大阪高等裁判所 平成13年(行コ)46号 判決 2002年1月22日
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が大阪府地方労働委員会平成4年(不)第26号,平成5年(不)第13号及び平成7年(不)第69号併合事件について,平成11年12月24日付けでなした命令のうち,主文第1項及び第2項を取り消す。
3 訴訟費用は,第1・2審を通じて被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1 事案の概要は,以下に付加,訂正,削除した上,原判決の「第二 事案の概要」の記載を引用する。なお,以下,不当労働行為救済申立人適格を単に「申立人適格」ともいう。
(1) 3頁最終行の「以下「団交」という」を「以下「団交」ともいう」と改める。
(2) 4頁1行目の「非常勤講師」を「非常勤講師などの非常勤職員」と,同頁1・2行目の「臨時的教務事務報酬の廃止」を「臨時的教務事務報酬などの支給の廃止」と,同頁2行目の「非常勤講師」を「非常勤職員」とそれぞれ改める。
(3) 5頁4行目の「二一〇名」を「約210名」と,同頁5行目の「組合員」(2か所)をいずれも「組合員数」と,同頁9行目の「同年」を「平成元年」とそれぞれ改める。
(4) 6頁3行目の「その他」を「非常勤講師のほか」と,同行の「定年勧奨」を「勧奨」とそれぞれ改め,同頁6行目の「特別職の地方公務員である。」の次に「非常勤講師,非常勤特別嘱託員及び非常勤教務補助員を,以下「非常勤講師等」という。」を加える。
(5) 6頁最終行の「昭和四八年」の前に「非常勤講師に対しては,」を加える。
(6) 7頁3行目から4行目にかけての括弧書きを削除し,同頁7行目の「非常勤講師にも常勤講師らと同様」を「非常勤講師等にも非現業職員と同様」と改め,同頁8行目の「右臨時的教務事務報酬」の次に「及び非常勤特別嘱託員に対する右時間外勤務に対する報酬(以下「臨時的教務事務報酬等」という。)の支給」を加える。
(7) 8頁7行目から8行目にかけての「昨年末一時金交渉で誠意をもって対応するとの約束」を「前年末の一時金交渉でなされた誠意をもって対応するとの約束」と改め,同頁最終行の「原告が府教委に対し、」の次に「控訴人の府教委に対する交渉の申入れが」を加える。
(8) 10頁11・12行目の「同月二九日午後四時に」を「交渉日時を同月29日午後4時として」と改める。
(9) 11頁4行目の「原告指摘の日時の交渉期日を指定する旨の回答」を「控訴人が申し入れた日時における交渉を応諾する旨の回答」と,同頁8行目の「管理係長は」を「府教委の管理係長は,電話で,」と,同頁12行目の「同月三〇日」を「同年10月30日」とそれぞれ改める。
(10) 12頁4行目の「(1)」の次及び次行の「(2)」の次にいずれも「非常勤講師等についての」を,同頁7行目の「賃上げ額」の前に「非常勤講師等の報酬の」をそれぞれ加え,同行の「臨時的教務事務報酬など」を「臨時的教務事務報酬等」と改める。
(11) 13頁1行目の「混合組合であるとした上で、」の次に「その構成員の大多数を非現業職員が占めていることから,控訴人の法的性格は地公法上の職員団体であると判断した。そして,労組法の適用を受ける労働者も職員団体に加入することができるから,職員団体に加入した労組法の適用を受ける労働者に対する不利益取扱いを救済する必要性を考慮して,」を加える。
(12) 13頁6行目の「申立人適格は認められるが、」の次に「臨時的教務事務報酬等の支給の廃止は」を加え,同頁12行目の「平成七年」を「平成6年」と改める。
(13) 14頁6行目の「臨時的教務事務報酬」の次及び次行の「非常勤講師」の次にいずれも「等」を加える。
(14) 15頁6行目の「八七号」を「(第87号)」と改める。
(15) 16頁5行目の「そのもの」を「その者」と改める。
(16) 18頁7行目と同頁8・9行目の「労組法適用組合員」をいずれも「労組法非適用組合員」と改める。
(17) 19頁1行目の「労組法七条四号」を「労組法7条1号及び4号」と改める。
(18) 21頁2行目の「臨時的教務事務報酬」の次に「等」を加え,同頁7行目の「労組法の適用がない」を「労組法の適用がないし,」と改める。
(19) 22頁10行目の「できた」を「できるようになった」と,同頁12行目の「法改正」を「の国内法整備」とそれぞれ改める。
(20) 27頁10行目の「労組法適用労働者等」を「労組法適用労働者」と改める。
(21) 29頁2行目の「非常勤講師、非常勤職員等」を「非常勤講師等」と改める。
2 当審における控訴人の主張(原判決批判)
(1) 原判決は,労働団体の性格ごとにこれを規律する法を区別するという現行法体系から,1個の労働団体が同時に二面的な法的性格を有することは予定していないと結論づけるが,以下のとおり,規律する法が区別されるということと1個の団体が1個の法的性格しか持ち得ないということは,論理的に結びつくものではない。
株式会社は同時に合名会社になり得ないが,それは会社ごとに規律する法を区別する現行商法の体系によるものではなく,株式会社と合名会社が相反して両立し得ない要件で構成されており,それらの要件が混合する余地がないことによるものである。
社会的実体としては1個である大阪府知事は,労組法上の使用者と地公法上の当局という二面的な法的性格を有している。これと同様に,1個の労働団体が労組法上の労働組合と地公法上の職員団体の二面的な法的性格を有することもあり得るのである。
労働団体は,本来的に多重的な法的性格を持つものである。労働組合は,①憲法上の要件,②労組法2条の要件及び③労組法5条の要件を具備して,法適合組合になるところ,法適合組合は,憲法上の要件のみを具備した労働組合,憲法上の要件及び労組法2条の要件だけを具備した組合(規約不備組合)の性格をも兼ね備えており,三重の法的性格を有している。地公法上の職員団体は,憲法上の労働組合という性格と地公法上の職員団体という性格を多重的に兼ねているのである。
(2) 原判決は,現行法体系が職員団体か労働組合かという労働団体の性格ごとにこれを規律する法を区別しており,質量ともに非現業職員が主体である控訴人は,職員団体として扱われ,労働組合としての法的性格を有すると解すべきではないとする。
しかし,勤労者の団結権に関する法規範の構造は,勤労者の団結体を相矛盾し両立し得ない性格を有する労働組合と職員団体の2種の団体に截然と区分した上で,勤労者をそのいずれかの団体に帰属させるというような構造をとっていない。地公法は,職員団体を職員がその勤務条件の維持改善を図ることを目的として組織する団体又はその連合体をいうとして,その職員とは警察職員及び消防職員以外の職員をいい(52条),労組法は職員に関して適用しない(58条)と定めるにすぎず,地公法にいう職員以外の者に対して労組法の適用を排除する法律はないから,これらの者が結成し,参加する団結体は,原則に立ち返って労組法上の労働組合であるというほかない。
また,単労職員だけで構成される団体は,社会的実体としての性格は1個であるのに,地公法上の職員団体,労組法上の労働組合のいずれを選択することも可能であり,このことからも現行法体系が労働団体の社会的実体としての性格ごとにこれを規律する法を区別しているものではないことが明らかである。
(3) 原判決は,前記(2)の現行法体系の区別について,非現業職員の住民全体に対する奉仕者という地位やその職務の特殊性を根拠とする。
しかし,非現業職員だけが住民全体に対する奉仕者ではないから,非現業職員に対する労組法の適用除外は,職員の地位や職務の特殊性から必然的に生じるものではない。職員団体は,労働組合と同じく憲法上の団結権に基づいて結成されたものであり,労働組合とは法的根拠・機能を異にするとしても,それは勤務条件法定主義と財政民主主義の原則によるのであり,かつ,職員団体と労働組合に対する法制上の区別は論理必然的・絶対的なものではない。
(4) 原判決は,労働者が自己の選択に従って労働団体に加入することは自由であるのに,労組法の適用を受ける労働者が労働組合としての性格を有しない混合組合に加入したことをもって行政機関による救済制度を閉ざすことは,労働者の不利益が大きいとして,このような場合に労組法7条1号,4号の救済だけを認める。
しかし,当該労働者については,自ら望んで労組法の適用を受けない混合組合に加入したのであるから,労組法による救済を与えることが全面的に否定されるはずであって,原判決の論理は首尾一貫しない。
原判決は,混合組合加入の労組法適用労働者に係る不当労働行為申立てのうち労組法7条1号,4号に該当するときにだけ混合組合の申立人適格を認めるが,これは,労組法7条1号及び4号を同条2号及び3号とは異質なものであると解するものである。ところで,労働者を解雇するなどの不利益取扱いが同時にその労働組合の運営に対する支配介入となる場合には,労組法7条1号と3号のいずれもが適用されるという並列規定説が支配的見解であり,最高裁判所昭和59年5月29日第三小法廷判決・民集38巻7号802頁(日本メール・オーダー事件)は,同一企業内に併存する労働組合の一つが労働協約の締結を拒否したためその組合員のみが年末一時金の支給を受けられなかった場合に労組法7条1号及び3号に該当するとする。原判決の考えを採り,かつ,並列規定説に従えば,1個の行為が労組法7条1号に該当するが同時に同条3号にも該当すると判断されると,その途端に混合組合の申立人適格が否定されることになってしまうことになり,同条1号の不当労働行為について労働委員会による救済を図るという原判決の出発点に反することになるし,同条1号の不当労働行為が成立する上に同条3号の不当労働行為が成立するという反規範性の高い行為を行った使用者の方が得をする結果になってしまう。
(5) 原判決は,使用者(当局)との交渉や合意の締結の場面で1個の労働団体が二面的な法的性格を有することにより発生する混乱は,単に交渉の機会を別個にすれば解決できるというものではないとし,これを控訴人の請求を棄却する唯一の実質的理由とする。しかし,そのような混乱とは使用者(当局)側の手続の煩雑以上のものではなく,これを理由に労働者の団結権を制約することは,憲法上到底許されない。
二面的な法的性格を持つ労働団体を認めなければ,少数の民間労働者が加入した職員団体は,当該民間労働者に関する問題につき,使用者に対して団体交渉を求めることも使用者と労働協約を締結することもできなくなるし,少数の非現業職員が加入した労働組合は,非現業職員に関する問題につき,当局に対して地公法上の交渉も労組法上の団体交渉も求めることができなくなるが,これは憲法上の団結権を否定することになる。
(6) 原判決の帰結するところによれば,使用者(当局)は,労働団体に詳細な報告を求めなければ,労働団体が職員団体か労働組合かを判断できないことになるところ,そのような報告を求めること自体が不当労働行為になる場合があるし,構成員の確認ができないとなると,使用者(当局)において当該労働団体を労働組合又は職員団体のいずれでもないと取り扱うことになり,団結権を侵害することになる。また,当該労働団体において非現業職員と労組法適用労働者が質量ともに拮抗した場合には,いかなる法によって規律するか判断できないことになる。
原判決は,労働団体の法的性格を決める基準について量的構成割合及び役員構成割合を例示するが,前者は不断に変化するものであり,いつの時点をもって確定するのかがはなはだ困難であるし,量的構成割合をもって混合組合の法的性格を決める理論的根拠が明らかではない。また,原判決は第2次基準として役員構成割合を挙げるが,構成員の量的構成と役員の構成割合が逆になる場合もあり得るのであって,原判決の掲げる基準は様々な組合せに対応できるものではない。
(7) 原判決は,団交拒否は団体としての活動そのものに対する不当労働行為であることも理由として,団交拒否の不当労働行為について,非現業職員が多数を占める控訴人の申立人適格を否定した。
しかし,官公庁で働く労組法適用労働者が混合組合に加入するのは,その団体の団結力に期待し,自らの労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を当該混合組合の代表活動にゆだねたいがためであり,それが認められなければ当該混合組合には団結体としての存在理由がなくなる。団交拒否についての申立人適格を否定することは,団体交渉権を否定することになる。労働団体が労働者個人の権利利益のために団体交渉する場合には,団体としての活動そのものではなく,いわゆる個人のための代表活動と評価すべきものである。
仮に,非現業職員が多数を占める混合組合が労組法適用労働者に関する事項を上部団体である労組法適用の労働組合連合体に交渉委任した場合は,団体交渉権を否定できないはずであり,このことから考えても,当該混合組合が労組法適用労働者に関する事項について団体交渉をすることができないと解することはできない。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所の判断は,以下に付加,訂正,削除した上,原判決の「第三 当裁判所の判断」の記載を引用する。
(1) 30頁1行目の「二一〇名」を「約210名」と改め,同行の「非現業職員であった」の次に「(量的側面)」を,次行の「非現業職員であった」の次に「(質的側面)」をそれぞれ加え,同頁10行目の「必要とされる」を「必要とされ,所定の事由に該当する場合には交渉が打ち切られる」と改める。
(2) 33頁7行目の「加入したからといって、」の次に「当該職員団体については,」を加える。
(3) 34頁11行目と最終行の各「企業職員等」をいずれも「労組法適用労働者」と改める。
(4) 35頁3行目の「一個の組合」から次行の「いえない」までを「職員団体が同時に労働組合の機能まで有することまでも,職員団体と労働組合を峻別する現行法体系が想定しているとまでいうことはできない」と改める。
(5) 36頁4・5行目の「同条約が具体的に」を削除する。
(6) 37頁12行目の「乙A五」から次行の「二三、」までを削除し,同頁最終行の「二〇ないし二七」を「20,21,25,26」と改め,38頁1行目の「三七、」を削除する。
(7) 38頁4・5行目及び6行目の各「臨時的教務事務等」を「臨時的教務事務及び時間外勤務」といずれも改める。
(8) 39頁1行目の「反対する」の前に「報酬などの文言が書き加えられたものの,」を,同頁6・7行目の「非常勤講師」の次に「等」をそれぞれ加える。
(9) 42頁2行目の「実施されず、」を「実施されなかった。」と改める。
(10) 42頁6行目の「の廃止」を削除し,次行の「原告の」の前に「その廃止は」と改める。
2 控訴人の当審における主張について
(1)ア 控訴人は,規律する法の区別と1個の団体の多重的性格の否定は論理的に結びつくものではないとする。しかし,一般論として,規律する法に区別があることと特定の団体の多重的性格が否定されることは論理的に結びつかないとしても,労働団体について,引用に係る原判決の説示するとおり,労組法と地公法の区別が截然となされていると考えられる以上は,そのいずれの適用を受けるかという意味での労働団体の法的性格は一つしかないといわざるを得ない。
イ 控訴人は,大阪府知事が労組法上の使用者と地公法上の当局という二面的な法的性格を有することを指摘する。しかし,大阪府知事が労働組合に対して労組法上の使用者の地位に立ち,職員団体に対して地公法上の当局の地位に立つのは,それぞれの法の規定に基づくものであり,このことをもって1個の労働団体が労働組合及び職員団体の二面的な法的性格を持つということはできない。
控訴人は,労働団体が本来的に多重的な法的性格を持つものであると指摘する。しかし,これは,労働団体の法的概念がいわば垂直的な重層構造をなしていることを指摘するだけであり,このことと憲法上の労働団体であることを前提として労組法と地公法それぞれの法規に基づく労働団体として結成される労働組合と職員団体の双方の性格を1個の労働団体が兼ねることができるかとは,全く別の問題である。
(2)ア 控訴人は,勤労者の団結権に関する法規範の構造は,労働団体を相矛盾し両立し得ない性格を有する労働組合と職員団体の2種の団体に截然と区分した上で,勤労者をそのいずれかの団体に帰属させるというような構造をとっていないとし,地公法にいう職員以外の者に対しては労組法の適用を排除する法律がないから,その者が結成し参加する労働団体は,原則に戻って労働組合であるというほかないと主張する。
しかし,現行法体系が職員団体を規律する法と労働組合を規律する法を区別し,1個の労働団体が職員団体たる性格と労働組合たる性格とを兼ねるのを予定していないことは,引用に係る原判決の説示するとおりである。付言するに,終戦後,公務員は旧労働組合法(昭和20年法律第51号)の労働者であるとして同法の適用を受け,ただ警察官吏などについてのみ労働組合の結成と労働組合への加入が禁止され(同法4条),昭和22年に国家公務員法が制定されてもその原則に変更はなかったが,昭和23年政令201号により,公務員の争議行為と労働協約の締結を目的とする団体交渉が全面的に禁止され,昭和23年法律222号により追加された国家公務員法附則16条により,一般職の国家公務員には労組法,労働関係調整法及び労働基準法が適用されないことになり,この結果,国家公務員は民間の労働者とは異なる扱いを受けるようになり,昭和25年に地公法が制定され非現業職員について労組法が適用されないこととされた。このような経緯からみても,労組法の適用がされなくなった非現業職員で構成する職員団体は,労組法上の労働組合とはいえず,それぞれを規律する法を区別しているのが現行法体系であるといわざるを得ない。
控訴人は,労組法適用職員が参加した職員団体は原則に戻って労組法上の労働組合であるというほかないとするが,非現業職員は労組法が適用されず,職員団体はそのような非現業職員によって給与等の勤務条件の維持改善を図ることを目的として組織されるものであるから,労組法の適用を排除されない労働者が職員団体に参加したからといって,そのことだけをもって当該職員団体が当然に労働組合としての性格を有するということはいえないというべきである。
イ 控訴人は,単労職員が職員団体,労働組合のいずれをも選択して結成できることから,1個の労働団体について規律する法を現行法体系は区別していないと主張する。
しかし,単労職員において職員団体又は労働組合のいずれを結成することが可能であるとしても,いったんそのいずれかを選択した以上は職員団体,労働組合のいずれかの法的性格しか有しないというべきであり,1個の労働団体が職員団体,労働組合の双方の法的性格を兼ねることができることの根拠とはならないというべきである。
(3) 控訴人は,非現業職員だけが住民全体の奉仕者ではないから,非現業職員に対する労組法適用除外は,地位や職務の特殊性から必然的に生じるものではなく,職員団体と労働組合とがその法的根拠・機能を異にするのは,勤務条件法定主義と財政民主主義の原則によるのであり,その区別も論理必然的・絶対的なものではないと主張する。
なるほど,非現業職員であれ単労職員及び企業職員であれ,いずれも地方公務員として住民全体の奉仕者として活動するものであるが,単労職員及び企業職員は,民間の類似職種の労働者と職務内容が実質的に共通しており,公務員として不可欠な規制を除けば,できる限り民間労働者と同じような扱いをするのが望ましいことから,労組法が適用されるのであって,非現業職員と単労職員等の間には地位や職務の特殊性に差異があるといわざるを得ない。もっとも,立法論的には,両者をほぼ同様に取り扱うことは不可能ではなく,したがって,控訴人の指摘するようにその区別は絶対的ではないにしても,現行法体系上は,非現業職員には労組法の適用が排除され,地公法が適用されることは明らかであり,非現業職員を構成員とする職員団体には労組法の適用がないことも明らかである。
(4)ア 控訴人は,労組法の適用を受ける労働者が労組法の適用のない職員団体とみられる混合組合に加入した場合には,そのような団体に加入したのであるから,労組法による救済を与えることが否定されるはずであるのに,原判決の判断のように労組法7条1号,4号の救済だけを認めることは首尾一貫しないと主張する。
なるほど,労組法適用労働者がいったん職員団体たる性格を有する混合組合に加入した以上,当該混合組合に労組法を適用する余地はないとして,団体交渉拒否や支配介入だけでなく不利益取扱いについても当該混合組合に申立人適格を認めないことが首尾一貫するということができる。しかし,引用に係る原判決の説示するとおり,非常勤講師等の労組法適用職員が職員団体たる法的性格を有する混合組合に加入することも職員の自由な選択にゆだねたと考えられるところ,職員団体たる法的性格を有する混合組合に加入した職員に対する不利益取扱いに関して,非現業職員については地公法上の不利益処分として人事委員会又は公平委員会への不服申立制度が設けられているのに,労組法適用職員については当該混合組合が労働組合でないことを理由に行政機関による救済制度を閉ざすというのでは,当該労働者の受ける不利益が大きく,団結権保障の見地からも合理的でないとみられるところである。そこで,労組法適用職員について行政機関による何らかの救済を認めるとしても,労組法適用職員に対する不利益取扱いを地公法上の不利益処分とみることはできず,したがって人事委員会又は公平委員会への不服申立てを認めることはできないから,形式的な首尾一貫性は多少欠けるものの,労組法適用労働者に関する不利益扱いに関しては,当該混合組合に申立人適格を認めるのが相当であるというべきである。
イ 控訴人は,労組法7条1号,4号に係る不当労働行為についてだけ申立人適格を認める考えは労組法7条1号及び4号を同条2号及び3号とは異質なものであると解するものであり,このように解することは,労働者を解雇するなどの不利益取扱いが同時にその労働組合の運営に対する支配介入となる場合には,労組法7条1号と3号のいずれもが適用されるという並列規定説に反する旨主張する。
労組法7条1号,4号の場合にだけ申立人適格を認めるといっても,それは,労働者への不利益扱いと労働組合への支配介入のいずれか一方が成立すれば他方は成立しないという排他的な関係に立つと考えるものではないし,労働者への不利益取扱いが労働組合への支配介入となる場合に労組法7条1号と3号のいずれをも適用することを否定するものではなく,職員団体たる法的性格を有する混合組合に加入した労組法適用職員に対する不利益取扱いと混合組合の団体としての活動に対する不当労働行為は区別できることを前提に,前者に関してだけ申立人適格を認めるものである。他方,労働者を解雇するなどの不利益取扱いが同時に当該労働者の属する労働組合への支配介入となる場合には労組法7条1号と3号のいずれもが適用されるという考えも,不利益扱いという不当労働行為の類型と支配介入という不当労働行為の類型に分けられることを否定するものではなく,むしろ,各類型が分けられることを前提として,両方に当てはまる場合には各類型について規定する条項の並列的な適用を認めるべきものである。
(5)ア 控訴人は,1個の労働団体が使用者(当局)との交渉や合意の締結の場面で多重の法的性格を同時に有することにより発生する混乱は,単に交渉の機会を別個にすれば解決できるし,そのような混乱は使用者(当局)側の手続の煩雑以上のものではなく,それを理由に労働者の団結権を制約することは憲法上到底許されないと主張する。
しかし,まず,使用者(当局)の側の煩雑はさておき,混合組合が二面的な法的性格を有するとした場合,交渉の機会を分けたとしても,現実の問題として,労組法適用職員についての団体交渉の場合には労働組合,非現業職員についての交渉の場合には職員団体というように分けて行動できるのか疑問の余地があり,混合組合の行動が労働組合としてのものなのか職員団体としてのものなのかについて,紛議が生じるおそれもあり得るところであり,その点でも,混合組合に労働組合と職員団体の二面的な法的性格を認めることは無視できない混乱をもたらすというべきである。
また,労組法適用職員は,労働組合による団体交渉等を望むのであれば,労働組合を結成し,その活動によって団体交渉等をすることが可能であり,労組法適用職員が加入した職員団体たる法的性格を有する混合組合に労働組合としての団体交渉権を認めなかったからといって,憲法上の団結権を侵害するということはできない。団結権を侵害された場合にこれを具体的にいかなる制度によって救済するかは立法政策の問題であり,常に不当労働行為救済制度によらなければ憲法に違反するというものではない。したがって,憲法上の団結権を根拠として,職員団体たる法的性格を有する混合組合について申立人適格を認めなければならないとすることはできない。
イ 控訴人は,二面的な法的性格を有する労働団体を認めなければ,少数の民間労働者が加入した職員団体は,当該民間労働者に関する問題につき,使用者に対して団体交渉を求めることも使用者と労働協約を締結することもできなくなるし,少数の非現業職員が加入した労働組合は,当該非現業職員に関する問題につき,地公法上の交渉も労組法上の団体交渉も求めることができなくなり,これは憲法上の団結権を否定することになると主張する。
しかし,職員団体に少数の民間労働者が加入した場合,職員団体が労働組合として団体交渉を求めることができないことは当然であるし,また,労組法上の労働組合が地公法上の交渉をすることはできないし,非現業職員には労組法の適用がないから,労働組合たる法的性格を有する混合組合が非現業職員に関する事項につき労組法上の団体交渉をすること自体あり得ない。当該民間労働者は労働組合を結成したり労働組合に加入したりできるのに職員団体たる法的性格を有する混合組合に加入し,当該非現業職員は職員団体を結成したり職員団体に加入したりできるのに労働組合たる法的性格を有する混合組合に加入したものである以上,団体交渉についてその加入した団体の法的性格に由来する制約を被ってもやむを得ないものであり,それをもって憲法上の団結権が侵害されたということは到底できない。
(6)ア 控訴人は,使用者(当局)において当該労働団体に構成員についての詳細な報告を求めなければ労働団体が職員団体か労働組合かを判断できないことになるところ,このような報告を求めること自体が不当労働行為になる場合があるし,使用者(当局)において構成員の確認をできない場合に当該労働団体を労働組合でも職員団体でもないと取り扱うことを認めることになるが,それは団結権の侵害になると主張する。
しかし,混合組合が職員団体として当局と交渉をするには,そもそも職員団体として登録を受けておかなければならないし(地公法55条),混合組合が労働組合として使用者に団体交渉を求める場合には,労組法適用労働者が多数であることなど法的に労働組合であることを自ら明らかにしなければならないというべきであり,そのことを求めること自体が支配介入等の不当労働行為に当たるということはできないし,それによって団結権が侵害されるということもできない。
なお,当該混合組合に労働組合であることを明らかにすることを求めることは,使用者(当局)において当該混合組合を恣意的に労働組合でないなどと取り扱うことを容認するものではなく,当該混合組合が労働組合としての性格を有するのに,使用者においてその調査に名を借りて団体交渉に応じない場合には,不当労働行為に当たり得る。
イ 控訴人は,原判決が混合組合の法的性格を決める要素として量的構成割合を挙げるが,これを要素として混合組合の法的性格を決める理論的根拠が明らかではないし,いつの時点をもってそれを確定するのかがはなはだ困難であるなどと指摘する。
しかし,労働組合は,労働者が主体となって労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体であり,職員団体は,労組法の適用が排除された非現業職員が給与等の勤務条件の維持改善を図ることを目的として組織する団体であるから,混合組合が労働組合か職員団体のいずれの法的性格を有するかを判断するには,その構成員の量的割合でもって判断するのが最も合理的であり,それで容易に判断ができない場合には役員構成等の質的な要素から判断するのが相当であるというべきである。
ある時点において労組法適用労働者の割合が圧倒的に多かったのに,別の時点では非現業職員が圧倒的に多かったというような極端な変動が急激に生じることは現実の問題として想起しにくいが,団体交渉の際にはその時点で,不当労働行為救済申立てをする場合にはその時点で,それぞれ当該混合組合において労組法適用労働者が量的に多く労働組合としての性格を有することが必要であるといわざるを得ない。
ウ 控訴人は,当該労働団体の地公法適用者と労組法適用者が質量ともに拮抗した場合にはいかなる法によって規律するか判断できないことになると主張する。
なるほど,控訴人の指摘するとおり,質量ともに混合組合が職員団体か労働組合かを判断するのが困難な場合のあり得ることは否定できない。しかし,混合組合が職員団体か労働組合のいずれかの法的性格しか有しないものと考えると,どちらに該当するかを判断するのが困難な場合があり得るからといって,そのような困難な場合が生ずるのを避けるために混合組合が職員団体としての法的性格と労働組合としての法的性格の二面性を有することを認めるべきであるというのは,論理が逆転しているといわざるを得ない。そのように質量からみて判断が困難な場合であっても,混合組合設立の趣旨・目的・沿革や過去の使用者(当局)との交渉経緯などから法的性格を決せざるを得ない。
(7)ア 控訴人は,公務員職場で働く労組法適用労働者が混合組合に加入するのは,混合組合の団結力に期待し,自らの労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を当該混合組合の代表活動にゆだねたいがためであるから,申立人適格が認めなければ混合組合には団結体としての存在理由がなくなると主張する。
なるほど,労組法適用労働者が職員団体たる法的性格を有する混合組合に加入するのは,控訴人の主張するとおりの期待,希望があってのものと考えられる。しかし,労働組合の結成ないし労働組合への加入をすることなく,職員団体たる法的性格を有する混合組合に加入したのであるから,当該混合組合が申立人適格を有しないことによって,不利益取扱いの面を除いて労組法の規定による救済を受けられなかったとしても,やむを得ないといわざるをえない。また,団結権保護のためにどのような救済制度を設けるか否か,設けるとしてもどのような内容にするかについては立法措置にゆだねられており,現行法体系が職員団体と労働組合とを截然と分け,それぞれを規律する法律を区別していることから,職員団体たる法的性格を有する混合組合に申立人適格を認めなくても,そのために団結権が侵害されたということもできない。
イ 控訴人は,職員団体たる法的性格を有する混合組合に団交拒否に対する申立人適格を否定することは,団体交渉権を否定することになると主張する。
しかし,そもそも,公務員は,現業職員であると非現業職員であるとを問わず,団体交渉権が憲法上保障されておらず(最高裁判所昭和48年4月25日大法廷判決・刑集27巻4号547頁,最高裁判所昭和52年5月4日大法廷判決・刑集31巻3号182頁),地公法により交渉権が,地公労法により団体交渉権がそれぞれ規定されている。そして,地公労法5条は,現業職員が労働組合を結成し,これに加入することができると規定し,労組法6条は,労働組合の代表者又は労働組合の委任を受けた者が交渉する権限を有すると規定していることから,現業職員が地公労法上の労働組合を通じてのみ団体交渉権を行使することができることは明らかである。したがって,職員団体たる法的性格を有する混合組合にはもともと団体交渉権がないと解すべきである。
なお,労働団体が労働者個人の権利利益のために団体交渉する場合,そのような団体交渉は個人のためにする代表活動であると評価できる面があることは否定できないとしても,団体交渉拒否は団体としての活動そのものに関する不当労働行為であるとみられ,これに関して申立人適格を認めることはできないというべきである。
ウ 控訴人は,非現業職員が多数を占める混合組合が労組法適用労働者に関する事項を上部団体である労組法適用の労働組合連合体に団体交渉を委任した場合には当該連合体の団体交渉権を否定できないのであるから,当該混合組合の労組法適用労働者に関する事項についての団体交渉権を否定できないと主張する。
しかし,職員団体たる法的性格を有する混合組合が労組法適用の労働組合連合体に労組法適用職員に関する事項についての団体交渉権を委任することができるかは別にして,当該連合体が当該混合組合の構成員である労組法適用職員に関する事項の団体交渉権を有するとしても,それは当該連合体が労働組合の法的性格を有することによるものであり,そのことをもって非現業職員が多数を占め職員団体たる法的性格を有する混合組合が団体交渉権を有するという結論を導くことはできない。
(8) 以上によれば,申立人適格について控訴人が指摘する点は,いずれも当を得ないものであるといわざるを得ない。
3 したがって,本件命令に控訴人主張のような違法はなく,その取消しを求める控訴人の請求はいずれも理由がなく,これを棄却した原判決は相当である。したがって,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 妹尾圭策 裁判官 稻葉重子 裁判官 栂村明剛)
<以下省略>