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大阪高等裁判所 平成14年(ネ)2330号 判決 2003年3月27日

控訴人(1審原告)

ユミックス株式会社

(以下「原告」という。)

訴訟代理人弁護士

藤田邦彦

補佐人弁理士

高木義輝

被控訴人(1審被告)

株式会社ユアビジネス

(以下「被告」という。)

訴訟代理人弁護士

石川幸吉

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨等

1  原判決を取り消す。

2  被告は、原判決別紙イ号物件目録及び同ロ号物件目録記載の各物件を製造販売してはならない。

3  被告は、原告に対し、8000万円及びこれに対する平成13年8月19日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は、1、2審とも被告の負担とする。

5  仮執行宣言

第2事案の概要

1  本件は、「薄板の成形方法とその成形型」に関する特許発明の特許権者である原告が、被告に対し、特許権に基づき、原判決別紙イ号物件及びロ号物件目録記載の各板材プレス成形装置(以下、順次「イ号物件」、「ロ号物件」といい、両者を併せて「被告装置」という。)の製造販売の差止めを求めるとともに、損害賠償を請求した事案である。

原審は、①被告装置は、上記特許発明に係る明細書の特許請求の範囲に記載された「円柱形のカム部材」なる構成を充足しない上、②上記特許発明は、その特許出願より先にダイハツ工業株式会社によって出願され、上記特許発明の特許出願後に出願公開された発明の名称を「プレス用金型」とする特許出願(特願昭58-71001号)の願書に最初に添付した明細書及び図面に記載された発明と同一であって無効であることが明らかであるとして(特許法29条の2違反)、権利の濫用の抗弁を認め、上記原告の請求をいずれも棄却したので、これを不服として原告が控訴を提起した。

2  争いのない事実等、争点は、次のとおり付加するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」1及び2(2頁3行目~3頁13行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。

3頁11行目の次に改行の上、次のとおり加える。

「ウ 被告装置は本件発明と均等といえるか。」

3  争点に関する当事者の主張は、次のとおり付加するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第3 争点に関する当事者の主張」(3頁14行目~8頁13行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)  4頁2行目の次に改行の上、次のとおり加える。

「(3) 仮にそうでないとしても、少なくとも、被告はイ号物件を製造販売するおそれがあり(特許法第100条)、本件特許権に基づく差止請求の対象となると解すべきである。」

(2)  4頁15行目の次に改行の上、次のとおり加える。

「 本件発明は直線往復運動を回転運動に変換したことに特徴があるが、本件発明の「円柱状のカム部材」とは、カムが回転運動することを意味している。この回転運動をする回転体(雌型2)は必ず、回転中心を持ち、回転運動を行い、円周軌跡を持ち(ただし、回転角度は最大約40度程度まで)、回転軸及び回転軸受を持つものである。実際の回転体の断面形状は円柱状に限らず、略円形、略四角形、略三角形、略L字形、略シーソー形などが考えられる。

また、被告装置の回転型4の断面の外縁には円弧状の部分が存在し、原判決別紙ロ号物件目録の第1図の(d)図は、(c)図のB-B’位置における下型全体の断面図であるが、回転型4には回転中心13を中心とした円弧面を有する円弧部材が回転型たわみ防止支え16に当接している。」

(3)  5頁7行目の「変換することにある」の次に「(ただし、本件特許出願の7年も前の1977年1月11日にアメリカにおいて頒布された乙7のFig-1乃至5には、直線往復運動を回転運動に変換する回動カムの構成が明確に図示されており、本件特許出願の2年前の1982年1月13日に出願された乙8にも、周壁軸方向に溝を刻設した円柱状のカムが図示されている。)」を加える。

(4)  5頁20行目の次に改行の上、次のとおり加える。

「 原告の主張は、ロ号物件目録の「2.構造の説明」(3)の記載に登場する「たわみ防止支え16」を指摘しようとするものであるが、この「たわみ防止支え16」は、回転型4の左右長Lが極めて長い場合に例外的に設けられるものであって、基本的な構成要素とはなっていない。左右長Lが短い場合には設けないことも目録上((3)の最後の行)に明記されている。しかも、回転型4の中央部を回動作動前の状態において支持するもので、回動作動には直接関与しない。」

(5)  6頁24行目の次に改行の上、次のとおり加える。

「(3) 同ウ(被告装置は本件発明と均等といえるか)について

【原告の主張】

仮に、被告装置の断面略L字状の回転型4が本件発明の「円柱状のカム部材」と異なるとしても、被告装置は、次の5要件をいずれも充足するから、本件発明と均等である。

ア 非本質的部分

本件発明の本質的部分は、負角成形後ワークを取り出せる状態までカム部材を回転後退させる点にあるところ、カム部材は回転後退して取り出せるものであればよく、その形状は本質的部分とはいえない。

イ 置換可能性

本件発明の「円柱状のカム部材」を被告装置の回転型4に置き換えても、本件発明と同様に負角成形の目的を達成することができ、かつ、三次元の曲面の製品も振れや歪み等がなく、加工後修正する必要は全くなく、製品精度が非常に向上し、その製品を組み立てた場合に問題を起こすことが皆無であるという作用効果を得ることができる。

ウ 容易想到性

被告装置の回転型4は、本件発明の「円柱状のカム部材」を知る当業者であれば製造時に容易に想到できる。

エ 特許出願時の新規性、進歩性

被告装置の回転型4は、本件発明の特許出願時においても新規性、進歩性を有する。

オ 意識的除外

本件特許の出願手続中において、被告装置の回転型4のような断面略L字状のものを除外したことはない。

【被告の主張】

原告の主張は否認する。構成、作用効果、対比について具体的な主張もなく、単に均等であると主張するのみであり、失当である。」

(6)  7頁24行目の次に改行の上、次のとおり加える。

「 先願が存在していても、後願発明が新しい技術の公開となる範囲については特許権が与えられるべきである。」

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も、争点(3)につき、本件発明は、先願の願書に最初に添付した明細書及び図面に記載された発明と同一であり、かつ、両発明の発明者は同一であるといえないから、本件特許は、特許法29条の2の規定に違反してされたもので、同法123条1項2号の無効理由を有することが明らかであり、本件特許権に基づく原告の本件各請求は権利の濫用として許されないものと判断する。

その理由は、次のとおり付加、訂正等するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」のうち12頁11行目~16頁末行に記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)  12頁18行目の「明細書」の次に「及び図面」を加える。

(2)  13頁10行目の「成形型」の前に「プレス」を加える。

(3)  13頁14行目の「寄曲げ刃」を「寄曲げ部」と、同頁16行目「寄り曲げ刃」を「寄曲げ刃」と各改める。

(4)  13頁18行目の「発明」の次に「(先願発明)」を加える。

(5)  15頁14行目の「及び図面」を削る。

(6)  15頁17行目及び同24行目の各「下方」をいずれも「下型」と改める。

(7)  16頁末行の次に改行の上、次のとおり加える。

「 なお、原告は、先願が存在していても、後願発明が新しい技術の公開となる範囲については特許権が与えられるべきである旨主張しているが、これが採用できないことは、既にみたところから明らかというべきである。」

2  よって、原告の本件各請求は、その余の争点について判断するまでもなく、理由がない。

そして、その他、原審及び当審における当事者提出の各準備書面記載の主張に照らし、原審及び当審で提出、援用された全証拠を改めて精査しても、引用に係る原判決を含め、当審の認定、判断を覆すほどのものはない。

第4結論

以上によれば、原告の被告に対する本件各請求はいずれも理由がないものとして棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹原俊一 裁判官 小野洋一 裁判官 黒野功久)

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