大阪高等裁判所 平成14年(ネ)1151号 判決 2003年2月05日
主文
1 原判決中、第1審被告敗訴部分を取り消す。
第1審原告らの請求をいずれも棄却する。
2 第1審原告らの控訴を棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審を通じて第1審原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 申立て
1 第1審原告ら
(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 第1審原告共栄実業株式会社(以下「第1審原告共栄実業」という。)が第1審被告から賃借している別紙物件目録1記載の土地(以下「本件1土地」という。)の賃料が、平成13年4月14日以降1か月45万8000円(以下、賃料の記載をするときは、月額賃料を表す。)であることを確認する。
(3) 第1審原告共栄実業が第1審被告から賃借している別紙物件目録2記載の土地(以下「本件2土地」という。)の賃料が、平成13年4月14日以降84万9000円であることを確認する。
(4) 第1審原告X1が第1審被告から賃借している別紙物件目録3記載の土地(以下「本件3土地」といい、本件1土地、本件2土地と併せて「本件各土地」という。)の賃料が、平成13年4月14日以降32万5000円であることを確認する。
(5) 訴訟費用は、第1、2審とも第1審被告の負担とする。
(第1審原告らは、(2)ないし(4)について、当審において請求を減縮した。)
2 第1審被告
主文同旨の判決
第2 事案の概要
本件は、第1審原告らが、第1審被告より、建物所有を目的として賃借している本件各土地の賃料について、3年ごとに消費者物価指数に連動させて改定するが、消費者物価指数がマイナスのときは従前賃料のままとするとの約定が、借地法(大正10年法律第49号、以下「旧借地法」という。)12条1項(借地借家法11条1項とほぼ同旨)の趣旨に照らして無効であるとして、第1審原告らがその主張の適正賃料額への減額請求を行い、賃料減額確認を求めた事案である。
1 前提事実(争いのない事実及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 第1審原告共栄実業は、貸ビル業等を営む会社であるが、昭和59年12月1日以降、不動産賃貸業等を営む第1審被告より本件1土地を賃借している。契約面積とその変更、賃料とその変更の経緯は、概ね原判決別紙「物件目録一の土地の賃料の推移」記載のとおりである。
(2) 第1審原告共栄実業は、昭和63年4月22日以降、第1審被告より本件2土地を賃借している。契約面積とその変更、賃料とその変更の経緯は、概ね原判決別紙「物件目録二の土地の賃料の推移」記載のとおりである。
(3) 第1審原告共栄実業の代表者である第1審原告X1は、昭和62年11月4日以降、第1審被告より本件3土地を賃借している。契約面積とその変更、賃料とその変更の経緯は、概ね原判決別紙「物件目録三の土地の賃料の推移」記載のとおりである。
(4) 本件各土地の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」ともいう。)においては、3年ごとに賃料の改定を行うとの条項があり、その改定額について、以下のような特約がある(以下、これらを併せて「本件特約」という。)。
<1> 本件1土地の賃貸借契約においては、従前賃料から、従前改定年度の公租公課(同土地に対する固定資産税及び都市計画税の月額。以下同じ)を控除した額に、従前改定年度から改定年度までの消費者物価指数(総務庁統計局編集の「消費者物価指数編」第1表・中分類指数(全国)の総合欄の指数による。以下同じ)の変動率を乗じ、これに改定年度の公租公課を加える。具体的には原判決別紙1のとおりである。
<2> 本件2、3土地の賃貸借契約においては、従前賃料に、従前改定年度から改定年度までの消費者物価指数の変動率を乗じ、これにその間の公租公課の上昇ないし下降分を増額ないし減額する。具体的には原判決別紙2のとおりである。
なお、本件特約のただし書中には、消費者物価指数の上昇率が0を超えなかった場合は0とみなされ、指数変動に従った賃料の減額はなされない旨の規定がある。
(5) 本件各土地の賃料の推移は、上記(1)ないし(3)記載のとおりであり、昭和63年4月1日には本件1土地につき、平成3年4月1日及び平成6年4月1日には本件各土地につき、それぞれ本件特約に従った改定がなされたが、平成9年4月1日には、第1審被告から本件特約による賃料増額請求があったものの、第1審原告らはこれに応じなかった。また、平成12年4月1日には、賃料の改定はなされなかった。
(6) 第1審原告らは、本訴状で、本件各土地の賃料について、本訴状送達の日の翌日以降、本件1土地につき44万2000円、本件2土地につき82万1000円、本件3土地につき31万6000円に各減額する旨の意思表示をしたが、同訴状は平成13年4月13日に第1審被告に送達された。
2 争点
(1) 本件特約の有効性について
(第1審原告らの主張)
<1> 本件特約ただし書によれば、3年間で消費者物価指数に変化がないか、下落した場合には、従前の賃料によることになる。このような場合には、賃料減額請求権が発生することが多いが、本件特約によれば減額ができないこととなるのであって、これは賃料不減額の特約であり、旧借地法12条に照らして無効である。
<2> 旧借地法12条1項は、賃料増減額請求について、(ア)公租公課の増減、(イ)土地価格の昂低、(ウ)近隣土地の地代・借賃との比較をあげ、これらを総合的に判定し、公平の原則に従って決すべきことを定めている。
しかし、本件特約は、(ア)の要素は加味されているものの、(イ)の要素は全く考慮されず、(ウ)の要素もほとんど考慮されていない。
本件特約によれば、貸主は土地の価格が低下したり、近隣の賃料が下落しても、一定の収入は必ず確保でき、しかも貨幣価値の変動にかかわらず実質的な手取りに変動はなく、また、公租公課が増額されてもこれを直接に借主に転嫁できるのであって、本件特約は貸主にとってまことに都合のよい定めである。
<3> 本件各土地の平成13年2月時点の価格は、平成6年4月時点のそれと比較すると、約4分の1に下落している。バブル経済が崩壊し、著しく地価が下落した平成6年時点と比較しても上記のとおりであるから、本件賃貸借契約が締結された時点と比較すると、さらにその差は大きくなる。にもかかわらず、本件特約によれば、第1審被告はバブル最盛期ころの賃料を引き続き取得することができ、著しく不合理な結果となる。
<4> 以上のとおり、本件特約は旧借地法12条の趣旨に反し無効である。
<5> 仮に旧借地法12条の解釈上、本件特約を有効と解したとしても、上記<3>のように本件各土地の価格が著しく下落するなど、本件賃貸借契約締結当時予測し得なかった事態が生じているのであるから、事情変更の原則により本件特約の適用を排除すべきである。
(第1審被告の主張)
<1> 本件特約によると、本件各土地の賃料は、消費者物価指数の上昇率に連動して改定されるため、いわゆるバブル最盛期のころは、土地価格の著しい上昇にもかかわらず、賃料の増額は大幅に抑えられ、第1審原告らは多大の利益を享受したはずである。第1審原告らは、不動産賃貸業を営む者であり、その経験からも、本件特約を賃貸借契約に入れた方が有利であると判断して、本件特約に同意したものと考えられる。にもかかわらず、バブル経済の崩壊に伴い、土地価格が低下し、本件特約が不利益となると、同特約の無効を主張するということは、当事者間の公平及び信頼関係を著しく損なうものである。
<2> 本件各土地の賃料は、本件特約によれば、本件1土地については、従前賃料が54万5790円のところ、平成9年4月1日は56万7672円、平成12年4月1日は54万8804円となり、本件2土地については、従前賃料が144万7441円のところ、平成9年4月1日は148万2215円、平成12年4月1日は145万0239円となり、本件3土地については、従前賃料が54万2682円のところ、平成9年4月1日は55万5238円、平成12年4月1日は54万9151円となる。しかし、第1審被告は、長引く不況の影響等を考慮し、上記各時点で賃料を据え置くことを認めて、平成13年4月まで7年間賃料は据え置かれている。このように第1審被告は、本件特約を自動的に適用して一方的に賃料を増額せず、賃料改定時期の都度誠意を持って対応してきた。
<3> 本件各土地から、固定資産税・都市計画税の負担分を控除した純賃料は平成6年以降減少しているし、平成6年以前も増加しているものの、その増加率はわずかである。
<4> 第1審原告らは、本件特約のただし書部分が、不減額特約であることを理由として、本件特約そのものが不合理で、無効である旨主張する。
しかし、本件で問題となっている賃料改定時において、本件特約のただし書部分は適用される状況にはなかったのであるから、そもそも本件においてただし書部分を主張して本件特約そのものの効力を論じることは不適切である。
また、本件特約のただし書部分には、第1審原告ら指摘部分のほかに、消費者物価指数の上昇率が0.3を超える場合には、超えた部分について協議をする旨の規定もあり、同ただし書部分は本件特約により算出された賃料が従前賃料と比べて、一定程度乖離が生じた場合はその増額を制限する規定となっている。したがって、本件特約のただし書部分は第1審被告に一方的に有利な条項ではなく、賃料改定の幅につき上限と下限を設ける方法で両当事者の利益を調整したものというべきである。
<5> 第1審原告ら提出の不動産鑑定士N作成の不動産鑑定評価書(甲4ないし7。以下「N鑑定」という。)による継続適正賃料の算定が正当であるとしても、N鑑定に基づく本件各土地の継続適正賃料と本件特約に基づく現行賃料との乖離は、本件1土地につき16パーセント、本件2土地につき41パーセント、本件3土地につき40パーセントにすぎず、上記<1><2>の事情を考慮すると、このような場合に事情変更の原則を適用して本件特約の効力を否定することは、私的自治あるいは契約社会の根本秩序を覆すものであって、許されない。
(2) 本件特約が効力を有しない場合における本件各土地の継続適正賃料額
(第1審原告らの主張)
N鑑定によれば、本件各土地の平成13年2月1日時点の継続適正賃料は、本件1土地につき44万2000円、本件2土地につき82万1000円、本件3土地につき31万6000円であり、これらの各金額が継続適正賃料額というべきである。
(第1審被告の主張)
第1審原告らの主張は争う。
N鑑定には、利回り法による試算賃料を考慮に入れて鑑定をした点や本件特約の存在を考慮しなかった点などの問題があり、同鑑定の結論は採り得ない。
第3 判断
1 認定事実
前提事実と証拠(甲1ないし3の各1ないし3、4ないし7、乙1ないし10、15、16)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。
(1) 本件1、2土地は、地下鉄御堂筋線中津駅の東方約250メートル付近に位置する一団の土地であり、付近は中高層の事務所ビルが建ち並ぶ業務商業地域を形成しており、敷地の高度利用等の商環境は良好である。
本件1土地は、北側で幅員約8メートルの大阪市道に面するL字形状の不整形地であり、現在鉄骨鉄筋コンクリート造、7階建の事務所ビル(通称エイトビル)の敷地として利用されている。
第1審原告共栄実業は、昭和59年末から昭和60年初頭にかけて、前借地人から、順次、本件1土地の借地権を買い取り、第1審被告との間で、3回にわたり、賃貸借契約を締結した。
本件2土地は、南側で幅員約8メートルの大阪市道に面するL字形状の不整形地であり、現在鉄骨造陸屋根10階建の事務所ビル(通称TOビル)の敷地等として利用されている。
第1審原告共栄実業は、昭和63年に前借地人から、順次、本件2土地の借地権を買い取り、第1審被告との間で、3回にわたり、賃貸借契約を締結した。
(2) 本件3土地は、地下鉄御堂筋線中津駅の東方約250メートル付近に位置し、付近は本件1、2土地と同様に中高層の事務所ビルが建ち並ぶ業務商業地域を形成しており、敷地の高度利用等の商環境は良好である。
本件3土地は、南側で幅員約8メートルの大阪市道に面する間口約6.5メートル、奥行約22メートルのほぼ整形地で、現在鉄骨造陸屋根7階建の事務所ビル(通称TKビル)の敷地等として利用されている。
第1審原告X1は、昭和62年11月から同63年4月にかけて前借地人から、順次、借地権を買い取り、第1審被告との間で、3回にわたり、賃貸借契約を締結した。
(3) 本件各土地の価格は、バブル経済の崩壊に伴い、急激に下落した。
本件各土地の平成6年4月時点と平成13年2月時点の価格について、次のような評価がなされている。
<1> 本件1土地について
平成6年4月時点 5億9670万円
平成13年2月時点 1億5100万円
<2> 本件2土地について
平成6年4月時点 8億0260万円
平成13年2月時点 2億0310万円
<3> 本件3土地について
平成6年4月時点 3億2000万円
平成13年2月時点 8100万円
(4) 本件特約により計算した場合の本件各土地の平成9年4月時点及び平成12年4月時点の賃料は次のとおりであるが、上記各時点には、賃料の改定がなされなかった。
<1> 本件1土地について
平成9年4月時点 56万7672円
平成12年4月時点 54万8804円
<2> 本件2土地について
平成9年4月時点 148万2215円
平成12年4月時点 145万0239円
<3> 本件3土地について
平成9年4月時点 55万5238円
平成12年4月時点 54万9151円
2 争点(1)について
(1) 上記認定のとおり、本件各土地の賃貸借契約には、賃料の決定方法として本件特約があり、第1審原告らと第1審被告は、本件特約に則り、本件各土地の賃料を決定することを合意し、現に昭和63年、平成3年、平成6年の各賃料改定時には、本件特約により計算された賃料額に改定されたのであって、第1審原告らと第1審被告は、本件特約を規範として承認して賃貸借契約を継続してきたものと推認することができる。
(2) 第1審原告らは、本件特約は旧借地法12条で定める賃料増減額請求権の発生要素のうち、公租公課の増減しか考慮しておらず、同条の趣旨に反して無効であると主張する。
しかし、旧借地法12条の規定は、賃料を増減額する場合の判断要素を例示したものであって、これらの要素をすべて考慮することを定めたものではないから、第1審原告らの上記主張は直ちに採用し難い。そして、一般に本件特約のような賃料改定特約は、賃料の改定の際に、改定の可否及び改定額をめぐって、当事者間に生じがちな紛争を事前に回避するために、当事者の合意により予め賃料改定の時期を定めるとともに、改定額の決定基準を一定の指数によって行うとするものであるところ、当該決定基準が、客観的な数値によるものであって、賃料に比較的影響を与えやすい要素を基準とするものであるときには、契約自由の原則に則り、その効力を肯定すべきである。
本件特約は、上記認定のとおり、3年ごとに消費者物価指数という公表された客観的な数値に基づき、改定賃料を定めることとしたものであり、消費者物価指数の上昇・低下という、賃料に比較的影響を与えやすい要素を基準にするものであることから、旧借地法の趣旨に沿うものといえ、その効力を否定することは相当でない。
したがって、第1審原告らの上記主張は採り得ない。
(3) 第1審原告らは、本件特約のただし書部分は、賃料不減額の特約であるから、旧借地法に照らして無効である旨主張する。
確かに、第1審原告らが主張するとおり、本件特約のただし書部分は、消費者物価指数が下落したときに賃料減額を認めないとするもので、賃料不減額の特約と解され、旧借地法の趣旨に照らしてその効力を否定する余地のあるものではある。しかし、本件賃貸借契約において、同ただし書部分の規定は未だ一度も適用がなかったこと(弁論の全趣旨)、本件特約本文の効力を判断するに当たり、ただし書部分の規定の効力を判断する必要はないと考えられることなどによれば、同ただし書部分の規定から、本件特約全体の効力を否定する第1審原告らの主張は失当といわざるを得ない。
(4) 以上のとおり、本件特約は、契約自由の原則に則り、その効力を有するものというべきであるから、本件特約に基づかない第1審原告らの賃料減額の意思表示については、その効力を認めることは困難である。
もっとも、消費者物価指数は、賃料決定の重要な要素である土地価格や近隣の賃料の推移と連動するものではない上、同指数は全国的なもので、地域の要素を加味しているわけではないから、本件特約をそのまま適用した場合には、契約締結時に当事者が予測し得なかった事情の変更が生じて同特約をそのまま適用することが当事者の意思に著しく反する不合理な結果となることが考えられる。特に、上記認定のとおり、本件賃貸借契約が締結されたのはいずれも昭和59年以降のバブル経済の時期であるところ、バブル経済の崩壊により、本件各土地の地価の下落は著しく、現に、本件各土地の平成13年2月の地価は、同6年4月の地価の約4分の1となっているものである。ところが、消費者物価指数は、バブル経済崩壊後も少なくとも平成11年度までは下落していないのであって、これらの事情に鑑みれば、本件特約をそのまま適用することが相当でない場合が生じ得ることも否定し難い。このような本件特約締結当時とは、著しい事情の変更が生じ、それによって、本件特約をそのまま適用することが著しく不合理な結果を招来するような場合には、事情変更の原則を適用することにより、本件特約の適用を制限すべきであるというべきであるが、その判断をするに当たっては、継続適正賃料との乖離の程度等諸般の事情を総合考慮すべきである。
(5) そこで、本件において、事情変更の原則により本件特約の適用を制限すべきかどうかにつき判断する。
<1> 継続適正賃料との乖離状況について
N鑑定(甲4ないし7)によると、平成13年2月時点での本件各土地の継続適正賃料は、本件1土地につき1か月45万8000円、本件2土地につき1か月84万9000円、本件3土地につき1か月32万5000円であるとされている。
N鑑定が上記結論に至った経緯は、次のとおりである。
(ア) 本件各土地の価格
本件1土地 1億5100万円
本件2土地 2億0310万円
本件3土地 8100万円
(イ) 基礎価格(借地権割合を65パーセントとして算定)
本件1土地 5290万円
本件2土地 7110万円
本件3土地 2840万円
(ウ) 差額配分法に基づく賃料(配分率2分の1、期待利回り8パーセントとして算定)
本件1土地 45万0594円
本件2土地 84万4765円
本件3土地 32万4674円
(エ) スライド法に基づく賃料
本件1土地 57万8537円
本件2土地 153万4287円
本件3土地 57万2243円
(オ) 利回り法に基づく賃料
本件1土地 14万3797円
本件2土地 19万4688円
本件3土地 7万5898円
(カ) 上記(ウ)ないし(オ)で得られた各賃料について、本件1土地について6:3:1の割合で、本件2、3土地について各8:1:1の割合でウエイト付けをして継続適正賃料を決定する、というものである。
ところが、上記N鑑定のうち、(ア)ないし(エ)の部分は、その手法、内容について特段不合理な点は認められず、正当である。しかし、(オ)の部分は、次のとおり問題がある。利回り法は、基礎価格に継続賃料利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法である(乙17)ところ、N鑑定では、同利回り率を3.2パーセントないし7.2パーセントとして算定しているが、結果として同法に基づく試算賃料は、従前賃料の約13パーセント(本件2土地)ないし約26パーセント(本件1土地)と極端に低い金額となる。これは平成6年4月時点に比べて土地価格が大きく下落したことによるもので、このような地価の変動が激しい時期に「継続賃料」を算定するにあたり、N鑑定のような利回り法は規範性に乏しいものといわざるを得ない。
したがって、N鑑定のうち、差額配分法に基づく賃料及びスライド法に基づく賃料を基に、本件1土地については、スライド法による試算賃料を5割、本件2、3土地については同試算賃料を4割の割合で考慮して、本件各土地の継続適正賃料を試算すると、本件1土地につき51万4565円、本件2土地につき112万0573円、本件3土地につき42万3701円(いずれも円未満切捨)となる。一方、上記認定のとおり本件1土地の従前賃料は54万5790円、本件2土地の従前賃料は144万7441円、本件3土地の従前賃料は54万2682円であるから、上記継続適正賃料と従前賃料との乖離は、本件1土地につき0.94(51万4565円÷54万5790円)、本件2土地につき0.77(112万0573円÷144万7441円)、本件3土地につき0.78(42万3701円÷54万2682円)となる。
次に、不動産鑑定士Kほか1名作成の不動産鑑定評価書(乙15、16。以下「K鑑定」という。)では、本件各土地の平成13年4月1日時点の継続適正賃料を次のとおり算定している。
(ア) 本件各土地の価格
本件1土地 1億6286万4700円
本件2土地 2億1892万2218円
本件3土地 8554万1400円
(イ) 基礎価格
本件1土地 5700万2645円
本件2土地 7662万2777円
本件3土地 2993万9490円
(ウ) 差額配分法に基づく賃料
本件1土地 48万3081円
本件2土地 88万7676円
本件3土地 33万9673円
(エ) スライド法に基づく賃料
本件1土地 57万6900円
本件2土地 152万9946円
本件3土地 57万3615円
(オ) 利回り法に基づく賃料
本件1土地 37万6670円
本件2土地 91万2014円
本件3土地 34万7237円
(カ) 上記(ウ)ないし(オ)で得られた各賃料について、6:3:1の割合でウエイト付けをして継続適正賃料を、本件1土地につき50万1000円、本件2土地につき108万3500円、本件3土地につき41万1000円と決定する、というものである。
K鑑定の算定方法は、相当であって、特段問題とすべき点は見当たらない。そこで、K鑑定を基に従前賃料との乖離を試算すると、本件1土地につき0.92(50万1000円÷54万5790円)、本件2土地につき0.75(108万3500円÷144万7441円)、本件3土地につき0.76(41万1000円÷54万2682円)となる。
<2> 上記認定のとおり乖離の幅が最大でも0.75にすぎないことに加え、第1審原告らと第1審被告は、いずれも不動産業者であって、本件各土地の賃貸借契約締結にあたり、本件特約の存在を十分に認識した上で、契約締結に至ったものと考えられること、第1審被告は、平成9年4月及び同12年4月の賃料改定期には、本件特約に基づく賃料の改定を行わず、その結果、本件各土地の賃料は平成6年4月以降7年以上も据え置かれていること、その他上記認定の本件に現れた一切の事情を総合考慮すると、本件では、未だ事情変更の原則により、本件特約の適用を排除すべき事態には至っていないと認めるのが相当である。
したがって、事情変更の原則により本件特約の適用を排除すべきであるとの第1審原告らの主張も採り得ない。
3 結論
以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、第1審原告らの賃料減額請求は、理由がない。
よって、第1審被告の控訴に基づき、原判決中、第1審被告の敗訴部分を取り消し、第1審原告らの請求及び控訴をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中田昭孝 裁判官 竹中邦夫 稻葉重子)
(別紙)物件目録<略>
公図<略>