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大阪高等裁判所 平成14年(ネ)1711号 判決 2004年4月16日

第1審原告(反訴被告)

別紙当事者目録1ないし3記載のとおり(以下「第1審原告」という。

ただし,同目録1ないし3記載の第1審原告中,別紙「第1審原告中被控訴人のみ一覧表」記載の第1審原告ら24名は,

「被控訴人」のみの地位にある者である(以下「第1審原告中の被控訴人ら24名」ともいう。)。)

第1審原告ら訴訟代理人弁護士

山﨑省吾

平田元秀

中野二郎

沼田悦治

吉田竜一

石井宏治

山﨑省吾訴訟復代理人弁護士

池本誠司

内橋一郎

小林廣夫

田口勝之

土井裕明

長谷川彰

辰己裕規

森下文雄

伊藤陽児

可児晃

加藤時彦

黒澤佳代

進藤裕史

柘植直也

古田敏章

平井宏和

長尾治助

中村広明

由良尚文

須田滋

島崎哲朗

石川泰久

小暮浩史

加藤進一郎

木内哲郎

吉田誠司

飯田昭

岩崎文子

伊藤明子

内芝義祐

宇陀高

太田尚成

大槻倫子

大搗幸男

梶原高明

亀井尚也

木村治子

後藤玲子

小西博之

白子雅人

永井光弘

増田正幸

加瀬野忠吉

安田寛

松島幸三

榎本康浩

石口俊一

木村豊

山口格之

岩西廣典

田邊尚

戸田慶吾

平谷優子

古賀真人

目片浩三

井上道

井上周子

大名浩

岡野浩巳

開原雄二

小森暢之

長井貴義

宮重義則

最所憲治

森田孝久

原守中

大野敏之

荻野正和

土居由佳

廣井正則

小林政秀

東京都千代田区麹町5丁目2番地1

第1審被告(反訴原告)

株式会社オリエントコーポレーション(以下「第1審被告オリコ」という。)

代表者代表取締役

●●●

訴訟代理人弁護士

●●●

●●●

東京都新宿区西新宿1丁目25番1号新宿センタービル38階

第1審被告(反訴原告)

ファインクレジット株式会社(以下「第1審被告ファイン」という。)

代表者代表取締役

●●●

訴訟代理人弁護士

●●●

●●●

大阪市西区南堀江1丁目2番13号

第1審被告(反訴原告)

株式会社クオーク(以下「第1審被告クオーク」という。)

代表者代表取締役

●●●

訴訟代理人弁護士

●●●

●●●

●●●

●●●

●●●

●●●

●●●

●●●

●●●

●●●

●●●

●●●

●●●

●●●

●●●

●●●

●●●

●●●訴訟復代理人弁護士

●●●

主文

1  本訴請求につき,第1審原告ら(第1審原告中の被控訴人ら24名を除く。)の各控訴に基づき,原判決中,主文3,5,7及び8項を次のとおり変更する。

(1)  本判決別紙当事者目録1記載の第1審原告(ただし,原告番号228,253,258,272,822,823の第1審原告らを除く。)らと第1審被告オリコとの間において,同第1審原告ら各人が同第1審被告から原判決別紙立替払契約内容一覧表(一)記載の当該割賦金元本(立替金及び割賦手数料)の請求を受けたときは,これを拒絶することができる地位にあることを確認する。

(2)  本判決別紙当事者目録2記載の第1審原告(ただし,原告番号342,367,374,383,421,426,466,478,491,511,512,550,558,613,647,716,824の第1審原告らを除く。)らと第1審被告ファインとの間において,同第1審原告ら各人が同第1審被告から原判決別紙立替払契約内容一覧表(二)記載の当該割賦金元本(立替金及び割賦手数料)の請求を受けたときは,これを拒絶することができる地位にあることを確認する。

(3)  本判決別紙当事者目録3記載の第1審原告(ただし,原告番号825の第1審原告を除く。)らと第1審被告クオークとの間において,同第1審原告ら各人が同第1審被告から原判決別紙立替払契約内容一覧表(三)記載の当該割賦金元本(立替金及び割賦手数料)の請求を受けたときは,これを拒絶することができる地位にあることを確認する。

2  反訴請求につき,第1審原告ら(第1審原告中の被控訴人ら24名を除く。)の各控訴に基づき,原判決主文9ないし11項を取り消す。

上記部分に係る第1審被告オリコ,第1審被告ファイン及び第1審被告クオークの反訴各請求をいずれも棄却する。

3  第1審被告らの本件各控訴をいずれも棄却する。

4  訴訟費用は第1,2審を通じて(本訴反訴とも),本判決別紙当事者目録1記載の第1審原告らと第1審被告オリコとの間に生じたものは,全部同第1審被告の負担とし,同当事者目録2記載の第1審原告らと第1審被告ファインとの間に生じたものは,全部同第1審被告の負担とし,同当事者目録3記載の第1審原告らと第1審被告クオークとの間に生じたものは,全部同第1審被告の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  第1審原告ら(第1審原告中の被控訴人ら24名を除く。)の控訴の趣旨

(1)  主文1,2項と同旨

(2)  訴訟費用は第1,2審とも第1審被告らの負担とする。

2  第1審被告らの控訴の趣旨

(1)  第1審被告オリコ

ア 原判決中,第1審被告オリコと原判決別紙立替払契約内容一覧表(一)記載の第1審原告らに関する部分を次のとおり変更する。

イ 同第1審原告らは,各自,第1審被告オリコに対し,同一覧表における当該第1審原告の「原告番号」に対応する「反訴請求額」欄記載の各金額及びこれに対する同一覧表における当該第1審原告の「原告番号」に対応する「最終約定支払期日」欄記載の各年月日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え(反訴請求)。

ウ 同第1審原告らの第1審被告オリコに対する本訴各請求をいずれも棄却する。

エ 訴訟費用は第1,2審とも同第1審原告らの負担とする。

オ 上記イにつき仮執行宣言

(2)  第1審被告ファイン

ア 原判決中,第1審被告ファインと原判決別紙立替払契約内容一覧表(二)記載の第1審原告らに関する部分を次のとおり変更する。

イ 同第1審原告らは,各自,第1審被告ファインに対し,同一覧表における当該第1審原告の「原告番号」に対応する「反訴請求額」欄記載の各金額及びこれに対する同一覧表における当該第1審原告の「原告番号」に対応する「最終約定支払期日」欄記載の月の各6日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え(反訴請求)。

ウ 同第1審原告らの第1審被告ファインに対する本訴各請求をいずれも棄却する。

エ 訴訟費用は第1,2審とも同第1審原告らの負担とする。

(3)  第1審被告クオーク

ア 原判決中,第1審被告クオークと原判決別紙立替払契約内容一覧表(三)記載の第1審原告らに関する部分を次のとおり変更する。

イ 同第1審原告らは,各自,第1審被告クオークに対し,同一覧表における当該第1審原告の「原告番号」に対応する「反訴請求額」欄記載の各金額及びこれに対する同一覧表における当該第1審原告の「原告番号」に対応する「最終約定支払期日」欄記載の各年日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え(反訴請求)。

ウ 同第1審原告らの第1審被告クオークに対する本訴各請求をいずれも棄却する。

エ 訴訟費用は第1,2審とも同第1審原告らの負担とする。

オ 上記イにつき仮執行宣言

第2事案の概要

1  本件は,平成10年6月ころから平成11年3月ころまでの間に,株式会社ダンシング(以下「ダンシング」という。)から健康寝具(商品名「テルマール」。以下,「布団」ともいう。」)を購入するとともに,ダンシングとの間でいわゆるモニター契約を締結した第1審原告らが,割賦購入あっせん等を業とする信販会社(ダンシングと割賦購入あっせんの加盟店契約を結んで業務提携し,ダンシングに販売与信を継続していた。)である第1審被告らに対し,「本件売買契約(寝具販売契約)と本件モニター契約とは一体不可分のもので,モニター特約付寝具販売契約ともいうべきものであるところ,本件モニター商法(布団の売買契約にモニター契約(業務委託契約)を組み合わせた商法)は,破綻必至のもので,かつ,その勧誘も欺瞞的なもので,いわゆる詐欺的商法に当たり,上記契約は,反社会的で公序良俗に反するものであるから,無効である。第1審原告らは,割賦販売法(平成12年法律第120号による改正前のもの。以下単に「法」という。)30条の4の規定に基づき,ダンシングに対する抗弁(上記契約の無効,クーリングオフ解除,債務不履行解除)をもって,販売代金を立替払いした第1審被告らに対抗し,支払を拒絶することができる法的地位を有するところ,第1審被告らは,これを争い,第1審原告らに割賦金の支払を求めている。」旨主張して,第1審原告ら各人が第1審被告らから割賦金元本の請求を受けたときは,これを拒絶する地位にあることの確認をそれぞれ求めた(本訴事件)ところ,反対に,第1審被告らが,第1審原告らに対し,各立替払契約に基づく割賦金(立替金・割賦手数料)及び遅延損害金の支払を求め(反訴事件),第1審原告ら主張の抗弁の成否が主たる争点になっている事案である。

2  前提となる事実,争点及び争点についての当事者の主張は,次のとおり付加するほか,原判決の事実及び理由,第2の1,2(原判決8頁の22行目から49頁19行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決10頁9行目の「「契約日」欄記載のとおり。」を「「契約日」欄記載のとおり,平成10年6月ころから平成11年3月ころまで。」と改め,13頁5行目の「金額を分割して」の後に「上記売買契約内容一覧表(一)ないし(三)の「信販会社」欄に示した第1審被告に対して」を加える。なお,第1審原告らの主位的請求は,当審における審判の対象になっていないので,主位的請求に関する部分は除く。)。

3  第1審原告らの主張(控訴理由)

(1)  本件モニター商法(本件契約)の効力について

ア 原判決は,寝具(布団)の売買契約とモニター契約の2つの契約に分けたが,1個の契約又は「モニター特約付寝具販売契約」(以下「本件契約」ともいう。)とみるべきである。特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)もこの理解で立法されている(業務提携誘因販売取引)。

イ 原判決が,本件モニター商法(本件契約)の破綻必至性及び欺瞞性を認定しないで,射倖性,暴利性,「買主が契約内容の吟味が不十分となっていることに乘じて不当な内容の契約を締結させたこと」等のみに無効原因を矮小化し,これにより本件契約を一部無効としたのは,誤っている。ちなみに,本件モニター商法の破綻必至性は,ダンシング代表者●●●の刑事事件においても認定されている。第1審原告らが射倖的な取引に参加したとの認定,モニター料は不労所得であるとの認定はいずれも誤りである。

ウ 理論的には契約の一部無効も認められるが,それは有効部分だけでも契約を締結する意思があった場合に限られる。第1審原告らは,本件商品(寝具)を適正価格で売るというのであれば契約をしていなかった。原判決の結論は,寝具が引き渡されているというバランス感覚によるものであろうが,これは損益相殺で処理すべき問題である。もっとも,ダンシングが第1審原告らに返還を求めることは不法原因給付に該当し,許されないものである。

(2)  クーリング・オフ解除について

ア クーリング・オフを定めた条文上の要件がある場合には,クーリング・オフを認めるのが通説的解釈である。権利濫用を問題とした裁判例(東京地方裁判所平成6年6月10日判決,判例時報1527号120頁,同裁判所平成8年4月18日判決,判例時報1594号118頁)も,その結論は権利の濫用には当たらないと判断したものであり,これを認めた裁判例(静岡地方裁判所平成11年12月24日判決,金融法務事情1579号59頁)は名義貸しの事例であり,本件とは,事案を異にするものである。本件契約書面は,「布団を使用した場合はクーリング・オフができなくなる。」という誤解を生じさせるもので,同書面の不備は,原判決判示のように些細なものではない。

イ 原判決説示の「そもそもクーリング・オフ権は「得な買い物」をする手段ではなく,「得心のいく買い物」をする手段である。」との立法趣旨の解釈は,全く独自のものであって誤っている。

(3)  モニター料等の債務不履行(支払債務の履行不能)による契約解除について

ア 原判決によれば,本件モニター契約は無効なのであるから,その債務不履行を論ずるのは論理的に誤っている。

イ また,解除の制限に関する破産法16条についての原判決の解釈も,誤りである。

(4)  法30条の4による抗弁対抗の可否について

ア 原判決が,同条項の要件を肯定し,第1審原告らが第1審被告らに対し抗弁を対抗することが信義則に反するとは認められないとした点は正当であるが,第1審原告らが適正支払額を超えてモニター料を受領した場合に,この範囲で第1審原告らの信販会社(第1審被告ら)に対する支払義務を認めた原判決の判断は,誤りである。

イ 原判決によっても,本件モニター契約は,公序良俗に反して無効なのであるから,ダンシングとの間の清算問題が残るにすぎず,この部分を信販会社(第1審被告ら)に支払わせる理由はない。

(5)  反訴請求を一部認容したことの誤りについて

ア 原判決は,適正価格の範囲では割賦金を支払うべきであるというバランス論に立っているようであるが,こうしたクレジットシステムから生ずる損失については,基本的に信販会社(第1審被告ら)が負担すべきであるという価値判断に基づくべきである。

イ ちなみに,本件と類似の集団的消費者被害事件であるココ山岡事件(平成12年11月の全国統一和解により解決)における裁判所の和解案では,未払金の支払義務不存在を全面的に認めた上,信販会社が一定額の解決金を支払うというものであった。

(6)  原審が「サンプリング手法」を採用したことについて

ア 第1審被告ファインは,原審が採用した「サンプリング手法」を批判するが,本件では,第1審原告らの個別事情を斟酌すべきではないから,「サンププリング手法」は極めて妥当な審理方法であった。

イ 第1審原告らの主張は,個別事情を捨象するため枝葉を切り落とし,公序良俗違反,クーリングオフと予備的な債務不履行(公序良俗違反判断と裏腹)に絞られており,こうした構造の下では,特段の事情がない限り,第1審原告らの個別事情は問題にならない。本件の第1審原告らはあくまでモニター会員にとどまるものであって,モニター会員である以上,そこに生じる「第1審原告らの属性」は,おしなべて「誤差」の範囲にすぎない。問われるべきは,「構造的な破綻必至性のダンシングによる巧妙な隠蔽」と構造的な「勧誘方法の欺瞞性」であったからである。

4  第1審被告オリコの主張(控訴理由)

(1)  本件契約の効力について

ア 第1審原告らは,モニター料の取得だけを目的とし,商品の価値などは度外視して不当な利益を得ようとして反社会的な目的から本件契約を締結したのであるから,たとえ一部でも本件契約責任から解放される理由はない。これを救済することは,裁判所が第1審原告らの反社会的目的を殊更に保護することになる。原判決は,「契約意思の形成過程に歪みがあった。」というような漠然とした理由から公序良俗違反を認めたが,誤っている。

イ 原判決の認めた適正対価(いずれも消費税別でダブルサイズにつき14万円,シングルサイズにつき10万円)は,第1審原告●●●の供述以外に根拠がなく,また,本件寝具の製造業者●●●工業がインターネットで販売する価格がシングルサイズ24万8000円,ダブルサイズ33万8000円であることなどに照らしても,業界の実情を無視したものである。本件価格は,適正対価であり,公序良俗に反するような価格ではない。

(2)  支払停止の抗弁について

自ら射倖的取引に参加した第1審原告らがダンシングに代金の返還を請求することは不法原因給付として許されないものであり,情を知らない信販会社(第1審被告オリコ)に支払停止の抗弁を主張することは,信義則上許されない。また,ダンシングとビジネス会員と第1審原告らが一体となり,本件モニター契約の実態を第1審被告らに知られないようにするため,第1審原告らがモニター料のことを第1審被告ら信販会社に言ってはならない旨情報を操作し,第1審被告らを騙していたものであるから,第1審原告らが第1審被告らに対して抗弁を主張(対抗)することは信義に反する。

(3)  法30条の4の解釈について

第1審原告らは,「自ら反社会的な不当な利得(モニター料)を得ることを目指してモニター契約に及んだ。」,「モニター料の支払をもってクレジット代金の支払に充てる旨を信販会社である第1審被告らに告知すべきであったのに告知しなかった。」との点で,法30条の4の規定によって保護される被害者とはいえない。

(4)  結果の妥当性について

結果の妥当性を求めて強制的な和解を判決で試みたものとしても,原判決の結論は妥当でない。適正対価を入念に検討してから適正支払総額を計算し直すべきであり,その金額と残存するモニター料の吐き出し分の合計が本件における第1審原告らの妥当な支払額である。

5  第1審被告ファインの主張(控訴理由)

(1)  不法利益の保持について

原判決によると,第1審原告らが不法の利益であるモニター料等を信販会社(第1審被告ファイン)に吐き出し,その額が適正価格を超えていれば,割賦金債務が残っていても,第1審原告らは,本件寝具を無償で取得することができ,さらに,割賦金総額を超えていれば,そのまま不法の利益を保持することを許すという不都合な結果になる。

(2)  適正価格認定の問題点について

ア ネズミ講,マルチ商法の事案とは異なり,第1審原告らには本件寝具の購入目的があり,一般顧客に販売されているものであったから,他社の販売価格をもって適正とすれば足りた。

イ 製造業者●●●工業の定価などと比較しても,本件寝具の価格設定が著しく高かったとはいえない。価格は需要と供給の関係で決定されるのに,裁判所が売買価格を決定し,差額を信販会社(第1審被告ファイン)が負担することになるのは問題である。

ウ 原判決は,本件寝具はダブルサイズが14万円,シングルサイズが10万円(いずれも消費税別)で売られても「おかしくなかった」商品であったとし,この適正価格の限度で契約当事者を拘束すると認定しているが,前述のとおり,この適正価格で「売らなければならなかった」ということはできないはずであり,そうであるとすれば,適正価格を超える部分を公序良俗違反とする判断には論理の飛躍があるというべきであり,この点でも原審の判断には問題がある。

(3)  本件モニター契約の無効という判断について

原判決によれば,本件モニター契約は,信販会社(第1審被告ファイン)の金をダンシングと会員で分配するものであるから,公序良俗に反して無効であるというものであり,その被害者は信販会社(第1審被告ファイン)であるのに,結論において,信販会社(第1審被告ファイン)に負担をさせて第1審原告らを保護している誤りがある。第1審原告らは,法が保護を予定する消費者の範疇からは外れ,これを保護する社会的要請はない。

(4)  ダンシングの詐欺の故意について

モニター契約当時,ダンシングには詐欺の意思も破綻の予測もなかった。ダンシングのモニタープランは,2年間を完全に保証しているものではなく,プラン変更,終了の可能性が予告されていたことからしても,ダンシングがモニタープランの打ち切りを宣言すれば,破綻は回避できたものである。なお,刑事判決(神戸地方裁判所平成12年(わ)第769号,第912号)が言及しているのは「テルメイトプラン」のみであり,この時点で詐欺が認められるとしても,それに先立つ「モニタープラン」には当てはまらない。むしろ,ダンシングがモニター料を支払い続けていたことは,詐欺の故意を否定する有力な資料である。

(5)  法30条の4の解釈について

第1審原告らは,立替払いの申込み時にはモニター料が払われなければ割賦金を支払わないという動機を有しておらず,仮にかかる動機を有していたとしても,信販会社に表示していなかったのであるから,第1審原告らは,法30条の4の保護の埒外にいるものであり,いわゆる消費者として保護されるべき者ではない。また,不労所得を目的として契約に参加した第1審原告らには,まず,不労所得を吐き出させるべきことは勿論であるが,それだけでは,無償で布団を取得することになる不都合が生ずるのであるから,原判決のいう適正対価を更に負担させなければ論理に矛盾がある。法30条の4の解釈上は,原審判断の適正対価は抗弁の対抗の問題であり,不労所得の吐き出しの問題は信義則上の問題だからである。

(6)  「サンプリング手法」について

本件は,第1審原告らに対する個別の立替金請求について個別的検討をすべき事案であり,第1審原告らの個別事情を詳しくみるならば,必ずや第1審被告らに対抗できないような背信的な事情をもつ者がいるはずである。ところが,原判決は,「サンプリング手法」を採用した。信義則の判断で第1審原告らの個別事情を捨象するのは妥当ではない。

(7)  加盟店管理責任について

第1審被告らは,第1審原告らがモニター会員であることを知りながら立替払いすることは,そのリスクを考えるとあり得ないことである。第1審被告ファインにおいて,興信所調査を現にしていることなどからみても,加盟店管理について落度はない。「ヴィヴァ・ヴィータ」について,第1審被告ファインには送付されていない。第1審被告ファインは被害者である。

6  第1審被告クオークの主張(控訴理由)

(1)  一部無効の判断について

ア 裁判所が商品(本件寝具)の価格を安易に認定することは問題である。現在は需要を無視した古典的なコスト・プライス法に代わり,様々な工夫を凝らした価格戦略を採るようになっており,実際,ブランド・マークの有無により極端な価格差をもって販売されている。もし,よるべき適正価格があるとすれば,それは現実に市場で形成された価格にほかならない。ダンシングは,モニター商法を始める前には同じシングルサイズの布団を36万円で販売しており,製造業者●●●工業の価格をみても,本件寝具の価格(いずれも消費税別でダブルサイズが46万円,シングルサイズが36万円)は適正価格といえる。

イ 第1審原告らは,本件モニター契約と切断された売買契約について公序良俗違反による無効の主張をしていないから,原判決の認定は弁論主義に違背するものである。

ウ 本件モニター商法は,ネズミ講事件や豊田商事事件とは異なり,必然的に破綻に至るものではない。また,第1審原告らは,本件モニター商法に参加するかどうかを熟慮した末に,最終的に射倖的取引に参加することを選んだものであり,窮迫,軽率,無経験などに乗じて不当な財産的給付を約束させたものではない。

エ 本件モニター商法の悪性は,モニター契約部分に集中しており,その帰責性は専ら第1審原告らにあるのに,そこから勧誘の不当性という要素を借用して,これを信販会社の請求を制限するために用いているのは背理である。

(2)  抗弁対抗の可否について

ア 「ビジネス会員である友人,知人,親戚から有利な儲け話があるとして本件モニター商法に勧誘されたが,うますぎる話で胡散臭いと感じてすぐには話に乗らなかった」者(原判決50頁)において,信販会社に損害を与えることが予見可能であったのに,モニター料目的で契約関係に入ったというのであるから,本来,第1審原告らは,信販会社に立替払いさせるにつき,契約上の保護義務として,モニター料をもってクレジット代金の支払いに充てることを告知する義務があったというべきであり,これをしなかったのは背信的である。

イ 第1審原告らは,第1審被告らに対し,意図的に本件モニター契約の存在を隠蔽していたものであるから,第1審原告らには「背信的な事情」があったといわざるを得ない。

ウ 原判決の指摘する点からすると,「第1審原告らは,熟慮期間中に本件モニター商法に参加するべきかどうかを熟慮した末,最終的に射倖的取引に参加することを選んだ」(原判決62頁)のであるから,公序良俗違反性を作出したのは専ら第1審原告らの方であるといわざるを得ず,このような場合,信義則上,事情を知らない第1審被告クオークに対する法30条の4の規定の抗弁対抗の接続を制限すべきである。

(3)  受取モニター料の放出について

原判決によれば,適正支払総額を超えてモニター料等を受け取っている第1審原告らについては,受領したモニター料等の総額が支払うべき金額になり,適正支払総額に満たないモニター料等しか受領していない第1審原告らについては,適正支払総額が支払うべき金額となるというのであるが,なぜそのようになるのか,その理由を理解することができない。

原判決のように解すると,モニター料等を適正支払総額の支払に充てたことになり,結果的に「不労所得」の温存を許したことになり,不当である。支払総額の範囲内で適正支払総額と受取モニター料の合計額から既払金を差し引いた金額の支払を命ずるのが相当である。

第3当裁判所の判断

1  第1審原告らの主張する抗弁の成否(争点(2)ア,争点(3))について

(1)  本件モニター商法は,破綻不可避のもので公序良俗に反するか。

ア 本件各契約に至る経緯及びその内容等

本件各売買契約及び本件各モニター契約の内容,第1審原告らと第1審被告らとの本件各立替払契約内容,ダンシングの本件モニター商法の推移及び破産申立てに至る経緯は,前記前提となる事実記載のとおりであるところ,証拠(甲A40,甲A51,甲A52の1,2,甲A53,甲B15ないし21,甲C1ないし826(ただし,甲B15ないし21及び甲C1ないし826については,枝番をすべて含む。),原審証人●●●,同●●●,同●●●,同●●●,第1審原告●●●,同●●●,同●●●,同●●●,同●●●,同●●●,同●●●,同●●●)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

(ア) 第1審原告らは,ビジネス会員である友人知人・親戚などから有利な儲け話があるとして,本件モニター商法に勧誘されたが,うますぎる話で胡散臭いと感じてすぐには話に乗らなかった。

(イ) しかし,第1審原告らはいずれも,勧誘者から,「今回のモニター募集が人数と期間を限定してのもので,もうすぐ締め切られるから契約を急いだ方がよい」とか,「商品である布団は,マイナスイオンを発生する特殊な素材が織り込んであり,体にいい」・「アトピーにも効く」,「布団だけを買っていく人もいる」とか,「今回のモニター募集で布団のよさが口コミで広がっていけばダンシングにとってもメリットがある」,「ダンシングは,今伸びている会社で,絶対に採算がとれるから大丈夫」とか,「簡単なレポートをダンシングに提出するだけで,布団代を上回るお金がもらえて,布団代を信販会社に支払ってもお金が残り,いい小遣い稼ぎになる」とか,モニター料が現実に振り込まれてきている預金通帳を示されながら,「毎月20日にダンシングからお金が振り込まれてきて,その月の27日にクレジット落ちるから,自分のお金は用意しなくていい」・「モニター料は確実に入ってくるから決して損をすることはない」とか言われて,結局,自分のお金を使わずに布団が手に入る上に小遣い稼ぎにもなるということで,布団の値段をあまり気にすることなく,本件各売買契約及び本件各モニター契約を締結した。

(ウ) そして,第1審原告らは,本件各売買契約及び本件各モニター契約を締結した後,ダンシングから商品である布団の引渡しを現実に受けて,これを現に使用し得る状態におき,大多数の原告は,現にこれを使用し,その感想や意見を所定の様式の用紙でダンシングに報告して,モニター料の支払を受けていた。

(エ) ちなみに,本件各商品の●●●工業株式会社からの仕入価格は,ダブルサイズのものが7万円,シングルサイズのものが5万円(いずれも消費税別)であったが,第1審原告らに対し,ダブルサイズは代金46万円,シングルサイズは代金36万円(いずれも消費税別)でそれぞれ販売された。

イ 上記ア認定の事実及び前記前提となる事実によれば,ダンシングが行った本件モニター商法(布団の売買契約にモニター契約(業務委託契約)を組み合わせた商法)は,モニター特約付寝具販売契約ともいうべき取引をその主要なものとし,モニタープランを主力として展開する販売方法であって,ダンシングにおいて本件商品(寝具)の代金を第1審被告らの信販会社から立替払を受けたとしても,モニター会員のレポートの提出によりそれを大幅に上回る金員を支払わなければならないものであったといえるから,このような取引を継続してもダンシングにおいて利益を留保する余地はなく,客観的にみればいずれ経営破綻を招くことは誰の目からみても明らかな商法であり(ちなみに,モニター料(毎月3万5000円)を11回分支払った段階で,シングルサイズの売上げ36万円を上回る38万5000円のモニター料を支払うことになるのであるから,ダンシングとしては,この段階で当該顧客との取引が大幅な赤字になる。),しかも,ダンシングは,本件モニター商法を連鎖販売取引(破綻必至のマルチ商法)であるビジネス会員制度と結び合わせて,本件モニター商法を更に維持,発展させ,加速度的に破綻への道を辿り,多数の顧客に損失を被らせたのであるから,このような破綻不可避の商法は,自由取引の枠組みを超える反社会的な性格の故におよそ存続の許されない取引類型に当たるものというべきであり,公序良俗に反する違法なものであるといわなければならない。ちなみに,本件モニター特約付寝具販売契約の実質は,ビジネス会員制度と結合することによって,無限連鎖講の防止に関する法律1条にいう「終局において破綻すべき性質のものであるのにかかわらずいたずらに関係者の射倖心をあおり,加入者の相当部分の者に経済的な損失を与えるに至るもの」とほぼ同視しうるものというべきものであり,この観点からみても,本件モニター特約付寝具販売契約は社会生活上許されない違法なものであるということができる。

なお,第1審被告ファインは,「モニター契約当時,ダンシングには詐欺の意思も破綻の予測もなかった。ダンシングのモニタープランは,2年間を完全に保証しているものではなく,プラン変更,終了の可能性が予告されていたことからしても,ダンシングがモニタープランの打ち切りを宣言すれば,破綻は回避することができた。ダンシングがモニター料を支払い続けていたことは,詐欺の故意を否定する有力な資料である。」旨主張する。

しかしながら,証拠(甲A40,甲A92,甲A104,甲A107)によれば,①ダンシングは,事業として継続可能な限定的モニター募集であると言って勧誘しながら,モニター会員数が当初限定の1000人を平成10年4月に超え,その後の2000人の限定枠を同年7月ころに超過するに至っても,上記勧誘文言に反し何らの数的抑制も行わず,その後も依然としてモニター会員の募集を続けていたこと,②本件モニター商法の企画立案者でかつ総括者でもあるダンシング代表者の●●●は,平成10年6月ころ,ダンシングの役員会議等で●●●専務取締役や●●●営業統括本部長らダンシングの幹部から,「このままでは月次のモニター料の支払が収入を上回り破綻に陥る。」旨の報告を受け,モニター料の削減などモニタープランの変更について進言されていたことが認められ,これらの事実に徴すると,●●●は,平成10年4月(モニター会員の数が1000人を上回った時期),遅くとも同年6月ころ(ダンシングの役員会議等で経営破綻に陥る危険性の報告がされた時期)には,本件モニター商法が破綻必至の取引であることを認識していたものと認めるのが相当である(ちなみに,第1審原告らはいずれも平成10年6月以降のモニター会員である。)。したがって,第1審被告ファインの上記主張は失当というほかない。

(2)  本件モニター商法の勧誘の違法性(詐欺的商法であるか)

ア 証拠(甲A52の1,2,甲A53,甲B15の1ないし6,甲B16の1ないし6,甲B17の1,2,甲B18の1,2,甲B19の1,2,甲B20の1,2,甲B21の1ないし6,原審証人●●●,同●●●,同●●●,第1審原告●●●,同●●●,同●●●,同●●●,同●●●,同●●●,同●●●,同●●●)によれば,①本件モニター商法は,勧誘に際して,総括者(ダンシング代表者●●●)又は勧誘者(ビジネス会員)において,「file_5.jpg今回のモニター募集は,人数限定,期間限定の勧誘を受けた者に特典的な制度であり,会社にとってもモニター会員を募ることによってモニター会員からいろんな有用な情報を得ることができる上,テレビコマーシャルなどを行うのと比較して安い宣伝広告費で商品のすばらしさを広めてもらうことができるというメリットがある。file_6.jpg商品である布団は,マイナスイオンを発生する特殊な素材を織り込んであるから健康にも効用があり,チラシを見て布団だけを買いにくる人も大勢いる。file_7.jpgモニター会員になってもその半数以上がビジネスのコミッションに魅力を感じてビジネス会員に登録替えしている。file_8.jpg会社には十分な余剰金が留保されている。file_9.jpgモニター料は確実に入ってくるから決して損をすることはない。file_10.jpg会社は,しっかりした「数の理論」を基礎として運営されている。」などと述べていたことが認められる。

イ 上記ア認定の事実,前記前提となる事実及び前記(1)認定の事実を総合すると,ダンシングは,破綻必至の本件モニター商法を破綻しないなどとその実態を覆い隠し,ダンシングにとってさほど意味のないモニター業務を意味あるものと殊更に強調して,モニター料の支払が受けられなくなるおそれがあることを隠蔽し,組織的かつ巧妙な勧誘方法をもって,顧客である第1審原告らの軽率さないし善良さ(経済的弱み,消費者心理,義理人情の弱み等)につけ込み,甘言を用いて顧客である第1審原告らの正常かつ冷静な判断力をまひさせ,本件モニター付寝具(布団)販売契約を締結していたものであって,この点において欺瞞的であり,本件モニター商法はいわゆる詐欺的商法に当たるものといわざるを得ない。ちなみに,上記認定の勧誘手法(現に大半の顧客にモニター特約を付している実態を隠蔽し,あたかも限定的なモニター募集であるかのように装って勧誘することにより,個々の消費者である第1審原告らをして錯覚に陥らせ,モニター特約の問題性や破綻必至性に気づかれないようにしながら,自分のお金は使わなくても布団が手に入る上に小遣い稼ぎにもなることを殊更に強調し,あるいは,締切りが迫っていると申し向けて契約を急がせるなどして,第1審原告らにおいて契約内容の吟味が十分できないような状況を作り出し,そのような状況に乗じて本件モニター特約付寝具販売契約を締結させた。)は,独禁法2条9項に基づく昭和57年公正取引委員会告示15号にいう不公正な取引方法の8項(欺瞞的顧客誘因)・9項(不当な利益による顧客誘因)に当たり,公正な取引秩序を害するものであるのみならず,「連鎖販売取引の相手方の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものにつき,故意に事実を告げない行為」にも該当するものであって,実質的には,特定商取引法34条1項5号(名称変更前の訪問販売等に関する法律12条1項5号)の立法趣旨にも抵触するものであるというべきである。

(3)  上記認定のとおり,本件モニター商法は,破綻不可避の反社会的な商法であり,かつ,これを隠蔽する欺瞞的勧誘方法を伴う詐欺的商法であり,しかも,被害の急速な拡大を招く危険な商法(いわゆるマルチ商法として禁圧されるべき商法)にも該当するものであるから,公序良俗に反する違法な取引であるといわなければならない。

なお,第1審原告らは,「ダンシングは,本件商品を適正価格(シングルサイズ3万4600円から5万2500円,ダブルサイズで4万8300円から7万4700円)の8倍から12倍の値段をつけて販売し,その暴利行為性は明らかであり,本件売買契約(本件モニター契約)は,適正な価格秩序を乱し,契約の一方当事者を不当に不利な地位におくものとして,公序良俗に反した無効な契約である。」旨主張するけれども,本件全証拠によるも本件商品の適正価格が上記第1審原告ら主張の価格であると認めることはできないから,上記第1審原告らの主張は,その前提を欠くものであるというほかなく,採用の限りでない。

(4)  本件各売買契約と本件各モニター契約の関係について

第1審被告らは,「本件各モニター契約に生じた事由を理由に本件売買契約部分の効力を争う第1審原告らの主張は,第1審被告ら信販会社との関係では,信義に反するものである。第1審原告らが第1審被告ら信販会社に抗弁として主張(対抗)できるものは,本件各売買契約に固有の抗弁事由に限られるべきである。」旨主張する。

しかしながら,前記認定のとおり,本件モニター商法(布団の売買契約にモニター契約を組み合わせた商法)は,本件商品(寝具)を購入してモニター会員となり,体験リポートを提出すれば,モニター料を受領できるという,いわゆるモニタープランと称する契約システムであって,①ダンシングにおける契約者総数1万7687名のうち,モニター会員は1万4272名,ビジネス会員は2137名,チャンス会員は804名,テルメイト会員は474名であり,モニター契約のみの契約者,あるいは寝具のみの本件売買契約者は存在せず,必ず寝具の本件売買契約にモニター契約やビジネス特約などを付帯させていたこと(甲A40,甲A45,甲A47,甲A52の1,2),②ダンシング所定の契約書の体裁からしても,モニター契約が常に寝具の本件売買契約に付帯して締結されるようになっていること(甲A14の1ないし4の「登録申請書(兼商品購入申請書)」),③第1審原告らの認識としても,商品代金を上回るモニター料を受領できる旨の勧誘を受けたことが寝具購入の重要な要素となり,モニター料の受領と寝具の購入とは不可分一体の関係にあるものとして本件売買契約(本件モニター契約付)が締結されていることなどにかんがみると,本件売買契約と本件モニター契約は不可分一体の契約であると解するのが相当である。したがって,本件各売買契約と本件各モニター契約を分断し,別個独立のものとする見解は相当といえない。ちなみに,特定商取引法(平成12年11月改正,平成13年6月1日施行)51条は,「業者から提供され又はあっせんされる業務に従事することにより,利益(業務提供利益)を収受し得ることをもって誘引し,商品等の購入又は取引料の支払い(特定負担)を行わせる取引」について規定しているが,これは,「業務提供契約」部分と「商品販売契約」部分を分断的に捉えるのは相当ではなく,取引実態に則してこれを一体不可分の取引であるとみるのが相当であるからである。上記特定商取引法51条は,本件事案発生後に新設されたものであるが,本件モニター商法の実態が同条にいう「業務提携誘引販売取引」に該当することは明らかである。

(5)  以上のとおり,本件モニター商法(布団の売買契約にモニター契約(業務委託契約)を組み合わせた商法)は,破綻不可避の反社会的なものであるのみならず,欺瞞的勧誘を伴う詐欺的商法にも該当するものであって,公序良俗に反する違法な取引であるところ,これを生み出した本件各売買契約と本件各モニター契約は,不可分一体の契約であって,モニター特約付寝具販売契約ともいうべきものであると認められるから,上記各契約は,公序良俗に反し全部無効であるといわなければならない。

2  法30条の4所定の抗弁対抗の可否(争点(4))について

(1)  法30条の4の適用の有無について

ア 本件各立替払契約が割賦購入あっせんとして行われたものであること,本件各売買契約の目的物である「寝具」が法の適用を受ける「指定商品」であることは,当事者間に争いがない(前記前提となる事実)。

イ ところで,法30条の4の規定は,信販業者に対する関係で,消費者の利益を保護するためのものであり,かつ,同条において対抗を認める抗弁には制限がないのであるから,第1審原告らは,特段の事情のない限り,前記認定の公序良俗違反を理由とする本件各売買契約(本件各モニター契約付)の無効(抗弁)を主張して,第1審被告ら信販会社の各請求を拒むことができると解するのが相当である。ちなみに,私法上の重大な特則として,抗弁対抗の規定が設けられたのは,商品の売買契約と立替払契約とは別個独立の契約であって,本来であれば,売買契約に無効,取消し事由等のトラブルがあっても,割賦購入あっせん業者は,割賦金の支払を請求することができる理であるが,①割賦購入あっせん業者と販売業者との間に購入者への商品販売に関して密接な関係が継続的に存在していること,②このような密接な関係が存在するため,購入者はいわゆる自社割賦と同様に,対抗事由が存する場合には支払請求を拒み得ることを期待していること,③割賦購入あっせん業者は,継続的取引関係を通じて販売業者を監督することができ,また,損失を分散・転嫁する能力を有していること,④これに対して,購入者は,購入の際に一時的に販売業者と接するにすぎず,また,契約に習熟していないし,損失負担能力が低いなど,割賦購入あっせん業者と比較して格段の能力差があることなどの諸事情にかんがみ,消費者の利益を保護するという社会的要請(法1条の目的)に応えるために必要不可欠な枠組みであるとされたからである(甲A74ないし甲A76)。

ウ なお,購入者が割賦購入あっせん業者に対して抗弁を主張(対抗)することが信義に反すると認められるような特段の事情がある場合には,抗弁対抗が許されないことは,信義則の法理に照らし当然のことである。ちなみに,抗弁対抗を認めた法30条の4の規定の趣旨及び目的に照らすと,前記認定の事実関係の下においては,「抗弁対抗を主張することが信義に反する」として制限される場合とは,信販会社である第1審被告らとの本件各立替払契約(クレジット契約)締結に際し,購入者(消費者)である第1審原告らに何らかの過失や不注意があることを指すのではなく(ちなみに,前記認定事実によれば,第1審原告らは,消費者の軽率さ(落ち度)や経済的弱み等を利用したダンシング(販売店)の組織的でかつ巧みな勧誘によって,本件モニター商法に引き込まれたものであるから,第1審原告らに上記各契約に際して何らかの落ち度があったとしても,公平の理念にかんがみ,その落ち度をもって信義則に反するものであるということはできないものというべきである。),信販会社である第1審被告らにおいて,販売店であるダンシングの公序良俗に反する本件モニター商法につき加盟店に対する調査,管理の義務を尽くしたかどうかをも考慮に入れた上で,「購入者(消費者)である第1審原告らにおいて,販売店であるダンシングの本件モニター商法が公序良俗に反するものであることを知り,かつ,クレジット契約の不正利用によって信販会社に損害を及ぼすことを認識しながら,自ら積極的にこれに加担した」というような背信的事情がある場合(「消費者において,販売店がクレジットシステムを悪用して信販会社から不正な利得を取得することにつき,その間の事情を認識しながら,その手続や利得の分配に積極的に加担したような場合」)をいうものと解するのが相当である。

(2)  そこで,第1審原告らにおいて,前記認定の公序良俗違反を理由とする本件各売買契約(本件モニター契約付)の無効(抗弁)を,信販会社である第1審被告らに対し主張(対抗)することが信義則に反し許されないかについて検討を加える。

ア 第1審被告らは,「本件モニター商法の実態は,「有償の名義貸し」であり,第1審被告ら信販会社は被害者である。法30条の4に基づき,第1審原告らが第1審被告らの割賦金請求を拒絶するのは,信義則上許されない。」旨主張する。

しかしながら,①そもそも,本件モニター商法のような病理現象は,信販のシステムが孕む構造的な危険ともいえるものであるから,このような危険が現実化すれば多方面に甚大な被害を及ぼすことは必定であり,システムの開設者である信販会社には,信販のシステムが悪用されないよう加盟店管理を徹底することが期待されていることに照らすと,本件モニター商法の顛末は,第1審被告ら信販会社において摘み取っておくべき危険が現実化したものという見方もできること,②モニター会員である第1審原告らが本件各売買契約(本件各モニター契約付)に誘引され,上記各契約及び本件各立替払契約を締結するに至った経緯は前記認定説示のとおりであって,第1審原告らは,ダンシング及びビジネス会員らの巧みな勧誘によって,第1審被告ら信販会社をだますことになるとは思いもよらずに,結果的にダンシングの違法な本件モニター商法に引き込まれたものにすぎないことに照らすと,第1審原告らの「有償の名義貸し」であるとは到底認められないし,また,第1審被告らが被害者であるとしても,本件モニター商法による被害を第1審原告らに転嫁することはできないものというほかなく,第1審原告らに背信的な事情があるとは到底認められないから,第1審被告らの上記主張は採用するに由ないものである。

なお,第1審被告らの主張中には,第1審被告らが本件モニター商法の実態を察知する端緒が与えられていなかったことを問題にするところが存するけれども,①前記認定の第1審原告らが本件各売買契約(本件各モニター契約付)に誘引され,上記各契約及び本件各立替払契約を締結するに至った経緯,②前記認定のとおり,第1審原告らは,ダンシングの欺瞞的勧誘方法により錯誤に陥り,第1審被告ら信販会社をだますことになるとは思いもよらずに,結果的にダンシングの違法な本件モニター商法に引き込まれたものにすぎないことに照らすと,第1審原告らにおいて,第1審被告ら信販会社に損害を与えることになることを認識しながら,本件モニター商法の実態を意図的に隠蔽していたとは到底認められないこと,③法30条の4の規定は,前記説示のとおり,信販業者に対する関係で消費者の利益を保護するものであることなどにかんがみると,仮に第1審被告らにおいて第1審原告らから本件モニター商法の実態を察知する端緒を与えられていなかったとしても,そのことをもって直ちに第1審原告らが第1審被告らに対してその割賦金請求を拒絶し得なくなると解する余地はないものというほかない。

イ また,第1審被告らは,「自ら反社会的で不当な利得(モニター料)を得ることを目指して,本件各モニター契約に及んだ第1審原告らは,モニター料の支払をもってクレジット代金の支払に充てる旨を信販会社である第1審被告らに告知すべきであったのに,これを告知しなかったのであるから,法30条の4の規定によって保護される被害者とはいえない。第1審原告らは,信販会社である第1審被告らに損害を与えることが予見可能であったのに,モニター料目的で契約関係に入ったものであるから,信販会社に立替払いさせるにつき,契約上の保護義務として,モニター料をもってクレジット代金の支払に充てることを告知する義務があったというべきであり,告知しなかったのは背信的であるといわざるを得ない。」旨主張する。

しかしながら,前記認定説示のとおり,第1審原告らは,ダンシングの欺瞞的勧誘方法により錯誤に陥り,モニター料の取得が経済的実体を伴う取引である(寝具の品質・効能等に関するレポート,宣伝・広告等の対価)との認識の下に本件各売買契約(本件各モニター契約付)を締結したものであって,モニター料の取得が上記各契約締結の動機であったとしても,本件モニター料をもって不当な利得であるとはいえないし(ちなみに,本件モニターの内容は,手軽であって,そのモニター料も,顧客(消費者)である第1審原告らにとって,実入りの良いものであることは否定できないが,本件モニター料の取得をもって不労所得であると断定することはできない。),第1審原告らにおいて,本件モニター料を取得するために反社会的な目的を有していたとは到底認められず,また,本件各売買契約(本件各モニター契約付)及び本件各立替払契約を締結するに当たり,第1審原告らにおいて,信販会社である第1審被告らに損害を与える結果になることを予見することができたということもできないから,第1審被告らの上記主張は採用するに由ないものである。ちなみに,販売店であるダンシングの販売方法がモニタープランを主力として展開するモニター特約付寝具販売契約(本件モニター商法)であるという実態については,信販会社である第1審被告らにおいて,加盟店調査義務を尽くすことによりこれを把握すべきものであり,前記認定の第1審原告らが本件各売買契約(本件各モニター契約付)及び本件各立替払契約を締結するに至った経緯や本件各立替払契約の締結方法等に照らすと,第1審原告らにおいて,本件各立替払契約(クレジット契約)上の義務として,上記第1審被告ら主張の告知義務があったということは到底できない。なお,第1審被告らの主張の中には,「第1審原告らが第1審被告らに対し,意図的に本件モニター契約の存在を隠蔽していたものであるから,第1審原告らには「背信的な事情」があったといわざるを得ない。」旨の主張が存するけれども,第1審原告らが第1審被告らに対して意図的に本件モニター契約の存在を隠蔽していた事実は,これを認めることができない(ちなみに,前記認定のとおり,第1審原告らが本件各契約を締結するに至った経緯や第1審原告らがダンシングの欺瞞的勧誘方法により錯誤に陥り,結果的にダンシングの違法な本件モニター商法に引き込まれたものにすぎないこと等に照らせば,第1審被告らの上記主張事実は到底認められないし,第1審被告ら提出の証拠(乙ⅠAの11ないし13,乙ⅠA42,乙ⅠA43)は,いずれも別件訴訟における証拠であって,これらによっても,第1審被告ら主張の上記事実を認めることはできない。)から,上記第1審被告らの主張は失当というほかない。

ウ さらに,第1審被告らは,「自ら射倖的取引に参加した第1審原告らがダンシングに代金の返還を請求することは不法原因給付として許されず,事情を知らない信販会社(第1審被告オリコ)に支払停止の抗弁を主張することは,信義則上許されない。第1審原告らは,最終的に射倖的取引に参加することを選んだものであり,公序良俗違反性を作出したのは専ら第1審原告らの方であるといわざるを得ず,このような場合には,信義則上,事情を知らない信販会社(第1審被告クオーク)に対する法30条の4の規定の抗弁対抗の接続を制限すべきである。」旨主張する

しかしながら,前記認定説示のとおり,第1審原告らは,ダンシングの欺瞞的勧誘方法により,本件各売買契約(本件各モニター契約付)を締結したものであって,自ら射倖的取引に参加したとの認識はなく,錯誤に陥った結果,公序良俗に反する上記各契約を締結するに至ったものと認められ,また,信販会社である第1審被告らは,ダンシングの違法な本件モニター商法につき,認識していたかどうかを問わず,法30条の4の規定に基づく抗弁対抗を受けるものであるから,本件各売買契約(本件各モニター契約付)が公序良俗に反し無効であることについて,第1審被告らにおいてその事情を知らなかったからといって,そのことをもって第1審原告らの抗弁対抗を制限する事情とすることはできない。したがって,第1審被告らの上記主張は採用することができない。

エ 第1審被告らの加盟店調査義務について

第1審被告らは,「第1審原告らが信販会社の加盟店調査義務違反を云々すること自体,信義に反するものであり,法30条の4の規定に基づき,第1審被告らに対し,公序良俗違反を理由とする本件各売買契約の無効(抗弁)を主張するのは,信義則上許されない。」旨主張する。

しかしながら,前記認定説示のとおり,信販会社である第1審被告らが加盟店の調査,管理の義務を尽くしたかどうかは,法30条の4の規定に基づく第1審原告らの抗弁対抗の主張が信義に反するものであるかどうかを判断するについて,一つの重要な考慮要素であるといわなければならない。このことは,①信販会社は,割賦販売システムを巡る消費者トラブルの未然防止又は拡大防止を図るため,当該加盟店のパンフレット,広告,契約書面等の資料を取り寄せること等によって加盟店が行う商品等の販売又は役務提供の方法を具体的に把握し,消費者に対する電話意思確認において契約内容を具体的に質問することはもとより,パンフレットや契約書等の内容を質問し,加盟店管理において得ている情報と矛盾がないかを尋ねるなどして,販売方法等を慎重に把握すべきものとされていること(甲A137),②信販会社が継続的に提供するクレジットシステムにより悪質販売業者の不適正な販売行為が助長されている関係があること,③こうした信販のシステムが孕む構造的な危険(病理現象)については,システムの開設者である信販会社が信販のシステムが悪用されないよう加盟店の調査・監督義務を徹底することにより対処することが期待されていることなどに照らせば,当然の事理であるといわなければならない。

そこで,上記のような観点から,第1審被告らが加盟店に対する調査,管理の義務を尽くしたものであるかどうかについて検討するに,①証拠(乙ⅢB7,原審証人●●●)によれば,第1審被告クオーク(旧商号東京総合信用株式会社)は,前記認定のとおり,平成9年3月にダンシングと加盟店契約を締結したが,ダンシングがビジネス会員制度を始めた平成10年2月に取扱件数が急激に拡大したことから,同第1審被告の担当課長●●●が同月28日にダンシングの●●●社長と面談し,販売方法を訪問販売から紹介販売に切り替えた旨を聞かされ,この時点で同第1審被告は本件モニター商法の実態を察知したものであることがうかがわれるところ,同第1審被告の本社において,同年3月以降神戸支店に対してダンシングの「システム販売を懸念する。」旨注意喚起をしたものの,それ以降においても,同第1審被告は宅急便を使用して箱単位で信販契約書をダンシングに送り続けていたことが認められるから,同第1審被告において,加盟店であるダンシングに対する調査,管理の義務を尽くしていたと認めることは困難であり,②第1審被告オリコは,平成10年3月に加盟店契約を締結し,当時モニタープランが明記されたパンフレット「ニュービジネス」(甲A21の1)が大量に出回っていたのに,同第1審被告の担当者である神戸支店長●●●は,加盟店契約締結に際して徴求しておくべき書類(経歴書,会社案内,決算書,商品パンフ等)の徴求をしなかったばかりか(原審証人●●●),同年4月3日に●●●社長から紹介販売による拡販も行っている旨の説明を受けながら(乙ⅠA3),しかも,同第1審被告のダンシングとの取引高が,平成10年8月(前月比40%強),同年10月(同30%強)と異常な伸びを示していたにもかかわらず,これに対し特段の調査をした形跡もうかがえず,ダンシングの会報「ヴィヴァ・ヴィータ」が毎号同第1審被告に郵送されていたが,●●●支店長は,同年11月初旬にようやくモニタープランが明記されたパンフレット「ニュービジネス」(甲A21の1)を入手したものであって(原審証人●●●),以上のような事実にかんがみると,第1審被告オリコは,ダンシングの本件モニター商法の実態を知っていたか,知らなかったとしても,調査,管理の義務を尽くしておればその実態を容易に知り得たものといわなければならず,③第1審被告ファインは,平成10年10月に加盟店契約を締結しているが,証拠(甲A119,甲A120の1ないし8,乙ⅡA19,原審証人●●●,同●●●)によれば,同第1審被告の第2営業部渉外課主任●●●は,加盟店契約に先立つ同年8月21日に飛び込みでダンシングの東京営業所を訪れ,常務取締役●●●から,ダンシングが「システム販売」(訪問販売法にいう連鎖販売取引)の形態で寝具を販売している旨を聞知し,2回目の訪問の際には資料として概要書面,登録申請書,会社案内を入手し,同年9月にはダンシングに多数のモニター会員と一部のビジネス会員が存在することを認識しながら,加盟店契約を締結した上,同第1審被告のダンシングとの取扱件数が加盟店契約を締結した平成10年10月時点の64件から,11月(455件),12月(967件),平成11年1月(1048件),2月(1841件)になってはじめて立替払いを停止するに至ったものであると認められるから,第1審被告ファインは,加盟店契約の当初からダンシングが連鎖販売取引をしていることを知っていたものであって,本件モニター商法の実態を知っていたか,知らなかったとしても,利潤追求の余り加盟店に対する調査,管理義務を怠ったものであるというほかない。

以上のとおり,第1審被告らは,加盟店であるダンシングに対する調査,管理の義務を尽くしたものとはいえない。このように,信販会社に課せられている加盟店に対する調査,管理の義務を尽くさず,漫然と利潤の追求に走った第1審被告らにおいて,前記認定のような事実関係の下で,上記のように「第1審原告らが法30条の4の規定に基づき公序良俗違反を理由に本件各売買契約の無効(抗弁)を第1審被告らに対し主張することは,信義則上許されない。」旨主張するのは,道理に反するものであるというほかなく,したがって,この観点からみても,第1審被告らの上記主張は理由がない。

オ 審理方法に対する非難について

第1審被告ファインは,原審裁判所が,第1審原告らの当事者本人の尋問につき,サンプリング手法による審理方法を採用したことを非難し,「第1審原告らの個別的事情を詳しく審理するならば,第1審被告らに法30条の4所定の抗弁を対抗することができないような背信的な事情をもつ者がいるはずである。信義則の判断でサンプリング手法を採用し,第1審原告らの個別事情を捨象するのは妥当でない。」旨主張する。

しかしながら,本件事案のような大規模訴訟(民訴法268条)では,審理の円滑かつ計画的な実施を図るために,事件の特性に応じた手続規制が要請されるところであって,原審裁判所が,人証調べの効率化,迅速化に主眼をおき,訴訟関係当事者と協議の上で,選出された一定数の第1審原告ら本人に限って,本人尋問を実施する審理方法(サンプリング手法)を採用したことは相当であり,これをもって妥当性を欠く審理方法ということはできない。なお,第1審原告らの大多数は,各自の被害者台帳を提出するのみで,個別的な事情についてその詳細を記載した陳述書等を提出していないけれども,前記認定の事実関係の下においては,全員がモニター会員であるという共通の属性を除けば,それ以外の第1審原告ら各人の個別事情は,第1審原告らの本件各主張(公序良俗違反,クーリング・オフ解除,債務不履行解除)との関係では捨象され,第1審原告ら全員の個別事情を審理判断する必要性はないものと認められ,また,第1審被告ファイン主張の「背信的事情」の審理判断についても,基本的には同様のことが妥当し,「背信的事情」の存否は,第1審原告らの公序良俗違反の主張に対する審理と裏腹の関係にあり,公序良俗違反の有無(争点(2)ア)について審理する過程において,第1審原告ら自らが公序良俗違反を作出したか等の同第1審被告主張の「背信的事情」の有無も明らかになるものであり,第1審原告ら全員の個別事情を逐一審理判断する必要性はないものと認められるから,同第1審被告の上記主張は失当というほかない。

3  争点に対する判断のまとめ

以上によれば,その余の争点について検討するまでもなく,第1審原告ら主張の抗弁はいずれも理由がある。すなわち,

(1)  本判決別紙当事者目録1記載の第1審原告ら各人は,第1審被告オリコに対し,原判決別紙立替払契約内容一覧表(一)記載の当該割賦金元本(立替金及び割賦手数料)につき,同第1審被告からその請求を受けたときは,法30条の4の規定に基づき,原判決別紙売買契約内容一覧表(一)記載の当該売買契約(本件モニター契約付)が公序良俗に反して無効であることを主張(対抗)して,その支払請求を拒絶することができる地位を有する者であると認められる。

(2)  本判決別紙当事者目録2記載の第1審原告ら各人は,第1審被告ファインに対し,原判決別紙立替払契約内容一覧表(二)記載の当該割賦金元本(立替金及び割賦手数料)につき,同被告からその請求を受けたときは,法30条の4の規定に基づき,原判決別紙売買契約内容一覧表(二)記載の当該売買契約(本件モニター契約付)が公序良俗に反して無効であることを主張(対抗)して,その支払請求を拒絶することができる地位を有する者であると認められる。

(3)  本判決別紙当事者目録3記載の第1審原告ら各人は,第1審被告クオークに対し,原判決別紙立替払契約内容一覧表(三)記載の当該割賦金元本(立替金及び割賦手数料)につき,同第1審被告からその請求を受けたときは,法30条の4の規定に基づき,原判決別紙売買契約内容一覧表(三)記載の当該売買契約(本件モニター契約付)が公序良俗に反して無効であることを主張(対抗)して,その支払を拒絶することができる地位を有する者であると認められる。

4  結論

(1)  本訴請求(当審における審判の対象である予備的請求)について

以上によれば,①本判決別紙当事者目録1記載の第1審原告らと第1審被告オリコとの間において,同第1審原告ら各人が同第1審被告から原判決別紙立替払契約内容一覧表(一)記載の当該割賦金元本(立替金及び割賦手数料)の請求を受けたときは,これを拒絶することができる地位にあることの確認を求める同第1審原告らの第1審被告オリコに対する各請求(予備的請求)はいずれも理由があり,②本判決別紙当事者目録2記載の第1審原告らと第1審被告ファインとの間において,同第1審原告ら各人が同第1審被告から原判決別紙立替払契約内容一覧表(二)記載の当該割賦金元本(立替金及び割賦手数料)の請求を受けたときは,これを拒絶することができる地位にあることの確認を求める同第1審原告らの第1審被告ファインに対する各請求(予備的請求)はいずれも理由があり,③本判決別紙当事者目録3記載の第1審原告らと第1審被告クオークとの間において,同第1審原告ら各人が同第1審被告から原判決別紙立替払契約内容一覧表(三)記載の当該割賦金元本(立替金及び割賦手数料)の請求を受けたときは,これを拒絶することができる地位にあることの確認を求める同第1審原告らの第1審被告クオークに対する各請求(予備的請求)はいずれも理由があるので,第1審原告らの第1審被告らに対する本訴各請求は,いずれも正当として認容すべきものである。

(2)  反訴請求について

第1審原告らの抗弁はいずれも理由があるので,第1審被告オリコ,第1審被告ファイン及び第1審被告クオークの第1審原告らに対する反訴各請求は,いずれも理由がなく棄却すべきものである。

(3)  よって,これと結論を一部異にする原判決は不当であり,第1審原告ら(第1審原告中の被控訴人ら24名を除く。)の各控訴はいずれも理由があるので,同第1審原告らの各控訴に基づき,本訴請求につき,原判決主文3,5,7及び8項を本判決主文1項の(1)ないし(3)のとおり変更し,反訴請求につき,原判決主文9ないし11項を取り消し,この部分に係る第1審オリコ,第1審被告ファイン及び第1審被告クオークの反訴各請求をいずれも棄却することとし,第1審被告らの本件各控訴はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大谷種臣 裁判官 松村雅司 裁判官 島村雅之)

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