大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成14年(ネ)1673号 判決 2003年5月29日

控訴人兼被控訴人

X1(以下「一審原告X1」という。)

控訴人兼被控訴人

X2(以下「一審原告X2」という。)

控訴人兼被控訴人

X3(以下「一審原告X3」という。)

上記3名訴訟代理人弁護士

岩城穣

原野早知子

村瀬謙一

有村とく子

控訴人兼被控訴人

株式会社榎並工務店(以下「一審被告」という。)

上記代表者代表取締役

上記訴訟代理人弁護士

平正博

主文

一  一審原告らの控訴に基づいて原判決を次のとおり変更する。

1  一審被告は一審原告X1に対し,2187万9845円及びこれに対する平成10年6月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  一審被告は一審原告X2に対し,1093万9922円及びこれに対する平成10年6月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  一審被告は一審原告X3に対し,1093万9922円及びこれに対する平成10年6月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4  一審原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

二  一審被告の控訴を棄却する。

三  一審における訴訟費用については,これを5分し,その3を一審原告らの,その余を一審被告の負担とし,控訴費用の内一審被告の控訴によって生じた分は一審被告の負担とし,一審原告らの控訴によって生じた分はこれを10分し,その7を一審被告の,その余を一審原告らの負担とする。

四  この判決は主文第一項1ないし3に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

(一審原告らの本件控訴)

一  一審原告ら

1(一) 原判決を次のとおり変更する。

(二) 一審被告は一審原告X1に対し,3000万円及びこれに対する平成10年6月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(三) 一審被告は一審原告X2及び同X3に対し,それぞれ1500万円及びこれに対する平成10年6月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は,第一,二審とも一審被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  一審被告

1 一審原告らの控訴を棄却する。

2 控訴費用は一審原告らの負担とする。

(一審被告の本件控訴)

一  一審被告

1 原判決中,一審被告敗訴部分を取り消し,一審原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は,第一,二審とも一審原告らの負担とする。

二  一審原告ら

1 一審被告の控訴を棄却する。

2 控訴費用は一審被告の負担とする。

第二事案の概要

本件は,一審被告の従業員であったBがガス管溶接作業中に脳梗塞を発症し,これが原因で死亡したことに関し,Bの相続人である一審原告らが一審被告に対し,Bの死亡は一審被告の安全配慮義務違反を原因とする過労死であると主張して,債務不履行に基づく損害賠償(訴状送達日の翌日から支払済みまでの民法所定の割合による遅延損害金を含む。)を請求する事案である。

原判決は,一審原告ら主張の安全配慮義務違反及び同義務違反とBの死亡との間の相当因果関係を認めた上,過失相殺規定の適用又は類推適用により損害額の3分の2を減額し,一審原告らの請求の一部を認容した。

その他,本件事案の概要は,後記二のとおり当審における当事者の主張を付加し,一のとおり付加,訂正するほか原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」に記載されたとおりであるから,これを引用する。

一  原判決中の各「、」をいずれも「,」と,同2頁21行目の「土木工事建設設計施工」を「土木建築設計施工」と,同3頁末行の「業務と死亡の間には」を「業務と死亡との間には」と,同4頁7行目の「持って、」を「持ち,」と,同19行目の「分かるようなって」を「分かるようになって」と,同8頁23行目及び同9頁19行目の「発症前日から1週間」をいずれも「発症前日までの一週間」と,同18行目の「10持」を「10時」と,同21行目の「因果関係」を「相当因果関係」と,同10頁5行目から6行目にかけての「死亡との因果関係」を「死亡との間に相当因果関係があること」と,同15行目の「喫煙して」を「禁煙して」と,同17行目の「故人」を「個人」と,同11頁13行目の「基づくべきである。」を「基づいて把握されるべきである。」と,同12頁11行目の「主観動脈狭窄病変」を「主幹動脈狭窄病変」と,同14頁21行目の「健康障害防止のために」を「健康障害を防止するために」とそれぞれ訂正する。

二  当審における当事者の主張

1  相当因果関係について

(一) 一審被告の主張

(1) 原判決は,Bの一審被告における業務と脳梗塞の発症及び死亡との間に相当因果関係があるか否かは,業務とBの死亡との間に因果関係があることの蓋然性(通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうること)が立証されたか否かにより判断すべきとする。

しかしながら,一審原告X1が労災保険法に基づく遺族補償給付等を請求したのに対し,大阪中央労働基準監督署長は,Bの死亡は業務上の事由によるものとは認められないとして上記給付を支給しない旨の決定をし,さらに,同一審原告が上記決定を不服として審査請求をしたのに対し,大阪労働者災害補償保険審査官は同請求を棄却した。この点に鑑みれば,本件では,Bの業務と死亡との間に因果関係があることについて,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうることが立証されたとはいえない。

(2) さらに,Bが発症した脳梗塞は医学上心原性脳塞栓症といわれるものであり,その大部分は心由来とされ,心臓内で形成された血栓が脳の主幹動脈である内頸動脈を閉塞したことによって発症するものでる(ママ)ところ,非弁膜性心房細動患者が脳塞栓症を発症するリスクは高い。

この点,原判決は,Bが罹患していた心房細動は発作性のものであり,慢性のものと比較して脳梗塞は発症しにくいと判断しているが,医学的な根拠を欠くものといわざるを得ず,また,脳塞栓源としての非弁膜性心房細動の約30パーセントは発作性のものとされているから,Bの心房細動が発作性のものであったとしても直ちに慢性のものと比較して脳梗塞を発症しにくいとはいえない。

(3) また,心原性脳塞栓症の前駆症状としては,異なる血管支配域への一過性脳虚血発作があるが,それは,他の脳梗塞と比べて高齢者に多く発症する疾病とはされておらず,心原性脳塞栓症の原因となりうる心疾患を有している者であれば発症する可能性が高いとされている。

以上から,Bの脳塞栓症の発症は,同人の罹患していた心疾患に由来するというべきであり,それが一審被告における業務によるものとすることは到底できない。

(4) 原判決の認定のように,Bの脳梗塞の発症が業務に由来するというのであれば,Bが罹患した脳梗塞は心原性脳塞栓症であり,臨床的に診断可能なものの大部分は心由来であるとされているのであるから,塞栓源となりうるBの心疾患やその原因及び同心疾患が業務によるものであるか否かが明らかにされる必要がある。

しかるに,原判決は上記の点について何ら検討せず,Bの就労状況が疲労を蓄積させたことが原因であるとするが,心原性脳塞栓症は,単にストレスや疲労の蓄積のみによって発症するものではないから失当である。

(5) また,原判決は,何の医学的根拠もなくBの脳塞栓は,同人の有していた基礎疾患等が,一審被告における業務の遂行により,自然経過を超えて急激に憎(ママ)悪促進したものとしたが,上記基礎疾患は心房細動を指すものと思われるところ,心房細動の発症原因は医学的に明らかにされておらず,Bの一審被告における就労状況をいくら強調してみてもそれが心房細動の発症原因と認めることは困難である。

さらに,ストレスが心房細動の誘発因子になるとされているものの,ストレスの認知,対処,反応の仕方は個人差が大きく定量的な評価は困難であり(「くつろぎ」さえも心房細動の危険因子としてのストレスに含まれるとされる。),心房細動の発生原因としてのストレスについては,心房細動そのものの機序,診断,治療に比して未だ研究の緒にすらついていないとされていることからも原判決の上記判断は失当である。

そもそも,心房細動とは,心房のけいれんであり,その発生機序を労働に求めることはできないから,仮に,Bの一審被告における労働が過重であったとしても,これによってBの心房細動が急激に憎(ママ)悪したとは医学上認められない。

原判決のように,脳動脈を塞ぐ血栓が循環器内でどのようなメカニズムにより形成されるのか,労働が血栓の形成について危険因子になるのか否かを明らかにすることなく,相当因果関係の有無について情緒的な判断をすることは許されない。

(二) 一審原告らの主張

一審被告は,一審原告X1の労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付等の請求に対し,行政機関が,Bの死亡は業務上の事由によるものとは認められないと判断したことを理由に,Bの業務と死亡との間に因果関係はないと主張する。

しかしながら,一審原告らは,上記判断について,現在再審査請求をするとともに,行政処分取消訴訟を提起しており,上記判断が確定したものではないから,一審被告の主張は採用できない。

さらに,上記の行政判断においては,本件事案が業務起因性に関する厚生労働省労働基準局長通達「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(平成13年12月12日付け)で示された認定基準(以下「本件基準」という。)に該当するか否かが問題となるところ,本件基準においては,おおむね発症前1週間における短期間の過重業務及びそれ以前の長期間の過重業務があったと認められるか否かを検討する必要があるが,その際,労働時間の多寡のみならず疲労蓄積の点を重視して,不規則な勤務,拘束時間の長い勤務,出張の多い業務,交代制勤務・深夜勤務,作業環境,精神的緊張に伴う業務といった負荷要因について十分検討した上で業務の過重性を判断すべきものとしている。しかるに,本件では,Bの一審被告における業務内容が,上記各要素に照らして短期間の過重業務及び長期間の過重業務のいずれにも該当することが認められ,Bの死亡は一審被告における業務に起因するものであったことは明らかであるから,これに反する上記判断は不当といわざるを得ない。

その他の一審被告の主張は,いずれも理由がない。

2  安全配慮義務違反について

(一) 一審被告の主張

(1) Bの就労状況の認定について

Bの溶接工としての一審被告における就労状況は,同人の溶接工個人管理表(甲9の1ないし19)に余すことなく記載されており,同表は,Bと共に作業に従事していたCが作業現場,作業内容,作業日などを記載したものであるから正確なものと認められる。これに対し,就労表(甲10の1ないし20)は,Bの給与(日給)を計算する目的で作成されたものに過ぎないから,同人の作業時間を正確に記載したものとは認められない。

したがって,Bの就労状況については,あくまで甲9の1ないし19により認定されるべきであり,同書証には作業時間が明記されていないものの,記載された作業内容に照らせば,Bの労働が他の同種労働者(乙20の1ないし3)と比して特段過重なものであったとは認め難い。

(2) 一審被告は,ガス管埋設工事のうち土工作業(現場の掘削及び埋戻し等)を除くガス管溶接作業の経験がなかったことから,溶接作業に豊富な経験を有するBら作業員に対し具体的な施工や工程等を全て委ね,Bらは自らの判断で作業予定等を自由に決定しており,一審被告において,労働者の実情に応じて,就業場所の変更,作業の転換,労働時間の短縮等の措置を講ずるまでもない状況であったから,一審被告からBに対して過重な労働を求めていたわけではない。

したがって,一審被告は,労働安全衛生法等に違反する事実があったとの認識すらなかった。

(3) 一審被告においてB同様に溶接工として稼働していた証人Cは,自己が一審被告を退社した原因が過重な労働にあった旨証言するが,実際には,一審被告が本件後にガス溶接工事の受注自体を止めた結果溶接工を配置転換したことから,Cは退社したものにすぎず,同人の証言によっても,Bの労働が他の従業員に比して過重であったとは認められない。

(二) 一審原告らの主張

一審被告は,<1>いわゆる三六協定を締結せずに従業員に時間外労働を継続させ,<2>1か月単位の変形労働時間制を採用していたにもかかわらず,労働基準法32条の2の規定に違反する運用を行っており,<3>Bに定期的な休暇を与えない等,使用者として労働者に対し適正な労働条件を確保すべき義務を怠った。

また,一審被告は,<1>産業医の選任や定期健康診断の確実な実施等労働者の健康管理のために労働安全衛生法等に定められた体制を取っておらず,<2>実施された健康診断の結果の活用に向けた配慮を怠る等労働者の健康状態を適確に把握し,健康管理を適切に実施する義務に違反した。

さらに,一審被告は,<1>中高年齢者であるBに対し,業務が過重にならず他の労働者との負担割合が公平になるように配慮せず,<2>Bを多数回の夜間作業や昼夜連続作業に就かせたり,<3>Bが著しい連続勤務に就き,また,溶接時間が急増したのにこれを放置し,<4>Bが作業中に鉄粉が目に刺さる怪我を負った後,その体調を把握し安静にさせるなどをしなかった等Bの業務内容を調整するための適切な措置を取るべき義務を怠った。

なお,使用者は,当該労働者が長時間労働が続く等して疲労や心理的負荷等が過度に蓄積される客観的状態にあることを認識していれば,同人が心身の健康を害し,その一態様として脳梗塞を含めた脳血管疾患を発症して死亡する危険性があることについて予見可能性があったというべきであるところ,前記の各点によれば,Bが疲労や心理的負荷が過度に蓄積される客観的状態にあったことは明らかであり,一審被告は,上記状態を認識していたのであるから,Bが脳梗塞を発症して死亡することについて予見可能性があったというべきである。

以上によれば,一審被告に安全配慮義務違反があったというべきである。

3  過失相殺,寄与度減額について

(一) 一審原告らの主張

原判決は,Bの死亡と業務との間の相当因果関係及び一審被告の安全配慮義務違反を認めたが,他方で,一審被告が賠償すべき損害額について,Bについて3分の2もの大幅な寄与度減額,過失相殺を行っており,かような判断は,以下に指摘するとおり極めて不当なものといわざるを得ない。

(1) 労働者の健康状態等に関する基本的な責任

そもそも,雇用契約の当事者間において,使用者が負う安全配慮義務は,労働者の申し出によって初めて生じる義務ではなく,雇用という事実自体により当然発生するものであるから,労働者の健康状態を悪化させないよう配慮すべき第一次的な義務は使用者にあると解すべきである。

なぜなら,<1>労働者は人間である以上,基礎疾患や加齢により弱い部分を有しているのが通常であり,使用者はそのような弱点の存在を前提に労働者を雇用しているのであるから,労働者のために労働環境に配慮する義務を負うのは当然というべきであり,<2>労働関係は,本質的に指揮従属関係であり,使用者が必要な健康配慮を尽くすことが,労働者が自らの健康維持を図る動機的,時間的,経済的な前提条件をなすというべきだからである。

また,いわゆる電通過労死事件についての最高裁第2小法廷平成12年3月24日判決は,労働者の業務の負担が過重であったことを原因とする損害賠償請求において,使用者の賠償すべき額を決定するに当たり,当該労働者の性格やこれに基づく業務遂行の態様等を心因的要素として斟酌することはできないとしたが,上記判例の趣旨に鑑みても,原判決のように,労働者の健康状態等を理由に過失相殺や寄与度減額を行うことは許されないものと解すべきである。

(2) 過労死事案で寄与度減額,過失相殺をなしうる要件

そして,以上を踏まえて,過労死事案において,寄与度減額,過失相殺が認められる場合について検討するに,まず,寄与度減額については,<1>客観的に当該危険因子が結果発生に寄与したことを前提に,<2>使用者が第一次的な健康配慮義務を尽くしたかどうか,それを踏まえてもなお,労働者に帰責性が認められるか,どの程度認められるかを検討し,<3>具体的な寄与度の割合を,医学的レベルの寄与の程度とは別の問題として,公平の観点から法的に評価,判断すべきである。具体的には,危険因子の存在及び寄与について,労働者側にも使用者側にも帰責性がない場合(加齢,先天的な脳動脈瘤の存在等)や危険因子の存在及び寄与について主として使用者側に帰責性がある場合(蓄積疲労による高血圧,動脈硬化等)は,寄与度減額は認められず,危険因子の存在及び原因について労働者側に帰責性がある場合(肥満,飲酒,喫煙等)は,使用者の健康配慮義務の履行の程度と労働者側の帰責性の程度等を総合考慮して判断すべきである。

次に,過失相殺については,<1>客観的に当該労働者が適切な行動を取っていれば,損害の発生,拡大を防止し得たことを前提に,<2>使用者が第一次的な健康配慮を尽くしたかどうか,それを踏まえてもなお,労働者に落ち度があったと評価すべきか,どの程度評価すべきかを総合して判断をすべきである。

(3) 本件への当てはめ

原判決は,Bについて寄与度減額,過失相殺してもやむを得ない事情として,<1>身体的要因としての心房細動・高脂血症,<2>生活習慣としての飲酒を挙げるが,前記の基準に照らせば,上記事由によって,3分の2もの寄与度減額,過失相殺を行うことは絶対に許されず,このことは以下の各点からも明らかである。

ア まず,心房細動については,Bが心房細動の基礎疾患を有していたことは事実だが,そのこと自体はBに帰責性があるものではないし,原判決認定のとおり,Bの心房細動は,慢性のものより脳梗塞を発症しにくいとされる発作性のものであり,Bは従前健康診断で指摘を受ける以外は,特に問題なく一審被告における溶接工としての業務に従事してきており,本件で脳梗塞が発症する前に,脳・心臓疾患が特段憎(ママ)悪していたことを窺わせる事情もない。

そうとすれば,Bについて,平成6年及び同7年の各予防検診において,心房細動の治療を要するとの指摘がなされていたとしても,この段階での心房細動は最終的な本件脳梗塞の発症に対する寄与は殆ど存しないはずであり,また,その段階でBが治療を受けることは期待できず,仮に治療を受けたからといって,平成7年12月以降の著しい過重労働による本件脳梗塞の発症を避けられたとは考えられない。そして,平成8年5月25日に至るまでの過重労働によって心房細動は急激に憎(ママ)悪したものであり,まさに過重労働たる業務そのものにより,Bは治療を受けること自体物理的に困難となったのである。

イ 原判決では,Bの高脂血症が具体的にどの程度のものであるか,また,それが本件脳梗塞の発症にどの程度寄与したのか自体が全く明らかにされていない。

ウ 原判決では,Bの飲酒の習慣が,Bの基礎疾患の憎(ママ)悪や本件脳梗塞の発症に具体的にどのように寄与したのか全く明らかになっていない。のみならず,原判決認定のとおり,異常なまでの長時間過密労働のなかで,Bの飲酒量は減少傾向となり,発症直前期は殆ど飲酒していなかったのであるからなおさらである。

エ さらに,一審被告がBに対して,使用者としての第一次的な健康配慮義務を全く果たしていないことは原判決が認定するとおりである。

(二) 一審被告の主張

一審原告らは,原判決がBの脳梗塞の発症機序に同人の心房細動が大きく関与しているとして,3分の2の過失相殺をした点を批判するが,心原性脳塞栓症は,血栓による脳動脈の閉塞によるものであり,その血栓の形成について心房細動以外に予測しうる因子は認められないから,その限度では原判決の判断は妥当である。

4  損害

(一) 一審原告らの主張

一審原告らは一審被告に対し,原審主張の損害(原判決15頁14行目から同16頁2行目まで)に加え,一審原告X1について500万5326円,一審原告X2及び同X3については各自250万2663円の弁護士費用相当額の損害賠償請求権をそれぞれ有する。

(二) 一審被告の主張

一審原告らの上記主張は争う。

第三当裁判所の判断

当裁判所は,一審原告らの本件請求は主文の限度で理由があると判断するが,その理由は,後記二のとおり当審における当事者の主張に対する判断をし,一のとおり付加,訂正するほか,原判決「事実及び理由」中の「第3 争点に対する判断」に記載されたとおりであるから,これを引用する。

1  原判決16頁7行目(労判本号<以下同じ>106頁左段4行目)の「<証拠省略>」から同8行目の「<証拠省略>」までを「<証拠省略>」と,同17頁10行目から11行目にかけて(106頁左段下から6行目)の「漏電」を「漏電による感電」と,同12行目から同13行目にかけて(106頁左段下から3行目)の「mm単位」を「ミリ単位」とそれぞれ改め,同20頁9行目(107頁左段下から3行目)末尾の次に「よって,Bの労働時間を同管理表に基づき認定すべきであるとの一審被告の主張は採用できない。」を加え,同22頁13行目(108頁左段25行目)の「被告の上記取扱いは,」から同15行目(108頁左段28行目)末尾までを「一審被告の上記取扱いは,変形労働時間とする週及び日並びに各日の所定労働時間を労使協定,就業規則等により,変更期間の開始前に予め具体的に特定することを求める労働基準法32条の2(平成10年改正前の規定)の規定に違背するものであった。」と,同27頁14行目(109頁右段下から2行目)の「業務と死亡の間」を「業務と死亡との間」とそれぞれ改める。

2  原判決29頁18行目(110頁右段26行目)末尾の次に改行の上「なお,心房細動は,突発的・一過性に出現あるいは憎(ママ)悪するが,その誘発・憎(ママ)悪因子としてストレスが挙げられる(<証拠省略>)。上記の誘発・憎(ママ)悪因子としてのストレスには,不規則な生活,寝不足,飲酒等の要因があり,それらが複合的に作用して心房細動が誘発されることが多く,日常生活における発作を誘因するストレスの内,肉体的要因としては,睡眠不足や疲労が60パーセントと圧倒的に多く,心理的要因としては,心配ごと,不安,緊張,くつろぎ等があるとされている(<証拠省略>)。」を加える。

3  原判決34頁22行目(112頁右段13行目)の「Bの脳塞栓が」から同35頁6行目(112頁右段28行目)までを次のとおり改める。

「Bの脳梗塞は,同人が有していた心房細動(ないしその素因)や高脂血症,飲酒等の危険因子の自然的経過によって発症したと考えることは困難である。そして,Bが平成8年5月23日まで前記認定の極めて過重な業務に継続的に従事した上,同月22日から23日にかけての夜間作業中それ自体労働災害といえる業務遂行中のグラインダー事故が原因で,同日の夜勤明け及び24日の2日にわたり,激痛のため睡眠を殆ど取れず,著しい疲労が蓄積した状態のまま同月25日に就労したため,血液の乱流等の血行動態の変化,血液凝固能の亢進等を引き起こし,あるいはBの心房細動を誘発憎(ママ)悪する等して,心臓内における血栓の急激な増加を招き,その結果,脳塞栓を発症した可能性が高いというべきである。

以上を総合すれば,Bの死亡原因となった脳塞栓は,同人が基礎疾患として有していた心房細動(ないしその素因)やその他の危険因子等が,一審被告における過重な業務遂行によって,その自然的経過を超えて急激に憎(ママ)悪促進した結果発症した蓋然性が高く,一審被告におけるBの業務と死亡との間には相当因果関係があることが優に認められる。」

4  原判決36頁3行目(113頁左段13行目)の「労働基準法32条の4」を「労働基準法32条の2(平成10年改正前の規定)」と改める。

5  原判決37頁17行目(113頁右段19行目)の「蛇足ながら」から同38頁3行目(113頁右段36行目)までを次のとおり改める。

「さらに,前記認定のとおり,Bは,平成8年5月22日の夜間勤務において,グラインダー作業中に鉄粉が目に刺さる事故に遭い,本来作業が予定されていた同月24日に突然有給休暇を取ったものであるところ,Bが一審被告に対し,上記事故やその後の体調について報告等していなかったため,一審被告において上記の点を知り得なかったことにはやむを得ない点もあるが,他方で,上記のようにBが就業予定日に突然有給休暇を取ることは同人の従前の勤務態度に照らしてもかなり異例の事態であり(証人D),一審被告はBの健康診断の結果を把握していたのであるから,翌25日に出勤してきたBの状況に特段の注意を払うべきであり,具体的には,一審被告で従業員の業務を管理支配する立場にあったDにおいて,前記認定のとおり憔悴したまま出勤したBに体調を確認する等の対応を取るべきであったといいうる。そして,一審被告が上記対応を取っていれば,Bに対し,25日当日予定されていた業務への従事を止めさせた上安静を取らせることもでき,その結果,本件脳梗塞の発症を回避し得た可能性もあったというべきである。」

6  原判決38頁12行目(113頁右段下から2行目)から同39頁6行目(114頁左段29行目)までを次のとおり改める。

「(2) 過失相殺規定(民法418条)の適用ないし類推適用による減額について

ア  前記認定のBの健康状態及び業務実態によれば,本件脳梗塞は,Bの一審被告における業務によって蓄積した疲労のみを原因とするものではなく,Bの心房細動(の素因),高脂血症及び飲酒といった身体的な素因や生活習慣もその原因となっており,とりわけ,Bの脳梗塞は心原性のものでありその発症に心房細動が大きく関与したものと考えられる。

そして,前記のとおり,一審被告はBに対し,使用者として安全配慮義務を負っており,労働者であるBの健康状態を把握した上で,同人が業務遂行によって健康を害さないよう配慮すべき第一次的責任を負っているから,Bの身体的な素因等それ自体を過失相殺等の減額事由とすることは許されない。

しかしながら,健康の保持自体は,業務を離れた労働者個人の私的生活領域においても実現されるべきものであるから,使用者が負う前記の第一次的責任とは別個に,労働者自身も日々の生活において可能な限り健康保持に努めるべきであることは当然である。

本件において,Bは,平成6年及び平成7年7月の各予防検診で,心房細動等により治療を必要とするとの所見を医師から示されており,それ以前から,心房細動同様に胸内苦悶や不整脈といった心由来の疾病に罹患した経験を有していたのであるから,上記検診で指示された治療等を受けるべきであったというべきであり,他方で,それが困難な状況にあったとは証拠上認められない(なお,一審原告らは,Bは一審被告における過重な業務により上記治療を受けることができなかったと主張するが,脳梗塞発症1週間前はともかく,それ以前の平成7年段階から継続的な治療を受ける機会が得られなかったとは証拠上認定できない。)。それにもかかわらず,Bは,本件脳梗塞が発症するまで心房細動等についての治療等を受けなかったものであり(証人X1,弁論の全趣旨),前記認定の各事実に照らせば,Bが上記治療を受けていれば,本件脳梗塞の発症を回避し得た可能性が相当程度あることは否定し難いというべきである。

イ  また,前記のとおり,Bが平成8年5月23日まで,過重な業務に継続的に従事した上,同月22日から23日にかけての夜間業務遂行中の事故が原因で,同日の夜勤明け及び24日の2日にわたり,激痛のため睡眠を殆ど取れず,著しい疲労が蓄積した状態のまま翌25日に就労したため,心房細動,さらには脳塞栓を発症した可能性が高い。

そして,上記のように労働者が業務中にその後の労務提供に支障を生ずるような事故に遭った場合も,使用者は,当該労働者の症状を前提に今後の治療や業務担当等について十分に配慮すべき第一次的な義務を負うことは当然である。

しかしながら,他方で,使用者が上記義務を十分に履行するためには,その前提として,労働者が使用者に対して,発生した事故の内容や自己の症状に関する報告をし,使用者側でこれを十分に認識する必要がある。したがって,労働者は,業務中に事故に遭いその後の労務提供等に支障が生じた場合,使用者に対して,報告することが困難である等の特段の事情がない限り事故の内容や自己の症状等について報告すべきである。

しかるに,Bは,上記事故に遭ったことや平成8年5月25日までの同事故に起因する症状等について,使用者である一審被告に対して一切報告しないまま25日に就労したものであり(弁論の全趣旨),Bの年齢,経験年数及び職務上の立場に照らしても,また,証拠上も上記報告が困難であったと窺える特段の事情は認定できない。

そして,前記認定の本件の経緯を併せ考慮すれば,Bが一審被告に対し,上記報告を直ちに行っていれば,一審被告において,Bの業務担当やその後の安静等についてより迅速かつ適切な措置を取ることが期待でき,本件脳塞栓の発症を回避できた可能性は高かったということができる。

ウ  以上によれば,Bが脳塞栓に罹患して死亡したことによる損害を全て一審被告に賠償させることは,労使関係の非対等性を十分考慮しても,なお,損害の公平な分担という法の趣旨に鑑み相当とはいえない。したがって,本件については,過失相殺について規定した民法418条を適用ないし類推適用し,前記認定の本件における業務の過重性の程度や労務提供期間,その他B及び一審被告双方の諸般の事情を総合考慮して,Bが一審被告の安全配慮義務違反により被った損害額から4割を減じた額について,一審被告は賠償責任を負うと解するのが相当である。」

7  原判決40頁13行目(114頁右段21行目)から同末行(114頁右段38行目)までを削除する。

二 当審における当事者の主張に対する判断

1 相当因果関係について

(一)  一審被告の主張について

(1) 一審被告は,Bが発症した脳梗塞は医学上心原性脳塞栓症といわれるものであり,非弁膜性心房細動患者が脳塞栓症を発症するリスクは高いところ,原判決は,Bが罹患していた心房細動は発作性のもので,慢性の場合と比較して脳梗塞が発症しにくいと判断しているが,医学的な根拠を欠くものである等と主張する。

しかしながら,Bの心房細動は発作性のものであり,それは慢性心房細動に比べて脳梗塞を発症しにくいことは,医師E(以下「E医師」という。)作成の意見書(<証拠省略>)に記載されたとおりであり,上記証拠に対する専門的知見に基づく反証はなされていないから一審被告の上記主張は採用し難い。

(2) また,一審被告は,原判決は,Bの過重業務による疲労の蓄積が本件脳梗塞の原因であるとするが,心原性脳塞栓症は,単にストレスや疲労の蓄積のみによって発症するものではないから失当であると主張する。

しかしながら,ストレスや疲労の蓄積により心原性脳塞栓症が発症することは,E医師作成の意見書(<証拠省略>)によって優に認定することができ,同認定に反する医学的知見の存在は証拠上認定し難い。さらに,上記の認定判断のとおり,本件ではストレスや疲労のみならずBの基礎疾患等の存在も相俟って脳梗塞が発症したというべきであるから,一審被告の上記主張は採用できない。

(3) また,一審被告は,心房細動の発症原因は医学的に明らかにされておらず,Bの一審被告における就労状況をいくら強調してみてもそれが心房細動の発症原因と認めることは困難であり,ストレスについても,心房細動の誘発因子になるとされているものの,ストレスの認知,対処,反応の仕方は個人差が大きく定量的な評価は困難であり,心房細動の発生原因としてのストレスについては未だ研究の緒にすらついていない段階であると主張する。

しかしながら,Bの業務態様の過重性等によれば,それがBに心房細動を発症させた原因と十分見うること及びストレスが心房細動発症の原因となりうることは,前記一で認定判断したとおりである。確かに,一審被告が主張するとおり,心房細動の発生原因としてのストレスについては未だ研究の緒にすらついていないと指摘する専門家の見解はあるが(<証拠省略>),上記見解もストレスが心房細動の発生原因となりうること自体を否定する趣旨とまでは解されず,その他,この点につき否定的見解を取る医学的知見は証拠上認められない。

(4) 以上の他,一審被告は,Bの業務と死亡との間に相当因果関係は存しないとしてるる主張するが,前記認定判断に照らしていずれも採用することはできない。

(二)  一審原告らの主張について

(1) 短期間における業務の過重性の有無

まず,Bが脳梗塞を発症した平成8年5月25日までのおおむね1週間の業務について見るに,引用にかかる原判決認定のとおり,<1>Bは,同月18日の午前8時から午後5時まで,同日午後8時から翌19日午前4時まで,同日午前8時30分から午後5時までと昼夜昼の連続勤務を行い(なお,Bは同月20日に終日就業していないが,上記勤務態様に照らし1日分の休暇とは評価し難い。),さらに,<2>同月21日午前8時から午後5時まで就業し,同日午後8時から翌22日の午前5時まで夜勤をして帰宅後,同日午後8時から翌23日午前5時まで夜勤したが,その際,作業中のグラインダー事故で鉄粉が目に刺さる事故に遭い,上記夜勤明け当日及び翌24日の2日間にわたり殆ど睡眠が取れない状況になったものである。

以上によれば,Bは,脳梗塞発症前の短期間において,長時間かつ交代制勤務や深夜勤務の多い不規則な業務を続け,さらに,業務時間中それ自体労災ともいえる上記事故に遭ったことでBの疲労蓄積が増大したことが認められ,その間のBの業務態様は,労働時間が多かったのみならず勤務形態や疲労蓄積の観点からも過重なものであったといわざるを得ない。

(2) 長期間における業務の過重性の有無

また,Bの脳梗塞が発症する1か月ないし6か月前の業務についても,引用にかかる原判決認定のとおり,<1>1か月当たりの時間外労働時間は,本件基準の1か月当たりの月により差があるもののおおむね40時間程度ということができ,とりわけ発症前1か月間は約71.5時間に達しており,<2>特に精神的肉体的負担がかかる溶接作業にBが従事した時間は,平成7年11月まで月平均36時間程度であったが,同年12月は52時間,平成8年1月から同年4月にかけては1か月当たり43ないし72時間,同年5月は同月25日までで76時間,さらに脳梗塞発症までの1か月間では97時間と飛躍的に増大し,<3>昼間作業と夜間作業が連続する勤務についても,本件以前は1か月あたり平均3,4回程度であったが,Bが脳梗塞を発症する前の1か月間は8回と著しく増大しており,その間の夜間作業も10回と従前よりも多く,<4>脳梗塞発症前おおむね1か月間の休日取得状況についても,Bは,同年4月17日からゴールデンウイークも無休で連続21日間勤務し,同年5月9日から同月20日まで連続11日間勤務していたものであり,原判決認定のBの作業環境や業務の性質,勤務の不規則性等の諸事情を総合すれば,脳梗塞発症前6か月ないし1か月の間におけるBの業務は,労働時間のみならず勤務形態や疲労蓄積の点においても過重なものであったといわざるを得ない。

(3) 以上によれば,Bの一審被告における業務については,本件基準にいう短期間の過重業務及び長期間の過重業務のいずれの要件にも該当することが認められる(なお,本件基準は,業務による明らかな過重負荷が認められる場合として,上記以外に「異常な出来事」の発生を挙げるところ,引用にかかる原判決認定のとおり,Bは,平成8年5月22日から23日にかけての夜勤中に目に鉄粉が刺さる事故に遭ったが,その際,鉄粉が深層角膜に達し,激痛で2晩にわたり不眠状態に陥り,その結果疲労の極みに達するなど強度の精神的負荷をもたらしたものであり,かかる事態は突発的かつ予測困難というべきであるから,上記事故をもって「異常な出来事」が発生したと見ることができる。)。

したがって,Bの脳梗塞による死亡は,同人が一審被告において従事していた業務に起因するものであり,上記業務との間に相当因果関係があることは明らかである。

2 安全配慮義務違反に関する一審被告の主張について

(一)  一審被告は,Bの溶接工としての一審被告における就労状況については,あくまで同人の溶接工個人管理表(<証拠省略>)により認定されるべきであり,就労表(<証拠省略>)は,Bの給与(日給)を計算する目的で作成されたものに過ぎず,同人の作業時間を正確に記載したものとはいえないから,上記就労表によってBの労働時間を認定した原判決の判断は不当である旨主張する。

しかしながら,労働時間に関する就労表の記載内容が十分信用しうることは,引用にかかる原判決(19頁)認定の各点に照らし明らかであるから,上記主張は採用し難い。

(二)  一審被告は,ガス管溶接作業に豊富な経験を有するBら作業員に対し具体的な施工等を全て委ね,Bらは自らの判断で作業予定等を自由に決定していたのであるから,一審被告がBに対して過重な労働を求めていたわけではないし,一審被告は,労働安全衛生法等に違反する事実があったとの認識すらなかったと主張する。

しかしながら,引用にかかる原判決の認定事実に照らして,Bが自らの判断で作業予定等を自由に決定していたとはいい難いし,上記事実を認定しうる証拠もない。また,一審被告が,労働安全衛生法規に客観的に違反していた事実は,引用にかかる原判決認定のとおりであり,同事実を知らなかったからといって一審被告の安全配慮義務違反が免責されるとは到底いえない。以上から,一審被告の上記主張は採用し難い。

(三)  その他,一審被告は,安全配慮義務違反はなかったとしてるる主張するが,一審被告に同義務違反があったことは前記認定判断のとおりであるから,採用できない。

3 過失相殺,寄与度減額に関する一審原告らの主張について

一審原告らは,一審被告が賠償すべき損害額について(大幅な)過失相殺,寄与度減額等を行うことは許されない等としてるる主張する。

しかしながら,上記一審原告らの主張するところを十分検討してみても,前記一6で認定判断したとおり,本件においては,過失相殺に関する民法418条の適用ないし類推適用により,Bの損害額についてはその4割を減額するのが相当というべきであり,上記主張は全面的には採用し難い。

4 損害について

(一)  引用にかかる原判決39頁9行目(114頁左段32行目)から同40頁10行目(114頁右段17行目)までのアないしオの損害合計は,6626万6150円となる。

そして,前記のとおり,過失相殺規定を適用ないし類推適用によりBの損害額について4割の減額をすれば,Bは一審被告に対し,上記安全配慮義務違反に基づき3975万9690円の損害賠償請求権を取得したというべきである。

(二)  争いのない事実記載のとおり,一審原告X1はBの妻であり,一審原告X2及び同X3はBの子であるから,各法定相続分に従いBの一審被告に対する上記損害賠償請求権を,一審原告X1は1987万9845円を,その余の一審原告らはそれぞれ993万円9922円(円未満切捨て)を相続したということができる。

(三)  一審被(ママ)告らは,当審において,本件についての弁護士費用相当額の損害賠償を請求するところ,前記認定の本件事案の内容,審理経過その他諸般の事情を総合すれば,弁護士費用としては,一審原告X1について200万円,同X2及び同X3について各100万円をもって相当というべきである。

三 まとめ

そうすると,一審被告に対し,一審原告X1は,2187万9845円及びこれに対する本件訴状送達日の翌日である平成10年6月7日から支払い済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを,一審原告X2及び同X3はそれぞれ,1093万9922円及びこれに対する本件訴状送達日の翌日である平成10年6月7日から支払い済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いをそれぞれ請求しうる。

第四結論

以上によれば,一審原告らの本件請求は主文の限度で理由があるから認容し,その余はいずれも理由がないから棄却すべきである。よって,これと異なる原判決を主文のとおり変更し,一審被告の本件控訴は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 武田多喜子 裁判官 青沼潔 裁判官小林秀和は転補のため署名押印できない。裁判長裁判官 武田多喜子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例