本件土地を取得する目的として,自然環境を保全しながら自然とふれあう場を整備し,道路等の基盤整備その他の地域振興を図る必要があった点を指摘するが,上記目的自体極めて一般的かつ抽象的なものである上,本件議決がなされた当時,本件土地の具体的な利用計画はその概要さえ全く未定であった(なお,実際に本件土地一体を都市公園とすることが決定されたのは,本件議決から約4年後で,本訴提起後の平成8年である。)。
したがって,京都市としては,本件議決当時,本件土地を取得する目的は余りに漠然としており,取得する現実的必要性も乏しいものであったといわざるを得ない。
そして,一審被告aらは,京都市と一審被告iらとの紛争が長期化すれば,本件土地が転売される等して,将来的に,京都市が本件土地を取得することが困難になると主張するが,抽象的な可能性としてはともかく,近い将来,本件土地の転売がなされるおそれがあると認めうる的確な証拠はないから,上記主張は採用し難い。
以上によれば,京都市としては本件土地を取得する必要性自体が乏しく,しかも,本件決定の異議申立期間という極めて限定された短期間の内に,前記のとおり本件決定における取得価格が適正であるか極めて疑問であったにもかかわらず,あえて本件決定を確定させることにより本件土地を取得する差し迫った必要性があったとは到底いえない。
(三) 上記認定の各事実によれば,本件議決は,京都市が,本件決定に異議を申し立てないことにより,その当時,市として本件土地を緊急に取得する目的や必要性に乏しく,しかも,買取価格の適正さについて,極めて疑問な点が多々あったにもかかわらず十分な調査等もせず,また,価格の適正を担保するための内規にも違反した上,適正価格を20億円以上も超え経済的に見れば到底あり得ない高価格で本件土地を買い取るというものであったことが認められる。 以上を総合すれば,本件議決が,地方議会に認められた裁量権を逸脱,濫用した違法なものであったことは明らかであり,さらに,同議決は,著しく合理性を欠き,そのためこれに地方自治体における財政の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存するものといわざるを得ない。
(四) 一審被告aの本件議決に至るまでの対応について
(1) 本件議案の提出に至るまで
引用にかかる原判決認定によれば以下のとおり認められる。
一審被告aは,本件調停申立にかかる紛争を一審被告iらから本件土地を適正価格で買い取ることで解決しようとして,京都市代理人弁護士を通じて,平成4年4月15日の第1回調停期日に,調停裁判所に対し上記意向を伝えた上,同月20日,bに対し本件土地について鑑定依頼を行い,その結果作成されたb評価書に基づいて,同年5月8日に,調停裁判所に対し,本件土地の買取希望価格(48億6963万円)を提示した。
そして,同時点において,調停の進行状況如何では上記価格で本件土地を買い取る旨の調停が成立する可能性もあったと認められるから,少なくとも適正価格での買取の意向を明らかにした同年4月15日ころ,前記のとおり評価委員会に諮問するなどして適正価格の評価に努めるべきであったといえるのに,同一審被告はこれを怠ったものである。
そうとすると,一審被告aは,本件議案が提出される以前の段階で,本件土地の適正価格認定のために尽くすべき手段を講じなかったというべきである。
さらに,一審被告aから委任を受けた京都市代理人弁護士は,同年5月8日の第3回調停期日において,調停裁判所に対し,京都市が上記買取希望価格で本件土地を買い取る旨の調停に代わる決定(本件決定)を出すよう求め,同月13日に本件決定が出されたが,その結果,本件決定に対する2週間の異議申立期間内に,京都市は同市議会において異議を申し立てるか否かの本件議案につき議決せざるを得なくなった。しかも,一審被告aは,京都市議会に対し,本件議案を直ちに提出せず,市議会閉会間際の同月21日に至って本件議案を提出したため,本件議案について審議しうる期間が極めて短期間に限定されることになったものであり,かかる事態を招いた点について一審被告aに責任があることは否定し難い。
そうとすると,一審被告aとしては,本件議案を提出した責任者であることやその審議期間が短期間となった経緯に鑑み,京都市議会が本件議案を審議するに際し,本件土地の適正価格について的確な判断ができるよう,議員から指摘された問題点を解明するために具体的な説明や資料の提出に努めるなど万全の配慮を尽くすべき義務を負っていたというべきである。
(2) 本件議決に至るまで
そこで,本件議案提出後,本件議決に至るまでの京都市議会における一審被告aの答弁や説明等について検討するに,前記認定によれば,以下のとおり認められる。
一審被告aは,市議会においてb評価書の問題点が指摘されていたにもかかわらず,これを解決するため改めて検討,調査した上具体的な説明や答弁をすべきであったのに,b評価書を開示する等した以外は上記問題点について特段の調査や説明等をしなかった。
また,一審被告aは,調停裁判所が,b鑑定書等客観的な資料に基づいて本件決定を出したわけではなく,京都市側の提案した金額に専ら依拠して本件決定をしたのにその点に言及せず,本件決定で定められた土地価格は,調停裁判所が中立的かつ公正な立場から判断したものであるから信用しうる旨誤解を招くような答弁をしている(丙45)。
そして,京都市議会の審議において,本件土地自体の過去の取引価格として,一審被告iの国土法上の届出価格が指摘され,それと本件決定で定められた価格が大幅に異なる点が問題とされていたのに,国土法上の監督官庁としての守秘義務による限界があるとはいえ,京都市の担当者を通じて,本件決定で示された本件土地の価格が国土法の指導価格の範囲内であるとの抽象的な説明をするに留まり,京都市長としての国土法上の監督権限に基づいて,市議会が上記届出価格の適正さを検討するための指導価格の概算価格や算定根拠等,具体的客観的な資料を提出し得たにもかかわらずこれを怠ったものである。
さらに,一審被告aは,本件土地取得の必要性についても,損害賠償請求訴訟が提起された場合の敗訴可能性,本件決定に対し異議を申し立てた場合の本件調停手続やその後の予想される経緯等について具体的な説明を尽くしたかも証拠上疑問である。
(3) 以上によれば,一審被告aは,京都市議会が,本件土地の適正価格や取得の必要性について審議するに際し,当然なすべき説明や資料の提出等を怠り,審議の充実を図るため万全の配慮を図るべき義務を怠ったというべきである。そして,このような場合,市長たる一審被告aは,本件議決がなされたことを理由に,本件における責任が直ちに免ぜられると解することは相当ではない。
3 以上検討したところを総合すれば,一審被告aが,京都市長として,本件決議に従って本件決定に異議を申し立てなかった行為は,財務会計法規上の義務に違反する違法なものというべきである。
しかしながら,他方で,一審被告aが,法令上,本件議決に拘束され,そのため,本件決定に異議を申立てない以外の対応が取れないのであれば,その責任は問い得ないという余地もあるから,すすんで,本件議決が市長である一審被告aに対していかなる効力を有し,また,その同効力を前提として,一審被告aがいかなる職務を行うべきであったかを検討する。
本件議決は地方自治法96条1項12号に基づくものであり,同項所定の各事項についてなされた議決は,予算に関するもの等は別として,当該地方公共団体の最終的な意思を決定するものであるから,市長等首長としては,特段の事情がない限り,上記議決の内容どおりにこれを執行すべき義務を負うものと解すべきところ,本件議決は,本件決定に対し異議を申し立てない旨の本件議案を受けて,京都市として本件決定に異議を申し立てないことをを明確に議決したものであり,京都市議会における審議経過(丙45ないし47)に照らしても,京都市長に対し本件決定に異議を申し立てないよう義務付ける趣旨であり,異議を申し立てるか否かについての判断を京都市長の裁量に委ねる趣旨ではないとも見うる。
しかしながら,前記のとおり,本件議決は,法的に無効とはいえないまでも著しく合理性を欠き,地方自治体における財政の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存するものであるから,上記特段の事情が認められるというべきである。そうとすると,本件議決が市長である一審被告aに対して拘束力を有していたとは解し得ず,一審被告aとしては,京都市に対して負っていた財務会計法規上の義務に基づき,本件決定に対し異議を申し立てるべきであったというべきである。
なお,仮に,本件議決に拘束力があったとしても,地方公共団体の長は,議会の議決が法令に違反すると認めるときは,これを再議に付する義務を負うところ(地方自治法176条4項),前記のとおり,本件議決は違法であり,さらに,著しく合理性を欠き,地方財政の適正確保の見地から看過し難い瑕疵が存するものであったと認められるから,京都市長としては,財務会計法規上の義務として,本件議決後直ちに再議に付する義務を負っていたというべきである。しかるに,一審被告aは,上記再議に付する義務の履行を怠った上本件決定に異議を申し立てなかったものであり,違法な行為を行ったということができる。
この点について,一審被告aは,本件議案が審理された京都市議会は,審理のため会期を延長しており,本件議決後は閉会となり,本件決定に対する異議申立て期間内に再議に付することは事実上不可能であったと主張する。
しかしながら,再議に付すべき議会の会期については,当該議決がなされた当該会期に限定されるべきではなく,市長は,再議に付すべき義務を負う場合,再議のため臨時会を招集する等できる限りの手段を講じなければならないというべきである。そして,原判決認定のとおり,上記異議申立て期間は平成4年5月27日までであり,本件議決がなされた同月26日を含めて2日間の期間が残されていたのであるから,上記期間中に臨時会を招集することも可能であったというべきであるから,一審被告aが,本件議決後,直ちに,再議に付することは事実上不可能であったとはいい難い。また,そもそも,上記のように京都市議会における審議期間が限定されたものとなった点については,前記認定のとおり,一審被告aに責任があったというべきであるから,審議期間が短期間となったため再議に付することに支障が生じたとしても,一審被告aの責任が免責されるとは解し難い。
したがって,一審被告aらの上記主張は採用できない。
4 一審被告aの過失について
一審被告aらは,本件決定に対し異議を申し立てなかった行為が違法であったとしても,同行為に及んだ点について過失はなかったとしてるる主張するが,原判決認定の各事実及び前記認定の各事実を総合すれば過失があったことが認められ,上記主張は採用し難いというべきである。
5 まとめ
以上によれば,一審被告aが本件決定に対し異議を申し立てなかった行為は違法であり,かつ,同行為は同被告の過失によるものと認められるから,これにより京都市が被った損害を賠償すべき義務を負うというべきである。
四 京都市の損害について
京都市は,一審被告aの上記違法行為により本件決定が確定したため,本件土地を一審被告jから代金47億5623万1684円で買い受ける旨の調停が成立したものとみなされたのであるから,上記代金額と前記認定の本件土地の適正価格21億4365万3712円との差額である26億1257万7972円の損害を被ったことが認められる。
なお,原判決は,京都市に本件土地を取得する目的が一応あったことや一審被告aの市長としての裁量権の存在を理由に,一審被告aの前記違法行為と相当因果関係にある京都市の損害は,本件土地の適正価格21億4365万3712円の2倍と本件決定における代金額との差額に相当する額と認めたが,一審被告aによる裁量権の程度が問題になるとしても,それは責任原因の有無を判断するに当って考慮されるべきものであって,損害の範囲を画するものではないし,また,そもそも,原判決のとおり,適正価格の2倍をもって京都市の損害と認めるべき的確な証拠や事実上及び法律上の根拠があるともいい難い。したがって,原判決の上記判断は失当というべきである。
五 一審被告iらの責任について
一審原告らⅠは,一審被告iらは一審被告aと共謀の上,本件決定の価格が不当に高額であることを知りながら,本件調停を利用して,京都市に本件土地を上記価格で買い取らせたとしてるる主張するが,同事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
また,一審原告らⅠは,一審被告iらが本件決定による価格で京都市から本件土地を買い受けることは暴利行為に当たるから同決定による売買は無効であり,一審被告iらは,本件土地の当初の取得価格を知悉しており,本件決定で示された代金額が不当であることを知り得たのであるから,その上で京都市から上記代金を取得した以上,京都市に対し,上記代金相当額の不当利得返還義務を負うと主張する。
しかしながら,本件決定で定められた本件土地の価格は前記認定の適正価格の概ね2倍程度にとどまるから,本件土地の売買が暴利行為に当たるということはできず,その他,上記売買を無効とすべき事情は本件全証拠によるも認められない。
したがって,一審原告らⅠの上記主張は採用できない。
第四結論
以上によれば,一審原告らの一審被告aに対する本件請求は,26億1257万7972円及びこれに対する本件決定が確定した後である平成5年6月30日以降支払済みまで民法所定の年5分の遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却すべきであり,一審原告らⅠの一審被告iらに対する本件請求はいずれも理由がないから棄却すべきである。よって,これと一部異なる原判決中一審被告a関係部分は相当でないから変更し,一審原告らⅠの一審被告iらに対する本件控訴及び一審被告aの本件控訴はいずれも理由がないから棄却することとし,仮執行宣言を付するのは相当でないのでこれを付さないこととし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 武田多喜子 裁判官 小林秀和 裁判官 青沼潔)