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大阪高等裁判所 平成13年(行コ)47号 判決 2002年6月14日

控訴人(一審被告)

東税務署長事務承継者

麹町税務署長

藤田英樹

(当審口頭弁論終結時大島康照)

同指定代理人

大野重國

外一一名

被控訴人(一審原告)

株式会社三井住友銀行

(旧商号株式会社住友銀行)

同代表者代表取締役

白賀洋平

同訴訟代理人弁護士

川村俊雄

青海利之

主文

1  原判決主文3ないし6項を取り消す。

2  上記取消しにかかる被控訴人の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた裁判

1  控訴人

主文と同旨

2  被控訴人

(1)  本件控訴を棄却する。

(2)  控訴費用は控訴人の負担とする。

(以下、控訴人を「被告」、被控訴人を「原告」という。また、略称については原判決のそれによる。)

第2  事案の概要

1  前提となる事実(証拠の掲記のない事実は、当事者間に争いがないか、当裁判所に顕著な事実である。)。

(1)  原告は、銀行業を営む法人であるが、平成一三年四月一日、旧商号の「株式会社住友銀行」を現在の商号に変更するとともに、本店を「大阪市中央区北浜<番地略>」から現在の本店所在地に移転した。

(2)  本件で問題となった取引その1(ペプシコ事案)

原告(ニューヨーク支店)は、平成三年六月、アメリカ合衆国法人Pep-sico, Inc.(ペプシコ社)及びペプシコ社の子会社であるメキシコ国法人Sa-britas, S.A.de C.V.(サブリタス社)との間で、ペプシコ社からサブリタス社への手形貸付に伴い、サブリタス社が振り出していた約束手形二通を原告が買い取る旨のPURCHASE ANDASSIGNMENT AGREEMENT(本件手形買取契約。甲1)及びLETTERAGREEMENT(本件覚書。甲2)を締結した。

その取引の経緯及び具体的内容については、原判決「事実及び理由」中の「第2の4 取引の外形的事実」1に記載のとおりであるから、これを引用する。

ただし、原判決一六頁二〇行目の「稟議書等」の前に「本件取引に関する」を、同末行の「外国税額控除」の次に「の余裕枠」を各加え、同一九頁七行目、九行目、一一行目、二二行目、同二〇頁一三行目、同二二頁一九行目の各「本件約束手形買取契約」をいずれも「本件手形買取契約」と、同一九頁一八行目の「本件約束手形買取契約書」を「本件手形買取契約書」と、同二〇頁九行目の「期日前返済日」を「期限前返済日」と各改める。

(3)  本件で問題となった取引その2(ロシコ事案)

原告(ロンドン支店)は、平成三年九月、オランダ国法人Rosyco B.V.(ロシコ社)との間で、ロシコ社がその子会社であるオーストラリア国法人Cadella Investments Pty Ltd.(カデラ社)に対して有する貸付金債権の一部を原告が譲り受け、ロシコ社が原告に同額の預金をする旨のAGREE-MENT(本件債権譲受・預金契約。甲3)を締結した。

その取引の経緯及び具体的内容については、原判決「事実及び理由」中の「第2の4 取引の外形的事実」2に記載のとおりであるから、これを引用する。

ただし、原判決二四頁二二〜二三行目の「貸付金としたものである」を「貸付金とし、残金を出資金としたものである」と、同二五頁一行目の「オーストラリアにおける源泉税」を「オーストラリア国源泉税」と各改め、同三行目の「適用」の次に「を受けることが」を、同五行目の「稟議書等」の前に「本件取引に関する」を各加え、同九行目の「対等額」を「対当額」と改め、同二二〜二三行目の「オーストラリア」の次に「国」を、同末行の「外国税額控除」の次に「の余裕枠」を各加え、同二六頁一行目の「オーストラリア」の次に「国」を、同一四行目の「外国税額控除」の次に「の余裕枠」を各加え、同二二行目の「2丁右下部分」を「2丁表返済資金欄及び担保欄」と、同二九頁一八行目及び同二三行目の各「債権譲受・預金契約」をいずれも「本件債権譲受・預金契約」と各改める。

(4)  原告の確定申告

原告は、平成四年三月期(平成三年四月一日から同四年三月三一日までの事業年度)及び平成五年三月期(平成四年四月一日から同五年三月三一日までの事業年度)の法人税につき、青色の確定申告書に、原判決別紙1(平成四年三月期の課税状況表)及び同別紙2(平成五年三月期の課税状況表)の「①確定申告」欄記載のとおり記載して、各法定申告期限までに被告に確定申告をしたが、その際、次のことを根拠として申告をした。

ア 本件手形買取契約及び本件覚書に基づいて平成四年三月期にサブリタス社から受領した貸付金利息に対して、メキシコ国において一五パーセントの源泉税(三億四八一三万二八七一円)を課された(甲4の1)。

イ また、本件債権譲受・預金契約に基づいて平成四年三月期と同五年三月期にカデラ社から受領した貸付金利息に対し、オーストラリア国においてそれぞれ一〇パーセントの源泉税(三七七一万九〇一六円と二六三七万六五七六円)を課された(甲4の2・3)。

ウ 平成四年六月、同年三月期分の法人税の確定申告にあたり、法六九条、施行令一四一条二項三号に従い、前記メキシコ国源泉税のうち税率一〇パーセント分に相当する二億三二〇八万八五八〇円とオーストラリア国源泉税三七七一万九〇一六円の合計二億六九八〇万七五九六円の外国税額を控除して、所得金額を二三二七億七九三二万二九七〇円、納付すべき税額を六一〇億六〇一九万七〇〇〇円とした。

エ また、平成五年六月、同年三月期分の法人税の確定申告にあたり、同様にオーストラリア国源泉税二六三七万六五七六円の外国税額を控除して、所得金額を一一一九億四八二五万一一五二円、納付すべき税額を一五〇億七九二七万一〇〇〇円とした。

(5)  平成七年三月三一日付け更正処分までの経緯

その後、本件各事業年度の法人税については、更正や更正の請求などがあり、平成七年三月三一日付けの更正時において、所得金額、納付すべき税額及び過少申告加算税は、原判決別表1及び2記載のとおり、平成四年三月期がそれぞれ二三三五億二一二八万六一九七円、六一三億五二〇六万〇七〇〇円及び二二万六〇〇〇円、平成五年三月期がそれぞれ一一一六億〇八七六万七六二八円、一四八億〇六五二万五四〇〇円及び六七六万四〇〇〇円とされた。

(6)  本件各原更正処分

これに対し、被告は、いずれも平成七年六月二二日付けで、平成四年三月期の法人税については原判決別紙1「⑤本件原処分」欄記載のとおり、平成五年三月期の法人税については同別紙2「⑧本件原処分」欄記載のとおり、本件各原更正処分(本件平成四年三月期原更正処分と本件平成五年三月期原更正処分)及び過少申告加算税の各賦課決定処分を行った。

(7)  本件各原更正処分に対する審査請求

原告は、平成七年八月二一日、前項の各処分のうち、本件各原更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分の取消しを求める審査請求を国税不服審判所長に対し行ったが、同所長は平成九年三月二五日付けで、同審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をし、同裁決は同年四月四日ころに原告に送達された。

(8)  本件各再更正処分

被告は、いずれも平成九年三月三一日付けで、平成四年三月期の法人税について、所得金額を二三三六億七〇〇七万六五一〇円、法人税額を八七六億二六二七万八五〇〇円(控除所得税額等二五九億四八六一万三九三七円、差引所得に対する法人税額六一六億七七六六万四五〇〇円)とする更正処分(本件平成四年三月期再更正処分)及びこれに係る重加算税を金二四五九万一〇〇〇円とする加算税賦課決定処分を行い、平成五年三月期の法人税について、所得金額を一一二〇億三三三七万四二六二円、法人税額を四二〇億一二五一万五二五〇円(控除所得税額等二五七億八二九四万九〇三三円、差引所得に対する法人税額一六二億二九五六万六二〇〇円)とする更正処分(本件平成五年三月期再更正処分)及びこれに係る重加算税を五七二四万二五〇〇円とする加算税賦課決定処分を行った。

本件各再更正処分の新たな処分理由は、主位的請求として原告が取消しを求める本件各原更正処分の処分理由と異なるもので、原告は当該処分理由には異議がなかったので、異議申立てあるいは審査請求等の不服申立てをしていない。

(9)  なお、平成四年三月期の課税の経緯の詳細は、原判決「事実及び理由」中の「第2の3の1 平成四年三月期」に記載のとおりであり(原判決別紙1参照)、平成五年三月期の課税の経緯の詳細は、同「第2の3の2 平成五年三月期」に記載のとおりである(原判決別紙2参照)から、これらを引用する。

ただし、原判決八頁三行目の「本件約束手形買取契約」を「本件手形買取契約」と、同一一行目の「メキシコ国」を「メキシコ国源泉税」と、同一五頁一〇行目の「⑨」を「⑪」と各改める。

2  原告の請求

原告は(主位的に、

(1)  被告が原告に対して、平成七年六月二二日付けでした原告の平成四年三月期の法人税の更正のうち、納付すべき税額六一三億五二〇六万〇七〇〇円を超える部分の取消し(原判決第1の1(1)に相当)

(2)  被告が原告に対して、平成七年六月二二日付けでした原告の平成四年三月期の法人税の過少申告加算税の賦課決定のうち二二万六〇〇〇円を超える部分の取消し(同第1の1②に相当)

(3)  被告が原告に対して、平成七年六月二二日付けでした原告の平成五年三月期の法人税の更正のうち、納付すべき税額一六〇億四三九六万二〇〇〇円を超える部分の取消し(同第1の2の(1)に相当)

(4)  被告が原告に対して、平成七年六月二二日付けでした原告の平成五年三月期の法人税の過少申告加算税の賦課決定のうち一億三〇五〇万九〇〇〇円を超える部分の取消し(同第1の2の(2)に相当)

を求め、上記(1)、(3)が認容されなかった場合に備えて、予備的に、

(1)  被告が原告に対して、平成九年三月三一日付けでした原告の平成四年三月期の法人税の更正のうち、納付すべき税額六一四億二二三二万三三〇〇円を超える部分の取消し(同第1の1(1)に相当)

(3)  被告が原告に対して、平成九年三月三一日付けでした原告の平成五年三月期の法人税の更正のうち、納付すべき税額一六二億〇七五一万九八〇〇円を超える部分の取消し(同第1の2(2)に相当)

を求めた。

3  原判決の結論と控訴の提起

原判決は、本件各原更正処分は、その後になされた本件各再更正処分に吸収されて独立の処分としての存在を失い、本件各原更正処分を独立の対象としてその取消しを求める利益はないとして、原告の主位的請求(1)、(3)を不適法であるとして却下し、本件各再更正処分の一部取消しを求めた予備的請求(1)、(3)及び過少申告加算税の賦課決定の一部取消しを求めた主位的請求(2)、(4)をすべて認めた。

被告は、これを不服として、控訴を提起し、前記第1の1記載のとおりの裁判を求めた。

4  本件の争点

(1)  本案前の争点

ア 本件各原更正処分の取消しを求める訴え(主位的請求)が、後に増額更正処分となる本件各再更正処分を経たことにより訴えの利益を欠くに至ったか否か。

イ 本件各再更正処分の取消しを求める訴え(予備的請求)が、不服申立手続を経ておらず、国税通則法一一五条一項に反するか否か。

(2)  本案の争点

平成四年三月期の確定申告において原告が支払ったメキシコ国源泉税(ただし、税率一〇パーセントの部分)並びに平成四年三月期及び平成五年三月期の確定申告において原告が支払ったオーストラリア国源泉税につき、原告が法六九条に基づき税額控除したことについて、被告がこれを否認し、本件各原更正処分、本件各再更正処分(それぞれ賦課決定処分を含む。)を行ったことが違法か否か。

5  争点に関する被告の主張

争点に関する被告の主張は、後記「当審における被告の主張」を付加するほか、原判決「事実及び理由」中の「第3 被告の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する。

ただし、原判決三七頁五行目の「外国税余裕枠」を「外国税額控除の余裕枠」と、同二三行目の「本件約束手形買取契約」を「本件手形買取契約書」と、同頁末行〜三八頁一行目の「2億7266万6725.73米ドル」を「2億7266万6725.11米ドル」と、同頁一二行目の「約束手形買取契約上、」を「本件手形買取契約上、」と、同二五行目及び同末行の各「手形買取契約」をいずれも「本件手形買取契約」と、同四七頁末行、同五〇頁九行目、同六八頁一四行目、同七四頁二四〜二五行目及び同七七頁一行目の各「債権譲受・預金契約」をいずれも「本件債権譲受・預金契約」と各改める。

(当審における被告の主張)

(1) 租税回避行為に関し司法に期待される役割

ア 急速な国際化の進展とともに、国際的取引における租税回避行為はますます巧妙化してきており、その形態は、タックス・ヘイブンの利用、租税条約の濫用による方法など様々であるが、実際の国際的租税回避戦略においては、各国の国内法、租税条約、外国為替管理法、金融事情、会社設立手続、地理的政治的経済的環境等を徹底的に研究し、各種の方法を組み合わせ、企業全体の全世界的租税負担を極少とするように複雑な秘密性のあるスキームを作成する高度な戦略が採られる。

このような国際的租税回避戦略は、各国の税制や税率の差異、タックス・ヘイブンの存在等を不自然な形態で、かつ、経済的合理性がないにもかかわらず、極限まで巧みに利用するものであり、これらの国際的租税回避行為は、一九八七年のOECD租税委員会報告書「国際的租税回避行為と脱税」に沿って述べれば、①租税負担の公平の原則に反し、②国家財政に深刻な影響を与え、③適正な国際競争や国際資本の流れをゆがめることになり、④特定の企業が国際的租税回避の利益を享受し、他の者はこれを享受できないという不公平をもたらすことになる。さらに、国民に対する法律の権威を失墜させ、納税道義あるいは申告水準の低下をもたらすという弊害をも生じるものであって、到底放置できないものである。

このような国際的租税回避行為による課税逃れに対し、各国はそれを阻止する立法的措置を講じているだけでなく、各国の裁判所もこれを許さないという姿勢を明確にしてきている。

これに対し、我が国においては、租税法律主義を比較的厳格に適用すること、また、明文の租税回避否認規定がなければ否認をし得ないと解されていることなどから、ともすれば、租税法の解釈・適用が、硬直的、形式的な判断に流れやすく、そのため、もともと外国のアレンジャーにねらわれやすい面がある。また、事後的に新たな立法を行うことにより租税回避防止を図ることにも限界がある。

したがって、このような租税回避行為の濫用事案においてこそ、具体的妥当性を確保するための司法の役割が存するのであり、具体的妥当性確保の見地から事実認定、法律解釈を展開する裁判所の活動により、一定の範囲内において正義が確保されることにこそ司法権の存在意義があるのであり、これがされないことは、正に司法の役割の自己放棄にほかならない(中里実鑑定意見書:乙20の2)。

イ しかも、租税回避行為は、本質的に、課税逃れであることを知って制度を濫用するものであり、特に、本件各取引においては、原告が確定申告をする前に本件各取引に係る外国税額控除の適用を受けられないことが明らかになった場合には、その受けられない部分についてはペプシコ社及びロシコ社が負担することとなっており(甲2の7項、甲3の9項)、原告自身も、本件各取引において法六九条の適用が否定される可能性があることを認識しつつ、あえて本件各取引を実行したものと認められるのであり、そこに租税回避行為の濫用事案であることの本質が見えているのである。したがって、このような本件各取引に同条の適用を否定したからといって、原告は基本的にそのような事態をも予定しているのであるから、租税法律主義が要請する法的安定性、予測可能性を害することにはならないのである。

ウ 本件の外国税額控除制度の濫用行為によって、我が国が受けた損失並びに原告及び外国企業の収益は、別紙表1「本件取引による被控訴人の損益等」に記載したとおりである。すなわち、別紙表1ないし3記載のとおり、外国税額控除を適用することにより、合計で二億六〇〇〇万円余りの租税収入が失われることになる。ところが、原告は、合計で五五〇〇万円程度の収益を上げたにすぎず、租税回避の利益の大半である二億円余りは、外国企業に流れているのである。

この事実は、本件各取引における外国のアレンジャー(外国企業)による提案が、いかに外国企業に都合のいいスキームであるかを端的に表すものである。

(2) 私法上の法律構成による否認(主位的主張)

原判決は、本件各取引における原告の経済的目的について、「ペプシコ社又はロシコ社がメキシコ国源泉税又はオーストラリア国源泉税を軽減する目的で原告の外国税額控除の余裕枠を利用するために、本件手形買取契約・本件覚書又は本件債権譲受・預金契約を締結したことを理解し、そのための対価を得ることを目的として、本件手形買取契約・本件覚書及び本件債権譲受・預金契約を締結した。」と正当に認定し、また、「当事者が外形上取引を仮装し、同外形に応じた経済的効果は発生していない場合には、これをもって課税要件を充足したものと解することができない。」と判示した上で、「当事者間の契約等において、当事者の選択した法形式と当事者間における合意の実質が異なる場合には、取引の経済実体を考慮した実質的な合意内容に従って解釈し、その真に意図している私法上の事実関係を前提として法律構成をして課税要件への当てはめを行うべきであり、複数の当事者間で行われた個々の契約が存在するとしても、全体があらかじめ計画された一連のスキームであるならば、全体を一体のものとして判断すべきであり、そのような一連の取引は、個々の契約がそのとおり実行されていたとしても、そのことゆえに各契約が各契約所定の内容のものとして当然有効となるものではない。」と正当に判断した。

それにもかかわらず、原判決は、ペプシコ事案及びロシコ事案のいずれについても、①契約当事者らが、所期の目的を達成するために、本件各取引の形式を選択し、それに応じた法的効果を意図して本件各取引を締結したこと、②ペプシコ事案においては、本件手形買取契約・本件覚書に応じた現実の資金移動が行われており、ロシコ事案においては、現実の資金移動は省略されているものの、本件債権譲受・預金契約に基づく履行が現実にされていることを理由に、それらの契約が仮装行為であると解することはできないと判示した上、その真実の法律関係についても、③契約当事者の経済的目的を法律関係として端的に構成すると、原告からペプシコ社又はロシコ社への役務の提供契約ということができるが、原告は、この役務を実現するための法律関係として、本件各取引及びその結果として生ずる原告によるメキシコ国源泉税及びオーストラリア国源泉税の納付を選択したものであるから、原告の選択した法律関係が契約当事者の真実の法律関係ではないとすることは相当でないと判示した。

原判決の上記判断は、事実関係の総合的把握が不十分であるために判断を基本的に誤ったというほかない。

原告は外国税額控除の余裕枠の提供のための契約を結んだのであり、原判決は、日本における納税額の圧縮の意思があったことを認めながら、それを正当なものであると結論している。これは、結局、原判決が、名義貸しによる外国税額控除の余裕枠のペプシコ社及びロシコ社への売却行為を、アプリオリに正当な事業行為と決めてかかっているからにほかならない。しかし、原告は、わざわざ名義貸しまでして、ペプシコ社及びロシコ社に対して、日本における納税額の圧縮部分を手数料を取って販売するということを行っているのである。このような場合においては、事実関係を全体として考察するならば、メキシコ国源泉税及びオーストラリア国源泉税を納付したのは原告ではなくペプシコ社及びロシコ社であり、したがって、原告に対して外国税額控除の適用は認められないというべきである。

(3) 法六九条の限定解釈による否認(予備的主張)

原判決は、「およそ正当な事業目的がなく、税額控除の利用のみを目的とするような取引により外国法人税を納付することとなるような場合に、納付自体が真正なものであったとしても、法六九条が適用されないとの解釈が許容される余地がある。」と判示して、法六九条の限定解釈による否認の可能性について認めた上、その限定解釈判断の具体的基準として、「税額控除の枠を利用すること以外におよそ事業目的がない場合や、それ以外の事業目的が極めて限局されたものである場合には、『納付することとなる場合』には当たらない。」と判示する。

他方で、原判決は、原告の主張する限定解釈判断の具体的基準に対しては、これを採用することはできないとしただけでなく、本件各取引の経済的目的を、外国税額控除の余裕枠を提供し利得を得ることであると、正しく認定していながら、本件各取引への当てはめにおいて、外国企業の事業目的について判断し、「ペプシコ社にはサブリタス社を通じてメキシコ国の企業の株式を取得するという事業目的があり、原告の有する控除枠を利用するのは、あくまでも、メキシコ国への投資の総合的コストを低下させるための手段と位置づけることが可能であり、同様に、ロシコ社もカデラ社を通じてオーストラリア国の企業の株式を取得するという事業目的があり、原告の有する控除枠を利用するのは、あくまでも、オーストラリア国への投資の総合的コストを低下させるための手段と位置づけることが可能である」などと判示し、原告の事業目的については、「金融機関として、ペプシコ社及びロシコ社の意図を認識した上で、自らの外国税額控除枠を利用して、よりコストの低い金融を提供し、その対価として、ペプシコ事案では0.65パーセント(当裁判所の注:LIBOR〔ロンドン銀行間貸出金利〕+0.65パーセント)の、ロシコ事案では0.35パーセントの利ざやを得る取引を行ったと解することができる。」などと判示して、本件各事案については、いずれも事業目的を有するものであるから、法六九条の限定解釈による否認はできないと判断した。

しかしながら、原判決の上記判断は、明らかに「事業目的」の評価と当てはめを誤った不当なものでる。

すなわち、

ア 本件各取引は、故意に二重課税を生じさせて、これにより利益を得ることを意図してなされた取引である。

また、本件各取引において、原告は逆ざやとなる取引をしているが、原告は、当初から損失が生じ、所得が生じない取引をそれと知って行った。

しかも、本件各取引は、本来何ら関係のなかった原告が、外国税額控除の余裕枠の提供をし、その対価を得ることのみを目的として、わざわざ外国企業間の取引に介在したものである。

このような取引は、法六九条が予定している、国外所得が生じ、それに外国税額が課されてこれを「納付」したために二重課税の排除の配慮から我が国の課税権を譲歩するという状態が予定されているものとはいえず、外国税額控除を定めた法六九条の制度を濫用するものである。

イ 昭和六三年の法改正は、「同一法人内の彼此流用」について、法六九条が国際的二重課税の排除という制度本来の趣旨に沿って適用されるよう、できる限りの措置を講じる方向で改正し、一応の解決を図ったものと評価すべきであって、それ以外は彼此流用が一般的に可能であるとの解釈基準を示したものではなく、まして、本件各取引のような、いわば「外国法人に余裕枠を利用させる意図的な彼此流用」の場面については、そもそも想定されていなかったのであるから、昭和六三年の法改正において彼此流用が解決されたとして、本件各取引に対する法六九条適用の有無を判断することは誤りである。

ウ 事業目的による法六九条の限定解釈に際し、①事業目的の有無は、納税者である原告を主体として検討されるべきであるのに、原判決が、取引の相手方の事業目的の有無を問題にしている点、②原告が本件各取引に参加することについての事業目的を検討すべきであるのに、原判決が、原告の参加前の本来的取引についての事業目的を検討している点、③原告に、外国税額控除枠を有償で利用させたこと以外に事業目的があるかどうかを問題にすべきであるのに、原判決が、当該枠の利用の対価としての実質を有する利益を原告が得たことのみをもって、事業目的があると判示している点は、いずれも明らかに誤りである。事業目的についてこのようなとらえ方をすれば、租税回避行為には、常に事業目的があるということになってしまう。

原告の事業目的が、外国税額控除の余裕枠を利用してその対価を得ること以外にないか、それ以外の事業目的が極めて限局されたものであることは明白であり、このような場合には法六九条の適用がないというべきである。

6  争点に関する原告の主張

争点に関する原告の主張は、後記「当審における原告の主張」を付加するほか、原判決「事実及び理由」中の「第4 原告の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する。

ただし、原判決八七頁一五行目の「効果のある。」を「効果がある。」と改める。

(当審における原告の主張)

(1) 被告の主張の変転

ア 本件各原更正処分にかかる通知書(甲5の1・2)に附記された理由は、要するに、ペプシコ事案、ロシコ事案における本件各取引は仮装行為であって、無効であるというものであった。

しかし、原告が、上記各処分に対する審査請求を行ったところ、国税不服審判所は、上記各処分の理由とは全く異なる理由で、原告の審査請求を棄却した(甲6の2)。

そこで、原告が、本件各原更正処分の取消しを求めて本訴を提起すると(主位的請求)、被告は、上記裁決と異なり、本件各取引は仮装行為であるとの当初の理由に戻った。

ところが、被告は、本訴提起後の平成一一年一月二二日に至り、初めて、事業目的の原理に基づく否認という新たな主張を始め、さらに、平成一二年六月三〇日に至り、私法上の法律構成による否認という新しい主張を加えた。

このように、被告の主張が次々と変転することは、本件各更正処分が事前に十分な法律的検討を経たものではなく、慎重さ、合理性を欠く処分であることの証左である。

イ 仮装主張(附記理由)以外の主張の不許

行政上の不服申立てにおいては、附記された更正理由にはあまりとらわれないで、ある程度自由に見直しを行うことを認める代わりに、訴訟においては、行政上の不服申立て、とりわけ審査請求において最終的に示された処分理由の当否を審査の対象とし、それ以外の処分理由の主張は認めないという考え方があり、原告は、この考え方に立脚して、仮装主張の不許を主張し、附記理由以外の主張の不許の主張はしなかった。

しかし、原判決は、原告の仮装主張の不許の主張を排斥したので、原告としては、当審において、上記仮装主張が許されるのであれば、逆に附記理由である仮装主張以外の処分理由を本件取消訴訟において主張することは許されるべきではないことを主張する。

(2) 被告の当審主張(1)(租税回避行為に関し司法に期待される役割)に対する反論

ア 合理的な思考の支配する私的経済取引の世界において、人が税負担の最も少ない取引形式を選択することはごく自然なことであり、租税回避行為(租税法規が予定しない異常な法形式を用いて税負担の減少を図る行為)といえども、法律の根拠がない限り税法上否認することは許されない。

その意味において、租税回避行為は税法上許された一種の租税節約であるということができ、これを禁圧することが司法裁判所の役割などであり得る道理がない。

別言すれば、ある種の租税回避行為が容認できないというのであれば、その類型ごとに速やかに個別の否認規定を設けて立法的に問題の解決を図るべきであり、その責任は司法裁判所にではなく立法府にある。

イ 被告は、甲2の7項、甲3の9項の存在を根拠に、原告が、税額控除の適用が否定される可能性があることを認識しながら、あえて本件各取引を実行したと論難するが、上記各条項は、税額控除については頻繁に法改正が行われているところから、限度額の圧縮等により税額控除を行い得なくなった場合に備えた約定であって、本件各更正処分のごとき税務否認を予想した約定ではない。

ウ 本件において、原告が控除を求めている外国税額が、本件各取引により原告が得た利益と対比し、比較的高額となっているのは、現行法がいわゆる所有期間案分の制度を設けていないことから生ずる当然の結果であって、上記の事実をもって制度の濫用ということはできない。

すなわち、法六八条一項所定の所得税額の控除に関しては、法人が利払期直前に経過利子込みの価額で公社債の買い取り、利払期間全体に見合う所得税額の控除を受けて税負担の軽減を図ることを防止するため、施行令一四〇条の二第一項一号が、いわゆる所有期間案分制度を設け、元本の所有期間に応ずる部分の所得税額のみを控除の対象にする旨を定めている。

これに対し、法六九条一項所定の外国税額の控除の場合には、所得税額の控除とは違って、もともと控除限度額の枠内における控除しか認められない上、別途いわゆる高率負担部分の除外計算の定めもあるところから、所有期間案分制度の導入は意識的に見送られた。

したがって、現行法が、それらの限度額の枠内において利払期間全体に見合う外国税額の控除を認めていることは明白であり、被告が主張する逆ざやの問題は、結局、上述の所有期間案分制度を採用するか否かの立法政策如何にかかわっているということができる。

(3) 被告の当審主張(2)(私法上の法律構成による否認)に対する反論

原判決は、原告がペプシコ社又はロシコ社がメキシコ国源泉税又はオーストラリア国源泉税を軽減する目的で原告の外国税額控除の余裕枠を利用するために本件各契約を締結したと認定し、そのための対価を得ることを目的として本件各契約を締結したものと認められると認定しているが、本件各取引により原告が得ようとし、また、現実に得た利益は、手形買取又は債権譲受けという方法で融通した資金の額と期間に見合う金利、換言すれば、金融機関本来の業務による適正かつ標準的な利ざやであって、原判決のいうような役務提供の対価ではなかった。

すなわち、

ア 役務提供の対価は、所期の目的が達成できた場合に、役務の提供を受ける者がその役務の提供によって得られる利益のうちの一定割合と定められるのが通例であるが、本件各取引において原告に約束された利益は、そのようなものとは異質のものである。

イ ペプシコ事案において原告に約束された利益は、手形元本の合計額、すなわち、原告の出捐額につき、LIBOR+0.65パーセントの利率で計算された利息(原告の出捐日である平成三年六月六日から返済日である同年七月一五日まで)と比較的少額の取引手数料であり、しかも、その利息は外国税額控除の適用が認められるか否かとは関係なしに支払われることになっている。

ウ ロシコ事案において原告に約束された利益は、債権の譲受額につき0.35パーセントの割合で計算される利ざや(債権の譲渡日である平成三年九月一日からその中途解約日である同四年七月三一日まで)であり、これも外国税額控除の成否とは無関係に支払われることになっている。

(4) 被告の当審主張(3)(法六九条の限定解釈による否認)に対する反論

原告の主張する法六九条の限定解釈による否認の実体は、法の解釈に名を借りた、法律によらない租税回避行為の一般的な否認類型の創設を目指した租税法律主義に反する主張であって、採用に値しない。

仮に百歩譲って、そのような限定解釈の余地を認めるとしても、その具体的運用基準と範囲は明確でごく限定されたものでなければならないことは、租税法律主義の要請上、当然のことである。

被告の主張に対する個別的反論は次のとおりである。

ア 被告の当審主張(3)アについて

(ア) 被告は、故意に二重課税を生じさせて、これにより利益を得ることを意図した場合には、法六九条は適用されないと主張するが、そこにいう利益が、本件各取引における利ざやのような利益をも包含するものであり、しかも、そこにいう故意が単に二重課税が生ずることを事実として認識していることを意味するのであれば、今日では税を意識せずに取引を行う者は皆無に等しく、ほとんどすべての取引がこれに該当することになるから、被告の上記主張は不当である。

(イ) 債務者所在国であるメキシコ国及びオーストラリア国には原告の支店はないから、原告が、債務者の所在国外にある支店を作為的に選択したこともない。銀行が何れの支店において取引を行うかは、顧客の属性や海外への進出形態(例えば、外資系企業であるか、日本企業の現地法人であるかなど)、銀行の拠点の所在などを勘案して総合的に決めるものであり、たとえどの支店を選択したとしても、そのことを理由に外国税額控除の適否を左右するのは失当である。

(ウ) 被告は、本件各取引が逆ざや取引であると主張するが、外国税額の控除が認められている場合に、各企業がそれを前提に採算の有無・程度を判断し取引の可否を決めるのは、至極当然のことであって、非難されるいわれは全くない。

本件各取引について、経費を控除すれば、利息による取得がほとんどなく、これについて多額の納税義務が生じるとしても、債務者所在国の税制上、グロスの支払利息金額に対して源泉税が課税された結果であって、原告には何の責任もない。

(エ) 被告は、原告は本来外国企業同士の取引に何ら関係がなかったと主張するが、貸付等の条件が合致さえすれば、金融機関が誰に融資等を行うかは全く自由であって、その相手方があらかじめ何らかの関係があるものに限られる理由は全くない。

また、親会社等(ペプシコ社、ロシコ社)が、子会社等の資金需要を満たすために、いったん貸付を行ったとしても、親会社等には、その資金を返済期までそのまま維持しなければならない義務はなく、貸付金を維持するか、その全部又は一部を他に譲渡して資金の早期回収を図るかは、親会社等が自己の都合で自由に決定しうる事柄であり、たとえ、ペプシコ社やロシコ社が、メキシコ国及びオーストラリア国における源泉税課税の有無・程度を考慮して手形や債権を譲渡する取引形式を選択したとしても、上述の結論には何の変わりもない。

イ 被告の当審主張(3)イについて

昭和六三年の法改正は、特に問題の多い事例についての部分的改正にとどまり、彼此流用を全面的に排除するものではなかった。

また、外国税額控除制度を利用したのは原告であって、原告が外国企業(ペプシコ社、ロシコ社)に外国税額控除枠を利用させたわけではない。

ウ 被告の当審主張(3)ウについて

被告は、事業目的の有無について判断するにあたり、取引の相手方(ペプシコ社やロシコ社)の事業目的の有無を問題にすることは誤りであると主張するが、本件各取引は両契約当事者の意思の合致により成立した法律行為(契約)としてなされたものであるから、本件各取引の事業目的の有無は両契約当事者のそれについて検討するのが相当である。

また、仮に、原告の事業目的だけを問題にするとしても、本件各取引は金融機関の本来的な業務である融資取引で適正かつ標準的な利ざやを確保しているのであるから、それが正当な事業目的を有することは明白である。

第3  当裁判所の判断

1  本案前の争点について

当裁判所も、原告の主位的請求(2)、(4)、予備的請求(1)、(3)は適法であると判断する(原判決が主位的請求(1)、(3)に係る訴えを不適法として却下したことについては、当事者双方から不服申立てはない。)。

その理由は、原判決「事実及び理由」中の「第5の1 本案前の主張について」1に記載のとおりであるから、これを引用する。

以下、主位的請求(2)、(4)と予備的請求(1)、(3)について判断する。

2  ペプシコ事案

前記第2の1(2)によると、次の事実を認めることができる。

(1)  米国を納税地とするペプシコ社は、メキシコ国に設立した子会社であるサブリタス社を通じて、メキシコ国に所在する会社を買収する際、その資金として、平成二年一〇月一日に2億4479万6946.71米ドル、同月五日に2786万9778.40米ドルの合計2億7266万6725.11米ドルをサブリタス社に融資した。

サブリタス社は、上記各融資額を額面金額とした約束手形二通をペプシコ社あてに振り出し、その返済に充てることとした。

(2)  ペプシコ社がサブリタス社から受け取る貸付金利息に対して、メキシコ国の税制上、源泉税三五パーセントが課されることとなっていたが、外国銀行を含む銀行が融資した場合の貸付金利息に対しては源泉税が軽減され、三五パーセントが一五パーセントとなることになっていた。そして、源泉税の税率は、貸付時ではなく金利支払時を基準とするため、金利支払時点までに金融機関が手形を買い取れば、金融機関による貸付とみなされて、税率一五パーセントが適用された。

ペプシコ社は、メキシコ国源泉税の負担軽減を図るため、原告に対して本件手形買取契約及び本件覚書に係る本件取引を申し出たところ、原告は、社内で検討の結果、これに応じることとし、平成三年六月六日付けで、原告、ペプシコ社及びサブリタス社三者間において本件手形買取契約及び本件覚書が締結された。

(3)  そして、本件取引に関しては、本件手形買取契約書(甲1)及び本件覚書(甲2)の合意内容に従って、次のとおり資金移動が行われた。

ア 原告は、平成三年六月六日、本件手形買取契約に基づき、ペプシコ社に対し、額面合計金額である買取代金2億7266万6725.11米ドルを支払った。

イ ペプシコ社は、平成三年七月一一日、本件覚書に基づき、原告に対し、契約発効日である同年六月六日から同年七月一日までの間の手形金額合計の利息相当額一二八万一六七六米ドルを支払った。

ウ サブリタス社は、各約束手形の支払期日の前である平成三年七月一五日、本件手形買取契約に基づき、原告に対し、元本相当額2億7266万6725.11米ドルを支払い、同時に、各手形発行日である平成二年一〇月一日及び同月五日からそれぞれ平成三年七月一五日まで年利8.16パーセントの割合で計算した利息相当額の合計額1746万9972.22米ドルからメキシコ国に納付することとなる源泉税(利息に対して一五パーセント)相当額262万0495.83米ドルを控除した、源泉税控除後の残金額1484万9476.39米ドルを支払った。

エ 原告は、平成三年七月一五日、本件覚書に基づき、ペプシコ社に対し、1557万8637.73米ドルを送金した(その内訳は、サブリタス社から受領した前記ウの1484万9476.39米ドルに、サブリタス社から原告に支払われることとなる利息相当額1746万9972.22米ドル〔源泉税控除前〕に対する一〇パーセント相当の金額174万6997.22米ドル〔原告の外国税額控除適用額〕を加算した金額1659万6473.61米ドルから、①同加算した金額である174万6997.22米ドルに対して平成三年七月一五日から同四年六月三〇日までの間年利6.8125パーセントの割合で計算した割引金額〔資産の持ち出しによる資金コスト相当額〕10万7132.33米ドル、②平成三年七月一日から同月一五日までの間LIBOR+0.65パーセントの金利で計算した手形金額の利息相当額70万4899.51米ドル及び③取引実行手数料20万5804.04米ドルの合計額101万7835.88米ドルを控除した金額である。)。

(4)  さらに、本件覚書六項によると、利息額の一〇パーセント相当額、すなわちコミット金額(本件覚書五項bにおける金額を指す。)は、その全額につき原告が外国税額控除の適用を受けられない場合には、外国税額控除の適用を受けられる金額を限度として原告が負担することとなる旨取り決められている。

3  ロシコ事案

前記第2の1(3)によると、次の事実を認めることができる。

(1)  スイス国のセメントメーカーであるホルダーバンク社は、オーストラリア国の会社を買収するにあたり、オランダ国にロシコ社を、オーストラリア国にカデラ社をそれぞれ設立した上、平成二年一〇月、買収資金として、ロシコ社を経由してカデラ社に一億六四〇〇万AUドルを送金し、ホルダーバンク社からロシコ社に対してはその全額を貸付金とし、ロシコ社からカデラ社に対しては、そのうちの一億二三三七万九〇〇〇AUドルを貸付金とした。

(2)  ロシコ社がカデラ社から受け取るべき貸付金利息に対して、オーストラリア国源泉税一〇パーセントが課されることとなっていたが、ホルダーバンク社は、外国税額の控除を利用することのできる外国銀行を利用して、オーストラリア国源泉税を回収しようと意図し、日本において外国税額控除の適用を受けることができる原告に、ロシコ社がカデラ社に対して有する貸付金債権を譲渡する旨を申し出たところ、原告は、社内で検討の結果、これに応じることとし、平成三年九月一日付けで、原告とロシコ社間において本件債権譲受・預金契約が締結された。

(3)  そして、本件取引に関しては、本件債権譲受・預金契約書(甲3)の合意内容に従って、次のとおり資金移動が行われた。

ア 本件債権譲受・預金契約の締結日、すなわち譲受代金の決済日である平成三年九月一日当日には、原告とロシコ社との間に現実の資金の動きは全くないが、それに関する会計処理として、原告は、同月三日に借方をカデラ社に対する貸付金八〇〇〇万AUドル、貸方をANZ BANK八〇〇〇万AUドルとし、同月五日に借方をANZ MELBOURNE八〇〇〇万AUドル、貸方をロシコ社からの定期預金八〇〇〇万AUドルとして、それぞれ同月一日に日付をさかのぼって起票した。

イ カデラ社は、平成四年二月一日、原告に対し、平成三年九月一日から同四年一月三一日まで年利11.75パーセント(LIBOR)の割合で計算した利息額394万0273.97AUドルからオーストラリア国源泉税(利息に対して一〇パーセント)相当額39万4027.40AUドルを控除した金額354万6246.57AUドルを送金し、一方、原告は、平成四年二月一日、上記の送金を受けた後、本件債権譲受・預金契約に基づき、ロシコ社に対し、平成三年九月一日から同四年一月三一日まで年利11.40パーセント(LIBORから0.35パーセントを引いた利率)の割合で計算した預金利息額382万2904.11AUドルを支払った。

ウ カデラ社は、平成四年八月一日、本件債権譲受・預金契約に基づき、原告に対し、同年二月一日から同年七月三一日まで年利7.995パーセント(LIBOR)の割合で計算した利息額318万9238.36AUドルからオーストラリア国源泉税(利息に対して一〇パーセント)相当額31万8923.84AUドルを控除した金額287万0314.52AUドルを送金し、一方、原告は、平成四年八月一日、上記の送金を受けた後、本件債権譲受・預金契約に基づき、ロシコ社に対し、同年二月一日から同年七月三一日まで年利7.645パーセント(LIBORから0.35パーセントを引いた利率)の割合で計算した預金利息額304万9621.92AUドルを支払った。

エ 平成四年七月三一日付けで、本件債権譲受・預金契約は中途解約され、上記預金の払戻請求権と本件貸付金債権の返還に伴う、譲受代金の返還債権が相殺され、本件貸付金はロシコ社に移管された。

(4)  本件債権譲受・預金契約九項aには、原告が外国税額控除の適用を受けられないときは、中途解約を行うことができる旨取り決められている。

4  私法上の法律構成による否認(被告の首位的主張)について

(1)  被告の主張の許容性

ア 原告は、被告が私法上の法律構成による否認を主張することは、時機に後れた攻撃防御方法であるとともに、国税通則法一〇二条に反すると主張するが、いずれも理由がないと判断する。

その理由は、原判決「事実及び理由」中の「第5(当裁判所の判断)の2の1の1 総論」1に記載のとおりであるから、これを引用する。

イ 原告は、被告の主張が次々と変転しており、本件各更正処分が十分な法律的検討を経たものでないとして批判するとともに、本件各原更正処分に附記された仮装行為の主張が許されるのであれば、それ以外の理由を主張することは許されないと主張する。

確かに、証拠(甲5の1・2、甲6の2)によると、本件各原更正処分にかかる通知書に附記された理由は、本件各取引が仮装行為であるから無効であるというものであり、国税不服審判所の裁決は、これと異なる理由で審査請求をいずれも棄却したことが認められる。

しかし、青色申告書に係る更正の場合、その通知書に理由を附記しなければならないとした法一三〇条二項の趣旨(処分の慎重性の担保と不服申立ての便宜)などから、被告課税庁側が、その後の更正処分の取消訴訟において、附記された理由と異なる理由の主張をすることが許されないと解することは困難である。したがって、被告が、本件取消訴訟において、裁決で認められなかった更正通知書附記の理由を改めて主張することや、その予備的主張として、更正通知書附記の理由と異なる理由を新たに追加して主張することは何ら妨げないというべきである。

また、被告は、本件取消訴訟において、上記仮装行為の主張に加え、法六九条の限定解釈による否認を予備的に主張しているが、これらの主張は、いずれも、原告が、それぞれ、ペプシコ社又はロシコ社に、メキシコ国源泉税又はオーストラリア国源泉税の負担軽減を図るために原告の外国税額控除の余裕枠を利用させ、同各社からその対価を得る目的で、ペプシコ社との間で本件手形買取契約・本件覚書、ロシコ社との間で本件債権譲受・預金契約を締結したことを基礎としているというべきであり、その主張の基本的な事実関係について変更はない上、原告に格別の不利益を与えるものとはいえず、また、このことをもって、被告の本件各更正処分が慎重さ、合理性を欠く処分であるということもできないと解する。

したがって、原告の上記主張は採用することができない。

(2)  本件における規範構造及び準拠法

本件の争点においては、原告がサブリタス社及びカデラ社から得たとされる貸付金利息が利子所得に当たるか否かが問題となるが、所得に対する課税は、所得自体に担税力を認めて課税するものであって、その原因行為の私法上の効力は原則として問題とはならない。利子所得に当たるか否かは事実認定の問題であり、事実認定の問題は法廷地法によるべきであるから、本件においては、準拠法を問題にする余地はない。

その詳細は、原判決「第5(当裁判所の判断)の2の1の1 総論」2(1)に記載のとおりであるから、これを引用する。

(3)  私法上の法律構成による否認の可能性

所得に対する課税は、私法上の行為によって現実に発生している経済的効果に即して行われるものであるから、第一義的には私法の適用を受ける経済取引の存在を前提として行われる。

しかしながら、その経済取引の意義内容を契約当事者の合意の単なる表面的、形式的な意味によって判断するのは相当ではなく、裁判所による事実認定の結果として、納税者側の主張と異なる課税要件該当事実を認定し、これに従った課税が行われることは当然のことであるといえる。

すなわち、次のとおり、通謀虚偽表示(仮装取引)の場合には、契約当事者の表示に従った課税ではなく、契約当事者の真意に従った課税が行われるべきであるし、たとえ、取引が通謀虚偽表示に当たると認定されなくても、事実認定の結果として、課税要件に該当する事実認定がなされれば、当該認定事実に従った課税が行われるべきである。

ア   仮装取引

契約当事者が外形上取引を仮装し、同外形に応じた経済的効果が発生していない場合には、これをもって課税要件を充足したものと解することができないのは明らかである(なお、通謀虚偽表示の結果、当該契約が無効とされ、結果として課税要件を満たさない場合があり得るが、これは、前記(2)のとおり、通謀虚偽表示により契約が無効となるか否かが問題となるのではなく、その結果として、契約当事者間で利得の保有が確保されなくなる場合に問題になるにすぎない。したがって、私法上の契約の効力自体が直接問題となるものではない。)。

イ   真実の法律関係

また、契約等において、契約当事者の選択した法形式と契約当事者間における合意の実質が異なる場合には、取引の経済的実体を考慮した実質的な合意内容に従って解釈し、その真に意図している私法上の事実関係を前提として法律構成をし、課税要件への当てはめを行うべきである。

ただし、上記の解釈は、要件事実の認定に必要な法律関係については、表面的に存在するように見える法律関係に即してではなく、真実に存在する法律関係に即して要件事実の認定がなされるべきことを意味するにとどまり、真実に存在する法律関係から離れて、その経済的成果や目的に即して法律要件の存否を判断することを許容するものではない。

この限度で、かかる解釈も、租税法律主義が要請する法的安定性、予測可能性を充足するものである。

(4) ペプシコ事案への当てはめ

ア  本件取引の動機・目的、資金の流れ等については、前記2のとおりの事実を認めることができる。

これによると、原告は、ペプシコ社がメキシコ国源泉税の負担軽減を図るため、原告の外国税額控除の余裕枠を利用することを理解した上で、ペプシコ杜との間で本件手形買取契約・本件覚書を締結し、同社から上記余裕枠を利用させたことの対価を得たものと認められる。

イ  原告は、上記の点につき、原告が、本件取引により得ようとし、また、現実に得た利益は、手形買取という方法で融通した資金の額と期間に見合う金利、換言すれば、金融機関本来の業務による適正かつ標準的な利ざやであって、上記のような外国税額控除の余裕枠を利用させることの対価ではなかったと主張する。

しかし、前記2の認定事実によると、本件取引は、原告主張のとおり、原告がペプシコ社から、手形買取という方法で融通した資金の額と期間に見合う金利を得る取引であることは否定できないものの(したがって、後述のとおり、本件取引を仮装行為ということはできない。)、原告が、ペプシコ社に、メキシコ国源泉税の負担軽減を図るために原告の外国税額控除の余裕枠を利用させ、同社からその利用に対する対価を得ることを主たる目的とした取引であるといわざるを得ない。

ウ  一方、被告は、上記のとおり、原告が、本件取引において、ペプシコ社がメキシコ国源泉税を軽減する目的で、原告の外国税額控除の余裕枠を利用することを理解した上で、ペプシコ社との間で本件手形買取契約及び本件覚書を締結し、同社から上記余裕枠を利用させたことの対価を得たものと認められる以上、真実の法律関係は、原告がペプシコ社に対し外国税額控除の余裕枠を提供し、同社からその役務提供の対価を得る行為であり、原告は、これを隠ぺいするために、原告があたかも契約当事者であるかのような外形を作出すべく本件取引を行ったもので、取引を仮装したものであると主張する。

しかし、被告が、仮装行為により隠ぺいされたと主張する行為又は真実の法律関係であると主張する行為は、いうなれば、本件取引の動機・目的ないし経済的側面を法律的表現を借りて言い表したものにすぎない。また、上記行為は、本件取引の外形と両立しない行為とはいえず、通謀虚偽表示により隠ぺいされた行為というものではない。したがって、本件取引の契約当事者の効果意思と本件取引の外形との間にそごはなく、本件取引を通謀虚偽表示(仮装行為)ということはできないと考える。

また、被告は、本件取引が仮装行為ではないとしても、真実の法律関係に基づく課税がなされるべきであると主張するが、単なる動機・目的やその経済的側面のみに着目して、契約当事者の選択した法律関係を離れて課税することはできないというべきである。

エ  この点について、被告は、本件取引において、原告が外国税額控除の適用を受けられない場合の処理が定められていることや、手形売買として不合理な点があると主張するとともに、これらの事情から、本件取引を仮装行為であるなどと主張する。

しかし、被告の主張は、そのことから、本件取引が被告の主張する前記アの目的を有することを基礎づけることになるとしても、直ちに、本件取引が仮装行為であるとか、真実の法律関係が別に存在すると認めることはできない。

被告の主張について、以下、個別的にその判断を示すこととする。

(ア)  被告は、本件取引における手形売買は、利息収入が得られないこともある早期返済を認める手形の売買であるにもかかわらず、何らのペナルティー条項が付されていないのは不合理であると主張する。

しかし、本件取引において売買された手形は、満期日以前のいつでも期限前返済することができるものであるため、手形売買の時点では、譲渡代金を一義的に確定することをせず、いったん代金を仮払いとし、後日返済期日が決まった段階で精算をすることになるが、だからといって、そこに、ペナルティー条項を付さなければならない必然性があるとは考えられない。

また、原告、ペプシコ社及びサブリタス社の三者間で、返済期日を平成三年七月一日と定め、同日から同年九月三〇日までの間、返済期日を二週間単位で順次延長し、その間の金利については、LIBOR+0.65パーセントと定められていたから、原告としては、ペナルティー条項を付する必要はなかったといえる。

(イ)  被告は、原告が外国税額控除の適用を受けられない場合、手形の譲受金額が変更されることは不自然であると主張するが、貸付時において源泉税の負担をどのように定めるかについての取り決めは、許された合意の範囲内にあると考えることができ、本件取引が仮装行為であるとする論拠とはならない。

(ウ)  被告は、原告が手形譲受け後の金利変動の危険負担を負わないのは不合理であると主張する。

確かに、その後の利息をペプシコ社に交付する一方、ペプシコ社が保証することにより、原告の手形金回収のリスクが少なくなったことが認められるが、その結果、リスクの対価が、手形利息からLIBOR+0.65パーセントに変化したといえるものの、本件取引が仮装であるという根拠とはならない。

オ  以上、認定説示したとおり、ペプシコ事案における本件取引をもって仮装行為であるということはできず、また、本件取引と異なる真実の法律関係が別に存在すると認めることもできない。

(5) ロシコ事案への当てはめ

ア  本件取引の動機・目的、資金の流れ等については、前記3のとおりの事実を認めることができる。

これによると、原告は、ロシコ社がオーストラリア国源泉税の負担軽減を図るため、原告の外国税額控除の余裕枠を利用することを理解した上で、ロシコ社との間で本件債権譲受・預金契約を締結し、同社から上記余裕枠を利用させたことの対価を得たものと認められる。

イ  原告は、上記の点につき、原告が、本件取引により得ようとし、また、現実に得た利益は、債権譲受けという方法で融通した資金の額と期間に見合う金利、換言すれば、金融機関本来の業務による適正かつ標準的な利ざやであって、上記のような役務提供の対価ではなかったと主張する。

しかし、前記3の認定事実によると、本件取引は、原告主張のとおり、原告がロシコ社から、債権譲受けという方法で融通した資金の額と期間に見合う金利を得る取引であることは否定できないものの(したがって、後述のとおり、本件取引を仮装行為ということはできない。)、原告が、ロシコ社に、オーストラリア国源泉税の負担軽減を図るために原告の外国税額控除の余裕枠を利用させ、同社からその利用に対する対価を得ることを目的とした取引であるといわざるを得ない。

ウ  一方、被告は、上記のとおり、原告が、本件取引において、ロシコ社がオーストラリア国源泉税を軽減する目的で、原告の外国税額控除の余裕枠を利用することを理解した上で、ロシコ社との間で本件債権譲受・預金契約を締結し、同社から上記余裕枠を利用させたことの対価を得たものと認められる以上、これをもって真実の法律関係というべきであり、原告は、これを隠ぺいするために、原告があたかも契約当事者であるかのような外形を作出すべく本件取引を行ったもので、取引を仮装したものであると主張する。

しかし、ペプシコ事案において述べたとおり、被告が、隠ぺいされたと主張する行為又は真実の法律関係であると主張する行為は、いうなれば、本件取引の動機・目的ないし経済的側面を法律的表現を借りて言い表したものにすぎない。したがって、本件取引の契約当事者の効果意思と本件取引の外形との間にそごはなく、本件取引を通謀虚偽表示(仮装行為)ということはできないと考える。そして、単なる動機・目的やその経済的側面のみに着目して、契約当事者の選択した法律関係を離れて課税することはできないというべきである。

エ  被告は、原告がカデラ社に対して有する貸付金の平成四年二月一日以降の金利を、ロシコ社が原告に通知する旨取り決められていることは不自然であると主張するが、そのことによって、被告が主張する前記アの目的を有することを基礎づけることになるとしても、直ちに、本件取引が仮装行為であるとか、真実の法律関係が別に存在すると認めることはできない。

オ  以上、認定説示したとおり、ロシコ事案における本件取引をもって仮装行為であるということはできず、また、本件取引と異なる真実の法律関係が別に存在すると認めることもできない。

5  法六九条の限定解釈による否認(被告の予備的主張)について

(1)  被告の主張の許容性

原告は、被告の主張が次々と変転しており、本件各原更正処分に附記された仮装の主張が許されるのであれば、それ以外の理由を主張することは許されないと主張するが、上記主張を採用することができないことについては、前記4(1)で述べたところと同様である。

(2)  課税減免規定の限定解釈の許容性

前記4において認定判断したところによれば、本件各取引から貸付金利息に係る所得、すなわち利子所得を得て、本件各外国源泉税を納付したのは、原告ということになるが、以下、法六九条一項を限定解釈し、原告が同条項にいう本件各外国源泉税を納付したものではないとの認定判断をすることが可能か否かについて検討する。

租税法律主義の見地からすると、租税法規は、納税者の有利・不利にかかわらず、みだりに拡張解釈したり縮小解釈することは許されないと解される。しかし、税額控除の規定を含む課税減免規定は、通常、政策的判断から設けられた規定であり、その趣旨・目的に合致しない場合を除外するとの解釈をとる余地もあり、また、これらの規定については、租税負担公平の原則(租税公平主義)から不公平の拡大を防止するため、解釈の狭義性が要請されるものということができる。

したがって、租税法律主義の下でも、かかる場合に課税減免規定を限定解釈することが全く禁止されるものではないと解するのが相当である。

ところで、具体的にどのような限定解釈が可能であるかは、各課税減免規定を通じて一般化することはできす、各法規の文言、関連規定の定め方、制度の趣旨・目的等から、当該課税減免規定から要請される解釈を探るべきである。

そこで、次に、法六九条の制度の趣旨・目的等について検討する。

(3)  法六九条(外国税額控除)の制度の趣旨・目的等

ア 外国税額控除制度の趣旨・目的

日本国の法人税法は、法人の国内所得と国外所得を含めた所得全体(全世界所得)を課税対象としており、海外支店の事業所得、本店が海外に投資を行うことから生じる利子・配当・使用料等の法人が国外で得た所得(国外所得)についても、国内で得た所得と同様に課税されることとなる。

所得の源泉地である外国が課税権を行使することは、国際的に認められていることから、同一の所得(課税物件)に対して、日本国と外国の双方の課税権が重複、競合する問題が生じるところとなる。

外国税額控除制度は、このような国際間の二重課税を排除するため昭和二八年に創設されたものであり、日本国法人の海外支店等の所得に対し、外国で日本国の法人税に相当する課税を受けた場合には、当該外国で課された所得に対して日本国で法人税を課する際に、その国外所得に対する日本国の法人税額の限度内で、外国で課税された税額を控除できることとなった。

ところで、国際的二重課税を排除する方法としては、外国税額控除制度のほかに、国外所得免除方式があるが、国外所得免除方式は、企業の居住地国において、国外所得に対する課税権を放棄するというものであり、この方式の下では、外国での課税額が少なければ少ない分だけ、企業の税負担は小さくなり、その意味で内外投資への中立性は確保されない。

日本国は、内外投資の中立性、すなわち、国内企業が国外進出を選択することが、国内活動をするより不利に扱われないということを重視し、外国税額控除制度を採用した。これは、企業の海外進出に伴う経済のグローバル化と国際的な資本移動の自由化が進むなかで、日本国企業の海外活動を容易にし、活発な資本交流を維持、促進し、世界的な経済資源の効率的配分に資するとともに、日本国経済の長期的発展を支えるという政策を重視していたからにほかならない。

そして、この外国税額控除制度は、昭和三〇年代後半には、日本国企業の海外事業活動の活発化等に即応し、昭和三七年及び同三八年の改正を通じて、従前の控除すべき限度額の計算を所得の生じた当該外国ごとに行う国別限度額方式から、国外所得全体として一括して限度額の計算をする一括限度額方式を採用するなど大幅な拡充整備が行われてきた。

しかし、この一括限度額方式は、控除限度額の計算が比較的簡明であるといった利点がある反面、軽課税国又は非課税国の国外所得から創出される控除限度額を利用して、日本国の実効税率を超える高率で課された外国法人税についてまで日本国で控除され得るため、結果として国際的二重課税の排除という制度本来の趣旨・目的を超えた控除が行われることとなるほか、高税率で課された外国の租税を控除できるようにするため、高率課税国に進出している企業が、控除枠を作るだけのために軽課税国又は非課税国に投資を行うなど、企業が控除枠の創出を目的とした投資行動をとる誘因となるといった、制度の趣旨に反する問題が生じた。(乙2、3、15)

このような制度の趣旨・目的に反する問題をできる限り除去し、制度本来の趣旨・目的に沿って所要の措置を講ずるため、昭和六三年一二月の改正がなされた。同改正では、①控除限度額の基礎となる国外所得から当該非課税国外源泉所得に係る所得の二分の一に相当する金額を控除することとし、全所得に占める国外所得の割合は原則として九〇パーセントを限度とし(昭和六三年政令三六二号による改正後の施行令一四二条三項)、また、②外国において五〇パーセントを超える税率で課される外国法人税のうち五〇パーセントを超える部分を控除対象外国法人税額から除くこととし(同施行令一四二条の二)、さらに、金融業等利子収入割合の高い法人の所得率が一〇パーセント以下の場合は利子等の収入金額の一〇パーセントを超える部分、所得率が一〇パーセントを超え二〇パーセント以下の場合は利子等の収入金額の一五パーセントを超える部分を控除対象外国法人税の額から除外することとし(同施行令一四二条の三第二項)、③これまで五年間の控除繰越しが認められていた控除余裕額及び控除限度超過外国税額について、その繰越期間をいずれも三年に短縮した(同施行令一四四条一項)。

イ 外国税額控除制度の内容

(ア) 控除限度額

外国税額控除制度については、法六九条一項において、内国法人が各事業年度において外国法人税(外国の法令により課税される法人税に相当する税で政令で定めるものをいう。)を納付することとなる場合には、当該事業年度の所得の金額につき六六条一項から三項まで(各事業年度の所得に対する法人税の税率)の規定を適用して計算した金額のうち、当該事業年度の所得でその源泉が国外にあるものに対応するものとして政令で定めるところにより計算した金額を限度として、その外国法人税の額(その所得に対する負担が高率な部分として政令で定める金額を除く。)を当該事業年度の所得に対する法人税の額から控除する旨規定している。

このように、外国税額控除制度は、外国に租税を納付したからといって、無制限にその納付した金額について税額控除が認められるのではなく、下記①の額又は②の計算式により算出される額のうち、いずれか少ない金額を限度として控除が認められている(法六九条一項、施行令一四二条。なお、②の下線部の割合は現行のもので、平成四年三月期は、二分の一〔平成四年三月三一日政令第八五号による改正前のものが適用される。〕、平成五年三月期は、一二分の七〔平成四年改正法施行令(平成四年三月三一日政令第八五号)附則五条〕となっている。)。

(額又は計算式)

① 各事業年度において納付することとなる外国法人税の額

② 各事業年度の全世界所得に対する日本の法人税の額×当該事業年度の国外所得金額(外国で非課税とされる所得の三分の二を除く。)÷当該事業年度の全世界所得全額

(イ) 控除余裕額及び控除限度超過外国税額についての繰越期間

法六九条二項及び三項においては、外国税額控除の限度額が当該事業年度に課された外国税額よりも大きく、限度額に余裕が生じた場合には、その余裕の範囲内で当該事業年度前三年以内の事業年度中に課された外国税額で、それらの年度の限度額を超えるため控除しきれなかった部分の外国税額を当該事業年度に繰り越して控除することができること、反対に、当該事業年度に課された外国税額がその控除の限度額を超え十分控除しきれないときは、当該事業年度前三年以内の事業年度における控除限度額に余裕がある場合に、当該事業年度の限度額に上に述べた余裕額を加えた範囲内で、その事業年度の外国税額を控除することができることを規定している。

これは、日本国における所得計算が、発生主義を基調として行われており、外国における課税は必ずしもその課税原因となった国外源泉所得の発生に対応する日本国の課税年度中に行われるわけではなく、また、現行の外国税額控除制度が個々の国外源泉所得とそれに対応する外国法人税額を個別的に対応させて控除するのではなく、当該事業年度において納付することとなった外国法人税額を控除限度額の範囲内で控除することとなっているために、前後三年間の期間を通じて対応させ、国外源泉所得の発生時期と外国法人税額とのずれを調整するものである。

(ウ) 控除対象外国法人税

法六九条一項に規定する「外国の法令により課される法人税に相当する税」とは、外国の法令に基づき外国又はその地方公共団体により法人の所得を課税標準として課される税(以下「外国法人税」という。)であることが要件とされており(施行令一四一条一項。この項の施行令は現行のものをいう。)、また、法人の所得を課税標準として課される税と同一の税目に属する税で、法人の特定の所得につき、徴税上の便宜のため、所得に代えて収入金額その他これに準ずるものを課税標準として課されるもの等が外国法人税に含まれることとされている(施行令一四一条二項三号)。

さらに、法六九条一項は、その所得に対する負担が高率な部分として政令で定める金額を除くとしているが、具体的には、負担が高率な部分として、外国において五〇パーセントを超える税率で課される外国法人税のうち五〇パーセントを超える部分(施行令一四二条の二)がこれに当たるとされ、さらに、原告のように金融業を主として営む内国法人が納付することとなる所得税法二三条一項(利子所得)に規定する利子等の収入金額を課税標準として源泉徴収の方法に類する方法により課される外国法人税については、所得率が一〇パーセント以下の場合は利子等の収入金額の一〇パーセントを超える部分、所得率が一〇パーセントを超え二〇パーセント以下の場合は利子等の収入金額の一五パーセントを超える部分を控除対象外国法人税の額から除外することとされている(施行令一四二条の三第二項一号)。

(4)  法六九条の限定解釈の可能性

ア 被告は、法六九条一項の「納付することとなる場合」を限定解釈し、本件各取引における原告の外国源泉税の納付がこれに当たらないと主張するので、以下、同文言の限定解釈の可能性について検討する。

まず、法六九条の制度の趣旨・目的の点から検討するに、前記(3)において述べたところから明らかなように、外国税額控除制度は、結局のところ、同一の所得に対する国際的二重課税を排除し、かつ、資本輸出の中立性を担保しようとする極めて合理的な政策目的に基づくものである。

ところで、昭和六三年の抜本的な改正時には、立法者によって、外国税額控除枠のいわゆる彼此流用の問題(一括限度額方式の下で、日本国の実効税率を超える高率で課された外国税が、他の軽課税ないし非課税とされた国外所得から生じる控除枠を利用して控除されてしまうという問題)は認識されていた。かかる彼此流用の結果、国際的二重課税の制度の趣旨・目的を超えて内国法人に税額控除の利益を与えることもあり、控除枠を創出するために、軽課税国ないし非課税国に投資するという傾向が強まるという資本移動のゆがみが生ずることも認識されていた。

ところが、昭和六三年一二月の法改正は、これを一般的に禁止することはせず、控除限度額の枠の管理を強化したり、高率部分を控除対象外国法人税に含めないとすることによって対応することを明らかにしたものであると解され、彼此流用については、その限度で許容するという割り切った立法政策を採ったものと解される。

このことから、単なる外国税額控除枠の彼此流用については、租税回避の問題があると解されたとしても、原則として、上記改正後の税額控除の要件を満たしている限り、租税回避を理由として否認することはできないというべきである。その限りにおいて、内国法人が控除限度額の枠を自らの事業活動上の能力、資源として利用することが禁じられているわけではないということができる。

しかし、本件では、同一法人内の彼此流用の問題ではなく、原告において、ペプシコ社やロシコ社が外国源泉税の負担軽減を図るため、原告の外国税額控除の余裕枠を利用することを理解した上で、これを内容とする本件各取引を行い、ペプシコ社やロシコ社に上記余裕枠を利用させ、同各社からその対価を得たものと認められるのであるから、別途の考察が必要である。

すなわち、法六九条は、国際的二重課税を排除して、日本国企業の国際取引に伴う課税上の障害を取り除き、事業活動に対する税制の中立性を確保することを目的とすることにかんがみると、同条は、内国法入が客観的にみて正当な事業目的を有する通常の経済活動に伴う国際的取引から必然的に外国税を納付することとなる場合に適用され、かかる場合に外国税額控除が認められ、かつ、その場合に限定されるというべきである。

したがって、内国法人が、本来六九条の適用の対象者ではない第三者に、外国税額控除の余裕枠を利用させ、第三者からその利用に対する対価を得ることを目的として、そのために故意に日本国との関係で二重課税を生じさせるような取引をすることは、前述した法六九条の制度の趣旨・目的を著しく逸脱するものというべきであり、当該行為にはおよそ正当な事業目的がなく、あるいは極めて限局された事業目的しかないものであるから、内国法人が同取引に基づく外国法人税を納付したとしても、法六九条の制度を濫用するものとして、同条一項にいう「外国法人税を納付することとなる場合」には該当せず、同条の適用を受けることができないとの解釈が許容されてしかるべきである。

イ 原告は、「正当な事業目的」という基準を設けて、法六九条の限定解釈を行うことは、租税法律主義に反すると主張する。

しかし、法六九条の適用にあたり、同条の制度を濫用する事案において、上記のような限定的な解釈をすることが許されるべきであることは前述したとおりである。そして、同条の制度を濫用する事案においては、自らが、正当な事業目的がなく、あるいは極めて限局された事業目的しかなく、制度を濫用していることを認識しているような事例において、このような限定解釈を行ったからといって、法的安定性、予測可能性を害することにはならない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。

ウ また、原告は、非課税規定についてのみ限定解釈を認めることは不合理であるし、一方、外国税額控除制度は、国際的二重課税を排除するための選択の余地のない制度であり、課税減免規定にも当たらないと主張する。

確かに、外国税額控除制度は、必ずしも恩恵的な制度とはいい難いが、選択の余地のある政策的な制度であり、法六九条は特別な課税減免規定に当たるから、租税負担公平の原則から、不公平の拡大を防止するためにも、限定解釈を行う必要があるというべきである。

エ 原告は、外国税額控除制度は、中立性の維持を目的としているわけではなく、仮に、資本輸出の中立性の立場からは、外国税額について一切制限することなく完全に控除できる制度が望ましいと主張するが、前記(3)に述べたところに照らし、採用することができない。

(5)  正当な事業目的の具体的な判断基準について

ア 前記(3)、(4)で述べたところによると、少なくとも、法六九条の適用を受けようとする者において、外国税額控除の余裕枠を利用すること以外におよそ正当な事業目的が存しない場合や、それ以外の事業目的が極めて限局されたものである場合には、法六九条の制度を濫用するものとして、同条一項にいう「外国法人税を納付することとなる場合」には当たらないと解するのが相当である。

また、外国税額控除の余裕枠を他人に利用させ、その対価を得ること自体を正当な事業目的ということはできないと解すべきである。

イ なお、原告は、「租税回避のみを目的としたと認められる場合」のみならず、「当該取引から得られる利益と外国税額控除から得られる利益とを比較した場合に、前者が後者に比べて著しく少ない場合」も限定解釈をし、外国税額控除を認めないとすることは不当であると主張する。

しかし、租税回避のみを目的としているにもかかわらず、わずかな事業目的を外形的に作出して、外国税額控除制度の適用を受けようとするような場合は、専ら、租税回避を目的とするにもかかわらず、その非難を回避しようとするものにすぎず、これを放置することは、結局、法六九条の限定解釈を無意味にすることにつながり、相当でない。

ウ また、原告は、上記アの判断基準は不明確であるとか、このような解釈を許すことは、法律によらない課税を容認したり、新たな否認類型を創設するもので許されないと主張する。

しかし、法六九条の制度を濫用する事案のみを排除することは、むしろ、制度の趣旨・目的に沿うものというべきであり、法律によらない課税を容認したり、新たな否認類型を創設することにはならないと考える。

(6) ペプシコ事案への当てはめ

ア  ペプシコ事案における取引の内容は、前記2のとおりであり、原告は、平成三年六月六日付けで、ペプシコ社との間で、本件手形買取契約を締結するとともに、本件覚書記載の内容について合意し、これにより、原告は、同日、上記手形を買い取り、その額面金額合計2億7266万6725.11米ドル(上記貸付金元本合計であり、手形金に対する利息は別途発生する。)をペプシコ社に支払い、一方、原告は、同年七月一一日、ペプシコ社から、手形金に対する手形売買の日である同年六月六日から同年七月一日までの利息一二八万一六七六米ドルの送金を受けた。

さらに、原告は、平成三年七月一五日、サブリタス社から手形金の支払を受けたが、その際、貸付金利息1746万9972.22米ドルからメキシコ国源泉税262万0495.83米ドルを控除した1484万9476.39米ドルを受領する一方、同日、本件覚書に基づき、ペプシコ社に対し、1557万8637.73米ドルを送金したが、その内訳は、次のとおりであった。

(原告が支出したもの)

①  サブリタス社から受領した源泉税控除後の利息である1484万9476.39米ドル(原判決「事実及び理由」中の「第2の4 取引の外形的事実」1(4)イ(エ)①に相当)

②  上記控除された源泉税額(利息の一五パーセント)の三分の二(利息の一〇パーセントに相当)である174万6997.22米ドル(コミット金額)から、平成三年七月一五日から同四年六月三〇日までの間年利6.8125パーセントの割合で計算した金利を割引した163万9846.89米ドル(同②に相当)

(原告が受領したもの)

③  手形金に対する平成三年七月一日から同月一五日までの利息70万4899.51米ドル(同③に相当)

④  取引実行手数料20万5804.04米ドル(同④に相当)

本来の手形売買であれば、ペプシコ社としては、通常、上記手形金(貸付金元本)のほか、原告が受領した利息から、原告が支出した手形代金に対する利息(上記①から③までの金銭及び平成三年七月一一日に受領した一二八万一六七六米ドル)を控除したものに相当する金銭を受領すると考えられる(もちろん、回収の危険があり、かつ、早期に元本を回収する必要がある場合などは、元本を割ることも考えられないではない。)。

しかし、サブリタス社からの回収に危険が存したことを窺わせるような事情は見当たらず、また、ペプシコ社において、緊急の資金需要など元本回収の必要性が存したことを窺わせる事情も見当たらない。

そうすると、上記②及び④の金銭のやりとりは、通常の手形売買には見られないものであり、少なくとも、上記②、④の金銭は、原告の外国税額控除の余裕枠の利用に対する対価であるといえる。

イ  前記アによると、原告は、ペプシコ社が、サブリタス社に対して融資をするにあたり、その利息収入に対して課税されるメキシコ国源泉税の負担軽減を図るため、原告の外国税額控除の余裕枠を利用しようとして、本件取引を申し出たことを認識しながら、ペプシコ社から対価を得ることを目的として、これに応じたというべきである。

原告は、本件取引により、上記ア②、④の手数料等を受けることと引き換えに、自らが外国税額控除の余裕枠を行使しながら、その実際は、その経済的効果を外国企業であるペプシコ社に帰属させている。

しかも、前述したとおり、原告の利得は、本件取引から生ずる外国法人税の控除額に比べてわずかであり、本件覚書や本件取引に係る社内での稟議書などからも、本件取引の目的が、専ら、ペプシコ社に原告の外国税額控除の余裕枠を利用させ、その対価を得ることにあることは明らかであり、他に正当な事業目的が存したと認めることはできず、そうでないとしても、極めて限局されたものにすぎないというべきである。

ウ  なお、ペプシコ社がサプリタス社に対して融資をするにあたり、税負担を最小限とするよう取引の形態を選択することは、むしろ当然のことであるが、そのことによって、本件取引における原告の正当な事業目的の存在を認めることはできないと考える。

そして、原告自身が、本件取引によって、外国税額控除の余裕枠を利用してコストの低い金融を提供することによる対価を得ることをもって、正当な事業目的が存したといえないことはいうまでもない(これをもって正当な事業目的とすることは、前述した法六九条の限定解釈の可能性を否定することにつながり、相当とはいえない。)。

エ  この点、ペプシコ社が、サブリタス社に対して手形貸付を行った後、資金需要が生じたため、原告がこれに応じたというのであれば、正当な事業目的の存在を肯定することもできるが、ペプシコ社が資金需要のため、早期に貸付金の回収を図ったという事情は窺えない。原告は、ペプシコ社とサブリタス社間の既存の取引にわざわざ参画したものであり、その目的は、専ら、原告の外国税額控除の余裕枠の利用によるメキシコ国源泉税の軽減及びこれに対する対価の取得であったが、既存の取引にわざわざ参画したということは、その目的の存在をより強く認定し得る有力な事情ということができる。

オ  以上、認定説示したとおり、ペプシコ事案における本件取引は、原告が、原告以外の第三者であるペプシコ社に、外国源泉税の負担軽減を図るために原告の外国税額控除の余裕枠を利用させ、同社からその利用に対する対価を得ることを主たる目的とした不自然な取引であり、外国税額控除を定めた法六九条の制度の趣旨・目的を著しく逸脱するものであって、当該行為におよそ正当な事業目的が存するとはいえず、そうでないとしても、極めて限局された事業目的が存するとしかいえないことからすると、原告がこのような取引に基づきメキシコ国源泉税を納付したとしても、法六九条の制度を濫用するものとして、同条一項にいう「外国法人税を納付することとなる場合」に当たると解することはできず、原告において同条による外国税額控除の適用を受けることはできないというべきである。

(7) ロシコ事案への当てはめ

ア  ロシコ事案における取引の内容は、前記3のとおりであり、原告は、平成三年九月一日付けで、ロシコ社との間で本件債権譲受・預金契約を締結し、これにより、原告は、ロシコ社から、カデラ社に対する本件債権を譲り受け、その代金をロシコ社の原告に対する預金に充てた。

さらに、原告は、平成四年二月一日、カデラ社から、平成三年九月一日から同四年一月三一日まで年利11.75パーセント(LIBOR)の割合で計算した利息額394万0273.97AUドルからオーストラリア国源泉税(利息に対して一〇パーセント)相当額39万4027.40AUドルを控除した金額354万6246.57AUドルを送金し、一方、原告は、平成四年二月一日、上記の送金を受けた後、本件債権譲受・預金契約に基づき、ロシコ社に対し、平成三年九月一日から同四年一月三一日まで年利11.40パーセント(LIBORから0.35パーセントを引いた利率)の割合で計算した預金利息額382万2904.11AUドルを支払った。

カデラ社は、平成四年八月一日、本件債権譲受・預金契約に基づき、原告に対し、同年二月一日から同年七月三一日まで年利7.995パーセント(LIBOR)の割合で計算した利息額318万9238.36AUドルからオーストラリア国源泉税(利息に対して一〇パーセント)相当額31万8923.84AUドルを控除した金額287万0314.52AUドルを送金し、一方、原告は、平成四年八月一日、上記の送金を受けた後、本件債権譲受・預金契約に基づき、ロシコ社に対し、同年二月一日から同年七月三一日まで年利7.645パーセント(LIBORから0.35パーセントを引いた利率)の割合で計算した預金利息額304万9621.92AUドルを支払った。

なお、貸付金債権については、平成四年七月三一日、本件債権譲受・預金契約に基づき、再び、ロシコ社に移転されるとともに、本件預金契約は解除され、この間についても、実際の八〇〇〇万AUドルに相当する資金の授受はなされなかった。

そうすると、原告は、本件取引の結果、ロシコ社から八〇〇〇万AUドルに対する年0.35パーセントの割合による金銭を受け取り、ロシコ社は、原告から、八〇〇〇万AUドルに対するLIBORの割合による金銭(オーストラリア国源泉税の控除のない金額)を受け取るのと同じ経済的効果を生じたことになり、上記八〇〇〇万AUドルに対する年0.35パーセントの割合による金銭は、原告の外国税額控除の余裕枠の利用に対する対価であるといえる。

イ  前記アによると、原告は、ロシコ社が、カデラ社に対して融資をするにあたり、その利息収入に対して課税されるオーストラリア国源泉税の負担軽減を図るため、原告の外国税額控除の余裕枠を利用しようとして、本件取引を申し出たことを認識しながら、ロシコ社から対価を得ることを目的として、これに応じたというべきである。

しかも、前記アによると、本件取引は、明らかな逆ざやの取引であり、しかも、資金の現実の授受もなされておらず、本件取引に正当な事業目的の存在を認めることはできないというべきであり、本件取引は、ロシコ社に原告の外国税額控除の余裕枠を利用させ、同社からこれに対する対価を得ることだけを目的とした取引としか言いようがない。

ウ  なお、ロシコ社がカデラ社に対して融資をするにあたり、税負担を最小限とするよう取引の形態を選択することは、むしろ当然のことであるが、そのことによって、本件取引における原告の正当な事業目的の存在を認めることはできないし、原告自身が、本件取引によって、外国税額控除の余裕枠を利用してコストの低い金融を提供することによる対価を得たとして、正当な事業目的が存したと解することができないことは、前記(6)で述べたところと同様である。

エ  この点、ロシコ社が、カデラ社に対して貸付を行った後、資金需要が生じたため、原告がこれに応じたというのであれば、正当な事業目的の存在を肯定することもできるが、前記第2の1(3)のとおり、ロシコ社と原告との間には八〇〇〇万AUドルに相当する資金の現実の授受は行われておらず、本件取引に係る契約が中途解約される場合においても、上記金額に相当する資金の現実の授受は行われないこととなっていた(実際にも、契約が中途解約され、資金の現実の授受は行われなかった。)ことが認められ、これらの事実に照らしても、ロシコ社に資金需要が存したと認めることはできない(もともと、ロシコ社は、オーストラリア国のセメント会社の買収のために設立された会社である。)。

また、原告は、ロシコ社とカデラ社間の既存の取引にわざわざ参画したものであるが、その目的は、もっぱら前記イの目的にあり、既存の取引にわざわざ参画したということは、その目的の存在をより強く認定し得る有力な事情ということができる。

オ  以上、認定説示したとおり、ロシコ事案における本件取引は、原告が、原告以外の第三者であるロシコ社に、外国源泉税の負担軽減を図るために原告の外国税額控除の余裕枠を利用させ、同社からその利用に対する対価を得ることを唯一の目的とした不自然な取引であり、外国税額控除を定めた法六九条の制度の趣旨・目的を著しく逸脱するものであって、当該行為におよそ正当な事業目的が存するとはいえないことからすると、原告がこのような取引に基づきオーストラリア国源泉税を納付したとしても、法六九条の制度を濫用するものとして、同条一項にいう「外国法人税を納付することとなる場合」に当たると解することはできず、原告において同条による外国税額控除の適用を受けることはできないというべきである。

6  損金処理の可否について

原告は、仮に予備的主張が認められたとしても、本件メキシコ国源泉税及びオーストラリア国源泉税は、損金に算入されるべきであると主張する。

しかし、そもそも、本件各取引においては、前記第2の1(2)、(3)のとおり、原告が外国税額控除の適用を受けられない場合には、外国法人税を負担する義務を負わず、原告は、ペプシコ事案においては、ペプシコ社に対しその償還を求めることができ、ロシコ事案においては、契約を中途解約するなどして、外国税額控除の適用が受けられない場合のリスクを負わないことになっていることが認められる。したがって、外国税額相当額の損金に算入することはできないというべきである。

この点について、原告は、外国税額控除の適用が否定された結果発生する原告の損失を、ペプシコ社やロシコ社が補償しなければならないのは、両社に何らかの損害賠償責任がある場合しか考えられず、また、両社がそのような責任を負うべき事由もないと主張するが、前記第2の1(2)、(3)の事実に照らして、採用することができない。

7  原告の納付すべき税額

(1)  平成四年三月期について

平成四年三月期の課税の経緯の詳細は、原判決別紙1のとおりであるが、これに前記5、6を総合すると、次のとおり、同期における処分はいずれも適法ということができる。

ア 平成四年三月期については、受取手数料等のうち三八五七万六五三一円を当期利益から減算する必要がなくなり、原告の同期の所得金額は二三三七億〇八六五万三〇四一円となる。所得金額に対する法人税額は、法人税法六六条、国税通則法一一八条により上記金額(ただし、一〇〇〇円未満の端数金額を切り捨てたもの)に0.375を乗じた八七六億四〇七四万四八七五円となり、これから控除すべき税額二五九億四八六一万三九三七円を控除すると、差引合計法人税額は六一六億九二一三万〇九〇〇円(国税通則法一一九条により一〇〇円未満の端数金額を切り捨てたもの)となる。同期の本件再更正処分に基づく納付すべき法人税額六一六億七七六六万四五〇〇円は、上記金額の範囲内となり、同処分は適法である。

イ また、平成四年三月期の本件原処分を前提として、上記受取手数料等の減算をしないでおくと、同処分に基づき納付すべき法人税額は二億六九八〇万七六〇〇円となり、これについての過少申告加算税は、国税通則法六五条、一一八条により上記金額(ただし、一万円未満の端数金額を切り捨てたもの)に0.1を乗じた二六九八万円となるが、同期の本件原処分において行った過少申告加算税の賦課決定額二五五三万四〇〇〇円は、上記金額の範囲内となり、同処分は適法である。

ウ さらに、平成四年三月期の本件再更正処分を前提として、上記受取手数料等の減算をしないでおくと、同処分に基づき納付すべき法人税額は七〇二六万二六〇〇円となり、これについての重加算税は、国税通則法六八条、一一八条により上記金額(ただし、一万円未満の端数金額を切り捨てたもの)に0.35を乗じた二四五九万一〇〇〇円となるが、同期の本件再更正処分において行った重加算税の賦課決定額二四五九万一〇〇〇円は、上記金額と同額であり、同処分は適法である(なお、本件再更正処分の新たな処分理由は、法六九条の外国税額控除とは関係がなく、原告は、これについて不服を申し立てていない。)。

(2)  平成五年三月期について

平成五年三月期の課税の経緯の詳細は、原判決別紙2のとおりであるが、これに前記5、6を総合すると、次のとおり、同期における処分はいずれも適法ということができる。

ア 平成五年三月期については、受取利息のうち一一五四万六九七八円を当期利益から減算する必要がなくなり、原告の同期の所得金額は一一二〇億四四九二万一二四〇円となる。所得金額に対する法人税額は、法人税法六六条、国税通則法一一八条により上記金額(ただし、一〇〇〇円未満の端数金額を切り捨てたもの)に0.375を乗じた四二〇億一六八四万五三七五円となり、これから控除すべき税額二五七億八七二七万九一五三円を控除すると、差引合計法人税額は一六二億二九五六万六二〇〇円(国税通則法一一九条により一〇〇円未満の端数金額を切り捨てたもの)となる。同期の本件再更正処分に基づく納付すべき法人税額一六二億二九五六万六二〇〇円は、上記金額と同額であり、同処分は適法である。

イ また、平成五年三月期の本件原処分を前提として、上記受取利息の減算をしないでおくと、同処分に基づき納付すべき法人税額は一二億五九四八万三〇〇〇円となり、これについての過少申告換算税は、国税通則法六五条、一一八条により上記金額(ただし、一万円未満の端数金額を切り捨てたもの)に0.1を乗じた一億二五九四万八〇〇〇円となるが、同期の本件原処分において行った過少申告加算税の賦課決定額一億二五九四万八〇〇〇円(平成七年六月二二日の過少申告加算税の賦課決定額を、平成一〇年二月二五日変更決定したもの)は、上記金額と同額であり、同処分は適法である。

ウ さらに、平成五年三月期の本件再更正処分を前提として、上記受取利息の減算をしないでおくと、同処分に基づき納付すべき法人税額は一億六三五五万七八〇〇円となり、これについての重加算税は、国税通則法六八条、一一八条により上記金額(ただし、一万円未満の端数金額を切り捨てたもの)に0.35を乗じた五七二四万二五〇〇円となるが、同期の本件再更正処分において行った重加算税の賦課決定額五七二四万二五〇〇円は、上記金額と同額であり、同処分は適法である(なお、本件再更正処分の新たな処分理由は、法六九条の外国税額控除とは関係がなく、原告は、これについて不服を申し立てていない。)。

第4  結論

よって、原告の請求(ただし、原判決主文3ないし6項にかかる請求)はいずれも理由がないので、これを棄却すべきところ、これと異なる原判決主文3ないし6項は不当であるから、これを取り消し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・竹原俊一、裁判官・小野洋一、裁判官・山田陽三)

別紙表1〜3<省略>

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