大阪高等裁判所 平成14年(ネ)1010号 判決 2002年11月21日
主文
1 原判決主文第3頃を次のとおり変更する。
(1) 控訴人株式会社新潮社、控訴人佐藤隆信及び控訴人山本伊吾は、被控訴人に対し、各自金220万円及びこれに対する平成11年8月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
2 控訴人株式会社新潮社、控訴人山本伊吾のその余の控訴を棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審を通じ、これを5分し、その2を控訴人らの、その余を被控訴人の各負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求める裁判
1 控訴の趣旨
(1) 原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。
(2) 同取消しにかかる被控訴人の請求をいずれも棄却する。
(3) 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。
2 控訴の趣旨に対する答弁
(1) 本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は控訴人らの負担とする。
第2 事案の概要
事策の概要は、次のとおり付加・補正するほか、原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」における控訴人らと被控訴人関係部分記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決5頁2行目「毒物混入事件」から同頁4行目末尾までを「毒物混入事件及び保険金詐欺事件等を理由として和歌山地方裁判所に殺人罪等の公訴事実により公訴を提起され、拘置支所に勾留されている者である(以下、逮捕・勾留の段階を含め「本件刑事事件」という。)。」に改める。
2 同頁26行目「乙15、」の次に「16、」を加える。
3 同7頁2行目の次に行を改めて、次のとおり加える。
「(3) 控訴人山本の不法行為責任の有無
(4) 控訴人会社の不法行為責任の有無」
4 同頁3行目「(3)」を「(5)」に改める。
5 同頁5行目「(4)」を「(6)」に改める。
6 同頁7行目「(5)」を「(7)」に改める。
7 同頁9行目「(6)」を「(8)」に改める。
8 同頁11行目「(7)」を「(9)」に改める。
9 同頁11行目の次に行を改めて、次のとおり加える。
「(10) 控訴人山本の不法行為責任の有無
(11) 控訴人会社の不法行為責任の有無」
10 同頁12行目「(8)」を「(12)」に改める。
11 同頁13行目「(9)」を「(13)」に改める。
12 同頁15行目「(10)」を「(14)」に改める。
13 同頁26行目「いうべき」の次に「であり、このことは、裁判官が退廷した後についても、被疑者・被告人が在廷する限り妥当する」を加える。
14 同8頁1行目「撮影し」の次に「、この写真を掲載した本件写真週刊誌を頒布し」を加える。
15 同頁8行目「なく、」の次に「その撮影方法も、訴訟関係人や裁判所職員に何ら迷惑をかけない配慮をしているから、肖像権の侵害にならない。」を加える。
16 同頁9行目「文面上違憲であるから、」を削る。
17 同頁10行目「違憲無効である。」の次に「また、同条の制度趣旨は、法廷の秩序維持にあるから、仮に同条によって被疑者・被告人の肖像権が守られることがあるとしても、それは裁判所の配慮による反射的利益にすぎない。そして、たとえ、本件が「公判廷」で撮影されたものとしても、刑事被疑者・被告人とされた被控訴人は、公権力である裁判官の逮捕状・勾留状によって身柄拘束を受け、公開の法廷に強制的に出廷させられている立場の者であって、自律的に決定できる自由を剥奪されているから、公共の場所である法廷における容貌や姿態は、もはや「私事」でも「私生活」でもなく、したがって、被控訴人は、知られたくない、見られたくないと主張する正当な資格を有しない。」を加える。
18 同頁15行目「ほどであった。」の次に「このような被控訴人の人的属性も、肖像権侵害の有無の判断において考慮されるべきである。」を加える。
19 同9頁3行目「<3>」から4行目末尾までを削る。
20 同頁6行目「である。」の次に「なお、手段の相当性は、肖像権侵害の不法行為の違法性阻却事由の要件ではない。」を加える。
21 同頁8行目「法廷内態度」を「公開の法廷における態度」に改める。
22 同頁10行目「さらに、」の次に「たとえ、<1>、<2>の要件のほか、<3>表現行為の方法及び公表された内容がその表現目的に照らして相当なものであること(必要性・相当性)が要件となるとしても、重大犯罪の被疑者・被告人として公開法廷に出廷した被控訴人のありのままの容貌・姿態を撮影した本件写真を掲載することは、犯罪報道としてふさわしいもので、社会的相当性が認められる。そして、」を加える。
23 同頁19行目「べきである。」の次に「なお、肖像権は、社会的評価の低下の問題ではないから、本件写真とともに掲載された記事が被控訴人の名誉を毀損するか否かは、掲載方法の相当性とは関係がないし、また、前記のとおり、刑事訴訟規則215条の規定の目的は法廷秩序維持にあり、肖像権の保護にあるのではない。」を加える。
24 同10頁10行目「原告を」の次に「一方的に犯人と決めつけ、」を加える。
25 同頁16行目の次に行を改め、次のとおり加える。
「(3) 争点(3)(控訴人山本の不法行為責任の有無)について
(被控訴人の主張)
控訴人山本は、本件写真週刊誌の編集長として、被控訴人の肖像権を侵害する意思で本件第一記事を掲載及び頒布したものであるから、被控訴人に対し、民法709条に基づく損害賠償責任を負う。
(控訴人らの主張)
控訴人山本が本件写真週刊誌の編集長であったことは認めるが、その余の事実は否認する。
(4) 争点(4)(控訴人会社の不法行為責任の有無)について
(被控訴人の主張)
ア 控訴人会社は、会社ぐるみで被控訴人の肖像権を侵害する意思で本件第一記事を掲載及び頒布したから、被控訴人に対し、民法709条に基づく損害賠償責任を負う。
イ 仮に上記主張が認められないとすれば、控訴人会社は控訴人山本の使用者であり、控訴人山本はその職務の執行につき上記のとおり不法行為を行ったから、被控訴人に対し、民法715条に基づく損害賠償責任を負う。
(控訴人らの主張)
ア 上記アの事実は、否認する。
イ 上記イの事実中、控訴人会社が控訴人山本の使用者であることは認めるが、その余の事実は否認する。」
26 同頁17行目各「(3)」をいずれも「(5)」に改める。
27 同12頁10行目各「(4)」をいずれも「(6)」に改める。
28 同13頁1行目各「(5)」をいずれも「(7)」に改める。
29 同頁13行目「表現方法であって、」の次に「容貌という情報をそのまま写し取ったものではないから、」を加える。
30 同頁19行目「失当である。」の次に「本件イラスト画は、当該法廷を傍聴していた画家が、法廷外において想像して描写したものであり、すなわち画家が想像して生み出した情報にすぎない。また、法廷外で製作したものであるから、刑事訴訟規則215条違反の問題は生ぜず、そして、公開の法廷に強制的に出廷させられた被控訴人には、個人の自律性はないから、その肖像権の侵害も生じないことは、第一事件と同様である。」を加える。
31 同頁20行目各「(6)」をいずれも「(8)」に改める。
32 同17頁11行目各「(7)」をいずれも「(9)」に改める。
33 同18頁6行目「本件第二記事は、」の次に「被控訴人が第一事件を提訴したことへの報復としてなされたもので、犯罪報道の目的はなく、」を加える。
34 同頁8行目の次に行を改め、次のとおり加える。
「(10) 争点(10)(控訴人山本の不法行為責任の有無)について
(被控訴人の主張)
控訴人山本は、本件写真週刊誌の編集長として、被控訴人の肖像権を侵害する意思で本件第二記事を掲載及び頒布したものでるから、被控訴人に対し、民法709条に基づく韻害賠償責任を負う。
(控訴人らの主張)
控訴人山本が本件写真週刊誌の編集長であったことは認めるが、その余の事実は否認する。
(11) 争点(11)(控訴人会社の不法行為責任の有無)について
(被控訴人の主張)
ア 控訴人会社は、会社ぐるみで被控訴人の肖像権を侵害する意思で本件第二記事を掲載及び頒布したから、被控訴人に対し、民法709条に基づく損害賠償責任を負う。
イ 仮に上記主張が認められないとすれば、控訴人会社は控訴人山本の使用者であり、控訴人山本はその職務の執行につき上記のとおり不法行為を行ったから、被控訴人に対し、民法715条に基づく損害賠償責任を負う。
(控訴人らの主張)
ア 上記アの事実は、否認する。
イ 上記イの事実中、控訴人会社が控訴人山本の使用者であることは認めるが、その余の事実は否認する。」
35 同頁9行目各「(8)」をいずれも「(12)」に改める。
36 同頁21行目「従業員等に対して」の次に「違法行為の」を加える。
37 同19頁21行目から22行目にかけて「構築していた。」を「構築しており、控訴人会社の組織体制は同業他社に比較して何ら劣るものではない。そして、当該メディアの法律問題については、担当取締役と編集長がもっとも通暁しており、雑誌出版業の編集内容について、そもそもマニュアル的監視は不可能であるから、控訴人会社の組織体制には不備はなかった。」を加える。
38 同21頁24行目「ところである。」の次に「本件第二記事は、控訴人らは適法と考えているものであって、これが違法と判断することは困難である。」を加える。
39 同22頁24行目の次に行を改めて、次のとおり加える。
「 上記ア記載のとおり、控訴人会社においては、合理的な不備のない組織体制を整えていたから、取締役に悪意・重過失はない。」
40 同24頁9行目各「(9)」をいずれも「(13)」に改める。
41 同26頁5行目各「(10)」をいずれも「(14)」に改める。
42 同頁6行目「(4)」を「(6)」に改める。
第3 当裁判所の判断
当裁判所の判断は、次のとおり付加・補正するほか、原判決「事実及び理由」中の「第3 争点に対する当裁判所の判断」の1ないし10記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決26頁21行目冒頭から同頁26行目末尾までを次のとおり改める。「 なお、写真を撮影した場所や時期等は、肖像権の侵害の成否に直接関係がなく、また、被撮影者が刑事訴訟法により逮捕あるいは勾留されて公開の法廷に出頭した場合においても、被撮影者は刑事裁判手続における必要から、刑事訴訟法規に定められた範囲で法的に身柄の拘束を受け、人権の制約を受けるのであるから、刑事手続において勾留されていることをもって、直ちに刑事裁判手続そのものと直接の関連がない民事法上の私的かつ個人的法益である肖像権を喪失しあるいは剥奪されたと解することはできない。したがって、本件写真の撮影時に勾留中の被控訴人が公開の法廷に出頭したとしても、そのために被控訴人の肖像権を否定することはできない。もっとも、被撮影者が刑事事件における被疑者又は被告人である場合は、刑事裁判の進行状況や模様は公共の利害に関するから、報道の自由との関係において、被疑者又は被告人であることが違法性阻却事由の要素として考慮されうるものである。また、刑事訴訟規則215条は、公判廷における写真の撮影は、裁判所の許可を得なければならないと定めているところ、その趣旨は適正な刑事裁判を実現することであるけれども、同規定は、公開の刑事法廷における被疑者及び被告人についても肖像権を保護する必要のあることを前提とし、これを考慮すべき要素の一つとして、法廷における写真撮影の許否を裁判官の裁量に委ねたものと解されるのであって、法廷における被疑者及び被告人の肖像権が同条によって創設され、あるいはその範囲を画されるものではないというべきである。それ故、写真の撮影が同規定に違反して行われたかどうかは、肖像権の存否ではなく、違法性阻却事由としての手段の相当性の判断における一要素であるというべきである。」
2 同27頁19行目「相当である。」の次に「そして、これらの各要件については、個別にその有無を判断するだけでなく、その程度を勘案して、違法性阻却の有無を総合的に判断すべきである。なお、控訴人らは、手段の相当性は違法性阻却事由の要件ではないと主張するけれども、肖像権を侵害した場合に、その違法性阻却事由があるかどうかを判断するにあたっては、肖像権侵害の態様であるその撮影方法も考慮する必要があるから、控訴人らの上記主張は採用することができない。」を加える。
3 同頁26行目「信頼関係があったことを」を「信頼関係があり、被控訴人が控訴人会社に対し一般的・包括的に取材・報道行為を容認していたとまで」に改める。
4 同29頁6行目「撮影場所」を「撮影時期・場所」に改める。
5 同頁9行目「ところで、」の次に「刑事事件で勾留されている被疑者・被告人について、法廷においても肖像権が認められることは、前記のとおりであり、」を加える。
6 同30頁19行目冒頭から24行目末尾までを削る。
7 同31頁7行目「弁解にすぎ、」を「弁解にすぎず、」に改める。
8 同頁12行目「本件第一記事には、」の次に「本件写真での被控訴人が手錠・腰縄をつけられた状態であることをことさらに指摘する記載があり、また、」を加える。
9 同頁18行目の次に行を改めて、次のとおり加える。
「3 争点(3)(控訴人山本の不法行為責任の有無)について」
10 同頁19行目「(3) 総論」を削る。
11 同頁22行目「認められる。」の次に「したがって、控訴人山本は、民法709条に基づき、被控訴人に対する損害賠償責任がある。」を加える。
12 同頁22行目の次に行を改め、次のとおり加える。
「4 争点(4)(控訴人会社の不法行為責任の有無)について
控訴人会社が、いわゆる会社ぐるみで被控訴人の肖像権を侵害する意思で本件第一記事を掲載及び頒布したと認めるに足りる証拠はない。
しかし、控訴人会社が控訴人山本の使用者であることは当事者間に争いがないところ、控訴人山本は上記のとおりその職務の執行につき不法行為を行ったから、控訴人会社は、控訴人山本の使用者として、被控訴人に対し、民法715条に基づく損害賠償責任を負う。」
13 同頁23行目「3」を「5」に、「(3)」を「(5)」にそれぞれ改める。
14 同32頁2行目「捉えたものである」を「捉えたものであり、このことは本件第一記事全体の趣旨から読者に容易に認識できるものである」に改める。
15 同頁15行目「そして、」の次に「前認定のような第一事件の内容及び控訴人らの第一事件に関する主張に照らすと、」を加える。
16 同33頁7行目から8行目にかけて「これらの事実を勘案しても、原告に前記程度の損害があるものと認めるのが相当であり、」を「肖像権は、前記のようにみだりに自己の容貌ないし姿態を撮影され、これを公表されない人格的利益であるから、たとえ被撮影者の社会的評価が相当程度低下していたとしても、これによって、その肖像権の侵害が生じないと解することはできず、また、肖像権の侵害が認められる限り、これによる精神的損害が生じるものといいうるから、」に改める。
17 同頁10行目「4」を「6」に、「(4)」を「(6)」にそれぞれ改める。
18 同頁15行目「5」を「7」に、「(5)」を「(7)」にそれぞれ改める。
19 同頁20行目「獲得する」を「描写する」に改める。
20 同34頁12行目「6」を「8」に、「(6)」を「(8)」にそれぞれ改める。
21 同頁21行目冒頭から同35頁3行目末尾までを次のとおり改める。
「記述<1>は、「従来も度外れな行動をしたことがある被控訴人が、今回再び度外れな行動をした。」という内容に捉えられ、証拠(第二事件甲1)によれば、上記記述の前後の文脈からすると、今回の度外れな行動とは、被控訴人が第一事件を提訴したことを指していると認められ、そして、文中の動詞として「しでかす」という悪い結果をもたらす場合に用いられる言葉が使用されているから、被控訴人の今回の行為は従来の行動と同様に否定的評価がなされべきである旨を示唆しており、そこで、これらの事実及び記述<1>の文言・用語を合わせると、記述<1>は、従来度外れな行動をしたことのある被控訴人が今回度外れというべき不当な第一事件を提訴したとの事実を摘示して、被控訴人の名誉を毀損するものというべきである。」
22 同35頁7行目「原告が」の次に「刑事被告人の立場にありながら」を加える。
23 同頁11行目から12行目にかけて「本件第二記事全体の論調からして、そのような意図を読みとることは困難であり、」を「第二事件甲1によれば、本件第二記事は全体として、被控訴人から第一事件を提訴された控訴人会社が被控訴人に対し何ら敬意を表していないと認められるのであって、」に改める。
24 同頁23行目「記述<4>」から同頁26行目「したものであり、」までを「第二事件甲1によれば、記述<4>の直前には、「そして、再び訴状によれば、本誌が記事で貴女を「怪物」と評したことで、貴女が計り知れない精神的苦痛を受けているとのこと。」との記載があることが認められる。そこで、これと記述<4>の文章を合わせると、記述<4>は、被控訴人が「怪物」と表現されたことにより「計り知れない精神的苦痛を受けた。」と主張することは妥当性がなく、したがって、第一事件においておよそ理由がない主張をしているという事実を反語的に摘示したものであるから、」に改める。
25 同36頁2行目「るる反論するが」から3行目「用いられており、」までを「縷々反論するが、「怪物」という言葉は本来否定的な意味を持つものであり、ただ、文脈によって反語的に肯定的に用いられることもあるにとどまるところ、本件記事についてはそのような事情を認めることはできず、」に改める。
26 同頁9行目冒頭から同頁14行目末尾までを次のとおり改める。
「第二事件甲1によれば、本件第二記事において、記述<5>に続き、「選択肢は無限です。」として「刑事裁判の弁護費用」「生保会社への返還金」「大阪国税局へ滞納金を納める」「消費者金融へ返済」「カレー事件の被害者への賠償金」などと記載されていることが認められ、このような記載は、被控訴人の悪性ないし社会的不適応を示唆しようとするものといいうるのであって、この事実に記述<1><2><4>に関する上記認定の事実と合わせると、記述<5>は、被控訴人が第一事件を提訴したことを揶揄ないし侮辱する内容であるというべきである。」
27 同頁18行目「7」を「9」に、「(7)」を「(9)」にそれぞれ改める。
28 同37頁12行目「ということができる。」を「ということができ、また、第一事件が肖像権と報道の自由との関係を争点とするものであることに鑑みると、その提訴や進行状況、同事件における当事者の主張なども同様に公共の利害に関する事実ということができる。」に改める。
29 同頁21行目「あるが、」の次に「第二事件甲1によれば、」を加える。
30 同貢24行目「ところであって、」の次に「このような文言は、真面目かつ真摯に問題を提起する表現方法と解することはできず、」を加える。
31 同38頁10行目「市民」を「人」に改める。
32 同39頁22行目の次に行を改め、次のとおり加える。
「10 争点(10)(控訴人山本の不法行為責任の有無)について
以上によれば、本件第二記事は、被控訴人の肖像権を侵害するとともに被控訴人を侮辱し、また、その名誉を毀損するものであり、控訴人山本は、本件写真週刊誌の編集長として、このような本件第二記事を掲載したのであるから、民法709条に基づき、被控訴人に対し損害賠償責任を負うというべきである。
11 争点(11)(控訴人会社の不法行為責任の有無)について
控訴人会社が、いわゆる会社ぐるみで本件第二記事により被控訴人の肖像権を侵害し、被控訴人を侮辱し、その名誉を毀損する故意があったものと認めるに足りる証拠はない。
しかし、控訴人会社が控訴人山本の使用者であることは当事者間に争いがないところ、控訴人山本は上記のとおりその職務の執行につき不法行為を行ったから、控訴人会社は、控訴人山本の使用者として、被控訴人に対し、民法715条に基づく損害賠償責任を負う。」
33 同頁23行目「8」を「12」に、「(8)」を「(12)」にそれぞれ改める。
34 同貢26行目「その業務」から同40頁1行目「活動によって」までを「会社に対し、会社がその業務を行うに際して第三者の権利を侵害し」に改める。
35 同40頁11行目から12行目にかけて「不法行為が認められた事例」を「不法行為責任が認められた裁判例」に改める。
36 同41頁3行目冒頭から同43頁24行目末尾までを次のとおり改める。
「ア 証拠(乙24、25、第二事件乙12、原審における控訴人山本伊吾)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人会社は相当の規模の株式会社であり、平成11年当時、代表取締役は業務全般につき執行権限を有するが、各取締役は担当業務を分担し、専務取締役は、総務・人事を、他の取締役は、出版部・文庫・営業、労務.・広告、校閲部、経理等を各分担し、これら業務のほかに控訴人会社が発行する各雑誌をも分担しており、本件写真週刊誌は、後藤章夫取締役の担当であったこと、しかし、雑誌担当の役員は、雑誌経営に関するすべての権限を保有するというよりは、各雑誌媒体と取締役会との橋渡し役であり、控訴人会社は、個々の媒体の編集権を編集長や各部の部長に付与し、取締役会は、各媒体の個別の編集内容に介入しない体制であったこと、本件写真週刊誌の編集部では、編集長以下、デスク、中堅記者、新人記者、カメラマンという取材現場の経験に応じた上下関係が構築されており、その中で先輩から後輩へと取材上のノウハウや注意事項が伝えられていたこと、控訴人山本は、本件写真週刊誌の取材として行われた入院中の人物の撮影を違法とする判決が確定後、編集部員に同様の取材をしないように指示していたこと、後藤取締役は、長年にわたり控訴人会社の発行する「週刊新潮」の編集業務に携わり、本件写真週刊誌の初代編集長であり、そこで、控訴人山本は、同取締役に掲載記事の内容等について適宜相談をしていたことが認められる。
イ 控訴人佐藤の責任の有無について
株式会社の代表取締役は、一般にその業務全般につき執行権限を有するものであるが、大規模な株式会社において、会社の内部で業務が組織化され、各取締役が業務を分担する制度が確立されている場合においては、各取締役の業務の執行につき違法あるいは不当であるとの疑念を抱くべき理由がない限り、代表取締役が各担当取締役にその業務執行を委ね、そのため業務執行に違法あるいは不当な結果が生じたとしても、直ちに代表取締役にその業務執行につき懈怠があったものということはできない。
そして、控訴人会社が相当の規模の株式会社であり、会社内部の業務が組織化され、各取締役がその業務を分担していたことは、上記のとおりであるから、その代表取締役の業務執行に関する責任については、原則として上記と同様に解することができる。
ところで、控訴人会社は、書籍及び雑誌の出版等を目的とする株式会社であるところ、前記のように特に本件写真週刊誌の取材・報道行為に関し少なからざる違法行為がなされてきたもの、すなわち、控訴人会社の本来の目的の遂行そのものに関して違法行為が繰り返されてきたものである。したがって、控訴人会社としては、社内的にこのような違法行為を繰り返さないような管理体制を取る必要があったものといわなければならない。そこで、このような管理体制について検討すると、上記のように、控訴人会社においては、取締役会は編集に関与せず、本件写真週刊誌に関しては、その創設時に編集長であった後藤取締役が担当し、本件当時の編集長である控訴人山本は、同取締役に掲載記事の内容等について適宜相談をしていたものである。しかし、乙25によれば、後藤取締役は控訴人会社において長年にわたり本件写真週刊誌等の編集に携わり、取材方法等の実務的経験は備えていたと認められるけれども、同取締役が本件写真週刊誌による肖像権の侵害や名誉毀損を予防しあるいはこれを避けるために必要な法的知識を有し、法的に的確な判断をする能力を備え、控訴人山本に的確な指導あるいは助言をすることができたこと、及び控訴人山本がこのような法的知識や判断力を備えていたことを認めるに足りる証拠はない。そこで、上記のように本件写真週刊誌の取材・報道行為に関し違法行為が繰り返されていることからすると、従来から本件当時までの本件写真週刊誌に関する管理体制は不十分であったといわざるをえない。そして、乙39によれば、控訴人佐藤は控訴人会社の代表取締役として、本件写真週刊誌の取材・報道行為に関し、控訴人会社を被告として提起された訴訟をすべて知っていたと認められるので、報道により肖像権を侵害しあるいは名誉を毀損した場合における被害者の被害は深刻であることも考慮すると、控訴人佐藤としては、控訴人会社の代表取締役として、本件に至るまでに、肖像権の侵害等を防止するために従来の組織体制につき疑問を持ってこれを再検討し、肖像権の侵害や名誉毀損となる基準を明確に把握して、本件写真週刊誌の取材や報道行為に関し違法行為が発生しそのため当該相手方等に被害を生ずることを防止する管理体制を整えるべき義務があったというべきである。しかし、乙39によれば、控訴人佐藤は、本件写真週刊誌の編集に関しては、後藤取締役に一任しており、このような管理体制を整えなかったことが認められるから、控訴人佐藤には、本件第二記事による不法行為に関し、その職務の執行につき重過失があったものといわざるをえない。
ウ 控訴人らは、控訴人会社においては、表現の自由を擁護するために「編集権の独立」の制度を取っていると主張し、乙17、25、39、第二事件乙12には、控訴人らの主張に沿う記載があるけれども、仮に社内的に「編集権の独立」の制度を取ったとしても、その結果、控訴人会社が他人の肖像権等を侵害することが法的に許されないことは明らかであり、また、たとえ社内的に「編集権の独立」の制度を取っても、そのために他人の肖像権等を侵害することを防止できないとはいえないから、上記主張は、採用することができない。なお、上記のとおり、控訴人佐藤の重過失は、社内的に本件写真週刊誌の取材や報道行為に関し違法行為の発生を防止する管理体制を整えなかった点にあり、本件写真週刊誌に登載する記事をすべて事前に取締役会で検討することを必要とする趣旨ではない。」
37 同43頁25行目「9」を「13」に、「(9)」を「(13)」にそれぞれ改める。
38 同44頁4行目冒頭から同頁16行目末尾までを次のとおり改める。
「そして、本件第二記事は、本件イラスト画によって被控訴人の容貌を描写し、被控訴人の第一事件は基本的に理由があったにもかかわらず、被控訴人が第一事件を提訴したことを揶揄し、被控訴人を侮辱するとともにその名誉を毀損するものであり、弁論の全趣旨によって本件第二記事を掲載した本件写真週刊誌の発行部数は30万部前後であったと認められること等からすると、被控訴人は、本件第二記事により相当の精神的苦痛を被ったものと推認される。
そこで、以上の事実、その他諸般の事情を斟酌すると、被控訴人の精神的苦痛を慰謝するには200万円が相当である。また、第二事件の内容、争点等に照らすと、被控訴人は、第二事件の訴訟追行を弁護士に委任する必要があったと認められ、事案の内容、審理の経過等に照らすと、弁護士費用としては、20万円が相当である。」
39 同頁18行目「440万円」を「220万円」に改める。
40 同頁23行目「10」を「14」に、「(10)」を「(14)」にそれぞれ改める。
第4 結論
よって、被控訴人の控訴人らに対する本件各請求は、原審第一事件については、控訴人会社及び控訴人山本に対し各自金220万円及びこれに対する平成11年5月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払、原審第二事件については、控訴人会社、控訴人佐藤及び控訴人山本に対し各自金220万円及びこれに対する平成11年8月18日から支払済みまで同じく年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないから、原審第二事件についての原判決主文第3項を本判決主文第1項のとおり変更し、原審第一事件についての控訴人会社及び控訴人山本の控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法67条、61条、64条、65条を適用して、主文のとおり判決する。