大阪高等裁判所 平成14年(ネ)2682号 判決 2003年12月24日
主文
原判決を次のとおり変更する。
1 一審被告らは、一審原告に対し、各327万2076円及びこれに対する平成6年1月26日から支払済みまで年6分の割合による金員の支払をせよ。
2 一審原告のその余の請求及び一審被告らの反訴請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審を通じ、これを2分して、その1を一審原告の、その余を一審被告らの各負担とする。
4 この判決は、第1項にかぎり、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 申立て
1 一審原告
原判決第1項を次のとおり変更する。
一審被告らは、一審原告に対し、5304万0440円及びこれに対する平成3年4月1日から支払済みまで年6分の割合による金員の支払をせよ。
2 一審被告ら
原判決を次のとおり変更する。
(1) 被控訴人の請求を棄却する。
(2) 一審原告は、一審被告ら各自に対し、それぞれ1209万円及びこれに対する平成3年4月1日から支払済みまで年6分の割合による金員の支払をせよ。
第2 事案の概要
事案の概要は、次に付加訂正するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決2頁16行目の「Y1」の次に「(以下、単に「Y1」という。)を加え、同17行目の「本訴事件は」から同21行目末尾までを「本訴事件は、一審原告が、一審原告に無断でY1が同建物の設計を変更したとして損害賠償請求するものであるが、当審では、設計変更に対する一審原告の同意の有無にかかわらず、瑕疵担保責任又は不当利得返還請求権に基づき、請負代金と建物時価の差額相当額のみを請求(原審での予備的請求)する事案である。なお、当審では、一審原告の原審における主位的請求であった損害賠償としての1億6273万8503円の請求はされていない。」と、同3頁3行目の「マンション」を「賃貸用マンション」とそれぞれ改める。
(2) 同23行目の冒頭から同6頁19行目末尾までを、次のとおり改める。
「2 争点並びに当事者の主張
(1) 瑕疵修補に代わる損害賠償請求
(一審原告)
ア 瑕疵の存在
Y1は、建築工事の注文主が友人である一審原告であったため、苦情を受けることはないと甘く見たからか、一審原告に無断で、基礎の杭打ちの取り止め、鉄骨の細い資材への変更、エレベーターや階段の位置の変更、間取りの変更、窓の廃止等、原判決別紙「設計変更一覧」の変更内容欄記載の設計変更(ただし、番号3の変更内容欄の「を、タイル仕上げから」とあるのを「バルコニーほかの外壁を、タイル仕上げから」と改める。以下「本件設計変更」という。)を行った。
一審原告は、建築のプロではないから、設計が変更されたとしてもこれを全部把握できたわけではないが、気づいたときはその都度異議を述べてきた。Y1は、その都度「こうせざるを得なかったのだ」と説明するだけで工事を一方的に強行したのであって、一審原告がその変更に同意したことはない。
仮に、同意があると認められるとしても、一審原告はY1から変更の工事方法、内容について具体的な説明を受けていないから、建物の客観的交換価値と請負代金の差額は清算されるべきである。
イ 損害(合計 5304万0440円)
一審原告は、損害として、建物時価と請負代金の差額を請求するが、その内訳は次のとおりである。
(ア) 本件設計変更により、原判決別紙「設計変更一覧」の原告欄記載のとおり3304万0440円の価値の下落が生じた。
(イ) 本来の契約内容と比べ、グレード・美観の落ちる建物が残るため、一審原告に精神的苦痛が生じ、また、将来の営業内容・建物の耐用年数にも重大な影響を及ぼすから、慰謝料として1000万円を請求する。
(ウ) 一審原告は、Y1の指定したA一級建築士に監理料として1000万円を支払ったが、同人はY1の従業員と同様の立場にあってY1の指示に従うのみで監理業務が適正に行われたとはいえないから、一審原告は同額の損害賠償を請求する。
(一審被告ら)
ア 瑕疵について
本件建物建築工事について、一審原告主張の本件設計変更がなされたことは認めるが、Y1は、建築工事中、一審原告から、設計変更の要望あるいは同意を受けて施工したのであって、一審原告の意思に反して工事を行った事実はない。そうでなければ、一審原告が代金として3億円もの金員を支払うはずがない。
また、本件建物建築工事の代金額を、当初の見積額3億2481万6000円から3億0900万円に減額して合意した際に、その減額に伴い、杭基礎をベタ基礎に、北側ベランダ及びa階段の仕様を鉄筋コンクリート造りから鉄骨造りに変更することを合意している。そして、その具体的な変更箇所についても、施工の際にそれぞれ一審原告の了承を得て行ったものである。
イ 損害について
一審原告の主張の損害については否認する。上記のとおり、本件契約をするに当たって、その代金を大きく減額したが、その際、設計変更をすることを合意するとともに、これによる清算はしないことを合意していたものである。なお、設計変更による工事代金の増減は原判決別紙「設計変更一覧」の被告ら欄記載のとおりである。」
(3) 同20行目の「(4) 争点(4)(追加工事代金額)について」を「(2) 追加工事代金請求」と、同22行目の「設計変更」を「本件設計変更のうち番号」とそれぞれ改め、同26行目の「追加工事代金」の次に「(ただし、上記相殺に供されるものがあるときはこれを除く金額)」と加入する。
第3 争点に対する判断
1 本件建物建築工事の経過について
争いのない事実及び証拠(甲2ないし4、5の1、14ないし16、乙3、4、6、7、9、10、11の1ないし3、12ないし16、18の1ないし3、22、検乙1ないし8、原審証人B及び同A、原審における一審原告本人、原審における承継前の一審被告Y1本人<<以下「原審におけるY1本人」という。>>)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる(なお、本件建物の図面等の変更状況の詳細は、原判決別紙「図面変更経緯」記載のとおりである。)。
(1) Y1は、平成元年6月ころには、一審原告から、本件建物所在地にマンションを建てることの相談を受け、その必要から隣接地の買収交渉をも行ったが、隣接地所有者の承諾を得ることができなかった。一審原告所有地だけでは、7階建ての建物しか建築できないことから、Y1は、その妻である一審被告Y2の所有地を提供することを申し出、同年9月17日ころには、建物の高さを8階建てとする本件建物のプラン図(乙10)を作成し、これを一審原告に示して、その建築を提案した。その後、一審原告はこれに承諾した。
(2) Y1は、一審原告の承諾を得たことから、C設計士の事務所に建築確認申請作業を依頼し、平成元年11月ころまでに、一審原告に対して建築内容を説明し、一審原告は、建築確認申請に同意した。その内容は、敷地に一審被告Y2所有の上記土地を含めて8階建てとしたもので、一審原告は、8階を、ファミリータイプとすることを希望していたが、本件建物所在地の大阪府池田市では、単身者用の建物を除いて建築協力金の負担を求めていたこともあって、その負担を避けるために、単身者以外の居住用建物は設けないこととして建築確認申請することとした。一審原告は、本件建物は単身者の居住用として建築するもので、単身者以外の住宅として使用した場合は協力金を納付する旨の池田市長宛て誓約書に押印し、これに印鑑登録証明書を付けてY1の従業員Bに交付した(乙11の1ないし3)。
(3) Y1は、同月21日、本件建物の建築確認申請手続をするとともに(甲3)、そのころ製本図(甲4)を作成して、一審原告に交付した。
(4) Y1は、平成2年2月下旬、一審原告に対し、本件建物の建築工事の請負代金として、見積額3億2481万6000円を提示した。これに対し、一審原告は、見積額が高すぎるとして、3億円への減額を要求した。結局、Y1は、仕様を一部変更してコストダウンすることで、一審原告の要求をのむこととなり、一審原告とY1は、同月28日、代金3億0900万円(900万円は消費税)で本件建物の建築工事請負契約(本件契約)を締結した(甲2)。ただし、Y1は、基礎構造を直接基礎(ベタ基礎)とし、北側の階段及びベランダを鉄骨造りに変更することは、一審原告に告げて了解を得たが、そのほかの部分の変更については、具体的に了解を得てはいなかった。
上記図面における本件建物の概要は、杭基礎構造、1階は駐車場及び駐輪場とするため外壁を設置せず(ただし、立面図ではこのとおりとなっているが、1階平面図は建築確認申請書の図面を流用したために、外壁を設置したトランクルームとなっている。)、2階から7階までは事務室ないしワンルーム住戸各5室、8階はワンルーム住戸4室で、建物中央にエレベーターを設置することになっている。
(5) 一審原告は、本件建物1階をトランクルームやテナント用店舗として利用することも検討していたが、本件契約締結のころは駐車場とすることを希望していた。しかしそうすると、本件建物の中央に位置するエレベーターは2階以上に設置されるが、建築主事から、エレベーター直下の1階部分を使用できないように、囲いをしてエレベーターピットを設けるよう求められたため、駐車の妨げになることとなった。そこで、Y1及びその従業員で工事担当者であったBは、一審原告と相談の上、エレベーターの位置を本件建物の中央から南側に移し、そこに設置することが予定されていた階段を、本件建物の北西部の一審被告Y2所有地に移すこととした。
(6) 本件建物の着工は当初の予定では、同年3月15日となっていたが、上記エレベーターの位置の変更があったほか、コストダウンのため杭基礎構造を直接基礎(ベタ基礎)とし、鉄筋コンクリート造りの予定であった北側の階段及びベランダを鉄骨造りに変更することとしたことから、設計変更の必要及び建築基準法12条3項所定の工事監理報告を要することとなり、そのため着工は遅れた。そして、Y1は、同年4月1日ころ、本件建物の建築工事に着工し(検乙3ないし8)、また同月上旬に、設計変更に伴い、上記工事監理報告書を建築主事に提出した(乙9)。一審原告は、着工後、基礎工事についてAに質問し、その際、上記建築基準法による報告の説明を受けている。
(7) 一審原告は、同年6月ころまでに、本件建物8階をワンルームタイプ4室からファミリータイプ1室に変更することにし、Y1に対し、その要望を告げた(乙18の1)。また、一審原告は、その親族に利用させるためにワンルームタイプではなくファミリータイプの部屋を作りたいと考えて、その希望をY1に告げ、7階にファミリータイプ2室を作ることになった。
さらに、一審原告は、Y1から、本件建物1階部分に一般ALCで外壁を設置し駐車場ではなくテナント用店舗にしてはどうかと提案され、それを了承した(ただし、その後、一審原告の要望は二転三転し、最終的には店舗としても駐車場としても利用できるように施工され、外壁が設置されている。)。
Y1は、同年10月、以上の点について設計変更がなされた施工図(乙3)を作成した。
一審原告は、さらにY1から、屋上の予備室にマージャン室を作ることを提案され、これに同意した。
一審原告やその妻は、本件建物建築工事の期間中、1週間に1回以上、多いときは2、3回、工事の進捗状況を見に行っており、上記の変更は無論のことその他の設計変更箇所についても、それを見ながら、あるいはY1ないしBの説明を受けながら、特段異議を述べることはなかった。
(8) Y1は、本件建物の建築工事を平成3年3月末日までに終了して、一審原告に竣工図(乙4)記載の建物を引き渡した。
一審原告は、これに対し、そのころまでに代金のうち大部分の3億円を支払った。
以上のとおり認めることができるところ、原審における一審原告本人は、本件建物の建築を決定したのは平成2年1月か2月であって、建築確認申請はY1が独断でした旨述べ、かつ陳述書に記載するところであるが(甲5の1)、原審におけるY1本人の否定するところであり、請負業者が、8階建てで、工事代金も3億円強というような大きくて高額の建物の建築内容も決まらないのに独断でこれについて設計図面を発注してこれを作成し、建築確認申請までするとは到底考えられないところであり、一審原告本人の供述及び記述はいずれも採用できない。
2 争点(1)(瑕疵修補に代わる損害賠償請求)について
(1) 上記認定事実によれば、契約書添付図面から、エレベーターの位置の変更や1階外壁の設置、7、8階のファミリータイプの部屋への変更、マージャン室の設置・施工等については一審原告から申し出たか、あるいはY1の提案を受け一審原告がこれに同意したことは明らかである。また、基礎構造の変更、北側の階段及びベランダの鉄骨造りへの変更についても、一審原告の承諾があったものと認められる。原審における一審原告本人は、そのような変更に承諾をしたことはない旨供述し、その旨を陳述書に記載するところであるが(甲5の1)、原審におけるY1本人、原審証人A、同Bはいずれもその変更を一審原告に説明した旨述べるところであり、Y1としては、2500万円近い減額に応じるためには費用の減額を必要としたこと、上記仕様変更は、一見して明白で、これを施主に隠して行えるものではないこと、一審原告は、施工後、その変更に従った工事がされていることを知りながら、何らの異議も述べていないことからすると、一審原告は、その変更を承諾していたものと認めるのが相当である。ただ、上記各変更の結果、これに伴って必然的に変更となる間取りの変更などについても、これを変更すること自体については承諾があったものというべきであるが、具体的な変更方法、内容については、いろいろあるはずであるから、基本的部分について説明し、承諾を得ることが必要であるが、承諾を得たと認めるだけの証拠がない。また、そのほかの仕様変更についても、やはり、その基本的な変更の方法、内容の具体的部分について説明し、その承諾を得ることが必要であるところ、その具体的な変更についてその承諾を得たとまで認めることができない。
なお、原審におけるY1本人や原審証人Bの供述中には、当初提示の見積代金からの減額分に見合う額については設計変更することが事前に包括的に了承されていたかのように供述する部分があり、確かに、上記認定のとおり、一審原告は契約の締結に当たって、仕様を一部変更してコストダウンすることを承諾していたとはいえるものの、工事仕様の変更を事前に包括的に承諾するというのは不自然であるうえ、通常、請負業者は、注文者の値引き要請に対し、少なくとも相当程度、純粋に値引きしていると認められることに照らすと、Y1が工事仕様の変更をするには、個別に一審原告にその変更の方法、内容の基本的部分を説明し、その承諾を要したものというべきである。
以上によれば、一審原告が本件建物建築工事の瑕疵として主張する本件設計変更のうち、明白に変更の合意があったと認められる番号2、15、25、反訴請求の対象である番号28、35、36を除く部分は、個別具体的に変更について合意がされたと認めることができないので、これを瑕疵といわなければならない。
(2) そこで、その修補に代わる損害について検討するに、上記の瑕疵があるからといって、その瑕疵は基本的、本質的部分にかかわるものではないから、本件建物の建替費用まで請求できないのは明らかである。ところで、上記各証拠によると、個別の変更箇所に関しては、過大な費用を要することなく設計図面どおりに補修することが可能な部分もあるが、その全体を厳密にきちんと補修することとなれば、本件建物を解体しないと不可能な点のあることが認められる。しかし、その瑕疵が、基本的、本質的部分にかかわるものであれば、建替えないし解体修理に要する金額の賠償を求めうるとの見解がないではないが、上記の瑕疵が基本的、本質的部分にかかわるものでないことは上記のとおりであるから、そもそも解体修理は相当でないうえ、解体修理での修補費用は過大となることが明らかで、その修補は社会通念上不能というべきである。そして、そのような瑕疵修補の請求ができない場合のこれに代わる損害賠償の額は、瑕疵修補に要する費用ではなく、目的物に瑕疵があるためにその物の客観的な交換価値が減少したことによる損害というべきである。
そこで、その額について検討するに、原審における鑑定人Dの鑑定結果(スタービル建物調査報告書、平成12年11月2日付けスタービル建物調査追加報告書、平成13年4月18日付け「『D鑑定に対する質問事項』への回答」と題する書面、平成13年4月27日付け補足書面)によると、本件設計変更に伴う相当な工事金額は、原判決別紙「設計変更一覧」のD鑑定・同補正欄記載のとおりとされている。一審原告は、D鑑定を非難するけれども、その手法・内容に格別不合理・不相当な点は見当たらず、基本的には信ぴょう性があると考えられる。ただし、番号6については、下足箱単価が3万円であることについては当事者間に争いがなく(甲1〔30頁〕、乙25〔No.13〕)、34戸に設置することを計画していたところ、これを全部中止しているから、これを乗じた102万円を減額と認め、番号10については、D鑑定が甲1記載の162万1850円の減額が相当であるとしていること(D鑑定、平成13年4月18日付け「『D鑑定に対する質問事項』への回答」と題する書面)から、同金額を減額高と認め、番号22については、当事者間に争いがない額である24万5000円の減額を採用する。以上によれば、上記瑕疵(本件設計変更の番号2、15、25、28、35、36を除くもの)部分について相当工事金額は、当初の見積もりより2307万4578円の減額と認められる。
そこで、本件建物の瑕疵が存在する(設計を変更した)ことによる客観的な交換価値の減少については、これを直接認めるに足りる証拠がないけれども、少なくとも、上記相当工事金額減額分の減少が生じているものと認める。
また、一審原告は、以上の損失のほかに、本来の契約内容からグレード・美観が落ちたことなどに伴う慰謝料を請求するところ、このような物的損害により、本来、慰謝料が認められるかについては疑念の余地がなくもないが、確かに、上記の設計変更によって、本件建物のグレードや美観が落ちたこと、これによって一審原告に無形の損害が生じたことは否めないところである。そこで、上記認定の諸般の事情を考慮して、客観的価値の減少分ないし慰謝料として、200万円を認めることとする。
なお、一審原告は、Y1の指示によりA建築士に対して監理料1000万円を支払ったが監理業務は適正に行われなかったとして損害賠償請求するが、Aの監理業務が適正に行われなかったとしても、これをY1(一審被告ら)に請求できる理由の立証はなされていないから、この請求を認めることはできない。
(3) 次に、上記のとおり、本件設計変更のうち番号15及び25については、本件建物7階及び8階の間取りの変更に伴ってされたものであるが、これは一審原告の意向に基づいてされたものであって、その工事に伴う相当な費用の増減は、清算されるべきものである。そして、当審における鑑定人Eの鑑定によれば、同番号15の<1>の変更については、48万0562円の工事代金増加、同番号25の<1>の変更については、22万7898円の工事代金増加であると認められ、同番号15の<3>ないし<6>、25の<3>ないし<6>の工事代金額の増減については当事者間に争いがなく、同番号15の<2>、25の<2>については、一審被告らの認める範囲での減額を認めるのが相当であるので、結局、番号15及び25における工事金額の増減は、32万4780円の増加となる。そこで、一審原告はこれを一審被告らに支払うべき関係にある。そして、一審被告らの主張は、必ずしも明確でないが、上記設計変更における工事代金の増額については、その清算(相殺)を主張していると解されるから、この増加額については、前項の修補に代わる損害額から控除することとなる。
(4) 以上によれば、一審被告らは、一審原告に対し、2474万9798円について相続分に従って支払うべき義務がある。
3 争点(2)(追加工事代金請求)について
(1) 一審被告らが請求する本件設計変更の番号1、28、35、36の増額分のうち、番号1について、その変更についての具体的な承諾及び工事費用の増額が認められないことは上記認定のとおりである。
(2) 同番号28については、その追加工事代金は、上記D鑑定によれば168万7701円であるが、一審被告らの主張の範囲で、167万6900円と認める。
(3) 同番号35については、証拠(乙1、2)によれば、エレベーターの位置の変更により、外壁が130・4平方メートル(エレベーターピット2面)増えていること、外壁工事の単価は1平方メートル当たり5万1000円であることが認められ、したがって、追加工事代金は665万0400円が相当と認められる。
(4) 同番号36については、本件建物屋上の予備室にマージャン室が設置されたこと、その費用として61万0220円が相当であることは当事者間に争いがない。なお、Fの陳述書(甲14)には、Y1がマージャン室を無償で作ると告げた旨の記載があるが、裏付けもないうえ、原審におけるY1本人の供述に照らし、これを採用することはできない。
(5) 以上によれば、一審原告は、一審被告らに対し、未精算の追加工事代金として893万7520円に3パーセントの消費税相当額を加えた920万5645円(円未満切り捨て。以下同じ。)と当事者間に争いのない未払工事代金900万円の合計1820万5645円の支払義務がある。
4 結論
以上のとおり、一審原告及び一審被告らにそれぞれ債権の存在を認めることができるところ、一審被告らにおいて、その債権をもって、一審原告の瑕疵修補に代わる損害賠償請求権との相殺を主張していることは上記のとおりであるから、一審原告の債権額2474万9798円から一審被告らの債権額1820万5645円を控除し、その残額654万4153円について、一審被告らに支払を命じるものとする。なお、請負人の報酬債権と目的物瑕疵修補に代わる損害賠償債権とは同時履行の関係にあるから、瑕疵修補に代わる損害賠償債権が報酬残債権を上回る場合に、注文者の瑕疵修補に代わる損害賠償債権に対し、請負人がその報酬残債権を自働債権とする相殺を主張した場合、請負人は、注文者に対する相殺後の損害賠償債権残債務について、相殺の意思表示をした日の翌日から履行遅滞による責任を負うが、注文者の瑕疵修補に代わる損害賠償債権の支払請求訴訟に対し、請負人が反訴請求として報酬残債権による請求を求め、後に、同債権をもって予備的に相殺の意思表示をした場合には、反訴請求をもって、相殺の意思表示と同視すべきであると思量される。そこで、一審被告らは、その瑕疵修補に代わる損害賠償債務について、上記反訴請求の訴えの訴状送達の日の翌日である平成6年1月26日から遅滞に陥るというべきである。
よって、一審原告の請求については、一審被告らに対し、各327万2076円及びこれに対する上記平成6年1月26日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余は棄却すべきであり、一審被告らの反訴請求については、棄却すべきである。
そこで、原判決を変更し、主文のとおり判決する。