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大阪高等裁判所 平成14年(ネ)3263号 判決 2003年11月18日

平成14年(ネ)第3263号 損害賠償等請求控訴、平成15年(ネ)第179号 損害賠償等請求附帯控訴事件

控訴人兼附帯被控訴人(1審原告)

日本臓器製薬株式会社

(以下「原告」という。)

訴訟代理人弁護士

新堂幸司

品川澄雄

吉利靖雄

飯塚卓也

野口祐子

小野寺良文

補佐人弁理士

村山佐武郎

藤井郁郎

被控訴人兼附帯控訴人(1審被告)

株式会社フジモト・ダイアグノスティックス

(以下「被告フジモトD」という。)

被控訴人(1審被告)

藤本製薬株式会社

(以下「被告藤本製薬」という。)

被告ら訴訟代理人弁護士

山本忠雄

安部朋美

中橋紅美

主文

1  本件控訴及び被告フジモトDの附帯控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は原告の、附帯控訴費用は被告フジモトDの各負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨等

1  原告(控訴人)

(1)  原判決を次のとおり変更する。

(2)  被告らは、原告に対し、連帯して17億6311万9960円及びこれに対する平成11年10月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  被告フジモトDは、原告に対し、11億9230万円及びこれに対する平成11年10月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(4)  訴訟費用は、1、2審とも被告らの負担とする。

(5)  仮執行宣言

2  被告フジモトD(附帯控訴人)

(1)  原判決中、被告フジモトD敗訴部分を取り消す。

(2)  原告の被告フジモトDに対する請求をいずれも棄却する。

(3)  訴訟費用は、1、2審とも原告の負担とする。

第2事案の概要

1  本件は、後記特許権を有する原告が、医薬品を製造している被告フジモトDと同被告から医薬品の譲渡を受けてこれを販売している被告藤本製薬に対し、被告フジモトDが同医薬品の品質規格の検定のために行ってきた確認試験の方法は上記特許権に係る発明を実施するものであり、上記特許権(ただし、出願公告後登録までは仮保護の権利)を侵害したとして、平成8年11月1日から平成11年3月31日までの被告藤本製薬による販売分につき、共同不法行為に基づく損害賠償として、連帯して17億6311万9960円及びこれに対する平成11年10月24日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、被告フジモトDに対し、平成4年3月11日から平成8年10月31日までの被告藤本製薬による販売分につき、不当利得の返還として、実施料相当額11億9230万円及びこれに対する平成11年10月24日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は、原告の請求のうち、被告フジモトDに対する請求中、5万0129円及びこれに対する平成11年10月24日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でこれを認容し、その余の請求をいずれも棄却したが、原告がその敗訴部分の取消しを求めて控訴し、被告フジモトDもその敗訴部分の取消しを求めて附帯控訴した。

2  基礎となる事実、争点、争点に関する当事者の主張は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決「事実及び理由」中の第2の2、3及び第3(3頁5行目から40頁21行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)  5頁13行目の「別紙物件目録1」から同16行目の「「被告医薬品」という。)」までを「原判決別紙物件目録1記載の抽出液(以下、被告フジモトDが製造する同抽出液を「被告抽出液」という。商品名「FN原液『フジモト』)及びこれを有効成分とする原判決別紙物件目録2記載の製剤(以下、被告らが製造販売する同製剤〔商品名「ローズモルゲン注」〕を「被告製剤」といい、被告抽出液と被告製剤をまとめて「被告医薬品」という。)」と、同末行の「別紙被告方法目録1」を「原判決別紙被告方法目録1」と、6頁1行目から2行目にかけての「別紙被告方法目録2」を「原判決別紙被告方法目録2」と各改める。

(2)  8頁23行目の「別紙物件目録1」を「原判決別紙物件目録1(以下、単に「別紙物件目録1」という。)」と、同24行目の「別紙物件目録2」を「原判決別紙物件目録2(以下、単に「別紙物件目録2」という。)と各改める。

(3)  9頁7行目から8行目にかけての「製造承認事項一部変更申請」の次に「(以下「原告一変申請」という。)」を、同頁10行目末尾の次に改行の上,次のとおり各加える。

「 具体的には、その方法は、本判決別紙「イ号方法とKPI法の試験方法の比較」のKPI法の欄に記載のようなものであった(以下「原告方法」という。)。(甲第164号証添付の「血漿カリクレイン様物質産生阻害能を評価するin vitro測定法」〔原告生物活性科学研究所豊巻芳男他、基礎と臨床第20巻第17号所収。以下「豊巻論文」という。〕、第192号証、乙第26号証、弁論の全趣旨)」

(4)  9頁11行目の「別紙物件目録1記載の抽出液」を「原告抽出液」と改め、同頁18行目の「平成元年4月4日、」の次に「原告一変申請について審査中であった」を、同20行目の「指導され、」の次に「急きょ本件発明の元となった豊巻論文等を参考にして後記イ-3方法を設定し」を各加え、同25行目の「別紙被告方法目録3記載のとおり」を「原判決別紙被告方法目録3記載のとおり(ただし、100頁本文5行目の「混和」を「混合」と改める。)」と改め、同末行末尾に「(甲第3、第4号証、弁論の全趣旨)」を加える。

(5)  10頁1行目から同7行目までを次のとおり改める。

「 イ-3方法は、イ-2方法とは、第1次反応後、反応液に阻害剤であるLBTIを加えて反応を停止させる点が異なるだけで、判定法、すなわち、試料吸光度(At)から試料ブランク吸光度(Atb)を引いた値と、カリジノゲナーゼ標準溶液吸光度(As)からカリジノゲナーゼ標準溶液ブランク吸光度(Asb)を引いた値とを比較し、前者の値が後者の値より小さいときは規格に適合したものとする点でも共通するものであるが、上記のように、LBTIを加えて反応を停止させる点で、イ-1方法をそのまま含み、本件発明の技術的範囲に属するものであった。(弁論の全趣旨)

なお、本件発明は被検物質のカリクレイン生成阻害能の測定法であるのに対し、原告方法、イ-3方法及びイ-2方法は、被検物質の阻害活性の有無を判定する検査方法である(原告方法及びイ-3方法にあっては同測定法をそのまま利用する。)。そして、そのための判定法は、イ-3方法及びイ-2方法が上記のとおりのものであるのに対し、原告方法は、本判決別紙「イ号方法とKPI法の試験方法の比較」のKPI法の欄に記載のとおり、被検物質添加群の吸光度(At。上記「試料吸光度」と同じ。)から被検物質非添加群の吸光度(Ac。上記「試料ブランク」が試料のみならずカオリン懸濁液も加えないのに対し、カオリン懸濁液を加える点で「試料ブランク」とは異なる。)を引いた値が0.10(P-NA標準溶液の吸光度)より大きいときは規格に適合したものとするものである。(甲第192号証、弁論の全趣旨)」

(6)  14頁9行目の「確認試験方法」の次に「(イ-3方法。以下「原承認方法」ともいう。)」を、同行目の「本件特許方法」の次に「を含むもの」を各加え、同12行目の「イ-1方法」を「イ-3方法(原承認方法)」と改める。

(7)  20頁22行目及び同25行目の各「イ-1方法」をいずれも「イ-3方法」と改める。

(8)  25頁8行目の「「血漿」から同10行目の「論文」までを「豊巻論文」と、同13行目から14行目にかけて及び同24行目の各「イ-1方法」をいずれも「イ-3方法」と各改める。

(9)  26頁3行目の「イ-1方法」の次に「又はイ-3方法」を加える。

(10)  31頁3行目の「H501」を「H-501」と改める。

(11)  34頁11行目の「原承認に係る確認試験方法とイ-2方法の同一性」を「原承認方法(イ-3方法)とイ-2方法との同一性」と改める。

(12)  38頁3行目の「原告製剤」の前に「本件請求期間中に市販されていた」を加える。

(13)  40頁21行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。

「9 当審における当事者の付加主張

(原告)

(1)  (一変申請に係る方法の一変承認前の実施について)

製造承認事項については、「その変更が当該医薬品等の品質、有効性及び安全性と関連性を持たず変更により当該医薬品等の同一性が損なわれないとみなされる場合」には一変承認を得ることなく、製造承認事項を変更することも認められないではないが(甲第56号証)、厚生省が定める医薬品の製造管理及び品質管理に関する基準(GMP)の公定解説書である厚生省薬務局監視指導課監修「医薬品GMP解説 医薬品の製造管理及び品質管理に関する基準解説 1987年版」(甲第39号証)には、「製造承認書又は公定書で定められている規格及び試験方法よりもより厳格な規格及びより精度の高い試験方法を用いる場合には、その規格及び試験方法並びにその根拠を製品標準書に記載しなければならない」旨記載され、その解説として「製造承認書記載の試験方法より精度の高い新しい試験方法を用いる場合・・・」と記載されている。

したがって、本件確認試験方法を一変承認を得ることなく変更するためには、①変更後の方法の方がより正確、精密かつ迅速な試験方法であることが学問的に確立されていること、②変更前後の方法によるデータの平均値に差がなく、標準偏差が同等又はより小さいこと、③変更前後のデータに十分な相関性があることの3要件が満たされる必要がある。

医薬品製造業者は、このような要件をすべて満たす例外的な場合を除き、承認を待ってから変更実施を行うのが常態である(甲第37号証)。ましてや、本件確認試験方法の変更は、上記3要件をことごとく充足せず、後記のとおり、厚生省等からもその同等性の有無、変更前後のデータの平均値の不一致、相関性の有無につき長年にわたって指摘され続けたケースであるから、かかる状況下において、被告フジモトDが、医薬品製造業の許可取消し等の重大な結果に至ることを考慮せず、一変承認を得ないまま、一変申請に係る方法を実施することなどあり得ない。

また、弁護士法23条の2による原告代理人の照会(甲第509号証の1)に対し、厚生労働大臣(同省医薬局審査管理課長)は、平成15年2月20日付けで「薬事法上、医薬品の製造承認を受けた者は、製造承認書記載の「規格及び試験方法」のうち「確認試験」の方法(確認試験方法)を、厚生労働大臣による製造承認事項の一部変更承認を得ることなく別の試験方法に変更して実施することはできない。但し、承認されている試験方法を変更することなく、あわせて品質保持のための検査において製品の一部を取り出して品質の適否を判定するような場合には別の試験方法を実施することはありうる。」と回答しており(同号証の2)、このような公式見解に鑑みれば、一変承認が得られていない段階でも確認試験方法を変更できる場合が広く存在するかのような見方は誤りであって、例外的に変更が許容されることがあるとしても、それは、上記のような極めて例外的な場合に限られることが明らかである。

(2)  (イ-2方法の同等性について)

一般的に確認試験方法が特異性の有無を判定するものであることは争わないが、前記のGMP解説には、「精度・特異性・感度等についての根拠を目的に応じて確認する必要がある。例えば、特異性が同一の場合には、平均値に差がなく、標準偏差が同等又はより小さいことを確認する必要がある。」と記載されており、確認試験方法としての同等性が認められるためには、変更前後のデータの平均値、標準偏差及び相関性が問題となるのであり、厚生省等も一変申請の審査において同様の点を問題にしていたのである。

イ-2方法の場合、一変申請書(甲第85号証、第92号証)添付の「規格及び試験方法」に関する資料に記載の測定結果(以下「一変申請データ」という。)によれば、変更前後の試料吸光度の値(At-Atb)とカリジノゲナーゼ標準溶液吸光度の値(As-Asb。いずれも、3ロットの各3回測定)の平均値は、カリジノゲナーゼ標準溶液吸光度の値が変更前後でほぼ同様の値を示しているのに、試料吸光度の値(At-Atb)のみ、阻害剤を用いない変更後の方が阻害剤を用いた変更前よりもかえって低い数値となっている。また、相関性の点でも、ロットごとに変更前後の差の値にばらつきが見られ、逆に高めに測定されるロット(1209M)もあるなど、変更前後の吸光度の値の間に、ロットの相違に依存しない一定の関係を見出すこともできない。

殊に、試料吸光度の値のみが低く測定される傾向がある点は、一変申請に係るイ-2方法の致命的欠陥である。なぜなら、本件確認試験方法は、イ-3方法、イ-2方法とも、試料吸光度の値(At-Atb)とカリジノゲナーゼ標準溶液吸光度の値(As-Asb)を比較して、前者が後者よりも小さければ規格に適合すると判定されるものであるから、試料吸光度の値(At-Atb)のみが低く測定されるということは、原承認方法(イ-3方法)によれば規格に合格しない試料であっても、イ-2方法によれば規格に適合すると判定される場合がある結果となり、規格及び試験方法として、変更後のイ-2方法の方が甘い規格になってしまうからである。

なお、被告らは、乙第59号証の「確認試験」においては、「特異性(2)」のパラメータは通例評価する必要があるが、精度等その他のパラメータは通例評価する必要がない旨の記載を引用した上、確認試験では特異性のパラメータがバリデーションの要件とされている旨主張するが、平成8年4月1日から我が国のGMPに導入された「バリデーション」は、ある製造手順等を採用した場合において、それが期待される結果をもたらすことについて科学的な検証を行い記録する作業を指す用語にすぎず(甲第26号証、第510号証)、他方、一変承認なくして製造承認書記載の確認試験方法を他の方法に変更するための要件を示したGMP解説(甲第39号証)の記載は、我が国のGMPにバリデーションという考え方が導入された平成8年4月以降においても何ら変わっていない(甲第511号証)。

(3)  (一変申請について)

ア 審査経過

一変申請に係るイ-2方法においては、試料吸光度の値のみが原承認方法(イ-3方法)に比べて低く測定される傾向がある点は、原承認方法とイ-2方法との同等性を審査する場合の重要な問題点であり、一変申請データにその問題があったからこそ、以下のとおり、審査の過程でも、厚生省ないしは医薬品食品衛生研究所医薬品医療機器審査センター(以下「審査センター」という。)の担当者から、この点が指摘され続けてきたのである。特異性を確認するための確認試験方法といっても、このような規格の適否に関する重大な事態が想定される以上、平均値が一致すること、すなわち、定量的にも同等の値が測定できることを担当者が要求するのはむしろ当然である。

イ 審査過程における厚生省等の指摘

(ア) 平成6年6月29日付け申請書(返送)送付書(被告抽出液につき乙第72号証、甲第86号証、被告製剤につき乙第77号証、甲第93号証)の返送理由によれば、厚生省担当者は、変更前後の方法においては、At-Atb/As-Asbの平均値が3ロットすべてにおいて大きく異なっていることを問題にしたものであるが、被告フジモトDの回答(甲第87号証、第94号証)は、この指摘に対して直接答えていない。

(イ) 平成9年3月31日付け厚生省による申請書(返送)送付書(被告抽出液につき乙第73号証、甲第89号証、被告製剤につき乙第78号証、甲第95号証)の返送理由によれば、厚生省担当者は、本件確認試験方法において、適合判定の基準とされるカリジノゲナーゼ標準溶液吸光度の値(As-Asb)は変更前後で差がないのに、試料吸光度の値(At-Atb)のみが変更後において低くなっていることを問題としたものである。

(ウ) 被告フジモト製薬Cに宛てた平成10年12月2日付けフアックス(被告製剤に関し甲第97号証)によれば、審査センターの担当者は、イ-2方法において阻害剤を入れないことの影響(質問事項1)、原承認方法とイ-2方法の希釈率の差異が実験系に与える影響(質問事項2)、変更前後の試料吸光度の値の差異(質問事項3)、一変申請の必要性(質問事項4)、推奨案についての意見(質問事項5)に関して質問をしており、これらの指摘は、質問という形で上記のような問題点を指摘した上、原承認どおりの方法(イ-3方法)の実施を強く求めたものであり、被告フジモトDの一変申請の取下げを暗に求めたものである。各質問事項について具体的にみると、次のとおりである。

質問事項1は、第2次反応で継続して産生されるカリクレインおよびFXⅡaの活性まで測定されてしまうため、産生されたカリクレインを特異的に測定するという本件確認試験方法の特異性すら害されるのではないか、との疑念を呈したものである。

質問事項2は、原承認方法においては、第1次反応液0.2mlにLBTI懸濁液0.1mlを加えたものを第1次反応停止液とし、この第1次反応停止液0.3mlのうち0.1mlを第2次反応で使用するものであるから、第1次反応液はLBTI懸濁液によって希釈されている(甲第3、第4号証)のに対し、イ-2方法においては、LBTI懸濁液を加えず、第1次反応液0.1mlをそのまま第2次反応で使用している(乙第1、第2号証)から、被検物質非添加群(Ac)の第2次反応終了時の吸光度を同じ約0.4にするためには、イ-2方法にあっては原承認方法の場合より試料の血漿希釈率を高くする必要がある。他方、規格合否の判定基準であるカリジノゲナーゼ標準溶液吸光度の値(As-Asb)は、カリジノゲナーゼ標準品を用い血漿を使用しないため、血漿希釈率の影響を全く受けず、原承認方法においてもイ-2方法においても変わらない。したがって、以上のような試料の血漿希釈率の違いから、原承認方法とイ-2方法との同一性が保たれなくなるのではないかと危惧しているのである。

質問事項3は、イ-2方法のカリジノゲナーゼ標準溶液吸光度の値(At-Atb)が低めに出る傾向があることに対する前記の問題点を指摘したものである。

質問事項4は、「試験方法の簡素化は一変しなくとも、バリデーションの範囲で実施可能である。」との記載部分もあるが、その全体の趣旨は、一変する必要性の意義自体に疑念を呈する点にあり、上記バリデーションに関する言及部分は、単に逆説的に一般論を述べているにすぎず、本件確認方法をバリデーションの範囲で任意に変更できるとするような趣旨ではない。

ウ 以上のとおり、被告フジモトDは、当局から平成6年に返送、平成8年に回答指示、平成9年に返送を受け、これらに回答した後の平成10年末に至っても、いまだ上記審査センターからの指摘(甲第97号証)を受けているのであり、このような状況の下で、被告フジモトDが、厚生省の見解にあえて反してイ-2方法を実施できたとは考えられない。

なお、本件一変申請手続期間中(平成4年ないし平成11年)には「返戻」という取扱いは存在せず、一変申請に重大な問題がある場合であっても、返送が行われた上で申請者に対して一変申請の取下げを促す運用であった(甲第512、第513号証)。

エ なお、一変承認は、平成11年2月に差し換えられたデータを前提としているのに対し、本件で問題となっている一変承認前のイ-2方法の実施の可否については、平成4年の一変申請時に添付されたデータ(一変申請データ)の評価が問題とされるべきである。また、一変申請が承認されるか否かは最終的に結論が出るまで不確定であるから、結果的に一変承認がなされた事実が過度に重視されるべきではないし、このような事後の事情を一変承認前の事実認定に用いることは許されない。

(4)  (イ-3方法とイ-2方法との間の実験条件〔血漿希釈率等〕の相違について)

変更前後の方法においては、いずれも、本試験に先立って、被検物質添加群(At)における血漿希釈率を決めるために被検物質非添加群(Ac)の吸光度が測定される。そして、この被検物質非添加群の吸光度の値は、変更前後の方法のいずれにおいても同じく約0.4に設定され、これと同一希釈率の血漿を被検物質添加群の吸光度の測定に使用することが試験の前提とされているところ、イ-2方法においては、原承認方法(イ-3方法)と異なり、LBTIによる第2次反応におけるカリクレイン産生の阻害はないから、被検物質添加群の血漿希釈率の決定に当たって測定される被検物質非添加群の吸光度の値約0.4は、第2次反応においてカリクレイン産生が継続した結果増加した分も含んだ数値であり、イ-2方法において用いられる被検物質添加群の血漿は、少なくとも原承認方法のそれと比べて第2次反応において余分に測定されるカリクレイン分濃度の低いもの(希釈率の高いもの)が使用されていることになる。

このようにイ-3方法とイ-2方法とでは、用いられる被検物質添加群の血漿希釈率等の実験条件が大きく異なるため、カリクレイン様物質の産生を阻害剤で停止しないイ-2方法の方が、被検物質添加群の吸光度の値(At-Atb)がより高くなるとは到底いえない。つまり、血漿希釈率を変えて原承認方法とイ-2方法における被検物質非添加群の吸光度を共に約0.4と設定したことによって、イ-2方法において測定される被検物質添加群の吸光度の値は、LBTIを用いて第1次反応で産生されるカリクレイン量のみを測定する原承認方法で測定される被検物質添加群の吸光度の値よりも見かけ上小さくなるのであり、イ-2方法等の理解に当たっては、この点も考慮される必要がある。

(5)  (イ-2方法の実施可能性について)

原審において、被告らから、イ-2方法の詳細を記載した標準作業手順書(乙第19号証)が明らかにされ、実験の一挙手一投足を撮影したビデオテープ(検乙第1、第2号証)も提出されたので、原告は、改めて上記標準作業手順書に基づきイ-2方法を忠実に再現することとし、株式会社東レリサーチセンター(以下「東レリサーチ」という。)に委託して実験を行ったところ、市販されている被告製剤の2ロットについて、その規格に適合しないという実験結果が得られた(甲第504号証)。このことからも、イ-2方法の実施可能性が認められないことが裏付けられたものといえる。

なお、甲第504号証及び第506号証の各実験で使用された血漿につき、Baxter製のものとDade製のものは製造元が変更しただけの全く同一品であることから、「Baxter製」と表記したにすぎず、実際に使用された「Ci-Trol Level1」はDade製のものであり、その使用期限は2004年(平成16年)4月24日であった(甲第507、第508号証)。

(6)  (平成11年2月に提出された差換えデータ〔甲第91号証及び第98号証の各2〕について)

ア 厚生省は、製造承認申請及び一変申請の審査に当たって、追試等の検証を行うわけではなく、申請者から提出されたデータが真実であることを前提とした書面審査を行うのみである。被告らは、平成11年2月に至って、これまで変更前後の平均値が同等でないことが6年にもわたって問題とされてきた一変申請データを、全く別のデータに差し換えたが、甲第91号証及び第98号証の各2から明らかなとおり、差し換えられたデータにおいては、変更前後の被検物質添加群の吸光度(At-Atb)は不自然なほど同等な値を示している。一変承認は、このような差換えデータが提出された結果認められたものにすぎず、それまでの間は、変更前後の方法に同等性があることを示すデータは一切存在していなかった。

イ 同一条件により実験を行っているにもかかわらず、平成11年2月の差換えデータは、平成4年12月の一変申請データにおける変更後の方法(イ-2方法)の方が被検物質添加群(At)の吸光度が低く測定されるという、厚生省が再三指摘していた最大の問題点が突如として解消される結果となっている。

ウ 被告フジモトDは、上記差換えの理由について、一変申請データは、異常なLBTI(ロット番号129F8235)を用いていたためデータがおかしかったためとしている(甲第91号証の1、第98号証の1〔平成11年2月18日付け各差換え理由書〕)が、被告製剤の一変申請データと平成11年の差換えデータを比較しただけでも、ロット番号129F8235のLBTIの品質が何ら不良なものでなかったことは明らかである。

エ さらに、被告フジモトDは、平成4年の一変申請の時に既に、LBTIにロットによって品質にばらつきがあることをその理由としていた(甲第85号証、第92号証の各別紙(2)の「変更理由」)。もしもこの理由が事実であれば、被告フジモトDは、平成4年当時からLBTIにはロットによって異常なものが混在しているという認識を有していなければならないから、平成4年当時においても、被告フジモトDにとって極めて重要な一変申請の技術的裏付けをなす添付資料を作成するための実験に、異常なLBTIを使用することなど到底考えられない。

ところが、被告フジモトDは、一変申請から6年以上が経過した平成11年2月の差換え理由書において、突如として、一変申請時の実験に用いたLBTIに問題があったから不適切なデータが出たのであるとの説明を行っている。

オ LBTIが、カリクレイン産生を促進するという、平成11年のデータ差換えの理由は、一般的な科学的見解と明らかに矛盾する。

すなわち、まず、LBTIがカリクレイン産生反応を促進するなどという現象について報告した論文、学会発表は皆無であり、到底信用できるものではない。そして、原告は、3人の国内外の専門家に対して、上記で被告フジモトDが説明しているような現象を直接体験し又は見聞したことがあるか問い合わせたが、その回答結果を見ても、一様にかかる事実はこれを否定されている(甲第501ないし第503号証)。

以上のとおり、このようなデータの差換え理由と現実の一変申請データ(Atbの値)とは明らかに矛盾しており、被告フジモトDが、平成11年のデータ差換えに当たって説明したデータ差換えの理由が不合理なことは明らかである。

(7)  (乙第32号証付属書面の信用性について)

乙第32号証付属書面には、Sigma社製のLBTI(ロット番号129F8235)ではイ-2方法の吸光度が高く出て、「0.04以下」の規定を満たせない旨の記載があり、乙第34号証にも、同ロット番号のLBTIがハーゲマン因子(FXⅡa)の活性を全く阻害せず、逆にカリクレインの生成を促進している旨の記載があるから、被告らは、平成4年12月22日の一変申請の段階で、既にロット番号129F8235のLBTIが異常なものであることを十分認識していたはずであるが、平成11年2月18、19日付け一変申請の差換え理由書(甲第91号証及び第98号証の各1)には、最近になって同ロット番号のLBTIの品質に問題があることが判明したかのような記載をしている。

また、上記のとおり、乙第32号証付属書面は、ロット番号129F8235の試料ブランク吸光度が高く出て、0.04以下の規定を満たせないとの試験結果を示しているが、一変申請書に添付された原承認方法のデータを見ると、同じロット番号の試料ブランク吸光度(Atb)はいずれも0.04以下の規定値にとどまっており、乙第32号証付属書面のいう試験結果と齟齬が生じている。

また、原告は、乙第32号証付属書面や乙第34号証に記載された実験結果の信憑性を確かめるため、被告フジモトDが一変申請データで使用している129F8235と一変申請の差換えデータで使用している10H8035という2種のロットのLBTIを用いて追試実験を行ったが、ロット番号129F8235のLBTIにおいてもカリクレイン産生を促進させるような異常な現象は全く観察されなかった(甲第506号証)。

以上によれば、ロット番号129F8235のLBTIが異常ロットであるという試験結果などそもそも存在しないのであり、その意味で、乙第32号証及び第34号証(乙第37ないし第42号証も同様)は、いずれも、本訴が提起された後にねつ造されたものであることは明らかというべきである。

(8)  なお、被告らは、原告において被告医薬品の承認を妨害するために原告一変申請をしたかのごとき主張をしているが、原告一変申請は、厚生省の指導に基づき、かつ薬効を追加する目的もあって申請したもので、本件医薬品に係る承認申請とは何らの関係もない。

(被告ら)

(1)  (本件の背景事情について)

被告らは、被告製剤について昭和62年に製造承認を申請した時点では、既に先発医薬品の原告製剤(ノイロトロピン特号3cc)の製造承認から34年を経ており、被告製剤につき特許侵害訴訟が発生する可能性があるとは全く考えていなかったが、原告は、被告フジモトDの製造承認申請又は承認に合わせ、それまで全く必要とされていなかった確認試験方法である本件特許方法をひそかに追加した。その意図は、後発医薬品として競合品が出現した場合に、隠された確認試験方法を利用してこれを妨害し、更に長きにわたる市場独占を図ろうとするものであった。仮に、原告がいうように本件特許方法が本件医薬品自体の製造に不可欠なら、原告自身、品質が保証できない医薬品を30年以上も製造販売し続けていたことになる。

(2)  (一変申請の審査の経緯について)

一変申請の審査期間中、約6年間は申請書類が厚生省側に置かれたままであったことは、平成13年1月12日付のCの陳述書(乙第43号証)のとおりである。途中、2回にわたる厚生省の機構改革があり(乙第51号証)、担当官も入れ替わった。複数の担当官から別々に期間を置いて指示が出されたが、それらはいずれも一変申請に係る方法が原因となって生じた疑問ではなく、LBTIを使用した変更前の方法に起因したものか、あるいはLBTIの問題点に関する質問であった。

平成6年の返送の返送理由①に対しては、本来この試験が確認試験で阻害率(%)を求めるように設けられていないことを説明した上で、指示に従い、変更前後の被検物質の阻害率(%)を求める方法での相関性を示す分析結果を報告し、返送理由②に対しては、LBTIを使用することなく簡便な方法で確認することができるため、LBTIを用いる必要性はないことへの了解を求めた(甲第86、第87号証、第93、第94号証)。

平成8年の指示は、指示①は一変申請に係る方法の証明とは無関係な質問であり、指示②は単なる語句の説明、指示③は既に回答していたことが見落とされたために指示となった(甲第88号証)。

平成9年の返送は、4項目の指示のうち1)、3)及び4)は、いずれも意味説明を求めたものか、LBTIの問題に関する指示で、2)だけが一変申請に係る方法自体に関する指示である。2)で求められた再現性試験は、実際とは異なる濃度で、しかも判定方法も異なる阻害率(%)に基づく方法であるため、厳密には一変申請に係る方法そのものとは相違するが、LBTIを使用する必要がないことを証し、同方法の妥当性を支持する実験として提出した。なお、1)において、平成6年の返送理由であった変更前後の相関性が示されたことを認めながら、更にAt-Atbの値が全て低値を示す理由を求められたため、被告フジモトDは、直ちにLBTIを使用した変更前の方法の吸光度が上昇したものである旨を説明した。

被告フジモトDでは、一変申請等で必要となった場合にのみLBTIを購入して実験に使用していたため、入手できたロットは少なかったことは否めないが、その数少ないロットでの経験においても、LBTI試薬の影響は明らかであったので、LBTIを使用しない方法の必要性を重ねて厚生省に伝えた(甲第87号証、第90号証、第94号証、第96号証)。

平成10年の審査センターのファックスでは、「今まで提出された資料によると、カリクレイン様活性(At-Atb)は、変更前と変更後で相関性が認められるのは確かである」(質問事項3)として、その質問事項3を含む全部で5つの質問がなされている。これらの質問はいずれもコメント又は説明を求めたもので、推奨案があるもののそれに関してもコメントを求めるに止まり、一変申請に係る方法を否定したものではない。また、質問事項4において、一変申請に係る方法を指して「試験方法の簡素化は一変をしなくとも、バリデーションの範囲で可能である。」と述べられている(甲第97号証)。

以上のように、厚生省等が、変更前後の方法に相関性があることを認めながら疑問を抱いた点も、その原因はLBTIにあり、LBTIを用いた変更前の方法の吸光度が実際よりも上昇したからであるが、その点も確認試験において同等又はそれ以上の方法であることに何ら妨げとはならず、最終的には、この点は厚生省等でも理解された。

平成11年には、厚生省の疑問が全て解消され、もはや不要となった資料や回答などを整理する意味を含め、差換え指示書に基づいて差換えを行った(甲第91号証及び第98号証の各1、2、乙第75号証、第80号証)。

一方、LBTIがカリクレイン生成に変動を与えるということは、主体である定性反応を危うくする。すなわち、被検物質以外に変動を与える試薬を同時に反応系に存在させることは、得られたカリクレイン生成への影響が被検物質自体によるものか否かを不明確にし、量的な精度を云々する以前に、定性に関する基本的な問題を生じさせるおそれがある。

以上のとおり、一変承認には6年4か月を要したが、被告フジモトDは出された指示等に対して、いずれの場合も直ちに回答している。仮に厚生省等が本当に一変申請に係る方法に同一性なし又は根本的な問題があると判断していたのであれば、一変申請は返送ではなく正式の申請却下として処理されたはずであるが、厚生省等が一変申請に係る方法を否定する判断を被告フジモトDに示したことは全くなく、平成4年に申請した方法のとおり、一言一句変更もなく承認されているのである。

(3)  (原告の新主張について)

原告は、LBTIを使用しない方が、LBTIを使用した場合より被検物質非添加群(Ac)と被検物質添加群(At)の吸光度の差がより拡大すると主張しているが、このような主張は、従前の原告の主張を覆し、LBTIを使用しない方が被検物質のカリクレイン様物質産生阻害活性の確認がより明確になるということを意味しているものと解され、仮にそうであれば、LBTIを使用する必要性がないことを原告自身が認めたことにほかならない。

(4)  (甲第501号証ないし第503号証について)

上記各書証は、LBTIそのものに関する3人の専門家の回答であることが認められるが、市販されているLBTIの品質に関する言及は全くなされていない。通常、試薬メーカーは定められた用途以外の使用に対しては何ら製品の保証を行っておらず、試薬メーカーが保証できないことを専門家といえども保証できるはずもない。

(5)  (甲第504号証及び第506号証の各実験について)

上記各実験に用いられたヒト正常血漿Ci-Trol(使用期限は製造後23か月)は、いずれも「Baxter製」と記載されているが、ヒト正常血漿Ci-Trolは1990年代には「Dade製」の製品となっているから、当該実験では、使用期限を超過した血漿が使用されているものである。

(6)  (附帯控訴の理由)

被告フジモトDは、平成4年2月21日の原承認後、直ちに製品標準書の策定作業に入った。その約半年後の同年7月10日薬価基準への収載が告示されたが、その後、本格的に製造及び販売に向けた作業を開始し、乙第32号証が作成された。ところが、そのような作業をしていた平成4年7月ころ、原承認方法(イ-3号方法)につきLBTIによるばらつきの問題が浮上し、製薬会社として上記告示後3か月以内での市場供給義務が課されている被告フジモトDとしても、時間的制約の中で緊急にLBTIの問題を解消する必要に迫られたため、以前からカリクレイン・キニン系について研究実績がある被告藤本製薬のCに応援を求め、急きょ代替方法の確立作業に着手し、平成4年8月初めころまでに、LBTIを使用しないイ-2号方法を開発した。

他方、たまたまではあるが、平成4年8月20日過ぎに被告フジモトDに対する前訴の訴状が送達されたため、被告らは初めて本件特許権の存在を知り、これによって被告医薬品の確認試験方法としてイ-2号方法を採用することが絶対的に必要となり、その旨決定された。そして、最初の被告製剤であるロット番号1208につき、同月末から9月にかけて各種の規格試験が実施され、そのうちの一つとして、同年9月19日、イ-2号方法による確認試験が実施された(乙第29号証の3、第43号証、第67号証)。

以上のとおり、被告フジモトDは、上記ロット番号1208の被告製剤製造の際から既に、確認試験としてイ-2号方法を実施していたものであるが、仮にこの点についての被告らの主張が認められないとしても、少なくとも、同年12月10日に実施されたロット番号1211の被告製剤についての確認試験(乙第30号証の2)がイ-2方法によるものであることは認められるべきである。けだし、被告フジモトDは、他の変更事項に追加して確認方法の変更として一変申請を行ったものであるところ、実際の医薬品の製造承認の過程においては、試験方法の変更は瞬時に行われるものではなく、申請のかなり以前から実験が繰り返され、問題性がないとして確立した段階で申請しているのが通常であって、申請日のわずか12日前においてすら確立・実施されていなかったような方法が、その後、申請どおりにそのまま承認されるようなことは、およそあり得ないからである。」

第3当裁判所の判断

当裁判所も、原告の本件各請求は、被告フジモトDに対して5万0129円及びこれに対する平成11年10月24日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり、被告フジモトDに対するその余の請求及び被告藤本製薬に対する請求はいずれも理由がないものと判断する。

その理由は、次のとおり付加、訂正等するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」1ないし9(40頁23行目から95頁9行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  47頁17行目から18行目にかけての「したがって、」から48頁7行目末尾までを次のとおり改める。

「したがって、医薬品製造業者は、製造承認を受けた医薬品については製造承認に係る方法によってこれを製造するのが通常であり、被告医薬品においても、既にみたとおり、その原承認書に添付された承認申請書に確認試験方法としてイ-3方法が記載されている以上、被告フジモトDは、一変申請前はもとより、一変申請後も一変承認が得られるまでの間は、同方法によって被告医薬品に係る確認試験を行っていたものとみるのが経験則に適うところである。そして、この経験則は、国民の健康に直接かかわる医薬品の製造についてのものであり、上記のとおり刑事罰等の対象ともされているのであるから、相当強度のものということができる。

しかし、そうであるからといって、次にみるような事情の存する本件においては、原告主張のように、原承認書に添付された承認申請書に確認試験方法としてイ-3方法が記載されている事実のみで、被告フジモトDによるイ-3方法の実施(イ-3方法が本件発明の技術的範囲に属することは前示のとおりであるから、本件特許方法の実施)の立証としては十分であって、被告らにおいて、イ-3方法以外の方法(本件ではイ-2方法)の実施についての立証に成功しない限り、被告フジモトDがイ-3方法を実施していたものと推認するのが相当であるとまではいえない。

原告の主張は、医薬品製造業者は、製造承認書に添付された承認申請書記載のとおりの確認試験方法を実施していることが事実上推定されるから、その方法と異なる方法を実施していると主張するのであれば、これを主張する側(本件においては被告ら)にその点の立証責任を負わせるべきであるというものと解されるところ、一般論としてはこれを肯認し得ないではないとしても、本件においては、前記第2の2(9)で認定した経緯及び弁論の全趣旨からうかがわれるように、イ-3方法の設定は、被告フジモトDが自発的に行ったものではなく、先発医薬品について原告がした確認試験方法の追加(原告一変申請)に端を発した厚生省の行政指導によって追加されたものである上、同被告は、薬価基準への収載の告示後3か月以内の市場供給義務が課された(乙第28号証)状態下に、原告から被告医薬品の製造差止め等を求める前訴の訴状を受け取ったものであり、したがって、その段階で、被告らとしては、イ-3方法をそのまま使用した場合は、被告医薬品の製造差止め等の判決を受けるおそれがあり、他方、イ-3方法と異なる方法によった場合には前記のような薬事法上の制裁を受ける可能性があり、また、そのいずれをも避けようとすれば、上記市場供給義務に違反してその製造を取りやめざるを得ないという立場に陥っていたものであることが認められる(原告から本件特許方法についての実施許諾を得るための努力を試みる選択肢も考えられないではないが、原告がこれを許諾する見込みがなかったことは、不当利得返還請求に係る原告の主張や甲第517号証の記載に照らしても明らかである。)。

このような事情の下において被告らがどのような選択をしたかというのが本件の具体的な問題であり、この問題について、原告主張のような一般論のみから、被告らにおいて、原承認書に添付された承認申請書記載のイ-3方法以外の方法(具体的にはイ-2方法)を実施していたことの立証に成功しない限り、被告フジモトDがイ-3方法を実施していたものと推認することが相当であるとは考えられず、この点に関する原告の主張は採用することができない。

したがって、本件の具体的な問題については、原告主張の経験則を十分考慮に入れつつも、立証責任の本来の原則に従って、本件全証拠に照らして、一変承認の前の本件請求期間中に、被告フジモトDによる本件特許方法の実施、具体的には原承認方法(イ-3方法)の実施の事実が認定又は推認できるか否かという観点から検討すべきところ、本件においては、製造承認に係る確認試験方法と同等又はそれ以上の方法であれば(場合によれば一変申請をしないままでも)、製造承認に係る確認試験方法と異なる確認試験方法を採用し得ないではないことがうかがわれる(甲第39号証、第60号証、乙第64、第68号証及び弁論の全趣旨)上、そのような前提の下に、被告らにおいて原承認方法(イ-3方法)と異なるイ-2方法を用いていた点の主張立証を行い、原告もそれに対する主張立証を行う形で攻撃防御がなされているので、以下、それらについて順次検討することとする。」

2  51頁7行目から8行目にかけての「非生成資料」を「非生成試料」と、同9行目の「標準資料」を「標準試料」と、同10行目の「標準ブランク資料」を「標準ブランク試料」と、同13行目の「測定対象資料」を「測定対象試料」と各改め、同22行目末尾に改行の上、次のとおり加える。

「 以上のとおり、製造承認申請に係る確認試験において求められているのは被検物質の同定(被検物質にカリクレイン様物質産生阻害活性があることの確認)であるから、その目的からすれば、イ-2方法は、定量が求められている場合と比較して量的な精度において多少劣ることがあるとしても、LBTI等の阻害剤を用いなくても同定の目的を阻害することがない限り、より簡易に同定の目的を達成し得るものとして、確認試験としての適格がないことにはならない。

もっとも、甲第85号証及び第92号証によれば、一変申請データにおける変更前後の試料吸光度の値(At-Atb)とカリジノゲナーゼ標準溶液吸光度の値(As-Asb)をみると、カリジノゲナーゼ標準溶液吸光度の値は変更前後でほとんど異ならないのに、試料吸光度の値(At-Atb)のみ、阻害剤を用いない変更後の方が阻害剤を用いた変更前よりもかえって低い数値となる傾向があることがうかがわれるところ、この点は、原告も主張するように、原承認方法(イ-3方法)及び一変申請に係るイ-2方法とも、試料吸光度の値(At-Atb)とカリジノゲナーゼ標準溶液吸光度の値(As-Asb)を比較して、前者が後者よりも小さければ規格に適合すると判定されるものであるから、理論上は、試料吸光度の値(At-Atb)のみが低く測定されるということは、原承認方法に比べれば規格及び確認試験方法の規格として緩和傾向になることは否めないとしても、被検物質非添加群の吸光度の値(Ac)とカリジノゲナーゼ標準溶液吸光度の値(As)との間には0.1程度の安全率が確保されていることや、一変申請データでは、被告抽出液のうちのロット番号1209Mの測定値は逆に変更前の方が低い数値が出ているし、また、試料吸光度の値の平均値も被告抽出液及び被告製剤とも3ロット中の1ロット〔被告抽出液は1210M、被告製剤は1211〕の影響が大きく出たものであること、そして、後のデータではあるが平成11年の差換えデータには、上記のような傾向はみられないことに照らすと、現実には、そのために確認試験としての目的が阻害されることはないものと考えられる。

さらに、原告は、いったん製造承認申請に記載された確認試験方法は、①変更後の方法の方がより正確、精密かつ迅速な試験方法であることが学問的に確立されていること、②変更前後の方法によるデータの平均値に差がなく、標準偏差が同等又はより小さいこと、③変更前後のデータに十分な相関性があることの3要件がすべて充足されない限り、一変承認を受けることなくこれを実施することは決して許されないし、現実にも、薬事法等の厳重な規制下にある医薬品製造業者が一変承認を受けることなくこれを実施するようなこともあり得ないと主張しているが、一変承認前に確認試験方法を変更するための要件につき原告主張のように解すべきか否かの点はさておいても、この点に関して原告が掲げる証拠はいずれも行政庁の運用基準等又はその解説、解釈にすぎないから、その趣旨に沿った運用がなされるべきことが原則であるとはいえても、その事項、目的等のいかんにかかわりなく、現実に、全く例外を許さないような運用がなされており、また、医薬品製造業者においても、例外なくそのように対応しているもので、そうでないようなことはあり得ないとまで断定できるか否かは疑問の残るところである。

そして、実際には、本件確認試験の目的に直接かかわる判定方法の点で、原告方法とは全く異なる原承認方法(並行審査に係るものではあるが、イ-3方法。なお、判定方法の点ではイ-2方法も同じ。)が何らの異議もなく承認されていることや、また、データの差換えという事情があったにせよ(データが差し換えられただけで方法まで変更されたわけではないし、差換え後のデータをもってねつ造したものとまで認めるに足りる証拠もない。)、最終的には、厚生大臣によってイ-2方法への変更が承認されていること、専門家の中にも「科学技術からみてより良い方法や自己の品質管理により適した方法などが発見、開発された場合には、その方法を代替試験方法として実施し、機会をみて一変申請を行い承認を受けるのが一般的であった。」との意見もみられること(乙第64号証)、前訴の提起以来10年以上にわたって、被告らは、一貫して、一変承認前から阻害剤を用いない点で原承認方法と異なる方法を用いている旨主張してきているにもかかわらず、これまで、刑事罰(なお、乙第502号証)や行政処分の発動はもとより、行政上の警告等の動きがあった形跡すら認められないことは、上記疑問を裏付けるものといえる。

また、原告の主張は、薬事法等の運用、解釈がどうあるべきか又は被告フジモトDが製造承認申請の際に記載した方法と異なる方法を採ることが、薬事法等との関係で許されるか否かという点を強調するものであるが、もとより、本件の問題は特許権侵害行為の有無の認定にあるのであるから、問題とすべきは、製造承認申請の際に記載した確認試験方法と異なる方法を採ることについて、被告がどのように考えたか、一変申請をする前又は一変申請後一変承認を受けるまでの間にそのような異なる方法の選択があり得たかという観点から検討すべきことは論を待たないところである。」

3  52頁末行の「皮膚抽出液」を「皮膚組織抽出液」と改め、55頁4行目の「第19号証」の次に「、乙第25号証」を、同5行目の「第310号証」の次に「、検乙第1号証」を各加える。

4  58頁末行の「被検物質」の次に「、ヒト血漿希釈液」を加え、59頁9行目の「判定するものである。」から同25行目末尾までを「判定するものであるから、それほどの精度が要求されるものではなく、第2次反応に移行する時点では、第1次反応液が更に希釈されること、カリクレインの産生も飽和点に近づいていること等からすれば、阻害剤を用いる場合に比べて量的精度の点では多少劣るとしても、被検物質非添加群の吸光度の値(Ac)とカリジノゲナーゼ標準溶液吸光度の値(As)が適切に設定されている限り、なお、カリクレイン様物質産生阻害活性の有無により被検物質を同定するための確認試験方法として不適格であるとまでいうことはできない。」と改める。

5  61頁20行目の「イ-2方法において」を「原告方法とイ-2方法とでは、被検物質非添加群の吸光度(Ac)を、被検物質のカリクレイン様物質産生阻害活性を直接定量するために用いるか否かの点で異なるものの、イ-2方法においても」と、同24行目から25行目にかけての「原承認に係る確認試験方法」を「原承認方法」と各改める。

6  67頁17行目の「認められない」の前に「直ちには」を加え、71頁12行目の「いずれの」から同13行目の「一変申請前に、」までを「昭和55年4月からの大阪大学医学部第4内科に在籍中に」と改める。

7  74頁5行目から6行目にかけての「リママメトリプシンンヒビター」を「リママメトリプシンインヒビター」と、同22行目の「乙第32号証は、」から同24行目末尾までを「そのことのみから、乙第32号証(付属書面を含む。)、第37ないし第42号証をもって、原告主張のように、真に存在した製品標準書でないとまでいうことはできない。」と、75頁8行目の「乙第32号証」から同12行目末尾までを「そのことのみから、乙第32号証、第37ないし第42号証が真に存在した製品標準書でないとまではいえない。」と各改める。

8  76頁23行目の「できない」の次に「(ただし、乙第32号証付属書面の内容は、確認試験方法の変更に関する記載としてはやや説明的に過ぎること、当時の状況に照らせば極めて重大な変更であったと考えられるにもかかわらず、統括表にその旨の記載がないことに照らすと、同号証1頁の「改訂年月日・平成4年11月20日」欄の記入後に挿入されたものとも考えられ、したがって、その変更年月日である「平成4年9月19日」なる記載はにわかに信じ難いものといわざるを得ない。)」を加える。

9  77頁5行目及び同9行目の各「H501」をいずれも「H-501」と改め、79頁1行目の「理由は、」の前に「一変申請手続上の」を加える。

10  81頁13行目の「ないとはいえず、」から同15行目末尾までを「ないとまではいえない。」と改める。

11  82頁12行目冒頭から83頁9行目末尾までを次のとおり改める。

「(6) 以上によれば、乙第32号証、第37ないし第42号証をもってねつ造されたものとまでいうことはできないが、被告フジモトDにおいて、平成4年7月にLBTIの問題点を見出し、同年8月1日までにイ-2方法による確認試験の有効性を確かめ、同日、乙第32号証及び乙第310号証を作成した旨の被告らの主張については、同年7月から8月1日までの1か月足らずの短期間に、イ-2方法が現実に確認試験方法として採用し得るか否かを確認するに足りる実験等がなされたとは考えにくい上、そのような実験を行った点の証拠も十分に提出されていないことから、にわかに採用することはできない(乙第32号証付属書面に記載された実験結果は、確認試験方法の変更の内容及び根拠を示すものとはいえても、上記のような意味での実施の可否を確認するための実験の記載としては十分なものとはいい難い。)。

そうすると、乙第32号証、第37ないし第42号証には、制定年月日、施行年月日として、乙第310号証には、発効年月日、作製年月日、承認年月日として、いずれも平成4年8月1日の日付けが記載されているものの、これらの日付け部分を直ちに信用することはできず、その記載のとおりの平成4年8月1日の時点でこれらの書面が作成されていたと認めることはできない(ただし、遅くとも一変申請の日までには現状の形に整えられていたものと考えられる。)。また、乙第32号証付属書面には、確認試験の変更年月日を平成4年9月19日とする旨記載されてはいるが、この日付けのとおり同日から確認試験の方法がイ-2方法に変更されたとする点も、にわかに信用し難いことは既にみたとおりである。」

12  84頁10行目冒頭から85頁1行目末尾までを次のとおり改める。

「別紙経過表記載の認定事実によれば、被告フジモトDは、一変申請後、一変承認が行われるまで、厚生省等の担当者から返送や指示を受けたが、これらの返送や指示は、主として、一変申請データが、原承認方法による場合よりイ-2方法による場合の方が、試料吸光度の値(At)がかえって低いことに疑問を呈するものであった。この点については、被告フジモトDの回答によっても、被告フジモトDによるデータの差換えがなされるまでは、必ずしも厚生省等の側の疑問が解消しなかったことがうかがわれるが、同被告の回答は、その理由としてLBTIの影響によるものであるとする点では一貫していたものといえるし、その余の同被告の回答及び追加資料の提供はいずれも迅速かつ的確なものであったと評価できる。

イ  甲第512、第513号証によれば、原告主張のとおり、本件請求期間にあっては、この種案件について「返戻」の措置が採られていなかったことが認められるが、別紙経過表記載のとおり、本件においては、一変申請に対して2回の返送が行われたものの、最終的に一変申請のとおり一変承認が行われたものであり、その間に、少なくとも明示で取下げを勧告されたり、正式の承認拒絶処分を受けたりした形跡は認められないし、別紙経過表記載の経緯に照らすと、一変申請から一変承認まで時間がかかったとしても、そのことから直ちに、被告フジモトDがイ-2方法を実施していなかったものと推認することもできない。

原告は、結果的に一変承認がなされた事実が過度に重視されてはならないとか、一変承認がなされたという事後的な事情が一変承認前の事実認定に使われてはならないなどと主張するが、被告が一変承認前にイ-2方法を実施していたか否かが争点である本件において、結果的にせよ、イ-2方法への変更が承認されたことが間接事実として極めて重要な意義を有することは論を待たないところであるし、一変承認がなされたという事実を、仮にそれが事後的な事情であるとしても、被告フジモトDが一変承認前にイ-2方法を実施していたか否かを判断する上で考慮してはならないとする根拠も見出し難い。

また、原告は、厚生省等から返送等を繰り返されている状況の下に、被告フジモトDが、厚生省等の見解にあえて反してイ-2方法を実施できたとは考えられない旨主張するが、被告らとしては、その変更内容から、当初は比較的容易に一変承認が得られるものと考えてイ-2方法の実施に踏み切ったとも考えられないではなく、それから1年以上も経過した後になって厚生省等から返送等の措置を受けるようになったとしても、上記のとおり、明示の取下げ勧告等を受けたわけでもない以上、そのままイ-2方法の実施を続けることが不自然であるとまではいえない。」

13  85頁2行目の「当裁判所」を「大阪地方裁判所」と、87頁4行目を次のとおり各改める。

「(4) 以上によれば、一変申請の審査の経緯を考慮に入れても、被告フジモトDが一変承認前にイ-2方法を実施していたことがあり得ないとする原告の主張を採用することはできない(なお、原告は、以上のように薬事法等の厳格極まる運用を強調する一方で、厚生省の審査の実態は書面審理にすぎないなどとして審査の信用性に疑問を呈した上、一変承認がなされたこと自体が誤りであると言いたいかのごとき主張までしているが、厚生大臣による一変承認の効力いかんが本件における問題ではないことはいうまでもない。)。」

14  88頁8行目末尾に「なお、この点に関し、原告は甲第505号証を提出しているが、イ-2方法の操作が複雑で、安定した結果を出すためには熟練等を要するものと考えられるから、その内容は上記認定を左右するものではない。」を加える。

15  89頁22行目の「前記3のとおり」から同24行目の「あった。」までを「以上によれば、イ-2方法は、被検物質(被告医薬品)にカリクレイン様物質産生阻害活性があることを確認するための試験方法としては、原承認方法と少なくとも同等のものであるということができ、原告の主張する薬事法等に基づく行政上の運用、解釈に完全に適合するかどうかはともかくとして、前記のような状況下に、被告フジモトDにおいて、一変申請後一変承認前に、一変承認が得られることを見込んでその実施に踏み切ることもあり得ないではないものと認められる。」と、同行目の「時期が」から同25行目の「一変申請前、」までを「昭和55年4月からの大阪大学医学部第4内科に在籍中から」と、90頁8行目から9行目にかけての「平成4年7月ごろ、又は」を「遅くとも」と各改め、同11行目の「たこと、」から同12行目の「ついては」までを削る。

16  90頁13行目の「実験を」から91頁9行目末尾までを次のとおり改める。

「 原告は、被告フジモトDが一変申請の理由としているLBTIが不安定であった事実は認められないとして、るる主張しているが、LBTIの不安定が一変申請の真の理由であったか否かについては疑問が残るとしても、いずれにせよ、被告らが、本件特許権の侵害を避けるためにイ-3方法を変更する強い必要に迫られていたことは明らかである。そして、実際に一変申請データが厚生大臣に提出されている(甲第85号証、第92号証)以上、一変申請時までにそのための実験がなされたものと推認され(上記推認を妨げるに足りる証拠はない。)、被告らとしても、一変申請時までには、イ-2方法をもってイ-3方法に替えることにつき相当の裏付けを得ていたものと認められるから、遅くともその段階で、被告らにおいてイ-2方法を実施するに至った可能性が高いものというべきであり、少なくとも、それ以降、被告らがイ-3方法を実施していたものと推認することはできないものというべきである(他方、被告らは、少なくとも被告製剤における2番目のロットについては、イ-2方法による確認試験が実施されたものである旨主張するが、既に認定説示したところに照らして採用できない。)。

なお、被告抽出液については、製品標準書、標準作業手順書などは提出されていないが、ほぼ同様であったものと推認できる。

原告は、イ-2方法には実施可能性がないとも主張し、当審において甲第504号証(東レリサーチ作成の2002年10月10日付け「結果報告書-カリクレイン様物質生成阻害活性測定(ローズモルゲン注)」)を提出しているが、実験の重要な前提をなす使用試料に関し、ヒト正常血漿Ci-Trolを、既に製造されておらず、したがって仮にこれを使用したとすれば使用期限切れの試料を使用したことになる(争いがない。)「Baxter製」と記載している点で信憑性に欠ける(原告は、旧製造元の名前を記載したにすぎない旨弁解しているが、東レリサーチによる実験の報告書である同号証のみでなく、原告従業員による別の実験の報告書である甲第506号証にも同様の記載がされている。)上、その点をおいても、前記のように、イ-2方法は操作が複雑で熟練等を要するものと考えられることからすれば、上記各実験の結果からだけでは、イ-2方法によっては確認試験の目的を達成することができないものと認めることはできず、ほかにこの点を認めるに足りる証拠はない。

また、原告は、原承認方法(イ-3方法)とイ-2方法が同等とはいえず、被告らもそのことを知悉していたとして、るる主張しているが、仮にそうであるとすると、被告らは、一変承認が得られないことを十分知りながら一変申請に及んだことになり、前記のような状況の下に、何故に被告らがそのような行為に出たのかが疑問となる。あえて説明するとすれば、イ-3方法を実施しながら特許権侵害による差止め等を回避するためのカモフラージュとして、イ-2方法によっては一変承認が得られないことを承知の上で一変申請に及んだとでも説明するほかないことになるが、仮にそのようなことをしたとしても一時逃れにしかならないことは明らかであるし、医薬品の製造・販売業者である被告らがそのような行為にまで及ぶと考えるのもいささか無理があるものといわざるを得ない。まして、原告の主張を前提とすれば、被告らは、製造販売を開始した平成4年10月上旬から一変承認を受けた平成11年4月13日までの6年半もの間、本件特許方法を実施し続けたということになるが、前訴から通算すれば既に10年以上もの間、訴訟事件が係属しているにもかかわらず、被告らによる本件特許権の侵害行為の存在を直接うかがわせしめるような証拠、例えば、本件特許方法を実施するためのLTBI納入に関する証拠や元従業員らの目撃証言等が何ら提出されていない本件においては、事柄の性質上、原告による直接の立証が困難であることを考慮に入れても、前記経験則等、原告主張のような点だけから、被告らによる本件特許権の侵害行為の存在を推認することは困難であるといわざるを得ず、本件全証拠を子細に検討しても、他にこの点を認めるに足りる証拠はない。」

17  94頁1行目の「イ-1方法」を「イ-3方法」と改める。

18  その他、原審及び当審における当事者提出の各準備書面記載の主張に照らし、原審及び当審で提出、援用された全証拠を改めて精査しても、引用に係る原判決を含め、当審の認定、判断を覆すほどのものはない。

19  以上によれば、原告の本訴請求は、被告フジモトDに対して、不当利得として実施料相当額である5万0129円の返還及びそれに対する請求の後である平成11年10月24日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余の請求はいずれも失当であるから、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴及び被告フジモトDによる附帯控訴はいずれも理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹原俊一 裁判官 小野洋一 裁判官 中村心)

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