大阪高等裁判所 平成14年(う)974号 判決 2002年10月23日
主文
一審判決を破棄する。
被告人を懲役6か月に処する。
この裁判が確定した日から5年間、その刑の執行を猶予する。
被告人を猶予の期間中保護観察に付する。
理由
第1検察官の控訴理由
1 事実誤認
一審判決は、本件公訴事実中、「被告人は、公安委員会の運転免許を受けないで、かつ、酒気を帯び、呼気1リットルにつき、0.45ミリグラムのアルコールを身体に保有する状態で、平成13年10月24日午前0時55分ころ、兵庫県a郡b町c号先駐車場において、普通貨物自動車(軽四)を運転した」との点(以下「本件公訴事実」という。)について無罪としたが、被告人は有罪であるから、一審判決には判決に影響を及ぼすべき事実誤認がある。
2 量刑不当
一審判決の懲役5か月、執行猶予4年の量刑は、軽すぎて不当である。
第2控訴理由に対する判断
まず、事実誤認の控訴理由について判断する。
証拠によれば、被告人が本件公訴事実の日時場所において公安委員会の運転免許を受けないで、かつ、酒気を帯び、呼気1リットルにつき0.45ミリグラムのアルコールを身体に保有する状態で普通貨物自動車(軽四)をその本来の用法に従って進行させた事実が容易に認められる。しかし、無免許運転及び酒気帯び運転の各罪が成立するためには、いずれも自動車を運転することを要し、道路交通法にいう運転とは同法2条1項1号にいう道路において車両等をその本来の用法に従って用いることをいうところ、本件公訴事実の駐車場(以下「本件駐車場」という。)が道路に当たるか否かについては問題がある。本件駐車場が同号所定の道路法2条1項に規定する道路又は道路運送法2条8項に規定する自動車道に当たらないことは明らかであり、問題は、同号所定の一般交通の用に供するその他の場所に当たるか否かである。一審判決は、本件駐車場はこれに当たらないと判断して被告人を無罪としたが、検察官は、本件駐車場は一般交通の用に供するその他の場所に当たると主張しており、本件の争点はこれに尽きる。
そこで検討するに、一審において取り調べられた証拠によれば、次の事実が認められる。
(1)本件駐車場は、東西約30メートル、南北約19メートルのほぼ長方形の舗装された駐車場で、その北側と西側が公道に面している。同駐車場の東側と南側には鉄柵が設けられていて同所からの出入りは不可能であるが、北側と西側については公道との間に遮蔽物はない。同駐車場の西側は車両が出入りすることができるようになっているが、北側については、上記公道との間に約0.5メートルの段差があり、車両の通行はできない。
(2)本件駐車場には、自動車1台ごとの駐車位置を示す区画線が引かれており、東側に3台分、北側に14台分、南側に13台分の区画(以下「本件各区画」という。)がある。本件駐車場中央の東西約25メートル、南北約7.6メートルの部分(以下「本件駐車場中央部分」という。)は、これらの区画に駐車する自動車及びこれに乗車する者の通行に利用されている。
(3)本件駐車場には守衛、管理人等、これを常時管理する者はおらず、西側の出入口には柵、チェーン等の設備は何もなく常時開放されている。同出入口のそばには、「管理者」の名義で「下記の店舗(注 後記(4)の各店舗のことである。)へ御利用のお客様専用駐車場です。駐車場御利用の方は各店舗へ申し出て下さい。」「無断駐車された方は罰金10、000円を申し受けます。」などと記載された看板が設置されている。
(4)本件駐車場の南隣にはラーメン店「Aラーメン」(以下「本件ラーメン店」という。)があり、本件駐車場は、同ラーメン店及びこれと同じ建物にある7軒の店舗(以下「本件各店舗」という。)の経営者らが共同してこれを借り受け、同各店舗の客のための駐車場として供されている。同駐車場を管理している同各店舗の経営者らは、同各店舗の客らがこれを利用するについて何の制約も設けておらず、同駐車場内の交通について何の管理も行っていない。
(5)本件当時は深夜の時間帯であったが、本件各店舗のうち本件ラーメン店を始め数店舗が営業しており、現に同各店舗の客らが本件駐車場を利用していた。
(6)被告人は、本件公訴事実の日時ころ、本件ラーメン店を客として訪れ、本件駐車場に普通貨物自動車(軽四)を停めていたが、本件ラーメン店を出て自車に乗り、これを発進させて同駐車場中央部分を進行した。
以上の事実によれば、本件駐車場は、本件各店舗を訪れる客の利用する駐車場として供され、本件駐車場中央部分は、同各店舗を訪れ、自車を本件駐車場に停め、又は停めようとする客ら及びその自動車の通行に供されており、これらの客及びその自動車が同所を通行するに当たって何らの制約はなく、かつ、現にこれらの客及びその自動車が自由に通行していたことが認められる。道路交通法2条1項1号にいう一般交通の用に供するその他の場所とは、不特定多数の人や車両が自由に通行できる場所として供され、現に不特定多数の人や車両が自由に通行している場所を意味すると解されるところ、本件各店舗を訪れ、自車を本件駐車場に停め、又は停めようとする者及びその自動車は、だれでも本件駐車場中央部分を通行することができ、現に通行していたのであるから、同所は不特定多数の人や車両が自由に通行する場所として供され、現に不特定多数の人や車両が自由に通行していたものというべきである。したがって、同所は道路に当たると解するべきである。
もっとも、本件駐車場は全体として駐車のための場所であり、本件駐車場中央部分は本件各区画に車両を駐車し、又は駐車車両が本件各区画から公道に出るための通路にすぎないから、これを道路に当たると解すべきではないとの見解も考えられる。しかし、前記認定の本件駐車場の形状、利用状態、本件駐車場中央部分の広さ、同部分と本件各区画との位置関係等によれば、本件駐車場中央部分は、本件各区画に駐車する最大30台の自動車及びこれに乗車する者がその出入りに当たって通過し、複数の自動車及び歩行者が同時に通過することもまれではない場所であって、そこにおける交通の安全と円滑を図り、通行する自動車の運転者や歩行者の生命、身体に対する危険を防止する必要性の高い場所である。そして、本件駐車場の管理者は同所における交通について何の管理も行っていないのであるから、法律によりその交通を規制する必要性は高い。したがって、本件駐車場中央部分は、単に駐車のための場所というには止まらず、本件各区画とは独立して、本件各区画に駐車する不特定多数の自動車及びこれに乗車する者の通行する場所として道路に当たると評価すべきである。
以上のとおり、本件駐車場中央部分は道路に当たり、被告人は同所において自動車を運転したのであるから、本件公訴事実を認定することができる。すなわち、一審判決は、この点において事実の認定を誤っており、破棄を免れない。
さらに、控訴審において取り調べた証拠によれば、本件駐車場には、本件各店舗の客以外の者がしばしば無断で自動車を停めており、また、本件駐車場の北側と西側が公道に面しているため、自動車を利用することなく単に本件駐車場内を通り抜けるだけの歩行者がいるが、これらを監視する者はおらず、本件各店舗の経営者らはこれらを事実上黙認するに近い状態であったことが認められる。以上の事実によれば、本件駐車場中央部分は、本件各店舗の客以外の人や車両に対しても、事実上その通行の用に供されていたと評価することができる。
そこで、一審判決を破棄し、自判することとする。
第3適用法令
刑事訴訟法397条1項、382条、400条ただし書
第4自判
(犯罪事実)
被告人は、次の各行為をした。
1 公安委員会の運転免許を受けないで、かつ、酒気を帯び、呼気1リットルにつき0.45ミリグラムのアルコールを身体に保有する状態で、平成13年10月24日午前0時55分ころ、兵庫県a郡b町c号先駐車場内の一般通行の用に供されている中央部分において、普通貨物自動車(軽四)を運転した。
2 公安委員会の運転免許を受けないで、かつ、酒気を帯び、呼気1リットルにつき0.3ミリグラムのアルコールを身体に保有する状態で、平成14年2月15日午前0時30分ころ、兵庫県a郡b町e号先道路において、普通貨物自動車(軽四)を運転した。
(証拠)
省略
(適用法令)
罰条 1及び2の各無免許運転の点について、いずれも平成13年法律第51号附則9条、同法による改正前の道路交通法118条1項1号、64条1及び2の各酒気帯び運転の点について、いずれも平成13年法律第51号附則9条、同法による改正前の道路交通法119条1項7号の2、65条1項、平成14年政令第24号による改正前の同法施行令44条の3科刑上一罪の処理 1及び2の各事実について、いずれも刑法54条1項前段、10条(いずれも重い無免許運転の罪の刑で処断)
刑種の選択 いずれも懲役刑を選択
併合罪処理 刑法45条前段、47条本文、10条(犯情の重い2の罪の刑に加重)
刑の執行猶予 刑法25条1項
保護観察 刑法25条の2第1項前段
訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書(一審及び控訴審)
(量刑理由)
被告人は、平成7年に無免許運転で罰金刑を受け、平成12年4月には無免許・酒気帯び運転で罰金刑を受けたが、同年6月ころ、妻の名義で自動車を購入し、同年10月ころにはこれを自己の名義に変更し、その後常習的に無免許運転を繰り返すうちに本件1の犯行に及んで検挙され、公訴提起の上、平成14年2月7日の一審第1回公判期日において公訴事実を認めながら、そのわずか8日後に本件2の犯行に及んだものである。本件は、いずれも飲酒の目的で上記自動車を運転して飲食店に赴き、長時間をかけ多量の飲酒をした上、帰宅しようとした際の犯行であり、身体に保有していたアルコールの量も多く、1の犯行の際には飲酒の影響で運転を誤って自車を駐車中の他車に接触させる事故を起こしているのであって、被告人の無免許運転と酒気帯び運転の常習性は著しく、その危険性も高い。ことに、2の犯行は、本件一審公判において反省の弁を述べた直後の犯行であって、被告人の反省の態度は容易には信用できず、犯情はすこぶる悪い。
以上の事情によれば、被告人の刑事責任は重く、本件については実刑が相当ではないかとも考えられるところである。
しかしながら、被告人には交通関係の罰金刑以外の前科はなく、交通関係を除けば一応まじめな社会生活を送っていたものであるし、本件2の犯行後、遅まきながら前記の自動車を処分し、以前よりも深い反省の態度を示している。被告人にとっては今回が初めての懲役刑であり、直ちに実刑に処することはやや酷であるとも考えられる。
そこで、今回に限り、被告人の刑の執行を猶予することとするが、前記の常習性の高さに鑑み、被告人に保護観察所の指導監督を受けさせることとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 豊田健 裁判官 長井秀典 裁判官 永渕健一)