大阪高等裁判所 平成14年(ネ)2263号 判決 2002年11月12日
控訴人
a信用金庫
同代表者代表清算人
A
同訴訟代理人弁護士
笹野哲郎
貞本幸男
被控訴人
Y
同訴訟代理人弁護士
丹治初彦
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求める裁判
1 控訴の趣旨
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人の請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
2 控訴の趣旨に対する答弁
主文同旨
第2当事者の主張
当事者の主張は、次のとおり付加するほか、原判決「事実及び理由」中の「第二 当事者の主張」記載のとおりであるから、これを引用する。
原判決三頁二〇行目の次に行を改めて、次のとおり加える。
「三 抗弁
1 昭和六二年に無記名定期預金が廃止されることとなり、昭和六三年三月一一日付け大蔵省銀行局長通達「特別定期預金及び特別金銭信託の整理等について」(蔵銀第四三九号)によって無記名定期預金の新規受入れの停止及び可及的速やかな整理がうたわれ、同日付け大蔵省銀行局総務課長事務連絡「特別定期預金及び特別金銭信託の整理に関する取扱いについて」によって、上記通達の趣旨を営業店内掲示等により顧客に周知徹底するとともに、預金者の確認ができなかった特別定期預金等については満期日以降遅くとも一〇年を経過した日の属する決算期に利益として計上するという方針が示された。
2 控訴人は、上記通達及び事務連絡に従って、昭和六三年四月ころ、無記名定期預金の新規受入れの停止及び残存する無記名定期預金の整理について顧客に対して店舗内にポスターを掲示する等の方法によって周知徹底し、昭和五二年二月以降二年定期預金として自動継続されてきた本件各預金について、平成三年九月二七日に雑益編入した。
3 預金者が判明し無記名定期預金を普通預金に振り替えた場合、預金者は預金返還請求権を行使しうる状態になるから、振替後五年ないし一〇年の経過により預金返還請求権は時効によって消滅することに照らすと、預金者が判明しない場合には二年定期預金の自動継続によって永久に時効消滅しないということは均衡を失する。
被控訴人は、上記ポスターによって遅くとも平成三年九月二七日には無記名定期預金の廃止及び整理の事実を知り、預金返還を請求する必要があることを認識しながら、その後五年間ないし一〇年間にわたって漫然と放置したことになるから、平成八年九月二七日ないし平成一三年九月二七日の経過により本件各預金返還請求権は時効消滅した。
4 控訴人は本訴において上記時効を援用する。
四 抗弁に対する認否ないし反論
1 上記抗弁は当審において初めて提出されたものであって、時機に後れた攻撃防禦方法にあたる。
2 控訴人は本件各預金の存在及び払戻金額を自白しているから、これが時効消滅したとする主張は自白の撤回にあたり、被控訴人はこれに異議がある。
3 上記通達は、無記名定期預金の新規受入れを停止したにとどまり、預金者が判明した場合にまで支払に応じないことができるという趣旨を含むものではない。
4 仮にそうでないとしても、上記通達の時点における本件各預金の満期日は昭和六四年(平成元年)二月であったので、その後一〇年経過した日の属する決算期は平成一一年二月となるから、消滅時効はそのときから起算すべきである。
5 控訴人と被控訴人との銀行取引は訪問取引が常態であり、控訴人から上記通達を知らされていなかったから、被控訴人はいわゆる権利の上に眠っていた者ではない。」
第3当裁判所の判断
当裁判所の判断は、次のとおり付加するほか、原判決「事実及び理由」中の「第三 当裁判所の判断」一及び二記載のとおりであるから、これを引用する。
原判決三頁二六行目の次に行を改めて、次のとおり加える。
「三 抗弁に対する判断
1 抗弁が時機に後れた攻撃防禦方法として却下すべきものであるかどうかについて
控訴人は、抗弁を当審の第一回口頭弁論期日になって初めて提出したことは記録上明らかであり、その内容に照らすと、時機に後れたものというべきであるが、その立証のために上記口頭弁論期日において≪証拠省略≫の取り調べを要しただけであり、同口頭弁論期日に弁論が終結されたことは当裁判所に顕著であるから、これが訴訟の完結を遅延させるものとはいえない。したがって、上記抗弁は、不適法として却下することはできない。
2 抗弁が実質的に自白の撤回に当たるかどうかについて
消滅時効の抗弁は、当該債権の発生を前提とし、その後発的な消滅原因を主張するものであり、本件における消滅時効の抗弁も同様であるから、仮に債権の発生原因事実につき自白が成立しているとしても、消滅時効の抗弁が実質的に請求原因事実の自白の撤回に当たるということはできない。なお、本件において、本件各定期預金債権の存在につきいわゆる権利自白が成立したものでないことは、明らかである。
3 消滅時効の始期について
証拠(≪証拠省略≫)によれば、本件各預金については、満期日に二年定期預金に自動的に更新され、継続された預金についても同様であり、継続を停止するときは満期日(継続をしたときはその満期日)までにその旨の申し出をすることによって満期日以降に払い戻すことになる旨の特約が付されていることが認められる。すなわち、本件各預金は、預金者から申し出がない限り自動継続され、各満期の都度自動継続されるから、本件各預金の消滅時効は、被控訴人が払戻しを求めた平成一四年三月二〇日から進行を始めたものというべきである。
ところで、控訴人は、本件各預金の消滅時効の始期が平成三年九月二七日である根拠として、大蔵省銀行局長通達及び大蔵省銀行局総務課長事務連絡を挙げるところである。しかし、≪証拠省略≫によれば、上記通達及び事務連絡は、昭和六三年三月三一日以後新たな無記名定期預金等の受入が停止されることに伴い、同日現在存在する無記名定期預金等を可及的速やかに整理するようにとの大蔵省銀行局長ないし同総務課長から各金融機関に対する行政指導に過ぎないことが認められる。したがって、上記通達及び事務連絡が各金融機関と預金者との間に存在する個別具体的な無記名定期預金の契約の内容を変更する効力を有しないことは明らかである。そして、≪証拠省略≫及び弁論の全趣旨によれば、控訴人が上記通達及び事務連絡に従い、無記名定期預金の整理について顧客に対して店舗内にポスターを掲示したのは、顧客に一般的な取扱を周知させるためのものにすぎず、本件各預金の自動継続の約束を変更する効力はないものと認められる。なお、上記のように、本件各預金契約において、控訴人が一方的に自動継続の約束を消滅させ得る特約はないから、控訴人が平成三年九月二七日に本件各預金を雑益編入したとしても、これは控訴人の内部的な処理にすぎず、これによって本件各預金の満期及び自動継続の約束が変更されたと認めることはできない。
4 したがって、その余の点について判断するまでもなく、抗弁は理由がない。」
第4結論
よって、被控訴人の本件請求は理由があるから認容すべきであって、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、控訴費用の負担について民訴法六七条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大喜多啓光 裁判官 安達嗣雄 橋本良成)