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大阪高等裁判所 平成13年(行コ)45号 判決 2001年10月30日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求める裁判

1  控訴人ら

(1)  原判決を次のとおり変更する。

(2)  被控訴人は,控訴人らに対し,1074万5116円及びこれに対する平成12年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

(4)  仮執行の宣言。

2  被控訴人

本件控訴を棄却する。

第2事案の概要

事案の概要は,次のとおり付け加えるほかは,原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決書2頁12行目の「記録検出の結果」を削る。)。

(当審における控訴人らの主張)

原判決は,原審で双方から指摘された最判昭和53年3月30日の考え方を引用して,地方自治法242条の2第7項の弁護士報酬額算定の基準となる経済的利益は,基本的には,算定不能の場合によるべきであるという見解のもとに,K弁護士会報酬等規程15条1項による経済的利益が算定不能の場合の見なし利益額800万円をもって,本件住民訴訟の経済的利益の額としている。しかし,上記判例の事案は,訴え提起の手数料印紙額の認定が問題となった事案である。住民訴訟の訴えの手数料印紙額については,これが高額に過ぎると住民訴訟の制度の趣旨を没却することになるという点が配慮されるべきであるが,逆に,法242条の2第7項による弁護士報酬請求権は,住民訴訟を支えるための権利であるから,上記判例の考え方を同項による弁護士報酬額の算定に際して利用することは合理的とはいえない。この点は原審で主張したとおりであるが,更に,法242条の2第7項による弁護士報酬負担制度と類似する商法268条の2第1項の規定に関する実務の考え方も,参照されるべきである。すなわち,商法267条の規定による株主代表訴訟の訴えにおける訴訟の目的の価額の算定問題については,財産権上の請求にあらざる請求に係る訴えとみなす趣旨の立法により解決されたが,その後においても,商法268条の2第1項の規定による弁護士報酬額の認定については,株主代表訴訟の結果会社の損害が回復されたときは,第一次的には会社に利益がもたらされたことになる点に鑑み,会社が回復した損害額を基準として,弁護士報酬規程により着手金及び報酬が算定され,これに諸般の事情を加味して,最終的に決定されているのが実務の取扱なのである。地方自治法242条の2第7項の解釈においてもこれと異なった解釈をすべき合理的な理由はなく,個別具体的な訴訟において,その請求額,当事者の数,事案の内容,弁護士の手数の繁簡,提訴前に取った措置,自治体が得た利益などの諸般の事情を考慮して,相当な額を判断すべきである。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も,控訴人らの請求は,原判決が認容した限度で理由があるから,認容すべきであり,その余は理由がないから,棄却すべきであると判断する。その理由は,次のとおり付け加えるほかは,原判決「事実及び理由」中の「第三 争点についての当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決書10頁22行目の「また、」から同頁25行目の末尾までを「なお,本件住民訴訟の第2次第一審が係属中に,Zが被控訴人に3178万6898円を支払っているが,これに本件住民訴訟の追行がどのように寄与しているかは明らかでない。」に,同12頁7行目の「12年」を「平成12年」にそれぞれ改める。)。

地方自治法242条の2第7項の規定による「相当と認められる額」(相当額)は,同条の2第1項4号の規定による訴訟の原告が勝訴した場合に,「(その原告が弁護士に支払うべき)報酬額の範囲内で」定められるべきものであり,普通地方公共団体が弁護士に訴訟委任したとすれば支払うべき仮想的報酬額の範囲内で定められるものではない。控訴人らは,本件住民訴訟の訴訟代理人に対し,口頭で,K弁護士会報酬等規程の定めに従い,法242条の2第7項の手続により弁護士報酬を支払う旨約束したというのであるが(原審第1回口頭弁論期日における控訴人らの陳述),要するに具体的な金額の約束はないものの,K弁護士会報酬等規程の定めに従う報酬額を支払うことを約束したというのである(敗訴の場合は無報酬とする旨を含む趣旨かもしれない。)。したがって,本件の相当額の認定については,まず具体的な本件住民訴訟におけるこの約束による報酬額を認定する必要があるところ,この点は,原判決の認定判断するとおりであり,特別の事情のない限り,K弁護士会報酬等規程のうち,事件等の対象の経済的利益の額を算定することができないときについて定める15条1項を一応適用すべきものと認めざるを得ない。本件住民訴訟で控訴人らが勝訴した場合に被控訴人が受けることになる経済的利益がいかに大きいものであっても,これが直ちに控訴人らの受ける経済的利益に該当すると考えることは相当でないのであって,控訴人らの受ける経済的利益は,原判決が説示するように,K弁護士会報酬等規程による「経済的利益の額を算定することができないとき」に該当すると解するほかないと考えられるからである。このように弁護士会の定める弁護士報酬規程を一応の基準としても,前記相当額の認定については,更に,その他の一切の事実を総合的に考慮する必要があり,住民訴訟の認容額も考慮すべき事実であるから,控訴人らの主張はその意味で十分検討すべきものと考えられるが,引用した原判決の認定判断は,これと同旨の見解のもとに相当額を認定しているのであり,この認定判断を覆すに足りる証拠はない。

控訴人らは,株主代表訴訟の場合について指摘している。しかし,株主代表訴訟の場合に控訴人らの主張するような実務例があるとしても,株主代表訴訟と住民訴訟ではその制度の趣旨,目的及び効果において異なる面があるから,両者を必ずしも同様の考慮のもとに取り扱うべき必然性があるとまでは認めがたいのであるが,いずれにしても,本件では報酬契約が前記のように認められるから,双方を抽象的に比較検討する主張は,採用することはできない。

2  よって,原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,控訴費用の負担について民訴法67条,61条,65条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 加藤英継 裁判官 小見山進 裁判官 大竹優子)

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