大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成14年(ネ)1645号 判決 2002年9月19日

控訴人

穂里開発株式会社

代表者代表取締役

大川展功

訴訟代理人弁護士

高野裕士

被控訴人

A野太郎

訴訟代理人弁護士

井原紀昭

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

主文同旨

二  被控訴人

(1)  本件控訴を棄却する。

(2)  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二事案の概要

本件事案の概要は、原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」(原判決一頁二二行目から八頁六行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所は、被控訴人の請求は理由がないからこれを棄却すべきものと判断する。その理由は、原判決の「事実及び理由」の「第三 裁判所の判断」の「一」及び「二」の「(1)」ないし「(3)」(原判決八頁八行目から一二頁九行目まで)を引用するほか、次の二のとおりである。

二  争点(4)、(5)について

(1)  前記認定事実と《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

ア 被控訴人(当時七六歳)は、生業もなく、大阪市西成区のアパートで独り暮らしをして、生活保護を受給していた。被控訴人が、本件ゴルフクラブに入会する動機・目的はなく、本件会員権を購入したのは、専ら、ゴルフ会員権を安く買い取って預託金額面の返還を請求し、差額をサヤ取りしてはどうかと持ち掛けられたことによる。

被控訴人は、もとよりゴルフ会員権業者ではなく、自らゴルフ会員権の売買を手がけてきた実績もない。

イ 被控訴人には、当時、ゴルフ会員権を買い取るような資金を自前で調達する資力はまったくなかった。被控訴人は、本件会員権の代金一七〇〇万円を株式会社E田(以下「E田」という。)から借り入れたとされるが、弁済期の定めはなく、本件会員権の預託金が戻ってきたら一括でも分割でも、随時自由に返済すればよいことになっていた。

ウ 被控訴人は、扇町ゴルフセンターから代金一七〇〇万円で本件会員権を譲り受けたとするが、扇町ゴルフセンターなるゴルフ会員権業者は実在しない。また、扇町ゴルフセンターのD原なる人物の素性も判然とせず、訴外会社に対し、どうしても会員になりたい人がいるなどと偽って代金一二〇〇万円で本件会員権を譲り受けている。そのため、訴外会社としては、その後、本件預託金返還請求権の譲渡の撤回を希望し、錯誤・無効を主張している。

エ 被控訴人は、平成一三年二月二日、本件会員権を取得すると、控訴人に預託金の返還を申し出ることもなく、同月一三日には、本訴を提起している。被控訴人は、これと前後して、平成一二年七月と平成一三年三月から同年七月までの間にも、他のゴルフクラブを相手方とする同様の訴訟六件(本件を含め預託金額面合計一億二六七〇万円)の原告にもなっている。

オ 控訴人は、別件でも預託金の返還請求訴訟を提起されているが、その原告となっているA田なる人物についても、被控訴人と同様の条件でE田から買取資金を借り入れている。これらE田と被控訴人、A田が関係する本件と同様の事件を合わせると十数件のゴルフ会員権の預託金返還請求訴訟が裁判所に提起されている。

以上のとおり認められる。この認定を左右するに足りる確たる証拠はない。

(2)  これらの事実と弁論の全趣旨を総合勘案するならば、次のとおり判断するのが相当である。

まず、本件会員権や預託金返還請求権の譲受けの方法・態様をみると、訴外会社から本件会員権を譲り受けたD原なる人物は、素性も判然とせず、虚偽の勧誘に基づいて本件会員権を廉価に取得しているし、被控訴人が本件預託金返還請求権を譲り受けたとする扇町ゴルフセンターの実体もない。また、被控訴人は、ゴルフ会員権業者でもないのに他から持ち掛けられ、専ら債権回収の目的で預託金返還請求権を繰り返し譲り受けているが、その生活実態からみて、多額の資金を調達する資力がないことはもとより、これを借り入れる信用があったとも到底思われない(E田からの借入れの弁済期は随時とされ、本件会員権の預託金のみを引当てとするものであった。)。そして、その権利実行の方法・態様をみても、被控訴人は、本件預託金返還請求権を譲り受けると直ちに本訴を提起するとともに、本訴と時間的に接着して六件もの同様の訴訟の原告にもなっているのである。

これによれば、被控訴人は、原告とされている他の一連の訴訟と同様に、実質的な金主としてのE田やゴルフ会員権の調達役としてのD原なる人物らの主導の下で、預託金を訴訟手続を通じて取り立てるためのいわば名義貸しともいうべき行為を繰り返しているものと認めるのが相当である。

(3)  このような事情の下では、被控訴人の行為は、弁護士法七二条本文が禁止する取立代行業務の潜脱行為に当たる疑いが強く、ゴルフ場経営者に対する濫訴を招き、ゴルフ会員権をめぐる紛議を助長するおそれを生じさせるものと評すべきであって、同法七三条の趣旨に照らすならば、およそ社会経済的に正当な業務の範囲内の行為といえるものではない。被控訴人による本件預託金返還請求権の譲受け行為は、弁護士法七三条に違反する無効のものというべきである。

本件会員権や預託金返還請求権の代金が世間相場から大きく逸脱しない範囲内のものであったり、被控訴人が弁護士を代理人として委任し、訴訟という合法的手段により本件預託金返還請求権の履行を求めたりしているとしてもこの判断を動かすものではない。

三  結論

以上によれば、被控訴人の請求は理由がないから、これを棄却すべきである。

よって、これと異なる原判決は不当であるから、これを取り消すこととし、訴訟費用の負担につき民訴法六七条二項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 根本眞 裁判官 鎌田義勝 松田亨)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例