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大阪高等裁判所 平成13年(行コ)72号 判決 2001年12月19日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人が平成10年10月30日付けで控訴人に対してした原判決添付別紙許可証目録記載の風俗営業許可証返納の受理拠分は無効であることを確認する。

(3)  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文同旨

第2事案の概要

1  次項のとおり付加するほか,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」(原判決2頁3行目から9頁22行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

2  控訴人の当審における追加主張

(1)  控訴人が本件委任状を作成した平成10年10月14日の時点で置かれていた状況は,重要な財産行為ないし法律行為を行う能力を行使し難い,著しく不適切なものであった。

すなわち,当時初期段階で軽度の萎縮性痴呆に罹患していた控訴人は,自己の行為の結果を判断する能力が不十分であったのに加えて,同時点における環境要因が控訴人の有する精神能力が適切に行使できるようなものでなかったのであるから,控訴人による本件委任の意思表示は,自己の行為の結果を判断する能力を欠く状態でなされたもので無効である。このことについては,専門家の知見(甲59,67)が存在する。

(2)  控訴人のA行政書士に対する本件営業許可証の返納手続に関する委任は,錯誤に基づくものであり,無効である。

(3)  控訴人が上記のような,平成10年10月14日に置かれていた著しく不適切な状況は,本件営業許可証の返納行為その他の行為により,実質的に利得する立場にあった訴外FことB及び同Cによって作出されたものであり,このような状況下でなされた本件営業許可証の返納処分は,控訴人の意思に反し,その利益を著しく害するものとして,信義公平の見地から無効である。

第3判断

1  当裁判所も,控訴人の本訴請求は,失当であるから棄却すべきものと判断する。その理由は,次のとおり改め,次項のとおり付加するほか,原判決「事実及び理由」の「第3 争点に対する判断」の「1」ないし「3」(原判決9頁24行目から17頁20行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。

原判決17頁20行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「ところで,別件鑑定書の作成者であるD医師は,

『Eが「平成10年10月14日」おかれていた状況はEが重要な財産行為をおこなう能力を行使し難い,著しく不適切な状況であった』旨の所見を述べており(甲67。以下「鑑定補充書」ともいう。),控訴人は,これをもってA行政書士への委任が無効であるとする主張の論拠の一つとしている。

しかしながら,D医師は,鑑定補充書において,同所見が一般論である旨の断りをしているのみならず,『鑑定書(別件鑑定書)で述べたようにEの意識は清明で見当識も正確に保たれ,自分のおかれている立場についての認識もあり,自分の行為の結果を判断することも不十分ながら出来ていたと思われます。』との所見をも述べているのであり,これらのことにかんがみるならば,上記の,著しく不適切な状況うんぬんの所見をもって,A行政書士への委任が意思能力を欠く無効のものであったと断ずることはできない。」

2  控訴人の当審における追加主張(2),(3)について

証拠(甲17の1ないし6,甲68の1・2,甲69ないし71)によれば,控訴人は,A行政書士に本件営業許可証の返納を委任するに当たっては,その返納によって控訴人が本件パチンコ店を廃業する結果となることを認識した上で,控訴人,子供ら及びその配偶者間の紛争を解消するために,敢えて同委任をしたことが認められるのであるから,控訴人には,同委任をするについて錯誤があったということはできない。

また,信義公平の見地から無効であるとの点については,当時,老境に達していた控訴人(大正12年3月22日生れ)が,上記親族との紛争の解消を望んで,親族への訴え・保全処分の取下げや,その一因をなした本件パチンコ店の廃業のための上記委任を行ったとしても,それが前記で認定説示のように控訴人の真意に基づくものである以上,上記返納ないし被控訴人による本件受理が信義公平の見地から無効であるとまでいうことはできない。

3  以上によれば,控訴人の本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく失当であるから棄却すべきところ,これと同旨の原判決は相当である。

よって,控訴人の本件控訴を棄却し,控訴費用の負担について行訴法7条,民訴法67条1項,61条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 根本眞 裁判官 鎌田義勝 裁判官 松田亨)

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