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大阪高等裁判所 平成13年(行コ)92号 判決 2002年3月29日

控訴人

破産者

株式会社R

破産管財人

藪口隆

同常置代理人

武智順子

被控訴人

北税務署長

丸山忠昭

同指定代理人

鈴木和典

外三名

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が平成一一年七月二日付でした、平成九年一〇月一日から平成一〇年九月三〇日までを欠損事業年度とし平成九年三月一日から同年九月三〇日までを還付所得事業年度とする欠損金の繰戻しによる還付請求に理由がない旨の通知処分の全部を取り消す。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二  事案の概要

原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」のとおりであるからこれを引用する。

第三  争点に対する判断

一  二に付加するほか原判決の「事実及び理由」中の「第3 争点に対する判断」のとおりであるからこれを引用する。

二 控訴人は、①欠損金の繰戻し還付が、青色申告法人に認められた法律上の利益でありしたがって権利である以上、商法一〇三条に基づき合併の効果として合併会社に当然承継されると解すべきであり、なお国税通則法六条が、合併の際の被合併法人の納税義務の承継を規定しているが、その反対解釈からも欠損金額の繰戻しによる還付請求権は合併存続法人に承継されるべきである。②法人税法が合併の場合の課税標準の計算について、引当金、準備金等に係る被合併法人の計算を引き継ぐ旨のいくつかの規定を設けていることは、同法が合併につき人格承継説をとっていると解される根拠となり、同法七一条二項が合併存続法人の合併後最初の事業年度の中間申告の際の法人税額には、合併存続法人のもののみならず、被合併法人のものを含める旨を規定していることからも、同法八一条一項に規定する還付所得事業年度の法人税額には、合併存続法人のもののみならず、被合併法人のものを含むと解すべきである旨主張する。

しかし、①については、欠損金の繰戻還付請求制度の趣旨及び欠損金の繰戻し還付が青色申告法人に認められた立法政策上の特典的性格の強いものであること、並びに商法一〇三条の解釈は、引用にかかる原判決の判示(原判決の五頁末行<編注 本号一七七頁四段二四行目>から六頁二三行目<同一七八頁二段一行目>まで)のとおりであるから、欠損金の繰戻し還付が権利であるとは認められず、したがって欠損金の繰戻し還付が同法一〇三条に基づき合併の効果として被合併会社に承継されるとすることはできず、なお国税通則法六条が合併法人が被合併法人の所得について法人税を納める義務がある旨を規定しているのは、被合併法人について具体的に確定されていた納税義務が合併法人に承継されるばかりでなく、被合併法人の最終事業年度分のように合併により発生する納税義務などをも含む合併法人に負担させる要があるので設けられたものにすぎないから、この規定から控訴人主張のような解釈が導かれるとはいえない。

②については、法人税法が合併の効果が生じた場合に伴う税務経理の方法、所得金額の計算方法、納税義務等の各事項について、引当金の引継ぎ等を認める規定(五二条ないし五四条)をおいている一方、繰越欠損金(五七条)、減価償却超過額(三一条)等引継ぎを認めず、合併に際して評価益の計上を容認している(一一二条)などからすれば、同法が一元的に「人格承継説」をとるものと解することはできず、同法は、前示のとおり(引用にかかる原判決七頁一行目<編注 本号一七八頁二段七行目>から一一行目<同一七八頁二段二七行目>の「解される。」まで)各種数額のうち合併存続法人に引き継がせるべきものについては、個別的に規定しているものと解され、同法七一条二項が合併存続法人の合併後最初の事業年度の中間申告の際の法人税額には、合併存続法人のもののみならず、被合併法人のものを含める旨を規定しているのもその一つと解されるから、これが控訴人の前記主張の根拠となりうるものではない。

よって、控訴人の前記主張は理由がない。

三  また、控訴人は、合併存続法人と被合併法人との間に実質的な企業の同一性、継続性があり、かつ合併行為が租税回避行為に当たらない場合には、同一法人が継続事業を行っている場合と何ら異なるところがないのであるから、法人税法八一条を適用すべきである旨主張するが、この点については引用にかかる原判決の判示(原判決八頁二行目<同一七八頁三段二七行目>から六行目<同一七八頁四段二行目>まで)のとおりであり、合併法人に被合併法人の法人税の額に対する繰戻しを認めることは特別の立法のない限りできないというほかなく、したがって控訴人の前記主張は採用できない。

第四  結論

以上によれば、控訴人の本件請求は理由がないからこれを棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当である。よって本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・武田多喜子、裁判官・松本久、裁判官・小林秀和)

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