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大阪高等裁判所 平成14年(く)194号 決定 2002年7月17日

主文

本件抗告を棄却する。

理由

1  本件抗告の趣意は、被告人作成の「異議申立書」と題する書面に記載されたとおりであるから、これを引用する。

本件被告事件については、原裁判所が、平成一四年六月二四日、第二回公判期日終了までの接見等禁止決定をしていたところ、被告人は、同年七月二日、上記接見等禁止決定のうち、内妻である甲山花子(以下「甲山」という。)との接見を禁止する部分についての取消しを求める接見禁止一部取消請求を申し立てた。ところが、甲山が、同月三日、同人が被告人と特定日時に接見することを求める接見禁止一部解除請求を申し立てたため、原裁判所は、この二個の申立てを合わせて検討した上で、同月三日、両申立てのうち、甲山が特定日時に被告人と接見する限度で認める旨の接見等禁止一部解除決定をし、同月四日この決定謄本が甲山のほか被告人とその弁護人に送達されたことが認められる。被告人の上記申立てと甲山の上記申立てとは、同じ接見等禁止決定の効力を一部否定することを求めるものとして量的な違いがあるにすぎないとみることができ、しかも後者は前者に全部含まれるから、原裁判所が、これを合わせて取り扱い、「接見等禁止一部解除決定」と表記して上記の決定をしたことに違法ないし不当な点はない(したがって、原裁判所が、自分がした上記申立てについて一切回答しなかったという被告人の主張は採用できない。)。

以上のとおり、原裁判所がした同月三日付け接見等禁止一部解除決定は、実質的にみて、被告人の接見禁止一部取消請求についてはその大部分を却下した意味合いを併有するものであり、したがって、本件「異議申立書」は、同決定に対する抗告申立てとして取り扱うのが相当である。なお、一般に、接見等禁止決定に対し、その一部解除を求める申立ては、裁判所の職権発動を促すにすぎないものと解されるから、これに対して職権を発動しないとの判断をした裁判所の措置そのものを裁判とみることはできず、それに対して抗告を申し立てることはできないが、本件においては、上記のとおり、ともかく原裁判所が却下決定をしたと認められるから、これに対する抗告そのものは適法というべきである。

2  被告人は、要するに、被告人の上記申立てのうち、甲山と特定日時に接見することを求める以上の部分を却下した原決定は不当であるから、その取消しを求める、というにあると解されるので、記録を調査して検討する。

本件公訴事実は、被告人が、六五歳の被害者に対し、同人が別の男性の所在について嘘をついていたとして因縁をつけて金員を喝取しようと企て、他二名と共謀の上、被害者を脅迫して二〇〇万円の現金を喝取しようとしたが、被害者が警察に被害申告したために未遂に終わったとの恐喝未遂の事案である。平成一四年六月二四日の第一回公判期日において、被告人は全く事実無根で身に覚えがないと陳述し、弁護人も無罪主張をし、検察官請求証拠のうち、被害者の供述調書などを不同意にしたほか、共犯者など関係者の供述調書等につき意見を留保した。同年八月五日に予定されている第二回公判期日においては、被害者の証人尋問が予定されている。

以上のような本件事案の性質、被告人の応訴態度及び審理の進捗状況に加えて、証拠から認められる被告人の前科関係や暴力団組長としての活動歴などに照らすと、被告人には関係者に働きかけるなどして罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由が存在し、このおそれは被告人を勾留の上、接見等を禁止しなければ防止することが困難な程度に高いことが認められる。したがって、本件に関する防御活動、被告人の病気、被告人の経済活動など被告人が挙げる諸点に関して内妻である甲山と接見をする必要性があることが認められるとしても、甲山との接見につき全面的に禁止を取り消すことは相当でなく、一部解除請求ごとに特定日時における接見の許否を決することが相当であるとした原決定の判断に誤りはない。被告人の本件抗告は理由がない。

よって、刑訴法四二六条一項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官・河上元康、裁判官・細井正弘、裁判官・水野智幸)

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