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大阪高等裁判所 平成13年(行コ)78号 判決 2002年7月09日

主文

1  被控訴人が平成12年12月19日付けで控訴人に対してした34万2000円の返還金・徴収金決定の取消請求のうち32万9760円を超える部分に関する原判決を取り消し,同部分に関する訴えを却下する。

2  控訴人のその余の控訴を棄却する。

3  訴訟費用は第1,2審を通じて控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対し平成12年12月19日付で行った返還金・徴収金決定処分を取り消す。

第2事案の概要

1  事案の骨子,前提事実,争点及びこれに対する当事者の主張は,次に付加,補充するほかは,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」に記載のとおりであるから,これを引用する。

2  原判決の付加,補充

(1)  原判決3頁3行目の「)。」の次に行を改め「なお被控訴人のその後の調査により本件補償金の中に通院実費1万2240円が含まれていることが判明したことから,被控訴人は,平成14年3月12日,控訴人に対し,本件処分を一部取り消し,法63条に基づく返還金・徴収金の額を32万9760円とする旨の再決定を行った(以下「本件再処分」という。甲16)。

(2)  同7頁5行目の「ち,」の次に「本件処分により」を,同行目の「4万円を」の次に「,また本件再処分により通院実費1万2240円をそれぞれ」を加え,同6行目の「35万円」を「33万7760円」に,同10行目及び12行目の各「34万2000円」を「32万9760円」に訂正する。

(3)  同8頁21行目の「34万2000円」を「32万9760円」に訂正する。

(4)  同9頁13行目の「であり,法4条にも反する。」を「であるところ,法63条の「資力」の意義も,この法4条の趣旨を踏まえ解釈すべきであるから(法5条),慰謝料も当然これに含まれるものというべきであり,したがって,慰謝料を収入として認定した本件処分(本件再処分により一部取消後のもの)は違法である。また仮に被控訴人の主張を前提に慰謝料の収入認定それ自体は違法ではないとしても,控訴人にはバイクの修理費6万円の追加物損が生じており(甲17),これは収入として認定されるべきではないから,本件補償金から上記追加物損額も控除すべきである。よって,被控訴人は法63条に基づく返還金・徴収金の額を26万9760円と決定すべきであり,本件再処分も違法である。」を加える。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所は,本件処分(被控訴人が控訴人に対し平成12年12月19日付けで行った34万2000円の返還金・徴収金決定)のうち32万9760円を超える部分に関する訴えは(狭義の)訴えの利益を欠くことから却下し,その余の部分に関する取消請求は理由がなく棄却すべきものと判断する。

以下その理由を述べる。

2  本件処分のうち32万9760円を超える部分について

本件再処分は,本件処分を実質的に変更する内容のものであって,法63条に基づく返還金等の一部取消しという控訴人に有利な効果をもたらす処分であると解するのが相当であるから,控訴人は本件再処分の取消しを求める訴えの利益はなく,これにより減額された後の本件処分の取消しを求める限度で訴えの利益があるものというべきある。

したがって,本件訴えのうち上記部分は訴えの利益を欠き不適法却下を免れない。

3  本件処分のうちその余の部分について

上記のとおり,控訴人の上記部分に関する請求は理由がなく棄却されるべきであるが,その理由は,次に付加,変更等を加えるほかは,原判決「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  同13頁6行目ないし10行目を「もっとも,行政庁の収入認定が,最低限度の生活保障もしくは要保護者の自立助成という法の目的及び行政庁に付与された上記権限の性質等に照らし著しく不合理であると認められるときには,上記裁量権の逸脱・濫用として違法となるものと解され(行訴法30条),その判断は,個々の財産の内容・性質・取得の経緯・使用態様等を総合的に勘案して行われるべきである。」に改める。

(2)  同13行目の「及び洋服代」を「,洋服代及び通院実費」に,「4万円」を「5万2240円」に改め,同14行目の「認められる。」の次に行を改め以下を加える。

「なお控訴人は,上記のとおり,バイクの修理費として6万円の追加物損が生じており,これは収入として認定されるべきではないから,本件補償金の中から更に上記追加物損額を控除した額を収入として認定すべきである旨主張し,その証拠として「証明書」と題する書面(甲17,以下「本件証明書」という。)を提出している。しかし,その記載内容は「すでに保険会社から支払われている物損以外に次の通り追加物損が生じていることを証明します。」というものであって,控訴人がその追加物損につき実際に修理を受け,その代金を支払ったことを認めるに足る証拠とはいえず,かえって,乙3,乙5の1,2及び弁論の全趣旨(第3回口頭弁論調書)によれば,本件バイクについて,そのような修理が行われてはいないものというよりほかはない。そうすると控訴人の上記主張は,その前提を欠くこととなり採用することはできない。」

(3)  同15行目の「原告が」を「このように控訴人が」に,同18行目の「金銭」を「35万円のうち33万7760円(甲14)」に訂正し,同21行目の「法の目的と反するか」を「上記観点に照らし著しく不合理であるといえるか。」に改める。

(4)  同14頁4行目ないし9行目を「これに対し,慰謝料は通常,精神的苦痛を慰謝し,精神的損害を填補するために支払われるものであるが,財産的損害の場合と異なり,財産的利益が減少しているわけではないから,かかる損害を被ったことにより直ちに生活水準が低下するわけではなく,また,かかる損害を賠償するために支払われた慰謝料を収入として認定したとしても,そのことから直ちに生活水準の低下を招くものでもなく,最低限度の生活を保障するという法の目的を逸脱するものとはいえない。」に改め,同15行目の「及び法3条」及び同17行目の「ことは明らかである」を削除し,同17行目の「これらの法規」を「これを立法化した法3条」に,同19行目の「生活水準の低下とは直接関連性を有しない以上」を「通常は直ちに生活水準の低下を招くものではない以上」に,同末行の「法の目的に反する」を「法の目的に照らし著しく不合理である」に改める。

(5)  同15頁10行目の「34万2000円」を「32万9760円」に訂正し,同11行目の「法の目的に反する」を「法の目的を逸脱する」に改め,同23,24行目の「34万2000円」を「32万9760円」に訂正し同25,末行目の「に反するということはできないから」を「を逸脱するものではないから」に,同末行の「判断に」を「上記判断が著しく不合理なものとはいえず,その裁量権の行使に」を加える。

第4結語

以上のとおり,本件処分のうち32万9760円を超える部分の取消しを求める訴えは却下し,その余の部分に関する取消請求は理由がないので棄却することとし,よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡部崇明 裁判官 白井博文 裁判官 伊良原恵吾)

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